TRUMP 恋愛

栗山瞬(28)が、職場の新入社員・多賀刹那(23)に目を奪われたその日、彼のスマホに謎のアプリ「TRUMP」がインストールされる。アプリ内で使用したカードの強さ(数字の大きさ)に応じて、現実世界にも影響が出る事を知った栗山は、その力を使って……。
マヤマ 山本 10 0 0 12/15
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第一稿

<登場人物>
栗山 瞬(28)不動産会社社員
多賀 刹那(23)栗山の後輩
大谷 永遠(22)栗山の元彼女、故人
香月 龍馬(25)栗山の後輩
大谷 灯(36)栗山の姉、 ...続きを読む
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<登場人物>
栗山 瞬(28)不動産会社社員
多賀 刹那(23)栗山の後輩
大谷 永遠(22)栗山の元彼女、故人
香月 龍馬(25)栗山の後輩
大谷 灯(36)栗山の姉、ライトノベル作家
大谷 大地(5)栗山と永遠の息子、現在戸籍上は灯の息子
大谷 鉄也(40)栗山の義兄、灯の夫、永遠の兄
富所  (45)栗山の上司
永遠の父(68)
永遠の母(58)

助産師
客A~C



<本編> 
○木桜不動産・前
   スマホでトランプの大富豪のゲームをしながら歩いてくる栗山瞬(28)。

○同・中
   スマホを見ながら入ってくる栗山。香月龍馬(25)が席に座っている。
栗山「おざます(=おはようございます)」
香月「栗山さん、おはようございます」
   自分の席(香月と背中合わせになる席)に座る栗山。
香月「またゲームしながら出勤ですか?」
栗山「いいか、香月。人生はカードゲームみてぇなもんだ」
香月「はぁ……」
栗山「どんな強いカードを持っていても出すタイミングを間違えると負けてしまう」
香月「『大事なのは駆け引きだ』ですよね?」
栗山「そう。だから俺は今、駆け引き力を鍛えてんだよ」
香月「その話、今日入った新人さんにもするつもりですか?」
栗山「あ~、新卒の配属って今日だっけ?」
香月「今、会議室で課長と話してるみたいですよ」
栗山「でもまぁ、指導担当は香月だろ。(可愛く)頑張ってね、香月先輩」
香月「いやいや、栗山さんでしょ」
栗山「それは勘弁しろよ……」
   栗山のスマホから通知音。見ると「アプリをダウンロードしました」という文字が表示される。
栗山「?」
   スマホを操作する栗山の元にやってくる富所(45)と多賀刹那(23)。刹那の顔はまだわからない。
富所「おう、栗山、香月」
栗山「課長、おざます」
香月「おはようございます」
富所「今日から配属された、新人の多賀だ」
   顔を上げ刹那と顔を合わせる栗山。
刹那「多賀刹那です。よろしくお願いします」
   その顔を見て驚き、言葉を失う栗山。
   栗山のスマホの画面。「TRUMP」というアプリが入っている。

○メインタイトル『TRUMP』

○(夢の中)繁華街
   デートをする栗山(17)と大谷永遠(17)。永遠の顔は刹那とうり二つ。栗山はカメラを構えている。
永遠「ちょっと、瞬。今撮ったでしょ」
   笑いながら栗山に詰め寄る永遠。

○アパート・栗山の部屋・寝室(朝)
   目を覚ます栗山。
栗山「夢、か……」
    ×     ×     ×
   スーツ姿に着替えた栗山。写真立てに手を合わせる。
栗山「行ってきやす」
   写真立てに写るのは永遠(22)の写真だが、この時点では画面に映らない。

○木桜不動産・前
   歩いてくる栗山。そのスマホに通知音。見ると「カードを引きました」という文字。
栗山「またか……」
   TRUMPのアプリを起動する栗山。手札には3、4、5、7、9のカードがある。
栗山「コレ、何のゲームなんだろな?」

○同・中
   スマホを見ながら入ってくる栗山。
栗山「おざます」
   入口付近に立つ刹那。
刹那「おはようございます」
栗山「(驚き)うあおぃ!?」
   その際、TRUMPのアプリ内の7のカードをタップしてしまう。消える7のカード。
栗山「(刹那の顔やスマホの画面を見ながら)わー、だー、ばー」
刹那「すみません。大丈夫ですか?」
栗山「う、うん、ごめん、大丈夫」
刹那「では改めて、今日からよろしくお願いします」
栗山「? はて?」
富所の声「おう、栗山」
   そこにやってくる富所。
富所「多賀の指導係、よろしく頼むな」
栗山「また俺なんスか?」
香月の声「嫌なら、代わりますよ」
   そこにやってくる香月。
香月「課長。私も三年目です。指導係として問題はないかと」
富所「あ~、香月か。それも面白いかもな」
栗山「え? 香月、お前指導係とかやりたいタイプだったっけ?」
香月「別に、いいじゃないですか」
富所「どうする、栗山? お前が嫌なら香月にお願いするけど」
栗山「俺は……」
   一瞬、刹那を見やる栗山。
栗山「……いや、俺がやります」
香月「え?」
富所「じゃあ、頼んだぞ」
刹那「よろしくお願いします」
   その場を立ち去る富所。
香月「栗山さん。どういう風の吹き回しですか?」
栗山「別に。いいだろ?」
   立ち止まる富所。
富所「あ、そうだ。栗山と多賀、連絡先交換しとけよ」
栗山「連絡先……」
   スマホを見やる栗山。まだTRUMPのアプリの画面。
    ×     ×     ×
   客Aに接客中の栗山と刹那。
   客Aに見えないようにスマホを操作する栗山。TRUMPのアプリで3のカードをタップする。

○マンションA・空き部屋
   内見する栗山、刹那、客A。
客A「う~ん……ちょっと狭いですね」
栗山「そうですか……」
   残念そうに顔を見合わせる栗山と刹那。

