ゲートボールJK スポーツ

峠高校に通う門田桃(17)ら3人の女子高生は、テストの赤点を免除してもらうため、部長の神保香蓮(17)含め2人しかいないゲートボール同好会に一時入会させられる。しかしそこで桃は、香蓮や顧問、練習を手伝う老人会の面々も驚くほどのゲートボールの才能を見せる。
マヤマ 山本 23 0 0 03/31
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

<登場人物>
門田 桃(17)峠高校ゲートボール同好会員
神保 香蓮(7)(17)同
ドーレス 由紀(17)同
河本 杏珠(7)(17)同
貝塚 美羽(17)同

...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

<登場人物>
門田 桃(17)峠高校ゲートボール同好会員
神保 香蓮(7)(17)同
ドーレス 由紀(17)同
河本 杏珠(7)(17)同
貝塚 美羽(17)同

老川 肇(17)(27)同顧問
一 天花(17)王求学園ゲートボール部員
一 伸弥(17)天花の双子の兄
神保 徹(66)(73)香蓮の祖父、故人
石毛 勝人(58)(68)杏珠の祖父
門田 茜(34)桃の母
メグ (17)桃の友人
サオリ(17)同
エリカ(17)同
若林 (57)峠高校校長
数学教師
子供



<本編>
○峠高校・校門
   セミの鳴き声が聞こえる。
   「県立峠高等学校」と書かれた看板。
   続々と登校する生徒達。
   メグ(17)、サオリ(17)、エリカ(17)らと喋りながら歩く門田桃(17)。
   その後ろ、一人で歩く神保香蓮(17)。桃らが道を塞ぐように広がって歩いているため、迷惑そう。
   その後方から自転車でやってくるドーレス由紀(17)。ベルを鳴らし、香蓮や桃らをどかしながら進む。
   さらにその前方、複数の男子生徒達と喋りながら歩く河本杏珠(17)。ベルを鳴らしながら自転車で追い越す由紀に対してふくれっ面の杏珠。
   全員が次々と校門をくぐっていく。

○公園
   広めのスペースや、バスケットゴールがある公園。
   セミの鳴き声が聞こえる。
   集まる石毛勝人(68)ら老人達。

○峠高校・教室・前
   「2―4」と書かれた表札。

○同・同・中
   定期テスト当日の朝、皆それぞれの形で教科書やノートに向かう。
   教室の真ん中で、各々教科書を手に問題を出し合ったりふざけたりしている桃、メグ、サオリ、エリカ。
   その近くで真面目に勉強する香蓮。桃らのうるささに迷惑そう。
   窓際の一番後ろの席に座る由紀。ダンベル片手に教科書を読んでいる。
   最前列の席に座る、また別の男子の一団(がり勉風)に教えを乞うている杏珠。ただしその目線は教科書やノートではなく、常にその男子の目。

○公園
   ゲートボールの準備(ゲートの設置など)を行う石毛ら老人達。

○峠高校・外観
   チャイムの音。
   一斉に紙をめくる音。

○同・教室・中
   定期テストが行われている。
   頭をかきむしり、ペンがなかなか進まない桃。
   すらすらと問題を解く香蓮。
   ペンを持ったまま、睡魔と戦う由紀。
   ペンも持たず、監督教師に色目を使う杏珠。

○公園
   ゲートボールの試合をする石毛ら老人達。好プレーに拍手したり、うまくいかずに悔しがったり。
   チャイムの音。

○峠高校・教室・中
   大きく伸びをする桃。晴れやかな表情。
桃「終わった~」
    ×     ×     ×
   返却された解答用紙を手に青ざめる桃。
桃「終わった……」

○メインタイトル『ゲートボールJK』

○駅前
   並んで待つ桃、メグ、サオリ、エリカ。
桃「あ、来た来た」
   そこにやってくる一伸弥(17)ら王求学園高校のイケメン男子生徒四人組。一瞬、一と目が合う桃。
桃「今、目合った、目合った!」
サオリ「いや、目合ったの私だし」
エリカ「あ~、カッコいい~。マジ癒し」
サオリ「それなー」
桃&エリカ「それなー」
メグ「どこがいいんだか」
桃「顔が良い」
サオリ「尊い」
エリカ「わっしょい」
メグ「はいはい」
桃の声「ねぇ、メグって王学に知り合い居るんでしょ?」

○峠高校・校門
   複数の男子とともに登校する杏珠。
桃の声「夏休みにさ、あの人達と合コンとか、組めない?」
サオリの声「いいねぇ、桃。ナイスアイデア」
エリカの声「メグ、お願い」
    ×     ×     ×
   その後方から走ってくる朝練習中の女子バスケ部員達、その先頭を走る由紀。
メグの声「……まぁ、聞いてはみるけど」
桃の声「やった~! さすがメグ」
サオリの声「BFF!」
桃&エリカの声「BFF!」
メグの声「でもその前に……」
    ×     ×     ×
   登校中の桃、メグ、サオリ、エリカ。
メグ「今日返ってくる追試の結果を心配した方がいいんじゃないの?」
エリカ「それなー」
桃&サオリ「……」
エリカ「ちょ、スルーしないでよ」
サオリ「奇跡的に赤点免れたからって、偉そうに」
メグ「で? 出来はどうだったの?」
サオリ「ぴえん」
エリカ「桃は?」
桃「ぴえん、っていうより……」

○同・教室・中
   老川肇(27)から追試の結果を受け取る生徒達。
   両手で「セーフ」の仕草をするサオリ。
   頭をかく由紀。
   ふくれっ面の杏珠。
   死んだように机に突っ伏す桃。
桃「ぱおん」

○同・校門
   下校する生徒達。

○同・視聴覚室
   ばらばらに座る桃、由紀、杏珠。
桃「追試ダメだったの、この三人だけ?」
杏珠「みたいだね」
桃「ウチら、どうなっちゃうの?」
由紀「追追試じゃね?」
桃「追追試でもダメだったら?」
由紀「追追追試?」
桃「『前前前世』みたいな事言わないでよ」
由紀「(台詞口調で)あれ? 英語と体育の成績が、入れ替わってる!?」
桃「由紀さ、何でそんなに余裕なの?」
由紀「まだあわてるような時間じゃない」
杏珠「それにしてもさ、ドーレスさんって、ハーフなのに何で英語出来ないの?」
由紀「うるせぇな。コッチはドイツとのハーフなんだよ」
   扉が開き、老川、香蓮、貝塚美羽(16)が入ってくる。香蓮に「やっほー」と手を振るも無視されふくれっ面になる杏珠。
桃「あれ、神保さんじゃん。頭いいと思ってたのに、落第組? まさかの仲間?」
香蓮「(ため息をつき)老川先生、本当にこの人達しかいないんですか?」
老川「贅沢言ってる場合じゃないでしょ? (桃らに)あ、僕が顧問をやっているゲートボール同好会の子達です」
桃「ゲートボール同好会?」
香蓮「主将の神保香蓮です」
美羽「一年の貝塚美羽です」
香蓮「ご存知の通り、ゲートボールは一チーム五人で行うスポーツです」
桃「知らないし」
杏珠「そうなんだ~」
由紀「個人種目だと思ってた」
香蓮「……なんですが、三年生の先輩達が夏の大会を前に辞めてしまいまして」
老川「ちょうど、三人足りないんだよね」
   顔を見合わせる桃、由紀、杏珠。
桃&由紀&杏珠「……え?」

○マンション・外観(朝)

○同・門田家・リビング(朝)
   ジャージ姿でやってくる桃。朝食の準備をしている門田茜(34)。
桃「ママ、おはよう」
茜「おはよう、桃。どうしたの、朝からそんな恰好で。またダイエット?」
桃「ううん。部活」
茜「部活?」

○公園
   ゲートボールの準備がされた公園。運動着姿で並ぶ桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽、老川。その正面には石毛ら老人達が並んでいる。
由紀「ドーレス由紀、バスケ部との兼部です」
杏珠「河本杏珠です。石毛勝人の孫です。おじいちゃ~ん」
   石毛に手を振る杏珠と振り返す石毛。
桃「……門田桃です」
香蓮「以上三名が新入部員です。では本日も、よろしくお願いします」
桃M「あーあ、何でこんな事に……」
    ×     ×     ×
   香蓮や石毛からゲートボールの球の打ち方を教わっている桃、由紀、杏珠。
石毛「みんな、もうちょっとお尻上げて」
   尻を上げる桃、由紀、杏珠。それを見て笑う香蓮と石毛。
由紀「え、何の笑い?」
石毛「ごめんごめん。スティックのお尻を上げてって事」
桃「なら最初っからそう言えし」
    ×     ×     ×
   スタート地点から第一ゲートに向けて球を打つ練習に参加する一同。
老川「この第一ゲートを通過しない事には、ゲームに参加できないからね」
   由紀の打球、勢いよく転がっていくが、大きく外れる。
由紀「何コレ、難っ」
   杏珠の打球、ゲートまで球が届かない。
杏珠「おじいちゃん、届かないよ~」
石毛「よしよし、大丈夫大丈夫」
   桃の打球、まっすぐ転がっていく。
桃「お、良きでは?」
   ゲートを通過する桃の打球。
   周囲の老人達から感嘆の声。
    ×     ×     ×
   コート上の他の球に自分の打った球を当てる練習をする一同。
老川「じゃあ、ソコからあの球に当てるように打ってみよっか」
   由紀の打球、大きく外れる。
由紀「デカすぎた~」
   杏珠の打球、綺麗に球と球の間を通る。
杏珠「え~、何で~?」
   桃の打球、球に向かってまっすぐ転がっていく。
桃「これも、良きでは?」
   見事、球に当てる。
   周囲の老人達からどよめきの声。
    ×     ×     ×
   スパーク打撃(二つの球を足で押さえ、片方の球を打つ反動でもう片方の球を打つ技)の練習をする一同。
   手本を見せる石毛。
石毛「コレがスパーク打撃。やってごらん?」
   見事にスパーク打撃を習得する桃。
桃「良きでは?」
   桃の周囲に老人達が集まり始める。
    ×     ×     ×
   ライン際に立つ老川。
老川「このラインぎりぎりに打ってみよっか」
   桃の打球、程よい力加減でまっすぐに転がっていく。
桃「良きでは? 良きでは?」
   ラインの手前ぎりぎりで止まる。その瞬間拍手喝采(いつの間にか老人が増えている)。
桃「やりづらっ」
石毛「お嬢ちゃん、凄いじゃないか。こりゃ、ゲートボールの申し子じゃ!」
   さらに盛り上がる周囲の老人達。
桃「は? いや、そんな才能いらないし」
   複雑な表情でそれを見ている香蓮。

