『どうも、探偵部部長の大森です。』第8話「自由に生きるという事は、自由に死を選べるという事だ」 学園

「自殺予告メールが送られてきた」という相談が舞い込み、送り主と真偽のほどを調査する事となった阿部紗香(17)ら探偵部。間もなく突き止めたメールの送り主・有川皆実(17)は紗香に予告が本物であると告げ、こう問う。「何で生きなきゃいけないの?」。
マヤマ 山本 10 1 0 02/02
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第一稿

<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
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<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 友美(17)同2年、紗香の友人
佐野 詩織(17)同2年、風紀委員
阿部 静香(42)紗香の母
阿部 公太(9)紗香の弟
保科 亜紀(30)養護教諭
岡本 久典(51)紗香の担任、探偵部顧問

有川 皆実(17)



<本編>
○東中学校・屋上(夜)
   息を切らしながらやってくる阿部紗香(17)。周囲を見回す。フェンスの向こう側に降り立つ有川皆実(17)の姿を見つける。
紗香M「『何で生きなきゃいけないの?』」
   皆実に向かって何かを叫ぶ紗香。
紗香M「そう聞かれたら、私は何と答えるのだろうか?」

○愛丘学園・廊下
   一人で歩く紗香。
紗香M「とにかく綺麗事を並べるのか」
   紗香の反対側から歩いてくる皆実。
紗香M「厳しい現実を突きつけるのか」
   すれ違う紗香と皆実。
紗香M「私には、その答えを選ぶ自由がある」

○メインタイトル『どうも、探偵部部長の大森です。』
   T「第8話 自由に生きるという事は、自由に死を選べるという事だ」

○愛丘学園・保健室・前
   T「月曜日」

○同・同・中
   椅子に座る紗香。落ち着かない様子。
   一枚の紙を手に取り、紗香の向かいの椅子に座る保科亜紀(30)。
亜紀「まだ慣れないのかしら? 阿部さん」
紗香「え? あ~……そうですね、この部屋は何度来ても……すみません」
亜紀「いいのよ。阿部さんのそういう初々しい所、先生は好きだから。ごちそうさま」
紗香「ごちそうさまって。(話題を変えようと)ところで、依頼したい事ってなんですか?」
亜紀「そうそう、ちょっと気になるメールが届いちゃってね。見たい?」
紗香「えぇ、そりゃあ……」
   亜紀から一枚の紙を受け取る紗香。目を見開く。そこには「私は自殺します。」と書かれている。
紗香の声「『私は、自殺します。』」

○同・探偵部部室・前
紗香の声「『この学校にはイジメが存在します。』」

○同・同・中
   部長席に座る大森宗政(18)とその前に立つ紗香、沢村諭吉(16)。紗香の手にはプリントアウトされたメール文。
紗香「(読みながら)『私は、そんな現状がとても嫌になりました。もし土曜日までにこの問題が解決しなければ、私は自殺します。』。以上です」
沢村「でもこのメール、イタズラという可能性もありますよね?」
紗香「うん。(部長席に向き直って)なので真偽を確かめる、って事も含めた依頼みたいです。大森先輩」
大森「なるほど。確かに、コレがもし本物の自殺予告ならば大変な事態だね」
紗香「そうなんですよ。この学校にイジメがあるなんて……」
大森「いや、そこはさほど問題ではないよ、阿部ちゃん」
紗香「え? いや、まぁ、確かに自殺の方が問題かもしれませんけど……」
大森「いや、そこでもない」
紗香「え? じゃあ……?」
大森「問題なのは『告発文が送られてきた』という事実だ。生徒がこんな告発文を残して自殺したとなれば、マスコミが黙っていないだろうし、ネット上でもある事無い事書かれるだろう。そうなれば入学志願者も減って学園の経営にも打撃だろうし、何より僕たち三年生の進路にも影響が……」
紗香「ちょ、何言ってるんですか。そんな事よりも、今は人一人の命がかかっているんですよ?」
大森「だが、在校生約九百人プラス職員プラス卒業生達の未来に関わる問題であるのも事実だ。そうだろう、阿部ちゃん?」
紗香「それは、そうかもしれませんけど……」
大森「さて、沢村ちゃん。念のため、諸々準備や調整等、しておいてくれたまえ」
沢村「わかりました」
紗香「で、私達は?」
大森「まずはメールの送り主を特定しよう。でなければ、話にならない」
紗香「ですね。でも、そう簡単にできるもんですか?」
大森「なに、簡単さ」

○同・パソコン室・前

○同・同・中
   須賀豊(18)の脇に立つ紗香、大森。
   大森に資料(写真付きプロフィール、ただしこの時点ではまだ顔は見えていない)を渡す須賀。
須賀「(疲れきった表情で)ほれ」
大森「(紗香に勝ち誇るように)ね?」
紗香「(須賀に)お疲れですね」
須賀「本当、人使い荒いよな」
大森「仕方ないだろう、須賀ちゃん? 阿部ちゃんが『どうしても』と言うんだから」
紗香「私のせいにしないで下さいよ」
須賀「なら、仕方ないか」
紗香「信じないで下さいよ」
大森「(資料を見ながら)で、説明してもらえるかい? 須賀ちゃん」
須賀「あ~、はいはい。そもそもそのメールの送信に使われたのは(最前列を指し)あそこのパソコンだった」
紗香「学校から送られてたんだ……」
須賀「そしてその送信時刻、この部屋を使っていたのは二年六組の情報の授業。あのパソコンを使っていたのは出席番号一番、(資料を指し)有川皆実って訳だ」
大森「なるほど、リカちゃんか」
紗香「リカちゃん? アリカワ……って、え、そこ?」
須賀「成績は悪くないし、出席日数にも問題なし。中学時代も調べてみたけど、以下同文だな。あ、中学といえばこの子、阿部ちゃんと同中なんじゃない? 東中だって」
紗香「え?」
   大森から奪うような形で資料を手にする紗香。「市立東中学校卒業」と書かれている。
紗香「本当だ……」
須賀「え、知らないの?」
紗香「あ~、私、中三の秋に転校してきたんで、あんまり……」
須賀「へぇ、珍しいね」
紗香「えぇ、まぁ。(資料を読みながら)あっ、この有川さん、誕生日が今週の土曜日ですよ……」
大森「どうやら、イタズラでこのようなメールを送るタイプとも思えないし、今週の土曜日を指定する動機もありそうだね」
紗香「つまり、本物の自殺予告……」
大森「面白い事になってきたね」
   笑みを浮かべ、部屋を出て行く大森。
紗香「面白い、って……」
   資料に目を落とす紗香。ここでようやく皆実の写真が映る。