○木桜不動産・中
   客Bに接客する栗山、刹那。
   客Bに見えないようにスマホを操作する栗山。TRUMPのアプリで9のカードをタップする。

○マンションB・空き部屋
   内見する栗山、刹那、客B。
客B「よし。ここに決めちゃいます」
栗山「あざます(=ありがとうございます)」
   嬉しそうに顔を見合わせる栗山と刹那。

○アパート・外観
栗山の声「小さい数字のカードだと不成立、大きい数字のカードだと契約成立……」

○同・栗山の部屋・寝室
   スマホを見ている栗山。
栗山「連絡先交換もあったし、あのアプリでより強いカードを切ると、良い事が起きる、って事? ……あっ」
   スマホの通知音と「カードを引きました」の文字。TRUMPのアプリを起動すると手札にジャックのカードが増えている。
栗山「おっ、今までで最強カード来たコレ」
   ジャックのカードをタップすると「このカードを使用するには課金する必要があります」の文字。
栗山「課金? うわ~、せこっ」
   インターホンの音。
栗山「お、来たな」

○同・同・玄関
   栗山がドアを開けると、勢いよく飛び込んでくる大谷大地(6)。
大地「瞬叔父ちゃ~ん」
栗山「おう、大地。またデカくなったな」
大地「本当に? いぇーい!」
   そのまま寝室の奥まで駆けていく大地。遅れて姿を見せる大谷灯(36)。
灯「こら、大地。走らないの」
栗山「おう、姉貴。また老けた?」
灯「お土産あげんのやめた」
栗山「あいかわらずお美しい」
灯「よろしい」
   お菓子の入った紙袋と、文庫本が入った封筒を栗山に渡す灯。
栗山「あざます。(封筒を見て)何、コレ?」
   中から出てきたのは『甥っ子を溺愛する女子高生を溺愛する僕』(3年ってまぁ子 著)というライトノベルの最新刊。
灯「『オイデキ』(当ライトノベルの通称)の最新刊」
栗山「読まねぇよ」
灯「読めよ。広めろよ」
大地「ねぇ、瞬叔父ちゃん。コレ何~?」
栗山「おい、大地。勝手に触んなって。……ったく」
灯「『叔父ちゃん』呼びには慣れた?」
栗山「まぁ……ちょっと複雑だけどね」
灯「でさ……」
栗山「お金の話なら、気にしなくていいから……」
灯「じゃなくて。もうすぐ七回忌だよ?」
栗山「……そっか」
灯「いい加減、顔出しなさいよ」
栗山「お義兄さんは、何て?」
灯「『瞬君のしたいようにすればいい』って」
栗山「さすが。いいお義兄さんだな」
灯「……ったく」

○木桜不動産・外観

○同・中
   浮かない顔で席に座る栗山。
   栗山のスマホに通知音。見ると「カードを引きました」という文字。
   TRUMPのアプリを起動すると、10のカードが増えている。
栗山「10か……」
   10のカードをタップする栗山。消える10のカード。
栗山「10までは無課金で行けんのね」
刹那の声「栗山さん」
   そこにやってくる刹那。
栗山「おう、多賀。どした?」
刹那「『どした?』じゃないですよ。『俺が一年目の時に読んでた本、貸してやる』って言ってたじゃないですか」
栗山「あ~、そうだったそうだった。ちゃんと持ってきましたよ、っと」
   鞄から本を取り出す栗山。その際『オイデキ』の最新刊も落ちる。
刹那「何か落ちましたよ?」
栗山「ん? ……あっ!」

○(回想)アパート・栗山の部屋・寝室(夜)
   『オイデキ』最新刊を栗山の鞄にこっそりと入れる大地。

○木桜不動産・中
   床に落ちた『オイデキ』最新刊を手に取る刹那を見る栗山。
栗山「(小声で)大地のヤツ……」
刹那「栗山さん、こういうの読まれるんですか?」
栗山「いや、違う。違うんだ。違うぞ? 俺の姉貴が描いてる本で、昨日押し付けられて、それで……」
刹那「え!? 栗山さん、3年ってまぁ子先生の弟さんなんですか!?」
栗山「……はい?」
刹那「私、このシリーズも好きですし、その前の『愛と警察と自動販売機』シリーズも愛読してて。本当好きで。もう『神』ってくらい」
栗山「あ、そうなんだ……」
刹那「あの……握手してもらえますか?」
栗山「俺と? 何故?」
   構わず栗山の手を取る刹那。
刹那「お姉様によろしくお伝えください」
   一礼し、去っていく刹那。
栗山「いや、おい。(手に取った本を見せ)コッチは? ……まぁ、いっか」
   その様子を影から見ている香月。

○アパート・外観

○同・栗山の部屋・寝室
   喪服姿で鏡の前に立つ栗山。
   写真立てに一瞬目をやる。
   ネクタイをほどく栗山。
刹那の声「……で、行かなかったんですか?」

