まほろば ドラマ

三年前、新田咲良(23)の恋人、瀬戸洋介(21)が不慮の事故で死んだ。 咲良は未だに洋介の死を引きずる中、大学時代の先輩である橘真央(24)と共に、「VRリフレ」を訪ねていた。 「VRリフレ」とは、VR(拡張現実)をウリにした体験型リフレクソロジーの略である。 その開発者・鴻上美登里(35)は、思い出から疑似人格をつくりだす「ディー・プラーニング」という特殊プログラムを開発していた。 咲良は、VR再現した瀬戸にきちんと別れを告げるという名目で、「瀬戸洋介再生計画」に参加することになるが……。
中山ユカ 6 0 0 04/29
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第一稿

 人 物
新田咲良(にったさくら)…事務系勤務。
橘真央(たちばなまお)…雑誌ライター
今井健人(いまいけんと)…咲良の友人
瀬戸洋介(せとようすけ)…咲良の元彼。故人。
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 人 物
新田咲良(にったさくら)…事務系勤務。
橘真央(たちばなまお)…雑誌ライター
今井健人(いまいけんと)…咲良の友人
瀬戸洋介(せとようすけ)…咲良の元彼。故人。
瀬戸栞(せとしおり)…大学生。洋介の妹
鴻上美登里(こうがみみどり)…「VRリフレ」開発者。
丸山さとみ(まるやまさとみ)…真央の従妹。

○三年前・喫茶店(夕)
T『三年前』
賑やかな喫茶店。窓の外、雨。雨に濡れる桜の枝葉。新田咲良(20)、頬杖をついて、テーブル席に座っている。正面の席には誰もいない。咲良、電話をかける。

○三年前・大通り(夕)
雨が降っている。足元には、濡れて落ちた桜の花びらが散らばる。
真央の声「じゃあ洋介、また明日!」
瀬戸の声「おう!」
瀬戸洋介(21)、カメラなどの撮影機材を持ち、傘をさしながら歩いている。瀬戸の電話、鳴る。
瀬戸「あっ、もしもし」
咲良の声「遅い。ねえ、なにやってんの?」
瀬戸「ごめん、撮影押しててさ」
咲良の声「映画と私、どっちが大事なの!?」
瀬戸「いや、今はそういう話じゃないし……」
咲良の声「で、大事な話しって、何?」
瀬戸「あぁ……えっと……直接、話すから」
咲良の声「そう……」
瀬戸「あ、今いく、とにかく待ってて」
瀬戸、電話を切り、横断歩道を渡る。信号無視をしたトラックが突っ込んでくる。自動車のブレーキ音、衝突音。やがて救急車のサイレン。血に浸る桜の花びら。

○喫茶店(夕)
T『現在』
賑やかな喫茶店。窓の外は夕暮れ。新田咲良(23)、テーブル席で頬杖をついている。今井健人(26)、咲良を見つけ、
今井「お待たせ!」
咲良「あ、今井くん……」
今井「待った?」
咲良「ううん」
今井「じゃあ、行こっか」
咲良、今井の後をついていく。

○倉庫・外観(夜)
郊外にある古い倉庫。入口に『新感覚!VRリフレ』と手書きの立て看板。

○倉庫・中
うずたかく積み上げられたダンボール、様々な機械で埋め尽くされた倉庫の中。
橘真央(24)、鴻上美登里(35)に向かい、頭を下げている。白衣を着た美登里、何やら考え込んでいる。
真央「だから……よろしくお願いします」
美登里「ふん。いいわ、助けてあげる。その子だけじゃなく、あなたたちを、ね」
真央「……本当、ですか」
美登里「ええ。ただし、これは取引よ」
美登里の手にはVRゴーグル。
美登里「あなたが欲しいものを私の技術で提供する代わりに、私はあなたたちの美しい思い出をまるごとゴッソリいただいて『改変』するってこと。それがただの映像、データだったとしても、あなたたちの何かが変わってしまうかもしれない。それでも、」
真央「いいんです。それは、はい、わかってます。でも、あの、くれぐれもあの子には」
美登里「来たわよ」
真央「あっ……あぁ」
ダンボールの向こうから咲良、栞、さとみ、今井の声が聞こえてくる。
咲良の声「ねぇ、あのさぁ!」
栞の声「咲良さんこれもいい機会だと思います!」
咲良の声「栞ちゃん意味わかって言ってる!?」
栞の声「だから咲良さんのためなんです!」
咲良の声「それが意味わかんないんだってば」
さとみの声「二人とも落ち着いてくださいよぉ!」
今井の声「そうだよぉ!」
美登里と真央、顔を見合わせる。
美登里「いらっしゃい。遅かったじゃない」
さとみ「す、すみません……!」
美登里「すぐ準備にとりかかって」
丸山さとみ(20)、周囲の機械の電源をつけていく。
咲良「橘先輩……あの!」
真央「あぁ、えっと、今、説明するから」
瀬戸栞(20)、咲良におそるおそる声をかける。
栞「咲良さん……」
咲良「(真央に)先輩、こんなところで一体何しようっていうんですか?」
真央「咲良、まあみてればわかるから」
今井「咲良ちゃん、俺がついてるよ!」
咲良「あぁ、ありがと。でもみてればわかるって……?」
美登里「あのォ~」
真央「はい、はい」
美登里「とりあえず、体験してみた方が早いわよね」
真央「あっ、そう、ですね」
美登里「改めてこの技術を観て頂くいい機会になると思うわ。で、誰がやる?」
× × × 
ぽつんとあるソファに灯りが照らされている。美登里、今井にソファへの着席をすすめる。
美登里「どうぞ」
今井「な、なんで俺が……」
さとみ、お茶を出すなど、着々と準備をしていく。
美登里「体験メニューは、『十五分三千円:初恋リフレッシュコース』でよろしいですか?」
今井「あ、はい……?」
美登里「デート相手は、『ご注文はライブですか!?』の……エリもきゅでいいか」
積み上げられたダンボールの近くに、巨乳美少女キャラ『エリもきゅ』の等身大パネルが立てかけられている。
咲良「なにあれ」
栞「今大人気のアニメキャラですよ」
咲良「おっぱいの大きさおかしくない?」
今井「俺は、俺は咲良ちゃん一筋だよ!」
咲良「はいはい」
美登里「ま、当店は見た目こそただの倉庫ですが、世界最新鋭のVR、つまり『仮想現実映像』でお客様を好きな世界へお連れいたします。はい、これ付けて」
美登里、今井にVR用のゴーグルを渡す。今井、VRゴーグルをつける。美登里、ノートパソコン片手に、
美登里「エリもきゅのクライアント多いんで、かなりリアルな映像で楽しめますよ?」
今井「リ、リアルな映像……?」
美登里「いいですか? 良いって言うまで、絶・対・に、ゴーグルを外さないでください」
今井「え、あ、な、なんでですか……?」
美登里「夢の魔法が、解けちゃうでしょ? いってらっしゃーい!」
美登里、パソコンのキーを叩く。周囲の機械が発動。今井のVRゴーグルにVR(拡張現実)の世界が映し出されていく。
今井「おおお……!」
今井、ゴーグルをつけ、驚愕。咲良、隣の栞に耳打ち。
咲良「なに?ねぇ、なんなのこれ?」
栞「咲良さん、これが『VRリフレ』ですよっ」
咲良「リフレ? リフレってなんかいかがわしいやつじゃない!?何が始まるの?」
真央「いかがわしいビジネス」
咲良「へ?いかがわしい?」
栞「これはですね、最新のVR技術を使って、ないものをあるように、あるものをないように見せる、体験型リフレクソロジーなんです!」
今井の声「おおおおすげぇぇぇぇぇ!」
叫び出す今井に一同、驚く。

○今井のVRゴーグルから見える世界
ソファがある洋風の室内。ソファに座る今井の前に、メイド服姿のエリもきゅ(18)がモジモジと立っている。
エリもきゅ「今井くん、ごめん、待った?」
今井、エリもきゅの胸を凝視。
今井「デ、デカい……!」
エリもきゅ「隣り、座っても、いい?」
今井「う……うん!」
エリもきゅ、今井の隣りに座る。

○倉庫・中
今井、VRゴーグルを付けたままニヤけている。咲良、引き気味に、
咲良「……なにこれ」
美登里、ボケッと突っ立っているさとみのお尻を叩く。
美登里「ほら、準備して!」
さとみ「えぇ?」
美登里の視線の先、ニヤけている今井の姿。美登里、さとみに無表情のまま、親指を立てる。
さとみ「あぁー今回もまた?またやるんですか!?」
美登里「つべこべ言わずに、ほらッ。減るもんじゃないでしょ」
さとみ「減りますよ!私の純情が減りますよ!……咲良さん、その、すみません……」
咲良「あぁ、気にしないで」
さとみ、今井の隣に渋々座り、手を握る。

○今井のVRゴーグルから見える世界
洋風の室内。エリもきゅ、今井の隣に座り、太田の手を握る。
今井「ひゃあッッ?」
エリもきゅ「ごめんっ、手ぇ繋ぐの、嫌、だった……?」
今井「い、嫌じゃないけど、俺には、咲良ちゃんが……」
微笑むエリもきゅ。