○峠高校・外観

○同・教室・中
   スマホで撮影されたメグ、サオリ、エリカの動画。動きは誇張。
サオリ「こりゃ、ゲートボールの……」
メグ&サオリ&エリカ「申し子じゃ~!」
   その動画を観せられている桃。それ見て笑うメグ、サオリ、エリカ。
桃「いや、観てたんかーい」
サオリ「良かったじゃん、桃」
エリカ「よっ、令和の天才ゲートボーラー」
サオリ「何そのパワーワード。じわるわ」
桃「もう、絶対ディスってるでしょ」
   笑うサオリとエリカ。
メグ「それはそうと、王学の男子と遊ぼう、って話なんだけど」
エリカ「あ、どうだった?」
メグ「『今日、どう?』だって」
桃「え、もう約束取り付けたの? 神か」
サオリ「あざまる水産」
桃&サオリ&エリカ「よいちょまる~」
メグ「で、全員行けんの?」
桃「もちろん、行く行く~!」
   桃の肩をトントンと叩く香蓮。
桃「あ、神保さん。どうかした? ……あっ」

○同・校門
   桃に手を振り、下校するメグ、サオリ、エリカ。香蓮に引きずられていく桃。
桃「いやぁぁぁ~!」

○同・校庭
   ゲートボールの練習の準備をする桃、杏珠、美羽、老川。
桃「あーあ、今日も今日とてゲートボールか。私もカラオケ行きたかった~」
杏珠「私も、今日デートだったのにな~」
美羽「すみません、来月の大会が終わるまでなんで」
桃「そういえば、杏珠って神保さんと幼馴染なんだっけ? 昔からああなの?」
杏珠「そうそう、私と違って、しっかりしてるんだよね~」
桃「しっかりって言うか、融通利かないよね」
   そこに由紀を連れてやってくる香蓮。
香蓮「もう。何でみんなスッと練習に集まってくれないの?」
由紀「バスケ部も試合近いんだよ」
老川「これで全員揃ったね。さぁ、練習始めようか」
桃「先生、なる早で」
杏珠「賛成~」
由紀「先生、バスケがしたいです」
   ため息をつく香蓮。

○同・校門(夕)
   スマホを操作しながらやってくる桃。
桃「さすがにカラオケは終わっちゃってるよな~。二次会とかやってないかな~?」
一の声「あ、やっと出てきた」
   顔を上げる桃。そこに立っている一。
桃「え? え、え、何で? 嘘、ヤバっ」
一「ごめん、待ち伏せなんてキモいよね」
桃「ううん、全然。あれ、でも、今日はメグ達とカラオケ行ってたんじゃ……?」
一「途中で抜けてきた」
桃「え、何で?」
一「『何で?』は、こっちのセリフ。君もいる、って聞いてたから、参加したのにさ」
桃「え……」
一「まぁ、部活じゃ仕方ないけど。あ、そういえば何部なの?」
桃「え? いや、その、えっと……」
   そこに自転車のベルを鳴らしながらやってくる由紀。カゴにはバスケ部のエナメルバッグ。
由紀「はいはい、桃。おっ先~」
桃「あ、お疲れ~」
   そのまま走り去る由紀。
一「そっか、バスケ部か」
桃「え? ……あ~、うん」
一「あ、ごめん。肝心な事言ってなかったね。王求学園二年の一(にのまえ)伸弥です」
桃「あ、門田桃です」
   見つめ合い、はにかむ二人。

○峠高校・外観
   晴れている。
エリカの声「え~、ニノ君、桃の所行ってたの?」

○同・教室・中
   鼻歌交じりに雨降り坊主を作る桃。その周囲に立つメグ、サオリ、エリカ。
エリカ「うわ~、抜け駆けとか、マジつらたんだわ~」
桃「いいじゃん。そっちはまだ他にも三人イケメン居たんだから」
サオリ「いや~、喋ってみると何と言うか。私的にはありよりのなしだったかな」
エリカ「そう? なしよりのありじゃない?」
メグ「どっちでもいいわ」
桃「そっか。まぁ、ウチを置いていった罰が当たったんだね。ハッハッハ」
メグ「ところで、桃は何作ってんの?」
サオリ「テルテル坊主じゃない?」
エリカ「あんなに愚痴ってたのに、すっかりゲートボールの虜になっちゃった?」
桃「残念でした。コレは(逆さにして)こう吊るすんです~。雨降れば、練習中止になるでしょ?」
メグ「いや、そんなん効果ある訳……」

○峠高校・外観
   雨が降っている。

○同・視聴覚室
   ゲートボールの試合映像を観ている桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽、老川。桃は心ここにあらず、といった様子。
香蓮「つまり、第一ゲートを通過すると一点、第二ゲート通過、第三ゲート通過でまた一点、最後にゴールポールに当てれば二点で、一人最大五点、チームの総得点が多い方が勝ち……門田さん、わかった?」
桃「え? あぁ、うん。ばっちり。じゃあ、今日はコレで解散、だよね?」
老川「まぁ、この天気じゃ外で練習もできないしね」
桃「じゃ、お先~」
   勢いよく出ていく桃。その後姿を見送る香蓮、由紀、杏珠、美羽、老川。
杏珠「アレは男だね~」
美羽「え、そうなんですか?」
杏珠「今から会える男の子、居るかな?」
由紀「どいつもこいつも。ウチはバスケ部に顔出してくるから。お先~」
   各自の様子を見ている香蓮。ため息。

○喫茶店・外観

○同・中
   向かい合って座る桃と一。
一「そうそう、俺もね、中学時代はバスケ部だったんだよ」
桃「そうなんだ~。へぇ、カッコいい~」
一「そんな事ないけど。そういえば、桃ちゃんは、バスケ部でポジションどこなの?」
桃「え? えっと……(ごまかすように)逆に、どこだと思う?」
一「そう来たか。そうだな~、三番か……いや、二番かな?」
桃「うん、そう、正解。さっすが~。(小声で)二番って何?」
一「そっか、二番か~。俺も中学時代二番やってたんだよ。めっちゃ偶然だね」
桃「ニノ君は、高校でバスケやろうとは思わなかったの?」
一「思わなかったな。そもそもウチの学校、めちゃめちゃスポーツに力入れてるからさ。全国優勝するような部ばっか」
桃「そうなんだ」
一「バスケもそうだし、バレーにラグビーにハンドボールに、あとゲートボール」
桃「え? ゲートボール?」
一「そう。笑えない? ゲートボールだよ? しかも女子部。『何で高校の部活動でソレ選んだ?』って思わない?」
桃「あ~……うん。草生えるねー」
   若干笑顔がひきつる桃。

○競技場A・外観
   「全国ジュニアゲートボール大会」と書かれた看板。

○同・中
   高校生達によるゲートボールの試合が行われている。
   峠高校と王求学園が当たる事を示す対戦表。
香蓮の声「王学か……」

○同・客席
   選手名簿を見る桃、由紀、杏珠。王求学園の主将欄に「一 天花」の文字。
杏珠「この人、何て読むの? 『いち』? 『はじめ』?」
由紀「『ワン』、とか?」
桃「何それ、英語なのに中華風」
   その後ろの席に座る香蓮、美羽、老川。
美羽「いきなり優勝候補ですね」
杏珠「そうなの?」
由紀「要チェックや」
桃「全国優勝するようなチームなんでしょ?」
老川「へぇ、良く知ってるね」
桃「え? あ、まぁ」
香蓮「王学との試合、私達は後攻です。先生とも話して、二番に門田さん、四番に私、六番に美羽、八番に杏珠、一〇番をドーレスさんで行きたいと思います」
桃「ねぇ、神保さん。二番って何?」
   驚く一同。
桃「……え?」
香蓮「この間説明したよね? 試合の映像見せながら」
桃「あ~、そうだったっけ?」
香蓮「……じゃあ、もう一回説明するけど」

