君に会えたら 恋愛

結婚間近の超大物女優が結婚式に大遅刻。居合わせたうだつの上がらない男やもめの車に乗り込み、急いで式に向かうが……身分差コンビのドタバタ珍道中。
書闘技 31 1 0 03/28
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第一稿

「君に会えたら」

(人物一覧表)
加賀かおり(36)・国民的大女優
竹内桔平(47)・料亭「ふくみ」の亭主
竹内明美(18)・桔平の娘
渡辺常吉(64)・かおりの所属 ...続きを読む
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「君に会えたら」

(人物一覧表)
加賀かおり(36)・国民的大女優
竹内桔平(47)・料亭「ふくみ」の亭主
竹内明美(18)・桔平の娘
渡辺常吉(64)・かおりの所属事務所「スター
ダスト」の社長
星雫(35)・「スターダスト」、かおりの担当マ
ネージャー
多々納章雄(42)・元アイドルの俳優

〇TV画面
男性アナウンサー「終わることのない児童虐待、歯止めがかかることはあるのでしょうか。さあ続  
 いてのニュースです。」
女性アナウンサー「おめでたいニュースです。 女優の加賀かおりさんが、俳優の多々納章雄さんと
 の結婚を発表しました。加賀かおりさんは1997年に映画『雪のトロイ』でデビューされ、以降
 『Mの歓喜』、『明日、またきっと』など多数にヒット作に出演を続ける子国民的女優で……」

〇野沢温泉スキー場・ゲレンデ(夕方)
   映画撮影用の機材、スタッフが集まっている。
   その中で加賀かおり(36)が相手役の俳優武田宗男(26)と演技中。
かおり「士郎くんはさ、私のこと好きじゃないんだよ。私の外は見ていても、中までは見通そうと  
 していない。私、面倒臭いんだよ、ほんとは」
宗男「加藤さん……」
かおり「私、あなたの思っているような女じゃない。ごめんなさい。指輪は受け取れない」
   宗男、指輪を持って呆然。
かおり「さようなら」
   かおり、そう行ってスキーを漕ぐ。木陰を利用してスタントマンと入れ替わり、スタントマン 
   がゲレンデを颯爽と滑り降りていく。
   それを見ている宗男。
宗男「加藤さん……」
   監督、カメラを除いている。
監督「はーいカット!」
AD「オッケーです!」
   監督の掛け声と共に撮影が終了。スタッフが片付けを始める。
   かおり、木陰から出てくる。
スタッフA「お疲れ様でした!」
かおり「お疲れ様でした、ありがとうございました」
   かおり、スタッフに挨拶。

○ホテル部屋・中(夕方)
かおり「あー」
   かおり、野太い声を出してベッドに倒れこむ。
   その後ろからマネージャー、星雫(35)が、荷物を抱えて部屋に入ってくる。
雫「またおっさんみたいな声出して」
   かおり、ベッドの上で大の字。
かおり「もう体ばきばき。寒いし」
   雫、テキパキと片付けを始める。
かおり「そもそもなにあの映画。タイトル古臭いし。スタッフも動き悪いし」
雫「そういうこと言わないの」
かおり「あんな挨拶で泣く?普通。意味が分からん」
   雫、ベッドの上から愚痴り倒す香りを見てため息。
かおり「ああ、でも」
   かおり、ベッドから体を起こす。
かおり「あの俳優の子は可愛かったなあ。フレッシュで。キュンとしちゃった」
   雫、動きを止めかおりの方を見やる。
雫「あんたね、三日後には人妻だよ?」
   かおり、頰を少し膨らませる。
かおり「分かってるわよ」
   かおり、窓から外を覗く。

○タイトル
 『君に会えたら』

○野沢温泉市街・外(昼)
   観光客が多く歩いている。
   「料亭・ふくみ」と書いてある看板の店の中で、店主竹内桔平(47)が仕込みをしている。

○「ふくみ」・店内
   桔平、テレビをつけながら野菜を包丁で手際良く切っている。
   テレビのワイドショーでは、コメンテーターがかおりの結婚についてコメントしている。
コメンテーターA「いや、本当にめでたいですよね。そういう噂が多い女優さんでしたから、彼女
 は。今回こうやって相手を見つけてゴールイン出来た、っていうことは、本当に素敵なことですよ
 ね」
桔平「(呟くように)余計な御世話だろ」
   桔平の娘、竹内明美(18)が暖簾をくぐって厨房から客間の調理スペースに出てくる。
明美「お父さん、電話」
桔平「ほいほい」
明美「なにテレビと喋ってるの」
桔平「年取るとそうなるんだよ」
   2人は厨房へと入っていく。
   調理スペースの机上に、桔平と明美、そして既に他界した妻晶子の家族三人の写真が飾ってあ
   る。

○ホテル・部屋・中(夕方)
雫「本当にいいの?」
かおり「大丈夫、大丈夫。もう少しこっちでゆっくりしてたいし」
雫「まあ、ならいいけど」
雫、荷物をまとめて部屋を出ようとするが立ち止まる。心配そうな顔をしてかおりの方を見やる。
かおり「大丈夫だって。明日の夜8時に東京でしょ?多々納さんとの約束で。覚えてるから」
   雫、頷く。
かおり「ほら、早く行った行った。社長からの呼び出しなんでしょう?」
雫「何かあったら必ず電話をかけてね」
かおり「はいはい」
   かおり、笑顔で雫に手を振る。
   雫、ため息をついて部屋から出ていく。
   雫が部屋を出て行った瞬間、ベッドから跳ね起き、小躍りするさおり。
   再び扉が開き、雫が顔を出す。
   動きを止めるかおり。
雫「部屋から出るんじゃないよ? 大人しくね」
   かおり、2回頷く。
   雫が部屋を出る。
   かおり、ニヤリと笑う。

○野沢温泉・飲み屋街(夜)
   人で賑わう飲み屋街。どの店も満員で、店の外まで賑わっている。
   人混みの中を一人で歩くかおり。マスクとサングラスを着用している。
   かおり、辺りを見渡し、小走りで駆け出す。
   ×  ×  ×
   「ふくみ」の前を通り過ぎるかおり。一度通りすぎるが三歩戻り、店をまじまじと眺めるか
   おり。
   店の中から桔平が出てくる。店仕舞いを始める桔平。
かおり「あの」
桔平「ああ、こんばんは。お客さん?」
かおり「もうおしまいですよね」
桔平「ええ、まあ」
かおり「そうですか……」
桔平「でも良かったらどうぞ」
桔平、かおりを店内へ招き入れる。
かおり「本当ですか?ありがとうございます」
   桔平、かおりを店内へと促し、店の前の看板を閉店に切り替える。

○「ふくみ」店内
   かおり、店の中を眺める。
   小ぎれいなカウンター席、飾ってある映画「プリティ・ウーマン」のポスター。
   かおり、映画のポスターを指差して桔平に聞く。
かおり「この映画、好きなんですか?」
桔平、カウンターに入りながら答える。
桔平「そうなんですよ、僕の趣味で。店には合わないって娘には怒られるんですけ  
 ど。変ですよね、男が恋愛映画なんて」
かおり「そんなことないです。私もこの映画 大好きで」
桔平「本当に?」
かおり「はい。ジュリア・ロバーツに憧れてて」
   桔平、ビールのグラスを持ってカウンターに置く。
桔平「おっ、良いですね。さあ、どうぞ」
かおり「ありがとうございます」
   かおり、席に着く。
かおり「一杯どうですか?」
桔平「いえいえ、僕は」
かおり「まあそう仰らずに」
桔平「…じゃあ、一杯だけ」
桔平、自分の分のグラスを取り出す。
   かおりがビールを注ぐ。
   2人は乾杯。
桔平「あの映画はね、男の肝っ玉の小ささの話だと思うんですよ」
   かおり、ビールをグラスから飲みながら話を聞いている。
   桔平は料理の準備をしている。
桔平「好きな女がいるのに、責任やら立場やらで動けなくない。でもそれって結局言い訳で」
桔平「本当は怯えてるだけなんですよ。男なんて所詮プライドだけの生き物なんです。負けるのが怖
 い」
桔平「だから、あのとき、最後の最後で全てを投げ捨ててヴィヴィアンのところに行ったエドは、 
 めちゃくちゃ格好良いんですよ。男から見ても」
かおり「なるほどねえ」
   桔平、料理をカウンター越しに出す。
桔平「運良く僕は良い相手を見つけられましたけどね。子供にも恵まれて。明日東京行っちゃうん
 ですけど」
かおり「へえ。奥さんは?」
桔平「病気で先に逝きました。六年前の話です。」
かおり「そうなんですね」
桔平「出来た嫁でした。本当に。僕には勿体無かった。そこから中々切り替えられなく。僕も結局
 肝っ玉がちっさいんですよ。」
かおり「大丈夫ですよ」
   桔平、かおりの顔を見る。
かおり「人間、なるようになるもんです、結局。素敵な人が見つかりますよ、そのうち。もし居なく  
 てもそれはそれで幸せなんだと思います」
桔平「そうですかね」
かおり「そうですよ」

○東京・ホテル外観・夜
   かおりと章雄の結婚披露宴が行われるホテルの外観が映る。

○同・ホテル内
   披露宴の準備中。設営スタッフが動いている。
   それを見ている、芸能事務所「スター・キャスト」社長、福辺常吉(64)。
雫「お疲れ様です」
常吉「おお、どうだい」
雫「なんだか大掛かりですね」
常吉「何て言ったってビッグカップルだからな。我が国の」
常吉、両手を広げ熱弁。
常吉「かたや日本が誇る大女優。かたや名家の三世。ことが大きくなるのは自然なこと
 だろう。スターたるもの、いつ何時でも人々を楽しませることを考えてなきゃいか
 ん。自分のことを横に置いといてでもな」
雫、複雑な表情を浮かべている。
雫「でも相手あれですよ」
   雫、ステージを指差す。
   ステージ上では、多々納章雄(42)が若い女性五人ほどと談笑。
   白いタキシードに黒いサングラス。
   章雄は両腕を女性の肩に回している。
雫「なんでタキシード着てるんですか」
常吉「男の戦闘服らしいぞ、あれが」
雫「ジェームズ・ボンドかよ」
章雄、女性の胸を触っている。女性達は嬉しそうにはしゃいでいる。
雫「もうあんなのアホ丸出しじゃないですか」
常吉「まあそういうな。あれで中々出来た男だ。それより、かおりは大丈夫なのか」
雫「チケットも渡したし、大丈夫ですよ。電車ぐらい乗れるでしょう」
女性と騒いでいた章雄、ステージから会話に大声で割って入る。
章雄「へーい! つねちゃん! ちょっと来てよ!」
常吉「はいはい、ただいま」
   常吉、作り笑いで章雄の方へ。
   常吉、章雄の一団に絡まれ始める。
   雫、それを遠目で眺め、ため息をつく。
雫「(独り言)まあ、大丈夫でしょ」

