冷やし中華、冬の夢 コメディ

冷やし中華は冬に食べられない事を気に病んでいた。そのせいでチゲ鍋とチーズダッカルビに苛められ、散々な目に合っていた。そんな状況を打開しようと様々な案を出していき、事態は好転していく。その中で古くに捨てられたウスターソースとの出会いやスポーツジムのオーナーとの出会いを経て成長していくが、それをよく思わない者もいた。チゲ鍋とチーズダッカルビだ。彼らは冷やし中華の邪魔をしようととんでもないことを画策していた…!
山本友樹 204 0 0 04/01
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第一稿

【登場人物表】
冷やし中華 本作の主人公。冬に注文されない事が原因でチーズダッカルビたちに苛められている。と言いつつも夏場も常連以外はあまり注文されない。

チーズダッカルビ ...続きを読む
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【登場人物表】
冷やし中華 本作の主人公。冬に注文されない事が原因でチーズダッカルビたちに苛められている。と言いつつも夏場も常連以外はあまり注文されない。

チーズダッカルビ 冬場はよく注文されるため、注文されない冷やし中華をストレス発散のために苛めている。

チゲ鍋 チーズダッカルビと共に冷やし中華を苛めている。冬場はよく注文される。

ウスターソース かつてはとんかつなどによく使用されていたが弟のとんかつソースに出番を奪われた。

唐揚げ 冷やし中華と同期だが、最初からエリートとして多く注文されてきた。注文数トップ5のみで構成されるT5のメンバーの一品。

出し巻卵 T5のリーダー。威厳がある。

警官1 ベテランの警察官。

警官2 若手の警察官。



 台所食堂厨房。「いらっしゃいませー!」や「ありがとうございます!」と言った従業員の声が聞こえる中、冷やし中華が佇んでいる。

ナレーション「ここは都内某所にある居酒屋、東京台所食堂。今日も様々なお客様が様々な料理を頼んでいきます。」

冷やし中華「今日も呼ばれないな。まぁそれもそうか。冬だもんな」

冷やし中華は窓を見る。雪が積もっている。
チーズダッカルビがやってくる。

チーズダッカルビ「あー注文つかれたー!(下品に笑いながら)おう、冷やし中華じゃねえか!何しけた面してんだよ!」

冷やし中華「チーズダッカルビ、何の用だ」

チーズダッカルビ「今日も暇そうで羨ましい限りですわ。頼まれもしねーのに厨房なんかにいやがって!邪魔なんだよ!ずっと昔からいるらしいけど冬場は役に立たない上に夏場でもそんなに頼まれないってのに!」

チゲ鍋がやってくる。

チゲ鍋「ははは!そう言ってやるなよ!冷やし中華なんて食材用意するのもちょっとめんどくさいし、何よりラーメンの方がおいしいよなぁ!冷やし中華はどこまで行っても冷やし中華だけどラーメンは様々な味になれるもんなぁ!」

チーズダッカルビとチゲ鍋は大きな笑いを上げながら厨房を去って行く。

冷やし中華「こいつら!言わせておけば!」

入れ替わるように唐揚げがやってくる。

唐揚げ「冷やし中華、あんまり気にすんな。あんな事、言わせておけばいい」

冷やし中華「俺は、俺は冷やし中華を冬にも食べてもらいたい!ただそれだけなんだ!それさえできれば!こんな目に合わなくて済むんだ!でも!なんで!なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ!」

冷やし中華、窓から飛び出していく。

唐揚げ「冷やし中華!」

冷やし中華の姿はもうない。

渋谷ハチ公前。大勢の人が行き交う中、冷やし中華は一人たたずんでいた。

ナレーター「ご存じの通り、冬は冷やし中華にとっては苦手な季節でした。ですがここをどうにかしないと冷やし中華に未来はありません」

冷やし中華(ナレーション)「よし、渋谷でなんで冬に冷やし中華を食べないのか調べてみよう」

男女のカップルが歩いている。

冷やし中華(ナレーション)「あのカップルに聞いてみよう」

カップルに近づく冷やし中華。

冷やし中華「あのー、すいません。冷やし中華なんですけども」

男「冷やし中華がこの季節に何の用だよ」
女「冬に冷やし中華なんてウケる」

女、携帯を取り出して冷やし中華の写真を撮る。

冷やし中華「冬に冷やし中華、食べたくなりませんか?冷やし中華ですよ。冷やし中華」

男「この冷やし中華、冬の寒さでおかしくなっちまったんじゃねえか?冬に冷やし中華食いたくなる訳ないじゃん!」

女「冬はミソラーメンよね。こんな冷やし中華なんてもの誰が食べたくなるもんですか!行きましょ、こんな変な冷やし中華ほっといてさ」

カップルはその場を去ってしまう。

冷やし中華「冬は冷やし中華を食べたくないのか?食べようともしないのか?思わないのか?それは本当か?」

うなだれる冷やし中華。

ナレーション「冷やし中華にとって冬に冷やし中華を食べたくないというのは衝撃的でした」

夕方。公園。冷やし中華がベンチに座って溜息をついている。そこに唐揚げがやってくる。

唐揚げ「随分と苦労してるじゃないか」

冷やし中華「ずっと見てたのか?」

唐揚げ「まぁ見てたってか目に入ったというか、な?」

冷やし中華「いいのか、お前人気料理なのにこんなところで油であがらずに油売って」

唐揚げ「今はお客さん殆ど入らない時間だからな」

唐揚げベンチに座る。

冷やし中華と唐揚げは空を見上げる。

唐揚げ「綺麗な夕焼け空だな」

間。

冷やし中華「随分と差が付いちまったな」

唐揚げ「何がさ」

冷やし中華「俺とお前だよ。同期で入ったってのに俺は万年ぼんくら。だけどお前はエリート料理だ」

唐揚げ「おいおい、やめてくれよ。俺はちょっとどうにかなっただけだ。今も、昔も変わらねえよ。俺たち」

唐揚げは笑う。

冷やし中華「変わってないか。変わってないのかな」

唐揚げ「まぁ俺もお前がこんなクソ寒い中頑張ってるってのは、分かってるし、冬に冷やし中華を食べてもらいたいって夢、俺は応援するぜ」

冷やし中華「唐揚げ……」

唐揚げ「別段不可能じゃないと思うぜ?そりゃ世の中お前に対して向かい風だろうけど、成功すれば世の中はガラッと変わる。今までの腐った風景が急にカラフルになる。世の中、そういうもんさ。そういう風にできてるんだ。昔からな」

冷やし中華「唐揚げ……」

唐揚げ「じゃ、俺はこれで。冷やし中華、負けるなよ?」

夜。渋谷ハチ公前。冷やし中華はまた人に声をかけていた。

冷やし中華「冬に冷やし中華食べませんか?」

通りがかった女「ちょっと!邪魔!どいて!」

冷やし中華「あ……!」

女去って行く。

冷やし中華「また、ダメか」

寝そべっているおじさんを見つける冷やし中華。駆け寄っていく冷やし中華。

冷やし中華「すいません、冷やし中華、食べませんか?冬だからこそ食べる冷やし中華ってすごいおいしいと思うんですよ?」

おじさん「なんだあ?てめえ?冷やし中華だってのかよ?」

冷やし中華(ナレーション)「随分と酒臭いな。どれくらい飲んだんだ?」

おじさん「今、俺の事酒臭いと思ったな?」

冷やし中華「思ってませんよ!冷やし中華でビール飲む人もいますし!」

おじさん「生意気で口答えする冷やし中華だな!冷やし中華ごときが俺をおちょくりやがって!」

おじさん、冷やし中華を殴る。吹き飛ばされる冷やし中華。

冷やし中華「う、う……!」

おじさん「冷やし中華風情が二度と俺に近づくんじゃねえぞ!ぼけ!」

冷やし中華、気絶する。

深夜。民家の厨房。冷やし中華が倒れている。その横にウスターソースがいる。

冷やし中華「う、うん?」

冷やし中華、目が覚める。

冷やし中華「ここは?」

冷やし中華、辺りを見渡す。

ウスターソース「ようやく目覚めたか」

冷やし中華「あなたは?」

ウスターソース「ウスターソースだ」

冷やし中華「ウスターソースさんですか。自分は冷やし中華です。助けてくれてありがとうございます」

ウスターソース「冷やし中華なのは見れば分かる。お前さんが倒れているのを見ちまってな。酒浸りの奴相手にひどい目にあったもんだ」

冷やし中華「見てたんですね」

ウスターソース「少しばかりネットで話題になってたからな。ハチ公前で変な事をする冷やし中華がいるって」

ウスターソースはスマホを持って冷やし中華に画面を見せる。
画面の中で冷やし中華が人々に語りかける光景が遠目から映されていた。

画面の中の冷やし中華「すいません、冬に冷やし中華食べませんか?」

画面を見た冷やし中華は言葉を無くす。画面の動画のお気に入り数は1万を超えていた。

ウスターソース「こういうのを見ちまってちょいと気になって見に来ちまったってわけだ」

冷やし中華「こんなところで笑いものにされてたんですね。こうやって冬に冷やし中華が頑張ってるのがみんなからすればそんなにおかしいですか……」

落ち込む冷やし中華

ウスターソース「冷やし中華、それは違う。確かに動画のコメント欄ではお前を嘲笑するものもあるがそうじゃないものもある。冷やし中華を冬に見るのを好意的に、いい意味で珍しく見る連中もいる。少なくとも俺は好意的にみたさ。まるで悲しき運命に抗うドラマの主人公みたいで、かっこいいじゃないか」

