『どうも、探偵部部長の大森です。』第6話「人は見た目で判断するのが、一番手っ取り早い」 学園

喫煙の疑惑をかけられた生徒が、無実を証明して欲しいと探偵部にやってくる。調査を始める阿部紗香(17)だったが、時を同じくしてパソコン部が活動停止処分を受けていた。
マヤマ 山本 10 0 0 01/26
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第一稿

<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 ...続きを読む
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<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 友美(17)同2年、紗香の友人
佐野 詩織(17)同2年、風紀委員
阿部 静香(42)紗香の母
阿部 公太(9)紗香の弟
保科 亜紀(30)養護教諭
岡本 久典(51)紗香の担任、探偵部顧問

青井 純平(18)依頼人
天満 乃愛(18)容疑者
伊志嶺 匡(18)同、風紀委員
江口 辰彦(45)同、生徒指導主任
教師A、B



<本編>
○阿部家・紗香の部屋
   鏡の前で髪型を整える阿部紗香(17)。
紗香「これでよし、と」
   窓から外を見る紗香。
紗香「おぉ~」
紗香M「今朝、空を見た」

○愛丘学園・校門
   雲一つない快晴が広がる。
紗香M「綺麗な快晴だった」
   手荷物検査を行う佐野詩織(17)や伊志嶺匡(18)ら風紀委員。
紗香M「何故だろう」
   伊志嶺と揉める、髪を金色に染めた青井純平(18)。
紗香M「心が洗われた気がした」
   空を見ながら歩いてくる紗香。
紗香M「雲一つない、ただそれだけの事なのに」

○メインタイトル『どうも、探偵部部長の大森です。』
   T「第6話 人は見た目で判断するのが、一番手っ取り早い」

○愛丘学園・探偵部部室・前
   T「月曜日」

○同・同・中
   応接用の席に向かい合って座る大森宗政(18)と青井。大森の傍らに立つ紗香と沢村諭吉(16)。
青井「俺の無実を証明してくれ」
紗香「無実を証明?」
沢村「穏やかではありませんね」
青井「大森も知ってんだろ? 俺、このままじゃ退学されられちまうんだよ」
大森「知っているよ。だがあいにく、既に先約が居てね。僕は承れないんだよ」
   と言って紗香を見やる大森。
紗香「え、私……?」
大森「どうだい?」
青井「どうなんだよ?」
紗香「……わかりましたよ。やりますよ」
大森の声「で、どうするつもりだい?」
    ×     ×     ×
   部長席に座る大森と、その前に立つ紗香。
大森「無実、つまり『やっていない』事を証明するのは非常に難しい。想定しうる全ての疑念を完全に潰しきる事は、理論上不可能だ。『この世界に幽霊は存在しない』事を証明できないのと一緒だね。まぁ、それだけゼロは尊いという事だが」
紗香「だったら、先に言ってくれればいいじゃないですか」
大森「それはすまなかったね」
紗香「まったく……」
   部屋を出ていこうとする紗香。
大森「どこに行くんだい?」
紗香「とりあえず、パソコン部に。まずは依頼人の情報を確かめないと」
大森「成長したね」
紗香「どうも。ところで『先約』って誰なんですか? 私、何も聞いてないんですけど」
大森「安心したまえ。後で説明する事になるよ」
紗香「? まぁ、いいや。行ってきます」

○同・パソコン室・前
   やってくる紗香。
紗香「無実の証明、か。買い物履歴にタバコやライターがあるかどうか確認して……ダメか、それじゃ証明にならないし、そもそもどこまでの履歴を遡れば……あぁ、もう!」
   ドアに手をかける紗香。開かない。
紗香「あれ?」
   ドアに貼られた張り紙。「パソコン部 活動停止」の文字。
紗香「えぇ!?」

○同・探偵部部室・前
   応接用の席に向かい合って座る紗香、沢村と須賀豊(18)。部長席に座る大森。
沢村「パソコン室のパソコンからアダルトサイトを閲覧して活動停止、だそうです」
紗香「何してるんですか!?」
須賀「俺達は何もしてない。冤罪だよ、冤罪」
紗香「そ、そうですよね。パソコン部の方々がそんな事するハズないですもんね」
須賀「そうそう。ウチの部員が、履歴を残したまま帰るなんてヘマをするハズがない」
紗香「……閲覧する事自体を否定して下さいよ」
須賀「少なくとも、俺はもう一八歳だから」
紗香「(小声で)男って最低……」
須賀「という訳で、この冤罪を晴らしてもらうために大森に依頼したんだよ」
大森「そういう事だ」
紗香「だったら、先に言ってくれればいいじゃないですか」
大森「それはすまなかったね」
須賀「無駄足させちゃったみたいでごめんね、阿部ちゃん。今回は、そういう事だから」
紗香「パソコン部の協力なしか……って、あれ? 大森先輩、どうやってパソコン部の無実を証明するつもりですか?」
   大森をじっと見る紗香、目をそらす大森。
須賀「簡単だよ。真犯人を見つければいい」
紗香「あぁ、なるほど」
大森「まぁ、そういう事だ」
紗香「だったら、先に言ってくれればいいじゃないですか」
大森「それはすまなかったね」
紗香「(小声で)……絶対思ってないし」