○「ふくみ」店内
   テーブルに突っ伏していびきをかくかおり。
桔平「お客さん?」
   桔平、かおりの肩を揺すって起こそうとするが、かおりピクリともせず。
   奥の今から明美が出て来る。
明美「何事?」
桔平「いや、お客さんなんだけど潰れちゃって」
明美「まーた飲ませたの?」
桔平「ビールコップ2杯だぜ?」
明美「おらま。とにかくどうにかしないとな」
桔平「うーん、弱ったな」
明美「しかし綺麗な人だね。鼻の下伸びてるよ」
桔平「は?」
   明美、かおりの財布を取り出し、探す。
桔平「おい」
明美「あれ、この人もしかして」
   明美、財布から免許証を取り出す。
明美「おお!」
桔平「やめろって」
明美「女優だよこの人! 有名な!」
明美、興奮気味に桔平に免許証を見せる。
桔平「明美、やめなさい。失礼……」
桔平、免許証を見て言葉を失う。免許証には「加賀かおり」と書いてある。
明美「本名だったんだ」
   桔平驚いて声が出せない。
明美、財布からカードキーを取り出す。
明美「ほら、このホテルだから。送ってってあげて」
桔平「え」
明美「送っていってあげて」
桔平「でも…ええ?」
明美「ほら行く!今!」
桔平、渋々動く。

○車内(夜)
   運転している桔平。後ろを見ると、かおりが後部座席でいびきをかいている。
   座席から転がり落ちるかおり。

○ホテル内(夜)
   桔平、かおりをおぶったままロビーを進む。
   桔平、フロントに行く。
   フロント、客が桔平を怪しむ。
   桔平、エレベーターまで歩き始める。
   ロビー係、桔平を訝しむ。かおりの顔を覗き込むが、桔平も動いてそれを阻止。
   エレベーターを待っている、かおりを背負ったままの桔平。
   他のお客さんも待っている。
   怪しい目で見られる桔平。
   桔平。会釈でごまかす。

○ホテル・部屋室内
   かおりを支えながら入ってくる桔平。なんとか明かりをつける。
   かおりの上着を脱がし、ベッドに寝かせる桔平。
   そのまま去ろうとするが、手を離してもらえない桔平。
かおり「いかないでえ」
   かおり、寝ぼけながら桔平の手を離さない。
桔平「すいません、ぼく行かないと」
かおり「いやだあ」
桔平「うわ、握力!」
   桔平、手が外せない。
かおり「いやだあ」
桔平「何がですか」
   かおり、桔平をもう一回引っ張り込む。そしてキス。
   桔平、驚いて飛び起きる。
かおり「むふふふ」
   かおり、そのまま寝てしまう。
   桔平、唇を抑え、小走りで部屋を出て行く。


○ホテル・廊下
   唇を抑え、廊下を疾走する桔平。

○ホテル・室内
   幸せそうに眠るかおりの寝顔。

○「ふくみ」外観(朝)
   すっかりと外は晴れている。

○「ふくみ」店内
   カウンター席でぼけっとしている桔平。焦点が定まっていない。
   明美、奥から出てくる。
明美「おはようー、うわ」
   明美、カウンターにいる父の様子にびっくり。
明美「お父さん?」
   桔平、無反応。
   明美、桔平を突っつく。桔平、ビクッとする。
桔平「あ、おお。おっす」
明美「なんかあった?」
桔平「(声が裏返る)いいえ、何にも」
   明美、顔をしかめて桔平を睨む。
明美「しっかりしてよね、ほんと」
桔平「そんなことより、お前準備は良いのか?」
明美「ばっちり。そっちこそ大丈夫なの? 上の空だけど」
桔平「(誤魔化すように)さあ、今日も頑張ろう、ね。お部屋の掃除、掃除」
   桔平、外に出て行く。
明美「あんたのお部屋外かよ」
   桔平、動きを止め、逆方向に進み直すが、椅子に引っかかり盛大にこける。
   桔平、立ち上がり歩き出す。
明美「(ため息をつきながら)大丈夫かな、あれ」

○ホテル・部屋内(朝)
   目覚ましが鳴り響く。
   かおりがベッドでぐっすり眠っている。
   テレビが点きっぱなし。
   かおり、目を覚ます。
   自分の格好に驚き、飛び起きる。
かおり「ん?んん?」
   頭を抱え、考え込むが、諦めてベッドの上で大の字になるかおり。
かおり「んばー、覚えてない」
   かおり、そのまま二度寝してしまう。
   時計は10時を指している。
テレビ「また、本日の夕方には非常に強い雪が予想され、警戒が呼びかけられています」

○「ふくみ」店内
   桔平、服を着替えて入り口前にいる。
桔平「明美、行くぞ」
   明美、トランクを抱えて今から出てくる。
明美「ほいほい」
桔平「忘れ物はないか?」
明美「あったら送ってー」
桔平「母さんに挨拶したか」
明美「したした。」
   明美、外に出て行く。
   桔平、誰もいない部屋を振り返る。少し鼻をすすり、明美に続いて外に出て、扉を閉める桔
   平。

○ホテル・部屋内(朝)
   シャワールームの扉を開け、バスローブ姿で飛び出してくるかおり。
   頭にはタオルを巻いている。
   かおり「やばいやばいやばいやばい」
   かおり、クローゼットをあけて服を引っ掻き回す。
   黒っぽい服を取り出し、またシャワールームへ引っ込む。
   時計は12時を指している。

○駐車場・外(昼)
   かおりと桔平、車に乗り込む。
   車が発進、駐車場を出る。

○ホテル・ロビー(昼)
   猛ダッシュでエレベーターから駆け出すかおり。
   ホテルマン「御利用ありがとうござ、、、」
   かおり、キーをテーブルに叩きつけ、札束もとなりに。
かおり「あとよろしく!」
   かおり、そのまま駆け抜けて行く。
   ホテルマン、唖然としている。

○桔平の車・車内(昼)
   桔平、運転中。助手席には明美がいる。
  「飯山駅」という看板が見えてくる。

○飯山駅前・路上(昼)
   タクシーが到着。かおりが駅構内に向かって駆け出す。
   運転手が忘れ物を見つけ、かおりを呼び止める。
運転手「お客さん!」
   かおり、顔をしかめながら車に戻り、忘れ物を受け取るとまた駅に向かって走りだす。

○飯山駅・構内(昼)
   桔平、明美の荷物を持って歩いている。明美はその二歩前を歩いている。
   壁にはかおりがイメージキャラクターとして使用されている化粧品の広告ポスターが飾られて  
   いる。

○飯山駅・改札前(昼)
   桔平、明美の荷物を置く。
桔平「じゃあ、ここまでで」
明美「うん、ありがと」
   明美、荷物を掴み、改札の中で。
桔平「気をつけてな」
明美「そっちもね」
明美、改札の中に。
明美、立ち止まる。
明美「お父さん!」
明美「もう、自分の幸せのことだけ考えてね。私はもう大丈夫だから」
   桔平、手を挙げて応える。
   明美、そのまま階段を降りてホームに去って行く。

○飯山駅・切符売り場(昼)
   桔平、車へ戻る途中で、切符売り場でもめているかおりを見かける。
かおり「予約してたって言ってるでしょう?」
駅員「ですから、予約番号を頂けないことには」
かおり「だから今持ってないんだって!」
駅員「ですから」
   桔平、通り過ぎようとするが、戻ってくる。
桔平「あのー、どうかしましたか?」
かおり「うるさい、あんたには……あ」
桔平、気まずそうにかおりに挨拶する。
駅員「お連れの方ですか?」
かおり「違います」
   桔平、かおりの顔を見る。
かおり「なんでくれないのよ切符」
駅員「ですから、何度も申しましたように」
桔平「この後の電車の席に空きとかないんですか?」
かおり「ちょっと」
桔平「仕方ないでしょ」
駅員「それが、指定席はほぼ満杯でして」
桔平「全部?」
駅員「この後強い雪が降るっていうんで、電車の運行を何本か見合わせることになりま
 して。その影響で予約がパンパンなんです」
桔平「はあ、なるほど」
かおり「なるほどじゃないわよ。私どうするのよ。今日中に帰らなくちゃいけないの 
 に!」
   かおり、再び騒ぎ始める。
   周りに人が集まり始めてしまう。
桔平「かおりさん」
かおり「うるさいわね!今喋ってるのよ!」
   かおり、さらにヒートアップ。
   桔平、かおりを抑え、一旦違う場所へ移動させる。
   引きずられながらも騒ぎ続けるかおり。

○飯山駅・ベンチ(夕方)
   ベンチに座っている桔平、かおり。
かおり「なんで私の名前知ってるのよ」
桔平「すいません。財布見ました。昨日、送って行くときに行き先分からなくて」
   かおり、ため息をつく。
かおり「お金抜いてないでしょうね」
桔平「抜いてないですよ!」
かおり「冗談よ。むきにならないでよ」
   かおり、ため息を吐く。
かおり「そしたらもうご存知でしょうけど、私帰んなくちゃいけないの。明後日結
 婚式だから」
桔平「今日は難しいですよ。聞いたでしょ? もう電車ないですよ?」
   2人とも黙り込む。
   桔平、立ち上がる。
桔平「どれじゃあ、僕はこれで失礼します」
   かおり、桔平の服の裾を掴んで引っ張る。
   桔平、喉が締まる。
桔平「ぐえ」
かおり「あなた、車持ってない?」

