【リモートドラマ】5月1日、21時。 ミステリー

芸人探偵エンタ、最初の事件。そして最も哀しい事件。
竹田行人 6 0 1 05/01
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第一稿

「5月1日、21時。」


登場人物
エンタ(33)芸人
アオイ(33)主婦
ナオ(33)税理士
タケル(33)八百屋
ジン(5)タケルの息子


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「5月1日、21時。」


登場人物
エンタ(33)芸人
アオイ(33)主婦
ナオ(33)税理士
タケル(33)八百屋
ジン(5)タケルの息子


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○PC画面
   オンライビデオチャット画面。
   画面は4分割されている。
   ナオ(33)、ヒスイのネックレスを付け、グラスを手に画面の左上にいる。
   ナオの画面背景は東京タワー。
   タケル(33)、プラカップを手に画面の右上にいる。
   タケルの脇には空のワインボトル。
   エンタ(33)、缶ビールを手に右下の画面にいる。
   エンタの画面には「オーディオ接続中」の文字。
   画面左下には缶チューハイと廊下が写っており、奥にドアが見える。
   左下の画面は手前が明るくなっている。
ナオ「繋がる。いい? タケル」
タケル「おう」
   エンタの画面に「オーディオ接続しました」の文字。
   爆音でパンクロックがかかっている。
ナオ「エンタ。うるさい」
エンタ「あ。ごめん」
   音楽、消える。
エンタ「あー。あー。聞こえてる?」
タケル「あ、ああ。聞こえてる聞こえてる」
ナオ「その音量。苦情来ないの?」
エンタ「ああ。来ない来ない。最新のタワマンは防音ばっちりだから」
タケル「ほー」
ナオ「そっか」
エンタ「え。ナオのそれなに?」
ナオ「ああ。背景いじれるんだこれ。あー。でもエンタそれスマホだよね。スマホだとできないかも」
エンタ「へー。すげーな。さすが令和。あ。悪い遅くなって」
タケル「いや。逆によかった」
ナオ「大丈夫。いろいろあって私たちも今始めたとこだから」
タケル「そうそう」
エンタ「そっか。あれ? アオイは?」
タケル「ああ。風呂」
エンタ「は? なにそれ」
ナオ「今帰ってきたとこなんだって」
エンタ「はー。オンライン飲み会ってのはそこまで自由なのか」
タケル「エンタ。初めてか?」
エンタ「うん。オンライン飲み会童貞だから。オレ」
タケル「初めて。もらっちゃった」
エンタ「いやん」
ナオ「バカじゃないの」
   一同、笑う。
ナオ「アオイはまだかかると思うから。乾杯しよっか」
タケル「ああ。だな」
エンタ「なぁタケル。そのワイン」
ナオ「かんぱい」
タケル「かんぱい」
エンタ「かんぱい」
   一同、カメラに飲み物を近付けたあと、呑む。
   ナオ、グラスに付いたリップを拭う。
ナオ「エンタ。この自粛に入ってからどうしてんの?」
エンタ「あー。劇場も閉まったから、ひたすらバイトの日々だよ。ウチはまだ営業してるから。時短にはなったけど」
ナオ「そっか。じゃあ普段と変わんないね」
エンタ「うっせ。見てろ。今にひと花咲かせてやっから」
タケル「もう顔の真ん中に咲いてんじゃん」
エンタ「そうなんだよ。実はここにきれいなおハナが。ってそっちじゃねーよ! ピン芸人最強を極めるって話だよ!」
タケル「よ! ノリ突っ込み!」
ナオ「わー。ホンモノだー」
   ナオ、拍手。
エンタ「拍手すな。やりづらいわ。ナオは?」
ナオ「私は完全リモート。って言いたいトコだけど。ハンコがねぇ」
タケル「それな」
ナオ「そこだけはどーしてもね」
エンタ「タケルは? てか。八百屋ってそもそも大丈夫なの?」