○同・中
   峠高校と王求学園の試合が始まる。一番の球を持つ一天花(17)。
香蓮の声「ゲートボールでは、一から一〇までの数字が付いた球を使うの。その数字は、打つ順番。先攻のチームは奇数番号、後攻チームは偶数番号の球を持ってるから、各チーム交互に打つ事になる」
   スタート地点で構える天花。
香蓮の声「まず第一ゲート通過を目指す。失敗したら、次の自分の番の時に、またスタート地点からやり直し」
   天花の打球は第一ゲートを通過、再び構える天花。
香蓮の声「ゲートを通過したり、敵味方問わず他の球にタッチすると、さらにもう一回打つチャンスが回ってくる」
   天花の打球は第二ゲートを通過せず。
香蓮の声「一番の人が全て打ち終わったら、次は二番の人」
   スタート地点で構える桃。
桃「行っきま~す」
   打球を第一ゲート、第二ゲートと次々と通過させる桃。周囲から感嘆の声。
   コートの外から指示を出す老川。
老川「門田さん。(第三ゲートより手前の位置を指して)この辺に」
桃「いや、これワンチャンあるでしょ」
   球を第三ゲート目指して打つ桃。
   難しい角度ながら、まっすぐ転がっていく打球。
桃「良きでは? 良きでは?」
   第三ゲートも通過する桃の打球。
   客席からもどよめきが起きる。
一「……やるな」
桃「よっしゃ!」
老川「凄い凄い、門田さん。じゃあ、今度こそこの辺に……」
桃「(全く聞かず)さて、と。コレで上がり、っと」
   打球をゴールポールに当てる桃。
桃「やったぜ~!」
   ガッツポーズする桃。敵味方問わず、選手達も客席も静まり返る。頭を抱える老川。
桃「……アレ、何で?」
   コートの外に出る桃に掴みかかるように迫る香蓮。
香蓮「何勝手な事してんの!?」
桃「え? だって、コレでウチのチームに五点入ったんでしょ?」
香蓮「ゲートボールは一試合三〇分あるの。その中で相手を妨害したり、味方をサポートしたり、そういう事をしながら、最終的にゴールポールを目指せばいいの。こんなに早く上がられたら、この先私達、四人対五人で試合しなくちゃいけないんだよ。わかってる!?」
桃「そんなん知らないもん」
香蓮「知らないハズないし、そもそも、先生の指示見てれば……」
   間に入る由紀。
由紀「落ち着けって。やっちゃったもんはしょうがねぇよ。今は、ココからどうするかを考えんのが先だろ?」
   桃の肩を叩く杏珠。
杏珠「桃ちゃん、ドンマイ」
   香蓮を連れその場を立ち去る由紀と杏珠。
桃「何で私が悪い事になってんの……?」
    ×     ×     ×
   由紀、杏珠、美羽は第一ゲートも通過できず、香蓮の球は王求学園の選手達のスパーク打撃でコート外に出される等、一方的な試合展開。
    ×     ×     ×
   峠高校が王求学園に大差で負けたことを示すスコアボード。

○同・客席
   気まずい雰囲気の桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。
杏珠「香蓮、ドンマイ」
由紀「まぁまぁ。『負けた事がある』というのがいつか、大きな財産になる、だろ?」
香蓮「……」
由紀「ほら、桃も何か言えよ」
   いたたまれず席を立つ桃。
由紀「あ、おい、桃。(香蓮と桃を交互に見ながら)美羽、桃を追いかけといて」
美羽「え、私ですか? でも……」
由紀「後輩だろ」
美羽「はい……」
    ×     ×     ×
   歩いている桃。
桃「何この状況。意味わかんない」
一の声「あれ、桃ちゃん?」
   振り返る桃。そこに立っている一。
一「やっぱり桃ちゃんだ」
桃「え、ニノ君!? 何で……」
一「まぁ……応援? 桃ちゃんこそ、何でここに?」
桃「私は……私も、その応援で……」
   そこにやってくる美羽。
美羽「桃先輩、待ってくださいよ~……(一に気づき会釈)」
一「(会釈を返し)えっと、桃ちゃんの後輩さん?」
桃「あぁ、えっと……」
美羽「後輩っていうか、桃先輩は助っ人で来てくださってるだけで……」
一「助っ人……バスケの?」
美羽「いえ、ゲートボール同好会です」
桃「ちょっ……」
一「え?」
   顔を真っ赤にする桃。
美羽「? 桃先輩?」
一「桃ちゃん、その、ゲートボールやってた……の?」
   逃げるように来た道を引き返す桃。
美羽「え、ちょっと、桃先輩~」

○マンション・外観(夜)

○同・門田家・桃の部屋(夜)
   ベッドにもぐりこみ泣いている桃。
   そこに入ってくる茜。
茜「大丈夫?」
桃「大丈夫じゃない!」
   起き上がる桃。
桃「確かに、赤点獲った私が悪いよ? でもだからって、無理やりゲートボール同好会に入れられて、試合に負けたのを私のせいにされて、好きな子の前で恥かかされて、そんなの絶対おかしいよ!」
   茜の胸で泣く桃。

○公園
   石毛ら老人達と練習する香蓮、美羽と引率の老川。
石毛「今日はお二人だけかい?」
老川「他の三人は、この間の大会だけの助っ人でしたから」
石毛「いや、それは聞いてたけどね。てっきり、ゲートボール好きになってくれたと思ったんだけど……そうか~」
   複雑そうな表情の香蓮。
サオリ&エリカの声「イエーイ!」
   タンバリンやマラカスの音。

○カラオケ
   乾杯する桃、メグ、サオリ、エリカ。
一同「KP~」
サオリ「四人で遊ぶの久しぶりじゃない?」
桃「確かに」
エリカ「桃、ゲートボール一筋だったからね」
桃「え、そんな事ないし」
サオリ「そうそう。全然一筋じゃなかったよ。ニノ君と、ね?」
エリカ「あ~、そうだそうだ」
桃「もう、やめてよ」
   笑うサオリとエリカに比べ、桃の表情にやや影がある事に気付くメグ。
メグ「ニノ君とどうかした?」
桃「え? ……秒で終わった」
サオリ「何、そうなの?」
エリカ「だったら言ってよ~」
メグ「何があった?」
桃「別に、何もないよ。……最初から、何もなかったんだよ」

○(イメージ)ゲートボール場
   近づいていく二つの球、ぶつかる。
桃の声「近づけた気はしてたけど」
    ×     ×     ×
   スパーク打撃で弾き出される片方の球。
桃の声「もう今は全然」

○カラオケ
   並んで座る桃、メグ、サオリ、エリカ。
桃「だからさ、メグ。また合コン組んでよ」
エリカ「いいねぇ。今度は別の高校で」
サオリ「それなー」
桃&エリカ「それなー」
メグ「簡単に言ってくれるね」
サオリ「よし、じゃあ憂さ晴らしにじゃんじゃん歌っちゃお。(スマホのカメラを構え)桃は全然悪くない!」
桃「悪くない!」
サオリ「全部。老川のせいだ!」
桃&メグ&エリカ「全部、老川のせいだ!」

○峠高校・外観

○同・体育館・中
   全校集会中。
   ステージに立つ若林(57)。
若林「え~、では、しばらく休まれる老川先生の代わりに来られた新しい先生のご紹介を……」
   戸惑う桃。
若林の声「申し訳なかったね」

○同・校長室
   若林と向かい合って座る桃、由紀、杏珠。
若林「赤点を免除させる代わりに、自分が顧問を担当する、人数不足に悩む同好会に無理やり加入させるというのは、これは職権乱用、あってはならない事です。責任を取って謹慎処分となった老川先生に代わり、校長として謝罪します」
   戸惑う桃、由紀、杏珠。
桃の声「私のせいかも」

○同・廊下
   並んで歩く桃、由紀、杏珠。桃のスマホの画面には、SNS上にアップされたカラオケでの桃達の「老川のせいだ!」動画。「いいね」の数や再生回数、コメント数等が他の動画と比べてかなり多い状態。
由紀「確かに、バズってんな」
杏珠「……あ、香蓮」
   反対側から歩いてくる香蓮。
桃「神保さん。同好会、どうなっ……」
   無視してすれ違っていく香蓮。
由紀「無視かよ。顧問辞めさせられて機嫌悪いのはわかるけど……」
杏珠「仕方ないよ。香蓮にとっては特別だもん。ここのゲートボール同好会」
由紀「あ~、やっぱアレ? 香蓮ってゲートボールやるためにこの学校来たクチ?」
桃「なら王学でも良さそうなもんだけどね」
杏珠「え~、王学じゃダメだよ~」
桃「何で?」
杏珠「だって、ここの同好会の初代監督が、香蓮のおじいちゃんなんだもん」
桃&由紀「え!?」
杏珠「あれ、知らなった?」

○(回想)公園
   神保徹(66)ら老人達の前に並ぶ老川(17)ら同好会員と石毛(58)。
老川「峠高校ゲートボール同好会です。よろしくお願いします」
杏珠の声「で、老川先生が初代キャプテンで」
    ×     ×     ×
   老川ら同好会員と石毛に指導する神保。
神保「みんな、もうちょっとお尻上げて」
   尻を上げる老川ら同好会員と石毛。それを見て笑う神保ら老人達。
神保「ごめんごめん。スティックのお尻を上げて、って事」
杏珠の声「この学校で先生やってた杏珠のおじいちゃんが初代顧問」
桃の声「えっと……石毛さんだっけ?」
    ×     ×     ×
   木陰のベンチに並んで座る香蓮(7)と杏珠(7)。スティックを触るなど、ゲートボールに興味津々な香蓮と、老人達に可愛がられにいく杏珠。
由紀の声「幼馴染って、そういう事だったのか……」