○駐車場(夕方)
   かおりと桔平、桔平の車の前まで来る。
桔平「本気ですか?」
かおり「本気。何がなんでも帰る」
桔平「事情を話せばわかってもらえるんじゃ」
かおり「あなたじゃあ到底考えられないほどのお金が動いてるのよ。私の結婚式の裏
 で。そんな中学生みたいな言い訳通用する世界じゃないの。意地でも行かなくちゃ」
桔平「だからって、なんで僕まで……」
かおり「出会いは運命。諦めなさい。良かったじゃない。日本を代表する大女優と一
 緒にドライブが出来るなんて。そこらのキャバクラより高いわよ」
   かおり。後部座席に勝手に座る。
   桔平、ため息をついてから運転席に座る。
   車、発進する。

○車内
   運転中。
   かおり、お腹が鳴る。
桔平「お腹減ってるんですか」
かおり「うるさい!良い? 私は寝るけど、その間に触ったりでもしたら許さないからね。よろし 
 く」
   かおり、そう言うと後部座席で横になり始める。
桔平「ちょっと」
   桔平、後ろを見やると、既にかおりが寝息を立てている。
   桔平、大きくため息をつく。

○東京・ホテル(夜)
   常吉、携帯電話で会話をしている。
常吉「いないー!?」

○東京駅
雫「そうなんですよ! 電話しても出なくて」
常吉「(電話越しに)いやいやいやいや。マジで?」
雫「もう今日はこれ以降新幹線出ないみたいで」

○東京・ホテル(夜)
   常吉、スケジュール帳を確認している。
常吉「まずいぞ、実にまずい。明日は取材が何件か入っているのに。とりあえずお前は連絡とり続
 けろ。わかったな」
雫「(電話越しで)はい」
   電話を切る常吉。
常吉「(独り言)あのじゃじゃ馬、どこで道草食ってんだ、畜生」
   携帯をベッドに叩きつける常吉。

○車内(夜)
   後部座席で横になって寝ているかおり。

○サービスエリア(夜)
   広い駐車場にポツリと止まっている桔平の車。
  
○車内(夜)
   寝返りを打ち、床に落ちてしまうかおり。その拍子に目を覚ます。
   起き上がると、車内に桔平がおらず、あたりを見回すかおり。
   ドアをノックする音が聞こえる。
   その方向を向くと、巡回している高速パトロールの隊員がいる。
   かおり、ドアを開ける。
パトロール隊「すいません、ちょっと」
かおり「はい、なんでしょう」
パトロール「いやね、最近駐車場で寝る車多くて。今日天気も悪いから、車動かしてもらえますか
 ね」
かおり「もう少し待ってよ。今連れが出てて」
パトロール「あれ、そういえばあなた、誰かに顔似てない?」
かおり「いや、そんなことは」
パトロール「なんかで見たんだよな……」
   かおり、顔を背ける。
   パトロール隊員、顔を近づける。
桔平「すいません、遅くなって」
桔平、袋を持って走って来る。
桔平「すいませんね、すぐ出ます」
桔平、パトロール隊とかおりの間に入るように立つ。
パトロール「ああ、うん、はい」
   桔平、荷物をかおりに渡して車の中に戻す。
   桔平も運転席に。
パトロール隊員「どこまで行くの?」
桔平「そんな遠くまで行かないですよ」
パトロール隊員「今日天気悪くなるみたいだから。気を付けてね」
桔平「はい、ありがとうございます」
   桔平、車を出す。

○車内(夜)
かおり「どこ行ってたのよ」
桔平「いや、ちょっと買い出しに」
かおり「置いてかれたと思ったじゃない」
桔平「すいません。声は一応かけたんですが」
かおり「これなに?」
   かおり、袋の中を見る。
桔平「ああ、見てください」
   かおり、袋を見るとおにぎり、サンドウィッチ等が入っている。
桔平「お腹がすいたって行ってたんで。買ってきました。あ。食べれないものがあったら残していい
 ですよ」
かおり「ふーん……」
   かおり、外を見ながらおにぎりを食べる。
   桔平、何か言いたそうで言い出せない様子。
かおり「何よ」
桔平「い、いや別に」
かおり「はっきり言いなさいよ。もごもごしてる男はモテないよ」
桔平「(歯を食いしばりながら)何でもないですって」
桔平、前方の「赤ちゃんおむつ」と書いてあるトラックを抜かす。

○ホテル・部屋(夜)
部屋に雑誌の記者、カメラマンと常吉、雫がいる。
記者「どういうことですか?」
常吉「えー、ですからですね、あれでして、そのー、かおり本人の体調がね、優れないということ
 で、ちょっと今日は、すいません」
記者「約束してたじゃないですか。体調不良って」
常吉「申し訳わりません。ええ。明日、明日必ず連れて来るので」
記者「こっちも仕事なんですよ。頼みますよほんと」
常吉「はい。申し訳ございません」
   常吉、雫、頭を下げる。
   記者達は部屋を出ていく。
常吉「行ったか?」
雫「行きました」
常吉「はあー」
常吉、椅子に座り込む。
   常吉「くそ、体が持たんぞこれは」
雫「謝罪祭りですね」
常吉「むうう」
   雫、水をコップに注ぎ、常吉に渡す。
常吉「かおりとの連絡は?」
雫「まだ取れないです」
   常吉、水をこぼす。
雫「ああ、ああ、ああ」
   雫、ハンカチを出して常吉に渡す。
常吉「今日がわしの命日になるかも知れん」
雫「明日には必ず到着すると思うので、それまでは……」
   常吉、焦点の定まらない目で天井を見上げる。
   ノックの音が聞こえる。
   常吉、立ち上がる。
   扉の方に向かう常吉。
常吉「週刊リアルの記者さんですか。いや、それがですね、はい、申し訳ないのですが」
   常吉、別の取材の記者に対して謝罪を繰り返す。
   それを後方から見ている雫。ため息をつく。

○桔平の車・車内
   桔平とかおり、無言。
桔平「大変ですね、女優も」
かおり「ん?」
桔平「お仕事。せっかくの結婚式なのにこんなに忙しかったら、感慨もへったくれもないじゃない
 ですか。なんで女優になろうと思ったんですか?」
かおり「さあ、ね。昔からの癖みたいなもんかしら」
桔平「癖?」
かおり「そう、癖。昔から誰かの顔色伺うことが多くて。ご機嫌取ろうとしてるうちにそればっか
 り上手くなって。自分がどう動いたら相手が喜ぶかわかるようになってたわけよ。だから、癖み
 たいなもん」
   桔平、しばらく考え込む。
かおり「今回の結婚だって、似たようなもんよ。好きで結婚する訳じゃないし」
桔平「え?」
かおり「有名人同士のビックカップル。大きなお金が動く。仕事も増える。見ている人も幸せな気
 分になる」
桔平「はあ」
かおり「良いことづくしじゃない。だから私は結婚するの」
桔平「自分は?」
かおり「へ?」
桔平「いや、その良いことづくし? の仲にかおりさん本人が入ってないなと思って」 
かおり「ああ、ね」
   かおり、暫く考え込んでしまう。
桔平「あれ?」
   前方に電光掲示板で「この先事故のため、通行止め」と書かれている。
桔平「参ったなこりゃ」
かおり「何?」
桔平「この先、高速が通れないらしくて。一旦下に降ります」
かおり「勘弁してよ、急いでるって言ってるでしょう」
桔平「そんなこと僕に言われても」
ラジオ「なお、この後も雪が降り続き、勢力は強まるでしょう」

○高速道路(夜)
   桔平の車、出口へと向かう。

○ホテル・部屋内
   常吉、取材を受けている。
   電話越しに取材をしている記者。
   記者「理想の結婚とはなんでしょうか?」
雫「(電話越しに裏声で)そうですね、私としては」
○同・寝室
雫「(裏声)多々納さんみたいな方がね、理想というか」

○同・居間
記者「これほんとにかおりさんですか?」
常吉「ええ、もちろん。少し風邪気味なだけで」
   記者、訝しむ。
   常吉、苦笑いで誤魔化す。

○同・寝室
   雫、ため息をつく。

○一般道(夜)
   外は少し雪が降っている。
   人気のない夜道を、桔平の車が一台走り抜けていく。

○桔平の車内
   車内の桔平、かおり、2人して無言。
かおり「雪、強くなってない?」
桔平「今晩強まるらしいですよ」
かおり「高速いつ戻れるの?」
桔平「ちょっと一度調べた方が良いかも。どこか駐まれそうな……」
   その瞬間、車の目の前に何かが飛び出す。
桔平「あぶね!」

○一般道(夜)
   車、道を逸れる。
   そのまま道路横の側溝に前輪がはまり、抜け出せなくなる。
   道路に飛び出してきた野生の犬、その様子を見た後どこかに走り出す。
  ×  ×  ×
   桔平、外に出て車の様子を見ている。
桔平「アクセル踏んでみて下さい!」
   かおり、アクセルを踏む。
   車は前に出ようとするが、タイヤがはまっていて動かない。
桔平「うーん、だめだなこりゃ」
   かおり、窓から顔を出す。
かおり「どお?いけそう?」
桔平「無理そうです!すっかりタイヤがはまってる」
かおり「どうすんのよ、私帰れないじゃない!」
桔平「うーん、こんなとこ、ジャフもすぐ来てくれなそうだしなあ」
   かおり、車内で慌てている。
   その様子を見ている桔平、考え込む。