冷やし中華「それ本気で言ってますか?」

ウスターソース「ああ。本気も本気さ。まるで昔の俺を見ているようだ」

冷やし中華「昔の?」

20年前。大山家リビング。1つのテーブルを囲むように親子(父、大山秀和(42)、母、大山和子(39)子、大山一樹(9)が座っている。テーブルの上には3人分の白ご飯と大皿に盛られた大量のとんかつ、お皿、人数分の箸が並んでいる。

一樹「父さん!今日はとんかつなんだね!」

秀和「そうだ!よく頑張ったからな!徒競走1位!おめでとう!」

和子「いっぱい作ったから、いっぱい食べるんだよ!」

一樹「頂きます!」

一樹、とんかつを箸で掴んで自分のお皿に移す。

一樹「あれ?ウスターソースは?」

和子「あれ?出してなかった?すぐ冷蔵庫から持ってくるね」

和子、冷蔵庫に向かう。

秀和「お前は本当にとんかつが好きだな。畜産業も泣いて喜んでる事だぞ」

和子、戻ってくる。手に持っているウスターソースをテーブルに置く。

一樹「とんかつにはウスターソースだよ!ウスターソースととんかつは結婚すればいいのになぁ」

ウスターソース(ナレーション)「ソースには様々な用途がある。お好み焼きにはお好み焼きソース、チキン南蛮にはタルタルソース、そしてとんかつにはウスターソース、それが相場でした」

一樹、とんかつにウスターソースをかける。

和子「もう!とんかつとウスターソースって食べ物と調味料が結婚できるわけないでしょ!」

3人爆笑。

深夜。民家の厨房。冷やし中華とウスターソースが並んでいる。

ウスターソース「俺はこの時間が幸せだった。家族だんらんの時間を俺自身の手によって作り出している、これを俺は誇りに思っていた。だが、そんな幸せも崩れ去るときがやってきた。奴が現れたのだ」

冷やし中華「奴?」

20年前。大山家リビング。1つのテーブルを囲むように大山家の親子3人が座っている。テーブルの上には3人分の白ご飯と大皿に盛られた大量のとんかつ、お皿、箸が並んでいる。ウスターソースもある。

一樹「今日はとんかつ!やった!」

和子「テスト、いい点とったんでしょ!ならお祝いしないと!」

秀和「それじゃみんな揃ったことだし」

3人「いただきまーす!」

一樹、ウスターソースを手に取る。

一樹「やっぱりとんかつにはウスターソースだよね!」

秀和「一樹、ちょっと待て。今日はこれを使って見ないか?」

秀和、とんかつソースを取り出し、机に置く。

一樹「何じゃこりゃ?」

秀和「とんかつソースだ。新発売らしい。とんかつにはこれというものらしい」
ウスターソース(ナレーション)「とんかつソースは俺の弟だ。俺はこの一家にまたひとつ家族が出来たように思えて嬉しかった。その時は」

冷やし中華(ナレーション)「その時は?」

ウスターソース(ナレーション)「じきに壊れ始める。世界を破壊する時計の音をじわじわと聞きながらな」

とんかつソース「兄さん!初めまして!僕、とんかつソース言いますねん!これからよろしくです!」

ウスターソース「お、随分礼儀正しいじゃないか!これからよろしく頼む。まぁ大山家はこうやって家族団らんの光景で食べるのが伝統だ。辛いこともあるだろうがお互い頑張っていこう」

とんかつソース「はい!兄さん!」

ウスターソース「兄さんってのはどうか慣れんもんだなぁ」

一樹「とんかつソース?うーん、僕はウスターソースかなぁ?」

ウスターソースをかける一樹。他2人はとんかつソースをかけ、とんかつを食す。

秀和「一樹!とんかつソース、いいぞ!」

一樹「ほんとぉ?」

和子「ほんとよ。かけてみなさいな」

一樹、とんかつのソースをかかっていない部分にとんかつソースをかけ、食べる。

一樹「おいしい!おいしい!」

ウスターソース(ナレーション)「ここからだった。とんかつソースにウスターソースの居場所を奪われていくことになる」

冷蔵庫内。ウスターソースが佇んでいる。

とんかつソースが戻ってくる。

とんかつソース「いやぁ、やっぱり一家団欒のとんかつってのはいいもんですね。俺も花を添えられて嬉しいですよ。それにしても兄さん、いや、ただのウスターソース!情けないねえ!ずっとそうしているつもりかい?」

とんかつソース、下品な笑いをする。

ウスターソース(ナレーション)「俺は何も言い返す事が出来なかった。それは事実だったからだ。そして俺は旅に出た。悔しさと俺はもうこの家に求められていないという事が分かったからだ。それからはとんかつソースの天下だったのは風のうわさで聞いた。そして俺自身の事なぞも忘れているという事も」

深夜。民家の厨房。冷やし中華とウスターソースが並んでいる。

冷やし中華「そんなことが……」

冷やし中華、うまく言葉がつなげない。

ウスターソース「気を使うな。そういう方が傷つく。後はお前も知ってるかもしれんがとんかつソースブームが世間で訪れる」

冷やし中華「少しは聞いたこと、あります」

ウスターソース「それが奴にとって追い風になり、俺は店頭から、そして世間から消えていく事になる」

冷やし中華、黙り込む。

冷やし中華「でも、自分でどうにかするだけの事はやったんでしょう?」

ウスターソース「ああ。街頭だとか、スーパーに売り込んだりとか、な。だが全部遅かった。全部だめだった。ただそれだけだ」

間。

ウスターソース「ちょっとネガティブな出来事を長々とつまらなく話してしまったな。まぁつまりは俺みたいになるなってことだ」

冷やし中華「では、俺は、どうしたらいいですか?」

ウスターソース「何かしてやりたい気持ちはあるが、俺にはどうにもできん。俺は所詮失敗した身だ。敗北者だよ」

冷やし中華「敗北者だなんてそんな」

ウスターソース「お前は俺みたくなるんじゃないぞ」

冷やし中華「あなたは頑張りましたよ。俺にはあなたが話したイチ部分しか分かりませんけれども、あなたの背中は傷だらけだ。それだけ戦った跡が焼付いている。俺は戦った事は誇らしく思っていいと思います。そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ、あまりにも悲しすぎるじゃないですか……!」

ウスターソース「悲しすぎる、か。そんな事言うやつはお前が初めてだ。だが昔話はここまでだ。お前は変われ。変われなかった俺の代わりに。世間に抗ってみせろ、冷やし中華!」

冷やし中華「はい!」

ウスターソース「そうと決まったら、さっさと出て行きな。やるべきことが見つかっただろう」

昼。公園。冷やし中華がベンチで座っている。

ナレーション「冷やし中華がウスターソースの元を去ると日が昇り、昼時になっていました。そして公園のベンチに座っていました」

冷やし中華「世間に抗ってみせろ、か。でもどうやったら変われる?冬に食べられるんだ?」

ナレーション「冷やし中華は無い知恵を絞りましたが、無い知恵からは無い知恵しか生まれません。冷やし中華が巨大化するだとか、時を止める冷やし中華、時間と空間を超える冷やし中華などが思いつきましたがそれは冷やし中華でできる範疇にはありませんでした」

冷やし中華「一体どうしろってんだ……」

10人ほどのサッカーのユニフォームに身を包んだ少年たちが公園でサッカーを始めた。

ナレーション「冷やし中華が考え事をしていると地域の少年サッカーチームの少年たちがサッカーを始めました」

冷やし中華(ナレーション)「んだよ、なんでこんな時に限って子供がサッカーするんだよ。俺はこんなになって考えてるのに!」

ナレーション「何故こんな真昼間から子供がいるのか冷やし中華には不思議かつ不機嫌の原因でしたが、今日は祝日でした。子供に限らず大人も祝日は大好きです。毎日が祝日であれと思っている人は多いはずでした」

冷やし中華(ナレーション)「静かにしてくれねえかなぁ」

ナレーション「冷やし中華の本音は考え事をしているのだから静かにして欲しいというものでしたが、強くは言えませんでした。なぜなら公園は子供がサッカーをしてもいいし、冷やし中華が悩みを抱えていてもいいからです」

夜。冷やし中華がベンチで寝ている。

サッカー少年たちは変わらずサッカーの練習を続けている。

冷やし中華、目を覚ます。

冷やし中華(ナレーション)「やべ!寝ちまったのか?随分と時間が経っちまった!」

公園の時計は6時を指していた。

冷やし中華「俺は一体全体何時間寝ていたってんだ?」

サッカー少年の1人「もう6時だ!切り上げようぜ!」

その声におう!と反応するサッカー少年たち。

冷やし中華(ナレーション)「よく見るとこの少年たち、このクソ寒い中、半そで半ズボンで練習しているのか?すごいな。俺には到底真似できないぜ……」

ナレーション「冷やし中華は何故こんなに寒い中、半そで半ズボンで練習するのか理解できませんでした。練習なんだから長袖長ズボンでいいだろうし、なんならジーパンでもいいのではないか?という事すら考えていました」

冷やし中華、サッカー少年に近づく。

冷やし中華「どうしてこの寒い中、君達は半袖短パンでサッカーをしているんだい?」

少年A「あんた誰?」

冷やし中華「あ、そうか、先に自己紹介からだよね。俺は見ての通り、どこにでもいる冷やし中華。怪しくはない」

少年A「冷やし中華ね、この季節には珍しいね」

少年の会話をしていると他のサッカーメンバーも集まってくる。

少年B「おい、何やってんだよ!早く片付けようぜ!って何で冷やし中華?こんなところに?」

冷やし中華「どうも。冷やし中華です」

少年A「なんで半そで、半ズボンでサッカーやってんの?って聞かれてさ」

少年B「なんでって?まぁこれが正式な恰好だし、なぁ?そんな事聞かれたの初めてだ」

冷やし中華「そんなに意味はないのかい?なら別に練習の時くらいはジャンパーだとかウインドブレーカーとか着ててもいいじゃないか?」

少年C「俺はすぐ熱くなるから、最初から半そで半ズボンのがやりやすいんだよね。動くと熱くなるじゃん?今も実際動いたから熱いし?」

冷やし中華「そうか、子供だから動くと熱くなる時間が長いのか」

ナレーション「冷やし中華は今まで大人の人たちを相手にしていましたが子供に話を聞くのは今思うと初めてだなと思いました。子供には子供特有の意見や価値観があるのをまじまじと考えさせられました」

