<登場人物>
タノク・M・イリウス/影タノク(20)団員/影の巨人
ナサマチ・F・ダラ(17)同
テシ・Y・ケルナー(8)同
ナサマチ・F・ルギエバ(46)同団長、ダラの父
ラヤドケ・S・リオト(33)同副団長
テシ・Y・カムミ(33)テシの母
マラナ・L・ザキ(50)前団長
団員A~C 声のみ
大暴獣・クグノワ
高跳獣・シャラ
<本編>
○航行するツエーツ号
○ツエーツ号・メディカルルーム
ナサマチ・F・ルギエバ(46)が操作するMRIのような機械で検査をしているタノク・M・イリウス(20)。そこにやってくるテシ・Y・ケルナー(8)。
テシ「副団長に渡してきたよ」
ナサマチ「おう。ご苦労さんやったな」
テシ「次は何するの?」
ナサマチ「次の検査はやな……」
○同・共同スペース
作戦机を囲むナサマチ・F・ダラ(17)とラヤドケ・S・リオト(33)。ラヤドケの手にはタノクの検査結果。
ラヤドケ「今の所、タノクさんの体に異常はないようですね」
ダラ「ほんまですか?」
ラヤドケ「私が嘘をつく理由がありますか?」
ダラ「リオトさんは平気で嘘つくやないですか。調査団の真の目的やったり、この間も『隠してる事はもうない』言うてたのに」
○(フラッシュ)惑星ヨヨラヤ・河川敷
暴れる影クグノワの姿。
ダラの声「あの影や」
○(フラッシュ)惑星ペユワー・某所
暴れるクグノワの姿。
ダラの声「ウチは覚えとる。あの怪獣は……」
○ツエーツ号・共同スペース
作戦机を囲むダラとラヤドケ。
ダラ「クグノワ、やろ?」
ラヤドケ「……」
ダラ「ええ加減、教えてください。あの時、何があったんですか? 『クグノワ事件』て、一体何やったんですか?」
ラヤドケ「……わかりました。お話しましょう」
○メインタイトル『カーツ惑星調査団』
T「♯9 クグノワ事件in惑星ペユワー」
○航行するツエーツ号
以下、回想シーン
○ツエーツ号・タノクの部屋・中
ボトルシップを作成しているタノク。ピンセットを使い、慎重に作業している。
その様子を見ているダラ。
ダラ「ようやるな、飯も食わんと」
タノク「(ピンセットを置き)うるさいな。邪魔するなら自分の部屋に戻ってくれる?」
ダラ「っていうか、何が面白いん? それ」
タノク「何だろ、達成感? 完成品見せた時の『凄~い』って声が溜まらないっていうか。特にケルナー君なんか俺を尊敬の目で……」
ダラ「あーあ、ウチも早く現場行きたいわ~」
タノク「聞いてる訳ないよね」
ダラ「何で一八歳になるまで待たなあかんねん」
タノク「そうそう、ダラが早く来てくれると俺も助かるんだよ。俺もいつまでも最年少の下っ端なんてイヤだからな」
ダラ「そん時はウチがイリウスこき使ったるわ」
と言って、タノクの背中を叩くダラ。その衝撃でボトルの中の船が崩れる。
ダラ「あっ……」
タノク「あああああ!!!」
ダラ「……ほな、ウチはそろそろ部屋戻るわ。おやすみ~」
部屋から出て行くダラ。
タノク「あ、おい、ダラ。この野郎!」
○惑星ペユワー・外観
水色の惑星。
T「惑星ペユワー」
○同・森
停泊しているツエーツ号。
マラナの声「ここは惑星ペユワー。エネルギー量の豊富な怪獣が多く住む惑星である」
○ツエーツ号・共同スペース
タノク、ラヤドケ(足は負傷しておらず杖もついていない)、テシ・Y・カムミ(33)ら百名近い団員達。皆、防具を身にまとっている。その団員達の前に立つ男、マラナ・L・ザキ(50)。
T「マラナ・L・ザキ 団長」
