名探偵・唐橋喜一郎の終焉 コメディ

「犯人はお前だ!」と名探偵が言いかけたとき、突如現れた全く関係ないオジサン。 荒唐無稽な供述。だが全て真実。推理は大ハズレ。 名探偵は自らのメンツを保つため、『みんながちょっと驚いて、しっかり納得できる程度」の真実を作り上げようとする・・・
明星圭太 10 3 0 08/13
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第一稿

1 小別荘・居間・夜
    窓の外、激しい豪雨。
    唐橋喜一郎(47)、その様子を見な
    がら、薄い笑みを浮かべる。
唐 橋「…謎はもう解けた」
    唐 ...続きを読む
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1 小別荘・居間・夜
    窓の外、激しい豪雨。
    唐橋喜一郎(47)、その様子を見な
    がら、薄い笑みを浮かべる。
唐 橋「…謎はもう解けた」
    唐橋、振り返る。男1、女1、女2
    が立っている。
唐 橋「ピアニストの大山田昇さんが殺害さ
    れたことは、ご存知ですね? そし
    て、どうしてご自身がここへ呼ばれ
    たかということも」
女 1「前置きはいいから、早くしてくれ
    る? 私たちもヒマじゃないのよ」
唐 橋「まあ、そう焦らずに。これから、全
    ての真実が明らかになります」
    唐橋、話を続けているが、三人、そ
    れを聞かずにヒソヒソし始める。
 男 「(小声で)これ、交通費って出るん
    ですかね?」
女 1「(小声で)さすがに出るでしょう。
    こんなとこまで呼び出しといて」
女 2「(小声で)自宅はまだ捜査中だから、
    別荘しか許可下りなかったらしいで
    すよ」
 男 「(小声で)ふふっ、推理ごっこはヨ
    ソでやれってことですかね(笑)」
唐 橋「つまり、大山田さんには心臓の既往
    症があったんです。それを利用して
    犯人は、手を下すことなく殺害した。
    それができるのは、そのことを知っ
    ていた、あなたがたのうちの誰かと
    いうことになります」
 男 「それで、犯人は誰なんでしょうか」
唐 橋「犯人は、この中にいる!」
 男 「それもう聞きましたけど」
唐 橋「大山田さんを殺害した犯人は…」
    唐橋、タメる。
    三人、一応黙る。
唐 橋「犯人は…」
    三人、ダルそうな顔。
    唐橋、まさに言おうとする。
    その時。
    居間に突然、作業服を着たビショビ
    ショの男が入ってくる。神保一志
    (58)だ。
神 保「すいません遅れました!」
唐 橋「!」
    全員、沈黙する。
唐 橋「…どちらさま?」
神 保「ああ、あの、このたび、大山田さん
    を、殺害させていただいた者です、
    はい」
    大きな雷鳴が轟く。
    唐橋、驚きのあまり震え始める。

2 タイトル『名探偵・唐橋喜一郎の終焉』

3 警察署・廊下・夜
    事情聴取待ちの市民や容疑者、警官
    たちで慌ただしい。
    唐橋、うつろな顔で歩いている。
    米重正人(27)、唐橋を見つけ、
米 重「先輩! どうでした、あの事件」
唐 橋「ん? うん。大丈夫だよぉ」
米 重「いやあ、心臓の病気を利用した犯行
    だなんて、普通思いつきませんよ! 
    さすが、警視庁きっての名探偵!」
唐 橋「だといいね」
    唐橋、歩き始める。
米 重「?」

4 同・取調室・夜
    唐橋、神保を取り調べている。
神 保「私がやったことに、間違いありませ
    ん。しっかりと自分の罪を見つめ直
    して、精一杯償いたいと思っており
    ます」
唐 橋「営業妨害だよね」
神 保「はい?」
唐 橋「事実はどうあれさ、あの一番盛り上
    がってるところで入ってきちゃダメ
    よ。あの一瞬のために捜査頑張って
    るみたいなところあるしね」  
神 保「確かに、あの一番盛り上がってると
    ころに入ってきてしまったことは、
    謝ります」
唐 橋「勘弁してね? ホントに。で、お名
    前は」
神 保「神保一志と申します」
唐 橋「年齢」
神 保「五十八になります」
唐 橋「職業」
神 保「土木作業員をやっております」
唐 橋「誰なんだよ!」
神 保「すいません」
唐 橋「俺のことおちょくってんのか」
神 保「そんなつもりは、微塵も」
唐 橋「俺の推理は完璧だったんだよ。あの
    三人まで絞り込んで、…あとはまあ、
    アドリブで乗り切ろうとした部分も
    あるけど、どのみち犯人は割れてた
    んだよ。それを、何の関係もないオ
    ジサンが入ってきちゃって」
神 保「…すいません」
唐 橋「さぞ完全犯罪だったんでしょうなあ、
    全部話してもらうよ」
神 保「長くなっても、よろしいでしょうか」
唐 橋「ああ、もちろん」
神 保「今から三十八年前に遡ります」
    唐橋、びっくりして神保を見る。