少年A「正直今この段階でもかなり暑い。もっと冬寒くていいぜ」

笑いが起こる。

冷やし中華「そんな事を言うの君たちだけだよ。大人は冬なんて寒いだけだから早く終われとしか思わないしよ」

少年C「俺たち大人じゃないしな。それ、夏の時は暑いから早く終われ!ってなるでしょ」

冷やし中華「それはそうかもしれん」

またドッと笑いが起こる。

ナレーション「冷やし中華はこの時、直感しました。子供相手なら、いや、子供だからこそ先入観が大人みたいにないからこそ、冬にも冷やし中華を食べてもらえるのではないか?そんな事を考え始めました」

少年B「とにかく早く片付けて帰ろうぜ。俺腹減って背中とくっつきそうだ!」

ナレーション「冷やし中華はその言葉を聞いた瞬間、直感が確信に変わりました」

冷やし中華「君たち。冷やし中華、食べないかい?」

少年たち「冷やし中華?」

夜、公園。それぞれ器に盛られた1杯の冷やし中華を食べるサッカー少年たち

少年A「冷やし中華、うまい!熱くなった体が急速に冷えて行くみたいだ!」

少年B「冷やし中華なんて夏に食って終わりだと思ってたけど実際今食べるとおいしい!」

少年C「今思うと冷やし中華ってなんで夏にしか食わないんだ?別に秋に食ってもいいよな?」

ナレーション「冷やし中華の思っている以上の反響でした。冷やし中華をこの季節にも関わらずモリモリ食べる少年たちを見て冷やし中華は絶望という部屋の中に一筋の希望の糸を見出していました」

冷やし中華「す、すごい、期待以上だ」

少年A「冬の冷やし中華、いいよ!なんかずっと冬は暖かいものって感じしてたけど俺、冬の冷やし中華、好きだ!」

少年B「よく考えれば冬にも冷製スープだとかコーラとか飲むしな。冷やし中華がダメな理由ってないよな。よく考えると、だけど」

少年C「スポーツ後に冷やし中華!自慢しちゃお!」

冷やし中華(ナレーション)「そうだ!人間と言うものはスポーツの後には冷やし中華が食べたくなるんだ!冷やし中華はスポーツ後にはピッタリなメニューなんだ!今は少年チームのみんなが食べる程だけどもっとこれが、この波が波及していけば、プロサッカー選手の長友選手や、本田選手が食べればサッカー後には冷やし中華ってのが世界のスタンダードになる。そうすれば冬どころじゃない。春にも、夏はもちろん、秋にも、冬にも、冷やし中華はこの地球の全ての季節を牛耳る事が出来る食べ物になるぞ!」

ナレーション「そう気が付くと冷やし中華は様々な考えをめぐらせました。どんな場所に冷やし中華を置けば売れるのか。無い知恵は有能な知恵に変わっていきました」

トレーニングジムの事務室。テーブルを挟んで冷やし中華とジムの施設長が座っている。

施設長「まぁこのジム経営し始めてから長いよ。その間にも君みたいな営業マンは多数やってきた。やれこのプロテインを置いてくれだの、このスポーツドリンクがいいだの、色々言ってきた。まぁ言い商品は置いてきたし、今もお付き合いしてるところもある。だけどなぁ、冷やし中華は初めてだよ。君も聞いたことある?スポーツジムに冷やし中華おいてるの」

冷やし中華「いや、聞いたことないですね」

ナレーション「冷やし中華はスポーツジムに冷やし中華を置いてもらえるように商談を始めました。サッカー少年たちに食べてもらった際に少年たちは立ち食いそば屋でそばを食べるように冷やし中華を食べていました。ですけどこれでは見栄えがよろしくありません。もちろん立ち食いそばのように立って食べるという文化が形成されていればまだ立ち冷やし中華という文化をより強調できたのでしょうが、残念ながらこの令和の時代にもまだ立ち冷やし中華屋さんは存在していませんでした。なので冷やし中華を座って食べられる屋内スポーツに目を向けたのです」

施設長「とはいえ冷やし中華かぁ。冷やし中華だもんなぁ」

頭を悩ませる施設長。

冷やし中華、スポーツドリンクを取り出す。

冷やし中華「冷やし中華を食べていただいて、その上でこちらのスポーツドリンクを飲んでいただいてよろしいですか?」

施設長「え?まぁ構わないけど」

施設長、冷やし中華を食べて、スポーツドリンクを飲む。

施設長「おいしい」

冷やし中華「ありがとうございます」

施設長「この冷やし中華特有の酸っぱさとスポーツドリンクのしょっぱさが見事にマッチしている。これは革命かもしれんぞ!だが……!」

冷やし中華「だが?」

施設長「誰も運動の後に冷やし中華を食べたいと思わんだろう。スポーツドリンクは飲みたくなるだろうが、冷やし中華は……。普通はプロテインを摂取したくなるだろうし……」

冷やし中華「世の中、センセーショナルな事を、誰もやって来なかったことを実践して、人という種族は成り上がってきました。誰よりも冒険するから人は大きな富を獲得するのです。施設長、僕は人間社会に貢献したいのです!」

施設長「冷やし中華くん……!」

施設長、感銘を受ける。

施設長「君は冷やし中華なのにすごく人間の事を分かっているんだね」

冷やし中華「長年冷やし中華やってるもんですから」

冷やし中華、照れる。

施設長「分かった、挑戦してみよう!スポーツジムに冷やし中華、やってみる価値はありそうだ!」

ナレーション「こうして冷やし中華がスポーツジムに設置されることになりました」

スポーツジム内 様々な器具が置かれ、各々体を動かしている。
男「なんだこれ?」

男はジムの中の自動販売機に興味を示し、近づく。

自動販売機には様々なフレーバーのプロテインバーが並んでいる。その中に冷やし中華もある。

男「冷やし中華か。ジムにあるなんて珍しい」

施設長出てくる。

施設長「ちょっと色々あってね。今日から売ってるんだけど試しにどうだい?」

男「でも、普通体動かした後にプロテインならまだしもなぁ」

施設長「そう思ったんだけどな、すごく相性いいんだこれが」

男「そういうもんかね」

男、手に持っていたスポーツドリンクを飲む。

施設長「特にスポーツドリンクとの相性がばっちりなんだこれが」

男、笑う。

男「おいおいマジか。本当に言ってる?」

施設長「実際問題試したんだから嘘じゃないさ」

男「それだけ言うなら試してみるかな」

男、自販機で冷やし中華を頼む。それを手に取る。

男「いただきます!」

男、冷やし中華を食べる。

男「おいしい!運動した後はなんか、なんというか冷たい麺が体にするする入ってくる!」

ナレーション「こうしてスポーツジムで冷やし中華が販売され、ひっそりと、ですが、確かに冷やし中華の熱い火は灯っていくのでした」

街中を人目を気にすることなく走る冷やし中華。

ナレーション「冷やし中華はこれに甘んじることなく様々な場所で営業をかけていきました。市役所、区役所、他にもさまざまな場所に冷やし中華を置いてもらえるように営業をかけていきました」

冷やし中華が様々な場所で営業を行っている場面が映し出される。

ナレーション「ですが冷やし中華もどこでもなんでも営業を行っていたわけではありません。比較的屋外で行われるスポーツには営業をかけませんでした。、ゴミ問題がどうしても冷やし中華は気になっていたからです」

球場でゴミが置き去りになっている映像を流す。

ナレーション「もし冷やし中華が不法投棄され、社会問題になれば冷やし中華そのものにマイナスなイメージをもたれてしまうという事が非常に怖かったからです。もしそうなってしまえば冷やし中華は夏に食べてもらう事すらも難しくなることでしょう」
冷やし中華が外の公園のベンチで座っている。

冷やし中華「とはいえここまでずっと動きっぱなしだと疲れるな。冬とはいえ」

冷やし中華の目線の先には子供が数人一台のスマホを覗きこみながらユーチューブを見ている。

子供「おい!更新しているぞ!」

スマホの映像が映し出されている。そこには女性ユーチューバ―のねりこんが映し出されており、椅子に座っており、目の前の長机に腕を置いている。右上にアイコンなどがある。動画のタイトルに<雑談 冬に冷やし中華を食べた話>と書かれてある。

ねりこん「ねりこんちゃんねるへようこそ!」

画面の視聴者に手を振るねりこん。

ねりこん「今日の動画は!冷やし中華!みんな冷やし中華、食べるよね!」

<今の撮影時期は12月です>というテロップが出る。

ねりこん「ねりこん、この前何か食べようと思ったけど家に何もなくてね、使いさしの冷やし中華の素があったから、それで冷やし中華を作ったの。でもなんか冷やし中華を冬に食べるのはなんか味気ないと思って近くにポテトチップスがあったからそれを砕いて冷やし中華にかけて食べたのね。これが思ったよりもおいしくてね!」