タケル「いやー。なかなか。どうですかウチは? ナオ先生」
エンタ「ナオ先生?」
ナオ「ああ。タケルんとこの税理。いまは私がやってんの」
エンタ「へー。で? どうなのよナオ先生」
ナオ「うーん。政府の給付金が間に合えば、なんとかなるかもしれないし、ならないかもしれない。てとこ」
タケル「マジで?」
エンタ「いや。タケルは知ってろよ」
タケル「それじゃあなんのために」
ナオ「タケル」
タケル「ああ」
エンタ「ん?」
   ジン(5)、ミニカーを持って右上の画面に現れる。
ジン「あれ? ハルカは?」
エンタ「お。ジンじゃん。元気か」
ジン「なんだエンタか。ハルカは?」
エンタ「なんだって言うな。ハルカって。アオイんとこの?」
ジン「ハルカは?」
ナオ「エンタ。知ってんの?」
ジン「ハルカは?」
エンタ「うっせ。知ってるよ。だってアオイんち。この上だもん。29階。超近所」
ナオ「そうなんだ」
エンタ「うん」
ジン「エンタ。これなぁんだ?」
エンタ「くるま」
ジン「ぶー。カローラでしたぁ」
エンタ「あーあーそーですか」
ジン「だっせ」
エンタ「あん?」
ナオ「なんで売れないピン芸人がタワマン住んでんの?」
エンタ「まだ売れてない。だ。芸人にはジンクスがあんだよ。家賃高いトコ住んだら、それに見合う仕事が来るって」
タケル「あー。あったなー」
エンタ「まーでも無い袖は振れないから、タワマンつっても一番下の階だけどな」
ナオ「で。引っ越したはいいものの、コロナで仕事がないと。そのジンクス。意味ないんじゃない?」
エンタ「うっせ」
ジン「エンタ。これなぁんだ?」
エンタ「カローラ」
ジン「ぶー。くるまでしたぁ」
エンタ「ぶん殴るぞ」
タケル「おい!」
エンタ「え」
ナオ「教育上よくないでしょ」
エンタ「ああ。ごめん」
タケル「いや」
ナオ「ジンくん。時間。平気?」
タケル「あ。あー。ああ。よし。ジン寝るか。その前にパパたんと歯みがきしよ。悪い。ちょっと抜ける」
ナオ「うん。大丈夫」
   タケルとジン、画面から消える。
ナオ「いい子だよね。ジンくん」
エンタ「悪ガキだけどな」
ナオ「遊ばれてたね」
エンタ「うっせ。あー。アオイんとこのハルカも悪ガキでさ。てか。お転婆?」
ナオ「そうなの?」
エンタ「こないだ会った時。おでこに絆創膏貼ってて。聞いたらキックボードで転んだって。どんだけお転婆だよ」
ナオ「そう。まー。でもまだ5歳だし。子どものときはお転婆くらいでいいよ」
エンタ「確かに。ナオみたいに大人のお転婆になるよかいいな」
ナオ「大人のお転婆。かわいいでしょ」
エンタ「はっはっは」
ナオ「むかつくー」
エンタ「ジンはいくつだ。ああ。一緒だ。5歳だ。そうだよな。オレがピンになって6年だもんな。早いな。時間経つのって」
ナオ「フクザツ?」
エンタ「なにが?」
ナオ「ジンくんができたからじゃん。コンビ解散したの」
エンタ「あー。いや。そもそも潮時だったんだと思う。コンビとしては」
ナオ「そ」
エンタ「だから気使わなくてていい」
ナオ「そう」
エンタ「今日だって」
ナオ「え?」
エンタ「もっと前から始めてたんだろ? この。オンライン飲み会」
ナオ「どうして?」
エンタ「タケルの前にあるワインボトル。今日買ったヤツだ」
ナオ「なんでわかんの?」
エンタ「オレ。タケルのSNS知ってんだよ」
ナオ「SNSなら私だって。八百屋のタケちゃんでしょ」
エンタ「違くて。裏アカ的な方」
ナオ「裏アカ?」
エンタ「そう。あ。これって確か。画面見せられたよな」
ナオ「ああ。うん。下の。画面共有ってトコ」
エンタ「画面共有。ああ。これか」
   PC画面にSNS画面が表示される。
エンタ「えーと。どこだっけな」
ナオ「裏アカって。なんで?」
エンタ「気になんじゃん? 元相方だし」
ナオ「メンヘラ彼女か」
エンタ「うっせ。あ。これだ」
   SNS画面。
   「元ブザービーターのボケ」の投稿。
