『どうも、探偵部部長の大森です。』第3話「自分に関する事でなければ、全ては他人事だ」 学園

工業高校の不良生徒達が愛丘学園前に現れた。その不良のバイクを傷つけた犯人を探しているらしい。大森宗政(18)がその捜索を引き受けた翌日、一人の生徒が自首をしてくる。
マヤマ 山本 13 0 0 01/16
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第一稿

<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 ...続きを読む
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<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 友美(17)同2年、紗香の友人
佐野 詩織(17)同2年、風紀委員
阿部 静香(42)紗香の母
阿部 公太(9)紗香の弟
保科 亜紀(30)養護教諭
岡本 久典(51)紗香の担任、探偵部顧問

山田 善人(16)依頼人
逸見 恭平(16)山田のクラスメイト
崔 ヨンスン(16)同
服部 岳(16)同
国見 健太(16)ボクシング部部員
橘 嘉穂(16)同マネージャー
伊達  (18)同部長
中岡 翔(18)泉野工業高校の不良生徒
不良A、B
生徒A、B



<本編>
○コンビニ・中(夜)
   T「日曜日」
   雑誌コーナーにたむろしている中岡翔(18)達。皆、不良風の外見。
   大きな物音がする。
中岡「何だ?」

○同・外(夜)
   出てくる中岡達。倒れているバイク。
中岡「おいおい、マジかよ」
   遠くの方に逃げて行く複数の男。その中に、愛丘学園の制服姿の男も居る。
中岡「あ? あの制服は……愛丘学園?」
紗香M「友達は、他人だ」

○愛丘学園・廊下
   仲良く歩く男女数名のグループ。
紗香M「でも、だからと言って」
   仲良く歩く女子二人組。
紗香M「友達が嬉しい時、悲しい時、怒っている時」
   仲良く歩く男子三人組。
紗香M「それを他人事だと割り切る事は、私にはできない」
   それらの生徒に追い抜かれながら、一人で歩く阿部紗香(17)。
紗香M「それが、友達だと思うから……」

○メインタイトル『どうも、探偵部部長の大森です。』
   T「第3話 自分に関する事でなければ、全ては他人事だ」

○愛丘学園・校門
   T「月曜日」
   人だかりが出来ている。そこに登校してくる紗香。
中岡の声「おい、この学校にいんのはわかってんだぞ!」
生徒A「何あれ?」
生徒B「工業高校の人じゃない?」
紗香「? 何だろう?」
   人だかりの最前列に出る紗香。
   傷のついたバイクにまたがる中岡達。
   紗香達とは違う制服を着ている。
中岡「人のバイク傷つけやがって。タダで済むと思うなよ!」
   他の不良達も次々に喚く。
紗香「うわ~、ヤダヤダ。こういう人達とは関わらないに限る……」
大森の声「どうしたんだね、君達」
中岡「何だテメェら」
紗香「子の声……」
   覗き見る紗香。中岡達の前に立つ大森宗政(18)と沢村諭吉(16)。
大森「どうも、探偵部部長の大森です」
沢村「助手の沢村です」
紗香「ガッツリ関わってるし」
大森「で、君の名前は?」
中岡「中岡翔だ」
大森「なるほど、翔ちゃんか」
中岡「は?」
不良A「何だコラ!」
不良B「ナメてんのか!?」
   思わず大森と中岡達の間に入る紗香。
紗香「(泣きそうな声で)すみません、こういう人なんです」
中岡「……で、その探偵部の部長さんとやらが何の用だ?」
大森「人探しをしているんだろう? 承る、と言っているんだ」
紗香「な……。(大森を引っぱりながら小声で)ちょっと、大森先輩」
大森「何だね?」
紗香「(小声で)こんな依頼、引き受けたって何のメリットもありませんよ。止めておきましょうよ。ね?」
大森「そうかな? 何だか楽しそうだと思わないかい?」
紗香「……ダメだ、この人」