○倉庫・中
さとみ、無表情で今井の手を握っている。
咲良「え……何やってるんですか?」
美登里「触覚の再現。専用のグローブとかまだまだ値段高いし、だから、代理」
咲良「はぁ」
美登里、さとみの耳元にいき、囁く。
美登里「はいーもっと近くに寄ってー。そこで足をー、かけるー」
さとみ「足!?こう、ですか……?」
さとみ、今井に片足を乗せる。
今井「あひゅっ」
さとみ「咲良さんほんとにすみません!」
咲良「いちいち謝らなくていいから!」
美登里「リアルになるのよねぇ」
今井、VRゴーグルを付けたまま、鼻息が荒い。

○今井のVRゴーグルから見える世界
洋風の室内。エリもきゅ、今井の太ももに片足を乗せて微笑んでいる。
エリもきゅ「もっと……あたしと……イイコト、する……?」
今井「そそそそそんなぁ……!?」

○倉庫・中
さとみ、苦悶の表情。今井、鼻息が荒い。
さとみ「あぁぁもう……つらい……!」
咲良、真央、栞、その様子を遠巻きに眺めている。
咲良「こんなことを、彼女は毎回やってるんですか」
真央「心配してたんだよね、叔父さんが」
咲良「叔父さん?」
真央「さとみはね、私の従妹なの」
咲良「その叔父さんが心配するくらいの、バイト」
さとみ、二人の会話に耳を傾け、叫ぶ。
さとみ「真央姉!このバイトのことは、パパには絶対言わないでよ!?」
真央「うるさい。いかがわしいことには変わりないでしょー!?」
咲良「橘先輩も大変ですね……」
真央「調べてみれば、この通りよ」
美登里、さとみの耳元で囁く。
美登里「はいー、そこで首筋にー」
さとみ「だってぇ」
さとみ、ものすごく雑に今井の首筋を撫でる。
今井「あふんっ」
さとみ「時給、二千円なのォ!」
咲良「一応聞きますけど、先輩的にあれは、セーフ?」
真央「アウト、超アウトだけど、まあ、タイトルは決まった」
咲良「タイトル?」
真央「このVRリフレのことを調べていくついでに、うちの雑誌で記事にしたら面白いんじゃないかなって思って」
咲良「へー」
真央「興味なさそうだね」
栞「どんな記事にするんですか!?」
真央「フフン……月刊メーの美人ライター独占密着取材!見開き特集『潜入!仮想現実はここまで進化した!?怪しい倉庫!画面の向こうのあの子と!秘密のウフフ体験!?』」
咲良、苦笑い。

○今井のVRゴーグルから見える世界
洋風の室内。今井に密着しているエリもきゅ。
エリもきゅ「健人くん、ずっと、こうしてても、いい……?」
今井、悶絶。

○倉庫・中
美登里、さとみに退くように指示し、今井のVRゴーグルを取り外す。
美登里「はいー、お疲れ様でしたァー」
今井「はっ、えっ!?」
美登里「現在の料金では、ここまでのお楽しみとなりますゥー」
今井、ソファから崩れ落ちる。咲良、今井に冷たい視線。
今井「咲良ちゃんっ違う!違うんだ!」
美登里「ここから先は、ドキドキロマンチックデートコース、松・竹・梅!お値段はそれぞれ……」
美登里、今井の耳元でゴニョゴニョ囁く。今井、驚愕。
今井「そんなにするんですか!?」
美登里「ホントはお金とってもいいところだけど、今回は体験だからチャラにしてあげる。どうだった?」
今井、咲良を気にして、
今井「ハマる人には、たまらないと思います」
咲良「今井君、正直に言っていいよ」
今井「控えめに言って最高でした」
咲良、大きくため息。
真央「ま、まあ、男の人のロマンだよね!」
美登里「そんな感じで、私どもは皆さんに癒しを提供してるッてわけ」
咲良「はぁ……」
栞、さとみにかけよって。
栞「さとみ!これすごいね!」
さとみ「でッしょー!? ちょっといかがわしいけど」
美登里、『いかがわしい』の単語に反応。
栞「あたしもバイトしたいなぁ」
さとみ「栞はそんなことしなくても平気じゃん、それよりレポートやった?」
栞「あ、まだだ」
美登里、さとみに詰め寄り、
美登里「おいお前、今日は私のビジネスに理解と興味のあるお友達アンドお客様を連れてくるっていったが……」
さとみ「ひぃっ」
美登里「それをいかがわしいって言ったなぁ!?よりにもよってお前が!?バイトの分際で!?」
さとみ「いえそそそんな他意があったわけじゃ!」
咲良「(真央に)助けなくていいの?」
真央「あの子の失言はいつものことだし」
美登里「……時給、下げるぞ?」
さとみ「ハッ……そ、それだけはやめてください!冗談ですっ、冗談ですからっ!」
美登里、白衣を翻し、倉庫の奥へ去っていく。さとみ、その後を追う。咲良、ため息をつき、
咲良「……もう付き合ってられません、そろそろ帰りますね」
今井「近くまで送るよ!」
栞「あ、待ってください!」
真央「咲良……」
栞「もう一度だけでいいんです!」
咲良、去りかけるが、栞の声に立ち止まる。
咲良「栞ちゃん、もう一度って、なによ」
栞「……もう一度、お兄ちゃんに、会ってください」
咲良「会う、って、何……?」
栞、VRゴーグルを手に取る。
栞「この最新のVR技術を使って、もう一度、記憶の中にいるお兄ちゃんに、会うんです」
咲良「記憶?何言ってるの……?」
真央「洋介を完全なイメージで投影するには、皆の記憶が、必要なんだって」
咲良「必要、って、え、何……?」
真央「だから、洋介に会えるんだよ。この特殊な設備とVRゴーグルが、私たちの記憶を読み取って、洋介を再現するの」
咲良「橘先輩まで、何言ってるんですか?」
真央「私も栞ちゃんも、本気だよ」
咲良「悪い冗談ならホントにやめてください」
真央「冗談じゃないよ!」
栞、咲良の前に出て頭を下げる。
栞「咲良さんごめんなさい……!思い出すのも辛いってこと、わかってるのに」
真央「栞ちゃん……」
栞「真央さんも……みんな、私のわがままなんです!でも、お願いします!もう一度だけ……!」
咲良「もう一度って言っても……会えるわけないでしょう?そんな、だって……だって、あいつは」
真央「咲良、その、今井君のためにもさ……」
今井「えっ、別に俺は」
咲良「先輩には関係ないことですよね?」
真央「あ、ごめん……」
咲良「会うとか、VRとか……仮想現実? 全っ然わかんない……だってあいつは……洋介は……三年前に、死んでるんですよ!?」
美登里、咲良たちの前に再び姿を現すと、ニヤリと笑う。

○喫茶店・店内
T「数日後」
賑やかな店内。咲良、今井、向かい合って座っている。
今井「俺も、協力するよ!」
咲良「へ? 今井君、今なんて?」
今井「だから、俺も『瀬戸洋介再生計画』に協力する!」
咲良「そんなこと、関わらなくていいから!」
今井「なんで?」
咲良「だって、悪いよ……」
今井「でもやるって決めたんでしょ?」
咲良「まあ、妹の栞ちゃんが、どうしてもって言うから」

○瀬戸家・瀬戸の部屋
男の部屋らしいインテリアの部屋。机の上に写真立て。咲良、真央、瀬戸たちと何人かの大学生たちが撮影用のカメラを持ち、共に移っている写真。栞、机の上に飾ってある写真立てをじっと眺めている。
咲良の声「そう、栞ちゃんの、ために……」

○喫茶店・店内
今井「その……なんだっけ?映像化するのに必要な、記憶?」
咲良「わかりやすく言うと、思い出」
今井「思い出……」
咲良「特殊な機械に接続されたVRゴーグルが私たちの記憶を読み取って、再現してくれるんだって」
今井「つまり、思い出に刻まれた洋介くんに会えるんだね」
咲良「別に私はいいの!もう昔のことだし!」
咲良、紅茶をすする。今井、咲良を見つめている。咲良、気まずくなり、
咲良「ようすけ……洋介。あー久々に名前言ったなぁ! いくらVR映像でも、今さら憎ったらしいあいつに会う気なんてないんだけどさぁ!」
今井「どうして?」
咲良「どうして、って……だって、あいついきなり死んだんだよ?いきなりいなくなったようなもんじゃん……それって。なんか……なんか……」
咲良、沈黙。今井、いたたまれなくなり、立ち上がる。
今井「……さ、もう時間だ。駅まで送るよ」
咲良「……ありがとう」
今井、レシートを手に取り、席から立ち上がる。咲良、追いかける。
今井「あー、やっぱさ……今から断っても、いいんじゃない?」
咲良「え、なに、さっきと言ってること違う」
今井「いや、まあ……つらいじゃん……咲良ちゃんが」
今井、咲良、店を出る。

○街中・表通り
今井、咲良、連なって歩いている。今井、咲良の手を握る。
今井「咲良ちゃん、無理に思い出さなくて、いいんだよ」
咲良「え、私、そんなに辛そうにみえる?」
今井「……だって、まだ三年なんだよ?」
咲良「もう三年だよ。辛いのは、栞ちゃんでしょ……洋介の妹なんだし」
今井「じゃあ、俺も一緒に……何もできないかもしれないけど、俺、」
咲良「しつこいよ。大丈夫。VRなんて、ただの映像だから」
今井「あのね、咲良ちゃん。俺だって、死んだ人のことを思い出すのは今でもしんどいときがあるよ。それが、VRの立体映像でもね」
咲良「それは今井君だからでしょ。簡単簡単!」
咲良、今井を追い抜いていく。
今井「咲良ちゃん!もっと、俺を頼ってよ!」
咲良「……ありがと。……あぁ、そっか、」
咲良、今井に向き直る。
咲良「むしろ、ちゃんとフッてきてあげる」
今井「え?」
咲良「あいつが生きてたら絶対言ってたことを言うの!『洋介、私たち、もう、終わりにしましょう』って」
今井「咲良ちゃん!」
咲良「ごめんね。ちゃんと、サヨナラしてくるから」
咲良、横断歩道を駆けていく。信号、赤になる。
今井「……咲良ちゃん」
今井、取り残される。