○一般道(夜)
   桔平、かおりを連れて道を進んでいく。
かおり「ねえ、どうするの?」
桔平「車はもう動かないから、人が通りそうなところまで出て、車捕まえます」
かおり「ヒッチハイクってこと?」
桔平「そんな感じです」
かおり「いやよ私。そもそも車なんか通らないじゃない!」
桔平「あそこでブラブラするよりはマシでしょう」
   2人、歩き続ける。
   桔平、自分の上着をかおりにかける。
桔平「これで雪、しのいでて下さい」
   かおり、何も言わずに上着を受け取る。
かおり「どこ向かってるかわかってるの?」
桔平「もうすぐその辺りにバス停があるはず」
かおり「あいた」
かおり、うずくまる。
桔平「どうしました」
かおり「何でもない」
桔平「そんなこと無いでしょう」
桔平、かがんでかおりの足元を見る。
かおり、靴擦れを起こしている。
桔平「うわ、痛いなこれ」
かおり「平気だって」
桔平、かおりに構わずに絆創膏を取り出し、かかとに貼る。
かおり「なんでそんなもん持ち歩いてんのよ」
桔平「まあ、癖みたいなもので」
桔平、応急処置を終える。
桔平「さて、もう少し行けば雪がしのげるところがあるはずなので、行きますか」
桔平、しゃがみこむ。
かおり「え、なにごと?」
桔平「いやほら、歩くの大変だろうなと思って」
かおり「だから?」
桔平「おんぶ」
かおり「おんぶ?」
桔平「おんぶ」
かおり「やめてよ、ガキ臭い。大丈夫だって」
   桔平、何も言わずにしゃがんだまま。
かおり「いや、乗るわけないじゃん。恥ずかしい。ほんと」
  ×  ×  ×
   桔平におぶってもらっているかおり。
かおり「今回だけだからね」
桔平「はいはい」
かおり「ほんと、しょうがなくだから」
桔平「はーい」
   2人、歩いているとバス停発見。

○バス停・軒下(夜)
   2人で屋根付きバス停のベンチで座っている。
かおり「ねえ」
桔平「はい?」
かおり「なんで絆創膏持ち歩いてるの?」
桔平「まだ気になります?」
かおり「じゃあいい」
桔平、苦笑い。
桔平「そんな面白い話でもないですよ。娘が昔、よく怪我したもんで。なんでか分からないけど、何
 もないとこで転びまくるんです。だから絆創膏は必ず持ってないといけなくて。妻と合わせて10
 枚は持ち合わせてました。そのときの癖が抜けないんです。はは」
かおり「ふーん」
桔平「中々癖は治らないもんですね」
かおり「まあ、そうね」
   少し間が出来る。
かおり「奥さん、亡くなってるだよね」
桔平「はい」
かおり「どこで出会ったの?」
桔平「馴れ初めってやつですか」
かおり「言いたくなきゃ別に良いわよ」
   桔平、少し笑う。
桔平「お店のお客さんだったんですよ。学生時代の同級生とかそういうんじゃなくて」
かおり「へー」
桔平「一回ご飯をタダで食わせたんです。死にそうだったんで。多分旅行中だったのかな。財布を落
 としたらしくて」
   かおり、聞いている。
桔平「その時はもうそれっきりかと思ってたんです。何だか変わった娘だったし。そたら翌年、ひ 
 ょっこりまた来て。お世話になったから、その恩返しとして働かせてくれって」
かおり「律儀なのね」
桔平「いや、どうなんでしょうね。とにかく変わってて。その時は断ったんです。雇う金もないし、 
 忙しかったし。それでも無理やり住みこまれて」
かおり「なんか想像できるな、そのシーン」
桔平「はじめは嫌で嫌で仕方なかったんですけどね。なんだか自然とそんな感じに」
かおり「え、でき婚?」
桔平「え?」
かおり「そうなの?」
桔平「いやー、ええ?」
かおり「やだ、そうなのね。ケダモノ」
桔平「いやいやいや、そういうわけじゃ」
かおり「うそうそ、冗談」
   かおり、少し笑う。
桔平、小さくため息。
桔平「まあ、人間の脳みそなんて役たたないですよ。考えて、判断しても、大概ロクでもない。結局  
 なるようになるしかないんですよね。だから」
かおり「だから?」
桔平「かおりさんも、なるようになりますよ」
かおり「それは励ましてるの?」
桔平「まあ、一応」
かおり「そりゃ、どうも」
桔平「頭ではなく、ここでね」
   桔平、心臓を叩く。
かおり「ださい」
桔平「やっぱり?」
   2人、見つめ合う。
   そのとき、遠くからライトが近付いてくる。
桔平「あ」
   軽トラックが車線を走ってくる。
   桔平、軽トラックに向かって走って行く。
   軽トラック、桔平に気付かず、走り続ける。
   桔平はトラックと少し並走。トラックはようやく止まる。
   その様子を遠くから見ているかおり。
   桔平が何やらトラック運転手と話している。
   かおり、その様子を遠くで伺っている。
   走ってくる桔平。
桔平「乗せてくれるって!」
かおり「え?」
桔平「東京までじゃないけど、近くまで行ける距離までなら、って」」
桔平、かおりの荷物を持ってくる。
桔平「これでなんとか明日の時間には間に合いそうですよ」
かおり「あなたは?」
桔平「え?」
かおり「あなたは?一緒に来ないの?」
   桔平、一瞬固まる。
桔平「僕の出番はもう終わりでしょう。目処も立ったし。車も残してはいけないし」
かおり「ああ、そう。そうね」
   かおり、下を向きながら話す。
   桔平、かおりから顔を逸らすようにして歩き出す。
桔平「さあ、行きましょう」
   桔平、かおりの荷物を持って軽トラックへと向かう。
桔平「(軽トラックのドライバーに向かって)じゃあ、お願いします」
ドライバー「はいよ」
   桔平、かおりの荷物を車に載せる。
桔平「かおりさん、ほら」
   桔平、かおりに乗車を促す。
   かおり、軽トラックに乗り込み、車の外の桔平を見つめる。
ドライバー「ねーちゃん、車出すからドア閉めてくれる?」
   かおり、少し間をとってドアを閉める。
   車にエンジンがかかり、走り出す。
   桔平は軽トラックを見送ると、歩き出す。
   その後ろで軽トラックが引き返して来て、ドアが開く。
   そしてそこから手が出て来て、桔平が軽トラの中に引き込まれる。

○軽トラック内
桔平「え?」
   桔平、かおりの膝の上で倒れこみながら驚く。
かおり「ちゃんと最後まで来てよ。道間違えたらどうするのよ」
   トラック、そのまま走り出す。

○東京・ホテル
   椅子で爆睡している常吉。
   雫はパソコンを使って検索中。
   パソコンに「かおり 女優 見た」と打ち込むが関係のない画面が出てくる。
   「女優 長野 見かけた」と打ち込む雫。
   ツイッターの画面が出てくる。
   そこに「なんだか長野のサービスエリアで、加賀かおりにすげー似た人いたんだけど。結婚 
   式挙げるんんじゃなかなったっけ」という書き込みを見つける雫。
   リプライ画面に入る雫。
   「なんか冴えないおっさんといたんだけど」という書き込みを見つける。
   雫、あわてて常吉を起こす。
雫「社長、社長!」
   常吉、目を覚ます。
常吉「ん? 取材か?」
雫「違いますよ、これ見てください」
   雫、常吉に画面を見せる。
常吉「見る見る痩せる、大便の出し方」
雫「その広告じゃないですよ。こっちです、こっち」
   雫、画面を指差す。
常吉「んん」
   常吉、画面の文字を読む。そして雫と顔を見合わせる。
常吉「これほんと?」

○東京・道路
   パトカーが5台、サイレンを鳴らして走っている。

○ホテル・入口
   パトカーが続々と登場。
   扉が開き、スーツ姿の男が10名ほど降りてくる。

○ホテル内・ロビー
   スーツ姿の男たち、パーティー会場の中に入ろうとする。
   ホテルのスタッフが慌てて止める。
スタッフ「あの、すいません。関係者以外立ち入り禁止で」
男「私たち、こういう者で」
   男、胸ポケットから警察手帳を取り出す。
スタッフ「ああ、すいません」
男「失礼するよ」
   男たち、会場内に入っていく。

○ホテル・式場
   警察、テーブル上に次から次へとパソコン、コード、ノート、シーバー、ヘッドセットを用意
   していく。
   その様子を端で見ている常吉と雫。
雫「なんか大事になってきましたね」
   常吉、無言で頷く。
   作業中の刑事が2人に近付いてくる。
刑事A「あなたが今回の?」
常吉「ええ、まあ、はい」
刑事A「私、今回の責任者、捜査一課、特殊犯捜査第一係の安倍力と申します。今回の事件、警察の 
 威信をかけて、我々がしっかりとかおりさんを安全に連れ戻します。どうかご安心を」
常吉「は、はい。よろしくお願いします」
   安倍力(47歳)、足早に去っていく。
雫「なんだか強面な方ですね」
常吉「ああいうのが仕事できるんだよ」
雫「なるほど」
   力のポケットから何かが落ちる。
   雫と常吉、それに気付く。
   雫がそれを拾う。
雫「あの、落ちました……」
   雫、下に目を落とす。
   かおりデビュー時のテレフォンカードが落ちている。
力「申し訳ない!」
   力、雫の手からカードをひったくるように奪い、そのまま足早に去っていく。

○一般道
   一般道路を軽トラックが一台走っている。

○軽トラック・車内
   桔平、かおり、ドライバーが三人で並んで座っている。
桔平「なんでこうなったんですか?」
かおり「仕方ないでしょ」
桔平「いや、僕の車」
かおり「そんなの後で良いでしょう。車くらい買ってあげるわよ」」
桔平「あんなにとっては車1台でも、ぼくみたいな貧乏人には大事なんですよ」
かおり「え、怒ってる?」
桔平「いいえ、まったく」
かおり「怒ってるじゃん」
   桔平、黙り込んでしまう。
   ドライバー、気まずそうに2人の様子を伺う。
桔平「トイレに行きたいんですけど。すいません、コンビニ寄ってもらえませんか?」
ドライバー「はいよ」