○同・裏手
   茂みや物置などで周囲から見えづらい場所。並んで立つ紗香と須賀。
紗香「あぁ、もう。何でああいう言い方しかできないんだろうな、あの人は」
須賀「ハハハ、阿部ちゃんも大変だね~」
紗香「まぁ、今回は須賀先輩に手伝っていただけるだけマシですけどね」
須賀「ただの暇つぶしだよ。という訳で、解説よろしく。ここが現場なんでしょ?」
紗香「はい。(依頼書を手に)依頼人は三年の青井純平さん。ご本人曰く……」

○(回想)同・同
   手持無沙汰な様子の青井。何かの臭いを感じ、目を向けるとタバコの吸い殻。
紗香の声「先週の金曜日の昼休み、落ちていたタバコの吸殻を見つけ……」
青井「(吸い殻を手に取り)ったく、誰だ?」
   足音。振り返る青井。駆け込んでくる江口辰彦(45)ら教師達。
江口「おい、何してる!?」
青井「え? (手に持った吸い殻を見て)いや、違う違う。拾ったんだって」
   江口に腕を掴まれる青井。
江口「誰が信じるか、そんな言い訳……」
紗香の声「拾った所を運悪く、生活指導の江口先生に見つかった、との事です」

○同・同
   周囲を見回す須賀の脇に立つ紗香。
紗香「青井先輩は過去に二度、喫煙で停学処分を受けているため、三度目の今回は退学の危機で……何か気になります?」
須賀「あぁ、うん。アレ」
   須賀の指す先、茂みの隙間からパソコン室の窓が見え、ブラインドが開いている。
須賀「あそこのブラインド、たま~に閉まってんだよね。今日は開いてるけど」
紗香「? あぁ、あれパソコン室ですか? ……っていうか、私の話聞いてました?」
須賀「聞いてたけど、本人の証言だけじゃね」
紗香「でも客観的な情報となると、パソコン部の協力がないと……」
須賀「(周囲を見回し)ここだと、目撃者を探すのも難しそうだしね」
紗香「ですね……(来た道を振り返る)あっ」
須賀「どうかした?」
紗香「いや、この場所は確かに見えづらいんですけど、ここに来る道って一本道ですよね?」
   来た道を戻る紗香と須賀。
紗香「しかもこんな場所、滅多に人は来ない。他にココを通った人を見つけられれば……」
須賀「それなら、うってつけの人がいるね」
   紗香と須賀の視線の先、保健室の窓。
亜紀の声「なるほどね……」

○同・保健室・中
   向かい合って座る紗香、須賀と保科亜紀(30)。
亜紀「確かにその日の昼休み、あの場所に向かって歩いていった子、見たわよ。全部で三人」
須賀「三人?」
紗香「(青井の写真を見せ)そのうちの一人は、この方ですか?」
亜紀「そうね。この子は三番目だったわ」
紗香「って事は、残りの二人のうちのどっちかが、真犯人……「?」
亜紀「ところで、パソコン部の話、聞いたわよ?」
須賀「ハハハ、お恥ずかしい」
紗香「おかげでコッチも大変ですよ」
亜紀「こそこそタバコ吸ったり、アダルトサイト観たり。何考えているのかしらね?」
紗香「本当ですよね」
亜紀「もっと興奮する事、あるのにね?」
須賀「そこは僕も、意見交換したい所ですね」
紗香「……あの、話戻していいですか?」
亜紀「あら、残念」
紗香「じゃあ、一人目から……」

