【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー
HB=ホストブラザー(ホストハウスの息子) 9歳
HS=ホストシスター(ホストハウスの娘) 7歳
○宇宙船の中
地球家族の4人の子ども(ジュン、ミサ、タク、リコ)が楽しそうに話している。
ジュン「夢を見ているみたいだね」
ミサ「ほんと、まだ信じられないわ」
タク「長い夏休みの初日から旅行だもんね」
ミサ「そう、昨日まで学校だったんだから」
ジュン「そういえば、ミサは、通知表どうだったの?」
ミサ「相変わらずかな。美術と家庭科はばっちりだけど」
ジュン「さすが、ファッションデザイナーを目指しているだけあるね」
ミサ「そんな、デザイナーなんて、夢のまた夢よ」
ジュン「生活面では、いろいろとほめられたんじゃないの? 学級委員もやってるし、クラスのみんなと助け合っているし」
ミサ「うん、でも、ちょっといたずらが多いって書かれちゃった。ジュンは?」
ジュン「理科と工作、体育がいい成績だったよ」
ミサ「機械いじりにかけては、誰にも負けないもんね」
ジュン「タクはどう? いつもどおり、体育はだめだけど算数は良かったのかな?」
タク「今回は理科も良かったよ」
ミサ「タクは生き物係もやってるしね」
タク「うん、人にも動物にもとても優しいって書いてあった」
ジュン「優しすぎるとは書いてなかった?」
ミサ「ハハハ」
ジュン「リコは? 先生、何て書いてあった?」
リコ「とてもおとなしいって」
タク「そりゃ、そのとおりだね。ほかには?」
リコ「物覚えがとてもいいって」
ジュン「リコの記憶力には脱帽するよ。ほかには?」
リコ「イチゴが大好きだって」
ミサ「そのまんまね。そんなこと通知表に書かなくてもわかるわ。ほかには?」
リコ「そそっかしいって」
ジュン「何度もドブに落ちたり、服を汚したりするもんな。でも、自分がそそっかしいと言うよりは、リコはよく災難にあうんだよね」
ミサ「悪い星の下に生まれたのよ、きっと」
タク「悪い星か・・・」
ジュン「星といえば、今僕たちは、地球の外にいるんだよ。信じられないね」
タク「地球の外・・・」
リコ「第二地球群・・・」
その後ろで、父と母がほほえんでいる。
父「旅行が決まってからの1ヶ月間があっという間だったな」
母「そうね」
○1ヶ月前の回想
自宅の居間。
家族5人がくつろいでいると、父があわてて入って来る。
父「おーい、大変だ、ビッグニュースだぞ」
母「どうしたの、お父さん」
父「第二地球群のツアーが当たったんだよ」
タク「なんだっけ、それ?」
父「ほら、去年の年末に申し込んだじゃないか。でも、まず当たる訳が無いと思ったから、忘れるのも無理ないか。これだよ、これ」
父、書類を見せる。
母「あー、思い出した」
ミサ「第二地球群の旅ね」
タク「すごーい、当たったんだ」
ジュン「家族全員で行けるんだね。楽しみ」
ミサ「でも、よく考えたら、いつ行くの? そんなに長い間、学校休めないよ。お父さんだって、会社があるし」
父「ここに書いてあるだろ。地球で1日経つ間に、第二地球群では10日以上経つんだよ。だから、地球の時間で言えば、そんなに日数はかからない。夏休みを使えば、みんなで行けるよ」
リコ「わーい」
○再び、宇宙船の中
地球家族6人の前に、乗務員の男性が現れる。
乗務員「皆様、こんにちは」
地球家族全員「こんにちは」
父「皆様と言っても、私たち6人家族だけだね」
乗務員「そうです。これは、6人専用の宇宙船です。今回、地球から旅行されるのは1組だけですから」
タク「へえ」
乗務員「それでは、ただいまより注意事項を説明します。このツアーは、第二地球群の旅というもので、地球に似た文明を持つ惑星群を訪問してまわるものです。それぞれの星の中にいくつかの国があり、みなさんは、1カ国に1泊ずつします。ご家族6人が、家族そろってホームステイします。どの星のどの国も、地球の言葉がそのまま使われていますので、言葉に苦労することはほとんどありえませんが、中には独自の方言が発達している場合があります。ホームステイのホストファミリーの方々は、必ず地球の言葉が話せますのでご安心ください」