○峠高校・廊下
   並んで歩く桃、由紀、杏珠。
杏珠「香蓮、おじいちゃん子だったから」

○神保家・仏間(夜)
   仏壇に飾られた神保(73)の遺影。手を合わせる香蓮。
杏珠の声「おじいちゃんの作ったチームを、自分で強くしたかったんだろうね」

○マンション・門田家・桃の部屋(夜)
   机の前に座る桃。机の上には小さい消しゴムが不規則に転がっている。そのうちの一つを指ではじき、別の消しゴムに当てる桃。
杏珠の声「香蓮、大丈夫かな……?」

○峠高校・体育館・外観

○同・同・中
   練習試合をする由紀ら女子バスケ部。
   峠高校の攻撃中。三人のマークに囲まれる由紀。ボールに触らせてもらえず、結局相手にボールを奪われる。
由紀「くそっ」
   ディフェンスに戻る由紀。
由紀「切り替えて、ココ守るぞ。ウチらはディフェンスに定評のある……」
   振り返る由紀。四人のチームメイトがそれぞれ桃、香蓮、杏珠、美羽。
由紀「え?」
   目をこする由紀。チームメイトが全員バスケ部員に戻っている。
由紀「……だよな」

○ビリヤード場・外観

○同・中
   大学生の男とデート中の杏珠。男はビリヤードをプレー中。球に当てる度に「凄~い」と拍手する杏珠。

○(フラッシュ)公園
   かなり離れたところにある球に自分の打球を当てる桃。周囲の老人や石毛、杏珠らも拍手喝采。

○ビリヤード場
   拍手の手が一瞬止まる杏珠。男が振り返ると、再び笑顔で拍手。

○公園
   ゲートボールの練習は行われておらず、遊んでいる子供達。その様子を見ている桃。やがて立ち上がり、歩き出す。
一の声「桃ちゃん」
   振り返る桃。そこに立っている一。
桃「ニノ君?」

○喫茶店・外観
一の声「いきなりごめんね」

○同・中
   向かい合って座る桃と一。
一「あの辺に行けば会えるかも、って聞いて」
桃「別に、LINEくれればよかったのに」
一「送っても、何かスルーされそうな気がしたからさ」
桃「……うん、したかもしんない」
一「それに、やっぱり直接言った方がいいかな、って思って」
   桃に頭を下げる一。
一「桃ちゃん、ごめん」
桃「え?」
一「前、言っちゃったじゃん? 『何で高校の部活でゲートボール?』『笑えない?』って。それも何か、バカにしたような言い方で」
桃「それは、別に普通に思う事で……」
一「俺、桃ちゃんがゲートボールやってるって思わなくて、ひどい事言っちゃって」
桃「いや、そんな事ないよ?」
一「本当に、単純に、笑い話というか、面白い話しようと思ってしただけで。センスないよね、俺」
桃「私だって、バスケ部のフリして……」
一「アレだって、今思い返せば俺が勝手に勘違いしただけで。いや、違うな。バスケだったら話が合うからっていう、願望だったかもしれない。無理させちゃってごめん」
桃「そんな謝らないでよ。私、てっきりニノ君に嫌われたもんだと思ってた」
一「え、何で?」
桃「女子高生のくせにゲートボールなんかやってたし、それに、あの大会から連絡くれなくなったし」
一「あ、うん。何か申し訳なくて、合わせる顔がなくて……あ、でもそうか。俺から連絡しなきゃいけなかったんだよな。うわ~、ごめん」
桃「(笑いながら)もう、何回謝んの?」
一「うん、でも……」
桃「じゃあ、こうしない? 今日奢ってくれるなら、それでチャラ」
一「桃ちゃんがそれでいいなら」
桃「じゃあ、決まり。(メニューを広げ)一番高いヤツはどれかな……?」
一「え、え、え? ちょっと待って(と言って財布の中身を確認する)」
   その様子を見て笑う桃。つられて笑う一。

○峠高校・外観

○同・教室・中
   桃に「入会届」を渡す由紀と杏珠。
桃「何コレ?」
由紀「入会届」
桃「うん。それは読めばわかる」
杏珠「私達、正式にゲートボール同好会に入ることにしたんだ」
由紀「もちろん、ウチはバスケ部と兼部だけどね」
桃「へぇ、そうなんだ」
杏珠「桃ちゃんも、一緒にやろうよ~」
桃「嫌だし」
由紀「あんだけボロ負けして、桃は悔しくねぇのかよ?」
桃「うん。悔しくない。全く」
由紀「コッチは、負けっぱなしってのも癪に障るんだよ。となると、勝つためには桃みたいな実力者には居てもらわねぇと困んの」
桃「そう言われても、ウチが困んの」
杏珠「一緒にやろうよ~」
桃「しつこいな~。(振り返り)ちょっと、みんなからも何か言ってよ」
   教室の後ろに立ち、一連の流れを見守るメグ、サオリ、エリカ。
メグ「コッチが口出すことじゃないよ」
桃「そんな~」
エリカ「アオハルだね~」
サオリ「それなー」
メグ&エリカ「それなー」
桃「もう~」
美羽の声「し、失礼します」
   そこに駆け込んでくる美羽。
桃「うわっ、美羽まで来たし」
由紀「ちょうど良かった。美羽からも言ってやってよ」
美羽「いや、あの……香蓮先輩は?」
杏珠「今居ないよ? どうしたの?」
美羽「いや、香蓮先輩が、同好会辞めるって聞いて」
桃&由紀&杏珠「え!?」

○同・校門
   出ていこうとする香蓮。
由紀の声「香蓮!」
   振り返る香蓮。そこに駆けてくる桃、由紀、杏珠、美羽。
由紀「同好会辞めるってマジ?」
香蓮「関係ないでしょ」
由紀「関係あるよ。ウチら全員、同好会に入るって決めたのにさ」
桃「だからウチは入らないって」
香蓮「そっか。じゃあ、美羽をよろしく」
杏珠「一緒にやろうよ~」
由紀「杏珠は、それしか言わねぇな」
杏珠「だって、一緒にやりたいんだもん」
美羽「香蓮先輩、お願いします」
由紀「香蓮が居なきゃ、王学に勝てねぇよ」
桃「いいじゃん。辞めたいなら辞めさせてあげなよ」
美羽「桃先輩?」
桃「やりたい事をやる。やりたくない事はやらない。それでいいじゃん」
香蓮「……初めてかもね」
桃「何が?」
香蓮「門田さんと、意見が一致したの」
   そのまま立ち去る香蓮。
杏珠「香蓮~」
由紀「おい、桃……」
   桃を冷たい目で見る由紀、杏珠、美羽。
桃の声「……で、何かすっごい白い目で見られたんだけどさ」

○ゲームセンター
   エアホッケーで対戦する桃と一。
桃「私、間違った事言ったかな?」
一「いや、桃ちゃんが正しいと思うよ? 同好会なんだからさ、本当に好きな人がやるべきだよ」
桃「さすがニノ君。わかりみが深い」
一「でしょ?」
   と言いながら得点を決める一。
桃「もう、全然点獲れないんだけど。ニノ君、ちょっとは手加減してよ」
一「ごめんごめん」
   パッドをゆっくり打ち返す一。
桃「よし」
   その近くを子供が通る。
子供「次あれゲットしようぜ」
桃「(『ゲット』という単語に反応し)」
   パッドを空振りする桃。
桃「あ……」
    ×     ×     ×
   シューティングゲームをプレーする桃と助言する一。
桃「え、全然当たんないんだけど」
一「ほら、もっとターゲットをよく見て」
桃「(ター『ゲット』という単語に反応し)」
   外しまくる桃。
    ×     ×     ×
   UFOキャッチャーで大量の景品を手に入れる人を遠目に見ている桃と一。
桃「うわ~、マジ神業」
一「凄い芸当だよね」
桃「(『芸当』という単語に反応し)」
   何もない所で躓く桃。

○マンション・外観(夜)
桃の声「ただいま~」

○同・門田家・リビング(夜)
   入ってくる桃。キッチンに立つ茜。
桃「ママ、お腹すいた~」
茜「え、食べてきたんじゃないの?」
桃「男の子の前でそんなガッツリ食べられないし」
   と言いながら麦茶を飲む桃。
茜「思春期だね。でも何かあったかな? ミートボールでいい?」
桃「(ミ『―トボール』という単語に反応し)」
   麦茶を吹き出す桃。
茜「ちょっと、桃。何してんの?」
桃「ごめんごめん。あ~、びっくりした」
   桃の様子をしばし見つめる茜。
桃「? どうかした?」
茜「……ママはさ、今の桃くらいの歳で桃の事産んだんだよね」
桃「え、何、いきなり?」
茜「だから部活みたいな、いわゆる『青春』っていうの、した事ないんだよね。楽しそうで、羨ましいな」
桃「別に、そんなに楽しいもんじゃないよ。そもそも、今日は部活関係ないし」
茜「今日の話をしてる訳じゃないよ?」
桃「……部活なんてさ、やりたい事かやりたくない事か、って聞かれたら、やりたくない事だね」
茜「そっか。二択なら、そうなのかもね」
桃「二択なら?」
茜「ママは、三択だと思うな。やりたい事か、やりたくない事か、やるべき事か」
桃「やるべき事……」
茜「さぁ、どれだ?」
桃「……喧嘩する事がやるべき事だとは、思えないけどね」
茜「そう? いいじゃない、喧嘩」
桃「え?」
茜「楽しいだけが青春じゃないでしょ?」