○同・外観
   T「火曜日」

○同・探偵部部室・中
   応接用の席に向かい合って座る紗香、須賀と「風紀委員」の腕章をつけた伊志嶺。
紗香の声「一人目、伊志嶺匡」
須賀の声「風紀委員の副委員長だね」
紗香「あの場所へは、一体何をしに?」
伊志嶺「風紀委員としての巡回だ。あの場所は死角で、警戒区域だったんだよ」
須賀「その巡回後に喫煙事件が発生した、と」
伊志嶺「もしかしたら、風紀委員のやり口が筒抜けなのかもしれないな。巡回時間をずらすなどの対策を講じよう」
紗香「その巡回時に、タバコの吸い殻は見ませんでしたか?」
伊志嶺「吸い殻?」
須賀「俺達は今、タバコを吸ったのが青井以外の人間である可能性を調査しててな」
伊志嶺「なるほどな……。すまんが、俺も『人が居なかった』事しか確認していないんだ」
紗香「そうですか……。わかりました、ありがとうございます」
    ×     ×     ×
   応接用の席に向かい合って座る紗香、須賀と地味な女子生徒・天満乃愛(18)。
紗香の声「二人目、天満乃愛」
紗香「あの場所へは、一体何をしに?」
乃愛「……別に」
紗香「言えないんですか?」
乃愛「はい」
紗香「そうか……じゃあ、いつ頃帰りました?」
乃愛「はい?」
須賀「実は、目撃者の保科先生曰く、他の人は行きも帰りも見たけど、天満だけは、帰ってくる姿を見てないんだとさ」
紗香「あの場所にどれくらい居て、いつ頃帰りました?」
乃愛「……覚えていません」
紗香「青井先輩とすれ違ったりとか?」
乃愛「……青井君は何て言ってました?」
紗香「え? あ~『俺は吸ってない』って」
乃愛「それだけ?」
須賀「と言うと?」
乃愛「い、いえ。別に」
   顔を見合わせる紗香と須賀。
    ×     ×     ×
   応接用の席に向かい合って座る紗香、須賀と青井。
紗香の声「三人目、青井純平」
青井「何、俺もまた話すんの?」
紗香「そういえば聞いてなかったな、って。青井先輩、あの場所へは、何をしに?」
青井「……別に、何でもいいだろ?」
紗香「協力してくださいよ。自分の退学がかかってるんですよ?」
青井「別に、俺以外の吸ってた奴を見つけりゃいいだけだろ? で、何がわかった?」
須賀「四限目の間に、あの辺りを用務員さんが清掃してたんだと」
紗香「そして、昼休みにあの場所に行ったのは青井先輩を含めて三人」
青井「ソイツは誰だ?」
紗香「依頼人の方に調査の途中経過をお教えする事はできませんので」
青井「じゃあ、男か? 女か?」
   須賀を見やる紗香。
須賀「まぁ、それくらいなら良いんじゃない?」
紗香「男子一名、女子一名です」
青井「じゃあ、その男が犯人だ。連れてこい」
紗香「何でそう言い切れるんですか?」
青井「それは……タバコ 見りゃわかる。アレは女子が吸うもんじゃねぇ」
紗香「お詳しいんですね」
青井「そりゃ、二回停学くらうレベルだからな」
    ×     ×     ×
   応接用の席に向かい合って座る紗香、須賀と大森。須賀の前にあるノートパソコンから音声が流れる。
青井の声「とにかく、その男ってのが真犯人だ」
   音声を止める須賀。
須賀「以上が、三人の証言」
大森「なるほど、良くわかったよ」
紗香「須賀先輩、その音源はどこから?」
須賀「で、大森はどう思う?」
紗香「無視しないで下さいよ」
大森「僕としては、ペイちゃんの言う事は一理あると思うよ」
紗香「ペイちゃんって」
大森「逆に、阿部ちゃんはどう思ったんだい?」
紗香「私は、あの三人の中で誰がタバコを吸いそうかと聞かれたら……青井先輩かな、って」
大森「その理由は?」
紗香「それは、その……伊志嶺先輩も、天満先輩も、そういうタイプに見えないし」
須賀「逆に青井は、あの見た目で前科もある」
紗香「まぁ、はい」
大森「つまり阿部ちゃんは、人を見た目で判断する、という訳か。少々、意外だね」
紗香「いや、別にそういう訳じゃ……」
大森「いいと思うよ」
紗香「え?」
大森「人は見た目で判断するのが、一番手っ取り早い。実際、性格の良し悪しも、能力の有無も、意外と外見に現れるものだろう?」
紗香「そんな……」
須賀「確かに。実際、人は情報の八~九割を視覚から得ているとも言われているからね」
大森「例えば、もしペイちゃんが優等生だと思われたいのなら、髪を金色に染める必要はない。そうだろう?」
紗香「そうですけど、世の中『見た目に反して意外と』みたいな事もありますし……」
大森「見た目のイメージと違ったとして、何か問題あるのかい?」
紗香「え?」
大森「確かに、見た目で判断した結果、異なる場合もあるだろう。だが、その判断が正しいか否かなど、いちいち答え合わせをするかい? ソレをして、間違っていたとして、大した違いは無いだろう?」
紗香「それは、そうですけど……」
   須賀を見やる紗香。複雑そうな表情を浮かべる須賀。
岡本の声「そうだな~」

○同・職員室・中
   T「水曜日」
   席に座りパソコンを操作する岡本久典(51)の脇に立つ紗香。
岡本「俺も、見た目で判断するかな」
紗香「え~。先生がそれでいいんですか?」
岡本「先生はそれでいいんだよ。長年の経験があるからな。……あ、このメールか? 職員会議議事録、添付します……」
紗香「ありがとうございます。本当、パソコン部がいてくれれば……。あ、青井先輩の喫煙問題の話、載ってますよね?」
岡本「おう。それこそその話と、パソコン部の話が主な議題だったからな」
紗香「ソッチも載ってるんですね。一石二鳥じゃないですか。助かりま……」
江口の声「おい、阿部!」
   振り返る紗香。背後に立つ江口。
紗香「げっ、江口先生」
江口「スカート短すぎだ。あと八ミリ長くしろ」
紗香「八ミリって。何でそんな細かく……」
江口「俺はな、目はいいんだよ。わかったか?」
紗香「……は~い。失礼しました」
   出ていく紗香。
紗香の声「本当、細かい所でグチグチと……」

○同・探偵部部室・中
   書類棚からファイルを取り出し、開いては閉じ、棚に戻したり積み重ねてたりしていく紗香と須賀。
紗香「何なんですかね、江口先生って」
須賀「ハハハ、阿部ちゃんも大変だね~」
紗香「でもおかげで、気づいた事もあって」
須賀「それで、過去の議事録を片っ端から調べよう、って事?」
紗香「はい。多分、この過去の資料の中にも、職員会議の議事録ってあると思うんで。まぁ、パソコン部に頼めれば早かったんですけど」
須賀「ハハハ、ごめんごめん」
紗香「さて、こんなもんかな? あんまり多いと、持って帰るのが大変……」
   振り返る紗香。須賀の前には資料の山。
紗香「なっ!?」
須賀「? ……あれ、多すぎた?」
紗香「ハハハ……」