5 大学・屋外広場・昼(回想)
    三十五年前。神保(20)、木に寄り
    かかりながらギターを爪弾いている。
神保N「当時大学生だった私は、ロクに授業
    も受けず、フーテンばかりしていま
    した」
    近くにいた大学生の集団の一人、
    「うるせえよヘタクソ!」と叫ぶ。
    周り、爆笑。
    神保、ギターを弾く手を止める。
    すると突然、雨が降り始める。たち
    まち雷雨になる。
    神保、物憂げに空を見つめる。
神保N「そのときでした。私の体を、稲妻が
    貫いたのです」
    寄りかかっていた木に雷が落ちる。
    轟音と閃光が辺りを包む。

6 病院・廊下・昼(回想)
    神保を乗せたストレッチャーが、猛
    スピードで運ばれている。
神保N「病院に担ぎ込まれた私は、九死に一
    生を得ました」

7 同・病室・昼(回想)
    神保、ベッドに横たわりながら、窓
    の外を見ている。
    今にも木から落ちそうな、一枚の葉。
神保N「それから、私に起きた異変に気がつ
    くまで、それほど時間はかかりませ
    んでした」
    葉、木からゆらゆらと落ちる。
    その瞬間、神保の脳内に無数の数式
    がよぎる。
    突然立ち上がり、走り出す神保。

8 同・外・昼(回想)
    神保、落ちた葉に駆け寄る。
    そして取り憑かれたように、地面に
    指で数式を書き始める。
    止めにくる看護士たち。それを振り
    払い、書き続ける神保。

9 同・診察室・昼(回想)
    医師、神保に話している。
医 師「落雷を受けた衝撃で、神保さんの脳
    が急激に活性化し、驚異的な知能指
    数が示されています」
神 保「どういうことですか」
医 師「医学的に説明することはできません。
    これはまさに、奇跡と言えます」
神 保「…奇跡」

10 大学・研究室・夜(回想)
    白衣姿の神保、半導体にはんだごて
    を施している。
神保N「授かった能力をフルに使い、私は
    様々な開発をしました。その中に、
    あの機械はあったのです」

11 同・講堂・夜(回想)
    生徒によるバンドがライブをしてい
    る。
    神保に暴言を吐いた大学生、ボーカ
    ルをしている。
    ハードなロックに体を揺らす観客た
    ち。
    その後方で、タブレット型の機械を
    操作している神保。
神保N「歌声や演奏から、その人物の人格や
    思想を検知できる装置、『ミュージ
    ック・トゥ・ヒューマン・リサーチ
    ャー』です」
    タブレットの画面にドクロのマーク
    が浮かぶ。
    ボーカルを睨みつける神保。
    ボーカル、激しくシャウトし、観客
    に中指を突き立てる。

12 コンサートホール・昼(回想)
    五日前。
    大山田昇(57)、ピアノを奏でてい
    る。
    満員の聴衆、演奏を聴いている。
神保N「そして装置は、彼の演奏にも、悪い
    結果を示したのです」
    神保(58)、大山田を睨みつけてい
    る。
    装置、再びドクロのマークを表示し
    ている。

13 警察署・取調室・夜(戻り)
唐 橋「そんなハイカラな機械を、四十年近
    くも前に開発してたっていうんです
    か」
神 保「実際、企業に売り込みをかけたので
    すが、どこも相手にしてくれません
    でした」
唐 橋「…で、大山田さんに接触を図り、驚
    かせることで心臓にダメージを与え、
    手を下さずに殺害したと」
神 保「いえ」
唐 橋「?」
神 保「私にはもうひとつ、特殊な能力があ
    りまして」

14 道・夜(回想)
    神保、大山田に向かって手をかざし
    ている。
    大山田の体、宙に浮遊し始める。
    首を押さえ、苦しんでいる大山田。
    神保、手を下ろす。
    大山田の体も地面に叩き付けられる。
    既に息をしていない。
神保N「念力で、殺害しました」

15 戻り
    唐橋、調書を書くのをやめている。
神 保「これが、全ての真相です」
    唐橋、しばらくうなだれて、
唐 橋「休憩しよっか」

16 同・視聴覚室・夜
    会議室のようなだだっ広い部屋。電
    気は点いておらず、プロジェクター
    がスクリーンに映像を流している。
    唐橋、それを観ている。

   ×      ×      ×

    その映像(スマホで撮影された、記
    録映像のようなクオリティ)。
    豪華客船のラウンジ。
    四百人近い乗客が集まる中、唐橋、
    話している。
唐 橋「今回、この船で起こった痛ましい事
    件は、私が全て解き明かしました」
    どよめく乗客たち。
唐 橋「犯人は、皆さんの中にいます。被害
    者を、故意に救命用のボートに乗せ、
    サメのエサにした人物が」

