ハウスロボット ドラマ

舞台は少し未来のお話。家がロボットに変形するのが日常になりつつある世の中。その家に変形するロボットは『ハウスロボ』、通称『ハウロボ』と呼ばれており、世界大会も開かれるなどスポーツとしても楽しまれている。自分の家を用いて闘うことにより、負けると、ある意味で全財産を失うことになるという過酷なスポーツでもある。 主人公である家内守は、そのスポーツとハウロボに憧れているゲーム好きな少年。ある日、彼の日常を脅かす出来事が起こって……。
MELL 13 3 0 09/16
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

○ ゲーム内
高層ビルが建ち並んでいる。
そのビルよりも頭ひとつ分ぐらい大きな黒色のロボットが、連続で両手パンチを交互に青色のロボットに放っている。
黒ロボより頭ひとつ分ぐら ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

○ ゲーム内
高層ビルが建ち並んでいる。
そのビルよりも頭ひとつ分ぐらい大きな黒色のロボットが、連続で両手パンチを交互に青色のロボットに放っている。
黒ロボより頭ひとつ分ぐらい小さな青ロボは、そのパンチをいともたやすく避けている。
黒ロボがパンチを不意にやめ、右足で素早く青ロボの頭を目がけて蹴る!
青ロボ、難なくその蹴りを避け、黒ロボの懐に入り、顎にアッパーを放つ!
まともにそのアッパーを喰らい、ガクンと崩れ落ちる黒ロボ。


○ 家内家・守の部屋・朝
TVの画面に『You Win!』の文字が表示されている。
PS4のようなコントローラーを持って、座りながら、その画面を見ている小柄な少年の家内《やない》 守《まもる》(10)。コントローラーを置き、う~んと背を伸ばしながら、
守「今日はこんなもんやなぁ」
麗子の声「(大声で)守ー! 朝ご飯、早く食べー!」
守「(大声で)今行くわー!」


○ 家内家・リビング・朝
階段を降りてくる守。TVから『ワー!』や『キャー!』という歓声がリビングから聞こえて来る。
守、リビングに入り、TVに目を向ける。
TVの前には、少し細めの体格で、眼鏡をかけた父の家内| 正《ただし》(40)がソファに座って、映像を見ている。
映像には、宇宙シャトルが肩に突き刺さり、ソーラーパネルが全身に貼り付けられた人型のロボットと二本の巨大な塔が肩に突き刺さったロボットが対峙している様子が映っている。


○ TV内
司会者の声「レディ……ファイト!」
塔ロボがソーラーパネルロボに向かって走り、右パンチを放つ。
ソーラーパネルロボはジャンプをしてパンチを避け、クルッと回転し、二本の肩の塔を片手ずつでつかみ、そのまま塔を起点にはるか遠くまで投げる! 
数秒の静寂の後、どこからともなく歓声が湧き上がる。
司会者の声「強い強すぎる! ビリー選手、圧勝です!!」
また歓声が湧き上がる。
倒れた塔ロボの頭の部分に、黒人が座りこみ、悔しそうに泣いている。
ソーラーパネルロボが観客席のほうに向かって、『ありがとうありがとう』という感じで両手を挙げて答えている。


○ 家内家・リビング・朝
正「かー、やっぱつえーなぁ! ビリーは!」
守、テーブルの横にある椅子に座りながら、
守「今日からやった? ハウロボ杯。明日からちゃうかった?」
正、TVから守に顔を向け、
正「アホやなぁ。時差があるやろ。時差が」
守「ああ、忘れとった」
守、TVに目を向ける。TVには、先ほどの泣いている黒人がズームで映っている。
守「そんなに映したったらんでもいいのに。かわいそうやん」
正「これもハウロボ杯の見どころのひとつやしなぁ。まあ自分の家がこうなったら、誰でも泣くやろけどなぁ」
守たちの背後から『ドン!』という音。目玉焼きがのった大皿をテーブルに置いた音。
少し緊張して、守たちが恐る恐る音がした方に振り返る。
そこには美人の女性、家内 麗子《れいこ》(38)が仁王立ちしている。
麗子「(笑顔で)あんたたち、ご飯はええん?」
守・正「(引きつった笑いで)食べさせて頂きます…」
 *    *    *
守、青色のランドセルを背負いながら、リビングのドアに手をかけ、
守「学校行ってくるー」
麗子、テーブルを拭きながら、
麗子「気をつけるんやでー」
守「わかってるー」
ドタドタと階段を降りていく音。
正、TVに向き直りながら、
正「じゃあ、俺は大会の続きをっと…」
麗子、ガシッっと正の服の襟をつかみ、
麗子「あんたも仕事、行き」
正「いや、でも暇だし――」
麗子「(笑顔で)行きなさい」
正「(観念した表情で)はい…」

