#19 Girl Talk ドラマ

沖縄。そこは命を知る場所。
竹田行人 36 0 0 05/23
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第一稿

「Girl Talk」


登場人物
立花遥(28)会社員   
水澤凪子(26)会社員
知名とみ(72)民宿主人


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「Girl Talk」


登場人物
立花遥(28)会社員   
水澤凪子(26)会社員
知名とみ(72)民宿主人


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○沖縄本島・全景(夕)
   沖縄本島と橋で繋がっている伊計島。
   T「沖縄県・伊計島」
   エメラルドグリーンの海。

○大泊ビーチ(夕)
   砂浜に波が打ち寄せる。
   立花遥(28)、砂浜に腰を下ろして海を眺めている。
   三線の音。
   沖縄民謡「十九の春」を歌い出す水澤凪子(26)の口元。
遥「ナギコ。黙っててもらっていい」
凪子「ええ。じゃあ」
   凪子、立ち上がる。
遥「踊りも。いい」
   凪子、座りなおす。
凪子「ハルカさん。こっち来て一週間ですけど観光とかしないんですか? 車なら」
遥「いい。海見たかっただけだし」
   遥、海を見つめている。
凪子「本土の人ってなんでここまで来て海見るんですかね。繋がってるんだからどこで見たって同じでしょうに」
遥「ねぇ。凪」
凪子「はい」
遥「私。一人旅したかったんだけど」
凪子「よく言いますよ。ウチの民宿に格安で泊まってるくせに」
遥「私は凪んチって沖縄で民宿やってたよね。って聞いただけ」
凪子「だって遥さん死ぬつもりだったでしょ」
   遥、凪子を振り返る。
   凪子、三線を調律している。
凪子「あの電話の声聞いたら一人でなんて行かせられないですよ」
   波が打ち寄せ、引いていく。
   凪子、三線をつま弾く。
凪子「風。強くなってきましたね。そろそろ帰りましょっか」
   凪子、立ち上がり、行く。
   遥、凪子の背中を見つめる。

○民宿「がじゅまる」・外観(夜)
   赤い瓦の古民家。
   「民宿・がじゅまる」の看板。

○同・居間(夜)
   畳敷きの12畳間。
   食卓に沖縄の郷土料理が並んでいる。
   遥と凪子、食卓に座っている。
   知名とみ(72)、ゴーヤチャンプルの載った大皿を食卓の中央に置く。
とみ「さ。食べようね」
凪子「いただきます」
遥「いただきます」
   遥、一つの皿を指す。
遥「とみさん。これなんですか」
とみ「それね。それはナーベラーンブシー」
遥「ナーべ。なに?」
凪子「ナーベラーンブシー。えっと。もやしと。豆腐の。味噌煮」
遥「呪文みたい」
   遥、一口食べる。
遥「ん。美味しい」
凪子「当たり前さ。おばぁの料理は魔法だからね」
遥「ホント。そうかも」
   とみ、微笑んでいる。
     ×  ×  ×
   とみ、食べ終わった皿を片づけている。
   遥、片づけを手伝っている。
とみ「遥さんは働き者だね」
遥「いえいえ。このくらいしないと。お世話になってますから」
   凪子、泡盛の一升瓶を手に入ってくる。
凪子「さ。お付き合いしましょうね」
遥「付き合ってあげてるのはこっちだけどね」
凪子「おばぁも。ゆんたくしよ」
遥「ゆんたく? なんだっけ?」
凪子「え。と。おしゃべりっていうか。雑談?」
とみ「ガールズトークだね」
遥「え」
凪子「おばぁ。ガールの意味わかってるの?」
とみ「なにか。間違っているか?」
   遥、噴き出す。
遥「いえ。全然。飲みましょう」
とみ「はい。お付き合いしましょうね」
   凪子、とみと遥のグラスに泡盛を注ぐ。
   遥、凪子のグラスに泡盛を注ぐ。
凪子「乾杯」
   一同、泡盛を飲む。
遥「やっぱりきついね。泡盛」
凪子「ヤマトの酒が水っぽいだけさ」
とみ「泡盛は沖縄のぬちぐすい。命の源だからね」
遥「命の源」
   遥、自分のグラスを見つめる。
凪子「そうだおばぁ。ロミオとジュリエットって知ってる?」
とみ「なにか。聞いたことあるねぇ」
凪子「お芝居。私と遥さん。高校の時同じ演劇部でさ。そのお芝居をやったわけ」
遥「またその話?」
凪子「女子高だったから。私がロミオ役。遥さんがジュリエット役でさ。遥さんめちゃくちゃちゅらさんだったさ」
とみ「今でも十分。ちゅらさんよ」
遥「いえいえ。もう十年前だよ。それ」
凪子「でね。おばぁ。ロミオとジュリエットっていうお芝居はね。ロミオと。ジュリエットが。心中するお話なわけ」
とみ「アギジャビヨー!」
遥「心中って。なんか印象違うけど」
凪子「遥さん嫌がったわけ。死んで終わりっていうのは。なんか違うって言ってさ」
遥「言ったねぇ。そんなこと」
凪子「さんざん揉めて。結局二人とも生き残る話になってしまったわけ。あの時のお客さん。みんなポカンとしてたさ」
遥「そこは。まぁ。部長権限で。ね」
凪子「いくらなんでも無茶苦茶だったと、今でも思っているわけ」
遥「すみません」
凪子「でも。死んで終わりっていうのは、なんか違うと、私も思うさ。違うよ」
遥「なぎこ」
   遥と凪子、目を見合わせる。
とみ「おばぁも。わかるよ」
遥「え」
とみ「死んでしまうということと、終わってしまうということは、全然別物だからね」
   遥と凪子、目を見合わせる。

