madness ホラー

――madness(狂気) 見えざる、狂気。 それを隠す為に生きる物も、いる。
白石 謙悟 11 0 0 06/04
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第一稿

『madness』

登場人物

健児(ケンジ)…社会人。友達思いで常識人。
広基(ヒロキ)…社会人。健児の同期。気性が荒い。
ニュースキャスター…声のみの ...続きを読む
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『madness』

登場人物

健児(ケンジ)…社会人。友達思いで常識人。
広基(ヒロキ)…社会人。健児の同期。気性が荒い。
ニュースキャスター…声のみの出演

明転。
健児と広基が向かい合って座っている

広基「くそっ!!」
健児「おい…落ち着けって」
広「うるせぇな!大丈夫だって言ってんだろ」
健「大丈夫そうに見えないから心配してんじゃん」
広「ああ、くそったれ…。何でこんなことになったんだ…」
健「本当に、思い当たることはないんだな?」
広「ねぇよ!…いや、ないはず…。あいつに限って、そんなことは…」
健「だよな…」
広「ちくしょう、酒!酒もうないのか!?」
健「まだあるけど…、もうやめとけよ。悪い酒だ」
広「いいんだよ!今日は飲みまくって全部忘れるんだ。何もかもな!」
健「………」
広「なぁ、健児。お前なら解ってくれんだろ?俺の気持ちをさぁ…」
健「わかったわかった。持って来るから待ってろ」
広「う〜い」
健「次がラストな。もうやめとけよ?」

席を立ち、健児がハケる
机に突っ伏す広基。乱暴に机を蹴ったり殴ったりする

広「ちくしょう!返せよ…。涼子を返してくれ…」

缶ビールを持った健児が登場。
荒れる広基を見て、辛そうな表情

健「広基…」
広「何であいつが殺されなきゃいけなかったんだ…?
  あいつが何をしたって言うんだ!」
健「犯人の動機とかは検討つかないのか?」
広「犯人の動機はおろか、少しも足取りが掴めてねぇんだよ!
  役立たずさ、警察は!」
健「確かに、おかしな話だよな…。ビール、飲むか?」