○同・廊下
   T「火曜日」
   歩いている皆実。その前に立ちふさがるようにやってくる紗香。
紗香「有川皆実さん、ですよね?」

○同・探偵部部室・中
   入ってくる紗香と皆実。
紗香「大森先輩、お連れしまし……あれ?」
   誰も座っていない部長席。
   そこにやってくる沢村。
沢村「阿部先輩。大森先輩がコレを」
   沢村から封筒を受け取る紗香。「リカちゃんにこれらの質問を漏れなくぶつけてくれたまえ」とメモ書きが添えられている。
紗香「ったく、自分勝手な……」
   封筒の中身を取り出す紗香。分厚い書類の束が出てくる。
紗香「……って、分厚っ」
   その間に部長席を物色している皆実。
皆実「広い部室に立派な机、探偵部って意外と待遇いいんだね」
紗香「あ、その辺勝手にいじらないで……」
   プリントアウトされたメール文を手に取る皆実。
皆実「私をここに呼び出した用件って、やっぱりコレ?」
紗香「あ……」
皆実「まさかこんなに早くバレるとはね~。アンタ達、思ってたより優秀なんだ」
   応接用の席に腰を下ろす皆実。
皆実「じゃ、さっさと始めようよ。私に聞きたい事があるんでしょ?」
紗香「あ、あぁ、はい。じゃあ……」
   皆実の向かい側に座り、書類の束に目を通す紗香。
紗香「では、早速お聞きします。まず『質問1、本当に自殺するんですか?』」
紗香&皆実「って、直球」
   気まずい沈黙。
皆実「するよ。本当に」
   真偽を疑うような目で、皆実を無言でじっと見つめる紗香。
皆実「疑ってるんだ?」
紗香「そういう訳じゃ……」
皆実「じゃあ……(と言いながら、手首に巻いた腕時計を外す)コレでどう?」
   腕時計を外した手首に、リストカットの跡(ただし、やや古い)。
紗香「!?」
皆実「(腕時計を付け直しながら)で、質問は終わり?」
紗香「あ、いえ、まだ。えっと『YES、と答えた場合は質問2へ』か。『質問2、何故予告メールを出したんですか?』」
皆実「当ててみてよ」
紗香「『当ててみてよ、と答えた場合は質問8へ』か……」
紗香&皆実「って、あるんだ」
   互いに目を見合わせる紗香と皆実。
紗香「えっと『質問8、自分をイジメていた連中に対する当てつけであり、かつ心のどこかでは止めて欲しいと願っているんじゃないのかい?』」
紗香&皆実「って、急に口調」
   目を見合わせ、吹き出す紗香と皆実。
紗香「気が合いますね」
皆実「さすが、同中」
紗香「え、知ってたんですか?」
皆実「三年の時に転校してきた子でしょ? あ、私の事は知らないだ?」
紗香「……すみません」
皆実「いいって。転校してきた側って、そんなもんだろうし。ただ、敬語は無しでいこうよ」
紗香「お気遣い、どうも」
皆実「で、さっきの答えが『YES』だとすると、次はどんな質問してくれるの?」
紗香「えっと、その場合は……」
   書類の束をめくる紗香。そこには「いつ自殺しますか?」「どこで自殺しますか?」「自殺方法は何ですか?」等と書かれている。
紗香「……」
   開いていた書類の束を勢いよく閉じ、テーブルの上に置く紗香。
皆実「あれ、もう終わり?」
紗香「……何か『自殺する』前提の質問ばっかりで、嫌になっちゃって」
皆実「そっか。私は興味あったんだけどな。読んでいい?」
   書類の束を手に取り、ページをめくっていく皆実。
紗香「何で、自殺する……の?」
皆実「アンタもなかなか直球だね」
紗香「やっぱり、イジメ?」
皆実「どうだろう? キッカケの一つには違いないけど、別にそんな改まった『死ぬ理由』なんて、ないのかもね」
紗香「じゃあ、何で?」
皆実「何だろう? ただ、今より未来の自分を想像した時に『何で生きなきゃいけないんだろう?』って思っちゃったんだよね。だから……そう。『生きる理由』がない、ただそれだけ」
紗香「でも『心のどこかでは止めて欲しいと願っている』んじゃ……?」
皆実「え? あぁ。まぁ、自覚はしてなかったけど『そうなのかもな』って」
紗香「どうしたら、思いとどまってくれる?」
   開いていた書類の束を勢いよく閉じる皆実。
皆実「これ以上は、内緒」
紗香「そんな……」
皆実「だって、探偵部って『調べる』のが仕事でしょ? 本人に答え聞いてばっかなのってズルくない? だから、その答えは宿題、って事で」
   書類の束を持って立ち上がる皆実。
皆実「その代わり、私もコレ、ちゃんと答えてメールするから」
紗香「メール?」
皆実「? ココに送ればいいんでしょ?」
   書類の束の最終ページを見せる皆実。そこには紗香のメールアドレスが書かれている。
紗香「あ、私の……。(小声で)人のメアド勝手に載せんな、って」
皆実「じゃあ、そういう事で」
   部屋を出て行く皆実。
   そこにやってくる沢村。
沢村「良いんですか? 帰してしまって」
紗香「良くはないけど……。今の私には、説得する材料がないから」
   そこにやってくる大森。
大森「確かに、なかなか手強そうな相手だ」
紗香「そうなんですよ。それが問題で……って、大森先輩!? いつからここに?」
大森「(資料棚の奥を指し)そこにいたよ、ずっとね。ただ、あまりにも寝心地がよくて、つい寝入ってしまったよ」
紗香「寝心地って、どこが……」
大森「それにしても、阿部ちゃんが僕の用意した質問を全然聞いてくれないから、困ってしまったよ。せめて『質問152、何故メールを送る相手が亜紀ちゃんだったんですか?』くらいは聞いてもらいたかったものだね」
紗香「(小声で)だったらもっと若い番号にしろ、って」
大森「まぁ、無いものは仕方ない。今ある材料だけで、報告書を作成するとしよう」
紗香「で。私は何をしましょうか?」
大森「終わりだよ」
紗香「そうですか終わりですか。……って、え、終わりですか?」
大森「あぁ。メールの送り主はわかった。真偽の程も含めて、ね。あとは報告書をまとめるだけだ。僕の主義には反するが、今回ばかりはタイムイズマネー、だからね」
紗香「待って下さい。まだ全然、何も解決してないじゃないですか」
大森「リカちゃんも言っていただろう? 僕らの仕事は調べる事だ。イジメや自殺を止める事ではない」
紗香「放っておく、って言うんですか?」
大森「そういう事だ。今週は他に承った依頼もないし、久々ゆっくりと過ごせそうだね」
紗香「……いやです」
大森「ほう」
紗香「人が一人、イジメられているんです。死のうとしているんです。それを放っておくなんて、私にはできません」
大森「では、どうすると言うんだい?」
紗香「今週は他に依頼が無いんですよね? なら、私が何を調べようと自由。違いますか?」
大森「何も違わないね」
紗香「では、失礼します」
   部屋から出て行く紗香。
沢村「何で阿部先輩は。この件にそこまでこだわられるんでしょうか?」
大森「世の中には、知らない方がいい事もある。それでも、知りたいかい?」