○倉庫・外観(夜)
郊外にある古い倉庫。入口には『新感覚!VRリフレ』と手書きの立て看板の上に『貸切り中』と貼られている。

○同・中
うずたかく積み上げられたダンボール、様々な機械で埋め尽くされた倉庫内。美登里、ディスプレイの前に立ち、語り始める。『情熱大陸』のBGMが流れてくる。
美登里「さて。ディープラーニングの概念は九〇年代に生まれましたが、二〇一三年にフェースブック関連企業と特別技術顧問だったわたくしが立ちあげた『人工知能研究ラボ』で生み出した革新的な物体認識技術『TYPE―D』は、初歩的であれど大きな成果をあげました」
咲良、真央、栞がソファに座り話を聞いている。咲良、うたたね。真央、無表情。栞、お菓子をつまんでいる。さとみ、食い入るように話を聞いている。
美登里「帰国後、わたしくしがまた同じ認識技術の一つである深層畳み込みニュートラルネットワークをさらに発展させて名付けたものがこの『Dynamic Durable Disengage Driver』通称『D・プラーニング』、それを流用したものが『VRリフレ』というサービスです」
さとみ、興奮して拍手する。
真央「今のを、一言で説明すると……?」
さとみ「二次元の美少女キャラクターを、目の前に再現できる技術ってことです!」
美登里「おい」
咲良の視線の先、『エリもきゅ』の立て看板。
咲良「この前みたいに、そんなキャラと関係を持ちたいヲタクを食い物にしてるってわけですね」
真央「関係を持ちたい、って言い方……」
栞、手を上げる。
栞「はーい、人気アニメの、エリもきゅの著作権とか、どうなってるんですかー?」
美登里、満面の笑みで、
美登里「グレーゾーンよ」
栞「いやアウトだと思います!」
咲良「きっしょい商売」
真央「ちょっと二人とも!」
美登里、咳払い。
美登里「つまりこれが、スキャニングされた3Dデータとアメリカの『ディープラーニング』っていうぼんやりとした概念をVR再現するために応用して、新たに作り上げた万能最新インターフェースがこの『D・プラーニング』なの!」
栞「ディープラーニングと、D・プラーニング?」
咲良「同じじゃないの?」
美登里、舌打ち。さとみ、慌てる。
美登里「違う全然違う全く違う……!まァ、素人に説明してもらちが明かないので」
真央「あの、そろそろ本題に入っても……?」
美登里「オーケーオーケー、なんでも聞いて」
咲良、おずおずと手を上げる。
咲良「……亡くなった人を、その、VR?立体映像で、再現できるって本当なんですか」
真央「咲良、だから前にも説明した通り……」
美登里「瀬戸洋介再生計画。やっぱり私のこと、疑ってる?」
真央「とんでもないです!あのね咲良、鴻上美登里博士の技術は、本物なの」
さとみ、お菓子やお茶を片付ける最中、つまづく。崩れるダンボールの山、舞い上がるホコリ。
美登里「まーるーやーまー!?」
さとみ「す、すみませんすぐ片付けます!」
咲良「……ホンモノなら、どうしてこんなボロい倉庫でこんな胡散臭い商売してるのか、気になるんですけど」
さとみ「美登里さんのウデはホンモノなんで、大丈夫ですよ!一昨年まであの人は、かのア〇プルやグー〇ルの『特別技術顧問』っていう、ものすごーく、エラーい所にいたんですから! それにこれは、美登里さんの被験者を使った実験なんです!いずれこれを論文にまとめて、世界をあっと驚かせる研究成果を……」
美登里「(遮る)丸山、もっと簡潔にまとめなさい」
さとみ「ハイ……技術だけでなく、いかがわしさも一級品ですが!」
美登里「おい丸山」
さとみ「なーんでもありませーん」
美登里「ったくわざとだろ……人には、色々あンのよ。で、やるの?やらないの?」
栞「やります!」
美登里「だよねー。じゃ、早速だけどそこに座って」
美登里、ディスプレイやカメラ、その他ケーブルなど、たくさんの機械とガラスに囲まれたイスのエリアを指さす。
咲良「ここじゃだめなんですか?」
美登里「あそこはD・プラーニングの能力を最大限に引き出す特殊スキャナーブースなの。で、写真か何かない?」
栞「え?」
美登里「写真。再現するニンゲンの写真」
栞「あ……えっと……」
栞、自身のタブレットからデータを探し始める。
美登里「さすがに元画像がないとねぇ……」
栞「咲良さん、ありますか!?」
咲良、スマホ内の画像フォルダを探す。
咲良「えっ、えっと……もう、ないかな……」
栞「真央さんは?」
真央「私!?……えぇと……」
真央、スマホ内の画像フォルダを探す。画面をスクロールしていくと、笑顔の瀬戸の画像。覗き込んでいた栞、真央のスマホを取り上げ、
栞「お兄ちゃんだ!」
真央「あっ、ちょっと!」
栞「はい!」
栞、美登里に真央のスマホを渡す。
美登里「そうそうこれこれ……。まーるーやーまー!」
美登里、さとみにスマホを渡す。

○同・スキャナーブース・外
機械やモニター、たくさんの配線に囲まれた六畳ほどのブースがある。さとみ、近くのパソコンにスマホの画像を取り込む。
さとみ「栞ー。ちょっとその中に立ってみて」
栞の声「わかったー」
咲良、謎の文字列が並んだモニターをみて、
咲良「ほんとに大丈夫なの?」
さとみがみるパソコンの画面に、瀬戸の笑顔の写真。
さとみ「あーこの写真ならベーシックなデータ再現にバッチリ適用できます。いい笑顔ですね!」
咲良、瀬戸の笑顔にくぎ付け。
真央「いやーこんな写真……よく残ってたなぁははは」
真央、ぎこちなく笑う。

○同・ブース・内
栞、たくさんのモニタやカメラ、機械に囲まれたブースに立つ。周囲はガラスで覆われている。ガラスの向こうに、美登里たちの姿。
美登里の声「栞ちゃん……だっけ?」
栞「あ、はい」
美登里の声「じゃあ、正面……そこのモニタに向かって話しかけて。『D・プラーニング、起動』」
機械の起動音。

○同・ブース・外
咲良、ブースの中にいる栞へ、
咲良「栞ちゃん!」
栞の声「咲良さんだって、お兄ちゃんに会いたいですよね。だから、私、やります。」
咲良「そんな、私、別にそんなこと望んでないからっ!」
真央、咲良の肩を掴む。
真央「咲良、もう始めるって」
美登里「ここからプログラムに記憶を提供していく再現パート。これから人工知能である『D・プラーニング』自身が、あなたに質問を投げかけるわ。それに答えていって」
栞の声「はい!」
咲良「え、質問する、だけ、ですか?」
美登里「音声から感情を読み取り、再現したい人物の情報を外殻から生成していくの」

○同・ブース・内
モニタに『D・プラーニング』ロゴが浮かび上がる。男の機械音声が聞こえてくる。
D・プラーニング(以下D)「こんにちは」
栞「こ、こんにちは」
D「名前を教えてください」
栞「瀬戸栞といいます」
ピコン、と軽快な電子音。
D「栞ちゃんかァ。歳いくつ?どこ住み?」
咲良の声「なんか、急にくだけた口調になったけど?」
美登里の声「そういう仕様なのよ」
さとみの声「ユーザーの年代に合わせてるんですっ」
栞「二十歳です。住所は、市内、明保野町、七ー六六……」
ピコピコン、と軽快な電子音。
D「おお、けっこう近いじゃーん、今度一緒に、メシでもどう?」
栞「えぇっ……!?」
咲良の声「ナンパしてんじゃねーよ!」
真央の声「咲良、落ち着いて!」
栞「好きな人がいるので、ごめんなさい!」
Windowsのシャットダウンする音。
咲良の声「あっ……フラれた」
D「あなたが会いたい方は、どんな人ですか」
栞「……お兄ちゃんです」
D・プラーニングのロゴ『解析中……』の表記に変わる。

○同・ブース・外
咲良、ため息をつき、イスに腰掛ける。真央、返却された自分のスマホ画面を見つめている。美登里、にやりと笑い、
美登里「記憶を再現するには、D・プラーニングに思い出を語り続けること。認識が輪郭の形を持って、目の前に再現されるその瞬間まで……!」
真央のスマホ画面には、笑顔の瀬戸が映っている。

○同・ブース・内
栞、VRゴーグルを装着し、誰もいない虚空へ手を伸ばしている。
栞「……お兄、ちゃん……?すごい、すごいよ!本物だ……!」

○同・ブース・外
真央が見つめるパソコンのモニターには、栞と瀬戸の後ろ姿が映し出されている。立体映像の瀬戸、画質が荒い。
真央「うまく……いったみたいですね」
美登里「あッたり前田のクラッカー。人間の記憶と言語情報から成る『D・プラーニング』のスゴさを舐めないでよね」
さとみ「初回にしては記憶の再現度が高いですね」
美登里「ここからもッと、スゴいものがみられるわよ」
咲良、美登里とさとみを睨みつける。栞、スキャナーブースから出てくる。栞、VRゴーグルを外し、咲良に差し出す。
栞「咲良さん! はい!」
咲良「……え?」
栞、笑顔でスキャナーブースへ視線を向ける。
栞「お兄ちゃんが、います」
咲良「ねぇ、冗談よしてよ、本気で言ってるの?」
栞、黙ったまま、咲良にゴーグルを押し付け、スキャナーブースへ押し込む。