○(フラッシュ)同・同・桃の部屋(夜)
   茜の胸で大泣きする桃。
茜の声「全力で泣いて」

○(フラッシュ)競技場A・中
   口論する桃と香蓮。間に入る由紀。
茜の声「全力で怒って」

○マンション・門田家・リビング(夜)
   向かい合う桃と茜。
茜「全力で笑って。ママは、桃にはそういう喜怒哀楽、全部目いっぱい経験してほしいんだ。それが出来るの、今だけだと思うからさ」
桃「喜怒哀楽、全部、か……」

○(フラッシュ)競技場A・中
   大差で負け、肩を落とす桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。

○(イメージ)競技場B・中
   勝利し、喜び合う桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。

○マンション・門田家・桃の部屋(夜)
   向かい合う桃と茜。
桃「……ごめん、ママ。ちょっと外出てくる」

○通学路(夜)
   走る桃。

○公園(夜)
   駆け込んでくる桃。一人でゲートボールの練習をしている香蓮。
桃の声「辞めたんじゃなかったの?」
   振り返る香蓮。そこにやってくる桃。
香蓮「門田さん……?」
    ×     ×     ×
   ベンチに並んで座る桃と香蓮。気まずい沈黙。
香蓮「……ねぇ。何しに来たの?」
桃「え? あぁ……何だろうね?」
香蓮「は?」
桃「自分でもよくわからないまま来ちゃったというか……」
香蓮「何それ」
桃「……ただ、一個だけ言わなきゃいけない事があってさ」
   香蓮に頭を下げる桃。
桃「ごめん」
香蓮「……何に対して?」
桃「色々。練習にやる気出さなかったり、試合で迷惑かけたり、老川をクビにさせちゃったり」
香蓮「クビじゃなくて謹慎ね」
桃「だから、ゲートボール同好会、戻りなよ」
香蓮「門田さんには関係ないでしょ」
桃「関係あるよ。もし神保さんがゲートボール辞めようと思ったキッカケがウチなら、それは責任感じちゃうじゃん」
香蓮「いいよ、気にしなくて」
桃「気にするよ」
香蓮「何で?」
桃「だって、ゲートボール好きなんでしょ?」
香蓮「……」
桃「やりたくないなら、やらなくていいと思うけど、やりたい事なら、やるべきだと思う」
香蓮「だから、何回も言うけど、門田さんには関係ないでしょ? 私がゲートボール好きだろうが、嫌いだろうが」
桃「……高校生の、ゲートボールの次の大会って、いつ?」
香蓮「一二月」
桃「あんまり時間ないじゃん。まだ会員が一人足りないのに」
香蓮「一人?」
桃「ウチも、入ることにしたから」
香蓮「は? それこそ、何で?」
桃「……由紀と杏珠に、無理やり入会届書かされてさ。何でも、ウチの力が必要なんだと」
   香蓮のスティックを手にし、球を打つ桃。
桃「ウチ、初めてなんだよね。誰かに本気で必要とされる、っていうのが。おっ、良きでは?」
   桃の打球、他の球に見事命中する。
桃「でも、あのチームに今一番必要なのは、間違いなく神保さんじゃん?」
   スティックを香蓮に差し出す桃。受け取り、球を打つ香蓮。
香蓮「そんな事ない」
桃「そんな事ある」
   香蓮の打球、他の球に見事命中する。
桃「だって、老川亡き今、まともにゲートボールのルールわかってんの、神保さんだけじゃん」
香蓮「死んでない。謹慎」
   スティックを桃に差し出す香蓮。受け取り、球を打つ桃。
香蓮「それに、老人会の誰かに監督やってもらえば、ルールなんて……」
桃「おっ、良きでは? 良きでは?」
   桃の打球、三つの球に連続して当たるミラクルショット。
香蓮「えっ……」
桃「三つとか、凄くない?」
   スティックを香蓮に差し出す桃。受け取り、ため息をつく香蓮。
桃「? どうかした?」
香蓮「門田さんみたいな人見てると、自分の無力さが嫌になってくる」
   構える香蓮。
香蓮「私は子供のころからゲートボールやってたのにさ」
   打つ香蓮。一つの球に当たる。
香蓮「コレが精いっぱいだよ」
桃「神保さん……」
香蓮「『天才とは一パーセントの才能と、九九パーセントの努力である』って言葉、知ってる?」
桃「聞いた事はある」
香蓮「でもあれって、所詮は割合なんだよね」

○(回想)同
   神保と練習する幼いころの香蓮。
香蓮の声「一の才能を持つ人が、九九の努力をしても……」
    ×     ×     ×
   桃の練習初日。桃の才能に驚く香蓮。
香蓮の声「百の才能を持ってる人には勝てないんだよ」

○同(夜)
   後片付けをする桃と香蓮。
香蓮「そんな、百の才能を持ってる人が、九九〇〇の努力をして、初めて『天才』が生まれるんだよ」
桃「? ごめん、ウチ数学苦手でさ。途中から全然わかんないんだわ」
香蓮「(ため息をついて)次の大会までに、九九〇〇の努力をしてもらうから。覚悟しててよ」
桃「って事は……?」
桃の声「ゲートボール、またやろうと思っててさ」

○喫茶店・中
   向かい合って座る桃と一。
桃「いい、かな?」
一「いいんじゃない? 今度は俺、ちゃんと応援するよ」
桃「本当に? 良かった~」
一「でも会える時間が減っちゃうのは少し残念だけどね」
桃「だからって浮気しないでよ?」
一「する訳ないじゃん」

○公園
   石毛ら老人達の前に並ぶ桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽、若林。
由紀「改めまして、新入部員のドーレス由紀です」
杏珠「河本杏珠です」
桃「門田桃です」
若林「顧問代行の若林です」
桃&由紀&杏珠「って、校長!?」
若林「次の顧問が見つかるまで、校長として責任をもって代行させていただきますよ」
香蓮「峠高校ゲートボール同好会です。よろしくお願いします」
   拍手で迎える石毛ら老人達。
    ×     ×     ×
   老人達にゲートボールの打ち方を教わっている若林。お尻を上げる。老人達から笑いが起こる。
    ×     ×     ×
   石毛ら老人達と試合をする桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。第一ゲートを通過できない由紀、杏珠や自信なさげにプレーする美羽の姿。その様子をビデオカメラで撮影する若林。
    ×     ×     ×
   老人会チームが勝った事を示すスコアボード。
   ハイタッチする石毛ら老人達の姿を悔しそうに見る桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。

○峠高校・視聴覚室
   若林が撮影していた試合の映像が流れている。
    ×     ×     ×
   教壇に立つ香蓮と、それぞれ席に座る桃、由紀、杏珠、美羽。
香蓮「ドーレスさんは、運動神経もいいし、パワーもあるんだけど、何かスティックに苦手意識がある感じがするんだよね」
由紀「確かに。ウチ、フィジカル型だからさ。道具使う系のスポーツ全般が苦手なんだよね」
香蓮「杏珠は、マイペースなのはいいとして、もう少し基礎体力をつけてくれないと」
杏珠「うん、頑張る~」
香蓮「美羽は、普通にやれば出来るのに、本番になると出来ないのが問題だよね」
美羽「メンタル弱い、ってよく言われます」
香蓮「これだけ課題があると、どこから手を付けたらいいか……」
桃「ねぇ、一個思ったんだけど」
香蓮「何?」
桃「この三人の得意不得意って、教え合えるんじゃない?」
由紀&杏珠&美羽「え?」

○公園
   美羽が見守る中、離れた所に置いてある別の球に向け、球を打つ由紀。逸れていく由紀の打球。
美羽「う~ん、まだ力入りすぎですかね」
由紀「左手は添えるだけ、くらいにした方がいい?」
美羽「そこまで極端にしなくてもいいと思いますけど……」
杏珠の声「桃ちゃん。はい」
   由紀と美羽の後方、バスケットボールをして遊ぶ桃と杏珠。
   桃のシュートは外れる。
桃「あ~、惜しい」
美羽「もう、遊ぶんだったら手伝ってくださいよ~」
桃「いいじゃん、息抜き息抜き」
由紀「だな。桃、パス」
   由紀にボールをパスする桃。
美羽「もう、由紀先輩も~」
   ドリブルし、スリーポイントシュートを決める由紀。
杏珠「凄~い」
由紀「この音が、ウチを甦らせる。何度でもよ」
桃「どうやったら、そんな遠くから入るの?」
由紀「そんな、いきなりスリー決められる訳ねぇだろ?」
   ボールを拾い、ゴール下からシュートを決める由紀。
由紀「まずはゴール下から始めて、段々距離伸ばしていくんだよ」
美羽「あ、それです!」
桃&由紀「え?」
    ×     ×     ×
   美羽が見守る中、僅かに離れた所に置いてある別の球に向け、球を打つ由紀。命中する。
由紀「当たった! よし、次だ次」
美羽「これで、徐々に距離を伸ばしていきましょう」
由紀「やるじゃん、美羽」