○居酒屋・外観(夜)
栗山の声「まぁね」

○同・店内(夜)
   席を囲む栗山、刹那、香月、富所。
栗山「やっぱ、指導係がおいそれと休むわけにもいかねぇしな」
刹那「何か、すみません」
香月「別に、私が代わりにやりますよ」
富所「まぁ、俺はどっちでもいいけど、その代わりちゃんと別日に有休消化しろよ? 俺が怒られるんだから」
栗山「あい」
富所「ただ、結果的になんか、多賀の歓迎会みたいになったな」
刹那「え? あ、ありがとうございます」
栗山「って事は、今日は課長の奢りって事っスか? あざます」
富所「バカやろう。多賀の分は出すけど、二人の分は出さないからな」
栗山「え~」
   栗山のスマホに着信。無視する栗山。
香月「出なくていいんですか?」
栗山「大丈夫、姉貴からだから」
刹那「3年ってまぁ子先生ですか?」
栗山「あぁ、うん」
富所「3年ってまぁ子? 何だそれ?」
栗山「前言ったじゃないスか。ウチの姉貴のペンネームっスよ」
富所「変なペンネームだな」
刹那「先生がペンネームを決めかねている頃、夢の中でこのペンネームを使っているのを見たそうなんですよ」
栗山「俺より詳しいね」
   栗山のスマホに通知音。見ると「カードを引きました」という文字。
   TRUMPのアプリを起動する栗山。3~キングまでカードが大分たまっている。7のカードをタップする栗山。
刹那「あの……お姉様とお会いさせていただく事はできませんでしょうか?」
栗山「え? いや、それはさすがに……」
香月「そうですよ、多賀さん。ご家族に会わせるなんて、よほどの相手じゃないと」
刹那「あ……ですよね。すみません」
栗山「別にそういう事じゃ……。おい、香月」
富所「まぁまぁ。それよりせっかくなんだから多賀に、仕事にまつわるエピソードトークの一つでもしてやったらどうだ?」
栗山「あ~、そうっスね……」
   TRUMPのアプリを起動し、9のカードをタップする栗山。
栗山「えっと、コレは……」
香月「コレは、私もある先輩から聞いた、何回も内見するお客様の話なんですけど」
富所「ほうほう」
香月「『昼だけじゃわからないから』と夜の内見もして『親にも見てもらいたい』と親同伴の内見もして」
栗山「お前、ソレ……」
香月「コレでやっと契約かと思ったら、今度は『姉夫婦にも見てもらいたい』って言い出されて」
刹那「え~、そんな事あるんですか?」
富所「そこまでは珍しいけどな。ただ『夜の内見』は案外大事だったりするから、頭に入れとけよ」
刹那「はい」
富所「いい話持ってるじゃないか、香月」
香月「ありがとうございます」
栗山「いや……ソレ、俺がした話じゃん」
刹那「そうなんですか?」
香月「だから言ったじゃないですか。『先輩から聞いた話だ』って」
栗山「俺がする話なくなっちまうだろ」
   TRUMPのアプリを起動し、10のカードをタップする栗山。
栗山「じゃあ……」
香月「あ、もう一個あった」
栗山「え?」
    ×     ×     ×
   その後も9や10のカードをタップしては、香月にお株を奪われ続ける栗山。刹那の視線は香月に向きがちになる。
    ×     ×     ×
香月「……って事があったんですよ」
   笑う刹那と富所。
刹那「凄~い。香月さんって、話すと意外に面白いんですね」
香月「いや、それほどでも」
栗山「あ~……ちょっとレコーディング行ってきやす」
刹那「レコーディング? 何ですか急に?」
栗山「それは……」
香月「レコーディングって、何する作業?」
刹那「録音ですよね?」
香月「そう。『音を入れる』作業。音を入れる、音入れる、音入れ……」
刹那「あ~、なるほど」
香月「じゃあ、私も一緒にレコーディング行ってきます」
   香月を睨む栗山。

○同・便所
   手を洗う栗山。
栗山「おかしいな。何で上手くいかねぇんだろ……?」
   そこにやってくる香月。
香月「栗山さんもプレイヤーだったんですね」
栗山「プレイヤー?」
   TRUMPのアプリを起動した状態のスマホを見せる香月。
香月「このアプリですよ」
栗山「!?」
香月「でもどうせ、栗山さんの事だから無課金でやってるんですよね?」
栗山「色々と、金は出ていくからな」
香月「私、実家暮らしなんで。栗山さん以上のお金、ここにかけられるんですよ」
栗山「何でそんな事……」
香月「決まってるじゃないですか。多賀さんが好きだからです」
栗山「……」
香月「いくら栗山さんが相手とはいえ、負けませんから」
   一礼し、去っていく香月。

○木桜不動産・外観

○同・中
   客Cを接客中の栗山と刹那。
栗山「(小声で)課金って言ったってな……」
刹那「栗山さん?」
栗山「ん? あ、いや、何でも」
客C「(間取り図を見比べながら)う~ん……何かもっと良い物件、無いの?」
栗山「もっと良い、とは?」
客C「もっと広くて、もっと安くて、もっと駅から近い所だよ」
栗山「……少々お待ちください」
    ×     ×     ×
   客Cに対応中の刹那。
   その様子を見ながら、富所の席の前に立つ栗山。
栗山「課長、アレは無理ゲーっスよ。条件無茶苦茶っスもん」
富所「そう言うなよ。本社のお偉いさんからの紹介なんだから」
栗山「そう言われても……」
   別の客に接客中の香月と一瞬目が合う。
栗山「わかりました。ちょっとやってみます」
富所「おう、頼むぞ」
   自分の席に戻る栗山。TRUMPのアプリを起動し、一瞬躊躇するものの、課金の設定をしジャックのカードをタップする栗山。
   電話が鳴る。
富所「おい、栗山~」
    ×     ×     ×
   客Cに接客中の栗山と刹那。
栗山「ちょうど今、空いた物件がありまして。(間取り図を見せながら)条件はこういったものなんですが……」
客C「へぇ。中はどうなってんの?」
   室内の写真を数枚見せる栗山。
栗山「今の今なので、その部屋の写真は無いんですけど、以前その隣の部屋を撮った写真がコチラですね」
客C「いいじゃん、コレ。早速見に行こうぜ」
栗山「では、車を回してきますね」
   その様子を複雑そうに見ている香月。

○同・同(夕)
   TRUMPのアプリを起動し、クイーンのカードをタップする栗山。
    ×     ×     ×
   それぞれの席に着く栗山と刹那。
刹那「あの部屋の写真、栗山さんが自分で撮られたんですか?」
栗山「うん。まぁ、昔カメラかじってたから」
刹那「実は私もカメラに興味あって。もしよかったら今度の休み、カメラ選ぶの付き合ってもらえませんか?」
栗山「お、おう。し、仕方ねぇな」