 
○ 商店街・朝
守が商店街の道を走っている。商店街の店はシャッターが閉まっているものが多い。


○ 家内家・リビング・朝 
麗子が椅子に座り、トーストをかじりながら、片手でリモコンを使って、チャンネルをワイドショーに変える。
『またウィルスで暴走? ハウスロボの危険性』というテロップが。
司会の男女ふたりが専門家などに詳細を伺っている。
麗子は関心なさそうにそれを見ながら、ポツリと、
麗子「まあ、まだうちらには関係ない話やねぇ」
チャンネルを変える。CMが流れている。内容は巨大なショッピングモールでオープニングセールをやっているというもの。
麗子「(つぶやく感じで)今日も行こうかな」


○ 小学校・教室・昼休み
椅子に座っている守。その傍らにはヒロシ(10)と眼鏡をかけたサトル(10)が立っている。
ヒロシ「あー、うちに帰ってハウロボ杯、見たい」
サトル「(同意するように)うんうん」
ヒロシ「あっ。そういえば、うちの家、ハウロボにしたで」
守「だから野菜屋開いてなかったん?」
ヒロシ「そうそう。ほら、なんか来年か再来年までには、やらなあかんねんやろ」
守「そうなん?」
サトル「正確には再来年かな。最近ニュースで見たわ」
守「なんでやらなあかんの?」
サトル「ほら、津波とか火事があったときに、逃げれるやん。ロボットやったら」
守「ああ、なるほどなぁ」
ヒロシ「サトルの家もそうやろ?」
サトル「うちは建てる時にそうしたらしいわ」
守、机に突っ伏しながら、羨ましそうに、
守「ええなぁ。うちはまだやわー。動かしてみたい」
ヒロシ「まあ動かせるかどうかは、また別の問題やろうけどなぁ。自動で動くものもあるやろし」
守「やっぱり自分で動かすタイプがいいな。どこかで見れないかなぁ」
サトル「最近できたショッピングモールで売ってるって聞いたことあるで」
守「(顔を上げ)ほんま!?」
ヒロシ「それって駅の近くのヤツ?」
サトル「そうやと思う」
ヒロシ「うちのオカン、言ってたわ。あそこはなんでも売ってるって。おかげで商売あがったりやーって」
サトル「それはうちのおとんも言ってた。あれのせいで魚が売れん! って」
守「あー、うちのオカンなんかほぼ毎日行ってるかも。その話は聞いたことないけど」
サトル「まあ興味なかったら、見もしないやろ」
守「そうかも」
三人で会話を楽しんでいると、目がクリクリと大きく美少女な北上《きたがみ》 |早織《さおり》(11)が間に入ってきて、
早織「何の話してるん?」
守、少し驚き、早織を見てほんのり赤面し、うつむく。
ヒロシ「ん? ほらあの新しくできたショッピングモール行こうかぁって話」
早織「ああ、うち何回も行ってるわぁ。今日も友達と行くつもり」
ヒロシ「じゃあ、向こうで会うかもしれんなぁ」
早織「どうやろ。めちゃくちゃ広いで」
早織の友達の声「早織ちゃーん。行くでー」
早織、声のほうに振り返り、
早織「あっ、今行くー」
ヒロシ「どこ行くん?」
早織「何言うてんの。つぎ体育の時間やで」
ヒロシ「あ、忘れてた」
早織「じゃあねー」
早織、友達がいる方へ駆けて行く。
サトル、壁に掛かっている時計を見て、
サトル「急いで準備しなあかんやん」
守「めんどくさー。(うんざりした感じで)またピラミッドの練習かなー」
サトル「一番上は怖いしなぁ。まあ頑張れ」
守「人ごとだと思ってー」