○峠高校・外観

○同・教室・中
   桃、香蓮、由紀の待つ室内に入ってくる杏珠と美羽。二人はともに男受けを狙った私服姿(例、白いワンピース、透け感のある上着など)。堂々としている杏珠と比べ、恥ずかしそうな美羽。
杏珠「どう? かわいいでしょ?」
桃「お~、いいじゃん」
由紀「うわ~、杏珠っぽいな」
美羽「これ、本当にトレーニングになるんですか?」
杏珠「少なくとも、これを恥ずかしがってるようじゃ、ダメだと思うよ?」
美羽「(助けを求めるように)香蓮先輩~」
香蓮「まぁ、ここは杏珠に任せようか」
美羽「そんな……。じゃあせめて、誰かもう一人来てくださいよ」
香蓮「え!?」
桃「嫌だ」
由紀「絶対無理」
美羽「だったら、私も行きません」
桃「……仕方ない。可愛い後輩のためだ。ここはジャンケンと行こうか」
香蓮「そうだね。恨みっこなしで」
由紀「うわ~、絶対無理」
桃「最初はグー」
桃&香蓮&由紀「ジャンケンポン!」

○繁華街
   男受けを狙った私服姿で並ぶ桃、杏珠、美羽。周囲の男性陣から視線が集まる。恥ずかしそうな桃と美羽に対し、積極的に男性陣に目線を送る杏珠。
   その様子を遠くから見ている香蓮と由紀。
由紀「あ~、良かった~」
香蓮「本当にね」
由紀「それにしても、杏珠のアレって、メンタルの強さって呼ぶのか?」
香蓮「言われてみると、違う気もする」

○峠高校・体育館・外観

○同・同・中
   フットワーク練習をする女子バスケ部員達。そこに混ざって練習する由紀と杏珠。大きく遅れる杏珠。
由紀「ほら杏珠、走れ!」
    ×     ×     ×
   腕立て伏せをする杏珠を指導する由紀。
由紀「一」
   伏せた状態から起き上がれない杏珠。
杏珠「上がらない~」
由紀「おいおい」
    ×     ×     ×
   スクワットをする杏珠を指導する由紀。
   そこにやってくる桃。
桃「やってる?」
杏珠「もう無理~」
由紀「何言ってんだよ。まだ一セット目終わってねぇぞ?」
杏珠「え~~~」
桃「一番大変な練習やってるね。ウチ、コレじゃなくて良かった~」
由紀「桃もやってけば? 筋肉は、ウソつかねぇぞ?」
桃「遠慮しとく」
   その場を立ち去ろうとする桃。
由紀「そっか。ダイエットとか、ヒップアップとかにもいいんだけどな」
   足を止める桃。
桃「え?」
    ×     ×     ×
   由紀の指導の元、筋トレをする桃、杏珠、サオリ、エリカ。
由紀「はい、ラスト一〇」
桃&サオリ&エリカ「ラスト一〇」
   その様子を眺めているメグ。
メグ「……何してんの?」
エリカ「とりま、夏までに痩せたいから」
サオリ「それなー」
桃&エリカ「それなー」
メグ「今、秋じゃん」

○峠高校・視聴覚室
   香蓮が教壇に立ち、ゲートボールに関する座学を受ける桃、由紀、杏珠、美羽。うとうとする桃を叩く香蓮。

○公園
   石毛ら老人達とゲートボールの試合をする桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。
   第一ゲートを通過する由紀、通過はしないが届くようにはなった杏珠、堂々とプレーする美羽。香蓮の指示通りに球を打つ桃。
桃の声「今日は惜しかったな~」

○マンション・門田家・リビング(夜)
   食卓を囲む桃と茜。
桃「いや、途中まで勝てそうな雰囲気だったんだよ。マジで」
   桃の姿を温かく見守る茜。
桃「でも香蓮がさ……」

○峠高校・外観
   冬。
   厚着で登校する生徒達。

○スポーツ用品店・前
   商店街の一画。
由紀の声「そういえば、聞いた?」
   並んで歩く桃、由紀、杏珠。
由紀「今度の大会、また初戦が王学と当たるんだって」
杏珠「聞いた~」
桃「もっと弱い所と当たりたかったよね」
由紀「何言ってんだよ。いきなり戦えて、むしろラッキーだろ?」
桃「だって王学って、夏の大会優勝してたんでしょ? オワタ」
由紀「諦めたらそこで試合終了だぞ?」
桃「だってウチら、まだ老人会のチームにも勝ててないじゃん」
由紀「目指すからには一番、打倒王学だろ?」
桃「ウチらって、そんな志高いチームだったっけ?」
杏珠「あ、ねぇねぇ。着いたよ~?」

○同・中
   多種多様なスポーツ用品が売られている店内。
   ゲートボール用品売り場にやってくる桃、由紀、杏珠。
桃「へぇ、ゲートボール用品売ってる店なんてあったんだ」
由紀「そりゃ、まぁ、あるはあるだろうと思ってたけど、結構デカい店だな」
杏珠「おじいちゃん達もたまに来るお店なんだよ~」
桃「(スマホに目を落とし)それで、と。ウチらが買わなきゃいけないのは……(顔を上げ)あれ、コレさ~」
   桃の周囲には誰もいない。
桃「あれ?」
   バスケ用品売り場にいる由紀。
由紀「(店員に)バッシュって試着していいんですか?」
   サッカー用品売り場にいる男子高校生に声をかけている杏珠。
杏珠「サッカー上手い人って、格好いいですよね~」
桃「ったく」
   買い物に戻る桃。スティックを選んでいる制服姿の天花を見つける。
桃「へぇ、他にも女子高生が……(天花の顔に気付き)あれ?」

○(フラッシュ)競技場A・中
   プレー中の天花。

○スポーツ用品店・中
   スティックを選ぶ天花を見ている桃。
桃「あの人、王学の……」
天花「(スティックを決め)コレだな。お待たせ、伸弥」
桃「伸弥?」
   天花の元にやってくる一。
桃「!?」
   思わず棚の影に隠れる桃。親し気に話している一と天花。
桃「何で、ニノ君と……?」
    ×     ×     ×
   会計をし、店から出ていく一と天花の姿を見送る桃の後ろ姿。拳を握り締めている。
   そこにやってくる由紀と杏珠。
由紀「悪ぃ悪ぃ、桃。お待た……」
杏珠「? 桃ちゃん?」
   振り返る桃。鬼の形相。
由紀&杏珠「(ビビッて)!?」
桃「負~け~る~か~」

○峠高校・視聴覚室
   香蓮が教壇に立ち、ゲートボールに関する座学を受ける桃、由紀、杏珠、美羽。頭に「打倒 王学!」と書かれた鉢巻きを巻き、並々ならぬ意気込みの桃と、それを呆気にとられたように見ている香蓮、由紀、杏珠、美羽。

○公園
   別の球に打球を当てる練習をする由紀。
   短い距離からどんどん成功させていき、 最終的にかなり長い距離で成功させる。
由紀「しゃっ!」
   それを見守っていた美羽とハイタッチする由紀。

○繁華街
   男受けする服装(冬バージョン)で並んで歩く杏珠と美羽。多数の男性に声をかけられるも、以前のような戸惑いは感じられない美羽。

○公園
   並んで立ち、引き締まったヒップラインをメグに見せつける桃、サオリ、エリカ。
桃「どや」
メグ「あ~、うん。いいんじゃない?」
   同じように引き締まったヒップラインを老人男性達にアピールする杏珠。杏珠にメロメロな老人男性達。そこにやってくる石毛。
石毛「(激怒して)くぉらぁ!  トクさん、シゲさん、マサさん、何をやっとるか!」
   ビビる桃、メグ、サオリ、エリカ。
    ×     ×     ×
   石毛ら老人達とゲートボールの試合をする桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。確実に成長の跡を見せる面々。その様子を見ている若林、スマホで通話をし始める。
    ×     ×     ×
   峠高校チームが勝った事を示すスコアボード。
   ハイタッチして喜ぶ桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。それを拍手でたたえる石毛ら老人達。
   そこにやってくる若林。
若林「初勝利、おめでとうございます」
桃「ありがとうございます」
若林「ここで、校長として一つ、皆さんにお話を……」
香蓮「あ、校長。足元……」
若林「え?」
   足元に転がっている球に気付かず、乗り上げ、転倒する若林。
桃「あっ……」

○峠高校・外観

○同・教室・中
   それぞれの席に座る桃、由紀、杏珠、美羽。
   そこにやってくる香蓮。首を横に振る。
香蓮の声「校長先生、しばらく入院だって」
    ×     ×     ×
   それぞれの席に座る桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。
香蓮「一応、学校側の規則としては、大会に参加するためには、顧問の先生の引率が必須なんだって」
桃「じゃあ、どうすんの?」
香蓮「別の先生を探すしかないんじゃない?」
由紀「でも、そもそも誰も引き受けてくれなかったから、校長が代行してたんだろ?」
美羽「一日だけとかなら、誰かやってくれたりしませんかね?」
杏珠「私、誰か誘惑してこようか?」
桃「出来そうで恐いな」
香蓮「とりあえず、職員室に行って頼んでみる?」