○カメラ屋
   カメラを選ぶ栗山と刹那。

○アパート・栗山の部屋・寝室
   TRUMPのアプリを起動し、キングのカードをタップする栗山。

○公園
   刹那にカメラの使い方を教える栗山。刹那が撮った写真を見ては一喜一憂し合う二人。

○アパート・前(夜)
   スマホを見ながら歩いてくる栗山。画面はTRUMPのアプリを起動した状態で、手札にエースが加わっている。
栗山「ついにエース来たコレ……あっ」
   待ち構えている灯を見つける栗山。
灯「瞬、お帰り」
栗山「ただいま戻りやした」
灯「七回忌、何で来なかったの?」
栗山「お義兄さんが言ってたんだろ? 俺のしたいようにしていい、って」
灯「じゃあ何でその日の夜、電話無視した?」
栗山「飲み会だったから。……あぁ、もう。説教すんなら近所迷惑だからさ、家入ってくんねぇ?」
灯「いい。今日の要件は別だから」
栗山「別?」
   持っていたペットキャリーバッグを栗山に渡す灯。
灯「ウチのナナちゃん、預かってよ」
栗山「はい?」
灯「いや、今度フランスのイベントに出る事になったんだけど、鉄ちゃんが急に出張になっちゃって」
栗山「知らねぇよ」
灯「大地は鉄ちゃんの実家で預かってもらうけど、あそこのお義父さんは猫アレルギーだからさ。パパもママも今は海外だし、他に頼める人居ない訳よ」
栗山「だからって……」
灯「(脅すように)七回忌の件、頭下げたの私なんだぞ?」
栗山「……わかりやした」
灯「よろしい」

○木桜不動産・外観

○同・中
   パソコン仕事をしている栗山の元にやってくる刹那。
刹那「栗山さん、背中に何かついてますよ?」
栗山「何? 悪霊?」
   栗山の背中に付いた猫の毛を取る刹那。
刹那「こんな悪霊でした」
栗山「あ~、猫の毛か」
刹那「栗山さん、猫飼ってるんですか?」
栗山「いや。訳あって姉貴ん所の猫が居候してんのよ」
刹那「え……それって、もしかしてロクのモデルですか?」
栗山「ロク?」
刹那「『オイデキ』に出てくる、陸君の飼い猫ですよ」
栗山「俺、読んだ事ねぇからな~」
刹那「見に行きたい……」
栗山「え、ウチ来んの?」
刹那「一目でいいんです。拝ませていただけないでしょうか?」
栗山「いや……エース凄ぇな」

○アパート・外観(夜)

○同・栗山の部屋・寝室(夜)
   猫のナナの前に正座する刹那。尚、写真立ては伏せられている状態。
刹那「初めまして。私、多賀刹那と申します」
   そこに飲み物を持ってやってくる栗山。
栗山「猫相手に随分堅ぇな」
刹那「(飲み物を受け取り)あ、ありがとうございます。(ナナを指して)ナナ様、でしたっけ?」
栗山「『様』なの?」
刹那「名前からして、やっぱりロクのモデルなんですかね?」
栗山「まぁ『ナナ』と『ロク』だし、かもね」
刹那「そういえば、私と栗山さんの名前も似てますよね」
栗山「え?」
刹那「栗山さんの下の名前、瞬ですよね?」
栗山「そう。一瞬とか瞬間の瞬」
刹那「私の名前の『刹那』も『一番短い時間の単位』らしいんですよ」
栗山「あ~、何か聞いたことあるかも」
刹那「きっと、名前の由来も一緒ですよね」
栗山「俺は、その瞬間瞬間を一生懸命生きろ、みたいな意味だったかな……」
永遠の声「やっぱり、全然違うよ」

○(回想)公園
   ベンチに並んで座る栗山(22)と永遠(22)。永遠はお腹周りの体形がわからないような服。
栗山「そう?」
永遠「だって『一瞬』は存在するけどさ……」

○アパート・栗山の部屋・寝室(夜)
   並んで座る栗山と刹那。栗山の視線の先には伏せられた状態の写真立て。
永遠の声「永遠なんて、存在しないじゃん」
   本棚にあるカメラ雑誌を手に取る刹那。
刹那「何ですか、コレ?」
栗山「ん?」
刹那「(雑誌をパラパラとめくりながら)へぇ……コレ、お借りしてもいいですか?」
栗山「あぁ、別に……(ハッとして)ダメ」
   刹那から雑誌を奪い取る栗山。
栗山「コレは、絶対ダメ」
刹那「……怪しい。もしかして、栗山さんの撮った写真が載ってる、とか?」
栗山「……」
刹那「あ、図星だ。見たい見た~い」
栗山「だから、ダメだって」
刹那「え~、いいじゃないですか(と言いながら雑誌を奪い返そうとする)」
栗山「ダ~メ~」
   雑誌を奪い合う内に、もみ合うようにベッドに倒れ込む栗山と刹那。
刹那「わっ」
栗山「痛っ」
   荒い息のまま、見つめ合う二人。やがて栗山が刹那に覆い被さり、近づく唇。
   インターホンの音。
   慌てて離れる栗山と刹那。
栗山「(ごまかすように)誰だよ、こんな時間に……」

○同・同・玄関(夜)
   栗山がドアを開けると、勢いよく飛び込んでくる大地と立っている灯。
大地「瞬叔父ちゃ~ん」
栗山「大地!? 姉貴!?」
灯「ただいま日本に戻ってきました」
栗山「そりゃ、お帰りなせい。あれ、明日じゃなかったっけ?」
灯「ごめんごめん。時差の計算間違えた」
大地「ナナ~」
   と言いながら寝室に向かっていく大地。
栗山「ちょっ、大地……。(灯に)だとしたら、電話なりしろよ」
灯「だって、どうせ出ないでしょ?」
栗山「だから、それは謝っただろ」
大地の声「ママ~、瞬叔父ちゃんの彼女がいる~!」
灯「え!?」
栗山「あ、おい」
   玄関に並ぶ刹那の靴に気付く灯。
灯「ごっめーん。お邪魔だった?」
栗山「いや、別にそういう訳じゃ……」
灯「へぇ、瞬にもついに新しい彼女が出来たか……お姉ちゃんは嬉しいよ」
栗山「黙れ、姉貴」
刹那の声「あの……」
   そこにやってくる刹那。
刹那「あの……3年ってまぁ子先生ですか?」
灯「(刹那の顔を見て驚き)えっ……」
刹那「私、先生の大ファンなんです。お会いできて光栄です!」
灯「嘘……何で……」
刹那「(無理やり灯と握手して)『オイデキ』は私の人生のバイブルで。特に二巻の名台詞は私に……」
   灯に一方的に話し続ける刹那と、その言葉は耳に入らず、ただ茫然と栗山に目をやる灯。