マラナ「特に『クグノワ』と呼ばれる怪獣は相当なものらしい。手柄を上げたものには、金一封が出るぞ?」
タノク「クグノワ……」
マラナ「では、健闘を祈る。以上」
一同「了解」
× × ×
続々と部屋を出て行く団員達。
テシとスキンシップをはかるカムミ。
T「テシ・Y・カムミ ケルナーの母」
カムミ「ケルナー、いい子にしてるのよ」
テシ「うん。行ってらっしゃい、ママ」
そこにやってくるタノク、ダラ、シェフ姿のナサマチ。
ナサマチ「ケルナー、ピーマンどこに隠した?」
テシ「知らないよ。ジャガイモさんの中に隠したの、僕じゃないもん」
ナサマチ「ジャガイモん中やな。早よ戻し!」
テシ「嫌だよ~!」
逃げるテシを追うナサマチ。それを笑って見ているタノク、ダラ、カムミ。
タノク「またやってる」
ダラ「オトンもガキやからな~」
カムミ「それじゃあ、ダラちゃん。ケルナーの事、よろしくね」
ダラ「お任せ下さい」
タノク「……本当はあのボトルシップの修復もお任せしたい所だけど」
ダラ「何や、まだ直せてなかったんか?」
タノク「あのな、アレ結構大変で……」
そこにやってくるラヤドケ。
ラヤドケ「カムミさん、タノクさん。何してるんですか、行きますよ?」
カムミ「はい」
タノク「じゃあ、今夜は手伝わせるからな」
ダラ「え~、どうしようかな~」
グータッチをするタノクとダラ。
ダラ「行ってらっしゃい」
タノク「おう、行ってくる」
部屋を出て行くタノク、ラヤドケ、カムミを見送るダラ。
○惑星ペユワー・森の奥
ラヤドケを先頭に歩く五人程の小隊。その中にタノクやカムミも居る。タノクはキャスター付きの棺桶を引いている。
タノク「何か、全然居る感じしないですね」
ラヤドケ「油断は禁物ですよ」
カムミ「皆さん、上です」
慌てて退避する小隊の面々。落下してくるシャラ。
タノク「凄いジャンプ力だ事」
ラヤドケ「各人、配置に付いて下さい。プランA、スタート」
一同「了解」
レーザー銃を構え、シャラに発砲するラヤドケとカムミ。
棺桶を開けるタノク。中に入ったクチヲ・X・ンタレスの死体が見えるようになる。
タノク「カムミさん、OKです」
カムミ「了解」
カムミと立ち位置を入れ替えるタノク。レーザー銃をシャラに発砲する。
タノク「で、どうするんですか? さっきのジャンプとか、大分ヤバそうですよ?」
ラヤドケ「いえ、むしろさせましょう。あれだけのジャンプ力です。着地した瞬間が狙い目になるハズです」
タノク「なるほど。さすが小隊長」
小隊のメンバー全員で一斉に同じ箇所を攻撃する。怯むシャラ。再びジャンプする。
ラヤドケ「来ますよ、気をつけて下さい」
退避する小隊の面々。落下してくるシャラ。
ラヤドケ「今です、カムミさん」
カムミ「了解」
シャラに向け両手を翳すカムミ。シャラから粒子状の光が発生し、クチヲの死体の中に吸い込まれるように消えて行く。
ラヤドケ「プランA、完了です」
タノク「よっしゃ」
棺桶の蓋を閉めるタノク。
ラヤドケ「それでは、少し休みましょう。タノクさんは、ソチラをツエーツ号に」
タノク「了解」
○同・森
キャスター付きの棺桶を運ぶタノク。
タノク「あーあ、コレだから下っ端仕事は……」
ツエーツ号の前、マラナが立っている。その脇には別のキャスター付き棺桶が置いてある。
マラナ「おう、イリウス。後はやっとく。コッチ持って行ってくれ」
タノク「あ、団長。了解です」
持ってきたキャスター付き棺桶をマラナに渡すタノク。
団員Aの声「(無線で)こちら第五小隊、クグノワと思しき怪獣と遭遇。至急、応援を……」