○同・探偵部部室・前
   T「火曜日」

○同・同・中
   向かい合って座る大森と山田善人(16)。大森の後ろに立つ紗香と沢村。
沢村「こちら、山田善人さん。一年四組で、部活動には所属されていません」
大森「ほう、山ちゃんか」
山田「山ちゃん?」
紗香「こういう人なんです」
大森「用件は『素行調査の依頼』か。対象者の名前が書いてないようだが?」
山田「……昨日の、不良です」
沢村「昨日の……工業高校の方達ですか?」
大森「翔ちゃんか」
紗香「何で昨日の人の素行調査を? もしかして、あの不良が探してる人の事、山田君は知ってるんじゃないですか?」
山田「それは……答えなきゃダメですか?」
大森「もちろん、答えなくても構わないよ。ただ、何故翔ちゃんの素行調査をするのか、その理由は教えてもらわないと、承りかねるね」
山田「それは……あの不良の事が知りたいから」
大森「理由としては不十分だ」
山田「何か悪い事をしていそうな気がしませんか?」
大森「以下同文」
山田「世界平和のために」
大森「お引き取り願おうか」
山田「……俺がバイクを傷つけた張本人で、自分の身を守るために何でもいいからあの人の弱みを握りたい。これでいいですか?」
大森「最初からそう言えばいいんだよ」
紗香「山田君が犯人……。っていうか、弱みを握りたいからなんて、そんな理由……」
大森「僕はいいと思うよ。ストレートで、わかりやすい」
紗香「いいんだ」
山田「(表情を輝かせ)じゃあ……」
大森「いいとは思うが、あいにく他校の生徒の調査は専門外でね」
山田「そんな……俺の事をからかっていたんですか?」
紗香「大森先輩、さすがにヒドくないですか?」
大森「そうか。気分を害したのであれば申し訳ない。謝罪しよう」
山田「全然謝ってないじゃないですか。もういいです。素行調査が無理なら、俺は帰ります」
   帰ろうとする山田。その行く先に沢村が立ち塞がる。
山田「何ですか?」
沢村「すみません」
大森「どうだろう、山ちゃん。そこまで言うのであれば僕に見せてくれないかな? 正しい謝罪の仕方を」
山田「何で俺が貴方に謝らないといけないんですか?」
大森「僕ではない。翔ちゃんに、だ。さぁ、今から一緒に翔ちゃんの所に行こうか」
山田「な……」
紗香「大森先輩、正気ですか?」
大森「当然だろう? 依頼主の探している人物が目の前にいるんだ。それとも、阿部ちゃんは僕が代わりにボコボコにされてもいい、とでも言うのかい?」
紗香「いや、そういう訳じゃ……」
   土下座する山田。
山田「そ、それだけは勘弁して下さい」
大森「そう言われてもねぇ」
山田「お願いします。何でもしますから」
大森「沢村ちゃん。今、山ちゃんは何て言った?」
沢村「はい。『何でもします』とおっしゃいました」
山田「え、あ、はぁ……」
大森「(笑みを浮かべ)ならば、君の身の安全は約束しよう。その代わり、付いてきたまえ」
紗香「……何だかすっごく嫌な予感」

○同・ボクシング場・中
   ボクシングの練習をしている三名ほどの部員達。
   ジャブの打ち方を国見健太(16)に教わっている山田。
国見「(見本を見せつつ)で、こう」
山田「(下手な打ち方で)こうですか?」
国見「ん~……何か違ぇな」
   その様子を離れた場所から見ている大森、紗香、伊達(18)。
伊達「……もうちょいマシな奴いなかったか?」
大森「まずは部員を一人加え、廃部を免れる事が先決だろう。贅沢を言っている場合かい?」
伊達「お前に正論言われると、何か腹立つ」
紗香「何か、すみません」
大森「あ、そうそう。最初の一週間はあくまでも仮入部扱い、という約束はくれぐれも破らないようにね、伊達ちゃん」
紗香「伊達ちゃんって」
伊達「わかったよ。その代わり、部員探しの依頼は無期限で継続だからな」
大森「いいだろう」
伊達「じゃあ、阿部さんだっけ? 君はあっちで仕事教えてもらって」
紗香「え、私!?」
伊達「? マネージャー志望じゃないの?」
紗香「(大森に小声で)どういう事ですか」
大森「阿部ちゃんもしばらくボクシング部に通ってもらうよ。山ちゃんの見張りも兼ねてね」
紗香「何で私が?」
大森「他にいないんだ、仕方ないだろう? それとも沢村ちゃんの代わりに、翔ちゃん側との連絡係をやってくれるのかい?」
紗香「……是非コチラで」
大森「では、頑張りたまえ」
紗香「……(苦々しい)」

○同・外観
   T「水曜日」

○同・校庭
   ランニングするボクシング部員達。その遥か後方を走る山田。
   その様子を端っこで見ている紗香と橘嘉穂(16)。
紗香「大丈夫かな……。あの、まだ練習これからだよね?」
嘉穂「このランニングは、あくまでもウォーミングアップですから」
紗香「だよね……」

○同・ボクシング場・中
   腹筋運動をする部員達。そのペースに全く付いていけていない山田。
    ×     ×     ×
   縄跳びをする部員達。そのペースに全く付いていけていない山田。
嘉穂「(ストップウォッチを見て)三分です」
   一斉に縄跳びを止める部員達。その場に倒れ込む山田の元に駆け寄る紗香。
紗香「山田君、大丈夫?」
山田「何で俺がこんな目に……」
   山田の様子を見つめる紗香。