○木桜不動産・外観

○同・中
   それぞれの席に座りパソコン作業をしている栗山、刹那、香月。
刹那「栗山さん。昨日はありがとうございました」
栗山「いや、別に俺は何も……」
刹那「ただ、舞い上がりすぎて、写真撮ってもらうの忘れちゃいましたよ。あ~、バカだな~、私」
富所の声「おい、多賀。ちょっといいか」
刹那「はい」
   席を立つ刹那。
香月「栗山さん。課金し始めたんですね」
栗山「まぁな。一人暮らしだからってナメんなよ? お前より給料は上なんだからな」
香月「……負けませんから」

○アパート・栗山の部屋・寝室(夜)
   明細を見ている栗山。
栗山「うっわ~……」
   電話の発信音。
栗山の声「あ、もしもし。姉貴?」
    ×     ×     ×
   通話中の栗山。
栗山「ごめん。今月ちょっとピンチでさ。金、来月まとめて振り込むから」
灯の声「だから、別にいいって言ってるでしょ? 好きにしなよ」
栗山「そうは言っても、大地だって来年小学校に上がるんだし、ランドセル代とか色々……」
灯の声「ランドセルは大丈夫。むしろどっちの家が買うか、じいちゃんばあちゃん同士で揉めてるくらいだし」
栗山「そっか。両家にとって初孫だもんな」
灯の声「……それはいいんだけどさ」
栗山「ん?」
灯の声「あの子は、永遠ちゃんじゃないんだからね?」
栗山「……わかってる」
   栗山の視線の先、写真立てがある。
栗山「わかってるから」

○木桜不動産・中(夜)
   誰もいない、真っ暗な部屋に一人いる香月。TRUMPのアプリを起動した状態のスマホを見ている。ジョーカーをタップする香月。
香月「(画面を見ながら)おいおい、マジかよ栗山さん……」
   不敵な笑みを浮かべる香月。

○同・外観

○同・中
   やってくる栗山。既に席についている刹那と香月。
栗山「おざます」
刹那「おざま~す」
   席に着く栗山。
刹那「栗山さん。今週末、3年ってまぁ子先生のサイン会があるの、知ってます?」
栗山「初耳」
刹那「私、行きたいんですけど、心細いんで、一緒に来てもらえませんか?」
栗山「嫌だよ。何で俺が金払って姉貴のサイン貰わなきゃいけねぇんだよ」
刹那「お願いしますよ~」
香月「多賀さん。あんまり無理を言うのはどうかと思いますよ?」
刹那「まぁ、そうですけど……」
香月「それに栗山さんは、お休みの日に会いたい人、他に居るんじゃないですか?」
刹那「え?」
栗山「香月。お前、何言って……」
香月「栗山さん、お子さん居るんでしょ?」
栗山&刹那「!?」
香月「いや~、知りませんでしたよ。てっきり独身だと思ってましたから」
刹那「栗山さん、嘘、ですよね……?」
   香月の胸倉をつかむ栗山。
栗山「何をどうやったら、そんな情報にたどり着くんだ?」
香月「ジョーカー使ったら、そんな情報が届きまして。正直、私も半信半疑だったんですけど、その様子を見ると本当みたいですね」
栗山「……」
香月「この人は独り身のフリして、多賀さんと遊んでいたんですよ? どう思います?」
   何も言わず荷物を抱え出ていこうとする刹那。
栗山「おい、ちょっと待てよ」
   刹那の腕を掴む栗山。その手を振りほどく刹那。
刹那「(涙ながらに)最低」
   出ていく刹那とすれ違いざまやってくる富所。
富所「おはよう……おっ、多賀。どうした? 忘れもんか?」
   異様な雰囲気を察する富所。

○アパート・外観(夜)
   電話の発信音。

○同・栗山の部屋・寝室(夜)
   電話をかけている栗山。誰も出ない。
栗山「くそっ、何で出ねぇんだよ」
   栗山が電話を切ると、スマホに通知音。見ると「カードを引きました」という文字。
栗山「来た」
   TRUMPのアプリを起動する栗山。手札は3~7程度のカードばかり。
栗山「くそっ!」

○木桜不動産・外観

○同・中
   富所の席の前に立つ栗山。
栗山「えっ……それは決定ですか?」
富所「あぁ。多賀本人が『代えてくれ』って言うからな。指導担当は香月に交代だ」
栗山「そんな……」
   刹那に視線を向ける栗山。その視線の先、刹那にチケットを渡す香月。
香月「はい、コレ」
刹那「ありがとうございます。いや~、落語って初めてで。楽しみです」
   香月とはにこやかに話す刹那だが、栗山の視線に気づくと目をそらし、席を立つ。
   席に戻る栗山。そこにやってくる香月。
香月「栗山さん。さすがに諦めましょうよ」
栗山「うるせぇ」
香月「多賀さんの事、どれほど傷つけたのかわかってるんですか?」
栗山「……」
香月「貴方はもう、負けたんですよ」

○アパート・栗山の部屋・寝室(夜)
   真っ暗な部屋に座る栗山。スマホに通知音。見ると「カードを引きました」という文字。
栗山「?」
   TRUMPのアプリを起動する栗山。手札にジョーカーが加わっている。
栗山「ジョーカー……」
   恐る恐る手を伸ばす栗山。
香月の声「さすがに諦めましょうよ」

○(回想)木桜不動産・中
   荷物を抱え出ていく刹那。
香月の声「多賀さんの事、どれほど傷つけたのかわかってるんですか?」

○アパート・栗山の部屋・寝室(夜)
   手が止まる栗山。
香月の声「貴方はもう、負けたんですよ」
   栗山の視線の先に写真立て。
   しばしの逡巡。やがて意を決したように目を開く栗山。
   電話の発信音。