タノク「……あれ、無線途切れた?」
マラナ「大物がかかったか。(無線へ)総員、クグノワ確保に動け。イリウス、お前も現場に向かえ」
タノク「了解」
走り去るタノク。
○同・湖畔
クグノワが暴れており、多くの調査団員が応戦している。その周囲には同じくらいの数の団員の死体。
そこにやってくるタノク。
タノク「何だコレ……」
ラヤドケ、カムミらに合流するタノク。
タノク「ラヤドケさん、一体、何がどうなって?」
ラヤドケ「噂のクグノワですが、噂以上ですね。既に第六、第八小隊は壊滅しています」
タノク「逃げた方が良くないですか?」
ラヤドケ「しかし我々が求めている、最高の怪獣なのも事実です。捕獲を目指しましょう」
カムミ「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ね」
タノク「何ですか、それ?」
カムミ「どこかの星の諺」
タノク「どこで覚えるんですか、そんな言葉」
ラヤドケ「無駄話はその辺で。行きますよ」
タノク「了解」
○ツエーツ号・共同スペース
コクピット前に座るマラナと作戦机に座るダラとテシ。皆、不安そうな顔。
団員Bの声「(無線で)ツエーツ号へ、第九小隊壊滅」
団員Cの声「(無線で)第一三小隊も」
フロントガラスから見えるクグノワ。
マラナ「何と言う事……」
そこに入ってくるシェフ姿のナサマチ。
ナサマチ「団長、今日の夕食なんですが……」
マラナ「ナサマチさん、悪いけど、若いシェフ達を借りてもいいかな?」
ナサマチ「ええですけど、何か?」
マラナ「凶暴な怪獣が暴れているらしくて。救助するにも手が足りないんだ」
ダラ「ほな、ウチも」
マラナ「子供はダメだ。ここで待っていなさい。ナサマチさんは残って、この子達を見ていて下さい」
ナサマチ「了解です」
ダラ「団長、ウチも訓練は受けてます。せやから……」
マラナ「プワツナー砲の撃ち方は、教わった?」
ダラ「え? あ、あぁ、はい」
マラナ「なら、その役目を任せる。私から指示があったら、発射するんだ。いいね?」
ダラ「り、了解です……」
マラナ「では、私も行ってくる」
部屋を出て行くマラナ。
○惑星ペユワー・湖畔
暴れ回るクグノワ。光線等の攻撃により次々と団員が命を落として行く。クグノワを銃撃するタノク、ラヤドケ、カムミら。
タノク「くそっ、みんな……あっ」
歩いているクグノワ。その足下に倒れている一人の団員。
タノク「危ないっ!」
駆け出すタノク。
ラヤドケ「タノクさん!」
倒れている団員を助けようとするタノク。その時、クグノワがしっぽを振る。しっぽの直撃を受け、吹っ飛ばされるタノク。湖岸の岩に激突し、命を落とす。
カムミ「イリウス君!」
タノクに駆け寄るカムミ。後頭部から血は流しているが、それ以外に外傷はないタノクの死体。
ラヤドケに向け、首を横に振るカムミ。
ラヤドケ「くっ……」
そこにやってくるマラナ。
マラナ「ラヤドケ小隊長。ここは退避です」
ラヤドケ「団長。しかし……」
マラナ「(無線で)マラナからツエーツ号へ。プワツナー砲、発射」
○ツエーツ号・共同スペース
コクピット前に座るダラ。
ダラ「り、了解」
テシ「ダラちゃん、かっこいい~」
ナサマチ「大丈夫なんか?」
ダラ「大丈夫や。プワツナー砲、発射」
○惑星ペユワー・森
停泊しているツエーツ号。プワツナー砲を発射する。
○同・湖畔
クグノワにプワツナー砲が直撃する。
ラヤドケ「ダラさん、一発で命中させた……」