   「今日は昔の仲間とオンライン飲み会。ちょっといいワイン買っちゃいました。のむぞー!」の文字と、ワインボトルを手にしているタケルの写真。
ナオ「あー」
エンタ「変な気使うなよ」
ナオ「ごめん。エンタってさ。昔からそうだよね」
エンタ「あん?」
ナオ「こういう細かいとこちゃんと気づくっていうかさ」
エンタ「そうか? まぁ。人間観察は芸人のキホンだからな」
ナオ「あ。エンタ。新しいネタは?」
エンタ「え?」
ナオ「新ネタ。あるでしょ? 見して」
エンタ「あー。ああ。よし。腐れ縁のよしみだ。まだどこにもネタ下ろししてない新ネタ。披露しちゃおっかな」
ナオ「よ! 待ってました!」
エンタ「よし。じゃあ。ショートコント。緊急事態宣言」
   アオイ(33)、画面左下にスウェット姿で現れる。
   アオイの右手薬指にヒスイの指輪。
ナオ「あ。エンタ。大丈夫」
エンタ「ええぇ! 気持ちできてたのに? 気持ちできてたのにやれないの?」
ナオ「うん。大丈夫」
   タケル、画面に戻ってくる。
エンタ「お。タケル。ジン寝た?」
タケル「ああ。いや。コーフンしてて全然寝ねぇから。もうかーちゃんに任した」
エンタ「そっか」
   ナオ、首を横に振る。
   アオイ、頷く。
エンタ「よ」
アオイ「よ」
エンタ「お。アオイ。すっぴん?」
アオイ「うるさい」
ナオ「デリカシー」
アオイ「てかエンタは私のすっぴんなんか見慣れてるでしょ」
エンタ「おい」
タケル「おー。なんかそれ。エロい」
アオイ「あ。違う。違うよ。ほら。高校のとき私ほとんど化粧とかしてなかったから。そういう意味。ね?」
エンタ「ああ。そう。そうだよ」
タケル「ふーん。でも今日キッカケであるかもじゃん? ホラ。ヤケボックイ的な?」
エンタ「ねーよ」
アオイ「ないない。絶対ない」
エンタ「絶対って」
アオイ「え?」
エンタ「ん? いや。なんでもない」
ナオ「さ。揃った。改めて。かんぱーい」
   アオイ、缶チューハイをカメラに近付ける。
アオイ「かんぱい」
タケル「かんぱい」
エンタ「かんぱい」
   一同、カメラに飲み物を近付けたあと、呑む。
エンタ「てかのんきに風呂なんか入ってんじゃねーよ。昭和のロマンポルノか」
ナオ「なにそれ」
アオイ「知らない」
タケル「知らねーのかよ。あったんだよ。タワマン妻、真昼のよろめき。とか」
アオイ「タワマン妻?」
ナオ「真昼のよろめき?」
エンタ「そんなタイトルはねぇ。あったら見たいわ。逆に。あ。でもアリかも」
タケル「だろ?」
アオイ「え。2人とも私のことそんな目で見てたの」
エンタ「あ。いやー」
ナオ「いやらしい。えっち。すけべ。サイテー。ゴミ。くず」
エンタ「おい。最後の方ただの悪口」
ナオ「あ。ごめん。思わず本音が」
エンタ「もっと悪いわ。ちげーよ。そもそもアオイじゃ無理だ」
アオイ「はい?」
タケル「確かにアオイじゃあなぁ」
エンタ「だろ」
アオイ「2人とも。表出よっか」
ナオ「ここは穏便に。クラス会議で」
タケル「クラス会議って。高校か」
エンタ「なんでもおぼえとけー」
ナオ「うわ! 相変わらず似てるわー。もうほぼ本人」
ナオ「誰だっけそれ」
アオイ「え。と。あ。サタケ先生。古典の」
ナオ「あー! そう! サタケサタケ。あの頃エンタとタケルでよくやってた」
タケル「なつかしー」
アオイ「あの頃が一番おもしろかったよね」
エンタ「おい」
アオイ「じゃなくて」
ナオ「アオイ。そういうこと言わない」
アオイ「ごめん」
   ナオとアオイ、頷き合う。
タケル「どんなかな。タワマン妻、真昼のよろめき」
アオイ「戻るんだ」
エンタ「ストーリーは。うーん。ああ。タワマンに住む高校教師の妻が」
アオイ「え」
エンタ「そうだよな。アオイのダンナさん」
アオイ「あー。うん。そう。マガ女の先生」
エンタ「マガ女。マーガレット女学園。由緒正しいお嬢様学校。いいねぇ」
タケル「そんないいとこの先生だったのかよ」
ナオ「タケル」
