南秀雄(54)コンビニ店長
南俊哉(16)店長の息子
掛川竜一(41)社長
金井美和(23)掛川の愛人
栗林正治(39)エリアマネージャー
〇コンビニ・駐車場
ほぼ満車状態の駐車場に一台の高級車が入ってくる。
車から掛川竜一(41)と金井美和(23)が降りる。
美和「社長、ここ停めちゃっていいの?」
掛川「大丈夫。いつも停めてるから。ちょっとぐらい、大丈夫だ」
掛川と美和、手をつなぎ数件隣のビルに入る。
駐車場の看板には『無断駐車4万円頂きます』の文字。
〇同・店内
南秀雄(54)、レジで伝票の整理をしている。
南俊哉(16)、雑誌売り場で外を眺めている。
店内に客はいない。
俊哉、南の所に来る。
俊哉「親父、また勝手に車、停められてるよ」
南「くそ!」
南、伝票を整理していた手を止める。
俊哉「なあ、もう警察に通報しようよ」
南「無駄だよ」
俊哉「何で? だって、勝手に人の敷地に入ってるんだよ? 違法だよ」
南「駄目だ。ほら、これ見てみろ」
南、新聞を取り出し見せる。
新聞の記事には『コンビニ違法駐車の注意喚起 自作自演もダメ』の文字。
俊哉「『都内某所のコンビニで、店側が駐車場の自家用車のタイヤをロックし「はずしてほしかったら4万ください」と自ら注意喚起をしたが、苦情が来て撤去』。なにこれ」
南「ネットでも話題になってるやつだよ」
俊哉、スマホを取り出し記事を調べる。
俊哉「本当だ。ネットのニュースですごいコメントが付いてる。自分の車に注意ビラを貼ったんだ。けど、なんで自分の車に?」
南「変に人様の車に傷つけたら逆に損害賠償されるからだよ。けど、印象が悪くて中止」
俊哉「そりゃそうだけど、だから警察に通報すればいいだろ?」
南「公道に止めれば駐車違反で警察は動くけど、私有地だから警察は関係ないの」
俊哉「だって、不法侵入じゃん!」
南「一件、一件、訴訟を起こす必要があるんだよ。間違って敗訴でもしたら、イメージダウンで店をたたむことになるんだぞ」
俊哉「じゃあ、レッカー移動すればいい」
南「レッカーの費用も相手から取り立てないといけないし、傷でもつけたら逆に損害賠償される。だから時間の無駄なんだよ」
南、黙々と伝票の整理をする。
俊哉「ふざけんなよ! じゃあ、親父は泣き寝入りするって言うのかよ!」
南「日本の法律がそうだからしょうがないだろ。弱い者には厳しいんだよ法律は。ああ、今月も厳しいなあ」
俊哉「なんだよ、脱サラして一旗揚げるって言ってたのに、赤字で更に泣き寝入りかよ。高校生の俺まで手伝わせてさ。ダセえ!」
南、うんざりした顔で聞いている。
俊哉、怒ってまた雑誌を整理する。
栗林正治(39)、店に入ってくる。
栗林「どうも、南さん。親子喧嘩ですか?」
南「ああ、マネージャーさん。なんでもないですよ。ちょっと違法駐車のことでね」
栗林「ああ。それより、ちょっとお願いがありまして。新しいサービス始めるので、マニュアル読んで頂いていいですか?」
南「また、新サービスですか。もう、負担が増えすぎて対応できませんよ」
栗林「本当にちょっとなんで。よろしくね」
栗林、マニュアルを置き店を去る。
店の奥の電話が鳴り、南が出る。
南「また遅刻するのか? ちょっとってどれくらいだよ。ああ、ああ、分かったよ。辞めるのだけは勘弁してな。待ってるから」
南、電話を切りため息をする。
南「ちょっと、ちょっとって。その日本中の『ちょっとのお願い』をコンビニの店長が全部引き受けてんだよ! クソ!」
南、伝票をカウンターに叩きつける。
掛川、入ってきて飲み物と1万円札をレジに置く。
掛川「これ頼むわ」
南、商品のバーコードを読み取る。
俊哉、雑誌コーナーからレジに来る。
俊哉「おたくの車、違法駐車ですよね」
掛川「ああん?」
南「こら、お前」
俊哉「最近ずっと停めてますよね?」
掛川「ああ、すまないなあ。ちょっと、用事があってさ。次からやめるよ」
俊哉「罰金4万円て書いてますよね。払ってください。他のお客さんに迷惑なので」
俊哉、手の平を出し払うように促す。