   ×      ×      ×

    唐橋、ポップコーンをバリバリ食べ
    ながら観ている。
    後ろからそっと、米重、やってくる。
    唐橋、ふと振り向いた拍子に気付き、
唐 橋「ノ、ノックぐらいしろよバカ!」    
米 重「神保一志の供述、ウラ取ってきまし
    た」
唐 橋「…聞きたくねえし」 
米 重「実際に彼が落雷に遭ったという記録
    は見つかりました。それから、胡散
    くさい機械を企業に売り込んでいた
    というのも、問い合わせで事実だと
    判明しました。その後研究は行き詰
    まり、インチキくさい念力で営業を
    回って、小金を稼いでいたという事
    実もあります」
唐 橋「……」
米 重「…先輩」
唐 橋「もう俺、やめる」
米 重「何を?」
唐 橋「刑事」
米 重「どうしてですか!」
唐 橋「(画面を観ながら)美しい思い出の
    まま、散りたいんだよ」
米 重「なに弱気になってるんですか! こ
    んなのたかだか数時間で集めた証拠
    ですよ? もっと別の何かがありま
    すよこの事件には!」
唐 橋「いや、ない」
米 重「おい、先輩!」
唐 橋「これだけ事件を解決してると、分か
    るんだよね。犯人がウソ言ってるか、
    真実を言ってるかっていうのはさ」
米 重「……」
唐 橋「アイツは本当のことを話してる目を
    してたよ」
米 重「…じゃあ、このまま送検しますか」
唐 橋「それができたら苦労しねえよ。俺は
    唐橋喜一郎なんだよ。あの、唐橋喜
    一郎なんだよ!」
米 重「あんな理解不能な真実を暴いて、自
    分の看板に泥を塗りたくないって、
    そういうことですか!」
唐 橋「もちろんです! やるならお前やれ、
    俺はもう関わりたくない」
米 重「この意気地なし!」
唐 橋「何とでも言えばいいよ。事件解決よ
    りプライドを優先するクソ刑事、メ
    ンツを守るために仕事を放り投げる
    税金泥棒ってな」
米 重「めちゃめちゃ自覚してるじゃん!」
    映像から、唐橋の「犯人は、お前
    だ!」という声が聞こえてくる。

17 同・正面玄関・夜
    署から出てくる唐橋。
守 衛「(敬礼して)お疲れさまです」
唐 橋「(目も見ずに)はい、お疲れちゃん」

18 新宿・キャバクラ・夜
    唐橋、カオル(19)の膝を枕にして
    横たわっている。
カオル「フルーツ盛り合わせ食べる?」
唐 橋「ううん、大丈夫」
    テーブルには食事や酒が雑然と置か
    れている。
唐 橋「俺はさぁ、抜群の推理力っていうの
    がもう、代名詞になっちゃってるわ
    けよ。だから俺がそういう変なこと
    言うと、周りが混乱するわけ。つま
    り俺は、気を遣って身を引いたんだ
    よ。なんであの若造には分からんか
    なぁ」
カオル「野菜スティック食べる?」
唐 橋「ううん、大丈夫。これで俺がもし、
    普通の刑事だったらいいよ。送検で
    もなんでもしますよ。でもそうじゃ
    ないから。名探偵っていうレッテル
    はさ、時に不自由なこともあるわけ
    よね」
カオル「クラッカー食べる?」
唐 橋「ううん、大丈夫。アイツ余計なこと
    してなきゃいいけどなぁ。どのみち
    あのまま送検しても、笑われて不起
    訴になるのがオチだよ」
カオル「だったらキイちゃんの都合のいいよ
    うに、真実を作っちゃえばいいじゃ
    ん」
唐 橋「ううん、大丈夫。…え?」
カオル「みんながちゃんと驚いて、ちゃんと
    納得するぐらいの、いい感じの真実
    を作っちゃえばいいじゃん」
唐 橋「(感動して)…カオルちゃん」
カオル「ごめん、アフター行ってくる!」
    カオル、立ち上がる。唐橋、椅子か
    らずり落ちる。
    店内、『蛍の光』が流れている。
唐 橋「……」

19 警察署・取調室・昼(翌日)
    取り調べ。
唐 橋「ということで、ちょうどいい真実を
    作ることにしました」
神 保「…はあ」
唐 橋「アンタ、罪を償いたいんだろう? 
    だったらそんな真実は使いものにな
    らない。みんなが納得するようなや  
    つをこしらえて、一発かましてやる
    んだよ」
神 保「例えば、どういったものを」
唐 橋「で、考えたんだけどさ、こういうの
    どうかな?」

20 大山田宅・玄関〜居間・昼
    豪邸ほどではないが、立派な一軒家。
    大勢の刑事が、家中で証拠となりそ
    うなものを探している。
    唐橋、しれっと中へ。
    巡査の片倉(27)、やってきて、
片 倉「お疲れさまです!」
唐 橋「どう? やってる?」
片 倉「被疑者が逮捕されても、肝心の証拠
    が出ないっすねえ。どうか、名探偵
    のお力添えを!」
唐 橋「よ、よせよぉ」
唐橋N「アンタが以前から大山田に恨みを持
    っていて、…」