無言でビールを奪い取る広基。一気に飲み干す

健「…まぁ、お前がそこまで荒れるのも解るよ。
  俺だって、まだ信じたくない」
広「………」
健「でもな、どれだけ嘆いたって涼子が生き返るわけじゃないだろ。
  っていうか、あんまり暴れるな。俺の家がもたん」
広「なぁ、健児…」
健「ん?」
広「何でお前はそんなに冷静でいられんだよ?」
健「え?」
広「死んだんだぞ!涼子が、殺されたんだ!わかるか!?殺されたんだぞ!!
  俺の彼女が!殺されたって言ってんだよ!!」
健「わかってるよ…」
広「いいや、わかってねぇ!お前は所詮他人事だと思ってるからそんな風で
  いられるんだよ!お前だって涼子とは同級生だったんだろ!
  なのに、何でそんなに冷静なんだ!」
健「熱くなったって同じだろ…。喉が渇くだけだ」
広「ほんっと、昔からそうだよな。冷静…いや、冷血だよ」
健「俺だって悲しんでるよ!悲しくないわけないだろ!」
広「はっ…どうだか。本当はせいせいしてるんじゃねぇのか?」
健「何だと?」
広「お前、涼子のこと苦手だったんだろ」
健「飲み過ぎだぞ」
広「知ってるぞ。派手な女で、全然好みじゃないって…」
健「いい加減にしろよ!!何が言いたいんだ、お前!」
広「別に…。ただ、あまりにも冷静に俺の愚痴を聞いてくれるからな。
  なーんか…」
健「…?」
広「お前が犯人なんじゃないかって思えてきてな」
健「…相当酔ってるみたいだな。水でも持ってこようか?」
広「違うよな?お前はやってないよな。信じてるぜ、健児」
健「思い切り殴ったら、酔いって吹っ飛ぶかな?」
広「ごめん、冗談。殴ってもいいよ」
健「よかったよ、冗談で。素で言ってたんならマジで殴ってたぞ」
広「わりぃ、健児…。ごめん、どうかしてた。お前を犯人扱いだなんて…」
健「いいよ、別に。お前の酒癖の悪さは昔からよく知ってる」
広「あー、駄目だ…。ホンット駄目。何かもう頭ぐるぐるしてわけわかんねぇ」
健「待ってろ、水持って来るから」
広「いや、そういう意味じゃねぇよ」
健「え?」
広「実はあんま酔ってない。色々考えてたら頭痛くなってきたんだよ」
健「涼子のこと…か?」
広「ああ。あれから自分なりに整理してみたんだ。…最初からな」
健「ふーん…。聞かせてもらってもいい?」
広「って言っても、別に何が変わったってわけでもないがな」
健「でも、手がかりとか、何かしら見つかるかもしれないだろ?」
広「まぁ、そうだな…。そう言えば、まだ詳しい事は話してないんだっけ…」
健「そうだよ。俺は大まかなことしか聞いちゃいない。十分驚いたけどさ…」
広「まず、事件が起きたのは丁度2週間前だな。これはお前も知ってるだろ?」
健「うん、知ってる。俺は連絡受けたのは翌日だけど」
広「涼子は…自宅で…殺された。紛れもなく殺人事件だよ」
健「確か、お前が初めに見つけたんだよな。その…遺体を」
広「ああ…」
健「そう言えば、死因は?殺された、とだけしか聞いてなかったけど…」
広「刺殺だよ…」
健「ナイフか、何かで?」
広「………」
健「おい、広基?」
広「めった刺しだよ…。頭から、つま先にかけて…!」
健「え…」
広「あり得ねぇよ…。どれだけあいつにうらみがあったか知らねぇけど…。
  あんなの…むご過ぎる…」
健「何で…そんな…」
広「その日、あいつと会う約束しててさ…。時間通りにあいつの家に行ったんだよ。
  チャイム鳴らしても出ねぇから、おかしいなって思った…。
  で、なぜか鍵が開いてて、中に入ったら…」
健「殺されてたのか…」
広「(頷き)腰抜かしたよ。最初は…誰かわからなかった。
  顔もぐちゃぐちゃで…!う…うう…」
健「おい…無理して話さなくていいから。別に取り調べとかじゃないからさ」
広「いや、お前には全部話しておきたいんだ。他の奴には話す気になれねぇし、
  思い出してたら…何かヒントが見つかるかも…」
健「(苦笑しながら)聞く方も結構辛いけどな…」
広「確かに、酒の肴にはならねぇな…。すっかり酔いも冷めちまったよ」
健「で、遺体を見つけたお前は、すぐに警察に連絡したと?」
広「したよ。すぐにした」
健「涼子の部屋は見たのか?何か、犯人が残した証拠とか…」
広「…何も触ってねぇよ。俺は通報した後は外にいた。
  あんな姿の涼子…絶対に二度と見たくなかった。それに…後で警察が
  部屋を捜索するなら、むやみに触らない方がいいと思って…」
健「だよな。それが賢明だよ」
広「いや…、警察なんかに任せるくらいなら、自分で動いた方がましなんじゃ
  ねぇかって最近思えてきたよ」
健「まだ何も掴めてないんだっけ」
広「ああ。死亡推定時刻は2週間前の午前9時から12時にかけて。
  そう考えると、俺があいつの家に行った時…涼子は殺されてそんなに
  時間は経ってなかったってことだ」
健「お前、何時に行ったんだ?」
広「1時。その時間に約束してたからな」
健「犯人と鉢合わせにならなくてよかったな…。
  そうなると危なかったんじゃないか?」
広「今、考えるとな…。そんな場に出くわしたら、口封じで俺も殺されてただろうよ」
健「目撃者…とかいなかったのか?近くで怪しい奴を見たとかさ」
広「いねぇよ。もう2週間経ってるんだぜ。そんな奴がいたらとっくに
  証言してるだろ」
健「実はいて、お前には知らされてないだけかもしれないぞ」
広「むしろ、その方が助かるよ。見た限りじゃあ、
  事件には全く進展がないんだからな」
健「そう言えば、お前も取り調べ受けたんだろ?第一発見者だもんな」
広「ああ、受けたよ。連中め、どうでもいいことまで根掘り葉掘り聞きやがって…」
健「どうでもいいこと?」
広「彼女と、何か上手くいってなかったことはないのか、とか。
  本当に行ったのは1時だったのかとか」
健「疑われてるのか…」
広「行き詰ってる証拠なんだよ。警察があそこまで無能とは思わなかったぜ。
  もう俺は奴らを信用しねぇ」
健「まぁまぁ…。一応、彼らなりに頑張ってるんだ。
  信じて待つしかないだろ」
広「いいや、信じられねぇよ!犯人に繋がる手掛かりはおろか、凶器すら判明
  できてないんだぜ!」
健「凶器、見つかってないのか…」
広「真面目に捜査してるのかも疑問だぜ…」
健「そりゃしてるだろ。殺人事件だぞ。人が一人死んでるんだ…。
  真面目にやってなかったら大問題だぞ」
広「だったら、早く成果を出してほしいもんだな。形だけの捜査なら、
  俺達にでもできる」
健「そうだな…。早く捕まればいいけど。まだ犯人が逃走中だと、
  近所の人も不安だろう」
広「………」
健「しかし、何の証拠も残ってないなんて、おかしな話だよな…。
  指紋とかも、何も出てないんだろ?」
広「出てないらしい」
健「大した犯人だな…。あらかじめ殺すことを計画してたのかな?」
広「どうして、そう思うんだ?」
健「衝動的な犯行なら、何かしらボロが出やすいもんじゃない?
  よく知らないけど…」
広「つまり、殺す事も、殺した後の事も完璧に計画してたってことか?」
健「だと、俺は思うんだけど…」
広「どうかな?衝動的に殺した後、冷静になって…証拠を隠滅したとか」
健「冷静になれるもんかなぁ?まぁ、そうだとしてもおかしいだろ」
広「何が?」
健「もしそうだったとしたら、隠滅してる最中にお前と鉢合わせになってるだろ」
広「まぁ、確かに…モタモタしてたら俺が来てただろうな…」
健「っていうか、犯人はもしお前が涼子と一緒にいたらどうするつもり
  だったんだろうな?」
広「その時は俺も…殺されてたんじゃねぇの」
健「つくづく無事でよかったよ…」
広「くそっ、俺がいればこんなことには…」
健「でも、あっちは凶器を持ってたんだぞ。いくらお前がその場にいても…」
広「わかんねぇだろ!涼子を助けられたかもしれねぇじゃねぇか!」
健「過ぎた事だよ…。考えただけで後悔するだけだろ」
広「そうだけどよ…」
健「忘れろとは言わないけど、俺達じゃどうしようもないんだ。
  犯人はすぐに捕まるさ。警察に任せよう」
広「………」