ねりこん、どこからともなく冷やし中華を取り出す。

ねりこん「そういう事言うと冷やし中華を食べたくなってきたので作っちゃいましたー!」

ぱちぱちと拍手のSEが入る。冷やし中華を長机に置く。

ねりこん「冷やし中華だけじゃ冬は味気ないからポテトチップスも買ってきました!」

どこからともなくポテトチップス(コンソメ味)が出てくる。

ねりこん「これを砕きます!色々試たんだけどね、コンソメ一番いいかな?と思う。うすしおとかオニオンサワーとかあるけどキングオブポテトはコンソメ味だね!」

ねりこん、ポテトチップスの袋を叩く。中身が砕けていく音が響く。

「そろそろかな?」

ポテトチップスの袋を開封し、中身を冷やし中華にかける。

ねりこん「うーん、おいしそう!」

砕かれたポテトチップスをかけた冷やし中華によだれを垂らすねりこん。

ねりこん「それじゃいただきます!」

お箸を持ったねりこん、冷やし中華を口へ運ぶ。

ねりこん「うーん!おいしい!つるつるの麺にぱりぱりしたポテトが絡み合う!すごくマッチ!ベストマッチだよこれ~!」

<ねりこんのベストマッチ出ました!>とテロップが出てくる。

画面の見ていた小学生たちがおいしそうに動画を見ている。

小学生1「俺、こんな季節なのに冷やし中華食いたくなってきた!」

小学生2「俺も!今日は冷やし中華を母さんに作ってもらお!」

小学生を見ていた冷やし中華は茫然としている。

冷やし中華「嘘だろ?」

ナレーション「この動画は若者を中心にバズっていきました。世の中に様々な冷やし中華のアレンジレシピが考案されていきました。カレー冷やし中華、チーズフォンデュ冷やし中華、お酒に合う冷やし中華代表として一口サイズの冷やし中華などが考案されていき、冷やし中華の思っている以上のブームとなっていきました」

冷やし中華、公園でスマホをいじっている。画面にはインスタグラムが映し出されており、様々な投稿を冷やし中華はみていた。

冷やし中華「ん?」

冷やし中華はある投稿に目を引いた。

世界的大人気モデルのAYAKAが冷やし中華をキスしている画像があった。

冷やし中華「え?なんでこの人キスしてるんだ?」

ナレーション「冷やし中華にとっては意味が分からない事が起こりました。世界的大人気モデルのAYAKAが冷やし中華とキスしている画像がインスタグラムに投稿されていたのです」

冷やし中華とAYAKAがキスしている画像が映し出される。

ナレーション「この投稿には様々なコメントが寄せられました。この投稿と共に冷やし中華はおしゃれという認識が刷りこまれていきます

冷やし中華を片手にファッションショーでランウェイを歩くAYAKAの姿が映し出される。

ナレーション「そこから数日後、超有名なファッションショーにてAYAKAさんは冷やし中華を片手にランウェイを歩くことにより、冷やし中華はセンセーショナルなものとして世界に認められていきます」

冷やし中華「一体、一体どうなっているんだ?」

ナレーション「冷やし中華にとっても分からない方向へと転がっていきます。世の中は冷やし中華フィーバーへと熱は大きく帯びていきます」

台所食堂キッチン。チーズダッカルビとチゲ鍋がスマホの画面を見ている。

チーズダッカルビ「ふざけんな!」

チーズダッカルビ、スマホを地面にたたきつける。

チーズダッカルビ「くそ!冷やし中華の奴!調子に乗りやがって!」
チゲ鍋「確かに気に食わねえな。冬に冷やし中華なんて気持ち悪い。春に潮干狩り位気持ち悪い!」

チーズダッカルビ「くそ!どうにかなんねえか?このままだとイライラでラクレットがマスカルポーネになっちまう!」

チゲ鍋「確かにこのまま冷やし中華を見ていると唐辛子が赤ピーマンに変わってしまう!」

イライラするチゲ鍋とチーズダッカルビ。冷やし中華を妨害するために様々な知恵を出す。

チゲ鍋「何かないか?こう、文春砲とかさ?」

チーズダッカルビ「確かに文春砲は効くな。間違いなく奴を陥れることができる」

チゲ鍋「そうなってくると何かスキャンダルが無いといけないな。」

チーズダッカルビ「冷やし中華のスキャンダルなんて聞いたこともないぞ?」

チゲ鍋「俺も冷やし中華のスキャンダルなんて聞いたことないよ。あってチョコクロワッサンとかだろ」

チーズダッカルビ「まぁ確かにチョコクロワッサンは去年だか一昨年だかにフレンチトーストと不倫しててちょっとややこしい事になったよな」

チゲ鍋「あったな。お前よくそんなつまらない事を覚えてるな」

チーズダッカルビ「ばか!つまらない事が
世の中を面白くするコツなんだよ!」

チゲ鍋「まぁそういう下世話なものが昔から好きだよな」

チーズダッカルビ「(コホンと咳こむ)とりあえず今はあの生意気な冷やし中華をどうにか地に叩き落とす事が最優先だろ。冷やし中華は結婚してないから不倫はしないだろうし」

チゲ鍋「まぁ不倫は結婚してないとできないからな。結婚してない不倫は不倫じゃないよ、結婚しながら不倫しているところから苦情がくるよ」

チーズダッカルビ「じゃあどうする?冷やし中華を陥れるために何ができる?」

チゲ鍋「やらかしてるものを考えないとな」

チーズダッカルビ「やらかしていると言えば芸能人とかになるか」
チゲ鍋「すごい偏見だな」

チーズダッカルビ「確かに一括りにしたら色々迷惑だな。中にはやらかさずに芸能人やってる芸能人もいるだろうし」

チゲ鍋「でもよ、冷やし中華は芸能人じゃないぜ?」

チーズダッカルビ「そこなんだよ。だからこうすることにする」

チゲ鍋「こうすること?」

チーズダッカルビ「あいつを芸能人ならに芸能冷やし中華にしちまうんだよ!」

チゲ鍋「なるほど!その手があったか!」

チーズダッカルビ「芸能冷やし中華になったのなら芸能に関しておっちょこちょいな間違いもしてしまう週刊誌も食いつくはずだ!」

チゲ鍋「でもそうするのさ。冷やし中華に芸能の才能があるのか?」

チーズダッカルビ「まぁ確かに。五目チャーハンならまだしも冷やし中華だもんなぁ。あいつにその方面での才能があるとは思えない」

チゲ鍋「楽器が弾けるとかだったらミュージシャンとか」

冷やし中華がギターを弾きながら歌っている映像が流れる。

チーズダッカルビ(ナレーション)「冷やし中華がギターを弾いてるなんて聞いたことないな」

チゲ鍋(ナレーション)「まぁ楽器が弾けるとは俺も思わないな。初挑戦でもいいだろうけど下手くそな冷やし中華が歌ってるって批判殺到して終わりだろ」

映像終わり。引き続きチゲ鍋とチーズダッカルビが悪巧みをしている。

チーズダッカルビ「だったら!演技させればいい!」

チゲ鍋「演技?芝居をさせるのか?」

チーズダッカルビ「そう!」

チゲ鍋「冷やし中華が芝居ねぇ。まぁ確かに芝居なら初挑戦でも何とかごまかし効くからな」

チーズダッカルビ「映画やドラマとかで聞いたこともないアイドルがそこそこなヒロイン役やってたり、堂々と、恥ずかしげもなく、声優初挑戦とか宣伝しちゃってることあるし。冷やし中華なら下手でも冷やし中華だしってなるか」

チゲ鍋「そうと決まれば善は急げだ!」

チーズダッカルビ「急げってなにかあるのか?」

チゲ鍋「あるからあるんだよ!」

チーズダッカルビ「確かにそりゃ善は急げだ!」

奥から唐揚げが覗いている。

唐揚げ「随分とまぁおかしなことを企てたもんだな。冷やし中華も何ともなければいいが」
あるオフィスの会議室。大きな机を囲むように会社の重役が座っており、冷やし中華がプロジェクターを使いながら冷やし中華を導入した会社とそうでない会社を比較したパワーポイントを支持棒で指しながらせ説明をしている。

冷やし中華「と言う訳で、ですね、このように休憩などの合間に食べやすいポケット冷やし中華を社内に導入することで会社内での効率も大幅に上昇し、様々な無駄が見直され、生産性は大幅に改善される事でしょう」

会場内で拍手が起こる。

重役1「いやぁ素晴らしいプレゼンだったよ、冷やし中華さん」

冷やし中華「いやまぁ、長年冷やし中華やってますので」

重役2「それにしても導入コストが随分安いんだね。そこが一番びっくりしたよ」

冷やし中華「なにぶん冷やし中華ですからね。ポケットサイズですし」

重役1「まぁ確かにこのICTの時代、冷やし中華の導入も未来を見据えた上だと安いもんなのかもしれないなぁ」

冷やし中華「ありがとうございます。この株式会社ネイビーデッポリカッポレカッポレ様にとっていい未来が作られることになりますよ。お約束します!」

重役2「冷やし中華だけにってか!」

場内爆笑。

重役1「導入決定に関しては追って連絡するよ」

冷やし中華「ありがとうございます!」

冷やし中華、公園のベンチで座っている。

ナレーション「冷やし中華は現在様々な場所に冷やし中華を置いてもらえるように全国を飛び回っていました。北は北海道から南は秋田まで冷やし中華は忙しい毎日を送っていました。ユーチューブやインスタグラムの影響もあり、スポーツジム以外にもバッティングセンターや、道場に置いて頂いたりしてうなぎ上りでした。そしてシャネルとコラボし、限定冷やし中華を販売したり、お台場に等身大の冷やし中華立像が作られることが決定したり、世間は冷やし中華フィーバー、冷やし中華による社会現象が起こっていました。冷やし中華が宣伝を行っていたハチ公前は冷やし中華の聖地として賑わっていました」