○同・外観(夜)
栗山の声「もしもし……」

○大型書店・外観

○同・サイン会会場
   灯(3年ってまぁ子)のサイン会が行われている。
灯「(サイン本を手渡し)ありがとう」
   次にやってくる客、刹那。
刹那「あの……こんにちは」
灯「……この間は、どうも」
刹那「こちらこそ、勝手に舞い上がっちゃって、すみませんでした」
灯「わざわざ来てくれてありがとう」
   サインを書き始める灯。
灯「刹那さん、で良かったですよね?」
刹那「あ、はい。……栗山さんに聞いたんですか?」
灯「うん。まぁ、色々とね(サインを書き終え)はい、これからもご贔屓に」
刹那「はい、ありがとうございます!」
   帰路に就く刹那。サインを見る。
刹那「え……?」

○袴江駅・前
   都会から少し離れた街並み。
   ベンチに座る栗山。
刹那「栗山さん」
   振り返る栗山。そこにやってくる刹那。
栗山「来てくれたんだ。あざます」
刹那「こんな伝言の仕方、あります?」
   灯のサイン本を開く刹那。サインの脇に添えられた「今日の15時、袴江駅で待つ 栗山」の文字。
栗山「だって、電話出てくれねぇから」
刹那「それにしたって……」
栗山「サイン本なら、あとでちゃんとしたヤツ貰えるから。安心して」
刹那「そういう問題じゃ……」
栗山「じゃあ、行こうか」
刹那「行くって、どこに?」
栗山「いいから」
   歩き出す栗山。渋々ついていく刹那。

○花屋・前
   お供え用の花束を持って出てくる栗山と刹那。

○山道
   栗山について歩く刹那。
刹那「どこまで歩くんですか?」
栗山「もう少し」

○墓地・外観

○同・中
   「大谷家」と書かれた墓の前に立ち手を合わせる栗山と刹那。
刹那「あの……どなたのお墓ですか?」
栗山「大谷永遠」
   墓石に彫られた「永遠(享年二十二)」の文字をさする栗山。
栗山「俺の、元カノ」
刹那「え……」
   スマホを取り出し操作する栗山。
栗山「いや、結婚の約束をしてたから、婚約者って言い方の方が正しいかもね」
   スマホの画像を見せる栗山。
刹那「(写真を見て驚き)!?」

○アパート・栗山の部屋・寝室
   永遠の写真が飾られた写真立て。ここで初めて、永遠の顔が映る。

○墓地・中
   大谷家の墓の前で、写真立てと同じ画像が映るスマホを刹那に見せる栗山。
栗山「似てるっしょ?」
刹那「ビックリしました」
栗山「俺の方がよっぽどビックリしたよ。多賀を最初に見た時は」

○(フラッシュ)木桜不動産・中
   富所から刹那を紹介される栗山。
栗山の声「生まれ変わりにしちゃ早すぎるし」

○墓地・中
   大谷家の墓の前に立つ栗山と刹那。
栗山「夢にしちゃ、残酷だなって思ったし」
刹那「……あの、聞いてもいいですか?」
栗山「うん?」
刹那「亡くなったのは、ご病気ですか? それとも、事故とか?」
栗山「……」
刹那「あ、すみません。話したくなければ、全然……」
栗山「いや、そうじゃなくてさ。それも含めて全部話したいから。長くなるけど、時間もらえる?」
刹那「……はい」
栗山の声「何から話そうか……」

○同・入口
   ベンチに並んで座る栗山と刹那。
栗山「多賀はさ、ウチの姉貴の本名って知ってんの?」
刹那「先生の本名ですか? 公表されてませんけど、下のお名前は『アカリ』さん、でしたよね?」
栗山「そう。旧姓は栗山だけど、一〇年ちょい前に結婚して、今は大谷灯」
刹那「大谷……え、大谷?」
栗山「姉貴達は、結婚式は挙げなかったんだけど、その代わりに親族の顔合わせみたいなのがあって」

○(回想)飲食店・個室
   向かい合う栗山家の父、母、灯(25)、栗山(17)と大谷家の永遠の父(57)、永遠の母(47)、鉄也(29)、永遠(17)。栗山と永遠はともに別々の高校の制服姿。
栗山の声「その時に会ったのが、姉貴の旦那さんの妹の……」
   栗山の正面に座る永遠に目を奪われる栗山。
栗山の声「永遠だった」
    ×     ×     ×
   親同士で親しげに話している。
栗山「(小声で隣の席の灯に)ちょっとレコーディング行ってきやす」
   席を立つ栗山。

○(回想)同・通路
   トイレから出てくる栗山。そこにやってくる永遠。
栗山「あっ……」
永遠「あっ……」
栗山「……トイレならこの先だけど」
永遠「いや、別に、その……」
栗山「?」
永遠「……あそこ、居づらくて」
栗山「あ~、わかる。歳の差っしょ?」
永遠「うん、そう」
栗山「え、お兄さんと何コ離れてんの?」
永遠「干支が一緒」
栗山「マジか。ウチも八コ差だけど、ソレ上回るか」
永遠「でもいいよね。お父さんが映画監督でお母さんが振付師で、お姉さんが作家でしょ? 芸能一家って感じで羨ましいな」
栗山「ちなみに、俺はフォトグラファー志望」
永遠「へぇ、格好いいな。いつか撮ってもらおうっと」
栗山「いや『いつか』っていうか……」
永遠「?」
栗山「良かったら今度、モデルになってくれ……ませんか?」
永遠「モ、モデル……?」

○(回想)公園
   永遠をモデルに写真撮影をする栗山。永遠の表情は硬い。
栗山「もっと楽にしていいよ?」
永遠「いや、そう言われてもな……」
栗山「(無理やり)アハハ、アハハハハ」
永遠「(吹き出し)何それ」
栗山「お、今のいいね」
    ×     ×     ×
   永遠を撮影し続ける栗山。徐々に表情が柔らかくなる永遠。そして撮られる最高の一枚。