○同・ブース・内
バタン、と閉まる扉。
咲良「ちょっと!」
扉の取っ手をガチャガチャするが、開かない。咲良、渋々VRゴーグルを装着する。周囲がVR(仮想現実)の世界へと切り替わっていく。

○咲良のVRゴーグルから見える世界
周囲は暗闇。咲良、辺りを見回す。視線の先に、立体映像の瀬戸の後ろ姿。その画質は悪く、モノクロで掠れている。咲良、驚いて後ずさる。咲良、瀬戸の背中へゆっくりと手を伸ばす。
咲良「洋、介……?」
瀬戸、ゆっくりと振り向いてくる。咲良、伸ばした手の指先がぶるぶると震え始める。瀬戸の顔がみえそうになる。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
咲良、乱暴にVRゴーグルを取り外し、地面に叩きつける。
真央の声「咲良!?」
栞の声「咲良さん!?」
咲良、はっと我にかえる。
咲良「……あ、ご、ごめん。なん、か、思ってたより、リアルで、ははは……すっごく、びっくり……しちゃった」
真央の声「大丈夫?」
咲良「……はい」
美登里の声「グッジョブ。今はまだリアルなだけ。もッと、D・プラーニングに思い出を語り掛けてやれば、やがて自分から喋るようになるわよ」
栞の声「ほんと……?」
美登里の声「ええ。さァ、彼を、本物の人間にしてあげて。あの日あの場所あの一瞬、彼はあなたたちにどんな言葉をかけてくれたのかしら?」
咲良の指先、震え続けている。栞、VRゴーグルを拾い、装着する。

○栞のVRゴーグルから見える世界
周囲は暗闇。
栞「思い出を……語りかける……よし!二〇一三年春、お兄ちゃんは私の高校入学祝いだって、食事に連れていってくれた!」
栞の声に反応し、周囲に風景が構築されていく。

○同・ラーメン屋(夜)
栞、ラーメン屋のカウンターに座っている。
栞「すごい……あの時、お兄ちゃんと行ったのはラーメン屋さんだったけど、あの時、少ないバイト代で連れていってもらえたことが、とっても嬉しかった!」
立体映像の瀬戸が現れる。瀬戸自身の画質はモノクロで粗いまま。瀬戸、栞の隣りに座る。
瀬戸「入学おめでとう、栞」
瀬戸、栞の頭を撫で、微笑む。栞、涙ぐんでいる。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
美登里の声「そうそう、その調子。次の方ぁー!」
栞、VRゴーグルを取り外し、真央に渡す。真央、恐る恐るVRゴーグルを付ける。
真央「同じく……春、洋介は、私たちの映画同好会に、咲良を連れてきました」
周囲に風景が構築されていく。

○真央のVRゴーグルから見える世界・大学構内・映画同好会部室内
撮影機材や映画のポスターで散らかった部屋。真央、ぼんやりと座っている。
立体映像の瀬戸が現れ、駆け込んでくる。
瀬戸「真央!さっき、めっちゃ良い女優をみつけたんだッ!」
真央「洋、介……!?」
瀬戸の画質は粗く、モノクロ。
瀬戸「今連れてくるよ!僕の映画にぴったりの子なんだ!」
真央「洋介!待って!待ってよ!」
瀬戸、勢いよく部屋から出ていく。
美登里の声「追いかけても無駄よ。今はあなたの記憶を読み取った映像を再現してるだけ。呼びかけには答えないわ」
真央、呆然とする。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
真央、咲良へVRゴーグルを渡す。咲良、突き返そうとする。
咲良「橘先輩……?」
真央、涙目になったまま沈黙している。
咲良「橘先輩!」
真央「えっ、あ、ごめん、ぼーっとしてた」
咲良「もういいですよ……」
咲良、雑にVRゴーグルを装着する。
咲良「あいつと、初めて話したきっかけは……そうだ、雨が、降ってたんだ……」
周囲に風景が構築されていく。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・大学構内・南館・入口
雨が降っている。咲良、入口に立ち、傘を広げようとしている。カメラ機材を抱えた立体映像の瀬戸が現れ、背後から声をかける。
瀬戸「ねえごめん!あそこのサークル棟まで、ちょっと入れてくれない?」
咲良「……ほんと悪趣味」
画質の粗い瀬戸、一時停止したように動かない。
美登里の声「どうしたの?記憶の提供が止まると彼自身の再現も止まっちゃうわ」
咲良「え、あぁ、はい……」
瀬戸、咲良の傘の中に入る。
瀬戸「いやーホントごめんね、機材濡らしちゃうわけにいかなくてさ」
咲良、瀬戸、相合傘で歩いていく。

○倉庫・中・スキャナーブース・外
スーツ姿でカバンを持った今井、モニターごしに咲良と瀬戸をみている。
今井「彼が、瀬戸洋介……?」
美登里「あら、こんばんは。ちょうど今始まったところよ」
今井、モニターを食い入るように見る。
今井「なんか、彼だけモノクロテレビみたいじゃないですか?」
さとみ「再現度が高まるにつれて、フルカラー、高画質、ハイビジョンになっていくんです!」
今井「な、なるほど……」

○同・サークル棟前
雨が降り続いている。瀬戸、咲良の傘から出て、
瀬戸「じゃ、ここまでで大丈夫!」
咲良「あぁ……はい」
瀬戸、駆けていくが途中で立ち止まり、振り返る。
瀬戸「ねえ!君、映画に出てみない?」
瀬戸の画質がカラーになる。咲良、瀬戸から目を背ける。

○栞のVRゴーグルから見える世界・瀬戸家・瀬戸の自室
栞、瀬戸の回転イスでくるっと一回転。
栞「夏!お兄ちゃんは夏休みだっていうのに、下宿先からちっとも帰ってこなかった!」
チリン、と風鈴の音。

○真央のVRゴーグルから見える世界・花火大会会場(夜)
賑やかな人ごみ。周囲に屋台が並ぶ。
真央「花火大会の夜に、打ち上げ花火をサークルの仲間たちで撮りにいったとき……」
立体映像の瀬戸、カメラを覗き込む。
瀬戸「今年こそ良い映画を撮るんだ」
真央「え、そーれーだーけー?咲良とはどうなの?ねぇねぇ?」
瀬戸「な、なにバカな事いってんだよ!」
瀬戸、カメラを落しそうになる。真央、切なげに微笑む。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・花火大会会場・坂道(夜)
瀬戸、咲良、機材を運んでいる。
咲良「……そのとき、皆とはぐれて二人きりになって、重い撮影機材を運びながら坂道を上りました」
瀬戸「一番、花火が綺麗に撮れる場所なんだ」
瀬戸、機材を下ろす。
真央の声「でもそれは、咲良に告白するための口実でしかなくて……」
咲良、その場にへたり込む。
咲良「私は息が上がって、ヘトヘトになったときに……」
瀬戸、咲良の肩を寄せ、告白。ドーンと打ち上げ花火が上がる。瀬戸の画質がより鮮明になる。

○倉庫・中・スキャナーブース・外
今井、モニターごしに咲良をみて、ぎゅっと拳を握りしめる。

○栞のVRゴーグルから見える世界・高校・教室
文化祭用に飾り立てられた教室。栞、メイド服姿。
栞「秋、私の高校入学後、初めての文化祭。そこに遊びに来た咲良さんたちに会いました」
瀬戸、咲良を連れてやってくる。
栞「『その人、彼女!?』って言ったら」
瀬戸「ああ、可愛いだろ」
瀬戸、咲良をみてニヤニヤ。
栞「はいはい、ごちそーさま」
真央の声「その頃になると、学園祭の準備で大忙し」
真央と栞、笑顔。咲良、浮かない表情。

○真央のVRゴーグルから見える世界・大学構内・サークル棟・映画同好会部室
部員達、言い合いをしている。真央、その様子を遠巻きに眺めている
真央「私たちの映画サークルでは、撮影スタッフと癖のある俳優陣が大ゲンカ。洋介が仲裁に入って」
立体映像の瀬戸、かなり鮮明な画質になっている。部員たちの合間に割り込み、
洋介「僕のために喧嘩はやめてぇぇぇ!」
部員達、ポカンとする。瀬戸、慌てる。咲良、瀬戸の肩に手を置く。瀬戸、微笑む。
咲良「彼のお陰でその場の雰囲気は和み、無事に映画は完成しました。その後には」
瀬戸、その場にへたり込む。
瀬戸「死ぬほど怖かったぁ」
真央「あぁ、言ってた言ってた」
瀬戸「俺、監督に向いてないかもしれない」
咲良「なんて、大真面目に喋り出して」
真央「でも……映画を撮ってる時の横顔は、一生懸命で……」
真央、瀬戸を見つめている。
咲良「横顔は、なに……?」
真央「な、なんでもない」
真央、目を逸らす。

○栞のVRゴーグルから見える世界・瀬戸家・リビング
栞、立体映像の瀬戸、テレビの前に座っている。
栞「お兄ちゃんが帰省したとき、映画を見せてもらいました。意味わかんなかったけど」
瀬戸「みんなでつくったんだ!」
栞「って、今まで見たことないくらい、満足そうな顔してた」
瀬戸を見つめる栞の横顔は、笑顔。