掛川「なんだよお前。たまたまだって言ってるだろ! なんで俺だけなんだよ! 他の奴もいるだろうが!」
俊哉「あなたが一番、多いし長いですから」
掛川「てめえ! 殴られてえのか!」
南「も、申し訳ございません。口のきき方を知らない子どもでして」
掛川「ふざけんなよ! 客は神様なんだよ。お前の息子だったらちゃんと教育しろ! 親がバカだから子どももバカなんだよ!」
帰っていく掛川を悔しそうに見る二人。
南「子どもまで馬鹿にされるなんて、許せない。もう自分の身は自分で守るしかない」
南、体を震わせている。
◯同・駐車場(夜)
奥まった所に停まっている掛川の車。
南、手袋をして金属製のカーロックを持って車の所に来る。
周りを確認して、タイヤのゴムの部分を蹴り飛ばすが、心配になり屈みこむ。
南「(小声で)へ、凹んでないよな……」
× × ×
掛川、美和と駐車場に入ってくる。
掛川の車にカーロックがかかっている。
掛川「なんだこれ」
掛川、屈みこんでカーロックを外そうとするが外れない。
美和「車、動かないの?」
掛川「くそ! あの店の仕業だな!」
掛川、コンビニの方へ向かっていく。
〇同・店内(夜)
立ち読み客や買い物客が数名いる店内。
掛川、怖い顔をして店の中に入り、レジにいる店長に一直線に向かう。
俊哉が心配そうに奥から見ている。
掛川「おう! てめえ! 俺の車にふざけたことしてくれてんじゃねえぞ!」
南「ふざけたこと?」
掛川「とぼけんじゃねえ! 車のタイヤにロックかけやがっただろ! さっさと鍵を出さねえか! 器物破損で訴えるぞ!」
掛川、怒ってカウンターを叩く。
店内の客たち、一斉に掛川の方を見る。
南「いやー、そうは言われましても、まず無断駐車は困りますので」
掛川「はあ? 御託並べてんじゃねえ! 俺は客だぞ! そんなんだから、こんなチンケなコンビニの店長止まりなんだよ!」
掛川、近くにあったガムを一つ取りカウンターに叩きつける。
店内の客たちがひそひそと話し始める。
掛川「ほら、その100円のガム買ってやるから、さっさと鍵出せよ!」
南「お買い上げありがとうございます」
南、ガムのバーコードを読み取りレジを打ち始める。
掛川「早くしろ! こっちもこれから女を送って帰らないと、女房にまずいんだよ」
南「ただですね。一つ問題があるんですよ」
掛川「ふざけてないでさっさと鍵、出せ!」
南「私、お客さんの車にロックをかけた覚えがないんですよ」
掛川「なに?」
掛川、南の方を睨みつける。
掛川「じゃあ、他に誰がいるんだよ!」
南「誰と言われましても、私がロックしたって証拠がありますか? あそこは防犯カメラに映りにくいところなんですよね」
掛川「う!」
南「どなたか別の人間にいたずらされたんじゃないですか? この辺も色々な人がいらっしゃいますからね」
店内の客、「おー」とどよめく。
掛川「ふざけんな!」
南「レッカー呼びますか? 駅まで5km以上ありますので夜道は危険ですよ。それとも別のお客さんの車に乗せて頂きますか?」
店内の客、一斉に棚に身を隠す。
掛川「くそ! いい加減にしろ!」
掛川、南の胸倉をつかむ。
南「あ、暴力はやめて下さいね。監視カメラにしっかりと映っていますから」
レジを映す監視カメラ。
掛川「ふざけんじゃねえ! こんな店、もう二度と来るか!」
掛川、手を放しガムを放り投げる。
南「ええ、それは残念ですね」
掛川「ああん? やっぱり喧嘩売ってるな」
掛川、怒りながら南の方を見ると、レジの後ろに商品ラベルの付いた金属用ノコギリがあることに気づく。
掛川「おい、なんだよ。丁度、あそこに金ノコがあるじゃねえかよ。あれ貸してくれ。こうなったら自分で切って外すからよ」
南「ああー」
南、後ろから金ノコを取り出す。
南「申し訳ありません。これ売物なんですよ」
掛川「何でもいい。いくらだ。売れ!」
南「ええ、こちらですが……」
南、金ノコを眺める。
南「大変恐縮ですが、4万円頂きます」
レジの後ろに100円ショップの袋。
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