力なくうなだれる広基

健「…そろそろお開きにして、もう休めよ。泊ってっていいからさ」
広「…涼子がいなくなってからさぁ」
健「ん?」
広「毎日楽しくねぇ。生きてる感じがしねぇ」
健「…」
広「喧嘩ばっかだったけどさぁ…。いなくなると、こんなに満たされないんだな…」
健「喧嘩するほど仲が良かったんだろ。結構仲良くやってるように見えたけど、
  喧嘩とかしてたんだ」
広「いつもくだらねぇことでしてたよ。あいつ、色々細かいこと気にするからさ。
  どうして俺みたいな奴と付き合ってたんだろうな」
健「…まぁ、ちょっと派手な感じだったけど、良い子だったよな…。
  面倒見もよかったし、大雑把なお前とは正反対だったなぁ」
広「余計なお世話だ」
健「正反対だったけど、いいカップルだって思ってたよ。いつも楽しそうで」
広「楽しそう?そう見えてたのか?」
健「ああ。ちょっとバカップルぐらいに思ってた」
広「お前、ぶっちゃけ過ぎ…」
健「悪い。涼子の話はあんまりしない方がいいよな」
広「いいよ、別に…。過ぎた事、だろ…」
健「…なぁ、そもそも、涼子は何で殺されなきゃいけなかったんだ?
  殺される程のうらみを、誰かから買ってたのかな…?」
広「わかんねぇけど…そうじゃねぇの」
健「お前、何か心当たりないの?」
広「何が?」
健「いや、涼子の周りで、誰か怪しい奴はいなかったのかなって…」
広「特に思い浮かばねぇな」
健「ふぅん…。ますますわけがわからん」
広「お前はどうだ?」
健「え?」
広「誰か、思い当たらないか?あいつに…涼子にうらみを持ってる奴とか」
健「俺が知ってるわけないだろ。彼氏のお前は知らないのに」
広「…そうだよな」
健「当たり前だろ。そこまで話してた方じゃないし」
広「ははは、確かに、お前が知ってるわけないか。良かった」
健「お前も思い当たる節がないってことは…涼子個人の関係者か?
  一体どういう………ん?」