○一般道
軽トラック、コンビニの駐車場に入る。

○軽トラック・車内
   桔平、ドアを開けて車を降りる。
かおり「ねえ」
桔平「どこにも行きませんよ。また攫われた ら敵いませんから」
   桔平、そう吐き捨てて車を降りていく。
   かおり、ため息をついて車の背もたれに倒れこむ。
ドライバー「気難しい兄ちゃんだね」
かおり「いや、私が悪いのよ。うん」
ドライバー「はは、まあ、ちょっと強引だったな、うん」
   かおり、黙り込んでしまう。
ドライバー「まあ、元気出せよ」
かおり「ええ、どうも」
ドライバー「それとも……」
   ドライバー、かおりに顔をぐっと近づける。
ドライバー「おれが元気出させてやろうか」
かおり「え、ちょ、なに言って」
   かおりが言い切る前にドライバーがエンジンをかける。

○道路(夜)
   車が発進。

○軽トラック・車内
かおり「ねえ、ちょっとなにしてるの、ねえ!」
ドライバー「いいことしに、だよ」

○路地裏(夜)
   人気のない暗がりに車が停車。

○車内(夜)
   かおりの手を掴んでシートに押し倒す。
かおり「やめてよ、ねえ!」
ドライバー「女一人で乗り込んでくるってことはそういうことだろ?」
   ドライバー、そう言ってかおりを受けから押し付ける。
   かおり、騒ぐ。
   ドライバー、かおりの口に手を押し当てて黙らせる。
ドライバー「うるせえよ、黙ってろ。もう誰もこねえよ」
   ドライバー、かおりの服に手をかけるが、かおり必死に抵抗。
   そのとき、何者かが石でガラスを壊して侵入。
   ドライバー、かおりは顔を手で覆い防御。
桔平「おら!」
   窓から桔平が乱入してくる。
   ドライバーに飛びかかる桔平。ドライバーとシートの上で格闘に。
   2人はそのまま外に転がり出る。
   かおりは車内から様子をみている。
   桔平とドライバーは掴み合い。
   桔平がトラックのボンネットに押し付けられる。
   そしてパンチを食らい、倒れこむ桔平。蹴りを食らわせるドライバー。
   そして馬乗りになり、息も絶え絶えの桔平にトドメの一撃を喰らわせようとする。
   するとかおりが後ろから後頭部にとびひざげり。ドライバーは倒れこむ。
   その隙にかおり、桔平を車内へと連れ込む。

○軽トラック・車内
   かおりと桔平、車内に乗り込む。
   桔平、車を発進させる。

○路地裏
   軽トラックが発進。
   ドライバーは倒れながら、発進していく車を見送る。

○軽トラック・車内
   桔平、運転を続ける。流血している。
かおり「ちょっと、血が出てる」
   桔平、その問いかけに応えず運転を続ける。
   かおり、ハンカチを取り出して桔平の顔を拭こうとする。
   桔平、その手を払いのける。
かおり「なによ!」
桔平「なによ、じゃないですよ。これぼくもう立派な犯罪者じゃないですか。やっちゃったよ」
かおり「でも」
桔平「あなたも! 無茶しすぎですよ、あそこで膝蹴りとか。死んでるかもしれないですよ相手」
かおり「なによ、人が折角助けたのに。それにあいつ動いてたから大丈夫よ」
   2人とも少しの間黙り込む。
かおり「ねえ、どうやってついてきたの?」
桔平「人の自転車、使わせてもらったんですよ。死ぬ気で追いかけました。間に合って良かった」
かおり「盗んだの?」
桔平「借りただけです!」
かおり「必死だったの?」
桔平「それはもう、ええ」
かおり「なんで?」
桔平「え?」
かおり「なんでそんな必死で追いかけてきたの?」
桔平「当たり前じゃないですか。何かあって僕のせいになるの嫌だし。そもそもこのヒッチハイクの
 言い出しっぺは僕ですからね。 責任取らないと」
かおり「(つまらなそうに)なるほどね」
桔平「とにかく、無事で良かったですよ」
かおり「まあ、無事ではないけどね」
   桔平、ため息をつく。
かおり「ありがと」
   かおり、桔平の顔を再び拭き始める。
   桔平、今度は素直に受け入れる。

○電話ボックス
   ドライバーが電話ボックスでなにやら話している。

○東京・ホテル・会場
   刑事たちが無線で連絡を取り合っている。
   常吉、近くのソファーで寝ている。
   雫、その隣でパソコンをいじっている。
雫「情報なし、か」
   雫、ため息をつきパソコンを閉じる。
   作業を進める刑事たちがざわつき始める。
力「なに、本当か」
刑事B「ええ、本部に情報が」
   雫、寝ている常吉の頰を叩いて起こす。自分は刑事たちの元へ。
雫「何か分かったんですか?」
力「ええ、まあ。 かおりさんの情報が本庁に入りまして」
雫「かおりは!? 無事なんですか」
力「それが……」
   常吉、起きて来てメガネの位置を直しながら近づいてくる。
力「どうもかおりさん、誘拐されたみたいで」
雫「は?」
   常吉、倒れこむ。
雫「ちょっと、社長!」

○警察署・取調室
   軽トラックのドライバー、氷を後頭部に当てながら警察に事情を説明している。
力M「発見者によると、犯人は女を連れて富士見辺りを徒歩で、移動。 そして発見者のトラック  
   に乗り込んだそうです」

○一般道(夜)
   暗闇の中、軽トラックが一台、走っている。

○軽トラック・車内
   桔平が運転中。かおりは助手席で外を眺めている。
力M「その後、隙をついてトラックを強奪。発見者を置き去りにしてそのまま走り去っています」

○ホテル・会場
   力、雫と常吉に向けて説明を続けている。
   常吉は椅子に倒れこんでいる。
力「現在、捜査線を展開し、全力で犯人確保に動いています。我々が全力でかおりさんをお守りし   
 ます」
雫「よろしくお願いします」
   雫、頭を下げる。
   そして、顔を上げ、心配そうな顔で捜査員を見る。

○軽トラック・車内
   桔平が運転中。かおりは助手席で外を見ている。
   外は真っ暗。
   窓ガラスは割れたまま。
かおり「今どこ?」
桔平「埼玉あたりですかね。もうすぐ東京入りますよ」
かおり「そう」
   2人とも無言になる。
桔平「良かったですね。間に合いそうですよ、結婚式」
かおり「うん」
かおり「この後どうするの?」
桔平「この後?」
かおり「東京ついた後」
桔平「もちろん戻りますよ。長野に。でもその前に自首ですかね」
   かおり、黙り込む。
かおり「ねえ、どっかで休もう」
桔平「え? いや、もう東京近いし」
かおり「もうここまで来たらそんな変わらないわよ」
桔平「いや」
かおり「ほら、あそことか」
   かおり、近くのビジネスホテルを指差す。
   桔平、少し怪訝な表情を浮かべるが、ハンドルを切る。

○一般道
   軽トラック、ホテル駐車場に入る。
   それを遠くで見ている警察官。

○ビジネス・ホテル
   桔平とかおり、フロントに向かう。
   桔平が呼び鈴を鳴らす。
桔平「いいんですか? もうすぐ着くのに」
かおり「言ったでしょう? 疲れたの」
   ホテルスタッフ、入って来る。
スタッフ「いらっしゃいませ、お待たせしました。宿泊のお客様ですね」
桔平「はい。今日の昼頃まででお願いします」
スタッフ「かしこまりました。 お部屋はおいくつご用意しましょう」
桔平「えー……」
かおり「ひとつで。一緒で大丈夫です」
スタッフ「はい、かしこまりました」
   桔平、かおりの顔を見る。かおり、何食わぬ顔で手続きを進める。

○同・エレベータ内
   かおりと桔平、会話を交わさずに中に乗り込む。

○同・廊下
   部屋に向かう二人。
かおり「307、307と」
桔平「一緒で良かったんですか? 部屋」
かおり「何言ってんの。ここまで来ればもう構わないでしょ」
桔平「まあ」
かおり「嫌だった? 私と一緒」
桔平「いえ、そういう訳では」
かおり「そう。なら良かった」
   かおり、部屋を見つけて中に入っていく。
   桔平、おそるおそる後から部屋に入り、扉を閉める。

○同・駐車場(夜)
   警察官が軽トラックの周りをうろついている。
   トラックの窓ガラスは割れたまま。

○ホテル・披露宴会場
力「なに、本当か」
   力、携帯で話している。
   その様子を見守る雫、常吉。
雫「何か分かったんですか?」
力「ええ、件のトラックが見つかりました」
雫「ああ、良かった! かおりは?」
力「かおりさんは中にいませんでした」
雫「どこに停まっているんですか?」
力「それが」
雫「それが?」
力「どうやら、ホテルに泊まっているみたいで……」
雫「へ?」

○警察署・署内(夜)
   署員が廊下を走っている。

○警察署・駐車場(夜)
   パトカーに乗り込む署員達。
   サイレンがなり、パトカーが次々と発信する。

○警察署・外観(夜)
   パトカーが駐車場から出て来る。

○パトカー内
警察官A「何だってこんな深夜に呼び出されなくちゃいけないんだ」
警察官B「まあ、あの加賀かおりが誘拐されたらしいからな。大ごとだろう」
警察官A「大したやつだよな。結婚間近の芸能人を誘拐だなんて」

○道路(夜)
   パトカーが5台、走り去っていく。

○ビジネスホテル・部屋内
   ベッドの上で横になっている桔平。
   シャワーを浴びている音が聞こえる。
   桔平、居心地が悪そうに体勢を変える。
   かおり、バスローブ姿で出て来る。
かおり「お風呂どーぞー」
桔平「あ、はい」
   桔平、かおりの方を見ないようにしながら風呂場へと向かう。
かおり「なによ」
桔平「いえ、別に」
   桔平、そのまま風呂場に入る。
   かおり、しばらく扉を眺めた後、立ち上がり自身もシャワールームへ。

○ビジネスホテル・ユニットバス内浴槽側
   桔平がシャワーを浴びている。
   かおりがパーテーションの向こう側から語りかけて来る。
かおり「(声のみ)ねえ」
   桔平、ビックリする。
桔平「うわ、なんですか!」
かおり「(声だけ)背中でも流す?」
桔平「大丈夫です!」
かおり「ねえ」
桔平「なんですか?」
かおり「また会える?」
桔平「……難しいんじゃないですかね。僕は長野に帰るし。あなたは人妻になる訳だから」