○阿部家・前(夕)
   紙袋に大量の書類を持って歩く紗香。
紗香「重い……。っていうか、コレ明日持って行かなきゃいけないんだよな……ん?」
   家の前で同級生と思しき女子と対峙する阿部公太(9)。ソレを見て、思わず物陰に隠れる紗香。
紗香「あれは……?」
   泣きながら走っていく女子、複雑そうな表情の公太。
紗香「あ~あ、女の子泣かせた~」
公太「なっ……何見てんだよ!」
紗香「別にいいでしょ。それより、女の子泣かせるなんて、男として最低だぞ」
公太「別にそういう訳じゃ……」
   何かが落ちる音。紗香と公太が振り返ると、ドアの前に立つ阿部静香(42)。荷物が地面に落ちており、泣いている静香。
紗香「げっ」
静香「公太が、女の子を泣かせたなんて……」
公太「だから~……(紗香を睨み)あ~あ、母親泣かせた~」
紗香「そもそもは公太のせいでしょ?」
公太「あ~、もう。言うよ。言えばいいんだろ?」
乃愛の声「告白?」

○愛丘学園・外観
   T「木曜日」
紗香の声「はい」

○同・探偵部部室・中
   応接用の席に向かい合って座る紗香、須賀と乃愛。
紗香「もしかして天満先輩は、あの場所で告白していたんじゃないですか? 青井先輩に」
乃愛「……」
須賀「阿部ちゃんは、何でそう思ったの?」
紗香「ずっと気になっていたんです」
乃愛「私が、あの場所に行った理由ですか?」
紗香「それもですけど、保科先生が帰ってくる天満先輩を目撃していない理由です」
須賀「それはでも、保科先生だってずっと見ていた訳じゃないんだし……」
紗香「でも、あの場所には何もありません。そこに女子一人が歩いていったら、気にするハズです。保科先生なら、尚更」
須賀「それは、納得だね」
紗香「となると、考えられる理由は一つ……」

○(回想)同・保健室・中
   窓に背を向ける亜紀。その間、泣きながら走って帰っていく乃愛の姿。
紗香の声「天満先輩は、走っていた」

○同・探偵部部室・中
   応接用の席に向かい合って座る紗香、須賀と乃愛。
紗香「だから、保科先生は見逃した」
須賀「なるほど。しかもあの場所で、天満みたいな人間が走る理由と言えば……」
紗香「告白して、フラれた?」
須賀「行った理由を言わないのも合点がいくね」
紗香「青井先輩もそれを察して、黙っているんでしょうね」
乃愛「……探偵部さんって、何でもお見通しなんですね」
紗香「認めるんですね」
乃愛「はい。あの場所に青井君を呼び出したのは、私です」

○(回想)同・裏手
   青井と対峙する乃愛。
青井「……悪い。付き合えねぇわ」
乃愛「そう、ですか……。わかりました」
   泣きながら走っていく乃愛。保健室の前を通り過ぎる。
江口の声「逃がすか~!」
乃愛「!?」
   思わず物陰に隠れる乃愛。
   江口を筆頭に数名の教師が走ってくる。
江口「俺は見たぞ、タバコを吸ってる奴を~!」
乃愛「?」
紗香の声「……という事だったそうです」

○同・探偵部部室・中
   部長席に座る大森と、その前に立つ紗香。
大森「……なるほど。それを基にたどり着いたのが、阿部ちゃんの推理か」
紗香「どう思います?」
大森「面白い推理だとは思うけど、もう一押しが欲しい所だね」
紗香「でも、大森先輩と手を組めば……」
大森「いいだろう。ただし、僕もだめ押しが欲しくてね。協力してくれるかな?」
紗香「協力ですか?」

○同・校門
   T「金曜日」
   登校する紗香。周囲の生徒達から注目を集めているが、その理由はこの時点ではまだわからない。

○同・昇降口
   登校してくる友美。その後ろ、髪をピンク色に染めた紗香の姿。二度見する友美。
友美「え、紗香!?」
紗香「……おはよう」
友美「え、どうしたの!?」
紗香「これはまぁ、深い事情があってね」
江口の声「くぉらぁあ、阿部ぇ!」
紗香「来た……」
   駆け込んでくる江口
江口「その髪、どういうつもりだ!」