○ 家内家・前・15時ぐらい
看板の色が白ではなく、少しくすんだ白。看板の文字は『家内電気店』と書かれている。文字の色はくすんだ赤色。古びた感じ。
守、ガラガラと引き戸を開けて、中に入る。


○ 家内家・店内
店内は照明があまり照らされておらず、少し暗め。落ち着いた感じとも見える。
守「ただいまー」
引き戸をガラガラと開け、店内に入って来る守。
正の声「ん、お帰り」
守、声がしたほうを見る。
正、作業台の横に座り、壊れた車のおもちゃを修理している。横では、20型のTVにハウロボ杯の映像が流れている。
守「珍しく仕事してるやん」
正、作業の手を止めて。
正「お母さんに怒られるしな」
守「ふーん。オカンは?」
正「ショッピングモールに行ってくるって」
守「(あきれた感じで)またぁ? よう行くなぁ。まあ自分も行くけど、今から」
正「お父さんは仕事してるのに。うらぎりものやなぁ」
守「いや、それはしゃーないやろ」
守、TVに目を向け、
守「でも、ハウロボ杯も見たいわー」
正「上のテレビで録画してあるから、あとで見い。お父さんは生で見るけどなぁ」
守「なんか、イラッってする言い方やなぁ」
守、TVに目を戻し、見ている。


○ ショッピングモール・内
両サイドに店舗が並んでいる道を麗子が歩いている。両手は高級に見える買い物袋でいっぱい。
店舗にはさまざまな種類があり、もちろん衣料がメインだが、車が置いてある店も見える。家電も置いている店も。
麗子「はあー、満足満足」
麗子、前方の何かに気づいたように、
麗子「んっ…あれは確か守のクラスメイトの…」
麗子の視線の先、早織がキョロキョロと人を探している様子。
麗子、早足で早織に近づきながら、
麗子「早織ちゃんー?」
早織、振り返り、
早織「(一瞬訝しむ感じで)――守くんのお母さん……?」
麗子「そうそう。良かったーしっとってー」
早織「今日は買い物ですか?」
麗子「そやでー。こんなに買ってしもた」
麗子、両手一杯の買い物袋を見せる。
早織「わぁ。いっぱい買いましたねー」
麗子「そうやろー。でっ、早織ちゃんは誰か探してるんとちゃうの?」
早織「そうなんです。友達と来たんですけど、はぐれてしまって」
麗子「じゃあ、一緒に探してあげよか? これだけ広いとひとりじゃ見つけるの大変やろ」
早織、数秒考え、
早織「じゃあ、お願いします」
ペコリと頭を下げる。
麗子「任しといてー」
早織「荷物ひとつ持ちますね」
麗子「あっ、ありがとー」
麗子、他と比べ小さめの買い物袋を早織に渡す。
早織、受け取る。
麗子「じゃあ、適当にまわってみよかー」
早織「はい」
麗子と早織が歩き出そうとした瞬間。
機械的な店内アナウンスが流れる。
店内アナウンス「緊急事態が発生しました。その場から動かないでください」
同じアナウンスが何回も流れる中、
麗子「なんやろ」
早織「さぁ」
ドン、ガクンという振動が起こる。
麗子「えっ? えっ?」
早織「きゃ」
その振動でよろけるふたり。


○ 家内家・店内
いつの間にか作業の手を止め、ハウロボ杯の中継映像を見ている正と守。
正は座ったまま。守はランドセルを背負ったまま。
映像では、ハウスロボが激しい攻防戦を繰り広げている最中。
正「そこや。そこ!」
守「あー、ちゃうちゃう。右や右」
真剣に映像を見ているふたり。
ロボの一体が渾身のパンチを繰り出そうとした瞬間、画面がニューススタジオの映像に切り替わり、アナウンサーがペコリと頭を下げる。
正「そこやー! いけー! ……えっ」
守「おー! あれ……?」
拍子抜けするふたり。
正「なんや、ええとこやったのにー!」
守「勝負どうなってんやろ……」
映像に映っているアナウンサーが原稿を読み始める。
アナウンサー「えー、ただいま入った緊急ニュースです。大阪府屋根川市でショッピングモールがハウスロボに変形し、暴走しているとのことです。原因は今のところ不明ですが、恐らく今はやっているウィルスの影響ではないかとの声もあり――」
守・正、お互いを見て、
守「おとん、これってあそこじゃないの……」
正「大阪に屋根川……。ここだよなぁ。ショッピングモールってひとつしかないよなぁ……」
守・正「あー!!!」