○阿部家・外観

○同・リビング
   入ってくる紗香。
紗香「ただいま~……ん?」
   サッカーボールを持って立つ阿部公太(9)と泣いている阿部静香(42)。
紗香「(非難するように)公太~」
公太「いや、俺別に何もしてねぇって」
紗香「じゃあ何で……?」
静香「公太がね、そこの公園でサッカーしてたら怒られたんだって」
紗香「あ~、確か『サッカー禁止』って書いてあるもんね、あそこ。それで?」
公太「で、『前住んでた所の公園はサッカーできたのにな~』って言ったら……」
静香「(号泣しながら)ごめんね~、公太にまでそんな思いさせて~」
公太「だから、いいって。ほら、姉ちゃんも何とか言ってよ」
紗香「その件に関しては、私も……」
公太「だから、そういうつもりで言ったんじゃねぇんだ、って。それにサッカー出来ないなら出来ないで、どっか別の出来る場所でやればいいだけの話じゃん?」
紗香「……ありがとう」
公太「別にお礼言われる筋合いねぇって」
   泣き続ける静香の姿を見ている紗香。決意を新たにした表情。

○愛丘学園・外観
   T「木曜日」

○同・中庭
   思い思いに昼食をとる生徒達。
   一人、ベンチに座る皆実。そこにやってくる紗香。
紗香「ここ、いい?」
皆実「どうぞ」
   皆実の隣に腰を下ろす紗香。
皆実「昨日来なかったから、諦めたのかと思ってたけど」
紗香「言われた通り、調べてたから」
皆実「へぇ、マジメじゃん。じゃあ、早速宿題の答え教えてよ。確か『どうしたら私が思いとどまるか』だったよね?」
紗香「そう。ただ、これは私の勝手な想像も含まれるんだけど」
皆実「どうぞ」
紗香「有川さんは、保科先生宛てにイジメの告発及び自殺の予告メールを送った。そしてそのメールを元に、私達は有川さんまでたどり着いた」
皆実「それで?」
紗香「以上」
皆実「はい?」
紗香「『たどり着いたから、有川さんは自殺を思いとどまるべきだ』というのが、私の答え」
皆実「……」
紗香「……もう少し説明した方がいい?」
皆実「できれば」
紗香「だよね。じゃあ、まず、私なりに調べた有川さんの人となりについて」
岡本の声「あ~、有川皆実ね~」

○(回想)同・職員室・中
   T「水曜日」
   席に座る岡本久典(51)の脇に立つ紗香。
岡本「正直、あんまり覚えてないな~」
紗香「去年、有川さんの担任だったのに?」
岡本「まぁ、そう言うな。それに、そもそも有川って今は六組だろ? だったらアイツに聞けばいいんじゃないか? ほら、阿部と仲のいい……」
紗香「(話を遮るように)あ~、もう、わかりましたから。じゃあ『一年の時からイジメられていた』とか、そういう事はないんですね?」
岡本「多分な。まぁ、あったとしても最近は教師にわからんように、上手くやるからな~。参っちまうよ。ハッハッハ」
紗香「先生がそういう事言っちゃダメじゃないですか」
岡本「……そう言えば、同じ事を有川にも言われた事があったな」
紗香「それは、どういう時に?」
岡本「朝、偶然会ってな。歩行者用の信号が点滅してたんだが、阿部はそういう時走るか?」
紗香「私ですか? まぁ、それで間に合いそうなら」
岡本「だよな? でも、有川は走るそぶりも見せないで、あっさり諦めてな。だから言ったんだよ。『俺だったら、多少信号無視になっても行くけどな』って」
紗香「先生がそういう事言っちゃダメじゃないですか」
岡本「そしたら有川のヤツ、面白い事を言ってきてな。確か……」
紗香の声「『運を天に任せる』」