○同・職員室・中
   江口から説教を受ける紗香。

○同・パソコン室・前
   T「翌 月曜日」

○同・同・中
   入ってくる江口。
江口「おい、阿部。反省文は……」
   窓際の奥の(ブラインドが閉まっている)席周辺に集まる紗香、大森、詩織、青井、伊志嶺、乃愛。少し離れた(いつもの)席で作業をする須賀。紗香の髪色は黒に戻っている。
紗香「お待ちしてました」
江口「何だコレは?」
紗香「とりあえず、コチラにお願いします」
   紗香らの元にやってくる江口。
紗香「まずは皆さん、ご足労いただきありがとうございます」
江口「どういう事だ?」
伊志嶺「僕にもさっぱり」
乃愛「私はもう、話す事は……」
青井「やっと、真実が明らかになる訳だな」
紗香「そうなんですけど、その前に」
   詩織の前に立つ紗香。
紗香「佐野さんは、呼んでないけど?」
詩織「今日は風紀委員の会議もあるの。大した用でなければ、先輩を即刻連れて帰らせてもらおうと。それとも、私が居ると何か不都合でもある?」
紗香「不都合はないですけど……」
詩織「けど、何?」
紗香「世の中には、知らない方がいい事もあります。それでも、知りたいですか?」
   ニヤリと笑う大森。
詩織「どうぞ」
紗香「では、始めます。事の発端は、先々週の金曜日。昼休みに、ここに居る青井純平さんがタバコを吸った、という疑惑が発生します」
伊志嶺「知っている。風紀委員でも話題になったからな」
紗香「しかし当の青井先輩本人は、『落ちていた吸い殻を拾っただけ』と主張しています」
詩織「そんな言い訳を信じるの?」
紗香「ですが……これは詳細を省きますが、あの日青井先輩は、天満先輩に呼び出されてあの場所に行っています」
詩織「え?」
   乃愛に集まる詩織、伊志嶺、江口の視線。
乃愛「……はい。間違いありません」
江口「一体、何で……?」
紗香「(無視して)続けます。あの日、あの時間、あの場所に行ったのは青井先輩、天満先輩、そして『巡回をしていた』と話している伊志嶺先輩。この三人だけです」
伊志嶺「それがどうかしたか?」
紗香「ですがもう一人、あの場所に行った理由を聞かなければならない人がいます」
青井「え? 誰?」
   江口に視線を送る紗香。
紗香「江口先生」
江口「俺を疑っているのか?」
紗香「いえ、単純に聞いてないので。先生は、どうしてあの場所に行ったんですか?」
江口「タバコを吸っている生徒を見たからだ」
紗香「そのようですね。(議事録を取り出し)職員会議の議事録にもそう書いてあります。『江口先生がタバコを吸っている生徒を見つけ、他の先生方とともに現場に急行して取り押さえた』と」
詩織「なら、何の問題もないでしょ?」
紗香「ですが、この議事録にも、気になる事が二つありました」
伊志嶺「気になる事?」
江口「何だ、それは?」
紗香「まず異様に、江口先生の発言が少ない事」
詩織「は?」
   過去の議事録の束を手に取り、一人一人に渡していく紗香。
紗香「これは、探偵部に保管されていた過去の議事録です。この中には、江口先生の発言がそう少なくない数、記されています」
   議事録の中身を確認する一同。
紗香「生徒がバイクに乗っていた件、学校裏に野良犬が住み着いた件、カンニング事件、飲酒事件、生徒の不登校、深夜の繁華街への出入り、野球部の部内暴力、元ヤンキーの転入生……などなど、どの案件でも江口先生の名前が出てきます」
乃愛「『江口先生による提言』『江口先生からの異議』……本当だ」
紗香「もちろん、青井先輩が金髪に染めてきた際や過去二度の喫煙事件の際にも、です」
青井「本当だ。『厳正なる処分を求む』って」
紗香「ですが先週分の議事録には、ほとんど登場しません。何故でしょう?」
伊志嶺「で、二つ目は?」
紗香「これは、先ほどもおっしゃっていましたが、江口先生が一貫して『タバコを吸った生徒を目撃した』と発言している事です」
詩織「別に、何もおかしくないと思うけど?」
紗香「江口先生は一度も、青井先輩の名前を明言していないんです」
青井「あっ……」
江口「それは、この議事録をまとめた先生が、その部分を編集しただけだろう?」
紗香「では、確かめてみますか?」
乃愛「確かめる?」
紗香「須賀先輩、お願いします」
須賀「はいよ」
   パソコンを操作する須賀。以下の音声が流れる。
岡本の声「え~、ではまず、三年の青井純平の喫煙問題についてですね」
教師Aの声「我々が現行犯で取り押さえていますので、間違いはありません」
岡本の声「具体的には、どういった経緯で?」
教師Aの声「まず江口先生から『タバコを吸っている奴がいる』と声をかけられ、私達が同行した形です」