マラナ「こりゃ、飛び級で団員へ昇格させなきゃな。よし、今の内に全員退避を……」
カムミ「いえ、団長。全く効いてません」
マラナ「何!?」
プワツナー砲のエネルギーを吸収するクグノワ。背中の無数のトゲを飛ばす。
マラナ「なっ!?」
飛んで行くトゲが次々と団員を襲う。胸を貫かれるマラナ、腹部を刺されるカムミ、右足を貫かれるラヤドケ。
○ツエーツ号・共同スペース
ツエーツ号に向け何発かトゲが飛んでくるのがフロントガラスから見える。
ダラ「なっ……」
ナサマチ「伏せるんや!」
伏せるダラ、テシ、ナサマチ。僅かに揺れる船内。すぐ近くで爆発音もする。
テシ「船、壊れちゃったの?」
ナサマチ「ここやない。予備のエネルギータンクが破壊されたんかもしれん」
ダラ「そんな……」
窓の向こう、クグノワが暴れている。
ダラ「何がどうなって……」
ナサマチ「ワイが様子を見てくる。二人はここに居るんや」
ダラ「ウチも行く」
ナサマチ「あかん。ダラはケルナーを見とくんや。ええな」
出て行くナサマチ。
テシ「(怯えたように)ダラちゃん……」
テシを抱きしめるダラ。
ダラ「大丈夫。きっと、大丈夫や……」
窓の向こう、暴れ続けるクグノワ。
○惑星ペユワー・湖畔
右足を押さえるラヤドケ。視線の先、絶命したマラナ。
ラヤドケ「団長……」
意識を失うラヤドケ。
腹部を押さえ、必死に出血を止めているカムミ。
カムミ達の脇を進み、ツエーツ号に向かっているクグノワ。
カムミ「このままじゃ、ツエーツ号が、ケルナーが……」
カムミの脇、倒れているタノクの死体。
カムミ「イリウス君、ごめん」
クグノワに向けて両手を翳すカムミ(その為、止めていた血が一気に流れ出す)。
クグノワから粒子状の光が発生する。体の異変に気付き、カムミを襲うクグノワ。吹っ飛ばされるも、執念で決して手を下ろさないカムミ。タノクの死体の中に吸い込まれるように消えて行くクグノワ。
カムミ「よかった……ケルナー……」
絶命するカムミ。
× × ×
倒れているラヤドケの体を揺するナサマチ。目を覚ますラヤドケ。
ナサマチ「……ドケはん。ラヤドケはん!」
ラヤドケ「ナサマチさん? 私は……」
ナサマチ「良かった、生きとったんやな」
ラヤドケ「そうだ、あの怪獣は……(と言って立ち上がろうとして)ぐっ」
ナサマチ「無理はせん方がええ(と言って肩を貸す)」
ラヤドケ「すみません。……これは」
目の前に広がる団員達の死体。
ナサマチ「あの怪獣は消えてまいましたわ。団員は皆、死んでもうて、生きとったのはラヤドケはんと……」
振り返るナサマチ、それに釣られて振り返るラヤドケ。
そこに立っているタノク。意識もうろうとした状態。
ナサマチ「イリウスだけや」
ラヤドケ「!? タノクさん?」
タノク「イリウス……? タノク……?」
ナサマチ「どうも頭を打ったようでんな。記憶がハッキリしとらんようですわ」
ラヤドケ「いえ、ナサマチさん。彼は……」
地響き。
振り返るナサマチとラヤドケ。別の数体の怪獣が近づいてきている。
ナサマチ「まずは逃げまっせ。今居る人間だけでも、生き延びな。ほら、イリウスも」
逃げ出すナサマチとラヤドケ、その後ろを歩くタノク。
タノクを見つめるラヤドケ。
○惑星ペユワー・森
発進するツエーツ号。
○ツエーツ号・メディカルルーム
ダラが操作するMRIのような機械で検査をしているタノク。そこにやってくるテシ。
テシ「小隊長さんに渡してきたよ」
ダラ「おおきにな」
テシ「ねぇ、ダラちゃん。何でママは僕達と別の船で行っちゃったの?」