○同・洗面所側
かおり「そうだよねえ」
   かおり、そう言って便座の上に座り込む。

○同・浴槽側
   桔平、シャワーを浴び続ける。
かおり「(声のみ)このままさ」
桔平「はい?」
かおり「このまま、私と一緒に逃げない? どこか遠くへ」
桔平、シャワーを止める。
かおり「(声だけ)このまま、二人で遠いところに行こうよ」
   桔平、パーテーションを開ける。
   かおり、少しビックリする。
   桔平、全裸であることを思い出し。すぐさまパーテーションを閉める。
桔平「本気ですか?」
かおり「こんなこと、冗談じゃ言えないわよ」
   桔平、少し笑う。
桔平「もう、からかわないで下さいよ」
かおり「そうか、そうよね。ごめん、変なこと言って」
   かおり、風呂場を出る。
   桔平、気まずそうな表情でシャワーを再開。

○ビジネスホテル・ロビー
   従業員が受付を掃除中。
   そこに大勢の刑事が入って来る。
   驚く従業員。
力「(手帳を見せながら)こういうものだ」
従業員「はあ」
力「ここに、こういう女性が来なかったかね」
   力、ポケットからかおりのサイン入りプロマイド写真を取り出す。
従業員「え?」
力「あ」
   力、慌てて写真をポケットに戻し、普通の写真を見せる。
従業員「ああ、この人ですね。見ましたよ。さっきここに来ました」
力「本当か!?」
従業員「ええ、男の人と」
力「男と? 部屋は?」
   力、机に拳を叩きつける。
   驚く一同。
力「何号室だ……」
従業員「すいません、さすがにそこまでは」
力「何号室だと聞いている!」
   力、従業員の胸ぐらを掴む。
従業員「さ、307です」
力、従業員を離す。
力「行くぞ」
   刑事一同はホテルの奥へと進む。

○ビジネスホテル・部屋・室内(夜)
   桔平、シャワーを終えて戻る。
   かおりは既に寝ている。
   桔平、かおりの様子を確かめる。
   かおりは毛布にくるまっていて、寝息に合わせて毛布が上下している。
   桔平、自分もベッドに向かい、寝ようとするがすぐに目が覚めてしまう。
   そして暫くかおりを眺める。
   かおりの枕下には少し湿ったティッシュがおちている。
   桔平、それを見つけると、思い立ったように立ち上がる。

○ビジネスホテル・廊下(夜)
   桔平、上着を着ながら走る。
   エレベーターが中々来ないので、桔平は階段で降りて行く。
   暫くしてエレベーターが開くと、刑事たちが降りて来て307へと向かう。

○街中(夜)
   必死に走る桔平。
   店を探すが中々みつからない。
   コンビニに花があるのを見つける桔平。

○コンビニ店内(夜)
   桔平、大急ぎで店内に。
   カゴの中からアネモネを一束掴むとレジに持ってくる。
桔平「これお願いします」

○路上(夜)
   人気の少ない夜道を走り続ける桔平。

○ビジネスホテル・入口(夜)
   ホテル前まで戻ってくる桔平。
   入口には多くのパトカーが止まっている。
   そしてかおりがホテル内から警察に囲まれて出てくる。
桔平「かおりさん!」
   桔平、かおりの元へ駆け出す。
   かおり、桔平を見て自分も近づこうとするが、警官に引っ張られてパトカーの中に押し込ま
   れる。
   桔平、パトカーに近づこうとするが、警察に取り囲まれる。
桔平「かおりさん!」
   桔平、警察に組み伏せられ、地面に倒される。
   パトカーの中で見ていたかおりは口に手を当てて心配する。
刑事A「竹内桔平だな。暴行、窃盗及び誘拐容疑で逮捕する」
   刑事、桔平の腕に手錠をかける。
   パトカーの中から叫ぶかおり。窓越しで聞こえない。
   かおり、力の手を振りほどき、頬を張る。
   パトカーが発進。
   桔平は押さえつけられたまま、かおりが乗ったパトカーを見送る。

○アパート・部屋内(朝)
   ダンボールに囲まれた部屋。
   明美が荷下ろしをしている。
   流しっ放しになっていたテレビからニュースが聞こえている。
アナウンサー「(テレビの番組中で)さあ、ここで臨時ニュースが入ってきました。女優の加賀か
 おりさんが誘拐未遂に会っていたことが分かりました。加賀さんは既に無事保護されています」
明美「(独り言で)うわー、犯人すごいなこれ。大胆」
   明美、お茶を飲む。
アナウンサー「なお、犯人は長野県に住む51歳男性であり、「成り行きでこうなった」と供述して 
 いる模様です」
   明美、テレビをもう一度見る。
   電話が鳴る。
明美「おおっと」
   明美、廊下に出て電話を取る。
明美「はい、もしもし竹内です。はい、はい……へ?」

○警察署・取り調べ室・室内(明け方)
   取り調べ室室内で、桔平、力に睨み付けられている。
力「罪を認めろ。かおりさんを誘拐したんだ ろう」
桔平「違いますよ」
力「だったらなんで二人で居たんだ。なんでお前みたいな一般人が大女優のかおりさんと一緒にい
 るんだ」
桔平「だから、それは向こうが」
力「ふざけるな。そんな訳ないだろう。かおりさんのような素敵な女性が、お前に? 身の程を知
 れ!」
   桔平、ため息をつく。
桔平「身の程、ねえ」
力「誘拐だけではなく、途中の車強盗の罪もあるんだ。よーく考えろよ」
   ノック音がする。
力「入れ」
   刑事が半身だけ室内に入る。
刑事A「力さん、ちょっと」
   力、立ち上がって外に出る。
   桔平、取調室内で盗み聞きをする。
   室内に2人が戻ってくる。
力「釈放だ、竹内」
桔平「え?」
力「行っていいよ、もう。お前の疑いは一旦晴れた」
桔平「どうして急に」
力「かおりさんに感謝するんだな。どうしてこんな男なんかに……」
   力、その場を離れていく。

○警察署前・外(朝)
   桔平、荷物を持って出てくる。
   目の間に女性が立っている。
   桔平、顔を上げると、女性は明美だった。

○明美・実家(朝)
   桔平と明美、コタツを挟んで座っている。
桔平「あの、ご迷惑をおかけしました」
明美「それで? 何がどうしてこうなったの?」
桔平「いやー、なんというか」

○都内ホテル・車受け
   多数の報道人が待ち構えている。
   そこに車が到着。かおりが降りてくる。
   関係者が道をかき分けながら報道陣の中を進むかおり。
   そこに章雄が駆け寄ってくる。
章雄「へい、ハニー。大丈夫かい?(マスコ ミに向かって)ちょっと、道空けて!」
   一向、人混みの中を進んで行く。

○室内(朝)
   かおり、一人でベッドの上に座っている。
   ノックの音が聞こえて、雫が入ってくる。
雫「落ち着いた?」
かおり「うん、だいぶ。心配かけてごめん」
雫「本当だよ!」
   雫、椅子に座る。
雫「まあ、でも怪我がなくて良かった」
かおり「うん、ありがと」
   かおり、雫と目を合わせない。
   雫、ため息をつく。
雫「まあ、無理に話せとは言わないよ」
   雫、部屋を出ようとする。
かおり「好きな人が出来たかも知れない」
   それを聞いた雫、何かを言おうとする。

○明美宅
明美「はあ?」
桔平「いや、うん。分かってる。おかしな話なんだよ」
明美「いやいや、誘拐犯と窃盗犯に仕立て上げられて、危うく前科持ちになるところだったのに、
 好きになった?」
桔平「いや、分からない、分からないよ? でも、何かこう、あるんだよ。胸の中に」
明美「もしそうだとして。どうするのよ、相手は日本中が知っている大女優。しかも嫁入り直線だ
 よ?」
桔平「分かってる、分かってるんだよ」

○都内ホテル・室内
雫「うーん」
かおり「ね、分かってるのよ。私も。アホなことを言ってるってことくらい」
雫「本当なの、そのこと?」
かおり「分かんない、もう。あのとき助けられて一瞬ときめいただけなのかも。年甲斐もなく」
   雫、何も言えない。
かおり「ごめんね、こんなこと。言ってみただけだから。私も歳だしね。ここ逃せば結婚できない
 し、いろんな人に迷惑かけちゃうし」
雫「かおり……」
かおり「ごめん、変なこと言って。もう忘れて? ほら、まだ仕事残っているのでしょう? 私は
 大丈夫だから」
雫「うん」
   雫、出口に向かって歩き出す。
   雫、部屋を出ようとして、かおりの方を振り返る。
雫「もしかおりが本気なら、私」
かおり「大丈夫。そういうのじゃないから」
   雫、頷いて部屋を出る。
   かおり、ため息をついてベッドに転がる。

○明美宅(夜)
   居間に布団を敷いて寝ている二人。
   明美は寝息を立てているが、桔平は目を開けたまま、天井を見上げている。

○テレビ番組
   スタジオ収録中のかおりと幸雄。
   司会の女性とのトークショー。
司会「でもね、色々大変でしょう。お互いが有名人だと。デートとかどうしてるんですか?」
幸雄「ちょっと困ることは多いですね、確かに。近所のコンビニとかなら平気だけど、テーマパー
 クとかは流石に行けなくて」
司会「ああ、なるほど。やっぱり行けたら行きたいですか」
幸雄「もちろん! 普通のカップルのようなデート、したいですねえ。まあでも、これも、スター
 の宿命というか。あはははは」
司会「(苦笑い)ははは。かおりさんはどうですか?デートで行きたい場所とか」
   かおり、ぼーっとしていて返事ができない。
司会「かおりさん?」
かおり「(我に返ったように)はい?」
司会「大丈夫ですか?具合悪いですか?」
かおり「いえ、すいません、ぼーっとしてしまって」
幸雄「おいおい、頼むよー。放送事故だよもう。あははは」
司会「仕方ないですよ、色々あった後ですものね。それでは一旦CMです」
   観覧席から拍手。
AD「はい、ストップでーす!」
   かおり、浮かない顔。