   ×      ×     ×

    居間。
    唐橋、刑事たちをかき分けて、本棚
    の前に来る。
    コートの内ポケットから手紙を数通
    取り出す。
唐橋N「脅迫まがいの手紙を何度も送ってい
    た。そのストレスで、心臓をおかし
    くした!」
神保N「なるほど、それならいけそうな気が
    します!」
唐 橋「……」
    周りを見て、タイミングを伺う。
    そして思い切って、
唐 橋「あ、なんか、あるなぁ(棒読み)」
    刑事たち、一斉に唐橋を見る。
刑事1「どうしました?」
唐 橋「ん? なんか、手紙。怪しくない? 
    これ」
刑事2「さっき調べたときには、ありません
    でしたけど」
唐 橋「ダメだよ、ちゃんと見なきゃさぁ。
    ダブルチェックした? ちゃんと。
    ダブルチェック」
刑事2「…すいません」
唐 橋「え、どんな内容なんだろう。開けて
    みていい? 脅迫文とかだったらさ
    ぁ、結構ヤバいよねぇ」
    唐橋、手紙を開ける。
    紙いっぱいにヘタクソな字で『バカ』
    『アホ』『オタンコナス』などと書
    いてある。
    唐橋、絶句。
刑事1「…ただのイタズラでしょうね」
刑事2「脅迫にしては、あまりにも稚拙です」
唐 橋「…捨てといて」
刑事2「はい」

21 警察署・取調室・昼
神 保「文章は、あまり得意ではないもので」
唐 橋「お前ふざけてるだろ」
神 保「そんなつもりは、全く」
唐 橋「ずっと思ってたんだけど、アンタ何
    なの? あの、よく分からん機械と
    いい」
神 保「ミュージック・トゥ・ヒューマン・
    リサーチャーです」
唐 橋「なんでもいいよ。なんか基本ふざけ
    てないか?」
神 保「そう思われても仕方ないと思います。
    ロクでもない人生でしたから」
唐 橋「……」
神 保「ところで、私も少し考えてみたんで
    すけど、こういうのはどうでしょう
    か」

22 大山田宅・居間・昼
    唐橋、刑事たちに話している。
唐 橋「今しがた、容疑者から重要な証言が
    取れたので、共有しておきたい」
    ポケットから、小型ゲーム機のよう
    な機械を取り出す唐橋。
唐 橋「これは神保一志が以前開発した、自
    動で曲を作成する機械、『オートマ
    ティック・ミュージック・メイカー』
    です。大山田さんは生前、この機械
    を使って作曲を行っていた。すなわ
    ち神保は、事実上のゴーストライタ
    ーであったといえます」
刑事1「それが、確執を生むきっかけになっ
    たということですか」
唐 橋「そのとおり。実際この機械には、大
    山田さんの未発表の楽曲が入ってい
    ました」
刑事2「それが、動かぬ証拠というわけです
    か」
    唐橋、再生ボタンを押す。
    ただピアノを鳴らしているだけのよ
    うな、旋律も伴奏も機能していない
    音の羅列が聴こえてくる。
    唐橋、動揺を必死で隠す。
刑事1「…ただのイタズラでしょうね」
刑事2「曲と呼ぶには、あまりにも稚拙です」
唐 橋「…解散」
刑事2「はい」

23 警察署・取調室・昼
唐 橋「本当にロクでもない人生だったと言
    われても仕方がないな」
神 保「…すいません」
唐 橋「(うなだれて)困ったなぁ…」
神 保「いろいろ手を尽くしていただいてい
    るのはありがたいですが、やはり真
    実に勝るものは無いんじゃないでし
    ょうか」
唐 橋「なんで薄々気付いてることを言う
    の?」
神 保「すいません」
    唐橋、しばらく考えて、
唐 橋「…念力ってどうやってやんの?」 

24 同・休憩室・夜
    片倉と米重、タバコを吸っている。
片 倉「ねえ、あの人大丈夫なの?」
米 重「あの人って?」
片 倉「唐橋さんだよ。さっき呼んでもない
    のに勝手に現場来てたよ。しかもな
    んか、ウソくさ〜い証拠みたいなの
    出し始めて、すげえスベッてたよ」
米 重「…あの人には、あの人なりの考えが
    あるんだよ」
片 倉「いやあ、一部ではさ、偽装工作して
    んじゃねえかってウワサ出ちゃって
    るよ」
米 重「……」
片 倉「図星?」
米 重「いちいち首突っ込んでくるんじゃね
    えよ!」
片 倉「まあ落ち着けって。あの人に全幅の
    信頼寄せてんのは分かるけどさ、そ
    のー、ハンプクぐらいにしといたほ
    うがいいんじゃない?」
米 重「…唐橋さんは、憧れである前に上司
    なんだよ。俺が信じなきゃダメなん
    だ」
    そこへ刑事課長・吉野(55)、やっ
    てきて、
吉 野「米重」
米 重「…課長」
片 倉「じゃ、お先に」
    片倉、立ち去る。
吉 野「ピアニストの事件、どうなってる」
米 重「今、唐橋さんが取り調べてます」
吉 野「まだやってるのか。さっさと送検す
    るよう伝えろ。いたずらに留置する
    ことは認めんぞ」
米 重「伝えて、おきます」
    すると、米重に着信。
    画面を見て、
米 重「その唐橋さんからです!」