エンタ「じゃなきゃ住めないって。29階だよ。そりゃ表出るときはグラサン掛けるわな。マダムだもんな」
アオイ「え」
ナオ「へー。そーなんだー」
エンタ「そうだよ。なにヘップバーンだってくらいデカいグラサン掛けてさ。私、マダムでございってやってたよ」
アオイ「いや。さすがにそういう感じではなかったと思うけど」
エンタ「そのマダムが街でビラ配りしてた若手芸人と恋に落ち。いけない関係に」
アオイ「やっぱそういう目で見てんじゃん」
エンタ「あー。いや。この設定はあとでドンドンいじる」
アオイ「そうなの?」
タケル「ああ。エンタはいつもそう」
ナオ「さすが元相方。いや。にしてもその展開。都合よすぎじゃない」
エンタ「あー。いや。それは。なんでそーなるかってーと」
   エンタ、腕組み。
アオイ「エンタ?」
   エンタ、腕組み。
タケル「出た! ハイパー賢者モード!」
ナオ「そのネーミングなんか嫌なんだけど」
エンタ「アオイ」
アオイ「ん」
エンタ「ハルカちゃん今日どこに預けた?」
アオイ「え」
エンタ「声とかしないからさ」
アオイ「あー。ママ友んとこ。これあるからと思って。こんな時期だけど無理言って預かってもらった」
ナオ「なんかごめんねぇ」
アオイ「ううん。大丈夫」
タケル「まぁ。たまにはいいんじゃん? そういうのも。息抜き大事」
エンタ「ああ。だな」
   エンタ、腕組み。
ナオ「エンタ?」
アオイ「どうかした?」
   エンタ、腕組み。
エンタ「ん? あ。いや。あー。割けるチーズ買うの忘れてたー」
ナオ「割けるチーズ? あー。エンタ昔から好きだったよね」
エンタ「そう。ないとダメだから。ちょっと買ってくるわ」
アオイ「今から?」
   エンタ、マスクを付ける。
タケル「あー。まだコンビニならやってるか」
ナオ「いったん切る?」
エンタ「いや。スマホだし。話しながら行く」
ナオ「おー。楽しみ方わかってるね」
   エンタ、部屋を出る。
エンタ「あ。そうだアオイ。夜景見して」
アオイ「え」
エンタ「一回見てみたかったんだよ。タワマンの上から愚民どもを見下ろす景色」
ナオ「言い方」
アオイ「あー。それは。ちょっと」
エンタ「ダメ?」
アオイ「今。散らかってて」
エンタ「部屋はいいよ。夜景」
アオイ「いや。ちょっと」
タケル「エンタ。あんま無茶言うなって」
エンタ「そんな無茶かな」
アオイ「あー。ごめん。無理」
エンタ「そっか」
アオイ「ごめんね」
   エンタ、廊下を歩いている。
エンタ「いや。じゃあ。つづき」
アオイ「え?」
エンタ「なんでタワマン妻は図書館で偶然同じ本に手を伸ばした青年といけない関係になるかってーとだな」
ナオ「ホントに変わった」
タケル「だろ?」
エンタ「いや。なんでタワマン妻は気のいい漁師見習いの青年といけない関係になるかってーとだな」
ナオ「また変わった」
タケル「いやいや。気のいい漁師見習いとどこでどーやって出会うんだよ」
エンタ「由緒正しいお嬢様学校の教師であるダンナが、家では最低最悪のDV夫だったから」
アオイ「え」
   エンタ、エレベーターに乗り込む。
エンタ「これまでは自分が我慢すればよかった。顔の傷はグラサンで隠せばいい。でもコロナで状況は変わった」
タケル「おい。エンタ」
エンタ「夫も。娘も。家にいる時間が長くなった。事態は悪化する」
ナオ「エンタ。いくら妄想でも言っていいことと悪いことがある」
タケル「そう。そうだぞ。妄想だぞ」
エンタ「暴力の矛先はすぐに、娘にも向かうようになった。最新のタワマンの壁は防音が完璧で。悲鳴は聞こえない」
アオイ「エンタ。なに言ってんの?」
エンタ「ある日。タワマン妻は昔の仲間とオンライン飲み会をする。そこでタワマン妻の娘は、同い年の男の子に出会う」
タケル「エンタ。いい加減にしろよ」
エンタ「その男の子はとても人懐っこくて、物知りだった。車とカローラの違いだってちゃんとわかるくらいに」
   エンタ、エレベーターを降りる。