何かを思い出した様子の健児

広「どうした?」
健「あれ…ちょっと待てよ」
広「おい、健児?」
健「前に涼子と話した時…あいつ、変なこと言ってたような…」
広「変なこと?」
健「今、思い出したんだけどさ…。いや、でも大したことじゃないかも」
広「何だよ、言ってみろよ」
健「何か…最近、気持ち悪いストーカーまがいの奴につきまとわれてるって…。
  誰とは言ってなかったけど…」
広「あいつ、そんなことを?初めて聞いたぞ…?」
健「笑いながら冗談っぽく言ってて…全然気にとめてなかった。
  でも、今思うと…まさか、そのストーカーが…?」
広「そんな、馬鹿な…。何か、他に言ってなかったか?
  そいつの特徴とか…何でもいい」
健「いや、本当にふざけた感じで言っててさ…。手がかりになるようなことは
  何も…。俺も深くは聞かなかった」
広「涼子…。どうして、話してくれなかったんだ…?」
健「すまん、俺がもっと気にかけていれば…」
広「お前のせいじゃねぇよ。しかし、その話が本当だったら、
  そのストーカーはかなり怪しいな…」
健「今回の事件と関わりがあるのかな?」
広「わかんねぇ。だけど…可能性は高いな」
健「このこと、警察に話した方がいいよな。俺から話すよ。
  一応、涼子本人から直接聞いたのは俺だし」
広「………」
健「おい、広基?どうした?」
広「いや、俺から話すよ」
健「え?でも…」
広「いいから、任せてくれ。ついでに、涼子の友達とかにも当たって、
  あいつからストーカーに関しての相談を受けてないか確認しとこう」
健「あ、ああ…。じゃあ、任せた」
広「他には?」
健「え?」
広「あいつ、他にお前だけに話してるようなことはないのか?」
健「ないと思うけど…。特に聞いた話はそれぐらいだ」
広「そうか…。ならいいんだ」
健「あのさ…。ちょっと聞いていいか?」
広「どうした?」
健「お前ら、何かあったわけじゃないよな?」
広「…どういう意味だよ」
健「いや、だって…ストーカーの話しとか聞いてなかったんだろ…?
  何で俺には話しておいて、お前には話してないんだろうなって思って…」
広「知るかよ…。こっちが聞きてぇよ!」
健「大きい声出すなって…。もう夜遅いから…」
広「わかったぞ…。健児、お前…俺を疑ってるんだろ!?」
健「おい、何言い出すんだよ!?」
広「絶対そうだ…。だから、涼子と何かあったかなんて聞くんだろ!?」
健「誰もそこまで言ってないだろ…。落ち着けよ」
広「俺があいつを殺す理由なんてない!俺があいつを失って、どれだけ悲しんでるか
  さっきお前に言っただろうが!ワケわかんねぇままあいつを殺された気持ちが、
  お前にわかるか!?」
健「広基…」
広「お前は見てないだろ…。涼子の亡骸…!
  顔を…アイスピックでめった刺し!どれだけのうらみがあったって言うんだ…。
  俺に、そんなむごたらしいことができる程の動機があるって言うのか…?
  なぁ、健児!!」
健「広基、頼む、落ち着いてくれ。紛らわしい言い方をして悪かったよ。
  誰もお前がやったなんて言ってない。
  お前に、涼子が殺せるはずがない」
広「ううう…涼子…!」
健「もう休め、な?」
広「………」
健「大丈夫か?」
広「……ああ、悪ぃ…大丈夫だ」
健「疲れてるんだよ…。精神的にも、色々きてるんだろうな」
広「かもしれねぇな…。悪い、洗面所借りてもいいか?顔洗ってくる」
健「ああ、いいよ」

広基、ハケる。
心配そうに見送る健児。
疲れたように座り、テレビの電源を入れる

ニュースキャスター(声のみ)「…二週間前に都内で起こった殺人事件について
  ですが、たった今入った情報によりますと、犯人が犯行の際に使用したと
  みられる凶器が被害者の自宅近くの河川から発見されました」

健「これって…涼子が殺された事件だよな!?やっと凶器がわかったのか…」

NC「凶器は市販のアイスピック。付着した血痕のDNA鑑定の結果、被害者
   のものと一致し、殺害の際に使用されたものと断定されました。
   警察は引き続き捜査を……」

健「アイスピックか…。それでめった刺し…何てむごい………」

うつむき、苦悶の表情を浮かべる健児。
しばらくして、何かに気付く

健「アイス…ピック…?」

広基が戻ってくる

広「悪いな、健児。少し落ち着いたよ。もう大丈夫だ」
健「おい……広基………」
広「ん?」
健「何でお前…凶器がアイスピックって知ってたんだ…」

長い沈黙。
やがて無表情に健児を見つめる広基

広「…………あーあ」


――完――

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