ハチ公前に女性二人が冷やし中華を持っている。

女性二人「(にこやかに笑いながら)冬は冷やし中華!(冷やし中華を天に掲げる)」

同。ハチ公前。おじさんが冷やし中華を持っている。テレビのインタビューのようにマイクが向けられている。

おじさん「いやぁ、娘が冷やし中華の大ファンでして。こうやって渋谷に連れてこられたんですよ。すごいですよね、冷やし中華って。娘もはまってるし、部長も社長も冷やし中華冷やし中華って。口を開けば冷やし中華って。なんというかこんなブームは小さいころのエヴァンゲリオンを思い起こしますねぇ。まぁあれは食べ物ではありませんでしたが」

公園で冷やし中華がベンチに座っている。

冷やし中華「あの頃が嘘みたいだ。見渡せばどこでも冷やし中華冷やし中華。冬でも冷やし中華って。食べてもらえる事は嬉しい事だけどこれでいいのかな。みんながみんな冷やし中華っていう事になんだか心がぞわぞわするんだよな。何か反動がくるようなそんな気が」

公園内に監督とカメラマンとADが入ってくる。ADは監督に謝っている。

監督「お前どうすんだよ!これで役者来ないなんて!ここで1シーンその役者で撮らないと今後の繋がりがおかしくなるじゃねえか!」

AD「すいません!向こうも違うドラマでスケジュール押してるみたいで!」

監督「そんな事俺が知るかよ!さっさと呼んで来いよ!」

AD「今からパプアニューギニアまで迎えに行けって言ってるんですか!」

監督「行けよ!何のために俺たちは義務教育で徒競走してきたんだよ!」

AD「そんなぁ」

見かねたカメラマンが仲裁に入る。

カメラマン「まぁ、監督も落ち着いて。ここでそんな事言ってもどうにもなるまい。」

監督「だったらどうするんだよ!このままじゃ撮影できないぞ!お前(ADを指さす)変わり見つけてこい!」

AD「そ、そんなぁ」

この光景を遠くで見ている冷やし中華

冷やし中華「どこも下っ端ってのは大変な役割だな」

AD、冷やし中華に気付き、近寄ってくる。

AD「あの~すいません?」

冷やし中華に話しかけるAD

冷やし中華「はい?」

AD「あの~少しご協力して頂きたい事がありまして……」

冷やし中華「冷やし中華には冷やし中華以上のことはできませんよ?」

AD「実は今本来来る予定だった俳優さんがちょっと諸々の事情でこれなくなりまして……」

冷やし中華「もしかして代わりに出てくれと?」

AD「話が早いですね。もしかして聞いてました?」

冷やし中華「もしかしなくても聞いてましたよ。でも自分には荷が重すぎますよ。お芝居なんてしたことないし。そんなのまるで醤油皿で天丼を作るようなものですよ!」

AD「醤油皿で天丼を作る感覚でどうか!」

冷やし中華「もう一度言いますけどお芝居なんてしたこと無いんですって!」

AD「そんなことは百も承知ですよ!でも、代役立てないと僕が監督に怒られちゃうんですよ!」

冷やし中華「えぇ……」

困惑する冷やし中華。

AD「そこを何とか!」

冷やし中華「(溜息をついて)少しだけの出番でしたら……」

冷やし中華がドラマに出ている場面が流れる。

ナレーション「こうして冷やし中華がドラマにほんの少しですが出演することが決まりました。これが冷やし中華の運命を大きく左右することになります」

東京国際映画祭会場。撮影された映画のPRのために登壇する冷やし中華。他にも2名ほど役者が登壇している。

冷やし中華「冷やし中華のような存在がこの場に立たされているのが正直恥ずかしいです。今日、監督さんはヨハネスブルクに油揚げのルート販売をしているという事でこの場にはいませんので口下手な自分としては嫌な緊張感に悩まされています。あとは自分の周りのみなさんみたいに俳優をやっていたわけではないので、こうやって自分の芝居をまじまじと見せられるとこう、ねぇ?」

会場内爆笑。

役者1「ですけどこうやって冷やし中華さんの姿がSNSで話題になってこうやって映画までこぎつけたわけですから」

ナレーション「冷やし中華の出演は大きな話題を呼び、その影響から様々なメディアに取り上げられました。冷やし中華は社会現象へと発展していきました。老若男女問わず好かれ、知名度もある品物へと変化していきました。最近の言い方をするのなら冷やし刃と言ったところでしょう。撮影されたドラマもチョイ役だった冷やし中華は映画版では準主役にまで昇り詰めました」

役者2「でもやっぱり冷やし中華さんがいると現場の空気も少し変わりますよね。冷やし中華ならではの空気感と言いますか、視点
の違う言い回しだったり、やっぱりそこは……」

会場に突如として警察官が2人入ってくる。

警察1「警察だ!」

警察手帳を周りに見せびらかす。会場が騒然となる。

役者1「一体どうしたんですか!」

警察1、警察2、冷やし中華をじっと見つめる。警察2、警察1に耳打ち。

警察2「あの椅子(冷やし中華を指を指す)冷やし中華はあれです。間違いありません」

警察1「(頷いて)お前が冷やし中華だな!署までご同行いただこう」

役者2「え?冷やし中華さんがですか?」

警察1「そうだ!冷やし中華が、だ!」

冷やし中華「ちょっと待ってください!僕が何をしたって言うんですか!」

警察1「言いたいことを聞くためにも署までご同行いただくわけでもある!」

冷やし中華「僕はあなた方のお世話になるようなことはしてませんよ!冷やし中華は犯罪なんて犯しませんよ!」

警察2「人も冷やし中華も平等に罪を犯す可能性はある!法の下に平等であるという事は誰であれ、冷やし中華であれ、チャーシューメンだって罪を犯す可能性があるんです!応じていただければすぐに済みますので!」

役者2「ちょっと待ってください!冷やし中華さんが何したって言うんですか!」

警察1「素人は黙っていただきたい!」
役者2「僕は俳優です!プロです!」

警察1「何を小生意気な!」

役者1「ここは神聖な東京国際映画祭なんです。芝居の心得、演出の心得のないものが登壇しないでいただきたい!」

会場内に「帰れ!」コールが始まる。

警察2「先輩、すごくアウェーですよ。松井秀喜五打席連続敬遠くらいアウェーですよ」

警察1「とにかく仕事を行う。以上だ」

警察1、2、冷やし中華の前に立つ。

警察1「とにもかくにも署まで来てもらう」

冷やし中華「そんな……」
役者1、2が警察2人の前に立ち、冷やし中華の連行を阻止する。

警察1「なんだぁてめぇ?」

役者1「冷やし中華さん、逃げてください」

冷やし中華「逃げて?」

役者1「自分は冷やし中華さんがおかしなことをしたとは思わないからです」

警察1「随分いっちょまえな事言うじゃないか。ええ?」

役者2「冷やし中華さん逃げてください。あなたは捕まるべきではない!」

冷やし中華「二人とも……またどこかで!」

警察2「公務執行妨害だぞ!」

冷やし中華、走って会場を後にする。

警察1「逃げやがったか!」

役者1「これでよかったんだ」

警察2「追いましょう!」

警察1「待て」

警察1、冷やし中華を追おうとする警察2を静止させる。

警察2「どうしてですか!」

警察1「まずは公務執行妨害で現行犯逮捕だな」

路地裏。肩で息をする冷やし中華。

冷やし中華「ここまでくれば、どうにか」

ナレーション「冷やし中華は会場を後にしました。その後も警察官の魔の手を逃れるように都内を駆け巡っていました」

警察官の怒号が各所から聞こえてくる。

冷やし中華「はぁ、はぁ。このままじゃ捕まってしまう。みんなの思いを無駄にしてしまう」

そっと路地裏から出て移動を始める冷やし中華。

大通り。冷やし中華が歩いていると歩道橋を苦労しながら登っているおばあちゃんを見つける。
冷やし中華、おばあちゃんのもとへ駆け寄る。

冷やし中華「大丈夫ですか?手伝いますよ」

おばあちゃん「いえ、大丈夫ですよ。そんな気にかけてくれた冷やし中華は初めてだよ」

冷やし中華「冷やし中華じゃなくても気にかけますよ」

おばあちゃんと冷やし中華、一緒に上がっていく。

おばあちゃん「最近はそんな人も減っていったよ。昔は困っている人助けるのはある種当たり前にやっていた人もいるのに最近は気づきもしない。みんな下ばかり見てる」

冷やし中華「スマホですか?」

おばあちゃん「そうだね。スマホだね」

警察官数人が歩道橋に上ってくる。

冷やし中華「警察!こんなところで!」

警察官「犯罪冷やし中華!待て!」

おばあちゃん「警察って?あんたもしかして悪い冷やし中華なのかい?」

冷やし中華「僕は悪い冷やし中華だとは思っていないからこうやってあなたを助けているつもりです。自分の良心に従っているだけです」

おばあちゃん「冷やし中華の心がね。じゃあそう思うのなら逃げなさい。絶対的な正義なんてないのだから」

冷やし中華「そうはいきません。おばあちゃんを見捨ててはおけません」

おばあちゃん「あんた絶対悪い冷やし中華じゃないよ。私が保障する」

冷やし中華「そう言って貰えるなら冷やし中華冥利に尽きるってもんです」

数人の警察官がおばあちゃんと冷やし中華を取り囲む。

警察官「冷やし中華が随分と手をかけさせてくれるじゃないか。手がかからない料理なのが冷やし中華じゃないのか?」

冷やし中華「手をかけるのもかけないのも作り手次第さ」

警察官「生意気を!」

警察官、冷やし中華を殴る。

冷やし中華「ぐぅ!」

おばあちゃん「何してるの!冷やし中華に手を上げるなんて!」

警察官「悪い冷やし中華を連れて行かなくちゃいけないんだ、おばあちゃん。分かっていただきたい」

冷やし中華「せめて歩道橋にあげてから!捕まるならその後でいいだろ!」

警察官「ダメだ」

冷やし中華「なんだと!」

警察官「お前は悪の冷やし中華だからな。何をしでかすかわからん。このおばあちゃんを突き落してそのまま逃げるなんてのもあり得なくもないからな」

おばあちゃん「この冷やし中華はそんなことはしないよ!」

警察官「おばあちゃん、あなたは何も分かっていない。冷やし中華の本質は凶暴で邪悪なものさ」

冷やし中華「そのゲスな考えこそが邪悪じゃないのか!」

警察官「そのゲスを捕まえるためにに俺たち警察官が存在するんだよ!」

警察官、再び冷やし中華を殴る。

警察官「さっさとこい!」
冷やし中華「ごめん、あとの階段は1人で登ってね。おばあちゃん」

取調室。机と椅子が用意されており、そこに冷やし中華が座っている。

ナレーション「冷やし中華は捕まってしまいました。冷やし中華の逮捕は大々的に報じられ、これだけのブームを呼んでいたため、反感を買う人が多く存在しておりました。家庭にある冷やし中華や店にある冷やし中華を燃やしたり、冷やし中華をバットで殴るという行為が全国的に多発しておりました」