岡本の声「江口先生、間違いないですか?」
江口の声「はい。タバコを吸っている生徒を目撃し、現場に急行しました」
教師Aの声「青井は三度目ですし、退学処分でよろしいのではないでしょうか?」
教師Bの声「しかし、仮にも教育者たる我々が匙を投げるのはいかがなものかと」
教師Aの声「いや、そんな事をおっしゃいますが、実際問題……」
   紛糾する会議。江口の声は聞こえない。
岡本の声「まぁまぁ、皆さん。一度落ち着きましょう」
   パソコンを操作する須賀。音声が止まる。
紗香「全編流すと長いので、止めさせていただきます。希望者が居れば続けますが?」
青井「……もう十分聞いた」
紗香「では、話に戻ります」
江口「おい、阿部。この音源は一体どうやって手に入れたんだ?」
紗香「それは、私にもさっぱり……」
   大森を見やる紗香。
紗香「そもそも、こんなのがあるんだったら、先に言ってくれればいいものを」
大森「阿部ちゃん、話が脱線しているよ」
紗香「失礼。とにかく、江口先生は一度も『青井先輩がタバコを吸っている姿を目撃した』と言っていない事をご確認いただきました」
青井「江口が嘘をついてる、って事か?」
紗香「いいえ。おそらく、江口先生はタバコを吸っている生徒を目撃した。そこまでは間違いないと思います」
青井「だったら……」
紗香「でも角度か距離の問題で、吸っている人物までは見えなかった。違いますか?」
江口「……その時点では、な。だから現場に急行した」
紗香「ですが、江口先生は非常に視力がいい方です。見えていた部分もあるでしょう」
江口「……」
紗香「改めてお聞きします。先生が見た『タバコを吸っている生徒』の、性別と、髪の色は?」
詩織「髪の色……?」
江口「男子だ。……黒髪の」
青井「!?」
紗香「つまり、この中で言うと……」
   全員の視線が伊志嶺に集まる。
紗香「伊志嶺先輩」
江口「この三人の中でなら、そうなるな」
詩織「まさか、伊志嶺先輩が?」
伊志嶺「おいおい、ちょっと待てよ。そんな消去法みたいな決め方で、人を犯人扱いか?」
紗香「つまり、否認される訳ですね」
伊志嶺「当前だ。黒髪の男子なんて、この学校に何人居ると思ってる? 俺達三人以外にあの場所に行った人間が居ないなんて、どうやって証明する? そもそも用務員さんの清掃が完璧だったと言えるのか?」
紗香「証拠を見せろ、と?」
伊志嶺「もしあるなら、だけどな」
紗香「わかりました。お願いします」
伊志嶺「何?」
須賀「了解」
   席を立ち、多数の資料を持ってやってくる須賀。
須賀「(資料を次々と見せながら)まずコレが、現場に落ちていたタバコの吸い殻の銘柄、箱のデザイン画像付き。そしてコレが、伊志嶺のツイッターの裏アカに載っていた写真を拡大したもの。ココ、注目ね」
   須賀の指す伊志嶺の画像、同じ銘柄のタバコの箱が写真に写り込んでいる。
伊志嶺「!?」
須賀「そしてコレが、伊志嶺の電子マネーでの決算書。コンビニでライター買ってるね。そしてコレがさっきの吸い殻に付着していたDNAのデータ。で、コレが探偵部の部室で採取した伊志嶺の髪の毛から採取したDNA。化学部に頼んで、照合してもらおうか?」
   伊志嶺に向けられる視線が徐々に冷たくなっていく。
伊志嶺「……」
須賀「あとコレが……」
伊志嶺「もういい」
詩織「な……」
紗香「『もういい』とは?」
伊志嶺「わかったわかった。俺だよ、俺。俺が吸ったんだよ。それでいいだろ?」
江口「伊志嶺。何だその態度は?」
青井「そうだ。テメェのせいで、危うく俺が退学にされかかったんだぞ?」
伊志嶺「偉そうにすんな。お前は二回やってんだろ。俺は一回目。一緒じゃない」
大森「そうかな? 大差はないと思うけど」
伊志嶺「何だと?」
紗香「確かに、ゼロと一は違いますけど、一と二はそんなに変わらない気がしますね」
青井「わかるわ。何か『一回やった奴』ってレッテル貼られてる感じ」
伊志嶺「好き勝手言いやがって」
須賀「なぁ、伊志嶺、知ってるか? コンピュータの世界って、二進数なんだよ」
伊志嶺「二進数?」
須賀「つまり、0と1だけの世界。言い方を変えれば、『0』か『0以外』か」
大森「だからこそ、ゼロは尊い」
紗香「伊志嶺先輩は、ただの0以外の人、という事です」
伊志嶺「……勝手にほざいてろ」
詩織「……あの、伊志嶺先輩。本当にタバコを吸ったんですか?」
伊志嶺「しつこいな。そうだと言って……」
   冷たい目つきで伊志嶺を睨む詩織。
伊志嶺「(思わず怯み)」
詩織「あなたみたいな人が、二度と風紀委員を名乗らないで下さい」
   部屋から出ていく詩織。