25 道〜警察署・休憩室・夜
    疾走する一台のパトカー。
    神保が運転、唐橋が助手席で電話を
    している。
    (以下、カットバック)
唐 橋「干瓢巻きを3メートル用意してくれ」
米 重「え? は、メートル?」
唐 橋「あと、ういろうを4リットル」
米 重「リットル?」
唐 橋「生理食塩水を、スプーン一杯」
米 重「ちょっと、何なんですかいきなり!」
唐 橋「それを持って、新木場の第八倉庫に
    来い。至急だ!」
    唐橋、電話を切る。
唐 橋「そこ右」
神 保「はい」
米 重「……」

26 新木場・第八倉庫・中・夜
    コンテナなどが並ぶ、巨大な倉庫。
    米重、重そうな袋を両手に抱え、や
    ってくる。
唐 橋「遅いぞ!」
米 重「ちょっと、容疑者連れ出して何やっ
    てるんですか!」
唐 橋「だからさっさと終わらせるんだよ!」
米 重「はい?」
唐 橋「干瓢巻き! いいから早く!」
    米重、唐橋に袋を渡す。中に折り曲
    げられた3メートルの干瓢巻き。
    唐橋、神保にそれを渡し、
唐 橋「…いけるか?」
    神保、深呼吸をして、
神 保「いきます」
    神保、干瓢巻きにかぶりつき、呼吸
    を置かずに食べ続ける。
唐 橋「よし、いけ!」
    神保、むせたりするが、食べるのを
    やめない。
唐 橋「あと1メートルだ! いけ!」
    神保、最後の一口を押し込む。
唐 橋「よし。生理食塩水!」
米 重「あ、は、はい!」
    米重、水筒とスプーンを取り出す。
    水筒の水をスプーンに注ぎ、神保に
    渡す唐橋。
    神保、それをペロっと舐める。
唐 橋「よし、最後だ! ういろう!」
米 重「もう無理ですって!」
唐 橋「早くしろ!」
    米重、袋一杯のういろうを神保に渡
    す。
    神保、ういろうに手を当て、目を閉
    じる。
神 保「オッケーです」
    唐橋、素早くういろうをしまう。
米 重「(食わねえのかよ! と言いそうな
    顔)」
神 保「いきます」
    目を閉じ、空中に手をかざす神保。
    すると遠くのコンテナがひとつ、ガ
    タガタと音を立てる。そして、宙に
    浮かび始める。 
唐橋・米重「!」
    ゆっくりと上昇するコンテナ。
    神保、手を下ろす。
    コンテナ、勢いよく地面に落下。
    『ガァン!』という激しい轟音。
米 重「ひゃっ!」
唐 橋「(茫然)」
    神保、目を開ける。
神 保「これが私の、念力です」
    唐橋、拍手して、
唐 橋「素晴らしい! これで起訴できる
    ぞ!」
神 保「ありがとうございます!」
唐 橋「米重、すまなかったな。やはり、真
    実に勝るものはない。これを検察で
    もやろう。そして、神保は裁きを受
    ける。それでいいんだ」
神 保「持ってきていただいたのは、念力を
    発動するのに必要な道具であります」
    米重、うつむいたまま喋らない。
唐 橋「米重?」
米 重「…こんなの誰が信じるんだよ!」
    米重、唐橋を突き飛ばす。
    唐橋、尻餅をつき、びっくりした顔。
唐 橋「…え?」
米 重「大の大人がこんなインチキで騒ぎや
    がって! ふざけんじゃねえよ! 
    アンタにはプライドってもんがねえ
    のかよクソ!」
唐 橋「いや、お前が、熱い感じで、きてた
    から…」 
米 重「見損なったよ!」
    米重、走り去る。
唐 橋「ほ、本当なんだよぉ!」
    虚しく響き渡る声。
神 保「…すいません、自分のせいで」
唐 橋「…ダメ、俯瞰になったらダメだ、虚
    しくなる。集中しろ、集中! …あ
    ぁ、やっぱなっちゃった」
神 保「あぁ…」
唐 橋「何してんだろ俺、ねえ、何してんの
    俺? やだぁ、念力見せて部下に怒
    られたぁ。怖い怖い怖い」

27 警察署・刑事課・夜
    吉野のデスク。唐橋、叱責されてい
    る。
吉 野「留置中の容疑者を連れ出すなんて前
    代未聞だぞ!」
唐 橋「すみません」
    刑事課の面々、それを見ながらニヤ
    ニヤと噂している。その中に片倉も
    いる。
吉 野「いくらキミが頭脳明晰な名探偵でも
    ね、やっていい事と悪い事があるだ
    ろう。自分に溺れて、そんな区別も
    付かなくなったのか?」
唐 橋「…反省しています」
    米重、ドアの陰から、その様子を見
    ている。