○同・遥の部屋(夜)
   畳敷きの8畳間。
   潮騒。
   遥と凪子、並んで敷かれた布団の上で眠っている。
   凪子、寝返りを打つ。
   凪子の腕、遥の顔を直撃する。
   遥、起き上がり、頭を押さえる。
遥「頭痛が。痛い。吞み過ぎたな」
   遥、凪子に目をやる。
遥「死んじゃったんだ。一番大切な人が」
   遥、凪子の腕を布団の中に戻す。

○同・縁側(夜)
   潮騒が聞こえる。
   とみ、縁側に座っている。
   とみの脇には湯呑みが二つ。
   遥、頭を押さえながら来る。
とみ「お。来たね」
遥「とみさん」
   とみ、前掛けから紙に包んだ薬を取り出して、遥に差し出す。
遥「それ。なんですか」
とみ「ぬちまぶい」
遥「ぬ。ぬち」
とみ「吞み過ぎた時の薬さ」
遥「ああ。ありがとうございます」
   遥、とみの隣に腰掛ける。
   とみ、脇に置いていた湯呑みを渡す。
   遥、薬を飲む。
遥「わぁ。にがっ。わぁ」
   潮騒が聞こえている。
   とみ、湯呑みをすする。
遥「とみさん。私ね」
とみ「生きているということは、死んでしまうということの前にある、お祭りのようなものだと、おばぁは思うわけ」
   潮騒が聞こえる。
とみ「死んでしまうと、生きている人とは、もう、会えなくなってしまうわけ。それは、つまらないさ」
   潮騒が聞こえる。
とみ「だから、生きている内は、お祭りみたいに、楽しくないといけないわけ」
遥「とみさん」
とみ「そう。おばぁは思うよ」
   潮騒が聞こえる。

○同・遥の部屋(朝)
   凪子、眠っている。
   遥、凪子を揺り起こす。
凪子「ん? 遥さん? どうしたんですか? 私。朝ごはんならポーク玉子だけでも」
遥「凪! 帰るよ!」
凪子「え。ええ!?」
   遥、ボストンバッグを肩にかける。

○同・玄関・外
   遥、門の外で手招きしている。
   凪子、靴ひもを結んでいる。
遥「凪子! 早く! 飛行機出ちゃう!」
凪子「はぁい」
   とみ、凪子の脇に立っている。
凪子「おばぁ。遥さんに何か言った?」
   とみ、微笑んでいる。
   遥、門の外で大きく手を振っている。

〈おわり〉

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