○同・探偵部部室・中
   部長席に座る大森と、その前に立つ紗香。
大森「『何で俺がこんな目に』ねぇ」
紗香「それでも逃げずに練習を続けていますよ。山田君は」
大森「そうか。まぁ、頑張ってくれるといいね」
紗香「そんな他人事みたいな言い方」
大森「なら聞くが、これは阿部ちゃんの身の上に起こっている事なのかい?」
紗香「それは……違いますけど」
大森「自分に関する事でなければ、全ては他人事だ。どんなにめでたい事が起きても、どんなに悲しい事件が起きても、当事者でない限り、それは他人事にすぎない」
紗香「そんな割り切り方、私には……」
大森「阿部ちゃんがいくら山ちゃんの思いに共感しても、その思いを共有する事はできない。セコンドがリングに上がれる訳じゃない。悔しいけど、それが現実だ」
紗香「……大森先輩は、本当に悔しがってるんですか?」
大森「僕は、僕に出来る事をするだけだ」
紗香「で、わかったんですか? 山田君が隠している事」
大森「あぁ、もちろんだ。(足音に気付き)どうやら、来たようだね」
   扉が開き、入ってくる沢村と、その後ろに立つ逸見恭平(16)、崔ヨンスン(16)、服部岳(16)。
沢村「お連れしました」
大森「紹介しよう。山ちゃんの友人のイッちゃん、ヨンちゃん、ハッちゃんだ」
紗香「そんな、テレビのチャンネルみたいに」
    ×     ×     ×
   応接用の席を囲む大森、逸見、崔、服部。大森の後ろに立つ紗香と沢村。
逸見「山田のヤツが何て言ったか知らねぇけど、俺達は関係ねぇからな。なぁ?」
崔「はい」
服部「そうっスよ」
紗香「(小声で)どうだか」
逸見「……ちなみに、山田はアンタらに何て言ってきたんだ?」
大森「逆に聞くが、君達は山ちゃんから何と報告を受けているんだい?」
逸見「俺が先に聞いてんだよ」
大森「僕が先に呼び出したんだよ?」
逸見「……山田は、ただ『俺がやった、って打ち明けた』って」
大森「そうか。今、山ちゃんが何をしているかは知っているかい?」
逸見「ボクシング部に入部させたんだろ?」
大森「正確にはまだ仮入部なんだが、まぁ概ねその通りだ。キツい練習に耐えているらしいよ。まぁ君達、特に現役バスケットボール部員のヨンちゃんやハッちゃんから見れば、大した事ないかもしれないけどね」
逸見「何が言いてぇんだよ」
大森「その練習中、山ちゃんはこう言っていたそうだよ。『何で俺がこんな目に……』とね」
逸見「そりゃ、山田があの不良のバイクを倒したから、だろ?」
大森「どう思う? 阿部ちゃん」
紗香「これは私の勝手な想像なんですけど、山田君は『”何で”俺がこんな目に』じゃなくて『何で”俺が”こんな目に』って言いたかったんじゃないかな、って思います」
服部「……じゃあ、犯人が別にいるって言いたいんスか?」
逸見「やったのは山田だ。間違いねぇ」
大森「ほう。そこまで言い切れる理由は一体何だい?」
逸見「え? それは……」
大森「それは、少なくとも君達もその場に居合わせていたから。違うかい?」
逸見&崔&服部「……」
大森「隠しても無駄だよ。阿部ちゃん」
紗香「あの不良の人は、ウチの高校の制服姿を見た、と言ってました。でも、その日は日曜日です。部活動をしていない山田君が制服を着て出歩いていた、と考えるのは不自然です」
沢村「ちなみに、バスケ部は日曜日も練習をされていたそうです」
服部「まぁ、してたけど……」
大森「それから、もう一つ。イッちゃんは先ほど『バイクを倒した』と言ったね。だが僕達も、山ちゃんも、翔ちゃんも、これまで『バイクを傷つけた』としか表現していないハズだよ?」
逸見「それは……」
崔「……ただの度胸試しだったんです」
服部「おい、ヨンスン」
崔「もうごまかせないだろ? 日曜日、俺と(服部を指して)コイツが部活終わりに、イッチー(逸見のあだ名)と山田を誘ってゲーセン行って、その帰りでした」

○(回想)コンビニ・外(夜)
   物陰に隠れて駐車場を見ている山田、逸見、崔、服部。崔と服部は制服姿。駐車場には中岡のバイクが停められている。
逸見「よし、じゃああのバイクに触って、コッチに戻ってくる、って事で」
崔「あれ、工業高校のヤツのだろ?」
服部「もし見つかったら、全力疾走だな」
山田「(若干引きつり気味に)ハハ……」
逸見「じゃあ、トップバッターは山田」
山田「え? 俺!?」
服部「お、トチんなよ?」
山田「いや、無理無理」
崔「大丈夫だよ。俺達だって何回もやってんだから」
山田「無理だって」
逸見「まさか、やらねぇとか言わねぇよな」
山田「いや……そう言う訳じゃ……」
逸見「四の五の言わねぇで一回やってみ、って。マジ超スリリングだからよ」
山田「……わかった」
    ×     ×     ×
   バイクの元にかけよる山田。
山田「(一息ついて)えっと、どこ触ればいいんだ? ハンドル? 椅子?」
   迷っているうちに足が車体に当たり、倒れるバイク。
山田「あっ、ヤバっ」
   慌てて立て直そうとする山田。後ろから逸見に引っ張られる。
逸見「バカ野郎、逃げんだよ」
山田「う、うん」
   逃げる山田、逸見、崔、服部。