ダラ「え? ん~……何でやろな?」
ナサマチの声「いや、嘘つきなはんな」
○ツエーツ号・安置室・前
杖をついて歩くラヤドケとその後ろを歩くナサマチ。
ナサマチ「イリウスが怪獣? 何言うてんねん、ラヤドケはん」
ラヤドケ「タノクさんが亡くなったのは確認しています。なのに彼がこうして居る。そして消えたクグノワ。それしか考えられません」
ナサマチ「いやいや『人間の中に怪獣が入ってます』言う話の方がよっぽど信じられへんわ」
ラヤドケ「……そう思いましたので、説明させて頂きます」
「関係者以外立入禁止」の張り紙の前。
ナサマチ「え……ここ、ワイ入ってええんか?」
ラヤドケ「これからは、貴方に団長をやっていただきます。ナサマチさん」
ナサマチ「え、ワイ? ラヤドケはんちゃうんか?」
ラヤドケ「私はこの体です。内勤しか出来ません。ならば団長職は、現場に行ける人にお願いしたい。お願いします」
ナサマチ「……わかりましたわ」
ラヤドケ「そして団長職をお願いする以上、お話しない訳にはいきません。我が調査団の本当の目的を」
ナサマチ「本当の目的?」
ラヤドケ「参りますよ、ナサマチ団長」
IDカードを翳し、部屋に入ってくラヤドケとナサマチ。
○同・共同スペース
作戦机を囲むタノク、ダラ、テシ、ナサマチ、ラヤドケ。ナサマチは顔面蒼白で心ここにあらずと言った様子。
ダラ「……トン。こら、オトン。聞いとんのか?」
ナサマチ「え? あぁ、すまん。何やったかな?」
ダラ「頼むで、ほんま。名ばかりとはいえ、団長なんやから」
ナサマチ「せやな。えっと……『予備のエネルギータンクが破壊されたから』何すんねんやったっけ?」
ラヤドケ「様々な惑星に寄り、エネルギーの補充をしながら、一刻も早く惑星カーツへ帰還する事が、現時点の最優先事項です」
テシ「エネルギーって、どうやったら補充できるの?」
ラヤドケ「残念ながら、宇宙船用エネルギーをそのまま手に入れる事は難しいでしょう。多くは、鉱石や地下資源等のエネルギー源を探し出し、変換していく事になるかと」
ダラ「ほんまは、怪獣の生命エネルギーなんかが一番ええんやけどね」
ナサマチ「怪獣!?」
ダラ「リアクションでか過ぎやろ、オトン」
ナサマチ「あぁ、すまん」
テシ「怪獣さんが、どうかしたの?」
ダラ「うん、こん船のエネルギーを満タンにしよ思うたら、怪獣殺して、その生命エネルギーを手に入れるくらいせんと、なかなか難しいんとちゃうかな、て」
ラヤドケ「さすがダラさん、日頃の円強の生家が出ていますね」
テシ「怪獣さん、かわいそう」
ダラ「せやけどな、ケルナー。今のウチらの戦力で、怪獣を倒すんは難しいんや」
ラヤドケ「……いえ、一つだけ手はあります」
と言ってタノクに目をやるラヤドケ。
ダラ&テシ&ナサマチ「え?」
タノク「(視線を感じ)?」
○惑星パグナ・荒野
ツエーツ号から降ろされるサーゼボックス。そこに駆け寄るダラ、テシ、ナサマチ。
T「惑星パグナ」
テシ「大っきいお部屋だ~」
ナサマチ「コレがサーゼボックス……」
ダラ「物置や思うてたわ。せやけど……」
振り返るダラ、テシ、ナサマチ。三人に遅れてやってくるタノク。
ダラ「ほんまに、イリウスにやらせるんか?」
ラヤドケの声「はい」
○ツエーツ号・共同スペース
コクピット前に座るラヤドケ。
ラヤドケ「検査の結果、タノクさんは記憶を失ったのと引き換えに、体内に莫大なエネルギーを得ています」
○惑星パグナ・荒野
サーゼボックスに入っていくタノクを見送るダラ、テシ、ナサマチ。