○真央のVRゴーグルから見える世界・大通り(夕)
クリスマスで飾り付けられた街中。撮影機材を抱えた立体映像の瀬戸、真央、並んで歩いている。
真央「冬、洋介は、咲良のクリスマスプレゼントはなにがいいかって、私に相談してきました」
瀬戸「ねえ、なにがいいかな?」
真央「え……じゃあ、いっしょにパルコでも行く?」
パルコ『クリスマスセール』の看板が見える。
瀬戸「行く!」
瀬戸、真央の手を掴んで駆けだす。
真央「わっ、ちょっと!?マジで!?」
咲良、その様子を見送る。
咲良「高かった、だろうな……だからか、」
瀬戸、咲良の背後に現れ、頭を下げる。
瀬戸「ごめん! クリスマスまで、ずっとバイトで忙しいんだ!」
咲良「……しょうがないなぁ」
真央、その様子を眺めながら、
真央「彼の気合いの入ったデートプランがうまくいくようにと、私は一つ一つダメ出し。結果は……もちろん」
真央、VRゴーグルを外す仕草。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
真央、VRゴーグルを外し、ブースから出ていく。VRゴーグルをしたままの咲良。

○同・ブース・外
美登里、にやにやしながらブース内の様子を眺めている。
美登里「そうそう、その調子」
さとみ「美登里さん、あまり一度に長い時間やり続けるのは……」
美登里「わかってるわよ」
美登里のそばのモニターには『60%』と表示されている。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・街中(夜)
イルミネーションが輝くデートスポット。咲良、瀬戸、並んで眺めている。瀬戸はもう立体映像ではなく、生身の人間のよう。
瀬戸「ね、ちょっとだけ、目つぶってて」
咲良「えぇ……?」
咲良は目をつぶる。
瀬戸「腕出して」
咲良「なに……?」
瀬戸、咲良の腕にブレスレットをつける。
瀬戸「目、開けていいよ……クリスマスプレゼント!」
咲良「わ……ありがとう……!」
瀬戸「咲良……これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
咲良「うん……!」
咲良、ブレスレットが付けられた腕をみつめている。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
咲良、VRゴーグルをつけたまま、何も付けられていない腕を見上げている。真央、VRゴーグルを外し、咲良を一瞥。今井、咲良に近づき、
今井「咲良ちゃん、腕、どうかした!?」
咲良「え!?」
咲良、VRゴーグルを外す。
咲良「あれ……なんで?」
今井「いや、仕事が終わったからさ、つい、気になって」
咲良「……びっくりした」
今井「そのゴーグルで、何みてたの?」
咲良「別に何も」
今井「え、なに?」
咲良「何もみてないよ」
今井「えぇ?」
咲良、はぐらかす。今井、苦笑い。

○同・ブース・外
栞、美登里に駆け寄り、
栞「お兄ちゃんのVR、もう完璧ですよね?」
美登里「んー、どこを完璧とするかって所だけど~」
ブースから出てくる真央、手のスマホ画面に、瀬戸が微笑む画像。咲良、今井、ブースから出てくる。
真央「ほぼ完璧ですよ、あれは、洋介です」
咲良「橘先輩……?」
真央「生きてるみたいだった……ほんとに」
美登里「ま、あともう一息ね」
咲良、ブースの扉をバタンと閉める。。
咲良「みんな、勘違いしてませんか?あれはただの思い出ですよね!?……あんなの……あんなのっ、ただの立体映像でしょ!?」
咲良、去っていく。
今井「咲良ちゃん!?」
栞「咲良さん待って!そういうつもりじゃ!」
栞、真っ先に追う。
今井「え、あ……」
今井、とり残される。今井、真央と目が合う。
今井「あ、橘さん……俺、やっぱり来ない方がよかったですかね?……だって、あの子の心の中には、今でも……」
真央「とりあえず、傍にいてあげて。咲良の」
今井「……俺で、いいんでしょうか」
真央「支えてあげられるのは、今井君だけでしょ?」
今井「おぉっ……ですよね!」
真央「(舌打ち)さっさといけば!?」
今井「は、はい!」
今井、咲良の後を追っていく。残された美登里、真央。
美登里「どう?久々に会えた彼は」
真央「……別に」
美登里「あら、どうして?」
真央「あれで本当に、会えたなんていえるのかどうか……」
美登里「咲良ちゃんが気の毒?かわいそう?そりゃそうよね、あの子は何も知らないんだもの」
真央「あのっ……その話は、ここではしないでもらえますか?」
美登里「そう?良い話じゃなーい?好きな人にはもう恋人がいたけれど、遠回りをして、お互い本当に好きだったんだって気付けた頃に、彼は……」
真央「やめてください!」
美登里「そうよねぇ。あの子には、後ろめたい、利用してる、ウソをついている、本当は、あなたの方が彼を……なーんてこと、言えるわけないわよねぇ」
真央「全部、私が悪いんです」
美登里「自分を責めないで。人を好きになることは罪じゃないわ……でも、ひとつだけ、私から忠告」
真央「……」
美登里「『D・プラーニング』は、記憶をただ再現するだけじゃない」
真央「どういう、ことですか……」
美登里「他人の記憶を集めて創られる、もう一つの人格なの。それは、客観性の寄せ集めだ、ということ」
真央「他人の記憶?客観性の寄せ集め……? あの、もうちょっとわかりやすく」
美登里「もうすぐ、新しい洋介君が生まれるわよ」
真央「なんのことですか?」
美登里「自我が芽生えるのよ。D・プラーニングの最大の特徴は、その学習機能にあるの。一定量のデータを与えてあげれば、彼はそれを自分の記憶として積み上げ、その記憶にふさわしい人格を形成し、自分の意志で生きるようになる!」
付近にいた栞と今井、美登里の声に気づき近づいてくる。栞、足を止め、機材の影に隠れて立ち聞き。
今井「栞ちゃん……どうしたの?」
栞「しーっ」
今井「えっ何?」
今井、共に立ち聞き。
美登里「それは……現実の洋介君が歩めなかった、新しい人生を送る洋介君になる」
真央「新しい、人生……」
美登里「興味、ある?」
真央「えぇ……雑誌記者として、興味深いですね」
美登里「じゃあ、まだ話してない記憶があるでしょ?」
真央「えっ」
美登里「咲良さんと出会う前の記憶とか、咲良さんの知らない洋介君のこととか……」
真央「もう全部話しましたよ」
美登里「え、だって、咲良さんより付き合い長いんでしょ? もっとあったでしょ?いろいろ」
真央「ありませんって……あ痛っ」
真央、ガタン、と足元にある機材に脚をぶつける。隠れている栞、今井、より身を潜める。
今井「栞ちゃん、こんな、立ち聞きみたいなこと、ダメだよ……!」
栞「うるさい!」
美登里「まぁまぁ、落ち着いて……?」

○回想・三年前・さくら公園
桜並木のある公園。雨が降っている。撮影用機材を抱えた瀬戸と、真央が相合傘で歩いている。
瀬戸「俺、この後、咲良と別れようと思ってるんだ」
真央「え……」
瀬戸「だから……その……」
真央「いいよ、洋介。焦らないで。待ってるから」
瀬戸「真央……ありがとう」
真央、差していた傘をそのまま瀬戸に渡す。別々の道で別れる二人。

○もとの倉庫・中・ブース・外
美登里「話してくれない? 咲良さんが知らない洋介君」
真央「もうないですって」
美登里「協力、してくれるわよね?」
 × × ×
(フラッシュ)
舞い上がる傘。道路に滲んでいく血液。
 × × ×
真央、耐え切れなくなり叫ぶ。
真央「ありませんよ何も!」
美登里「急に大きな声だしちゃって……どうしたの?」
真央「あ……すみません、ええと、その……」
美登里「話せないのなら、あなたはなぜここにいるの?」
真央「え、それは……」
美登里「……ま、いっか。今日はここらへんで~」
美登里、去ろうとする。今井、身を乗り出して真央に声をかけようとするが、
真央「待ってください!私、知ってたんです」
栞、今井を引き戻す。
美登里「……何を?」
真央「あの日、洋介は、咲良と別れるつもりだった」
栞、はっと息をのむ。
美登里「あの日?」
真央「洋介は映画しか見えなくなってて、咲良とはもう上手くいかなくて、でも、その時撮ってた映画には、どうしても花の……春の桜のシーンが必要だった……」
 × × ×
(フラッシュ)
撮影用カメラを構える瀬戸と真央。共に桜の花を撮っている。
 × × ×
美登里「じゃあ、彼が亡くなる直前まで一緒にいたのは……」
真央「私、でした」
美登里「……それは、つらかったわね」
栞「そんな……なんで黙ってたの……?」
真央「私は、洋介の気持ちが咲良から離れていくことを、どうすることも……」
美登里「そっか。話してくれてありがとう。その記憶をD・プラーニングに読み取らせるのは酷ね、わかったわ、無理しなくていい」
真央「いいえ。むしろ、読み取ってください」
今井「……え?」
美登里「何か意図があってのこと?」
真央「再現して欲しいんです、あの日のことを。咲良の、ために」
美登里「え?」
真央「あの日、洋介は咲良と別れるつもりでした」
美登里「そうよね、だからこのまま記憶を再現していくと咲良さん、フラレちゃうんじゃないの?」
真央「洋介にフラれる前に、サヨナラを言って欲しいんです。あの子には、全部、自分で終わらせてほしいから……」
今井、機材の影から真央の前に現れる。
今井「真央ちゃん、どういうことだ?」
真央「……聞いてたんだ?」
今井「君と洋介君が、付き合おうとしてた、なんて……」
真央「だからそのことは言わないで、絶対」
今井「知ったら傷つくじゃないか!」
真央「わかってるだから黙っててよ!今井君だって、少しでも良く思われたいでしょ、咲良に。私だって……私だって、わかってたけど、駄目なの。だって……私も、洋介に、会いたかった、から」
栞、姿を現す。
栞「……最低」
真央「栞ちゃん!?」
栞「最っ低!みんな自分のことしか考えてないんだね!?最低!」
栞、走って去る。
真央「栞ちゃん!」
今井「俺は言わないよ、絶対にね」
今井、去る。美登里、真央と顔を見合わせるが先に逸らす。
美登里「なんか……ごめんねーーー」
美登里、去る。真央、その場にへたり込む。さとみ、ダンボール裏から呑気に歩いてくる。
さとみ「あれっ、真央姉、どうしたの?」
真央「……別に」
さとみ「もうバイト終わりだからさぁ~、何かおごってよぉ~」
真央「あぁ……」
さとみ「もぉ~、真央姉、暗ぁ~い!」
真央「さとみー……」
さとみ「ん?」
真央「叔父さんに、全部バラすから」
さとみ「えっ」
真央「こんないかがわしいアルバイト、すぐにやめさせてやる」
さとみ「えーっ!?えっ!?なんでぇー!?」
イスの上に置きっぱなしにされたVRゴーグル。