○愛丘学園・探偵部部室・中
   応接用の席を囲む大森、逸見、崔、服部。大森の後ろに立つ紗香と沢村。
紗香「何でそんな馬鹿な事を……」
大森「儀式みたいなものだろう。共通の『後ろめたい体験』を持っている者同士の絆というものは、深まるものだ。だろう?」
逸見「まぁ、そんな所だな」
紗香「それなら、やっぱり四人全員が犯人なんじゃないですか?」
逸見「俺はバイク倒せなんて言ってねぇよ。山田がどんくせぇから」
紗香「だからって、山田君一人に罪をなすりつけるなんて、そんなの友情じゃない。いじめですよ」
服部「いじめてなんかないっスよ。確かに、焚き付けたのは俺らっスけど……」
崔「でも、山田も断らなかったんです。あの日曜日も、探偵部に行かせた時も」
逸見「そう、お互い納得ずくなの」

○同・校庭
   走っているボクシング部員達。その遥か後方を走る山田と紗香。
紗香「山田君はそれで納得してるの?」
山田「(息切れしながら)そう、です。悪いのは、俺、ですから」
紗香「本当はいじめられてるんじゃ……?」
山田「(息切れしながら)いじめ、なんて、とんでない。仲良く、して、くれてます」
   画面から見えなくなる山田。気にせず走り続ける紗香。
紗香「でもやっぱり、こういう時に助け合ってこそ、友達だと思うんだよね。一人に押し付けるなんて、やっぱり変だよ。そう思わな……あれ?」
   振り返る紗香。倒れている山田。
紗香「ちょ、山田君? 大丈夫?」

○同・保健室・中
   ベッドに横になる山田。目を覚ます。そこに立っている紗香と保科亜紀(30)。
亜紀「あら、起きちゃったのね。せっかく、可愛い寝顔だったのに。残念」
紗香「残念って」
山田「あの、俺は一体……」
亜紀「大丈夫よ、ただの貧血。ちょっと無理しちゃったのかしら?」
紗香「すみません」
亜紀「あら、どうして阿部さんが謝るの?」
紗香「それは、その……」
山田「……」
亜紀「まぁ、いいわ。阿部さん、私ちょっと出てくるから、山田君の事見ててくれる?」
紗香「あ、はい。わかりました」
亜紀「ありがと。あ、そうそう。いくら山田君が可愛いからって、イタズラしちゃダメよ?」
   部屋を出て行く亜紀。
紗香「イタズラ、って」
   しばしの沈黙。
山田「あの、イッチー達は大丈夫なんですか?」
紗香「え? 大丈夫って?」
山田「俺はボクシング部に入るのと引き換えに許してもらえましたけど、イッチー達はどんな交換条件を出されたんですか?」
紗香「どうなんだろう? 私にもわからないや。……心配?」
山田「それは、友達ですから」
紗香「本当に友達って思ってる?」
山田「何が言いたいんですか?」
紗香「友達、って難しいよね。相手がいないと成立しないのに、相手が自分の事をどう思ってるかなんてなかなか聞けないし、聞くのも恐いし」
山田「……」
紗香「山田君は、キツい練習して倒れて保健室運ばれて、それでも他の三人を心配してる。凄い事だと思う。でも、向こうも同じように山田君を心配してると思う?」
   無言で山田をじっと見つめる紗香。
山田「……身の丈に合ってない事くらい、わかってますよ」
紗香「身の丈?」
山田「中学の時は、いわゆるイケてないグループにいたんです、俺。でもそんな生活嫌で、高校デビュー……まではいかないけど、クラスでイケてるグループに入ろうと思って、イッチー達とつるむようになったんです」
紗香「でも、山田君とは合わなかった?」
山田「割と早い段階で、薄々気付いてましたよ。でも、今更抜けられないんです。そんな事したら、クラスで孤立しちゃいます」
紗香「一人でいるのは、嫌?」
山田「まわりに『一人でいる』って思われるのが、嫌です」
紗香「そうだね……慣れるまでは大変だよ」
山田「阿部先輩は、友達いないんですか?」
紗香「私には……」
   扉が開き、入ってくる鈴木友美(17)。
友美「失礼しま……(紗香に気付き)あっ」
紗香「あっ……」
友美「……先生は?」
紗香「……そろそろ戻ってくると思う」
友美「そっか。……久しぶりだね」
紗香「……だね」
友美「……元気?」
紗香「……まぁ」
友美「……そういえば、探偵部に入ったんだって? 楽しい?」
紗香「……別に」
友美「……そっか」
   沈黙。
山田「(気まずそうに)あの、これは一体どういう……?」
紗香「うるさい」
山田「すみません」
   部屋に入ってくる亜紀。
亜紀「あら、お客さん?」
紗香「(友美を指して)先生に何か用事があるそうです。(まくし立てるように)じゃあ私は部活に戻るから山田君はゆっくりしててそれでは先生あとはよろしくお願いします失礼します」
   部屋を出て行く紗香。
亜紀「私、お邪魔だったかしら?」

○阿部家・外観(夜)