○(回想)本屋・前
   右記の最高の一枚が掲載されたカメラ雑誌を手に電話する栗山。

○(回想)大谷家・永遠の部屋
   同じページを見ながら電話する永遠。

○(回想)繁華街
   デートをする栗山と永遠。栗山はカメラを構えている。
永遠「ちょっと、瞬。今撮ったでしょ」
   笑いながら栗山に詰め寄る永遠。

○(回想)高校・校門
   「卒業式」と書かれた看板の前で卒業証書の入った筒を持って立つ永遠と、その写真を撮る栗山。

○(回想)アパート・栗山の部屋・寝室
   引越し作業中。荷物を抱えて入ってくる栗山、永遠、灯、大谷。
永遠「へぇ、いい部屋だな」
灯「遊びに来やすいし」
栗山「姉貴は来んな」
   笑う一同。
大谷「でもこの立地でこの広さであの家賃はなかなかないよ。良い不動産屋に当たったみたいだね」
栗山「みたいっスね」
    ×     ×     ×
   トランプの大富豪をする栗山、永遠、灯、大谷。
灯「でもまさか、この二人が付き合い始めるとはね」
永遠「ラノベのネタになりそうですか?」
灯「考えとくわ」
大谷「瞬君は、大学でも写真の勉強するんだっけ?」
栗山「まぁ、そうっスね」
灯「じゃあ、ウチらの子供が出来たら、マタニティーフォトとか、七五三とか、色々タダでお願いできるね」
大谷「(暗い顔で)出来たら……ね」
灯「そんな顔しないでよ。その為の不妊治療なんだから」

○(回想)本屋・前
   カメラ雑誌を開く栗山。ため息。
永遠の声「どう?」

○(回想)アパート・栗山の部屋・寝室
   並んで座る栗山と永遠。
永遠「フォトグラファーの会社、受かりそう?」
栗山「……厳しいかもな。大学入ってから、コンテストも全然通らねぇし」
永遠「そんな悲観的にならなくても……うっ」
   つわりを起こす永遠。
栗山「? 永遠……?」

○(回想)大谷家・外観
   「大谷」と書かれた表札。

○(回想)同・仏間
   永遠の父(62)、母(52)に頭を下げる栗山と灯。
灯「弟が、本当にご迷惑をおかけしました」
永遠の母「灯さん、頭上げて下さい」
栗山「永遠……さんは?」
永遠の母「『産む』って言ってます」
栗山「なら僕は、永遠さんと結婚をしたいと考えています」
灯「瞬……」
永遠の父「……カメラマン志望の学生に、娘をやれと?」
永遠の母「お父さん、そんな言い方……」
栗山「お願いします。娘さんと結婚させてください」
永遠の声「お父さん!」
   そこにやってくる永遠と大谷。
永遠の父「永遠、来るなと言ったろ? 鉄也も見張ってろと……」
大谷「言って聞くヤツじゃないよ」
   栗山の隣に腰を下ろす永遠。
永遠「お父さん。瞬との結婚を認めて下さい」
栗山&永遠「お願いします」
   頭を下げる栗山と永遠。
大谷「俺達からも頼むよ。なぁ、灯?」
灯「うん。(永遠の父に)お願いします」
永遠の母「お父さん……」
永遠の父「……わかった」
栗山「本当ですか!?」
永遠「やった!」
永遠の父「ただし、学生結婚は認めん。まずは卒業してからだ」
栗山「はい」
永遠の父「それから、きちんとした会社に就職する事」
永遠「お父さん、ソレは……」
栗山「(永遠を制し)わかりました。フォトグラファーは、諦めます」
永遠「瞬……」
栗山「いいんだよ、コレで」
   永遠のお腹に手を当てる栗山。
栗山「幸せにするから」
永遠「(涙目で)うん……」

○(回想)公園
   ベンチに並んで座る栗山と永遠。永遠はお腹周りの体形がわからないような服。栗山の手にはカメラと内定通知書。
永遠「(お腹をさすりながら)良かったね、パパ、内定もらえたって」
栗山「来年から、不動産会社の社員でちゅよ」
永遠「あ、そうそう。この間の検診で言われたんだけど、男の子だって」
栗山「男の子か……名前、どうする? 俺達名前似てるし、合わせる?」
永遠「似てる? どこが?」
栗山「だって俺は『一瞬』『瞬間』の瞬で、永遠は『永遠(えいえん)』だろ?」
永遠「うん。全然違うじゃん」
栗山「でも永遠ってのは、一瞬一瞬の積み重ねの先にある訳だから。大きく考えれば、一緒じゃね?」
永遠「う~ん……やっぱり、全然違うよ」
栗山「そう?」
永遠「だって『一瞬』は存在するけどさ、永遠なんて、存在しないじゃん」
栗山「まぁ、うん、それはそうだけど……」
永遠「だから、自分の子供にはちゃんと『存在するもの』の名前を付けるんだ、って決めてたんだ」
栗山「何か候補あんの?」
永遠「一個、あるんだよな」
   栗山に耳打ちする永遠。
栗山「あ~、うん。いいじゃん」
永遠「でしょ? いいでしょ?」
栗山「じゃあ、決定した記念に一枚撮ろうか」
   カメラを構える栗山。
栗山「はい、チーズ」
   ここで撮った写真が、写真立てやスマホの写真となる。

○(回想)病院・外観

○(回想)同・分娩室・前
   助産師とともに中に入る永遠と、ソレを見送る栗山。陣痛に苦しむ永遠。
栗山「頑張ってな」
永遠「うん、頑張る。行ってきやす」
栗山「行ってらー(=行ってらっしゃい)」
    ×     ×     ×
   心配そうに座る栗山、灯、大谷、永遠の父、母。
栗山「大丈夫かな……」
灯「だから『立ち会えば』って言ったのに」
栗山「それを言われるとさ……」
   産声。
灯「あ!」
栗山「産まれた!」
   栗山の背中を叩く大谷。笑顔の一同。
   分娩室から出てくる助産師。
助産師「栗山さん。元気な男の子です」
栗山「ありがとうございます」
助産師「ただ……」
栗山「? ただ?」
灯「赤ちゃんに何か?」
助産師「いえ、お子様ではなくて、お母さんの様態が急変しました」
栗山「!?」
助産師「今から緊急手術を行います」
   分娩室に戻る助産師。静まり返る一同。