江口「コレで話は終わりだな? 俺も帰るぞ」
紗香「いいえ。まだこれからです」
乃愛「これから?」
紗香「江口先生。しつこいようですが、先生は『タバコを吸っている生徒を目撃した』とおっしゃいましたよね?」
江口「本当にしつこいな」
紗香「一体、どこで?」
江口「!?」
紗香「あの場所は完全に周囲からは死角です。とてもじゃないですが、タバコを吸っている生徒が居たとして、簡単に目撃できる場所ではありません」
乃愛「確かに」
青井「やっぱり、江口が嘘ついてる、って事か?」
紗香「それはないと思います。で、どこで?」
江口「それは……」
紗香「もしかして、ココなんじゃないですか?」
   と言って、ブラインドを開ける紗香。
   窓から見える、裏手の喫煙現場。そこで歯を磨いている沢村。
青井「あれ、あの場所か?」
乃愛「誰かが……歯を磨いてる?」
紗香「はい。今、青井先輩が捕まった現場で、歯磨きをしてもらっています。タバコを吸っているのと、限りなく似た条件でしょう。(スマホを取り出し)沢村ちゃん、ありがとう」
   一礼し、去っていく沢村。
伊志嶺「こんなポイントがあったのか……よく気付いたな」
紗香「現場から、この部屋の窓が見えたんです。という事は、逆もあるんじゃないか、って。つまり先生はここから見た。ですよね?」
江口「……そうなるな」
紗香「さて、そうなるとまた次なる問題が浮上するんですが……ここからは、お願いします」
大森「うむ」
   立ち位置を入れ替わる紗香と大森。
大森「どうも、探偵部部長の大森です」
青井「で、問題って何だ?」
大森「先々週の金曜日、この学校で実はもう一つ、別の事件が発生していたことを知っているかい? ペイちゃん、テンちゃん、イシちゃん、タッちゃん」
紗香「もはや、どれが誰?」
伊志嶺「あれだろ? パソコン部だろ?」
大森「その通り。先々週の金曜日、五限目に情報の授業でこの部屋を使用した際、(目の前のパソコンを指し)このパソコンに、アダルトサイトを閲覧していた形跡が残っていた」
紗香「その日、一~四限目まではパソコン室を使用していなかったため、疑いの目は前日の放課後、最後にこの部屋を使用したパソコン部に向けられ、活動停止処分が下りました。ですが……」
大森「同じ日の昼休み、この部屋を使用した人物が居るのなら、話は変わってくる」
青井「あ……」
   全員の視線が江口に集まる。
大森「先ほど、阿部ちゃんも言っていたね。先週の職員会議で、タッちゃんの発言数が少なかったと」
紗香「言いました」
大森「ペイちゃんの件で発言しづらかったのはわかる。犯人じゃない事を薄々感づいていたのだからね。だがこの日はもう一つ、パソコン部の件も議題に上がっていた、しかしその件でも発言していない。何故だ?」
伊志嶺「実はそもそも、そんなに発言しない先生、ってオチとか?」
大森「いい所を突くね、イシちゃん。では、今週の職員会議の様子を聞いてもらおうか。須賀ちゃん」
須賀「はいよ」
   パソコンを操作する須賀。以下の音声が流れる。
教師Bの声「今日はまず、二年の阿部紗香の頭髪問題についてですね」
江口の声「岡本先生のクラスの生徒ですよね?」
岡本の声「申し訳ない」
江口の声「何なんですか、あの色は? 茶髪だって禁止しているのに、ピンク? 我々教師への挑戦だ」
教師Aの声「まったくですね」
江口の声「こういう事は、一人やると二人三人と真似する者が出てくるんです。厳正なる処分を進言します!」
岡本の声「まぁまぁ、そう言わず……」
   パソコンを操作する須賀。音声が止まる。
大森「これが普段のタッちゃんだ」
伊志嶺「めっちゃ喋るな」
江口「おい、大森。ひょっとして、毎週職員会議を録音しているのか?」
大森「僕達もそんなに暇じゃない。朝イチで須賀ちゃんから依頼された、先週分と今週分だけだよ。今のところは」
紗香「今のところは、って」
江口「(紗香に)まさかとは思うが、おい、阿部。お前、これを確かめさせるためだけに髪を染めたのか?」
紗香「正確には、染めさせられたんです。っていうか、(大森を睨み)何で私が……」
大森「僕が染めても職員会議の話題にはなりえないし、沢村ちゃんは坊主だ。消去法だよ」
紗香「それはそうですけど……」
大森「話を戻そう。普段はこれだけ発言するタッちゃんが、先週の職員会議では黙っていた理由は二つ。ペイちゃんの件も、パソコン部の件も、冤罪だとわかっていたからだ」
須賀「どうなんですか、江口先生?」
江口「……」
大森「さて、これは僕の勝手な想像なんだけど」
   大森を睨む紗香。
大森「あの日の流れは、こうだったんじゃないだろうか?」