警官1が取調室に入ってくる。

冷やし中華「あなたは!国際……!」

警官1、冷やし中華が言い終わるより先に喋り始める。
警官1「あの時は世話になったな。ウェブの生配信のお蔭もあってか俺はちょっとした有名人だよ」

冷やし中華「他のみんなはどうしたんですか!」

警官1、冷やし中華と対角線上に置いてある椅子に座る。

警官1「公務執行妨害で現行犯逮捕さ。まぁ明日にも釈放だろうが経歴に傷は付くだろう」

冷やし中華「そんな……」

警官1「お前が年貢の納め時を間違わなければこんな事にはならんかったのにな」

冷やし中華「なにもしてない冷やし中華が小麦であるのにもかかわらず納めなくちゃいけない米俵を教えて貰いたいもんですよ」

警官1「これを見てもらおう」

警官1、スマホを取り出して動画を再生する。

渋谷のスクランブル交差点にてメガホンを持ちながら大声を張り上げている女性がいる。

女性「みなさん!冷やし中華は非常に危険です!食いすぎによる中毒や嘔吐、下痢が確認されています!今すぐあんな危険な食品を食べるのは辞めてください!あれは悪魔の食べ物です!」

冷やし中華(ナレーション)「なんですかこれは」

警官1(ナレーション)「ハチ公前にて大声で冷やし中華の危険性を叫ぶ女性だよ」
冷やし中華(ナレーション)「そんなバカな話があるか!冷やし中華にはそんな悪い物質は入っていない!」

取調室。警官1、動画をストップする。

警官1「そう思いたい気持ちは汲んでやらんでもないが実際に健康被害は出ていると報告が来ている」

冷やし中華「え?」

警官1「だからこうやってお前を連れてくる必要があったって事だな」

冷やし中華「そんな横暴な理由があるか!そんな事言い始めたら冤罪が山のように発生するじゃないか!」

警官1「言いたいことは分かるが、俺たちも仕事なんでね」

台所食堂内キッチン。チゲ鍋とチーズダッカルビがスマホで冷やし中華が捕まった報道を見てにやにやと笑みを浮かべている。

チゲ鍋「まさか逮捕まで行くとはな」

チーズダッカルビ「お前ここまでやるつもりだったのか?」

チゲ鍋「まっさか。俺は知り合いに映像関係の知り合いがいるから冷やし中華が自然に映像作品に出れるように仕組んだまでさ。そこからのヒットもこの事件も偶然さ。まぁ冷やし中華にバチが当たってしまったことだな」

チーズダッカルビ「まぁ日ごろの行いって事か」

チゲ鍋「そういうこった!」

笑いあうチゲ鍋とチーズダッカルビ。

唐揚げやってくる。

唐揚げ「貴様ら!頑張っている者を陥れて嬉しいか!」

チゲ鍋、チーズダッカルビ、振り向いて唐揚げに気付く。

チゲ鍋「最初の罠を張ったのは間違いないが、その後は知ったことじゃないね。健康被害も公務執行妨害で捕まったのもあいつ自身の行動の結果さ」

唐揚げ「ふざけたことを!」

チーズダッカルビ「おっと!俺たちには世間が味方なんだぜ?冷やし中華の味方をしようってんなら世間から袋叩きに合うだろうねえ!」

唐揚げ「貴様らに心は無いのか!」

チゲ鍋「心があるからお前と喋ってるんだろうが!」

チーズダッカルビ「興がそがれた。さっさと別の場所行こうぜ!」

チゲ鍋「そうだな。じゃあな。頭の固い唐揚げさんよ。せめて油には気をつけろよ」

チーズダッカルビ、チゲ鍋出て行く。

唐揚げ「冷やし中華……」

渋谷にて冷やし中華の危険性を説く女性が頭にアルミホイルを巻きつけている。

女性「こうやって頭にアルミホイルを巻きつけておけば悪い冷やし中華に汚染された体を浄化することができます!」

取調室。冷やし中華と警察1が渋谷での映像を見ている。

冷やし中華「アルミホイルを巻いてできることはゲッター2のモノマネ位だろ!ふざけたことを!」

警官1「まぁそう怒るな。何か食うか?定番だとかつ丼とかあるが?」

冷やし中華「冷やし中華に年貢の納め時とか言いながらお米を勧めるんですね。破廉恥な人だ」

警官1、笑う。

警官1「不適切発言だったのは認めるよ。申し訳ない」

冷やし中華「とにもかくにも悪い事なんてしてません」

警官1「少なくとも健康被害が出ている。結果がどうなるか分かるまではここにいてもらうことになる」

冷やし中華「そんな……。無実だぞ!」

警官1「そう吠えられても、な」

冷やし中華「この国には疑わしきは罰せよという考えでもあるんですか!司法にそんな心構えはないはずだ!」

警官1「冷やし中華が随分と難しい事を言うじゃないか」

取調室にノックの音がする。

警官1「入れ」

警官2「失礼します」

警官2、入ってくる。

冷やし中華「あなたは!」

警官2「二度と見たくない冷やし中華の顔ですよ。全く」

冷やし中華「だったら見なければいいでしょ!」

警官2「社会現象は随分と横暴な態度を取るもんだ」

冷やし中華「先に煽ったのはそちらでしょ!」

警官2、警官1に耳打ち。

警官1「よかったな、冷やし中華。お仲間は無事釈放が決まったそうだ」

警官2「こんなくだらない事で人生を棒に振らせるところだったな」

冷やし中華「どこまでも憎まれ口を!口を開くのはご飯を食べるときだけにすればどうだ!」

警官2「反抗的な冷やし中華が!貴様のせいで俺のキャリアは台無しだ!冷やし中華ごときに俺の人生を壊された人間の気持ちが分かるのか!」

警官1「言いたいこと分かるが、まぁ落ち着け。冷やし中華にはこの疑惑が晴れるまでは場所を移動してもらう」

冷やし中華「移動?無実なのに?」

警官1「無実が晴れて証明されれば出ることができるさ」

ナレーション「こうして冷やし中華は独房へと入れられることになります暗く冷たい独房は冷やし中華の暖かい心をどんどん冷やしていきました」

独房。冷やし中華がいる。

冷やし中華「無実だ。冷やし中華は不健康なんかじゃない。冷やし中華は健康的な食べ物のはずなんだ……!」
うなだれる冷やし中華。

冷やし中華「なんでだ、なんでこんな目に合わなくちゃいけない。俺が何をした?何をしたって言うんだ?」

冷やし中華、項垂れて涙を流す。

ナレーション「それから1週間が経ちました。いわれのない罪で投獄された冷やし中華の心はこの1週間で荒れに荒れ、ボロボロになっていました。口を開くことも殆どなかった冷やし中華にとってこの1週間は地獄の方が生ぬるく感じる程でした」

投獄されている冷やし中華が何かをブツブツ唱えている姿を警官1と警官2が見ている。

警官1「随分と参っているようだな」

警官2「俺たちがやってきたことにも気づいていないし。相当色々堪えたんでしょうね」

警官1「確かに冷やし中華には厳しい環境だったかもしれん」

警官1、2が独房に近づく。

警官1「冷やし中華、生きてるか?腐っちゃいないか?」

警官2「先輩、冷やし中華に腐ってるって言葉、シャレにならないですよ」

冷やし中華、目を覚ます。

冷やし中華「(かすれた声で)警察官?どうして?」

警官1「そりゃ警察官だからいるんだよ」

冷やし中華「一体何があったんですか?」

警官2「釈放だ、冷やし中華」

警官2、鍵を取り出し、独房の扉を開ける。

冷やし中華「え?釈放?どうして急にそんな?」

警官1「無罪だったからだ。」

冷やし中華「冷やし中華は悪い食品だからこうやって捕まったんじゃないんですか?」

警官2「悪い食品じゃないって証明されたから」

冷やし中華「え?」

警官1「被害に合われた方の精密検査の結果が出たんだ。冷やし中華が原因ではあるんだが、それ以前に食いすぎが原因だった。他の被害に合われた方も同様だ。腐った食材で冷やし中華が作られていたり、作り置きしておいた冷やし中華から菌が広がっていたり、冷やし中華そのものが原因じゃなかった」

冷やし中華「そんな、そんな理由で僕はこんなバカげたところにずっといたんですか!冗談じゃないですよ!それを何とも思わないあなた方もそうだ!少し考えたら分かることを!あなた方の上についているその大きな脳みそなんですか!食べれもしないくせに偉そうに味噌なんて名乗って!恥ずかしくないのか!」