○同・中庭
   並んでベンチに座る紗香と皆実。お菓 子を食べている皆実。
紗香「それが、有川さんのポリシーなんだよね? 信号が点滅したら、それは『待ちなさい』と言われているって事で、青だったらその逆で……」
皆実「それだけじゃないよ。例えば、お昼に甘いものが食べたいな~って思ってる時に赤だったら『我慢』、青だったら『食べていいよ』って事にする、とかね」
   と言ってお菓子を手に取る皆実。
紗香「それは例えば、もしまたイジメられ始めたら『死んでいい』事にする、とか?」
   お菓子を食べようとしていた皆実の手が止まる。
紗香「図星?」
皆実「……その前に『また』って言い方が、ちょっと気になったかな」
紗香「言ったでしょ、調べたって」
須賀の声「阿部ちゃん、お待たせ」

○(回想)同・パソコン室・中
   T「水曜日(その2)」
   席に座る須賀と、その脇に立つ紗香。紗香に資料を渡す須賀。
須賀「二年六組の生徒の中で、有川皆実と近からず遠からずな距離感、イジメの事を話してくれる適度な正義感、探偵部や阿部ちゃんとの関係性を独自に数値化して導きだした、今回の件で接触するのに最適な生徒の情報」
紗香「ありがとうござ……(資料を見て驚く)」
須賀「ごめんね。悪気は無いんだよ。ただ、データ上そうなっているだけで……」
紗香「大丈夫です。自分でも薄々、わかってましたから。で、もう一つの方は?」
須賀「あ、そうそう。こっちはビンゴ」
   皆実の資料を紗香に渡す須賀。
須賀「有川皆実は、中学時代にイジメを受けていた。詳しく調べたら、複数の情報ソースが出てきたし、確度は高いと思う。そして何より、不登校だったらしい」
紗香「え? でも、出席日数に問題は無かったハズじゃ……」
須賀「保健室登校だとさ。それでも出席日数にはカウントされるんだと。いい中学校だね」
紗香「だから、メールを送った相手が保科先生だったんだ……」

○同・中庭
   並んでベンチに座る紗香と皆実。
皆実「でも、何で中学時代の事に気付いたの? 私の事は知らない、って言ってたじゃん」
紗香「一昨日見た(手首を指し)傷跡が、少なくともここ一、二年のものじゃなさそうだったから……」
皆実「へぇ、よく見てるじゃん。じゃあ、もう一つのイジメの方は?」
紗香「この学校で始まった新しいイジメ、だよね?」
   階段を上る音。

○(回想)同・階段
   T「水曜日(その3)」
   階段の三段目あたりに座る紗香。下の階から上ってくる鈴木友美(17)。一瞬目が合うも、すぐにそらす紗香。
紗香「……ごめん、呼び出して」
友美「……うん、ビックリした。まさか紗香から連絡来るなんて」
紗香「なんか『友美に聞くのが最適だ』みたいな結論になっちゃって」
   階段を上りきらずに立ち止まる友美。(紗香と背中越しに喋る形)
紗香「で、有川さんの事なんだけど」
友美「うん。私もあんまり詳しい事は知らないんだけど……。ウチのクラスに、北谷里佳ちゃん、って子がいるんだけど」
紗香「里佳ちゃん……って、ややこし」
友美「で、その北谷さんと有川さんは、いつも一緒に居る五人組の中の二人、くらいの関係だと思うんだけど。最近『北谷さんの彼氏が他の女子に手を出している』っていう噂を『有川さんが広めてる』って噂が流れてて」
紗香「噂の噂……って、ややこし」
友美「私が知ってるのは、これくらいなんだけど……」
紗香「その噂って、いつから?」
友美「本当に最近。先週とか」
紗香「ってことは、どちらにしろ、イジメが始まったくらいな感じなのかな……」
友美「そうだね。もしあの噂が本当なら、イジメられ始めてもおかしくないし」
紗香「もし噂が事実と異なるなら、それ自体がもうイジメの一環だし」
友美「だね」
紗香「……で、クラスの人はどんな感じ?」
友美「別に。みんな、見て見ぬフリ」
紗香「黙って見てるのも、イジメだと思うんだけど」
友美「わかってる。でも、正当防衛みたいなものでしょ? 下手に止めに入ったら、こっちがイジメられちゃうし」
紗香「……」
友美「あ、ごめん……」
紗香「別に……気にしてないから」
   しばしの沈黙。
皆実の声「気になる?」

○同・中庭
   並んでベンチに座る紗香と皆実。
皆実「事実だよ、その噂」
紗香「どっちが?」
皆実「両方。里佳の彼氏が私に告ってきたという事実、それを私が里佳に伝えたという事実。まぁ、里佳は信じなかったけど」
紗香「こういうの、伝え方って本当に難しいよね。直接伝えたら、信じてもらえないし、見て見ぬフリをしてれば非難されるし、遠回しなやり方をすれば……」