○スタジオ出口(昼)
   プロデューサー、ディレクターがかおり、幸雄、雫を見送っている。
プロデューサー「おつかれ様でした」
雫「ありがとうございました」
   かおり、幸雄、雫がタクシーに乗る。
   タクシーは発進する。

○タクシー・車内(昼)
   助手席に雫、後部座席に幸雄とかおりが座っている。
   かおり、上の空。
   かおりは無反応。
   かおり、窓越しに桔平に似ている姿を見つけ、窓を開けて顔を見ようとするが、結局見られ
   ない。
   そのまま席に戻り、ため息をつくかおり。
   雫、その様子をミラー越しに眺めている。

○明美宅・玄関(昼)
   明美、家を出る用意をしている。
明美「ほら、行くよ、お父さん」
桔平「はいはい、ごめん」
   桔平、部屋から出て来る。

○バス乗り場(昼)
   明美と桔平。バスを待っている。
   バスが到着。明美が桔平を促し。2人でバスに乗る。

○バス・車内(昼)
   バスに乗っている明美と桔平。
桔平、ぼけっとしている。
明美「ねえ、お父さん」
   桔平、返事をしない。
明美「お父さん!」
桔平「なに?」
明美「大丈夫?ほんと」
桔平「ああ、大丈夫、大丈夫。ちょっとまだびっくりしてるだけ。」
明美「まだかおりさんのこと考えたの?」
桔平「(必死に)違うわい!」
明美「そう、ならいいけど」

○東京駅
   明美、桔平を改札まで送る。
明美「じゃあ、私はここで」
桔平「おう、ありがとな。本当、迷惑かけた」
明美「本当にね。気をつけて」
桔平、明美に手を振りながら改札へと向かう。
明美「お父さん!」
桔平「うん?」
   明美、桔平に抱きつく。その隙に手紙をこっそり鞄に入れる。
桔平「な、なに? なんかした、おれ?」
   明美、離れる。
明美「はは、なんでもない。しっかりね、お父さん」
桔平「お、おう」
   明美、手を振る。
   桔平、戸惑いながら改札へと向かう。

○新幹線・外景(昼)
   新幹線が汽笛を鳴らして走り抜ける。

○新幹線・車内(昼)
   座席に座っている桔平。
   カバンからお弁当を出そうとすると、手紙が落ちて来る。
   手紙には「お父さんへ」と明美の字で書いてある。
   手紙を開く桔平。
桔平「なんだこれ。お父さんへ」
   桔平、手紙を小声で音読。
桔平「直接は言い辛いので手紙で失礼します」
明美M「警察署にいったとき、怖い顔の刑事さんが手紙をくれました。何でもかおりさんからの手
 紙だそうです。このおかげでお父さんは釈放されたらしいです。同封しておきました。読んでみて 
 下さい」
   手紙の中にもう一枚手紙が入っている。
   手紙を確認する桔平。
   手紙は一度破られたが、セロテープによって復旧された跡がある。
   読み進める桔平。
   丁寧な字で書き連ねてある手紙。「このような突然の手紙で申し訳有りません」、「桔平さ 
   んは私のわがままのせいで巻き込まれてしまっただけです、彼は決して悪くありません」、 
   「車の件に関しては、私を守るためにしてくれたことです」、「埼玉県八和田郵便局付近の
   交差点の防犯カメラを見て頂ければわかります」と書かれている。
   最後の一行に「彼は私の大切な人です。私がどのような罰も受けるので、どうかご容赦下さ
   い」と書かれている。
   最後の一行をじっくり読む桔平。
   新幹線は大宮駅に到着。
車掌「おおみやー、おおみやです」
   桔平、椅子から飛び上がり、荷物を掴んで電車を降りる。

○大宮駅
   新幹線から降り、ホームを走る桔平。

○式場・控え室・扉前(昼)
   正装をした雫、ノックする。
かおり「どうぞー」
   雫、室内に入る。

○同・室内
   かおり、ドレスに着替えている。
雫「綺麗だよ、かおり」
かおり「ありがとう」
   かおり、窓から外を眺める。
雫「大丈夫?」
かおり「うん、大丈夫。ありがとう」
雫「そう。じゃあ、準備ができたら声かけてね」
かおり「分かった」
   雫、部屋を出て行く。
   かおり、ため息をついて、また窓の外を見やる。

○東海道線・車内
   満員電車の中、固まっている桔平。
車掌「うえのー、うえのです」
電車、上野駅に到着。
   人が大量に降りて行く。流れに逆らえず駅に降りる桔平。

○上野駅
   桔平、半強制的に降ろされる。
   再び乗ろうとするが、目の前で電車のドアが閉まってしまう。
駅員「(スピーカー越しに)電車動きます、お下がり下さい!」
   桔平の目の前で電車が発信。
   桔平、電子掲示板で次の電車を確認する。
   掲示板には「13:23、小田原行き」の文字が。
   桔平、改札へと走る。

○都内・式場(昼)
   式場には多くの参列者が集まっている。
   幸雄は神父の隣に立っている。
   神父「それでは、新郎神父の入場です」

○同・扉前
   ドレスを着ているかおり、入場の準備。
   横には常吉がいる。常吉は既に泣いている。
かおり「なんで泣いてるのよ。行くよ、社長」
   常吉、無言で頷きながらかおりの手を引く。
   結婚行進曲が流れる中、扉が開く。

○同・会場内
   かおりと常吉が入場。
   客席から大きな拍手が起こる。
   2人はゆっくりと登場。
   幸雄はかおりの姿を見て、ニヤニヤする。

○上野駅前・タクシー乗り場(昼)
   タクシーを捕まえる桔平。
   すぐさま乗り込む。

○タクシー
運転手「お客さん、どこまで?」
桔平「結婚式場まで」
運転手「どこの?」
桔平「一番大きいところ!」

○上野駅前・タクシー乗り場(昼)
   タクシーが発車。

○都内・式場(昼)
   牧師、幸雄、かおりが登壇。
牧師「幸雄さん。あなたは今、かおりさんを妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしていま
 す。汝健やかなるときも 病めるときも 喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧し 
 いときも、これを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを  
 誓いますか?」
   幸雄、かおりの手を取って答える。
幸雄「はい、誓います」
神父「かおりさん」
   かおり、緊張した面持ちで神父の顔を見る。
神父「かおりさん。あなたは今、幸雄さんを夫とし」
   かおり、扉の方を見る。

○都内・式場前(昼)
   タクシーが一台到着。
   中から桔平が飛び出して来る。
神父M「神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも 病めるときも 喜びの
 ときも、悲しみのときも」
   桔平、階段を駆け上がり、協会の扉を開ける。

○都内・式場(昼)
   扉が開く。
   かおり、期待の顔でそちらを向く。
   全く知らないおじさんが一人、腰を低くして、謝りながら参列席へと入って行く。
神父「(咳払い)これを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすこ
 とを誓いますか?」
かおり「誓います」

○都内・式場(昼)
   誰もいない式場の中、一人たたずむ桔平。

○同・外(昼)
   肩を落として戻って来る桔平。
タクシー運転手「どうした、欲しいものあった?」
   桔平、何も答えずにタクシーを通りすぎる。

○大通り(昼)
   桔平、大通りを一人で歩く。
   電気屋の前に出る桔平。ウィンドウのテレビでかおりに関するニュースを放送している。
アナウンサー「女優の加賀かおりさんの結婚式が本日執り行われています。なお披露宴は帝国ホテ
 ル宴会場で行われており、現場から生放送で……」
   桔平、放送を聞きハッとする。
   先ほどのタクシーに向かって走る。

○都内・式場前・タクシー車内
   タクシー運転手が車内で新聞を読んでいる。
   桔平がやって来て、激しくノックをする。
   運転手、ドアを開ける。
運転手「今度はなに?」
桔平「帝国ホテル!帝国ホテルまで!」
運転手「えー、今あの周りはイベントで騒がしいんだよねえ。女優さんの結婚式とかで」
桔平「だからこそ、なんですよ。お願いします」
   運転手、顔をしかめるが、桔平に乗るようにジェスチャーで促す。
   桔平、タクシーに飛び乗る。

○都内・式場・外観(昼)
   かおりと幸雄、会場内から出て来る。観客が拍手で迎える。
   2人でそのまま歩き、リムジンに乗る。

○一般道
   タクシーが一般道を走り抜ける。

○タクシー車内(昼)
   桔平、後部座席で前のめりになっている。
   手元にはかおりからの手紙が握り締められている。

○一般道
   リムジンが走っている。

○リムジン・車内(昼)
   幸雄とかおりが乗っている。
   かおり、浮かない顔をしている。
幸雄「かおりちゃん、どうしたの。浮かない顔して。緊張してる?」
かおり「うん、ちょっとね」
幸雄「大丈夫よ。リラックス、リラックス。かおりちゃん、今日めっちゃ綺麗だから。ノープロブ  
 レム」
かおり「ふふっ。ありがと」
   かおり、窓の外を見遣る。
運転手「まもなく到着します」

○一般道(昼)
   リムジン、披露宴会場のホテルに近づいていく。

○一般道(昼)
   渋滞にハマっているタクシー。

○タクシー・車内(昼)
   桔平、貧乏ゆすりをしている。
桔平「これ、しばらく動きませんかね」
運転手「うーん。やっぱり混んでるね、道」
   桔平、しばらく考える。
桔平「おります」
運転手「え?」
桔平「降ろしてください。ここから歩いて行きます」
運転手「いや、場所日比谷でしょ?結構あるよ距離」
桔平「大丈夫です。これ、代金。おつりいらない」
   桔平、お金を置いてタクシーを飛び出していく。
運転手「いや、これぴったりだけど……」