○同・リビング(夜)
   ソファーに座る紗香。ため息。
   紗香の隣に座り、漫画の単行本を読んでいる阿部公太(9)。
公太「何なんだよ、さっきからため息ため息ため息。マジで気が散るんだけど」
紗香「いいでしょ。嫌なら公太が自分の部屋に行けばいいじゃん」
公太「俺はここで漫画読みたいの」
紗香「私はここでため息つきたいの」
公太「ったく、どうせくだらない人間関係で悩んでんだろ?」
   ため息をつく紗香。
公太「ムカつく奴が居るんだったらさ、一発ぶっ飛ばしちゃえばいいじゃん」
   そう言って漫画本を差し出す公太。
紗香「別に、そういう訳じゃ……」
   公太の差し出した漫画本を見る紗香。
   それはボクシング漫画。
    ×     ×     ×
   漫画本を熟読している紗香。そんな紗香を見てため息をつく公太。
公太「姉ちゃん。俺、そろそろ部屋に戻りたいんだけど……」
紗香「戻れば?」
公太「いや、その漫画……」
紗香「読みたきゃここで読めばいいじゃん」
公太「何だよ、それ。ったく」
   部屋から出て行く公太。
   紗香の読む漫画、主人公がカウンターパンチを決めるシーン。
紗香「カウンター、か。(見よう見まねで真似をして)うりゃ、カウンター!」
   そのパンチングポーズが決まった所で部屋にやってくる阿部静香(42)。紗香と目が合う。
紗香「お母さん、お帰り」
静香「(泣きながら)昔は虫も殺せない優しい子だったのに……」
紗香「いや、これは、そういう訳じゃ……」
静香「(泣きながら)どこで教育を間違ったのかしら」
   号泣する静香。
静香「(号泣しながら)私のせいよ~!」
紗香「あ~、もう!」

○愛丘学園・外観
   T「木曜日」

○同・ボクシング場・中
   リングで伊達を相手にミット打ちをしている国見。リングの外からその様子を見ている紗香。
紗香「はい、三分です」
伊達「オッケー。良かったぞ」
国見「うっす」
   リングから降りてくる国見。
紗香「ねぇ、カウンターって打てる?」
国見「カウンター? 俺は自分のパンチ力だけで十分相手を倒せるんで」
紗香「そっか。いや、山田君にカウンターでも教えてくれないかな、って思ってさ」
国見「山田に?」
   同時に視線を動かす紗香と国見。
   二人の視線の先、腹筋運動をしている山田と、山田の足を押さえる嘉穂。
山田「(苦しそうに)に、じゅう……」
嘉穂「はい、終了。お疲れ」
   その場に倒れ込む山田。
国見「……山田に?」
紗香「山田君みたいに非力なタイプは、カウンターぐらいでしか相手倒せないんじゃないかな、って」
国見「だとしても、山田に火中の栗を拾いにいく度胸があるようには……」
紗香「確かに」
国見「ところで、マネージャー。グローブを(外すの手伝って)……」
紗香「あ~、ごめんごめん」
   国見のグローブを外そうとする紗香。
伊達「マネージャー、ドリンク足りてないよ~」
紗香「すみません、すぐに。あ~、もう。目が回りそう」
   部屋にやってくる沢村。
沢村「失礼します」
紗香「あれ、沢村ちゃん。どうしたの?」
沢村「はい、工業高校の方々との調整が終わりましたので」
紗香「(目を輝かせ)手伝いにきてくれたの!?」
沢村「いえ、また大森先輩からの別件で」
紗香「え?」
沢村「(伊達に)よろしくお願いします」
伊達「本当に来たんだ。とりあえず、こっち」
沢村「はい。では、阿部先輩、失礼します」
   伊達の後を付いて行く沢村の背中を睨みつける紗香。

○同・パソコン部・中
   並んで座る紗香と須賀豊(18)。須賀はパソコンで作業している。
紗香「……って話なんですよ。一瞬期待した私も馬鹿でしたけど、大森先輩ももう少し気を使ってくれてもいいと思いません?」
須賀「ハハハ、阿部ちゃんも大変だね~」
紗香「まったく、私はボクシング部のマネージャーになるために探偵部に入ったんじゃないっての」
須賀「まぁ、俺が弁解する事じゃないけど、大森なりに何か考えがあるんだと思うよ? (画面を見て)よし、印刷開始」
紗香「須賀先輩、何作ってるんですか?」
須賀「うん、大森から頼まれてね。ついでだからアイツに渡してきてよ」
紗香「いいですけど、一体何を……」
   印刷されてきたのは、山田と中岡の写真を使ったボクシングのタイトルマッチ風のポスター。翌週月曜日の日付で「試合開始」と記載されている。
紗香「!?」
紗香の声「何なんですか、コレは!」