○同・校門
   立っている老川。
老川の声「え、謹慎を、ですか?」

○(回想)公園
   石毛ら老人達とゲートボールの試合をする桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽の様子を見ながらスマホで通話する若林。
若林「中途半端な時期ですが、校長としての独断で、解除しようと思います」

○峠高校・校門
   立っている老川。
若林の声「是非、あの子達の試合を見届けてあげて下さい」
老川「校長先生はああ言ってたけど……」
   スマホを手にする老川。画面には、SNS上にアップされたカラオケでの桃達の「老川のせいだ!」動画。
老川「絶対、怒ってるよな……」
   歩き出す老川。
老川「とりあえず、今日は職員室に挨拶だけしてこよう」

○同・職員室・前
   別々の方向から職員室に向かってやってくる桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽と老川。
老川「あっ」
桃「あっ」
   しばしの沈黙。
老川「えっと、その……何て謝ったらいいか、その……僕は、その……」
桃&由紀「老川~!」
杏珠「先生~」
   歓声を上げ、老川に駆け寄る桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。
老川「え? え? え?」
   「老川」コールが起きる。
老川「そっか、みんな、そんなに僕の事を……。教師やっててよかった」
   嬉し涙を流す老川。

○競技場B・外観
   「全国高等学校ゲートボール選手権大会」と書かれた看板。

○同・中
   高校生達によるゲートボールの試合が行われている。

○同・客席
   茜、石毛ら老人達、メグとサオリとエリカ、一、神保の遺影を持った香蓮の家族といった面々が次々とやってくる。

○同・中
   それぞれ二、四、六、八、一〇番のゼッケンをつけて入場する桃、由紀、杏珠、美羽、香蓮と天花ら王求学園の選手達。
   試合開始の合図。

○同・中
   試合が始まっている。
   構える由紀。
由紀「さあいこーか」
   第一ゲートを通過する由紀の打球。
由紀「しゃっ!」
    ×     ×     ×
   第一ゲートを通過する美羽の打球。
   ほっと胸をなでおろす美羽。
    ×     ×     ×
   ライン際に立つ老川。
老川「門田さん。この辺りに」
   老川の指示した場所に向けて球を打つ桃。
桃「良きでは?」
   指示した場所にピタリと止まる球。
老川「オッケー!」
桃「楽勝~」
   客席で「ゲートボールの申し子じゃ~」と誇張した動きを見せるメグ、サオリ、エリカの姿が目に入る桃。
桃「止めろし~」
   その様子を見ている天花。
天花「……まぁ、前よりはマシになったか」
    ×     ×     ×
   一進一退の攻防が続く。

○同・客席
   戦況を見守る一の元にやってくる茜。
茜「ねぇ、そこのイケメンなお兄さん。ちょっといい?」
一「(周囲を見回し)え、あ、俺ですか?」
茜「全然ルールわからなくて。今どっちが勝ってるの?」
一「今、王学は五人全員が第一ゲートを通過しているので五点、峠高校は二番が第三ゲート、一〇番が第二ゲート、四番と八番が第一ゲートを通過しているので七点ですね」
茜「って事は、峠高校が勝ってるのね。凄いじゃない」
一「でも王学の方が、いい形作れていますね……」
   一の視線の先、第二ゲート周辺に五つ固まって並ぶ赤い球(=王学の球)。

○同・中
   固まって置かれた味方の球に次々とタッチしていく天花の打球。
   天花のスパーク打撃により、次々と第二ゲートを通過していく王学の球。
   その様子を見ている桃と香蓮。
桃「何かチマチマやってるね」
香蓮「でもこれで七対九。簡単に逆転されちゃったよ。さすが、と言うべきか」
   ×     ×     ×
   第一ゲートを通過できない杏珠や、打球が第二ゲートを僅かにそれていく由紀など、うまくいかない峠高校の面々。一方、第三ゲート周辺に球を集めるなど、順調な王学の面々。

○同・客席
   戦況を見守る一と茜。腕時計に目をやる一。
一「そろそろ、かな」
茜「え?」
一「多分、あと一人一打席ずつくらいの時間しか残ってないかと」

○同・中
   一つだけ、他の赤い球とは離れた位置にある王学の球を指す老川。
老川「ドーレスさん。あの球、狙える?」
   構える由紀。狙いの球は、由紀の位置からはやや離れている。
由紀「ミドルくらいの距離、か」

○(回想)公園
   別の球に打球を当てる練習をする由紀。
   短い距離からどんどん成功させていき、 最終的にかなり長い距離で成功させる。
由紀の声「これくらいの距離なら……」

○(回想)峠高校・体育館・中
   バスケのシュート練習をする由紀。ミドルシュートを何本も決める。
由紀の声「むしろ、一番得意な距離」

○競技場B・中
   球を打つ由紀。
由紀「落とす気がしねえ」
   王学の球にタッチする由紀の打球。
由紀「しゃっ!」
    ×     ×     ×
   スタート地点に立つ杏珠。

○(回想)峠高校・体育館・中
   腕立て伏せが出来るようになる杏珠。
杏珠「三、四……」

○競技場B・中
   スタート地点に立つ杏珠。構える。
杏珠「よ~し、行くぞ~」
   球を打つ杏珠。
   その行方を、固唾をのんで見守る桃、香蓮、由紀、美羽。
桃「お、良きでは?」
   第一ゲートを通過する杏珠の球。
杏珠「やった~」
   ガッツポーズをする桃、香蓮、由紀、美羽。
   観客席にいる石毛ら老人達が立ち上がり、まるで勝利したかのように一斉に喜ぶ。
桃「何か今日一で盛り上がってない?」
由紀「納得いかねぇよな」
    ×     ×     ×
   第二ゲートを通過する美羽の打球。
美羽「よし」
    ×     ×     ×
   自分の打順が終わり、コートの外に出る際、香蓮とハイタッチする美羽。
   その様子を見ている老川。

○(回想)峠高校・校庭
   香蓮と美羽の前に立つ老川。
美羽「え、先輩達が辞めた!?」
老川「ごめん、僕の力不足で」
香蓮「どうするんですか、大会近いのに」
老川「うん、それは大丈夫。先生が何とかして、助っ人でもなんでも連れてくるから」
香蓮「素人とチーム組んで大会に出ろ、って事ですか?」
老川「あ~、うん。ごめん、嫌だよね……」
香蓮「わかりました」
老川「え?」
香蓮「先生とおじいちゃんから始まったこの同好会を守るためなら、出来る事は何でもします」
老川「神保さん……」
香蓮「もちろん、その助っ人達を鍛えて、試合にも勝ちに行きます」
美羽「私も、どれくらい出来るかわからないけど、お手伝いします」
老川「二人とも……ありがとうね」

○競技場B・中
   球を打つ香蓮の姿を見ている老川。
老川「頑張ったんだね、二人とも……」
    ×     ×     ×
   天花の打球がゴールポールに当たる。
   ここで試合終了の合図が出る。

○同・客席
   戦況を見守る一と茜。
茜「え、これで終わり?」
一「いや、後攻の峠高校の打順までは続きます」
茜「そっか、良かった~」
一「でも今、九対一四ですからね。一回の打順で逆転できるか……」

○同・中
   構える桃。視線の先、第二ゲートの手前にある四番の球。
桃「まずは、由紀」
   桃の打球、四番の球に向けて進む。

○(回想)同・校庭
   ランニングする桃、香蓮、由紀、杏珠、美羽。桃達四人はへとへとな中、一人段違いなスピードで走り続ける由紀。
由紀「ほら、走れ~!」
桃「いや、由紀、これ、準備、運動……」

○(フラッシュ)競技場A・中
   夏。桃と香蓮の間に入る由紀。

○(フラッシュ)峠高校・教室・中
   桃に入会届を押し付ける由紀。

○競技場B・中
   桃の打球が四番の球にタッチする。
桃「よし」
   四番の球をスパーク打撃する桃。第二ゲートに向かっていく打球を見守る由紀。
由紀「ぶちかませっ」

○(回想)峠高校・体育館・裏(夕)
   女子生徒からラブレターを渡される由紀。そのまま去っていく女子生徒。
由紀「ちょっと待っ……ったく」
   振り返る由紀。建物の影から覗き見ている桃、杏珠、美羽の姿。
桃「アオハルですな」
杏珠「由紀ちゃんモテモテ~」
美羽「でもちょっと、わかる気がします」
由紀「こらっ、覗いてんじゃねぇ!」
   逃げる桃、杏珠、美羽を追って駆け出す友紀。

○(回想)同・校庭(夕)
   由紀から逃げる桃、杏珠、美羽。なかなか追いつけない由紀。皆笑顔。
由紀「くそっ、無駄に体力つけやがって!」
桃「おかげ様でね」

○競技場B・中
   桃がスパーク打撃した四番の球が第二ゲートを通過する。喜ぶ由紀。
由紀「さすが桃。天才ですから」
   T「10―14」
    ×     ×     ×
   構える桃。視線の先には、比較的近くにある六番の球。
桃「次は、杏珠」
   桃の打球、六番の球に向けて進む。

○(回想)峠高校・廊下
   夏。並んで歩く桃、メグ、サオリ、エリカ。その視線の先、これまでのシーンとはまた違う男子と仲良さげに歩く杏珠の姿。
メグ「あいつ、また男変わってない?」
桃「何だかね~」