警官2「貴様!言わせておけば!」

怒って冷やし中華に近づこうとする警官2を止める警官1。

警官1「よせ。冷やし中華の言うとおりだ。俺たちが間違っていた。許してくれとそんなぬるく解決しようなんざ思っちゃいない。問題解決に全力を尽くす。そしてそれが解決した時に初めて謝ろうと思う」

警官1、冷やし中華に頭を下げる。

警官2「先輩!そんな事で冷やし中華にする必要なんか!」

警官1「バカ野郎!」

警官1、警官2を怒鳴りつける。

警官1「俺たちは仮にも正義の旗のもとに行動してるんだ。それに間違いは仕方ない。間違いなんてのは俺たち人間にも冷やし中華にもビーフストロガノフにもある。だけど間違ったものを間違ったまま開き直るのは心を持つものがすることじゃねえ!」

警官1、警官2に頭を下げさせる。

冷やし中華「俺は食品という世界で生きてきた。そこでチゲ鍋やチーズダッカルビなんかに苛められてきた。食品って汚い奴しかいないと思った。そしてここにきて人間の汚さを知った。でもあなたは間違いを間違いと認め、謝罪した。もしかしたら食品の世界も人間の世界もそんなに変わらなくてただそこにきれいな心や、汚い心を持ってるだけで本質は世の中全て変わらないのかもしれない」

警官1「食品が言うんだったらそれが真理なのかもな」

冷やし中華、独房を出る。
警官1「でもこれは何か妙だった」

冷やし中華「妙、ですか?」

警官1「何か不思議な力に動かされているような、まるで警察内部の闇を垣間見ている気がして……」

冷やし中華「闇、ですか」

警官1「ああ、普通食品の被害だけでここまで大きく警察が動くことは……」

冷やし中華「ない、と」

警官1、頷く。

警官1「恨みを買うような事、ありましたか?」

冷やし中華「そりゃ命あるものは生きているだけで恨みを買いますよ」

警官1「まぁ確かにな」

冷やし中華「ここまで来たら俺は負けません。それだけです」

台所食堂。食堂内では多くの人が食事をしている。

台所食堂の扉が開く。冷やし中華が入ってくる。その姿を見た客がざわつく。

冷やし中華「台所食堂、変わってないなぁ」

唐揚げがやってくる。

唐揚げ「久しぶりだなぁ!冷やし中華!随分と偉くなっちゃって!」

冷やし中華にかけよる唐揚げ。

冷やし中華「そんなことはないさ。全部偶然の一致。ここまでになるなんて思っちゃいなかったさ」

唐揚げ「それにしても大丈夫だったか?警察の厄介にもなったって聞いたぞ。誤解だったとかなんとか言われてるけどさ」

冷やし中華「言われてる?大きく報道なりされてるんじゃないのか?ここまで事が大きかったんだぞ?」

唐揚げ「お前が捕まったのは大々的に報道されたけど釈放されたってのはツイッターのニュースで少し見たくらいだな」

冷やし中華「そんな!大きな誤解だったのに!」
客からのざわつきが聞こえる。

客「犯罪を犯した食品がいるなんて不衛生な場所ね」

客「犯罪冷やし中華なんでしょ?私たちもあのきゅうりでグサッと刺されるかもしれないわね。怖いわ」

ひそひそと客から冷やし中華へのあてつけが聞こえる。

唐揚げ「どうやら多くの人はツイッターのニュースなんて見ないようだな。くだらない事には血眼なのに」

冷やし中華「誤解なんだぞ……!」

唐揚げ「言いたいことは分かるがとりあえず今は厨房まで行こうか。ここにいる客はああ言うが冷やし中華の太い客も出来た。それに備えないとな」

チーズダッカルビ、チゲ鍋がやってくる。

チーズダッカルビ「やあやあ、人気メニューの冷やし中華さん。これはこれはお久しぶりですね」

冷やし中華、怒りを露わにする。

チゲ鍋「やだぁ、怖~い。冷やし中華って見た目はクールなのに熱っぽくなりやすいのね~」

チゲ鍋、チーズダッカルビ、笑う。

唐揚げ「冷やし中華だってもうお前らと対等に並べるほどの人気メニューだ。お前らが思っている以上にな」
アナウンス「唐揚げさん、ご対応お願いいたします」

唐揚げ「やべ、俺はいかなくちゃ。とにかくチーズダッカルビとチゲ鍋は余計な事するんじゃないぞ」

唐揚げ、去って行く。

チーズダッカルビ「だってさ」

チゲ鍋「まるで悪者みたいに」

冷やし中華「他者を虐める奴が悪者じゃないとでも思っているのか!」

チーズダッカルビ「虐めるだなんて言い方ひどいなぁ」

チゲ鍋「同じ仲間として可愛がってあげただけじゃないか」

冷やし中華「黙れ!そんな気は一つもなかっただろう!お前らがそう思っていてもそうは思わなかった!それが虐めの証拠だ!」

チゲ鍋、チーズダッカルビ、笑う。

チーズダッカルビ「まぁさ、とりあえず厨房に行こうよ。ここで話してる時間もなんだしさ」

ナレーション「冷やし中華は言われるがまま厨房に向かいました。そこには冷やし中華の想像を絶する光景が広がっていました」

冷やし中華、チーズダッカルビ、チゲ鍋が厨房に入る。厨房には様々な食品が拍手しながら出迎えている。冷やし中華、お帰りなさいと書かれた横断幕も飾られている。
食品1「おめでとう!」

食品2「今まで悪かった」

食品3「俺は冷やし中華がやるやつだと思ってたよ!」

ナレーション「冷やし中華を出迎えてくれたのは今までになかった暖かな声でした」

冷やし中華「こんな声、今まで聞いたことなかった。こんな光景今まで見たことなかった。みんな俺に厳しい声をかけてきた。でも、俺が変わって世界が変わった。俺が変わったらこんなに世界は優しくなった。俺は冬に冷やし中華を食べない世界を変えたくて行動を起こした。でも本当に変わったのは俺自身だったのかもしれない」

チーズダッカルビ「くっさいポエム吐いてるところ悪いけどさ、来てもらいたいところがあるのよね」

冷やし中華「なんでお前らの言う事に従わないといけないんだ!」

チーズダッカルビ「これは出し巻卵様の指示でもあるんだよね」

冷やし中華「出し巻卵様だと?」

チゲ鍋「そうだ。お前如きじゃ一生拝むことが出来ない出し巻卵様さ」

ナレーション「冷やし中華は出し巻卵というワードにゾッとしていました。出し巻卵はこの台所食堂の長であったからです。冷やし中華のような下っ端のメニューには永遠に会う事すら許されない存在だったからです」

台所食堂内。冷やし中華、チーズダッカルビ、チゲ鍋の目の前に扉がある。

冷やし中華「この扉は、なんだ?」

チゲ鍋「なんだ、お前はこの部屋の存在すら知らないのか。時代遅れの冷やし中華だこった!」

チゲ鍋「こいつ多分スマホじゃなくてガラケーだぜ!」

チーズダッカルビ「違いねえ」

チゲ鍋、チーズダッカルビ、笑う。

冷やし中華「俺はスマホだからいいものの、ガラケーを使っている人へのヘイトスピーチがえげつないな」

チゲ鍋「おっと、いけねえ。早く入らないと。あのお方はお前と違って忙しいんだ」

チーズダッカルビ「チーズダッカルビとチゲ鍋です。冷やし中華、お招きいたしました。扉を開けてください」

扉が開く。

冷やし中華「一体何が始まるってんだ……」

暗闇。冷やし中華、チーズダッカルビ、チゲ鍋がいる。

冷やし中華「ここは一体どこだよ、そんでもって」

冷やし中華が喋っていると急に部屋全体に明かりが灯る。

冷やし中華「まぶしっ!」

冷やし中華の数十メートル先に半円を描くように仰々しい椅子に座る食品たち。(右から枝豆、もも焼き鳥、フライドポテトが並んで座っている。フライドポテトの横は空いている)中央に出し巻卵が座っている。