○同・探偵部部室・中
   部長席に座る大森に詰め寄る紗香。机の上には先刻のポスターが置いてある。
紗香「どういうつもりなんですか!」
大森「どういうつもり、と言われても、山ちゃんと翔ちゃんにボクシング勝負をしてもらうつもり、としか答えられないね」
紗香「約束が違うじゃないですか。ボクシング部に入ったら、山田君の身の安全は保証するって言いましたよね?」
大森「あぁ。ルール無用の野良試合と、審判立ち会いのもとグローブにヘッドギアまで着けられるボクシングの試合。山ちゃんの身がより安全なのは、どっちかな?」
紗香「でも、こんな試合して……そう、ボクシング部。ボクシング部に迷惑がかかるんじゃないですか?」
大森「その点は心配しなくていい。この試合、ボクシング部はノータッチだ。山ちゃんもまだ仮入部で正式な部員ではないしね」
紗香「また屁理屈を……。そうだ、逸見君達は? あの三人はどうしたんですか?」
大森「もちろん、イッちゃん達にも観に来るように伝えたよ。まぁ、来るかどうかはわからないけどね」
紗香「観に来るって、それだけですか? 何で山田君一人が犯人にされなきゃいけないんですか?」
大森「翔ちゃんの依頼は『バイクを傷つけた奴を連れてくる事』だ。原因はどうあれ傷つけた張本人の山ちゃん一人で十分だろう?」
紗香「うぅ……」
大森「阿部ちゃんの用件は以上かい? なら僕も本題に入らせてもらうよ」
紗香「絶対におかしいです。こんな試合して一体何になるんですか?」
大森「まぁ、何にもならないだろうね」
紗香「は?」
大森「翔ちゃんの憂さは晴れるだろうが、バイクの傷が治る訳ではない。山ちゃんも試合さえ終わればまた今まで通りの生活に戻るだけだろう」
紗香「だったら、こんな試合する意味ないじゃないですか」
大森「阿部ちゃんは、それでいいと思うのかい? このままでは山ちゃんは何も変わらず、阿部ちゃんが疑問を呈しているあの友人関係に戻って行くだけなんだよ?」
紗香「それは……よくないですけど……」
大森「山ちゃん自身が変わらなければ、この試合には何の意味もないだろうね。だがその逆なら、話は違う」
紗香「山田君自身が、変わる……」
大森「この試合は確かに山ちゃんにとってピンチだろう。だが、チャンスでもあるハズだ。あとは山ちゃんがどう受け取るかだ」
紗香「ピンチをチャンスに変える勇気……」
大森「まもなく、山ちゃんがココに来る。おそらく、この試合には否定的だろうね。僕は山ちゃんを説得するから、阿部ちゃんも立ち会って欲しい。その代わり、僕と山ちゃん、どちらに付くかは、阿部ちゃんに任せるよ」
紗香「……はい」
   扉が開き、入ってくる沢村と山田。
沢村「お連れしました」
    ×     ×     ×
   応接用の席に向かい合って座る大森と山田。大森の後ろに立つ紗香と沢村。
山田「こんな試合、俺には無理ですよ」
大森「では、引き受けないつもりかい?」
山田「当たり前です。俺にだって、断る自由くらいありますよね?」
大森「確かに、それは山ちゃんの自由だが、このポスターは既に翔ちゃんの手にも渡っているよ? 犯人だとバレてしまっている以上、この試合から逃げたとしても待っているのは日を改めた野良試合だ」
山田「でも、まだボクシング始めて二日で……」
大森「翔ちゃんもボクシングは素人だ。むしろ山ちゃんの方が経歴は上、という事になるね」
山田「屁理屈だ……。貴方じゃ話にならない」
大森「なら、阿部ちゃん。どう思う?」
紗香「……」
山田「……阿部先輩?」
紗香「私は、チャンスだと思う。山田君が変わる、チャンス」
山田「チャンス……?」
紗香「中学時代、このままじゃ嫌だって思ったんでしょ? 変わりたいって思ったんでしょ? 一度は本気で変わろうとしたんでしょ? その勇気は凄いと思う」
   拳を握りしめる山田。
紗香「ここで逃げたら、また戻るだけだよ? でも山田君ならきっと、このピンチをチャンスに変えられると思う。なりたい自分に一歩近づけると思う。……どうかな?」
山田「……変われると思いますか? 俺」
紗香「山田君が、本気で変わりたいって思ってるなら」
山田「……失礼します」
   部屋から出て行こうとする山田。
紗香「ちょっと待って」
山田「練習に行ってきます。試合まで、時間がないみたいなんで」
紗香「山田君……。わかった。私もすぐ行く」
山田「はい」
   部屋から出て行く山田。
大森「見事な説得だったね」
紗香「……大森先輩のやり方に賛同した訳じゃありませんから。くれぐれも『勝った』とか思わないでくださいね」
大森「僕は勝ち負けを競ったつもりはないよ」
紗香「でも、私が今言った事は本心です。山田君にはもう一度変わって欲しい。そのためには、こういう試合も必要かもしれない。大事なのは、自信を持つ事だと思うから……」
大森「同感だね」

○同・校庭
   T「金曜日」
   ランニングするボクシング部員達。山田も遅れずにゴールする。山田にタオルを渡す嘉穂。
嘉穂「山田君、顔つき変わってきたね」
山田「え、そう?」
嘉穂「うん。体力も付いてきたし、最初の頃とは大違いだよ。この調子で試合、頑張ってね」
山田「ありがとう」
   二人の様子を見ている紗香。