○一般道
   渋滞横を走り抜ける桔平。

○都内ホテル・外観
   記者、一般客で混雑している。

○同・宴会場
   舞台に机が置いてあり、まだ新郎新婦は座っていない。
   宴会場には大勢の有名人が座っている。
   会場のライトが落ちる。
司会者「さあ、皆様。大変お待たせしました。これより、多々納幸雄、かおり両名の結婚を祝し
 て、結婚披露宴を執り行います」
   場内から拍手。
司会者「それでは早速、本日の主役たちにご登場頂きましょう。多々納雪幸雄、かおり両名の登場
 です」
   『Another One Bites the Dust』がかかる。
   扉が開き、幸雄がノリノリで入ってくる。
   観客失笑。かおり、笑顔を取り繕いながら入って来る。
   幸雄は白のタキシード、かおりはノースリーブドレスを着ている。

○同・外観(昼)
   中から音が漏れており、見物客が盛り上がっている。
   桔平、息を切らせて走って来る。
   人混みで会場が見えない中、必死に書き分けて進む。
   一番前までなんとか来る桔平だが、コーンで仕切られており、ホテル敷地前には入れなくな 
   っている。
   無理やり乗り越えようとする桔平。
警備員A「何してんの!ちょっと!」
警備員B「止まりなさい!」
   桔平、係員の静止を振り切り、突破。ホテル前まで走るが、ホテルマンと守衛によって取り
   押さえられる。
   桔平、手足をジタバタさせながら前に進もうとする。
守衛「落ち着いて!」
桔平、地面に伏せられる。

○同・宴会場内(昼)
   披露宴が進行中。
司会者「さあ、それでは、ここで新郎新婦今日までの軌跡をまとめたビデオをご覧いただきましょ
 う」
   雫、前列のテーブルで、同席している常吉に耳打ち。
雫「社長、私少しお手洗いに」
常吉「うん」
   雫、席を立つ。

○女子トイレ
   洗面所で手を洗う雫。

○都内ホテル・廊下(昼)
   ロビーに向かって歩いている雫。
   自販機で缶コーヒーを買い、飲みながらロビーに出ていく。

○同・ロビー(昼)
   ベンチに腰掛ける雫。
   騒音が聞こえ、窓の外を見ると、桔平と警備員が揉めている場面が目に入る。
雫「うん?」
   雫、立ち上がって騒ぎが起こっている場所へと近づく。

○同・会場前(昼)
   桔平、警備員に押さえつけられている。
   そこに雫が近づいて来る。
   雫、警備員に近付く。
雫「どうしたんですか?」
警備員「この男が強行突破を図ったので。すぐ警察を呼びます」 
   桔平、押さえつけられながらもがいている。
雫「ちょっと待って」
   雫、桔平の顔を覗くためにしゃがむ。
警備員「危ないですよ!」
雫「あなた、もしかして」
   雫、桔平の顔を見る。そして警備員に話しかける。
雫「この人を離して下さい」
警備員「へ?」
雫「知人です」
警備員「いや、しかし」
雫「いいから、早く」
警備員「は、はあ」
   警備員、桔平を解放する。
   雫、桔平に手を貸して起き上がらせる。
雫「さあ、どうぞ中へ」
   桔平、少し訝しみながら、雫の後を追う。

○同・廊下(昼)
   雫と桔平、走っている。
雫「もう式は始まってる。急いで」
   桔平、雫を見て何か言いたそうにしているが結局何も言わずに雫に付いていく。
   後ろから警備員が近づいて来る。
   雫と桔平、後ろを見る。
雫「いい?ここをまっすぐ行けば会場に入れる扉がある。そこから入って。私が警備員を止めるか
 ら」
桔平「え、いや」
雫「ここまで無茶したんでしょ? 男なら最後までやり切りなさいよ」
桔平「(ため息を吐きながら)ですよね」
   桔平、走り出す。
   雫、警備員に向かって話しかける。
雫「まだ何かあるんですか?」
   桔平、そのまま走る。

○同・宴会場
   宴会が進行中。
   幸雄は笑っている。
   かおりは真顔で座っている。
   かおりの顔を見て、少し心配そうな常吉。

○同・宴会場扉前
   ドアマンが、参加者のためにドアを開閉している。
   桔平が走って来る。
   ドアマン、桔平のためにドアを開けるが、桔平反対側の扉に体当たりして自力で開ける。

○同・宴会場
   桔平、会場内に入る。
   辺りを見回し、舞台上にかおりの姿を見つける。
桔平「よし!」
   桔平、気合を入れて駆け出す。
   舞台上では披露宴が進行中。
司会「さあ、それでは皆様お待たせしました。新郎の幸雄様によるパフォーマンスのお時間で
 す!」
   場内、黄色い声援が飛び交う。
   テーブルにいた常吉、渋い顔をする。
常吉「何をしでかすつもりだ、あいつ」
   舞台上の幸雄、ゆっくり立ち上がり、舞台脇にあるピアノまで移動。
   移動中に、かおりに向かってウインクをする幸雄。
   かおりは苦笑いで手を振る。
   幸雄、ピアノに座る。
幸雄「(低音で)みなさん、こんばんは」
   女性客の声援。
幸雄「今日は、僕の、いや、僕らのために集まってくれてありがとう。そんな皆のために、感謝の
 気持ちを込めて一曲歌います。この曲はみんなに、そして、最愛の人」
   幸雄、かおりに視線を当てる。
   桔平、客席を走っていく。
幸雄「マイ・ラバー、かおりに捧げます」
   幸雄、キメ顔をする。場内は大声援。
   かおり、苦笑い。
   常吉は自席で顔を覆う。
   桔平、舞台前まで来るが、前に進めない。
   拳を握り、かおりを呼び止めようと息を吸う。
幸雄「それでは聞いて下さい。Hold the Line」
   幸雄が歌おうとした瞬間、大きな音がする。
   観客が静まり、音の方を見ると女性客が一人、割れたワイングラスを持って佇んでいる。
   横にいた桔平は驚きのあまり立ち尽くす。
   かおり、桔平のことを見つける。
かおり「桔平さん?」
   幸雄、女性を見て顔を引きつらせる。
女性「幸雄!」
   女性客が幸雄に向かって叫ぶ。
   観客の注目は幸雄に。
幸雄「は、はは。だ、誰かなあ、君は」
女性「ごまかさないで! 私のことを忘れる訳がないでしょう!」
   女性、一歩踏み出す。
   桔平、隣で状況が飲み込めずに立ち尽くしている。
女性「ずっと私のことのを愛するって約束したのに! なによその女! 結局お金なの?」
   女性、一歩ずつ舞台上の幸雄に近づいていく。
   警備員が女性を止めようと出て来る。女性は桔平を捕まえて、割れたグラスを首筋に当てて 
   人質にする。
女性「来ないで!」
かおり「桔平さん!」
   桔平、不安そうな顔でかおりの顔を見る。
桔平「(か細い声で)う、うそー」
幸雄「え、かおりさん知り合い?」
かおり「あんたこそなによアレ。知り合い?」
幸雄「い、いやあ」
女性「嘘つき!」
   女性、桔平を引きずって舞台上まで来る。
   ようやく会場内戻って来た雫、舞台のモニターに写っている映像を見る。
雫「どういう状況?」
   舞台上では女性の興奮がエスカレート。
幸雄「ね、お嬢さん。だ、誰だか知らないけど、落ち着いて、ね。一度グラスを置こうか」
女性「へえ、白を切るのね。そうやって。でも、お腹の子に関しては言い逃れられないわよ!」
   客席一同息を飲む。
   常吉、倒れる。
   かおり、困惑の表情で幸雄を見る。
   幸雄、ひきつった笑みをかおりに返す。
幸雄「は、はは。にゃんのことかにゃあ」
女性「認めなさい! さもないと、この人死ぬわよ!」
桔平「なんで?」
   女性、桔平をより強く押さえつける。
   警察が入って来る。
警官「落ち着け! 人質を解放しろ!」
女性、周りを囲まれる。
幸雄「待て!」
   女性の動きが止まる。
幸雄「待ってくれ、みゆき」
   騒つく会場。かおりも目を見開いて驚いている。
幸雄「わかった。悪かった。許してくれ。な? その人は解放してくれ」
立花みゆき(29)「ふふ。ようやく認めたわね。私のこと愛してる?」
幸雄「ああ」
みゆき「お腹の子も?」
幸雄「ああ」
みゆき「嘘つき!みんな嘘よ!人の気持ちも考えないで! 同じ気持ちを、あんたにも味合わせて
 やる!」
   みゆき、桔平を解放する。それと同時にかおりに襲いかかる。が桔平が飛びかかり、それに
   続いて警察もみゆきを押さえつける。
警察A「確保!確保!」
   警察関係者がみゆきを連れて出ていく。
   幸雄、連れて行かれるみゆきと顔を合わせる。
   幸雄、みゆきを見送ってからかおりの側に寄って来る。
幸雄「さあ、じゃあ結婚式を再会しますか」
   かおり、幸雄にビンタ。さらにもう一撃を食らわせる。
   かおり、壇上で幸雄をボコボコにする。場内の客は全員引いている。
   かおり、暴行を止め、スッキリした表情で立ち上がる。
   幸雄は顔を晴らしたまま横たわっている。
司会「え、えーと。どうしましょうか?」
   かおり、司会の側に寄って来てマイクを取る。
かおり「皆さん。結婚式を続けます。私と、そこに立っているおじさん、竹内桔平さんとの」
   場内騒然。
   スポットライトが桔平に当てられる。
   立ち尽くす桔平。
   そんな桔平にかおりが近づいて来る。かおり、雪の指から指輪を剥がす。
   そしてその指輪を持って桔平の前に。
かおり「竹内桔平さん。私と、結婚してくれますか?」
桔平「はい、喜んで」
   場内は声援で包まれる。
   2人は抱き合う。
   常吉、雫は涙している。

○テレビ番組
女子アナ「さて、次のニュースです。昨日、加賀かおりさん主演の映画『恋人はサンタクロース』の 
   プレミア上映会が開催され、キャストの皆さんが勢揃いしました」
   キャストがレッドカーペットを歩いている。
   かおりのとなりには桔平。

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