○ ショッピングモール内
麗子「はあー、なんでこんなことになってんねんやろか」
早織「ほんとですね…」
麗子、早織が並んで、壁にシートベルトみたいなもので体を固定されている。足も固定。腕は固定されていない。壁は低反発性がある感じで、少し体全体が沈んでいる。早織たちだけでなく、他の買い物客たちも同じような目に。
麗子、大きな溜め息をつき、
麗子「なんかアナウンスでハウスロボに変形した言うてなかった?」
早織「たぶん言ってたと思います」
麗子「あー、なんかめんどくさいことになりそうな気がするー」
ガクンと振動が起こり、グルリとショッピングモール内が回転する。
買い物客たちから悲鳴があがる。
麗子と早織は慣れたのか、むしろうんざりした表情。
麗子「またこれか」
固定していなかった商品棚が麗子の左隣に落ちて来る。
麗子、別段気にせず。
麗子「固定すらしていないってどないなん」
今度は何百着もの服が早織と麗子の顔に向かって落ちて来る。
顔が埋まるふたり。手でかき分けて、
早織・麗子「ぷはっ」
服の山から顔を出すふたり。
麗子「まあ、棚とかが顔に落ちてこんこと祈っとこかなな」
早織「(うんざりとした表情で)そうですね…」
麗子・早織「(深いため息)はあー」


○ 家内家・店内
正、TVでの放送を見ながら、
正「(嬉しそうに)これは使うときが来たんとちゃうか!」
隣で放送を見ていた守、正のほうを見て、
守「何を?」
正、守を見返し、
正「(不敵な笑みを浮かべて)フフフ、いいものを見せたろか、守」
守、首をかしげる。
守「いいもの?」
正、作業台の下にかがみ、ガチャガチャと音をたて、何かを探している様子。
正「これ、これ」
正、CDケースを取り出し、守に見せるように掲げる。中身にはディスクが入っている。
守「これが何なん?」
正、ニッと笑う。
正「ついてきてみい」
正、そのディスクを片手に持ち、椅子から立ち上がり、守が入ってきた入り口から出て行く。ランドセルを作業台の空いている所に置き、急いで後に続く守。


○ 同・守の部屋・15時45分ぐらい
守「俺の部屋?」
整理整頓が行き届いている部屋。真ん中辺りの壁際にTVと黒い四角形のゲーム機。
正、迷わず、そのゲーム機の前に座り、ディスク取り出しボタンに触れ、中のゲームディスクを取り出す。代わりに片手に持っていたディスクを入れる。その後TVの電源を入れる。
その様子を訝しげに見ている守。
TVの画面は真っ黒。
正「よし」
守、正の横に座り、
守「なにがよしなの」
正、守をTVの真ん前に座らせ、側にあったゲームのコントローラーを渡し、
正「スタートボタンを押してみ」
守、首をかしげながら、コントローラーを受け取り、スタートボタンを押す。
ガクンと振動が起こる。ウィンウィンと機械音が聞こえる。
守「何? 何なん!?」
正、守が驚く表情を見ながらニヤニヤ。その間もガクンと振動が起こったり、機械音が続いている。
守「えっ、えっ、えっ」
守はキョロキョロと周りを見回す。やがて振動と機械音が止まる。
守、フゥと息をついて、ふとTVの画面を見る。TVの画面には、外が映っている。他の家々が下に見え、目線の高さには青空が映っている。
守「?」
守、意味が分かっていない様子。横で、その様子を見てニヤニヤ笑っている正。
守、何かに気づいたように。目を輝かせながら、
守「もしかしてこれって……」
正「ハウロボ。ハウスロボ」
守「えぇぇぇ!!! 何で! どうして!?」
正「まあ、建築途中に業者の人と協力して、こちょこちょと」
守「オカンには?」
正「もちろん内緒に決まってるやん。めっちゃ怒られるの分かってるし」
守、ぽかんと口を開けたまま。
正「まぁ、ほら緊急事態やし。お母さんを助けるためやし?」
守、口を閉じ、自分に言い聞かせるように。
守「そうや、そうや。もしかしたら早織ちゃんもいるかもしれんし」
正「操作はお前がいつもやってるゲームと同じにしてるから」
守「いいの?」
正「まあ……(ゴニョゴニョと言いにくい感じで)お父さんはいろいろあったし……」
守、首をかしげる。
正「とりあえずお前に任せるわ!」
守「うん!」
守、力強く頷く。