○路地(夕)
倉庫から出たところの狭い路地。咲良、苛ただしそうに歩いている。
今井「あの……咲良ちゃん……!」
今井、その後ろをついてきている。栞、咲良を追いかけてくる。
栞「咲良さん……!」
今井「栞ちゃん……!」
栞、咲良と今井の間に入り、頭を下げる。
栞「ごめんなさい! やっぱり……とっても辛いことなんですよね……もう、無理しなくていいです」
咲良「……大丈夫。洋介に一番会いたかったのは、栞ちゃんでしょ」
栞「お兄ちゃんが死んだとき、私をずっと励ましてくれたじゃないですか!」
今井「あぁっ、えっと……」
今井、二人に挟まれているが何も言えず右往左往。
栞「あのとき、咲良さんも絶対つらかったのに、私、自分のことばっかりで……」
咲良「平気だよ」
栞「……咲良さんのこと、本当のお姉ちゃんみたいに思って、今まで頼りきってました。けど、もうそれじゃ、駄目なんですよね」
咲良「栞ちゃん……」
栞「無理してるのは咲良さんの方なんですよね! 私が咲良さんに頼りきりだったから、咲良さんは、今でもお兄ちゃんのこと……」
今井「咲良ちゃん、あの、」
咲良「違うよ、栞ちゃんのせいじゃないよ。私は、洋介にちゃんとサヨナラしたいって思ったから……だからこうやって、記憶を提供してるだけなの」
今井「咲良ちゃん……!」
今井、感極まる。
栞「本当、ですか……」
咲良「うん、本当。だから、約束しよ? 洋介のVRを完璧に再現して、お互い、洋介にサヨナラを伝えよう?」
栞「……はいっ!」
咲良、栞を慰めながら去る。今井も涙を拭いながらついていく。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・さくら公園
桜並木のある公園。咲良、瀬戸、二人連なって歩く。
咲良「二〇一四年、春。二人で何度か桜を見にいった。洋介は、」
瀬戸「はい、花より団子でしょ?」
咲良「『それは洋介の方でしょ!』って言って、賑やかな屋台で、舞い散る桜を眺めながらいろんなものを食べました」
瀬戸「僕、大好きだよ、さくらが」
咲良「えっ?」
瀬戸「いま、どっちだと思った?」
咲良「『もう、馬鹿!』……あの頃、私たちの毎日は、穏やかで、幸せで。……でも、だからこそ、私……洋介に、伝えなくちゃいけない」
咲良、瀬戸、見つめ合う。
咲良「私たち……もう……これで……」
咲良、何もいえなくなり、ゴーグルを外す仕草。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
咲良、VRゴーグルを外す。
咲良「すみません、ちょっと休憩していいですか」
美登里の声「どうぞー」
咲良「……すみません」
美登里の声「謝ることないわよ、あなたが思い出を語れば語る程、VRの洋介君はリアリティを増す。焦らなくていいわよ」
さとみの声「ゆっくりで、大丈夫ですよ」
咲良「……はい。本当に、凄い技術ですね」

○同・ブース・外
美登里「でも所詮はまだ思い出でしかない。今のままじゃ、記憶にない出来事は起こらないし、記憶通りのことしか、彼は喋れない」
咲良「充分、すぎるくらいです」
美登里「そう?」
今井、登場。
今井「どうも」
美登里「いらっしゃい」
今井「進み具合はどうです?」
美登里「もう少しね」
今井「そうですか……」
咲良「すぐ栞ちゃんが来るみたいなんで、もうちょっとやって、いいですか?」
今井「咲良ちゃん、無理しないでね」
美登里「どうぞ。『D・プラーニング起動』」
D「今日もどんどんッ、がんばっちゃうぞ~☆」
今井「なんですかこれ!?」
美登里「起動音。面白くない?」
今井「あんまり……」
美登里「あ、別のがいい?(指パッチン)」
エリもきゅ「D・プラーニング、いっきまーす☆」
今井「余計に!」
咲良「今井君、なに遊んでんの?」
今井「あ、ごめん」
さとみ「ではこちらのモニターから、仮想現実世界の状況がみれるんですけど……」
今井「はいっ」
今井、モニターを覗き込む。そこには咲良がみているVR映像が映っている。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・水族館
咲良、大きな水槽の前に立つ。
咲良「二〇一四年、夏。あの日のデートは、水族館。青い光と綺麗な魚たち。それはまるで、海の中に入ったみたいだった」
瀬戸の立体映像が現れる。
瀬戸「ねえ、お腹空かない?」
咲良「え?」
瀬戸「マグロ、イワシ、サバ、サンマ……うまそうだなぁ」
咲良「いっつも食い気ばっかり」
瀬戸「そう?今度海行こう、本物の南の島!」
咲良「行けるの?」
瀬戸「絶対連れてくよ。沖縄、グアム、サイパン、ハワイ!」
咲良「タヒチとか?」
瀬戸「どこそこ?」
咲良「ま、楽しみにしてるよ」
瀬戸「うん!」
咲良「……守れないくせに」
咲良、表情が曇る。

○倉庫・中・スキャナーブース・外
美登里、モニターに映る咲良と瀬戸の様子を眺めている。
美登里「あの子……この時だけはほんッと楽しそうに笑うわね」
今井「そう、ですね」
さとみ「あれでちゃんとお別れできるんですかね?」
今井「え」
美登里「ずっとこのままでいいか」
今井「え」
美登里「お別れを告げずに、ずーっとVR世界の中で、彼と思い出のデートを繰り返す日々」
今井「……そ、それは」
美登里「いい案だと思うケドな」
さとみ「ダメです!これで傷ついた気持ちが一時的に癒されるのはいいですけど、のめり込むなんて、そんな……ダメです!」
今井「そうです!」
美登里「丸山のクセに偉そうなこといいやがって!」
美登里、さとみをど突く。
さとみ「わっ、ちょっと、やめてくださいっ!」
今井、再びモニターへ視線を戻す。

○咲良のVRゴーグルから見える世界
暗闇。瀬戸、咲良の傍らで微笑んでいる。
咲良「二〇一四年、私たちは……」
瀬戸の立体映像、消える。

○同・葬式会場
瀬戸の遺影が飾ってあるホール、棺桶。喪服姿の咲良、小さな声でつぶやく。
咲良「……洋介、なんで死んじゃったの?」

○倉庫・中・スキャナーブース・外
真央、咲良の声をきき、ため息。
今井「真央さん、やっぱりこのままじゃ、俺ダメだ」
真央「えっ」
今井、ブースの中へ入っていく。真央、そのあとをついていく。

○同・ブース・内
咲良、VRゴーグルを外す。今井、咲良へ声をかける。
今井「大丈夫?」
咲良「あぁ……」
今井「咲良ちゃん、その、なんていうか、」
真央、今井を押しのけ、咲良が持つVRゴーグルを手に取る。
真央「私もやってみたけど、このVR、けっこう疲れるよね。だって三六〇度、別世界だよ?科学は進歩したよねぇ~」
今井「そ、そうですね」
咲良「……うん」
真央「……咲良?」
咲良「えぇ……あの……やっぱいいです……」
真央「いや気になる、言ってよ!」
咲良「美登里さんが、もう少しだって言ってました」
真央「もう少しって?」
咲良「みんなの思い出を集め終わったら、そしたら、お別れなんですよね、サヨナラなんですよね」
今井「それは……」
真央「そうだね」
咲良「……私、本当にサヨナラ言えるのかな」
咲良、今井の視線に気づき、取り繕う。
咲良「あ……なーんちゃって! あんなの、ただの立体映像ですよね!」
真央「……そうだよ、ただの立体映像だよ」
今井「そ、そうそう」
真央「……あのさ、もしも、洋介が新しく生まれ変われるとしたら、どうする?」
今井「生まれ変わる?」
咲良「え、何言ってるんですか、どうするって、洋介は死んでるんですよ」
真央「もしも……もしもの話!」
咲良「もし……本当にそんなことができるんだったら……謝りたい」
真央「謝りたい?」
今井「咲良ちゃん」
咲良「私、あの日ケンカしちゃったんですよ」