○(回想)同・裏手
   やってくる伊志嶺。
大森の声「昼休みになり、まずイシちゃんが例の現場にやってくる。まぁ、巡回のフリもしていたんだろうね」

○(回想)同・パソコン室・中
   パソコンでアダルトサイトにアクセスする江口。後ろの窓のブラインドは開いている。
大森の声「同時刻、タッちゃんが、パソコン室でアダルトサイトにアクセスする」
   ブラインドを閉めるために窓に近づく江口。
大森の声「この時、万が一にも外から見えないようにするためか、はたまた反射を気にしてか、タッちゃんが窓に近づくと……」
   窓から見える裏手。タバコを吸う伊志嶺の姿(ただし髪や服装はわかるが顔はわからない)を見つける江口。
大森の声「タバコを吸っているイシちゃんを目撃する」
江口「この野郎!」
   駆け出す江口。

○(回想)同・保健室・中
   帰っていく伊志嶺の姿を見ている亜紀。
大森の声「しかしその頃にはイシちゃんは既に岐路に付いていた」

○(回想)同・裏手
   青井に告白する乃愛。
大森の声「入れ替わるようにやってきたテンちゃんが、後からやってきたペイちゃんに告白」

○(回想)同・保健室・中
   窓に背を向ける亜紀。その間、泣きながら走って帰っていく乃愛の姿。
大森の声「しかし、フラれてしまう」

○同・パソコン室・中
   窓際の奥の席周辺に集まる紗香、大森、須賀、青井、伊志嶺、乃愛、江口。
大森「おっと、失礼。コレは言わない方が良かったかな?」
乃愛「……もう遅いです」
紗香「すみません、こういう人なんです」
大森「続けるよ? 一方のペイちゃんは、気まずさから時間差で帰ろうと、しばらくその場にとどまっていたんだろう」
   江口を指す大森。
大森「その間にタッちゃんは、他の先生にも声をかけ、現場に向かっていた」
   乃愛を指す大森。
大森「その様子をテンちゃんが目撃している事から、そう時差はないだろう」
   青井を指す大森。
大森「そして、ペイちゃんは教師達に取り押さえられる。しかしタッちゃんは途中で気付いたんだろう」
   伊志嶺を指す大森。
大森「『吸っていたのは髪の黒い生徒だ』と。しかし言わなかった。『どこで目撃したのか』を追及される恐れがあるから、だろうね。職員会議での発言の少なさも同じ理由だ」
   全員を見渡す大森。
大森「以上が僕の推理だ。大きく外れてはいないと思うけど、どうかな?」
江口「い、言いがかりだ」
大森「ほう。それはどこからどこまでが、かな?」
江口「全部だよ、全部」
大森「そもそも、この部屋には来ていない、と?」
江口「あぁ、そうだ」
大森「では、イシちゃんの喫煙をどうやって目撃したのかな?」
江口「それは、だから、現場のすぐ近くで」
大森「すぐ近くなら、すぐ捕まえられたハズだ。でも実際には、人が一人告白するほどのタイムラグが発生している。その理由は?」
紗香「すみません」
乃愛「もういいです」
大森「で、どうなんだい?」
江口「……そうだよ、この部屋だ」
大森「では……」
江口「だが、俺がそのサイトにアクセスした訳じゃない。俺がそのパソコンを起動した時には、もうそのページが開かれた状態だった」
大森「確かにその可能性は否定できないね」
江口「そうだろう?」
大森「けど、ならば何故、職員会議でその話をしなかったんだい?」
江口「それは……その必要が無かったからで」
大森「そもそも、この部屋に何をしに来たんだい? 何故、パソコンを起動したんだい?」
江口「……」
大森「いい加減、認めたらどうだい?」
江口「うるさい! だったら証拠を持ってこい、証拠を!」
大森「確かに今の所、物証はない。けど、今僕の目に映る心証としては、タッちゃんが犯人だと、僕は思う。皆はどうかな?」
須賀「俺も、そう思う」
乃愛「私もです」
紗香「台詞が完全に、犯人が苦し紛れに言うソレでしたしね」
青井「(伊志嶺を指し)コイツの方がよっぽど、上手くごまかそうとしてたよな」
伊志嶺「嫌味かよ」
大森「だそうだ。どうかな?」
江口「そんなもの、お前らの主観だろう? そんなものが、世の中にまかり通る訳ない!」
大森「その通りだ。だからこそ……」
   スマホを取り出す大森。今の江口の映像がリアルタイムで映し出されている。
大森「先生方にもこの様子、見てもらえばいいんじゃないかな?」
江口「なっ……!?」
   大森のスマホに映る江口からも「なっ……!?」の声。
   周囲を見回す江口。カメラを見つける。
江口「……いつから撮っていたんだ?」
大森「最初からさ。もし重要な証言を得られた際、ごまかされないように、と思ってね」
   崩れ落ちる江口。
青井の声「いや~、ありがとな。大森」

○同・探偵部部室・中
   応接用の席に向かい合って座る大森、紗香と青井。
青井「俺の無実も証明されたし、あのウザってぇ江口にも一死報えたし、気分いいぜ」
大森「それは、何よりだ」
青井「しっかし、生徒指導主任がエロ教師とはな。しかもアレ、きっと初犯じゃねぇぞ?」
紗香「須賀先輩によると、あの席のブラインドだけたびたび閉められていたそうです。その全てが江口先生によるものだとしたら……」
青井「だよな。今後、どの面下げてくるんだか、見ものだぜ。じゃあ、俺は帰るぜ」
   立ち上がる青井。
大森「そうだ。一つだけ聞いていいかな?」
青井「何だ?」
大森「ペイちゃんは現在、特定の彼女はいないと聞いている。なのに何故、テンちゃんを振ったんだい?」
青井「タイプじゃねぇんだよ。見た目が」
紗香「え~……。結局、見た目?」
紗香M「今朝、空を見た」

○阿部家・外観
   雲が適度に見える青空。
紗香M「今日の空には、少し雲が混ざっていて」

○同・紗香の部屋
   鏡の前に立つ紗香。黒く染め直した感が見え見えな髪を見てため息。
紗香M「正直、何とも思わなかった」
   窓から外を見る紗香。
紗香M「何故だろう」

○愛丘学園・廊下
   伊志嶺に停学処分が下った旨を記すプリントが壁に貼られている。
紗香M「ほんの少し、雲が混ざっただけでもう……」
   その前に立つ詩織。そのプリントを破る。
紗香M「ただの空なんだ」
               (第6話 完)

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