冷やし中華「なんで台所食堂の売り上げトップ5のレジェンドの方々がこんな場所で一堂に会してるんだ?」

ナレーション「台所食堂の売り上げトップ5のメニューはT5(ティーファイブ)と呼ばれ、全ての食品から崇め奉られていました。ですがそこにいるのは4品だけでした」

出し巻卵「諸君、よくぞ来てくれた。それでは冷やし中華の裁判を始める」

枝豆「公平に裁くさ」

もも焼き鳥「早く帰りたーい!こんな下っ端料理の事なんかわかんないし!」

フライドポテト「確かにそうだな。さっさとあげちまおう。揚げ物だけに」

フライドポテト、笑う。

冷やし中華「ちょっと待ってくれ!なんなんだこれ!なんで俺が裁判なんかしなくちゃいけない!」

チゲ鍋「この場所できゃんきゃん騒ぐんじゃないよ!犬か貴様は!」

チゲ鍋、冷やし中華を殴る。

チーズダッカルビ「裁判所では静かにするってガラケーな奴は知らないのかい?」

冷やし中華「俺はスマホだ!」

チゲ鍋「とにもかくにもお前は今から裁かれる。よかったなぁ。悪い事をした奴は裁かれないとな。世の中の悪ってのをどうやらお天道様は見てるらしい」

冷やし中華「ふざけるな!食中毒なんかは冤罪だったじゃないか!」

出し巻卵「黙らんか!ここをどこだと心得ておる!」

フライドポテトの隣に唐揚げが現れる。

唐揚げ「いやー遅れちまってすいません……あれ、冷やし中華、なんでこんなところにいるんだよ」
冷やし中華「唐揚げ?なんでお前が?」

出し巻卵「知り合いかね?」

唐揚げ「まぁ、そんなとこです。(冷やし中華に向かって)冷やし中華、ここは売上トップ5のメニューしか入れない場所なんだぜ?」

冷やし中華「俺は今から裁かれるんだぞ!」

出し巻卵「静粛に!」

出し巻卵の言葉で静まり返る室内。

出し巻卵「それではこれより冷やし中華の無断外出などに関した裁判を行う。チゲ鍋くん?」

チゲ鍋「冷やし中華は、この台所食堂を無断で脱走し、勝手に販売、販促活動を行いました」

冷やし中華「勝手にだと!自分が売れるための営業の何が悪いって言うんだ!」

出し巻卵「冷やし中華くん、静かにしたまえ。確かに、無断で台所食堂を出て行ったことは極刑に値する」

冷やし中華「そんな!」

チーズダッカルビ「残念だったな、冷やし中華。お前の頑張りは全部無駄ってことさ」

冷やし中華「そんな、そんなバカな事があってたまるもんか!頑張りが無駄なんて事!あってたまるか!」

出し巻卵「ここで、この音声を聞いて頂きたい」

チゲ鍋「音声?」

音声が流れ始める。

チーズダッカルビ(ナレーション)「あっ、すいません、武本監督ですか?最近冷やし中華ってやつが調子乗ってまして……。何とか恥をかかせてやれないかと……。あ、はい。とりあえずまた連絡します、はい」

ざわつく場内。

チーズダッカルビ「なんなんだよこれ!どういうこったよ!」

冷やし中華「武本?今武本って言ったんですか!」

出し巻卵「冷やし中華くん、静かにしたまえ。それでは次だ。次は、映像か」

どこからともなく大型のモニターが降ってくる。モニターから映像が映し出される。そこには刑事とチーズダッカルビ、チゲ鍋が映っている。

刑事「そんな事したら警察としての権威が……」

チーズダッカルビ「もし従わないようならもうチーズダッカルビをお宅に配達することは難しいでしょうねぇ」

刑事「待ってくれ!チーズダッカルビは娘の大好物なんだ!それだけはよしてくれ!」

チーズダッカルビ「だったらやること、わかるでしょう?」

間。

刑事「分かった。冷やし中華になんらかの罪を着せて逮捕してみせよう」

映像、止まる。

冷やし中華「音声に映像。なんなんです!なんなんですこれは!」

唐揚げ「ん。ああ。そこのチゲ鍋とチーズ何たらの悪巧みをちょっと見つけちまったのさ」

チーズダッカルビ「ダッカルビだ!」

冷やし中華「どういう事だよ!これ!」

出し巻卵「冷やし中華が出て行って成功を収めた後に嫉妬でチーズダッカルビとチゲ鍋が罠を仕組んで冷やし中華を陥れようとした、証拠、だったかね。唐揚げよ」

唐揚げ、頷く。

冷やし中華「嘘だ、嘘だ!今までも虐めてきたけどこんなハードなことは無かったじゃないか!」

唐揚げ「冷やし中華、お前は本当に優しい奴だな。でもこれが現実だ。こいつらは冷やし中華の運命を捻じ曲げようとした。そうだろ?」

チーズダッカルビ「そんなの嘘っぱちだ!これだって今時音声を合成できるし、映像も勝手に作り出してフェイクなんてのは今大問題になってるじゃないか!でたらめだ!でたらめ!」

チゲ鍋「出し巻卵様!これは巧妙に仕組まれた罠です!唐揚げは冷やし中華を庇うべくこんな嘘にまみれた動画、音声を作ったのです!」

唐揚げ「こいつら!往生際の悪い!」

冷やし中華「待ってくれよ、こいつらのいう事を信じるならドラマや映画に出たのも警察に捕まったのも全部チーズダッカルビとチゲ鍋のせいだって言うのか?」

唐揚げ「そういうことだ」

チゲ鍋「だからこれは罠だって!俺たちは純粋に冷やし中華を応援してたさ!」

冷やし中華「うるさい!お前には聞いていない!」

ピシャリと言い放つ冷やし中華。
冷やし中華「じゃあ、俺が作品に出たのはバカにされるためだったのか?俺はそんな事のために映画に出たのか?人助けになると思って……」

唐揚げ「確かに最初はそいつらの仕掛けた罠だったと思う。実際チーズダッカルビと言えばエンタメ業界で幅を利かせているからな。でもな、冷やし中華、その後にお前が出ているシーンが話題になって映画になった際にお前の出番が増えたのはお前の才能と努力の賜物だよ。お前自身が冷やし中華の活動を行いながら、それと同時並行で必死に台本を読んでいたのだろう?」

冷やし中華「でも、そのせいで俺は捕まるんだぞ!」

唐揚げ「それは一部の連中のよろしくない手段でしかない!お前自身の頑張りはこうやって映画という形で実ったじゃないか!」

出し巻卵「そして唐揚げのいう事が正しければ恥をかかせることに失敗したチーズダッカルビとチゲ鍋はその後の手段としてチーズダッカルビの配送をしないという弱みを握り、警察上層部に冷やし中華の逮捕を頼んだ、そういう筋書きでいいかね?」

唐揚げ「大体の大筋はそんなもんです」

出し巻卵「チーズダッカルビ、チゲ鍋、何か反論は?」

チーズダッカルビ、チゲ鍋、笑い出す。

チーズダッカルビ「そこまで知られていたら仕方ねえ!そうだよ!全部ほんとの事さ!」

冷やし中華「どうしてこんなことを!」
チゲ鍋「楽しいからさ」

冷やし中華「楽しい?」

チゲ鍋「ああ、そうさ。自分にとって嫌いな奴が追い詰められていく姿を見ると気分爽快じゃないか!逆にそいつが輝かしい活躍をしていると胃液が逆流するほどに腹が立つ」

冷やし中華「そんな、そんな事で!こんな事を!」

チーズダッカルビ「そんなこともこんなこともそうさ!お前は黙って今頃も豚箱に入ってれば!」

冷やし中華「俺を虐めていた時、心は痛まなかったか?俺が逮捕された時、罪の気持ちでいっぱいにならなかったか?」

チゲ鍋「なる訳ないだろ!」

チーズダッカルビ「お前が捕まった時なんてケーキをホールで頼んださ!」

冷やし中華「お前らに心は無いのか!俺がどんな思いで!ふざけるな!」

チゲ鍋「心があるからやるんだろ!」

チーズダッカルビ「それが心を持つものの本質だろう!妬みと憎しみこそが心が動く!性悪説ってもんだよ!」

冷やし中華「お前らは鬼だ悪魔だ!犬畜生以下だ!なんでお前らみたいなのがのさばっているんだ!許せない!」

冷やし中華、チゲ鍋を殴ろうとする。

唐揚げ「やめろ!冷やし中華!」

冷やし中華、止まる。

冷やし中華「どうして止める!こいつらのせいで俺は!」

唐揚げ「いまここでお前がそいつらに手を出せば俺たちはお前を裁かなければならなくなる!」

冷やし中華「もともとはそうだろうが!」

唐揚げ「まだ分からないのか!この裁判は俺が仕組んだんだ。そいつらをここに呼ぶためにな。そんな俺の気持ちすらもお前は無下にしてしまうのか?」

冷やし中華「うるさい!黙れ!俺は!俺は!」

唐揚げ「冷やし中華!」

冷やし中華、ぴくっと体が動く。

唐揚げ「お前まであいつらみたくなる必要はない。理由はなんだっていい。俺の顔を立てるでもいい。だからそいつらを殴ろうとするのは辞めてくれ。そいつらはちゃんとしかるべき処罰を行う。だから冷やし中華、ここは何とかお前の腹にぎゅっと押し込めてくれ」

冷やし中華「うっ、うっ!」

冷やし中華、泣き出す。

ナレーション「こうして冷やし中華を巻き込んだ騒動は終わりを迎えました。チーズダッカルビとチゲ鍋は極めて重い冷凍禁固刑に処されることになりました。冷やし中華自身も勝手に台所食堂を飛び出した罪でトイレ掃除を行うという罰が課せられましたがこちらは極めて軽いものでした」

3日後。台所食堂厨房。冷やし中華と唐揚げが並んでいる。

冷やし中華「よく思えばあの裁判に出し巻卵様が出てくるって俺にはよく分からないな。下々の事なんて知らなくてもあの方には関係ないだろう?」

唐揚げ「でも今回のことで一番協力してくれたのは出し巻卵様なんだ」

冷やし中華「え?」

唐揚げ「ああ。俺が提案しただけならあそこまでならんよ。せいぜいチーズダッカルビとチゲ鍋を個人的に処罰して終わりさ。でも出し巻卵様に相談したら張り切るように色々してくれてさ」

冷やし中華「どうしてさ」

唐揚げ「努力したものが不当な働きで不幸を見るのが我慢ならんとかなんとか」

冷やし中華「なんでそんなにあやふやなのさ」

唐揚げ「俺が昔から難しい話は苦手なんだよ。でも確かなことを言うのなら曲がったことが嫌いなんだろう。出し巻卵様は」

冷やし中華「曲がったことねぇ」

アナウンスで冷やし中華が呼ばれる。

唐揚げ「お、さすが人気者の冷やし中華、また注文されてる。このままだと俺の売り上げ抜かされちゃうかもな」

冷やし中華「ブームは終わったんだ。そう爆発的に売れはしないさ」

唐揚げ「またまた謙遜がうまいんだから」

冷やし中華「うまいのは味だけだよ」

笑う冷やし中華と唐揚げ。

冷やし中華「じゃ、行ってくる」

冷やし中華、厨房を出て行く。

終。

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