ジュン「家族みんなでホームステイか・・・」
母「文化はどんな感じですか? 地球に比べて、発展しているんですか?」
乗務員「地球の先進国よりも進んだ所や遅れた所もたまにありますが、たいていは、同じくらいです」
父「なるほど」
乗務員「次に、ホームステイ先の住所と地図は、お配りした資料の中に入っています。家に着いたら、チャイムはありませんので、いきなりドアを開けて、おじゃまします、とおっしゃってください。みなさんで、ちょっと練習してみましょう」
地球家族全員「おじゃまします!」
乗務員「もっと元気よく」
リコ「(大声で)おじゃまします!」
父「お、リコ、元気がいいね。よし、旅行中の、おじゃまします係は、リコにまかせよう」
リコ「へんな係・・・」
ミサ「でも、ドアに鍵はかかっていないんですか?」
乗務員「鍵は無いのが普通です。なぜなら、今回訪れるそれぞれの星には犯罪が無いからです」
タク「犯罪が無い・・・」
乗務員「罪を犯したいという欲求が生じることがまったく無いのです。ですので、地球のみなさんが悪影響を与えることのないようくれぐれもお願いしますね。実は、ご家族みなさんのことは、あらかじめ調べさせていただいています。みなさんが当選されたのは、単なる抽選ではありません。旅行中に問題を起こされると困りますので、そのようなことのない方々を、選ばせていただいたのです」
ジュン「そうだったのか」
乗務員「さて、犯罪はありませんが、病気にかかったり、命にかかわることが起きる可能性はありますので、現地の方々のアドバイスに従って、注意して行動してください。特に、習慣や文化が異なり、時には自然環境も異なります。よくも悪くも、その土地の独自の文化や習慣が非常に発達しています。また、地球の科学では考えられないような自然現象が発生する国もあります」
母「みんな、気をつけましょう」
乗務員「また、たとえば、リコさん」
リコ「はい」
乗務員「そのリュックに貼られた動物の絵はなんですか?」
リコ「これは、ええと・・・メガネガメです」
母「あ、地球で今はやっているアニメのキャラクターの動物です。この子は大ファンなんです」
乗務員「極端に言いますと、そのキャラクターが大歓迎される星もあれば、そのワッペンをつけたままでは気まずくて入国できない場合もあるのです」
父「へえ、難しいですね」
乗務員「まあ、いろいろな星があるとだけ理解してくだされば結構です。あとは着いてからのお楽しみということで。さあ、そろそろ最初の星の最初の国に到着します」
ジュン「え、もう着くの? 早い!」
○空港の出入り口
地球家族6人が出発するところ。乗務員が見送る。
乗務員「地図がありますので、ここから、ホームステイ先にはご自身で歩いて行ってください。それでは良いご旅行を!」
父「どうもありがとうございました。さあ、みんな、行こう」
○一軒の家のドアの前
地球家族が立っている。父が地図を持って見比べている。
父「ここかな?」
ジュン「ドアをいきなり開けるんだよね」
リコ、ドアを開ける。
リコ「おじゃましまーす」
目の前に、おばあさんが立っている。
おばあさん「ヒエー」
おばあさん、驚いて腰を抜かす。
母「大丈夫ですか」
ジュン「救急車を!」
この家の家族が、あわてて玄関に出てくる。
○道
地球家族6人が途方に暮れていると、乗務員が走って来る。
乗務員「あ、いやな予感がしたんで、後を追いかけたんです。地図の見方が反対ですよ。これでは逆方向です。家がまったく違います」
父「失礼しました」
母「どうして、あの人はあんなに腰を抜かしてしまったんでしょうか。もちろん、いきなりドアを開けて驚かせてしまった私たちが悪いんですけど」
乗務員「ま、あれでよかったんですよ。刺激になって。ここの人たちは、普段から驚くことが無さすぎて、ちょっと何か起きると、めちゃくちゃ驚いてしまうんです」
父「なるほど」
○ホストハウスのドアの前
地球家族が立っている。父が地図を持って見比べている。
父「この家だな」
リコがドアを開ける。
リコ「おじゃま・・・」
そのとき、大きな蛇のようなものが、勢いよくドアから飛び出してくる。
リコ「うわっ」
地球家族、あわてて逃げ出す。