28 同・正面玄関・夜
    唐橋、出てくる。
守 衛「(敬礼して)お疲れさまです」
唐 橋「(小声で)あ、お疲れさまでした」

29 電車・中・夜
    満員電車。唐橋、つり革に掴まり、
    浮かない顔をしている。
    向かいの座席に座り、話しているカ
    ップル。
    男(ホスト風)のブーツの先が、ず
    っと唐橋のスネに当たっている。
    唐橋、気付いているが、何も言えな
    い。

30 キャバクラ・夜
    唐橋、カオルの膝を枕にして横たわ
    っている。
カオル「ガパオライス食べる?」
唐 橋「ううん、大丈夫」
    テーブルには食事や酒が雑然と置か
    れている。
唐 橋「みんな口ではいいように言ってるけ
    どさ、結局は都合で生きてるんだよ。
    都合のいい部分しか見たくないし、
    都合の悪いことには関わりたくない
    って具合にさ」
カオル「オーギョーチ食べ…」
唐 橋「(さえぎって)オーギョーチいらな
    い、あと次に言うであろうピスタチ
    オとマシュマロもいらない」
カオル「…怒ってるキイちゃん、嫌い」
唐 橋「怒ってないよ? でもなんか、モヤ
    モヤするというか」
カオル「じゃあ、いつものやる?」
唐 橋「…いいの?」
カオル「うん。キイちゃんが元気になるまで、
    褒めてあげる!」
唐 橋「(優しさに感動している)」

31 豪華客船・ラウンジ・夜(Nベース)
    シーン16の映像と同じ場面。
    大勢の乗客を前に、唐橋、話してい
    る。
カオルN「豪華客船で起きた殺人事件で、四
     百人の乗客から犯人を暴いたキイ
     ちゃん、すごい!」
    強い眼差しで指を差す唐橋。
    米重、その様子をスマホで撮影して
    いる。

32 崖・昼(Nベース)
    犯人(女)と崖っぷちで対峙する唐
    橋。
カオルN「船越より先に、犯人を崖に追い込
     んだキイちゃん、天才!」
    船越英一郎、走ってやってきて、
    「クソォ!」と悔しがる。

33 貸し切りバス・車内・昼(Nベース)
    運転席の横でマイクを握る唐橋。
    満員の乗客、楽しそうにしている。
カオルN「自分が助けた被害者たちを集めて、
     毎年バスツアーをやってるキイち
     ゃん、人望ある!」

34 キャバクラ・夜
    戻り。
カオル「私は、キイちゃんの素敵なところ、
    いっぱい知ってるから!」
唐 橋「カオルちゃん…俺、頑張る」
カオル「うん! じゃあ、アフター行ってく
    るね!」
    唐橋、素早くよける。
    カオル、立ち上がり、去っていく。
唐 橋「…よし」
    唐橋、テーブルの上の食事をモリモ
    リ食べ始める。

35 新宿・歓楽街・夜
    喧騒の中を、唐橋、歩いている。食
    べ過ぎでお腹をさすっている。
    向かいから、米重、やってくる。
唐 橋「!」
米 重「さっきは、すいませんでした。気が
    動転してしまって」
唐 橋「…いや」
米 重「まだ通ってたんですね、あの店。俺
    がヘマして被疑者取り逃がしたとき、
    連れてってもらったの覚えてます」
唐 橋「(恥ずかしそうに笑う)」
米 重「唐橋さんは俺の目標です。だから、
    苦戦しているところは、見たくなか
    ったっていうか。でも、あの日唐橋
    さんが俺をフォローしてくれたよう
    に、今度は俺の出番かな、なんて」
唐 橋「…事件当日、アイツが干瓢巻きを発
    注した寿司屋がある。明日、ウラ取
    りに行くぞ」
米 重「はい!」
    そこへキャッチの男、寄ってきて、
キャッチ「お兄さんたち、ゲイ? ウチの店、
     ゲイ大歓迎なんだけど、どう?」    

36 寿司屋・前〜警察署・刑事課・昼(翌日)
    米重、店員から伝票を受け取る。
店 員「これが、その伝票です」
米 重「ありがとうございました」
    米重、唐橋に寄っていき、
米 重「犯行時刻の二時間前に、神保は干瓢
    巻きを受け取っています。これでい
    けますね」
唐 橋「いや、まだダメだ」
米 重「?」
唐 橋「肝心の機械がないんだ」
米 重「ミュージックなんたらってやつです
    か?」
唐 橋「別荘へ来る途中に紛失したらしい」

   ×      ×      ×
    シーン1、小別荘。
    居間に飛び込んできて、ビショビシ
    ョの神保。
   ×      ×      ×

米 重「なんでそんな大事なものを!」
    米重に着信。吉野から。
    (以下、カットバック)
米 重「はい、米重です。…送検した!?」
吉 野「ここからは、検察に委ねることにし
    た」
米 重「いや、まだ勾留期限の四十八時間経
    ってないじゃないですか!」
吉 野「これ以上の進展は見込めないと判断
    したんだ。分かったら、帰ってこい」
    電話を切る吉野。
米 重「もしもし! …チクショウ」
唐 橋「ここまでだな。送検されちゃったん
    じゃ、お役御免だ」
米 重「…先輩」
唐 橋「?」
米 重「これから話すこと、信じていただけ
    ますか」