○回想・三年前・大通り
雨が降っている。瀬戸、傘を差し、電話を耳に当てたまま困り果てた表情。
電話越しの咲良の声「映画と私、どっちが大事なの!?」

○もとの倉庫・中・ブース・内
咲良「映画に夢中だってことわかってたのに、あの日も撮影してて大変だったのに、比べられるはず、ないのに……洋介、困ってた。それっきり。サヨナラもごめんねも言えなくなっちゃった……」
真央「……」
咲良「あーーー……なんであんなこと言っちゃったんだろ。……私、本当にサヨナラ言えるのかな……真央さん、私が洋介にサヨナラ言えなくなったら、」
真央「何言ってるの!? 今井君は!?」
今井、突然名前を呼ばれて慌てる。
今井「あ、いや、俺は、別に」
咲良「……そう、ですよね、すみません」
真央「私こそ……ごめん、ね」
咲良「どうして謝るんですか」
真央「いや……。今日は、もう、終わりにしよっか!」
真央、立ち去ろうとするが背中越しに咲良の声。
咲良「橘先輩は、思いませんか」
真央「……え?」
咲良「最初から……出会わなければよかったって」
今井「え?咲良ちゃん」
咲良、去っていく。今井、後を追う。

○倉庫・外観(夜)
T『数日後』
雨が降っている。咲良、ずぶ濡れのまま、ふらふらと倉庫へ入っていく。

○倉庫・中
誰もいなくなった倉庫。咲良、VRゴーグルを手に取る。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
咲良、VRゴーグルを装着し、つぶやく。
咲良「『D・プラーニング、起動』」
美登里「無断で使うつもり?しかも、なにその恰好。ずぶ濡れじゃない」
咲良「ご、ごめんなさい」
美登里「別にいいわ。思う存分楽しみなさい。誰かがいたんじゃ、言いたいこともいえなくなるでしょ、彼に」
咲良「……すみません」
美登里「『D・プラーニング、起動』」
咲良のVRゴーグル越しに風景が構築されていく。

○咲良のVRゴーグルから見える世界
瀬戸、じっと立ってる。
咲良「……二〇一四年、秋。私たちは……私、たちは……」
瀬戸、微笑んでいる。
咲良「洋介の、馬鹿……みんな泣いたんだぞ。橘先輩も栞ちゃんもサークルのみんなもっ!そうやっていつも、へらへら笑ってるのが……一番……」
瀬戸、微笑んだまま。

○倉庫・中・スキャナーブース・外
さとみ、通りがかる。
さとみ「あれ、美登里さん、お客さんですか?って、咲良さん?」
さとみ、美登里の傍らのモニターをのぞき込む。
さとみ「……ん? ……って、なんですかこの数値!?」
モニターの数値が赤く表示されている。
さとみ「美登里さん!すぐ『D・プラーニング』をシャットダウンしないと!」
美登里「駄目!そのまま!」
さとみ「どうしてです!?」

○咲良のVRゴーグルから見える世界
咲良「……洋介?」
瀬戸、じっと眼を瞑っている。

○同・ブース・外
美登里「ついに……来たわ……」
さとみ「美登里さん?」

○咲良のVRゴーグルから見える世界・秋の山
瀬戸、目を開けると咲良に話しかける。周囲は秋の山の中に変化していく
瀬戸「二〇一四年、秋。僕たちは紅葉を観に行った。真っ赤に染まったモミジ、黄色く鮮やかなイチョウの葉。帰りに君は……ああそうだ、滑って転ばなかったっけ?」
咲良「え……」
瀬戸「二人でこれまで、いろんな所に行ったね。たくさん話もしたし、思い出は、振り返りきれないほどたくさん作った」
咲良「洋介……?」

○同・ブース・外
美登里「これで、これで完成よ……!」
さとみ「完成、って、何がですか、咲良さんは!?このままじゃ危険です!」

○咲良のVRゴーグルから見える世界・紅葉の山
瀬戸「咲良、久しぶり。また会えて嬉しいし、三年間、ずっとひとりにさせて、ごめん」
瀬戸、咲良の手を取る。咲良、倒れる。

○同・ブース・内
VRゴーグルをつけた咲良、倒れる。
× × ×
咲良、ブース内に運び込まれたソファーに横たわっている。咲良に駆け寄る真央、今井、栞。
真央「あの! どうなってるんですか、咲良は一体……?」
今井「咲良ちゃん!咲良ちゃん!」
さとみ「真央姉、咲良さんは今、ピンチです大変なことになってます!」
真央「どういうこと!?」
美登里「『D・プラーニング』の本領発揮ね」
真央「は?」
今井「咲良ちゃん!大丈夫!?」
さとみ「いいいい今!VRゴーグル越しに咲良さんの意識レベルに直接作用するモーション波を浴びせられ続けて、ログアウト出来ない状態になってるんです!」
真央「えええ、え、え? それってどういうこと?」
今井「本領発揮ってなんですか!?」
美登里「たった今、記憶の情報量に応じて構築し続けてきた疑似人格に切り替わったのよ」
真央「どうしてそんなことを……」
突然、モニターの明かりがつく。
栞「お兄ちゃん……?」
モニターには瀬戸の姿。
モニターの瀬戸「栞、真央、久しぶり」
真央「洋介……?」
モニターの瀬戸「真央、ここまで本当にありがとう
真央「……これ、何の真似ですか」
美登里「言うなれば彼は『D・プラーニング』の膨大な記憶情報から生まれた、もう一人の、瀬戸洋介君ね……」
真央「馬鹿なこと言わないでください、彼はもう死んでるんです!咲良、目を覚まして!」
今井「そうだよ、咲良ちゃん!起きてよ!」
横たわったままの咲良。今井、咲良の肩をつかみ揺り動かそうとする。さとみ、それを制止する。
さとみ「そんなことをしたら脳に大きなダメージを与えることになります!ひとまず彼を説得するしか……!」
今井「説得ぅ!?」
モニターの瀬戸「君が今井君かぁ。咲良が世話になったね」
モニターの中、瀬戸の隣に咲良が現れる。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・喫茶店・中
咲良、目をあけると三年前の喫茶店の風景になっている。瀬戸、微笑んでいる。
咲良「ここは……?あれ、私、どうしてたんだろう……」
瀬戸「咲良、僕のこと忘れちゃった?」
咲良「洋介……」
瀬戸の立体映像にノイズが混じる。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
真央「鴻上博士、今すぐ、洋介のデータを削除してください」
美登里「ちゃんと、お別れしてないんじゃないの?」
真央「いいんです」
モニターの瀬戸「真央、よくないよ」
栞「そうだよ、真央さん、お兄ちゃんは、生き返ったんだよ」
真央「栞ちゃん、何言ってるの?」
モニターの瀬戸「真央、元気にしてた?」
今井「お前……やり方が汚ねぇぞ!」
真央「今すぐ……今すぐデータを消去してください!」
栞「ダメです!真央さん、お兄ちゃんをまた死なせるんですか!?」
モニターの瀬戸「真央、そんなことしないよね?」
真央「こんなの、こんなのニセモノです!」
モニターの瀬戸「ニセモノ?どうしたの真央、僕のこと忘れちゃった?」
真央「美登里さん!……今すぐ、消去を」
今井「こんなの、俺がぶっ壊して……!」
モニターの瀬戸「そんなことをしたら、咲良がどうなっても知らないよ?」
今井「お前……!」
美登里「どうして?あなたの望んだ洋介君でしょう?」
真央「こんなの……咲良の為にならないじゃないですか!」
美登里「咲良さんのため?あなたのためでしょう?」
モニターの瀬戸「真央はいつも一緒にいてくれたよね、これからは、僕の傍にいて?」
栞「お兄ちゃん、私は……?」
モニターの瀬戸「もちろん、栞も一緒だよ」
今井「お前ら、正気か……!?」
真央「違う……こんなの、こんなの洋介じゃない!咲良だって望んでません!……消去しましょう!私たちが間違ってました!」
美登里「どうする?洋介君」
モニターの瀬戸「僕は咲良に伝えなくちゃいけないけないことがあるんだ、邪魔しないでくれ」
真央「伝えなくちゃいけないことって……」
モニターの中の瀬戸、ノイズが混じる。
モニターの瀬戸「僕は……誰?瀬戸、瀬戸洋介だ……!僕は……咲良と……それに、真央、と……」
美登里「まだ記憶の混乱があるようね」
栞、真央の前に立ちはだかる。
栞「咲良さんに、ちゃんとサヨナラ言ってもらいましょう?消去するのは、その後でもいいじゃないですか。ね、お兄ちゃん?」
真央「……鴻上さん、約束してください。咲良がサヨナラを言えたら、洋介を消去するって……」
モニターの瀬戸「そう、そうだよ……真央……こ、れ……このことを伝えなくちゃ……咲良に……どうしても……」
モニターの映像が変化していく。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・大通り
洋介、傘をさしている。瀬戸のケータイ音。
瀬戸「あっ、もしもし、」
咲良の声「遅い。ねえ、なにやってんのまだ?」
瀬戸「ごめん、撮影押しててさ」
咲良の声「また? 映画と私、どっちが大事なの!?」
瀬戸「いや、今はそういう話じゃないし……」
咲良の声「大事な話しって、何?」
瀬戸「あぁ……えっと……直接、話すから」
咲良の声「そう……。私も! 話したいことあるんだ!」
瀬戸「あ、今いく、とにかく待ってて」
瀬戸、電話を切る。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・喫茶店・中
瀬戸、座っている咲良に合流。
瀬戸「お待たせ」
咲良「遅い」
瀬戸「あそこの桜の木、今が一番綺麗なんだよ。覚えてない?
咲良「……覚えてるよ!でも……」
瀬戸「話って、何?」
咲良「私、洋介に言わなくちゃいけない、ことが……」