○ 屋外
雲ひとつない青い空のもと。
ガシンガシンと音をたて、『家内電気店』と書かれた看板が腰の辺りに設置され、もともとあった赤い屋根と三階の守の部屋に当たる部分が頭になっている二〇メートルぐらいの高さの人型ロボットが、上手に他の家を踏まないように歩いている。両腕
には電流コードみたいなものがらせん状に巻かれている。。


○ 家内家・守の部屋
正「(感心したように)やっぱり操作うまいなぁ」
守「ゲームと一緒やし。簡単簡単。あっ……あれかな」
TVの画面には、遠くに巨大な物体が見える。まだ何か分からない状態。


○ 屋外
前の場面から途切れなくつながるように。ガシャンガシャンと2、3回、家内家のハウロボが歩き、
守の声「えっ――ちょっと待って……」
ガシャンガシャンとさらに歩き、
守の声「でかすぎー!!」
ハウロボの目の前には、ゆうに三〇〇メートルの高さはある人型の銀色のロボット。体の中央部分には円を描くように、窓ガラスが設置されている。ここがショッピングモールの中心部分。頭に当たる部分は屋上にあたり、ヘリポートのためHの文字が
刻印されている。
家内家のハウロボはそのショッピングモールが変形した銀色のロボットの足首あたりの大きさまでしかない。
ショッピングモールロボは小さい家内家のロボの存在には気づいておらず、反対側を向いて、でたらめに暴走し、街を壊したりしている(コミカルな感じで)。


○ 家内家・守の部屋
守「(うんざりした様子で)めちゃくちゃや……」
正、ノートパソコンでカチャカチャとキーボードを打ちながら、
正「うーん、予想以上にでかいな……」
守のズボンが震える。ポケットからスマートフォンを取り出し、
守「ヒロシから電話や。何やろ」
電話に出る。スピーカーモードに切り替え、側の床に置く。
守「もしもし」
ヒロシの声「今どこにおる?」
守「今、家におるけど……。いないような気もする」
ヒロシの声「右見てみ、右」
守「右?」
守、コントローラーを操作し、右の方を見る。画面には同じぐらいのサイズのロボットが映っている。頭に当たる部分に『五十嵐《いがらし》青果店』という看板がかかっている。
守「もしかして……ヒロシ?」
ヒロシの声「そうそう! なんかオカンがあの中にいるらしくて」
守「うちと一緒や」
ヒロシの声「左も見てみ」
守、なんとなく気づいている顔で、コントローラーを操作し、左を見る。画面には同じぐらいのサイズのロボットが映っている。胸に当たる部分に『海川《うみかわ》鮮魚店』という看板がかかっている。
守「サトルもいると」
ヒロシの声「そうゆうこと」
守「で、これどないしたらいいと思う」
ヒロシの声「守のそのロボって操作どうやってんの?」
守「ゲームのコントローラーでやってる」
ヒロシの声「めっちゃ最新やん!」
守「最新かどうか分からんけど。でも操作は楽かな。そっちはどうやってんの?」
ヒロシの声「アニメでほらあるやん? レバーとかペダルで操作するやつ。あれ」
守「(頷くように)ああ。サトルも?」
ヒロシの声「さっき電話で聞いたらそうやったわ」
守「なるほどねぇ」
ヒロシの声「だから、あいつを倒せるとしたらお前だけなんよ」
守「なんで?」
ヒロシの声「歩いているのを見てたら、一目で分かるねんけど。そのハウロボ、動きがめっちゃスムーズやで。操作するのがコントローラーやからちゃう」
守「まあ『ロボットウォーズ』と同じ操作やし。結構無茶な動きもできるかも」
ヒロシの声「そうやろ。そんでお前ゲームで、めっちゃ強いやん」
守「まあ強いほうかな」
ヒロシの声「じゃあ、そうゆうことで頼む」
守「なにがそうゆうことかわからんけど……。そもそもあいつがでかすぎて、どうすればいいか分からんし……。あっ、いいこと思いついた!」
ヒロシの声「おっ、なになに!」
守「それは秘密。とりあえずあいつをひきつけといて。バレたらあかん作戦やし」
ヒロシの声「わかった。サトルにも言っとく」
守「よろしくー」
電話が切れる音。
守、キーボードを操作している正に振り返り、
守「ハウロボのコクピットってだいたいは頭やんな?」
正、キーボードを打ちながら声だけを返す。
正「そうやな」
正、エンターキーを勢い強くたたき、
正「よし完了!」
守「なにをやってたん?」
正「ウィルスのワクチンを作ってた」
守、訝しげに、
守「なんでそんなんつくれんの?」
正「お父さんが本気出せば、こんぐらい簡単や」
守、納得してない顔。
守「まあええわ……。オトンこんな作戦やねんけど。協力して」