○同・ボクシング場・中
   T「土曜日」
   スパーリングをする山田と国見。
   山田にカウンターを決める(と見せかけて寸止めする)国見。
国見「これがカウンターだ。わかったか?」
山田「……う、うん」
国見「じゃあ、やってみ」
山田「よしっ」
   その様子を見ている紗香。

○河原
   T「日曜日」
   シャドーボクシングをしながら走る山田。自転車に乗って追いかける紗香。
紗香「ファイト~」

○愛丘学園・外観
   T「翌 月曜日」

○同・校庭
   片隅にある仮設リングと両サイドにある二つの小さいテント。リングを囲む大勢の生徒と、その様子を遠巻きに見ている大森。岡本久典(51)に連れられ、そこにやってくる中岡ら不良達。
岡本「おう、大森。相手選手のご到着だぞ」
大森「やぁ、翔ちゃん。ようこそ」
中岡「(リングや観客を見て)へぇ、ちゃんとした試合会場になってんだな」
大森「気に入ってもらえたかい?」
中岡「まだこれからだ」
岡本「彼らをテントに案内すればいいのか?」
大森「是非。あ、翔ちゃんだけは僕と一緒に来てもらえるかな?」
中岡「は? いいけど、何で?」
大森「(封筒を取り出し)今日の試合の、ルール説明をね」
    ×     ×     ×
   控え室代わりの小さいテント。山田にテーピングをしている国見と嘉穂。その様子を見ている紗香。
国見「これでよし、と」
山田「ありがとう」
嘉穂「じゃあ、これ以上いるとマズいから、私達はこれで。部室でいい知らせ待ってるから」
国見「負けんじゃねぇぞ?」
山田「うん、頑張るよ」
   出て行く国見と嘉穂。
紗香「緊張してる?」
山田「……思ってたよりも人集まってるんで」
紗香「ウチの学校、暇人多いから」
山田「……」
紗香「見せてあげようよ。山田君の、生まれ変わった姿を」
山田「はい」
    ×     ×     ×
   マイクを手にリング中央に立つ大森。
大森「どうも、探偵部部長の大森です。まずはこの試合開催に協力してくれた全ての人に感謝を……」
詩織の声「ちょっと待ってください!」
   リング脇にやってくる佐野詩織(17)。
詩織「一体、何なんですかコレは。こんな試合、風紀委員として許可できません」
大森「ほう。何故風紀委員の許可がなければいけないのか、理解に苦しむね」
詩織「そんなの、学校の風紀を乱しまくっているからに決まってるじゃないですか」
大森「では、コレを」
   と言って一枚の紙を詩織に渡す大森。それは生徒会長、岡本、学校長の印鑑が押された許可証。
詩織「な……」
大森「生徒会長、探偵部顧問、学校長の許可は貰っている。これでも不服かい?」
詩織「……どんな卑怯な手を使ったのか知りませんけど、このままで済むと思ったら大間違いですからね」
   その場を立ち去る詩織。
大森「では、時間もない。始めようか」
    ×     ×     ×
   リングに上がる、審判姿の沢村。
沢村「それでは、選手の入場です。まずは赤コーナー、泉野工業高校所属・中岡翔!」
   リングに上がる中岡。セコンドに不良A、B。
不良A「頑張って下さいね」
中岡「……」
不良B「翔さん?」
中岡「あ、あぁ」
沢村「続いて青コーナー、愛丘学園高校所属・山田善人!」
   リングに上がる山田。セコンドに紗香。
山田「阿部先輩。色々ありがとうございました」
紗香「何言ってんの。それを言うなら、試合の後でしょ。私だってこれから、セコンドとして一緒に戦うんだから」
山田「確かにそうですけど、俺と一緒にリングに上がってくれる人はいませんから」
   客席を見る山田。大勢の観客の中にいる逸見、崔、服部。
山田「ここからは、俺一人だから。俺が頑張らないと」
紗香「そっか。ここからは他人事か」
山田「え?」
紗香「ううん、何でもない。頑張ろう」
山田「はい」
    ×     ×     ×
   ゴングが鳴る。挨拶代わりにグローブを合わせる山田と中岡。
山田「練習通りやれば大丈夫。大丈夫……」
   中岡のパンチが山田に当たる。怯む山田。
紗香「山田君!」
   中岡の前に防戦一方の山田。
   心配そうに見ている逸見、崔、服部。来賓席のような席に座っている大森、岡本。
岡本「おいおい、大丈夫か? あれ、大ピンチだろ?」
大森「まぁ、今の所はね」
   中岡の前に防戦一方の山田。
紗香の声「このままじゃ嫌だって思ったんでしょ?」

○(フラッシュ)同・探偵部部室・中
   応接用の席越しに対峙する紗香と山田。
紗香「変わりたいって思ったんでしょ? 一度は本気で変わろうとしたんでしょ?」
山田M「そうだ」