   エンタの背景には廊下の壁が写りこんでいる。
ナオ「ねぇ。エンタ今どこ向かってる?」
タケル「コンビニだろ」
ナオ「違うよね」
エンタ「そこにDV夫が帰ってくる。DV夫はストレスで我を忘れていて、すぐに娘に折檻を加え始める」
タケル「ストレスって。そう言や何やってもいいのかよ」
ナオ「タケル」
エンタ「もちろん。ダメだ」
アオイ「エンタ。もうやめて」
エンタ「ハルカちゃんの小さな体は。その暴力に耐えられなかった」
アオイ「お願い。やめて」
エンタ「娘を奪われたアオイは逆上した。それでたぶん、キッチンの包丁を取って、DV夫の胸に突き刺した」
   アオイ、頭を抱える。
エンタ「一部始終を目撃したオンライン飲み会の参加者はアオイに同情し、口裏を合わせて隠蔽することにした」
ナオ「エンタ。もう」
エンタ「いや。タケルはきっと税理士としてのナオに借りがあるんだ。店のことで」
タケル「どうしてそれ」
ナオ「タケル」
   エンタ、立ち止まる。
エンタ「ナオは、パニックになってるアオイに、返り血を落とすために。落ち着かせるために。風呂に入るよう勧めた」
   アオイ、頭を掻きむしる。
エンタ「そこに。オレが合流した」
ナオ「エンタ。聞いて」
エンタ「ごめんアオイ。気付けなくてホントごめん。でもオレは。オレは。それ。やっぱり間違ってると思う」
   エンタ、呼び鈴を押す。
   アオイの部屋の呼び鈴が鳴る。
アオイ「ああ! あああぁ! ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
   エンタの画面、消える。
ナオ「アオイ。アオイ聞こえる? エンタの画面は消したから。今から話すこと。ちゃんと聞いて」
   アオイ、頭を抱えている。
ナオ「エンタはこのこと。このままにはしないと思う」
タケル「ああ。そうだな」
   アオイの部屋の呼び鈴が鳴る。
ナオ「でも私たちは。私は。アオイが間違ってるって思えない」
タケル「オレだってそうだよ。確かにナオには借りがある。でもそれだけじゃ。いくらなんでも人殺しの片棒は担がない」
ナオ「そう?」
タケル「ああ。だってあいつ笑ってた。ハルカちゃん殴ってるとき。笑ってた。泣きながら。笑ってた。許せるわけねーだろ」
ナオ「うん。そうだね。ねぇ。アオイ」
   アオイ、頭を抱えている。
ナオ「アオイの気持ち。私はわかるよ。だって。私は。アオイだから」
タケル「ナオ?」
ナオ「方法は。ひとつしかない」
   アオイの部屋の呼び鈴が鳴る。
   アオイ、顔を上げる。
アオイ「そうだね」
   ナオ、ネックレスのヒスイに触れる。
タケル「おい。まさか」
ナオ「できる?」
   アオイ、指輪のヒスイに触れ、頷く。
タケル「いや。ちょっと待てって。さすがにそれは」
   アオイ、マスクを付ける。
ナオ「じゃあ他に方法ある?」
タケル「いや。え。と」
ナオ「アオイだけじゃない。私たちも、もう同じ船に乗ってる。これが。私たち全員を救う。唯一の方法なんだよ」
タケル「いや。そんな」
   アオイ、PCの下から血の付いた包丁を取る。
   包丁が光っている。
   アオイ、立ち上がる。
タケル「おい! アオイ! アオイ! 待てって! おい!」
   タケルの画面、消える。
   アオイ、ドアに向かって歩いていく。
   アオイの部屋の呼び鈴が鳴る。
   アオイの画面、消える。
   ナオ、目を閉じる。

〈おわり〉

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コメント

  • はじめまして
    私、岩崎雄貴と申します

    私は脚本を翻訳し、海外の映画祭に出展するサービスをしているのですが、この脚本を翻訳して海外の映画祭に出展することに興味はございませんか?
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