37 検察署・取調室・昼
    検事の松田(32)、神保を取り調べ
    ている。
    松田、調書を読み、
松 田「アンタふざけてんのか?」
神 保「すいません」
松 田「こんな話を、裁判でしろっつうの
    か! あ?」
神 保「しかしこれが、れっきとした真実で
    ありまして…」
松 田「それはこっちが決めるんだよ。しか
    し警察もよくこんなのを鵜呑みにし
    て、よっぽどヒマなんだな」
神 保「……」
松 田「まともな理由を話せ」
神 保「はい?」
松 田「そのとおりに調書取ってやる。ほら、
    言えよ。肩がぶつかって因縁を付け
    たら、向こうが勝手に倒れました。
    心臓にご病気をお持ちとは知りませ
    んでしたって。言えよ!」
神 保「……」
    突然、ドアが乱暴に開く。
    唐橋と米重だ。なぜかズブ濡れの二
    人。
神 保「!」
松 田「誰?」
唐 橋「(手帳を見せ)唐橋喜一郎です」
米 重「(同)米重です」
松 田「刑事さんが、何の用ですか」
米 重「こちらに不備がありまして、十分な
    証拠を揃えないまま送検してしまっ
    たこと、お詫び致します」
松 田「ええ、だいぶ不備があるようで」
唐 橋「しかし彼が話していることは事実で
    す」
松 田「(眉をひそめる)」
唐 橋「何ならここで、念力をお見せするこ
    とができます」
松 田「大の大人が、真剣に話すことじゃな
    いでしょう。遊びに来たならお引き
    取り願いたい。だいたいこの、ワケ
    の分からない機械は何なんですか!」
神 保「ミュージック・トゥ・ヒューマン・
    リサーチャーです!」
松 田「なんでもいい!」
    唐橋、机に何か叩き付ける。
    ボロボロの、機械。
神 保「これは…どうして!」
唐 橋「見つけてきたんだよ」

38 寿司屋・前・昼(シーン36の続き)
米 重「これから話すこと、信じていただけ
    ますか」
唐 橋「…なんだ」

39 米重の実家・部屋・昼
    米重、机の引き出しを開ける。
唐 橋「…え?」
米 重「ウチの父親も、発明家だったんです。
    まあ、趣味の域でしたけど。十年前
    に、これを完成させて、亡くなりま
    した」
唐 橋「…え?」

40 異次元空間
    いわゆる『ドラえもん』のタイムマ
    シン。
    歪んだ時計が混在する空間を、マシ
    ンが進んでいる。
    米重、真面目な顔で操作している。
米 重「もうすぐ、あの日に到着します」
    唐橋、ものすごく不安そうな顔。

41 工事現場・昼
    激しい雨(以降シーン43まで)。
    神保、土嚢を担いで運んでいる。
    派手に転ぶ。
作業員「おいオッサン! できねえことすん
    じゃねえよ邪魔くせえな!」
神 保「すいません」
    米重と唐橋、走ってきて、神保を見
    つける。
作業員「もうアンタ帰っていいよ! 使えね
    えから!」
神 保「すいません」

   ×      ×      ×
    
    数分後。
    神保、原付に跨がり、走り出す。
    米重、慌ててタクシーを停める。
    唐橋と共に乗り込み、
米 重「あの原付、追ってください!」
    走り出すタクシー。

42 道・昼
    大きな道を走る神保の原付。その少
    し後ろを追うタクシー。
    その車内。
米 重「アイツ、あの日も普通に仕事してた
    んですね。帰らされてなかったら、
    自首してたかどうか」
唐 橋「……」
    すると、猛スピードのバイクがタク
    シーを追い抜いていく。
    そのまま、神保をスレスレで追い抜
    く。
    神保がよけた拍子に、ポケットから
    何かが滑り落ちる。
米 重「ちょっと、停まってください!」
    タクシー、停車するが、それを踏み
    潰してしまう。
    二人、慌てて降り、それを拾い上げ
    る。
    バッキバキになった、ミュージッ
    ク・トゥ・ヒューマン・リサーチャ
    ー。
米 重「…これ」
唐 橋「……」

43 検察署・取調室・昼(戻り)
唐 橋「その後、彼は大山田の別荘を訪れ、
    私に自首してきました」
松 田「…どこまで人を愚弄すれば気が済む
    んだ! そんな支離滅裂な話を信じ
    られるわけないだろう!」
唐 橋「だってしょうがないじゃん実際そう
    なんだから!」
    神保、唐橋を見る。
唐 橋「信じていただけないなら、それまで
    です。ここからは、アナタの仕事だ」
松 田「…丸投げも甚だしいな」
    しばらくの沈黙の後、
神 保「…最初から殺すつもりだったんです」
    全員、神保を見る。
神 保「大山田は同じ大学の一つ下で、同じ
    音楽サークルにいました。友達がお
    らず、いつも一人だった私とは対照
    的に、彼の周りにはいつも人がいて、
    賑やかで…」