ドアの向こうから、HF、HMが出てくる。
HM「すみません、驚かせてしまって。我が家へようこそ」
父「玄関のドアが、びっくり箱になっているんですね」
○居間
地球家族6人とHF、HM、HB、HS。
HF「私たちはあまりに平和で驚きが無いので、もっと刺激が必要だということで、何年か前に、政府が命令を出したんです。他人を驚かせるのに補助金が出ることになって、この玄関をびっくり箱のようにするしかけも、補助金を使って作ったんですよ」
地球家族6人、唖然として話を聞いている。
HBとHSがびっくり箱を取り出して見せる。
HS「私たちも、びっくり箱を作ったから、見てください」
HB「明日学校で、びっくり箱コンテストがあるんです。これ、勝てそうですか?」
HB、ジュンの目の前で、箱を開けて見せる。おもちゃのカエルが飛び出す。
ジュン「へえ、うまく作ってあるね」
HB「驚かないですね。もっと工夫しなきゃだめかな・・・」
ジュン、苦笑い。
HF「それから、後で、この町の名所をご案内します。今月できたばかりの、びっくり箱博物館です」
HB「僕たちも今日初めて行くんですよ」
母「それは楽しみです」
○びっくり箱博物館
地球家族6人が、展示してあるいろいろなびっくり箱を手に取り、ふたを開けている。
HF、HM、HB、HSも近くでびっくり箱を手に取っているが、たいくつそうな表情。
HF「うーん・・・」
係の人「まもなく閉館時間です。そして、この博物館は、今日で閉鎖になります。短い間でしたが、ありがとうございました」
HF「え、今日で終わっちゃうの? できたばかりなのに」
係の人「評判があまりよくないんですよ。まったく驚かないって」
ミサ、タク、リコが廊下を歩いている。
タク「リコ、どうだった? びっくりするようなびっくり箱はあった?」
リコ「なかった。びっくり箱だってわかっているから」
タク「そりゃそうだな。普通は、何も知らなくて開けるからこそ驚くんだよ」
ミサ「そう考えると、博物館を建てたこと自体、意味がなかったことになるわね。それに、びっくり箱コンテストというのも・・・」
○翌朝、ダイニング
地球家族6人とHF、HM、HB、HSが集まっている。ジュンがHBに話しかける。
ジュン「昨日のびっくり箱、こんなふうに作り変えたらどうかなと思って」
ジュン、びっくり箱を持って、HBの目の前で開ける。おもちゃのカエルが出てくる。
HB「あれ、僕が作ったのと同じに見えますけど」
次の瞬間、おもちゃのヘビが飛び出してカエルに覆いかぶさる。
HB、のけぞる。
HB「うわ、びっくりした! すごい! びっくり箱でこんなに驚いたの、初めてです」
ジュン「二段構えにしてみたんだよ。もう何も出てこないと思い込んで気をゆるめたところに、もう一つ飛び出して来ると、びっくりするだろうと思って」
HB「確かに。うちの玄関のように、予想していないものがびっくり箱になっていると驚くけれど、びっくり箱だとわかっていて開けたら、何が飛び出しても驚きませんよね。でも、ジュンさんのアイデアならば、コンテストに勝てそうです!」
別の一角で、父と母が話している。
父「いやあ、1泊目から、さっそく驚かされたな」
母「どのびっくり箱よりも、一番私たちが驚いたのは、あまりにも平和だというこの星そのものね。だから、少しのことで腰を抜かすおばあさんがいたり、政府の命令で博物館ができたり・・・」
父「そうだな。人を驚かせる目的で作ったびっくり箱よりも、はるかにびっくりだ」
母「これからも旅行中にいろいろとびっくりさせられるかもしれないけど、それが楽しみね」
父、かばんから紙の資料を取り出す。
父「このツアーの日程表には、それぞれの現地人の特徴が書いてあるけれど、これは読まないようにして、びっくり箱のような毎日を楽しむとしようか」
母、うなずく。
コメント
omosirokute
sukidesu
どれが良かったか、どれが良くなかったか、など教えていただければ参考にします!
私まったくの初心者で、世に送り出せる可能性があるのかもわかりませんが、よろしくお願いします。
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