○(フラッシュ)同・探偵部部室・中
   机に置かれる高校生の男女のデート現場を盗撮した写真。

○(フラッシュ)同・廊下
   対峙する紗香と友美。
紗香「私、こんな事頼んでない!」
友美「紗香……」

○同・中庭
   並んでベンチに座る紗香と皆実。
皆実「どうかした?」
紗香「いや、こっちの話で……。あ、調べた事は一応これで全部なんだけど」
皆実「これで、何であの結論になる訳?」
紗香「有川さんは、中学時代にイジメられて死のうとしたけど死にきれなくて、その時に思ったんじゃない? 『死ねなかったのは、もう少し生きてみろって事だ』『運を天に任せてみよう』って」
皆実「そしてもしまたイジメられ始めたら『死んでいい』事にしよう、って?」
紗香「結果、高校でまたイジメられ始めて」
皆実「だから自殺します。以上」
紗香「でもその前に、有川さんはもう一度、運を天に任せたよね?」
皆実「保科先生宛てのメールの事?」
紗香「そのメールを元に、私達は有川さんまでたどり着いた。運を天に任せた結果、こうして止めにきた」
皆実「なるほど。で、『たどり着いたから、私は自殺を思いとどまるべきだ』」
紗香「どう?」
皆実「ごめん、思ってたのと大分違う答え方だったもんで……。そもそも、あのメールが『運を天に任せた』ものだって、どうして言い切れるの?」
紗香「言ってたじゃん。『自覚はしてなかったけど、心のどこかでは止めて欲しいと願っているのかも』って」
皆実「さぁ? ただの『イジメていた連中に対する当てつけ』だけかもよ?」
紗香「リストカットした時もそうだったんじゃない? 死のうとした時、心のどこかで『生きたい』って思ったんじゃ……」
皆実「……随分とわかった口ぶりだよね」
紗香「わかるよ。だって……」
沢村の声「え、阿部先輩が?」

○同・パソコン室・中
   紗香の資料を手に持って集まっている大森、沢村、須賀。
沢村「中学の頃、イジメられていた……?」
須賀「それで中三の秋なんていう変な時期に転校してた、って事。阿部ちゃんも大変だったんだね~」
沢村「そんな事が……」
大森「意外かい? 阿部ちゃんの性格を考えてみたまえ。正義感が強く、自分の意見をハッキリと言い、かつ融通が利かない。非がある、とは言わないが『イジメを止めに入った結果、逆にイジメのターゲットになる』典型だとは思わないかい? 沢村ちゃん」
沢村「確かに。大森先輩のおっしゃる通りです」
須賀「おいおい、ひどい言いようだな」
大森「ほう。須賀ちゃんも同意見だと思っていたけど?」
須賀「まぁ、否定はしないけどな」
沢村「でも僕は、そこが阿部先輩のいい所だと思ってます」
大森「まぁ、否定はしないがね」

○同・中庭
   並んでベンチに座る紗香と皆実。
皆実「ふ~ん、制服のスカーフで首つりねぇ」
紗香「ドアノブに引っ掛けようとしたんだけど」
皆実「上手くいかなかった」
紗香「(苦笑)。でも、それで吹っ切れて。親にも相談して、まぁお母さんにはめちゃめちゃ泣かれたけど、タイミングも合ったから、家も引っ越そうって」
皆実「いい親じゃん」
紗香「うん。感謝してる」
皆実「で、死んで何になろうとしてたの?」
紗香「死んで何に? 生まれ変わったら、って事?」
皆実「そう。私はね、雲になりたい」
   空を見上げる皆実。
皆実「中学の頃とかさ、たまに屋上に行って何も考えずに雲見てる時が一番幸せでさ。憧れてるんだよね。何も考えず、ただプカプカ浮かんで、行き先は気の赴くまま」
紗香「運を天に任せて、って?」
皆実「わかってるじゃん。……でも、生きてても、なりたいものは何も無い」
紗香「……」
皆実「さっきのアンタの答え、ちょっと惜しいのかもしれない」
紗香「惜しいって、どこが?」
皆実「確かに私は、運を天に任せてメールを送ったのかもしれない。でも、私を思いとどまらせるって事は、ただこうやって『止めて』って言う事じゃないと思うんだ」
紗香「じゃあ、どうすれば?」
皆実「納得させてよ」
紗香「納得?」
皆実「何で生きなきゃいけないのか。何で死んじゃいけないのか」
紗香「だって、それは……」
皆実「少なくとも、私は中学でイジメられて、高校でもイジメられ始めてる。この先、就職したら職場でイジメられて、結婚したらご近所でイジメられて、子供が出来たらママ友の間でイジメられる。そんな人生、何で生きなきゃいけないの?」
紗香「そんな、イジメられる事前提で……」
皆実「まぁ、今のは極端な例だとしても、他の人だってそうじゃん? 学生時代ってきっと人生で一番楽しい時間な訳で。逆に言えば、この先、今以上に楽しい事はないし、むしろ辛い事の方が確実に多い。そうだとわかってて、でも死んじゃいけない理由って、そんなものあるの?」
紗香「……」
皆実「じゃあ、まぁ、コレは今日の宿題って事で」
   立ち去る皆実。
   一人、考え込む紗香。

○同・外観
   T「金曜日」
   チャイムが鳴っている。

○同・二年五組・中
   席に座る紗香。ため息をつく。
紗香「生きなきゃいけない理由、か……」
   スマホを取り出す紗香。
紗香「ん? 何か来てる……」
   スマホの画面。友美からのメッセージと、未登録のアドレスからのメール。友美のメッセージを開く紗香。
   「有川さん、本日欠席」の文字。
友美の声「有川さん、本日欠席。一応、伝えておこうと思って……」
紗香「休み……?」
   急いでもう片方のメールを見る紗香。
皆実の声「自殺決行まで残り24時間を切った所で、もう一度運を天に任せてみようと思う」
   スマホの画面。「ゲームをしよう」の文字。
皆実の声「ゲームをしよう」
   教室を飛び出す紗香。
皆実の声「ルールは簡単。参加できるプレイヤーは探偵部のみ」