ラヤドケの声「負担の大きいサーゼシステムに耐えられるのは、タノクさんしかいません」
○サーゼボックス・中
入ってくるタノク。恐る恐る中央に近づくと、一気に室内が明るくなる。
タノク「(驚き)おぉっ!?」
○惑星パグナ・荒野
サーゼボックスからタノクの影が伸びている。サーゼボックスの脇に立つダラ、テシ、ナサマチ。遠くに怪獣の影だけが見える。
ラヤドケの声「相手の怪獣に合わせて、影の長さをダイヤルで調整してください」
ダイヤルを調整するダラ。タノクの影の長さが伸び縮みする。
ダラ「ほんまや、長さ変わっとる」
テシ「でも、怪獣さんの大きさなんてわからないよ?」
ナサマチ「四〇って所ちゃうか?」
テシ「本当に?」
ダラ「オトンは料理の腕と視力だけはええねん」
ナサマチ「『だけ』て何や」
ダラ「(無視して)サイズ四〇。サーゼシステム、起動!」
ダイヤル脇のスイッチを押すダラ。起動音が流れ、タノクの影に沿って走る電流。
○サーゼボックス・中
タノクの体にも走る電流。
タノク「はぁぁぁあああ!」
一瞬強さが増し、それを最後に止む電流。同時に意識を失い倒れるタノク。
○惑星パグナ・荒野
一瞬増した強さのままタノクの影を走る電流。すると影が実体化し、影タノクとなる。それを見守るダラ、テシ、ナサマチから漏れる感嘆の声。
テシ「凄~い」
ナサマチ「影の巨人……」
ダラ「これやったら、怪獣にも勝てる」
自身の大きさに戸惑っている様子の影タノク。掌などを見やる。
ダラ「行け、イリウス!」
顔を上げるタノク。
タノク「よくわかんねぇけど、こうなっちまった。そん時は、そん時か」
○ツエーツ号・共同スペース
コクピット前に座り、影タノクの戦いを見つめるラヤドケの視点の映像。
影タノク「どっちが勝っても、恨みっこなしだぜ」
(回想終わり)
○同・同
前述のシーンが映像として流れているモニターを見るダラとラヤドケ。映像を停止するラヤドケ。
ラヤドケ「ここから先は、説明不要ですね」
ダラ「ヘルメットにカメラ付いとるなんて、知らんかったです」
ラヤドケ「当時の小隊長以上だけでしたからね。それで、ご納得はしていただけましたか?」
ダラ「……」
ラヤドケ「それにしても団長達は遅いですね。そろそろ終わってもいい頃だと思うのですが、少し見てきましょうか」
立ち上がるラヤドケ。
ダラ「その前に一つ、聞いてもええですか?」
ラヤドケ「何でしょう?」
ダラ「もし無事に惑星カーツに着いたら、イリウスはどうなるんですか?」
ラヤドケ「……」
ダラ「まさか、殺……」
ラヤドケ「その先は、口にしない方がいい」
ダラ「……」
ラヤドケ「一つ確かなのは、タノク・M・イリウスさんはもう、死んでいるという事です」
部屋を出ていくラヤドケ。
ダラ「イリウス……」
拳を握り締めるダラ。
○同・廊下
歩いているラヤドケ。怒りをぶつけるように壁を殴る。
テシの声「副団長?」
そこにやってくるテシ。手にはタノクの検査結果の紙。
テシ「どうかしたの?」
ラヤドケ「いえ、何でもないですよ。(紙を指し)それは、タノクさんの検査結果ですか?」
テシ「あ、うん。そうだよ」
検査結果を受け取るラヤドケ。目を通す。
ラヤドケ「やはり……」
ラヤドケM「タノク・M・イリウス……」
○同・メディカルルーム
談笑するタノクとナサマチ。
ラヤドケM「奴の肉体は間もなく、崩壊する」
(♯10へ続く)
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