○ 屋外
ここから先の戦闘はコミカルよりで、シリアスにならないように。
ショッピングモールロボの右足を蹴っているヒロシのハウロボ。
同じく、左足をパンチしているサトルのハウロボ。
ショッピングモールロボは完全無視。
自衛隊の戦闘機Fー15がショッピングモールロボの上を旋回している。
ショッピングモールロボ、Fー15を片手で蚊のように落とす。
ヒロシのハウロボ、ショッピングモールロボの人間でいう足の小指あたりをジャンプして踏んづける。
ショッピングモールロボ、ヒロシのハウロボを見下ろし、踏みつけようとする。ヒロシのハウロボ、全力ダッシュでその攻撃から逃げる。
その様子を見て、サトルのハウロボが左足の小指あたりを同じように踏んづける。
ショッピングモールロボ、サトルのハウロボを踏みつけようとする。こちらも全力で逃げる。
ショッピングモールロボ、そのふたつのハウロボを踏みつけようとし、家内家のハウロボとは反対方向に進む。
 *    *    *
ヒロシとサトルのハウロボが元の場所に戻って来る。後ろからはショッピングモールロボが追って来ている。


○ ヒロシとサトルのハウロボの視界
ハウロボで作ったピラミッドが見える。高さは約一〇〇メートルぐらい。
ヒロシとサトルの声「すげぇぇぇ!」


○ 屋外
ピラミッドの頂上には、家内家のハウロボが仁王立ちしている。


○ 家内家のハウロボの視界
守の声「町内全部のハウロボでのピラミッド! これは無視できないやろー!」
ショッピングモールロボが近づいて来る。


○ 屋外・16時30分ぐらい
少し日が傾いている。夕焼けにはなっていない。
ショッピングモールロボがピラミッドに右腕を伸ばす。近づいてきた右腕に飛び乗る家内家のハウロボ。腕の先には、攻撃を食らった他の家のハウロボたち。バラバラと崩れ落ちるピラミッド。


○ 同・ショッピングモールロボの右腕上
全速力で走っている家内家のハウロボ。ショッピングモールロボの左腕が近づいてくる。速度が遅いので、難なく避けるハウロボ。
ショッピングモールロボの左腕がクルッと向きを変える。手が変形しバズーカ砲みたいに。車が発射される。
守の声「そんなんあり!?」
家内家のハウロボ、ジャンプしてギリギリ避ける。何発も発射してくるショッピングモールロボ。
ジャンプの着地に失敗し、つまづく家内家のハウロボ。そこに照準が合わせられる。
守の声「あ、ヤバいかも……」