○同・廊下
   走る紗香。
皆実の声「私が死のうとしている場所に、私よりも先に来て、私を止められたら探偵部の勝ち。逆は、言わずもがな」

○同・探偵部部室・中
   飛び込んでくる紗香。
皆実の声「宿題の答えはその時に。有川皆実」
紗香「大森先輩!」
   部長席に座る大森と、パソコンを使って作業をしている沢村。
大森「どうしたんだい、阿部ちゃん? そんなに慌てて。廊下は走ってはいけない、と書いてあ……」
紗香「有川さんからメールが来ました」
   スマホの画面を大森に見せる紗香。
大森「ほう、ゲームか。面白そうだね」
紗香「面白がらないで下さいよ。どうしましょう。どうしたらいいですか?」
大森「阿部ちゃん。まさか忘れている訳ではないだろうが、この件は阿部ちゃんが勝手に調べている事だ。そうだろう?」
紗香「もちろん、わかってます。でも、今はそんな事言ってる場合じゃないんですよ」
大森「では、僕にどうしろと?」
紗香「……教えて下さい。人はどうして、死んじゃいけないんでしょうか?」
大森「ほう。それがリカちゃんからの宿題なのかい?」
紗香「はい。でも、昨日一晩考えても、全然答えが出てこなくて……」
大森「それはそうだろう。答えなんてない」
紗香「ない……?」
大森「阿部ちゃん。自由に生きる、という事は、どういう事だと思う?」
紗香「自由に……。職業選択の自由とか表現の自由とか、信教の自由、報道の自由、それから……」
大森「死ぬ自由」
紗香「え?」
大森「自由に生きるという事は、自由に死を選べるという事だ」
紗香「じゃあ、有川さんは死んでもいいって言いたいんですか?」
大森「そこまでは言っていない。ただ『死んではいけない』という理由がない、と言っているんだ」
紗香「でも『理由はない』なんて答えじゃ、有川さんが納得してくれる訳……」
大森「そもそも、僕の答えをそのまま伝えたって意味はないんじゃないのかい? あくまでも君が考えた、心からの言葉を、リカちゃんは待っているんだと、僕は思うよ」
紗香「ですよね……。あ~、とにかく、まずは場所を特定して先回りしないと……」
   部長席にやってくる沢村。
沢村「大森先輩、データの打ち込み、終わりました」
大森「ご苦労だったね、沢村ちゃん。これでようやく、報告書が作成できるよ」
紗香「報告書……? あっ!」
   パソコンの前にやってくる紗香。そこには皆実に渡した書類の束。
紗香「コレ、どうして!?」
   書類の束をめくっていく紗香。それぞれの質問の答えに丸印が付いている。
大森「今朝届いてね。メールではさすがに長いと思ったんだろう。答えは直接、書き込まれていたよ。律儀な生徒だね」
紗香「あった!」
   「いつ自殺しますか?」の欄を指す紗香。「土曜日の〇時ちょうど」に丸印が付いている。
紗香「土曜日の〇時ちょうど」
   「どこで自殺しますか?」の欄を指す紗香。「学校の屋上」に丸印が付いている。
紗香「学校の屋上」
   「自殺方法は何ですか?」の欄を指す紗香。「飛び降り」に丸印が付いている。
紗香「飛び降り」
   書類の束を勢いよく閉じる紗香。
紗香「これだけわかれば、何とかなるかもしれない……」
   部屋を飛び出して行く紗香。
大森「まったく、忙しい人だ。……沢村ちゃん」
沢村「はい」
大森「早速で悪いが、次の仕事だ」

○同・職員室・前
岡本の声「大丈夫だったぞ」

○同・同・中
   席に座る岡本の脇に立つ紗香。
岡本「今現時点で、屋上の鍵が貸し出されている形跡はないし、今日この後に貸し出される予定もない」
紗香「良かった……。あの、その鍵って、探偵部で預からせていただく事は……」
岡本「さすがに無理だろうな」
紗香「ですよね」
岡本「なに、心配する事はないさ。鍵が無きゃ入れないのはお互い様だ」
紗香「だといいんですけどね……」

○同・外観(夕)
   下校する生徒達。

○同・屋上前階段(夕)
   一番上に「屋上につき立ち入り禁止」と書かれた紙の貼ってある扉がある。その扉の施錠確認をする紗香。
紗香「よし、異常なし」
詩織の声「そこで何してるの?」
紗香「いっ!?」
   恐る恐る振り返る紗香。階段の下に立っている佐野詩織(17)。
紗香「佐野さん……」
詩織「また探偵部? 悪いけど、もう下校時間だから。校内から速やかに退去してもらえる?」
紗香「ごめん、事情があって……。もうしばらく、ここにいないとダメなんだ」
詩織「もうしばらくって、何時まで?」
紗香「……一二時過ぎ?」
詩織「は?」
紗香「お願い。訳あって理由は言えないんだけど、とにかく、お願い」
詩織「学校の許可は?」
紗香「いや、その……」
詩織「悪いけど、無許可で居座るようなら、学校の風紀を乱すと受け止め、風紀委員の権限の下、強制的に退去してもらう事になるけど」
紗香「うぅ……」
沢村の声「許可ならありますよ」
   そこにやってくる沢村。用紙を一枚、詩織に手渡す。
紗香「沢村ちゃん」
沢村「ご確認下さい」
   用紙を受け取る詩織。
   「活動許可書」と書かれた紙。岡本の捺印があり、活動時間が「一時まで」活動場所が「屋上前階段」と記されている。
詩織「『午前一時まで屋上前階段を使用』……」
   びくびくしながら詩織を見る紗香。
詩織「確かに、許可は出てるみたいね」
紗香「……あれ、意外とあっさり?」
詩織「書類に問題がない以上、あれこれ言っても仕方ないし。見る?」
   許可書を紗香に渡す詩織。紗香が受け取るも、詩織は手を離さない。
詩織「(小声で)今のうちはね」
紗香「!?」
   去っていく詩織。
沢村「何か、いつもと様子が違いましたね」
紗香「そうだね……。あ、ありがとう沢村ちゃん。助かった。でも、何で?」
沢村「大森先輩から、阿部先輩の補佐を頼まれまして。(手に持っていたビニール袋を掲げ)コレ、差し入れです」

○同・外観(夜)