○(回想)同・霊安室
   横たわる永遠の遺体の脇に呆然と立ち尽くす栗山。その後ろには灯、大谷、永遠の父、母。
栗山「嘘だろ……永遠……」
   永遠の遺体の頬に触れる栗山。
栗山「永遠ぁぁぁ!」
   泣き崩れる栗山。

○(回想)大谷家・仏間
   永遠の遺影が飾られた仏壇。
   コの字になって座る栗山、灯と大谷、永遠の父と母。部屋の隅にはベビーベッドが置いてある。
灯「一人で育てるなんて、無茶だって」
栗山「でも、俺と永遠の子で……」
永遠の母「こんな言い方はアレだけど、幸い、瞬君と永遠はまだ籍入れてないでしょ? だったら、まだまだ先の長い人生、永遠に縛られることはないと思うの」
大谷「瞬君だって、この先また、別の誰かに出会うかもしれないし」
栗山「そんな事はない」
永遠の母「じゃあ、あの子はずっと片親で生きていくの?」
栗山「それは……」
灯「瞬の気持ちはわかる。でもさ、あの子は、少なくともウチに来れば、両親とも血がつながってるし、おじいちゃんおばあちゃんは間違いなく本物な訳」
栗山「それでも俺は……」
灯「意地張ってないで、あの子の事、一番に考えてあげてよ」
栗山「……」
灯「その代わり、名前は、瞬と永遠ちゃんが決めた名前、付けるから。ね?」
   立ち上がり、ベビーベッドに向かう栗山。眠る大地(0)の頭をなでる。
栗山「……伯父ちゃん伯母ちゃんにかわいがってもらえよ。大地……」

○墓地・入口
   ベンチに並んで座る栗山と刹那。スマホに映る大地の写真を見せる栗山。
刹那「じゃあ、あの子が……」
栗山「そう、俺の子」
刹那「……ありがとうございました。話してくれて」
栗山「こちらこそ、聞いてくれて、あざます」
   スマホを手元に戻し、操作する栗山。
栗山「俺、決めてたんだ。もしこの先、永遠以外の人を好きになる時が来たら、その時はちゃんと永遠の話もするんだ、って」
刹那「そう、だったんですね……」
   スマホの画面を切り替え、TRUMPのアプリを起動する栗山。手札にはジョーカーがある。
栗山「恋愛の駆け引き的にはあり得ない手だろうけど、こればっかりは仕方ねぇし」
   カードをタップする事なく、アプリをアンインストールする栗山。
栗山「だからもう、こんなもんには頼らねぇ」
   スマホに表示される「TRUMPをアンインストールしました」の文字。
栗山「もう、直球で勝負するよ」
   刹那に向き合う栗山。
栗山「俺は、多賀が好きだ」
刹那「……」
栗山「あ、勘違いすんなよ? 永遠に似てるからって訳じゃねぇから。もちろん、キッカケはそうだったけど」

○(フラッシュ)木桜不動産・中
   栗山に仕事を教わる刹那。
栗山の声「仕事に向き合う姿勢だったり」

○(フラッシュ)公園
   撮った写真に一喜一憂する栗山と刹那。
栗山の声「写真撮る時の無邪気さだったり」

○(フラッシュ)アパート・栗山の部屋・玄関(夜)
   灯に握手を求める刹那。
栗山の声「たまに発動するオタクさだったり」

○墓地・入口
   ベンチに並んで座る栗山と刹那。
栗山「そういうのが全部愛おしいっていうか……うん、愛おしいんだな」
刹那「ありがとうございます」
栗山「でも、わかるんだよ。俺はきっと、永遠の事を忘れられない」
刹那「え……?」
栗山「元カノを一生引きずって、無意識に比較して、きっと多賀の事を傷つける。わかるんだよ」
刹那「栗山さん……」
栗山「でも、そうなる事がわかってんのに、多賀と一緒に居たいって思っちゃうんだよ。わがままだろ? 最低だろ?」
   首を横に振る刹那。
栗山「でも、もし多賀が良ければ、こんな俺のわがままに、付き合ってくんないか?」
   手を差し出し、頭を下げる栗山。
栗山「お願いしやす」
   しばしの沈黙。
刹那「……気の早い話かもしれませんけど」
   栗山の手を取る刹那。
刹那「もし女の子が出来たら、『永遠』って付けましょうね」
栗山「多賀……さすがにそれは」
刹那「……呼び方、変えてもらえません?」
栗山「……刹那」
刹那「……瞬さん」
   抱きしめ合う二人。

○アパート・外観
   別日。

○同・栗山の部屋・寝室
   永遠の写真の隣に栗山と刹那のツーショット写真が入った写真立て。並んで座り、テレビを見ている栗山と刹那。流れているアメリカのトランプ前大統領のニュース。
刹那「そういえば瞬さん。英語で『切り札』って何て言うか知ってます?」
栗山「何、急に? 『ジョーカー』とか?」
刹那「残念。正解は『トランプ』でした」
栗山「トランプ……」
刹那「あ、ごめん。ちょっとレコーディング行ってきやす」
栗山「行ってらー」
   席を立つ刹那。栗山のスマホに通知音。見ると「アプリをダウンロードしました」という文字が表示される。
栗山「?」
   スマホを操作するとTRUMPのアプリが入っている。
栗山「またかよ」
   TRUMPのアプリをアンインストールする栗山。
栗山「俺の切り札は、お前じゃねぇよ」
   スマホに表示される「TRUMPをアンインストールしました」の文字。
    ×     ×     ×
   物陰からその様子を見ている刹那。手にはスマホ。
刹那「さて、と」
   柱の陰に隠れ、スマホを操作する刹那。
刹那「次はどのカードを切ろうかな……」
   TRUMPのアプリが起動された状態の刹那のスマホ。手札にはジョーカーも複数枚ある。カードをタップし、笑みを浮かべる刹那。
                   (完)

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