愛情回復プログラム
2020.05.30
⚪︎曽根宅 寝室 (夜)
ダブルベッドの上で、互いに背をむけて横になっている、曽根圭一(39)と、曽根京香(33)。
京香「おやすみ」
圭一は無言でスマホを見ている。
時計の針は、11時半を指している。
× × ×
時計の針は深夜3時15分を指している。
京香が起き上がり、寝室を出て行く。
その振動で目を開く圭一。
だが、すぐに眠る。
⚪︎水嶋製作所 製造工場 (昼)
精密機械の製造工場。
作業服姿の曽根が、機器の作動を確認している。
作業服姿の辻浦守(27)に声をかける。
曽根「どうだ」
辻浦「少し、この辺りのデータが気になります」
辻浦、手に持っていたタブレット端末を曽根に見せる。
タブレット端末にはグラフが表示されており、その波形が乱高下している。
曽根、目を細める。
辻浦「拡大しますね」
辻浦、言いながら、タブレットを操作してグラフを拡大する。
曽根「老眼なんて、自分はならないんじゃないか、と思ってたんだがなァ」
辻浦「うちの親父も昔そんなこと言ってましたよ」
曽根「ははは。ああ、これはこの計測機の誤作動だな」
曽根、グラフのある箇所を指さし、辻浦に状況を説明する。
⚪︎同 社員食堂 (昼)
広い部屋に、いくつかのテーブルが並んでいる。
曽根と辻浦と他数人がテーブルを囲んでいる。曽根、辻浦の前にはカレーライス。
曽根「辻浦、そう言えば、さっきのはもう報告したか」
辻浦「ああ、その件については他のところでも報告があったそうです。最近誤作動が多いらしくて。聞いてませんでした? 」
曽根「いや、初耳だな」
曽根、カレーライスを口に運ぶ。
曽根、眉をひそめる。
曽根、もう一度カレーを口に入れる。
曽根、眉をひそめる。
曽根、カレーをじっと見つめる。
曽根「なぁ、辻浦」
辻浦、カレーを食べる手を止めて、曽根を見る。
曽根「味するか? 」
辻浦「味ですか? いつも通りまずいですよ」
曽根、眉をひそめている。
曽根「一口もらっていいか? 」
辻浦、軽くうなずく。
曽根、辻浦のカレーをすくい、口に入れる。
辻浦「何か、違いますか? 」
曽根「いや、同じだ。味がしない」
⚪︎曽根宅 リビング (昼)
京香がノートパソコンを見ている。
パソコンには通販サイトが表示されている。
売られているのは、何かの電子部品。
パソコンの隣に置かれたスマホには、グラフが表示されている。
グラフの線は、乱高下している。
⚪︎水嶋製作所 更衣室 (夕)
着替えを終えた男たちが、お疲れ様です、と言いながら出て行く。
曽根と辻浦が着替えている。
辻浦「ほんと、大丈夫ですか」
曽根、顔色が悪い。
曽根「多分風邪かなんかだろう」
辻浦「病院ちゃんといってくださいね」
曽根「ああ」
⚪︎同 駐車場 (夕)
運転席に座る曽根。
スマホにラインのメッセージが来ている。
送信者は、まみ@プラチナ。
まみのライン「今日これそう? 」
曽根のライン「いくよー♡。早くまみちゃんに会いたいなあ」
まみのライン「やったー。お店で待ってるね」
曽根、クルマのバックミラーで自分の顔をチェックする。
再びラインのメッセージがくる。
送信者は京香。
京香のライン「今日は遅くなる? 」
曽根のライン「ごめん、残業」
京香のライン「晩ご飯は? 」
曽根のライン「食べて帰るよ」
既読がつくのを確認して、曽根はスマホを置き、エンジンをスタートする。
⚪︎曽根宅 玄関(夕)
京香が荷物を受け取っている。
荷物はダンボール箱が大小4つ。
配達員が頭を下げて、出て行く。
京香「これで全部ね」
⚪︎同 寝室 (夜)
ベッドの上で、京香が寝ている。
玄関のドアが開く音がする。
⚪︎同 リビング (夜)
ソファにぐったりと横たわっている曽根。
寝巻き姿の京香が入ってくる。
京香「また飲んできたのね」
曽根、小さくうめく。
京香、キッチンでグラスに水を注いでいる。
京香「まみ、だっけ?」
曽根、ぼんやりとした目を少し開く。
京香「キャバクラ、ガールズバー、それとも風俗? 」
曽根「いや」
京香、グラスの水に、何かの粉を溶かしている。
京香「お水飲むでしょ」
京香、グラスを曽根に差し出す。
曽根「怒ってるのか」
京香、無表情で首を振る。
京香「もう怒ってない」
曽根「そうか」
曽根、ほっとしてグラスの水を飲み干す。
曽根「怒ってないのか、なら」
曽根、体がグラリと傾き、ソファから落ちる。
床に倒れ込む曽根。意識はない。
京香「もう怒ってないの。だって、今のあなたは、故障しているだけだから」
京香、突っ伏した曽根を仰向けに起こす。
× × ×
京香、ダンボールを開き、中から説明書を取り出す。
愛情回復プログラム、と書かれている。
× × ×
京香、はんだごてと、ドライバーを曽根の周囲に並べている。
時計の針は、1時5分を指している。
京香、ビニール袋に包まれた部品を取り出す。
ドライバーの先端を、曽根の眉間に近づけていく。
⚪︎同 玄関 (朝)
スーツを着た曽根が革靴を履いている。
その後ろに、エプロン姿の京香がいる。
京香「今日は早く帰ってくる? 」
曽根「帰れると思うよ。夕食は肉が食いたいな」
京香「わかった」
靴を履き終えた曽根が立ち上がり、京香とキスする。
曽根「それじゃ、行ってくるよ」
京香「行ってらっしゃい」
⚪︎水嶋製作所 事務室 (昼)
課長のプレートの置かれた机に、曽根が座っている。
辻浦が書類を持って近づいてくる。
辻浦「昨日の計測機の故障申請ですが」
曽根「ありがとう」
辻浦の書類は細かい字で書かれているが、それを普通に読んでいる曽根。
辻浦「コンタクトにしたんですか? 」
曽根「コンタクト? いや、してないが」
曽根のスマホにラインのメッセージがくる。
送信者はまみ@プラチナ。
まみのライン「昨日は来てくれて嬉しかった♡ 明日もきてほしいなー」
曽根、スマホを操作して、まみのメッセージを削除する。
⚪︎曽根宅 リビング(28)
京香がパソコンを開いている。
京香、収入向上プログラム、と書かれた商品をクリックする。
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