○同・屋上前階段(夜)
   中腹部分に座っている紗香と沢村。紗香は電話をかけている。
   電話を切る紗香。
紗香「何でこういう時に電話に出ないかな~、大森先輩という人は!」
沢村「もう寝てしまっているんじゃないですかね?」
紗香「……まぁ、そんな時間かもしれないけど」
   二三時三五分を示す紗香のスマホ画面。
沢村「有川さん、本当に来ますかね?」
紗香「それ、どういう意味?」
沢村「実は嘘の回答をしていて、本当は別の場所で、という可能性は……?」
紗香「無いと思う。嘘の情報を混ぜたら、もう『運を天に任せた』事にはならないと思うし」
沢村「そうですよね。すみません、出しゃばった真似をして」
紗香「いや、私も気になってるから。私達側に与えられた情報が多すぎて、何か『止めてくれ』と言わんばかりって感じじゃん? コレはコレで『運を天に任せた』事にならないんじゃないかな、って」
沢村「裏の裏をかいて、僕達がここにいない事に賭けた、とかですかね?」
紗香「わからない。それに、仮に私達がいなかったとしても、鍵が無ければココから飛び降りるなんて出来ないし……」

○(フラッシュ)阿部家・リビング
   サッカーボールを持って立つ公太。
公太「出来ないなら出来ないで、どっか別の出来る場所でやればいいだけの話じゃん?」

○愛丘学園・屋上前階段(夜)
   中腹に座る紗香と沢村。
紗香「どこか別の、出来る場所……」

○(フラッシュ)同・探偵部部室・中
   書類の束を開いている紗香。「学校の屋上」に丸印が付いている。
紗香「学校の屋上」

○(フラッシュ)同・パソコン室・中
   席に座る須賀。
須賀「有川皆実は、中学時代にイジメを受けていた」

○(フラッシュ)同・中庭
   空を見上げる皆実。
皆実「中学の頃とかさ、たまに屋上に行って何も考えずに雲見てる時が一番幸せでさ」

○同・屋上前階段(夜)
   中腹に座る紗香と沢村。勢い良く立ち上がる紗香。
沢村「阿部先輩? どうかされました?」
紗香「沢村ちゃん。これ、私の勝手な想像なんだけど」
沢村「はい」
紗香「いや、ごめん。説明してる時間なさそう。私、ちょっと行ってくるから、沢村ちゃんはココお願い」
   駆け出して行く紗香。

○同・校門(夜)
   走って出てくる紗香。「愛丘学園高等学校」と書かれた看板の前を走り抜ける。

○東中学校・校門(夜)
   四階建ての校舎。
   門の前に立つ皆実。
皆実「さて、行きますか」
   中に入っていく皆実。
   それまで皆実の影に隠れていた「市立東中学校」と書かれた看板がようやく見えるようになる。

○大通り(夜)
   走っている紗香。

○東中学校・教室(夜)
   後方の壁に生徒達の習字作品が貼られている室内。
   教壇に立つ皆実。皆実の投げたチョークが習字作品に当たり、砕ける。その習字作品には「希望の日」と書かれてある。

○大通り(夜)
   信号待ちをする紗香。電話をかけている。
紗香「あのバカ部長!」
   信号が青になり、走り出す紗香。

○東中学校・階段(夜)
   階段を昇りきる皆実。扉の前に立ち、腕時計で時間を確認する。〇時数分前を示す腕時計。

○同・校門(夜)
   駆け込む紗香。

○同・階段(夜)
   駆け上がる紗香。

○同・屋上(夜)
   息を切らしながらやってくる紗香。周囲を見回す。フェンスの向こう側に降り立つ皆実の姿を見つける。
紗香「有川さん!」
   驚き、振り返る皆実。
皆実「へぇ、ココまで来たんだ。やっぱりアンタ達って優秀じゃん」
紗香「じゃあ……」
皆実「でも惜しかったね。時間切れ」
   と言いながら腕時計を指差す皆実。〇時過ぎを示す腕時計。
   T「土曜日」。
紗香「そんな……」
皆実「ねぇ、冥土の土産に教えてよ。何でココだって思ったの?」
紗香「それは……多分、私だったらそうするかも、って」
皆実「『そうする』って?」
紗香「ここは有川さんが最初に死のうとした所だから。私も同じ状況なら、前の中学校を選ぶと思ったから。もちろん、やらないけど」
皆実「そっか。やっぱり気が合うのかもね。アンタと私」
紗香「ねぇ、ソコ危ないからさ、一旦コッチに来てよ……」
   と言いながら一歩踏み出す紗香。
皆実「来ないで!」
   驚いて立ち止まる紗香。
皆実「それ以上近づくなら、今すぐにでも飛び降りるよ?」
紗香「わ、わかったから。落ち着いて」
皆実「落ち着いてるし。そもそも、アンタはゲームに負けたんだから、もう帰ってよ。それとも、私が飛び降りる姿を見届けるつもり?」
紗香「そんな二択、選べる訳ないじゃん。もう止めようよ、お願いだからさ」
皆実「嫌だ」
紗香「『嫌だ』って」
皆実「これは、運を天に任せた結果じゃん。こっちはね、この日を二年以上ずっと待ってたんだよ。それでやっと、神様が『死んでいい』って言ってくれたんだよ。だからさ、もう死なせてくれたっていいじゃん」
紗香「嫌だ」
皆実「『嫌だ』って。だったら答えてみてよ。この間の質問。何で生きなきゃいけない?」
紗香「それは……」
皆実「何で死んじゃいけない?」
紗香「……」
皆実「生きていて、いい事あると思う?」
紗香「……ないよ、きっと」
皆実「え?」
紗香「そりゃ、楽しい事もあるだろうけど、嫌な事はもっとたくさんあって。何倍も辛くて、何倍も苦しくて。『死にたい』って一日百回くらい思うような人生が待ってるのかもしれないよ」
皆実「なら、何で生きなきゃいけないの?」
紗香「……寂しいから」
皆実「え?」
紗香「私が寂しいから。まだ会って三日くらいだけど、何か仲良くなれそうっていうか……。一応は同じ中学だし、何かツッコみ方似てるし、お互いイジメられた事あるし。とにかく、せっかくこうして喋ったりできるようになった子が、急にいなくなっちゃったら、私が寂しいから」
皆実「何それ。そんなの……そんなのアンタの勝手じゃん!」
紗香「そうだよ、私の勝手だよ! だからお願いしてるんじゃん!」
   しばしの沈黙。
皆実「何それ、バカみたい」
   皆実の目から涙がこぼれる。
皆実「(涙を拭いながら)そんな、自分勝手な理由で……」
紗香「ごめん。でも……」
皆実「でも、正直響いた。ちょっとだけ、納得したかもしれない」
紗香「それって……」
皆実「だけど、忘れてない? そもそもアンタ、タイムオーバーなんだよ。もし、私より早くここに来て、それでその言葉かけてくれていたら、って思うとちょっと残念だけど、まぁ、運を天に任せた結果だから、仕方ないよね」
紗香「そんな……」
皆実「じゃあ……」
大森の声「じゃあ、このゲームは僕の勝ち、という事かな?」
   驚き、声のした方に目を向ける紗香と皆実。(紗香から見て)フェンスの向こう側、起き上がる大森。
紗香「なっ……」
皆実「誰?」
大森「どうも、探偵部部長の大森です」
紗香「そんな所で何してるんですか」
大森「少々早く着きすぎてしまったんだが、ここは寝心地がよくてね。ついつい寝入ってしまったよ」
紗香「寝心地、って」
大森「さて。リカちゃん」
皆実「え? いや、私は里佳じゃないけど」
紗香「ごめん、こういう人というか。一応、名字からとったあだ名で……」
皆実「アリカワ……って、え、そこ?」
大森「さて、先ほどのゲームの件だが、僕はリカちゃんより早くココに着き、阿部ちゃんの回答は及第点を得た。ならば、このゲームは僕達の勝ちという事になる」
皆実「それは……」
大森「『運を天に任せた』この結果を重視するのであれば、君はひとまず自殺を諦めるべきだと思うが、違うかい?」
皆実「……そっか。私まだ死ねないんだ」