○(フラッシュ)同・校庭
   山田にタオルを渡す嘉穂。
山田M「俺だって変われるんだ」

○(フラッシュ)同・ボクシング場。中
   国見からカウンターを教わる山田。
山田M「そのための練習もしてきたんだ」

○同・校庭
   山田と中岡の試合、防戦一方の山田。
紗香の声「山田君ならきっと、このピンチをチャンスに変えられると思う」
山田「うお~!」
   山田のカウンター気味のパンチが中岡に当たる。大した威力ではなかったが一瞬の間の後、倒れる中岡。
山田「え?」
沢村「(山田に)コーナーへ。ワン、ツー」
   思わず顔を見合わせる山田と紗香。
沢村「スリー、フォー」
   歓喜に沸く観客。驚く逸見、崔、服部。
沢村「ファイブ、シックス」
   動揺する不良A、B。
沢村「セブン、エイト」
   笑みを浮かべる大森。
沢村「ナイン、テン。勝者、山田!」
   山田の腕を高々と上げる沢村。
山田「やった……勝った……やった~!」
紗香「やった~!」
   駆け寄る不良A、Bの手を借りずに立ち上がる中岡。リングを下りる。
山田「あ、待ってください」
中岡「(立ち止まり)……なんだよ」
山田「バイク傷つけて、すみませんでした」
   深々と頭を下げる山田。
中岡「……けっ」
   帰って行く中岡。慌ててその後を追う不良A、B。
   山田に駆け寄る逸見、崔、服部。
服部「山田~!(と山田に飛びつく)」
山田「おわっ、ビックリした」
崔「まさか勝つなんてね。驚いたよ」
逸見「おかげで助かったわ。マジでサンキュー」
山田「お礼を言わなきゃなのは、俺の方だよ」
逸見「え?」
山田「今までありがとう。友達でもないのに一緒に居てくれて。でももう、大丈夫」
逸見「大丈夫って、何が?」
山田「もう無理して一緒にいてくれなくても俺は一人で大丈夫だし、それに……」
   全く違う方向に視線を向ける山田。
山田「一人でもないから」
   山田の視線の先、ボクシング場の前にいるボクシング部の面々。そこに向けて山田がガッツポーズをすると呼応するように盛り上がる。
   その様子を見ている紗香。笑顔。

○同・探偵部部室・前
   T「火曜日」
紗香の声「……で、山田君なんですが」

○同・同・中
   部長席に座る大森とその正面に立つ紗香。紗香の後ろで書類整理をする沢村。
紗香「正式にボクシング部に入部したそうです」
大森「なるほど。ボクシング部も廃部を免れて、これで一石二鳥、という訳だね」
紗香「満足ですか?」
大森「不満そうだね?」
紗香「私は、大森先輩のやり方には納得してません。今回は結果オーライだっただけです」
大森「まったく、山ちゃんを見習って、阿部ちゃんも少しくらい変わったらどうだい?」
紗香「それはこっちの台詞です。大体……」
   言いながら身振り手振りが大きくなる紗香。沢村とぶつかり、封筒の中から数枚の写真が床に落ちる。
沢村「あっ」
紗香「あ、ごめん沢村ちゃん」
   写真を拾う紗香。それは中岡が他校の不良にカツアゲされている写真。
紗香「!? 何ですか、コレ」
大森「何に見える?」
紗香「あの不良の弱み……? でも、他校の生徒の調査はできないハズじゃ……」
大森「『専門外』とは言ったが『できない』とは言ってないよ?」
紗香「……これ、何に使ったんですか?」
大森「世の中には、知らない方がいい事もある。それでも、知りたいかい?」
紗香「この写真で脅して、負けさせたんですか? 八百長だったんですか?」
大森「いいじゃないか。おかげで山ちゃんは変わる事ができたんだからね」
紗香「そういう問題じゃ……」
大森「『大事なのは自信を持つ事』なんだろう?」
紗香「……もういいです!」
   出て行く紗香。

○同・同・前
   出てくる紗香。歩き出す。
紗香「まったく、これじゃせっかくの試合が台無し……あっ」
   すれ違うように歩いてくる友美に気付く紗香。友美も紗香に気付く。
友美「あっ」
   しばしの沈黙。友美から目をそらすようにして歩き出す紗香。
大森の声「阿部ちゃんも、少しくらい変わったらどうだい?」
   友美とすれ違う紗香。
紗香「……(小声で)おはよう」
友美「!?」
   そのまま歩いて行く紗香。
友美「おはよう」
   立ち止まる紗香。再び歩き出す。
紗香M「友達は、他人だ」

○同・廊下
   歩いている紗香。
紗香M「だから、友達の身に起きる事は、他人事でしかない」
   何かに気付き、窓の外を見る紗香。
紗香M「ただ、嬉しそうな友達の姿を見て嬉しくなる気持ち、悲しそうな友達の姿を見て悲しくなる気持ちは」
   紗香の視線の先、二人一組でストレッチをしているボクシング部の面々。山田と国見が組んでおり、すぐ側に嘉穂もいる。
紗香M「きっと、自分の事のはずだ」
   笑顔の山田、国見、嘉穂。
紗香M「少なくとも今は」
   その様子を見ている紗香。笑顔。
紗香M「そう、思いたい」
               (第3話 完)

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