44 大学・サークル部室・昼(回想)
    部員全員、集合している。
    部長(男)、皆に話している。
部 長「それでは、二ヶ月後に迫った、学園
    祭ライブの出場者を発表します」
    真面目に聞いている神保(20)。
    鼻をほじっている大山田(19)。
神保N「そんなことは別に、どうでもよかっ
    たんです。ただ私には、どうしても
    譲れないものがあった」
部 長「そして最後の一組、大山田率いる
    『ハーレムゴーレム』!」
    愕然とする神保。
    仲間たちとハイタッチする大山田。
神保N「音楽への、情熱です」

45 大学・広場・昼(シーン5と同じ)
    三十五年前。神保、木に寄りかかり
    ながらギターを爪弾いている。
神保N「音楽に関して、彼に劣る部分など一
    つもなかった。しかし彼は」
大山田「うるせえよヘタクソ!」
    大学生の集団の一人は、大山田だっ
    た。爆笑する集団。
神保N「この日から私の人生は、大きく狂い
    始めました」
    寄りかかっていた木に雷が落ちる。
    轟音と閃光が辺りを包む。

46同・講堂・夜(シーン11と同じ)
    ハードなロックに体を揺らす観客た
    ち。
    その後方で、機械を操作している神
    保。
神保N「自分に起こった奇跡を利用して、彼
    を懲らしめることだけを考えていま
    した」
    大山田、観客に中指を立てる。

47 検察署・取調室・昼(戻り)
神 保「あとは、刑事さんにお話したとおり
    です。この機械の性能も、念力も、
    全て事実です」
米 重「四十年近くも、大山田さんに殺意を
    抱いていたというのか」
    唐橋、強い目で神保を見ている。
神 保「刑事さん。あなたはずっと真実を求
    めていた。それは、事実だけでは足
    りないということだったんですね」    
唐 橋「…やっぱり、犯人はあなただ」
    神保、悟ったような薄い笑み。

48 同・正面玄関・夜
    検察署から出てくる唐橋と米重。
米 重「神保、起訴されますかね?」
唐 橋「公判は維持できねえだろうな」
    米重、立ち止まり、
米 重「でも、勉強になりました。事実だけ
    じゃ、真実にならない」
唐 橋「俺も勉強になったわ」
米 重「はい?」
唐 橋「先帰る。んじゃ」
    二人、それぞれの方向に歩き出す。
    しかし唐橋、振り向いて、
唐 橋「なあ!」
米 重「?」
唐 橋「あのタイムマシンって、いつでも行
    けるんだよな?」     
米 重「ちょっとぉ、アテにされたら困りま
    すよ。唐橋さん仕事しなくなるでし
    ょう」
唐 橋「一カ所だけ、一カ所だけでいいから、
    行きたいとこあるんだけど」

49 豪華客船・男子トイレ・昼(過去)
    唐橋と米重、立ち小便器で並んで用
    を足している。
米 重「いよいよですね」
唐 橋「お前、ちゃんと動画回しとけよ」
米 重「もちろんです。繰り返し、勉強させ
    ていただきます」
唐 橋「しかしサメに食わせるとは、よく考
    えるよな、犯人も」
米 重「そこに気付けるのがさすがですよ。
    じゃ、お待ちしてます」
    米重、先に去る。
    タイムトラベルしてきた現在の唐橋、
    壁からひょっこり顔を出す。
    (以下、現在の唐橋=『現在』、過
    去の唐橋=『過去』。)
現 在「おい」
    過去、ビックリして後ずさりする。
過 去「え、俺?」
現 在「俺は、約五年後のお前だ」
過 去「え、何コレ、保険のCM?」
現 在「今からお前は、この船の乗客、約四
    百人の前で独壇場を演じるわけだ」
過 去「…なんだよその言い方。警察が事件
    を解決して、何が悪いっ」
現 在「いや、別に止めようってわけじゃな
    いんだ、やるのは大いに構わないし、
    実際、推理は合っている。ただ、…
    あんまり、ハードル上げすぎるな」
過 去「ハードル?」
現 在「お前はこの事件を解決したことをキ
    ッカケに、周りに名探偵とかってチ
    ヤホヤされ始める。実際お前は、…
    まあ俺は、頭が冴えるし、事件はバ
    ンバン解決できる。だが、うぬぼれ
    るな。この世に名探偵という職業は
    ない。お前は、普通の警察官だ」
過 去「今からってときに水差すなよ」
現 在「悪かったな突然。まあリラックスし
    て頑張れ。じゃあな」
    現在、立ち去ろうとする。
過 去「どうやって来たんだ!」
現 在「(振り返り)米重と仲良くな」
    再び歩き出す。
過 去「え、やっぱ保険のCM?」

50 異次元空間
    唐橋、タバコを吸いながら、タイム
    マシンを操作している。
    達成感に満ちたような笑みを浮かべ
    ている。
                 (完)

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