○同・校門(夜)
   出てくる紗香、大森、皆実。
大森「では、僕はここで失礼するよ。くれぐれも車道に自ら飛び込まないように。それじゃ」
   立ち去って行く大森。
皆実「変な人」
紗香「変な人だよ」
皆実「アンタもね」
紗香「有川さんも」

○大通り
   分かれ道。
   並んで歩いてくる紗香と皆実。
皆実「じゃあ、私コッチだから」
紗香「うん。……ねぇ、有川さん。これからどうするつもり?」
皆実「さぁ? 死ぬつもりだったからさ、何も考えてないや」
紗香「じゃあ、生まれ変わったつもりで生きてみない?」
皆実「……それが、アンタが最初に死ねなかった時に出した答え?」
紗香「だとしたら?」
皆実「まぁ、悪くはないかな」
   笑う皆実。釣られて笑う紗香。
皆実「じゃあ。また学校で」
   歩き出す皆実。
紗香「あ、有川さん」
   振り返る皆実。
紗香「お誕生日おめでとう」
皆実「ありがとう」

○愛丘学園・外観
   T「翌 月曜日」

○同・保健室・中
   向かい合って座る紗香と亜紀。
亜紀「……で、先週のメールの件。まだ報告受けてないんだけど?」
紗香「はい……」
亜紀「どうだったのかしら?」
紗香「……何もありませんでした」
亜紀「何も?」
紗香「はい。あのメール、やっぱりただのイタズラだったみたいですね。いや~、心配して損しちゃいました。ハハハ……」
亜紀「ふ~ん……」
紗香「……」
亜紀「そう。ならいいわ。変な事依頼しちゃってごめんなさいね」
紗香「あ、いえ、別に。他に御用がなければ私はこれで」
   席を立つ紗香。
亜紀「少しだけだけど、大人になっちゃったみたいね。先生、ちょっとだけ寂しいな」
紗香「……。失礼します」

○同・同・前
   出てくる紗香。そこに立っている大森。無言で通り過ぎる紗香。
大森「世の中には、知らない方がいい事もある」
   紗香の後ろを歩き出す大森。
大森「どうやら、阿部ちゃんもわかってきたようだね」
   立ち止まり大森に頭を下げる紗香。
紗香「ありがとうございました」
大森「何の事だい?」
紗香「私は何も出来ませんでした。大森先輩がいなかったら、有川さんは今頃……」
大森「でも、阿部ちゃんの言葉がなかったらリカちゃんはまた同じ事を繰り返していただろうね。僕のした事は、所詮ただの時間稼ぎにすぎない。広い視野で考えれば、阿部ちゃんの行為の方がよほど意味のあるものだったと、僕は思うよ?」
紗香「でも結局、私はあの質問にちゃんと答えられた訳じゃないんですよね。この先、辛い事ばっかりだとわかっていて、何で人は生きるんでしょうか?」
大森「世の中には、知らない方がいい事もある。それでも、人は知りたがる。そういうものだ」
紗香「……はい」
紗香M「『何で生きなきゃいけないの?』」

○阿部家・紗香の部屋
   部屋に置かれた段ボール箱。中にはセーラー服(紗香の転校前の中学の制服)。
紗香M「かつてそう言った女の子に、私は言いたい」

○愛丘学園・屋上前階段
   扉が開いている。
紗香M「安心して欲しい、人はいつか必ず死ぬ」

○同・屋上
   フェンスから下を覗き見る紗香と皆実。
紗香M「そして、人はいつでも死ねる」
    ×     ×     ×
   並んで寝転がり、流れる雲を見つめる紗香と皆実。
紗香M「だから今は、いつ死ぬのか待ってみればいいんじゃないかな?」
   笑い合う紗香と皆実。
紗香M「運を天に任せて」
               (第8話 完)

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