○ 屋外
ショッピングモールロボの足の小指を様々なハウロボが蹴っている。ヒロシとサトルのハウロボもいる。


○ 同・ショッピングモールロボの右腕上
家内家のハウロボを狙っていたショッピングモールロボの左腕が少しぶれて、車はハウロボの横をスレスレに発射される。
守の声「よし。今のうちに!」
ハウロボ、全速力で走り、思いっきりジャンプする。


○ 同・ショッピングモールロボの頭の上
Hと書かれた床の上の端に着地する家内家のハウロボ。
守の声「着いたー!」
右足のつま先からノートパソコンを持った正が出て行く。
守の声「オトンー。あと頼むー」
正、ハウロボを振り返り、親指を立てOKのポーズ。屋内に入っていく建物の横に向かって走る。
Hと書かれた床の真ん中が開かれ、そこからスタイリッシュな人型のロボットが現れる。銀色でいかにもロボットという感じ。余計な装飾はついていない。
守の声「ラスボスってやつ?」
銀色ロボットはハウロボを無視して、正がいるところに向かって走る。
ハウロボが銀色ロボの左腕をつかむ。銀色ロボが振り返る。
守の声「それはさせられへんなぁ」
ハウロボが腕を引っ張り、銀色ロボを倒す!
銀色ロボがすぐに起き上がり、ファイティングポーズをとる。
守の声「そうこないと!」
ハウロボ、右パンチを放つ。難なく避ける銀色ロボ。連続でパンチを放つハウロボ。全て最低限の動きで避ける銀色ロボ。蹴りをその動作の中に入れてみるが、それすらも簡単に避ける。銀色ロボはハウロボの攻撃を避けながら、的確に攻撃を当ててく
る。攻撃自体は軽いが、手数が多い。
守の声「ハイスペックすぎやわ……」
防戦一方になるハウロボ。


○ 家内家・守の部屋
コントローラーを一所懸命に動かしている真剣な表情の守。
守「……うちの家にありそうな武器は……」


○ 屋外・ショッピングモールロボの頭の上
防戦一方のハウロボ。胸の辺りを銀色ロボの右腕が貫く。その腕を抜けないように、左腕でつかむハウロボ。その腕を外そうともがく銀色ロボ。
守の声「よくアニメで見るけど、早い敵にはこれしかないわー」
右腕に電流が走っている。腕に巻き付いているコードからバチバチと火花が出ている。
守の声「いくでー! サンダーパンチ的なもん!」
電流が纏った右腕を銀ロボの胸の辺りに放つ! 装甲が堅いので、貫きはしないが、ガィンと音が響く。
ブブブと痺れる銀色ロボ。膝をつき、倒れる。プスプスと少し焦げている。
守の声「はぁ……。うちがつぶれかけの電気屋でよかったぁ。電力ありあまってるもん」
正がハウロボに駆けて来る。


○ 家内家・守の部屋
ドアを開け、入ってくる正。
守「成功したん?」
息を整えながら、
正「当たり前やろ」
お互い笑顔。


○ 屋外・夕方
徐々に元の形に戻っていくショッピングモールロボ。夕焼けの赤と重なり、少し幻想的な風景。


○ 家内家・守の部屋・夕方
その風景をハウロボの形態のまま、窓から見ている守と正。
守「なぁ、ひとつ思ってんけど」
正「なんや」
守「部屋の中、めちゃくちゃじゃないの?」
正「うん、まあ……そうやろなぁ」
守「オカンが帰ってくる前に片付けなヤバいんじゃないの……?」
正「まぁ……」
守「っていうか、腕がひとつぶっ飛んでんけど。元のうちに戻れるかな」
数秒間の沈黙。


○ 同・前・夜
肩をわなわなと震わせている麗子。買い物袋はしっかりと持っている。目線の先には明らかにボロボロに壁などが崩れたり、傷が付いている我が家。
麗子「……」
無表情のまま玄関のドアを開け、入って行く麗子。
麗子の声「これはどういうことか、一から十まで説明してもらおかぁぁぁ!」
正の声「いや、これはそのなぁ……」
守の声「そうそう、理由があって……」
麗子の声「ぎゃー! 風呂場がなくなってるー!!!!」
『部屋がめちゃくちゃ』『高級な置物が割れてる』『ぎゃーー』という麗子の阿鼻叫喚の声が辺りに響いている。
          (完)

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。