○(フラッシュ)同・教室・中
   男受けを狙った私服姿で美羽と共に入ってくる杏珠。堂々とした姿。

○(フラッシュ)公園
   引き締まったヒップラインを老人男性達にアピールする杏珠。

○競技場B・中
   桃の打球が六番の球にタッチする。
桃「よし」
   六番の球をスパーク打撃する桃。第二ゲートに向かっていく打球を見守る杏珠。
杏珠「行っけ~」

○(回想)喫茶店・外観

○(回想)同・中
   向かい合って座る桃と一。桃の服装は以前、杏珠と美羽が着ていた男受けする服装(冬バージョン)。ただしその表情から漏れる懐疑心。
一「……桃ちゃん、何か雰囲気変わった?」
桃「別に」
一「っていうか、何か怒ってる?」
桃「別に」
一「そっか……」
桃「(小声で)絶対振り向かせてやる」
一「え?」
桃「何でもない」
一「あ、今日は大会に向けた壮行会みたいなもんだし、俺が奢るから」
桃「じゃあ(メニュー表の端から端を指し)こっからここまで」
一「え?」
   その様子を窓の外から覗き見る由紀、杏珠、美羽。

○競技場B・中
   桃がスパーク打撃した六番の球が第二ゲートを通過する。喜ぶ杏珠。
杏珠「桃ちゃん、凄~い」
   T「11―14」
    ×     ×     ×
   構える桃。視線の先には、第三ゲートの手前にある八番の球。
桃「次は、美羽」
   桃の打球、八番の球に向けて進む。

○(回想)峠高校・校庭
   美羽指導の元、ゲートボールの練習をする桃、由紀、杏珠。
桃「よし、じゃあ休憩しよっか」
杏珠「は~い」
由紀「じゃあ、ちょっとその辺走ってくるわ」
美羽「ちょっと、待ってくださいよ。まだ始めたばっかじゃないですか」
桃「休憩も練習のうち、って言うでしょ」
美羽「でも、勝手に休んでると香蓮先輩に怒られちゃいますよ?」
桃「それはまぁ、その時はその時、って事で」
美羽「そんな~……」

○(フラッシュ)競技場A・中
   夏。第一ゲートも通過できない美羽。

○(フラッシュ)同・客席
   桃と一の前で「ゲートボール同好会」と言ってしまう美羽。

○競技場B・中
   桃の打球が八番の球にタッチする。
桃「よしっ」
   八番の球をスパーク打撃する桃。第三ゲートに向かっていく打球を見守る美羽。
美羽「お願いします」

○(回想)峠高校・校庭(夕)
   後片付けをする美羽の元にやってきてソレを手伝う桃。
美羽「あ、桃先輩。いいですよ、私やるんで」
桃「? 何で?」
美羽「いや、こういうのは後輩の仕事で……」
桃「だったら、尚更ウチらの仕事じゃん。同好会的には、後輩なんだし」
美羽「え?」
桃「いいからいいから、遠慮すんなって」
美羽「……じゃあ、お言葉に甘えて」
   そこにやってくる香蓮。
香蓮「ちょっと桃、勉強会やるんだから、さっさと教室来てよ」
桃「うわっ、来た。助けて、美羽先輩」
   と言って美羽を盾にする桃。
美羽「え、ちょっと、桃先輩~」
   困惑しつつも楽しそうな美羽。

○競技場B・中
   桃がスパーク打撃した八番の球が第三ゲートを通過する。喜ぶ美羽。
美羽「さすがです、桃先輩!」
   T「12―14」
    ×     ×     ×
   構える桃。視線の先には、比較的近くにある一〇番の球。
桃「仕上げは、香蓮」
   桃の打球、一〇番の球に向けて進む。

○(回想)峠高校・教室・中
   黒板に書かれたゲートボールのルール。
   教壇に立つ香蓮と、席に座る桃、由紀、杏珠、美羽。
香蓮「だから、桃。何回言ったら覚えるの?」
桃「しょうがないじゃん。ウチ、バカだし」
香蓮「いくら技術があっても、もうちょっと頭使ってくれないと、ゲートボールの試合は……」
桃「『戦略』『戦略』って、もう聞き飽きた」
香蓮「こっちだって言い飽きてるの。誰のせいだと思ってるの?」
美羽「ちょっと、香蓮先輩。桃先輩も。(由紀と杏珠へ)止めに入って下さいよ」
由紀「放っとけ。いつもの事だし」
杏珠「喧嘩するほど、仲がいいんだよ~」
美羽「え~……そうは言っても……」
桃「頭使わなくたって、何とかなるって」
香蓮「だから~!」

○競技場B・中
   桃の打球が一〇番の球にタッチする。
桃「よし、見えてきた……」
   一〇番の球をスパーク打撃する桃。第三ゲートに向かっていく打球を見守る香蓮。
香蓮「良きでは……?」

○(回想)同・同
   戻ってきた美羽とハイタッチする香蓮。その足で桃の隣へ。
香蓮「多分このまま行くと、桃に打順が回る頃には九対一四になってると思う」
桃「え、無理ゲーじゃない?」
香蓮「いや、大丈夫。由紀と杏珠が第二ゲート、私と美羽が第三ゲートを通過して、桃が上がれば、逆転できる」
桃「え、誰がどれ? 覚えられない、って」
香蓮「次の私の打順で、お膳立てはしておくから」
桃「なら大丈夫じゃん。ラッキー」
香蓮「ラッキーって、何が?」
桃「え? 今日の香蓮の打順が一〇番手で、ウチの一個前だったのが」
香蓮「……あのね。コッチは最初から、そこまで考えてるんだからね」
桃「え? マ?」
香蓮「桃が何も考えずに打つためのお膳立てをするために、私の打順を桃の一個前にしてるの」
桃「じゃあ、何で香蓮が二番、ウチが四番じゃなかったの?」
香蓮「私達の一試合にかける時間と、王学が一試合にかける時間を平均して、最後の打席が桃に回るように計算した結果」
桃「どちゃくそ頭使ってるじゃん」
香蓮「桃が使わなさすぎなの。っていうか、桃がもうちょっと使ってくれれば、私も楽が出来るんだけどね」
桃「はいはい、ごめんごめん。でもさ……」
   香蓮の肩に手を置く桃。
桃「その代わり、ウチは香蓮の立てた作戦を百パーセントで実行してみせるから」
香蓮「でもこれは、作戦っていうより願望に近いけどね」
桃「でも、ウチなら出来るって思ってくれたから、言ってんでしょ?」
香蓮「まぁね。……任せた」
桃「任された」

○同・同
   桃がスパーク打撃した一〇番の球が第三ゲートを通過する。上を向く香蓮。
香蓮「あ~あ、本当……」
   前を向く香蓮。笑顔で涙目。
香蓮「自分の才能の無さが嫌になるわ」
   T「13―14」

○同・客席
   戦況を見守る一と茜。
一「凄い……あと二点……」

○同・中
   ラインの外から見守る老川。
老川「ポールに当てれば、逆転……」
    ×     ×     ×
   祈るように見守る香蓮、由紀、杏珠、美羽。
    ×     ×     ×
   祈るように見守る天花ら王学の面々。
    ×     ×     ×
   ゴールポールに向け球を打つ桃。
桃「良きでは? 良きでは? 良きでは?」
   ゴールポールに直撃する桃の打球。
桃「どや!」
   ガッツポーズする桃に駆け寄る香蓮、由紀、杏珠、美羽。もみくちゃにされる桃。
   T「15―14 峠高校の勝利」

○同・客席
   よくわからないが喜ぶ茜、万歳三唱する石毛ら老人達、無駄に盛り上がるメグとサオリとエリカ。
    ×     ×     ×
   次の試合の準備をする桃の元にやってくる一。
一「桃ちゃん、おめでとう」
桃「あ、ニノ君……。ありがとう」
一「次の試合も頑張ってね。応援するから」
   一の首元を掴む天花。
天花「こら、伸弥。アンタ、どっちの味方してんの?」
桃「(小声で)出た……」
一「いいだろ、別に。そもそも、ちょっと早く生まれたからって姉貴面すんなって」
桃「え? 姉貴?」
一「あぁ、うん。(天花を指し)コイツ、俺の双子の姉貴なんだよね」
桃「え、でも苗字……『一』って……?」
一「そうそう『一』って書いて『にのまえ』って読むんだよ。変でしょ?」
桃「あ……そういう事だったんだ~」
   全身から力が抜け崩れ落ちる桃。
一「え、桃ちゃん、大丈夫?」
香蓮の声「桃」
   既に準備を終えて待つ香蓮、由紀、杏珠、美羽。
香蓮「もう次の試合始まるよ」
桃「あ、うん。今行く」
   席を立つ桃。
一「あ、桃ちゃん。あとで写真送るね」
桃「うん、ありがとう」
   その場を立ち去る桃。スマホを取り出す一。そこには香蓮、由紀、杏珠、美羽にもみくちゃにされる桃の写真。

○峠高校・外観
   春。

○同・教室・中
   席に座り、スマホで先の一と同じ写真を見ている桃。
数学教師の声「……田。門田桃」
桃「あ、はい」
   立ち上がり、数学教師から回答用紙を受け取る桃。
数学教師「放課後、職員室に来るように」
桃「(点数を見て)終わった……今度は何?」
                  (完)

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。