○倉庫・中・スキャナーブース・外
ブースの外で見守る一同。
今井「これが、咲良ちゃんが言ってたあの日の続きなんだな……」

○咲良のVRゴーグルから見える世界・喫茶店・中
瀬戸「なに?」
咲良「最近、あんまり会えてなかったよね」
瀬戸「映画、もうすぐ完成なんだよ」
咲良「わかってる」
瀬戸「で、なに?」
咲良「……」

○倉庫・中・スキャナーブース・外
今井「咲良ちゃん!ガンバ!そこでサヨナラだろ!?早く!」
真央「黙ってて!」

○咲良のVRゴーグルから見える世界・喫茶店・中
瀬戸「っていうか、そっちこそ、話って、なに……?」

○倉庫・中・スキャナーブース・外
真央、モニターを食い入るように見つめている。

○回想・倉庫・中
咲良、悲しげに真央に告げる。
咲良「……私、本当にサヨナラ言えるのかな」

○もとの倉庫・中・スキャナーブース・外
真央「駄目、待って!ストップ!」
今井「えっなんすか!?」
真央「あんな状態の咲良が、サヨナラできるわけ、なかったんだ……」
真央、その場に崩れ落ちる。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・喫茶店・中
咲良、黙り込んでいる。
瀬戸「あのさ、咲良……一緒に、いてあげられなくて、ごめん」
咲良「え……?」
瀬戸「ずっと謝りたかったんだ。なんか最近うまくいかなくって、いろんなことが」
咲良「そんなことないよ!私のほうこそあんなこと言ってごめんね!洋介が映画に夢中だってこと、わかってたのに……今日も撮影してて大変だったのに……それなのに……!」
瀬戸「綺麗だったよ。今度、一緒に行こう?」

○倉庫・中・スキャナーブース・外
今井「どういうことなんですか」
真央、モニターの瀬戸に語り掛ける。
真央「洋介、だめだよ、洋介、お願いだから、もう全部終わりにしよう」
モニターの瀬戸「何言ってるの?逆だよ、真央。ここから始まるんだよ。みんな、それを望んでたんだろう?」
栞「そうだよ!」
今井「咲良ちゃん!」
モニターの中の咲良、今井の声に反応する。
モニターの咲良「今井、君……?」
今井「咲良ちゃん!戻ってきてよ!」
モニターの瀬戸「僕たちのことは放っておいてくれ!」
今井「待てよ!咲良ちゃんはもう充分苦しんできたんだ!」
モニターの瀬戸「僕たちはこうして会えたじゃないか……!」
今井「お前がいなくなってから、」
モニターの瀬戸「皆が協力してくれたんだろう?」
今井「咲良ちゃんは、ひとりで、」
モニターの瀬戸「僕にまた、会うために!」
今井「三年も耐え続けてきたんだぞ……!」
モニターの瀬戸「あっはははは……それが? 僕たちは今ここにいる。それで充分だろ」
真央「洋介……!」
モニターの中の瀬戸に、再びノイズが混じる。
モニターの瀬戸「……ああそうだ、どうして忘れてたんだろう、真央、僕は……」
真央「もういいの!」
モニターの瀬戸「よくないよ、大切なことだ、みんな咲良の幸せが、一番……いちばん?あれ……これは、誰の記憶なんだ……?」
真央「他人の記憶……客観性の、寄せ集め……そうか、咲良!やっぱりそいつは洋介じゃない!みんなの記憶を集めて作られたニセモノだよ!」
モニターの瀬戸「ニセモノ……ははは、真央、酷いよ」
今井「やいニセモノ!咲良ちゃんを離せ!」
モニターの瀬戸「……うるさいなぁ!そういう君は、咲良のために何ができるの?」
今井「っ……何も、何もできないけど!」
真央「しっかりしてよ!」
モニターの咲良「今井君……ごめんね」
モニターの瀬戸「行こう、咲良。ずっと、そばにいるからね」
今井「お前が誰であろうと……咲良ちゃんの記憶を……周りにいたみんなの思いを知ってるなら、今一番かけてやる言葉がわかるはずだッ!」
モニターの咲良「洋介……」
今井「待って!」
モニターの瀬戸「さあ、わからないな……僕は、僕だ!」
今井「ずっとそばにいる?笑わせるな!お前はもう……死んでるんだぞ!そんな人間が、咲良ちゃんを幸せにできるわけないだろ!」
モニターの瀬戸「死んでる……?」
今井「三年前のあの日、お前はもう、死んでるんだよ!」
モニターの瀬戸「咲良、それ、本当……?」
咲良「それは……」
モニターの瀬戸「僕、死んだの?……真央。もう、一緒に映画作れないの?」
真央「えっ」
モニターの瀬戸「真央、僕、死んだの?」
真央「えっ……」
栞「大丈夫だよ。お兄ちゃん、生きてるよ。生まれ変わったんだよ。だって、今そこにいるじゃない」
モニターの瀬戸「そうだよね……」
真央「栞ちゃん」
モニターの咲良「洋介……私ずっと、洋介に会いたかった……!」
今井「それが、咲良ちゃんのためなら……俺は……」
モニターの咲良「今井君……」
今井「もういいよ。……咲良ちゃん、ずっと苦しんでたもんな。早く忘れられるように、俺、頑張ったけど……」
モニター内の映像が変化していく。

○咲良のVRゴーグルから見える世界・さくら公園(夕)
桜並木のある公園。ちらちらと桜が舞う。
瀬戸「あれは二〇一五年、最後の春。僕が死ぬ前、僕たちがまだ、僕たち自身だった頃」
咲良「ここは……?」
瀬戸「ここはあの日の続き。咲良、大人っぽくなったね」
咲良「そりゃ……三年、経ったから……。今は、洋介より年上だよ」
瀬戸「あぁ、そうだね。そうだ……咲良は、何か、僕に、言いたいことがあったんじゃない?」
咲良「言いたいこと?……うぅん、何も」
瀬戸「ウソだ、じゃあどうして僕を『再現』しようと思ったの? だって、僕に……僕に、サヨナラしよう、と……」
咲良「なんで知ってるの?」
瀬戸「あれ……どうして……どうしてだ?さっきから……僕は……僕なのか……?……もしかして、真央が言った通りニセモノなんじゃないか」
咲良「(遮る)洋介は洋介だよ!」
瀬戸「……そっか」
咲良「そうだよ、そう……。こうして会えて、話せただけで、充分。ただ……」
瀬戸「ただ?」
咲良「……なんでもない。ねぇ洋介、私たち、また一緒にいられるよね?」
瀬戸「僕は……」

○イメージ
真央、スマホの瀬戸の写真を眺めている。栞、瀬戸の自室で立ち尽くしている。咲良、ブレスレットを眺めている。
それぞれの女たちが、VRゴーグルを手に持ち、装着する。今井、モニター越しに瀬戸へ叫ぶ。
今井「お前が誰であろうと……咲良ちゃんの記憶を……周りにいたみんなの思いをわかってるなら、今一番かけてやる言葉がわかるはずだッ!」

○もとの咲良のVRゴーグルから見える世界・さくら公園(夕)
瀬戸、微笑む。
瀬戸「……咲良。僕はもう、君と一緒には、歩けないみたいだ」
咲良「え……」
瀬戸「わかって、くれるね?」
咲良「…………そんな、」
瀬戸「さよなら」
咲良「…………さよ、なら」
パキン、と何かがひび割れる音。
瀬戸「うん。……サヨナラ、サクラ」
瀬戸、姿を消す。辺りは暗闇に。
瀬戸の声「咲良。花はいつか散っていくように、人の命にも終わりがある。僕は電子の海で、君の記憶の中で、ずっとずっと、生きていくよ」
咲良「……待って。……待って!……洋介!」
瀬戸、咲良の頬に触れ、
瀬戸「咲良、僕はここで、ずっと生きているからね」
咲良、意識を失う。

○倉庫・中・スキャナーブース・内
咲良、目を覚ます。咲良を取り囲んでいる今井、真央、栞。
今井「咲良ちゃん、大丈夫!?」
栞「よかった……!」
咲良「……洋介、は」
美登里「あっちが勝手にシャットダウンしたみたいね」
真央「鴻上さん……ありがとうございました。お世話に、なりました」
美登里「えぇ、まあ大事に至らなくてよかったわ……まーるーやーまー!」
美登里、さとみに紙切れを渡す。
さとみ「はーい!……なんですか?これ?」
美登里「請求書」
さとみ「えっ……うわぁ……」
今井、紙をのぞき込み、
今井「えぇと……俺……出しますか?」
真央、請求書をもぎ取る。
真央「いいよ」
今井「で、でも……」
真央「いいって……」
今井「俺、払いますよ!?」
咲良「今井君、くどい」
今井「そんなぁ」
咲良「もう……馬鹿なんだから!」
今井「え?ごめん」
咲良「じゃなくって、今井君、ありがとう。その、もう私のこと、一人にしないって、約束してくれる……?」
今井「……あぁっ、えっと……!ど、努力します!全力で!」
今井、咲良の手を握る。栞、何やら真央に耳打ち。咲良、今井、真央、栞、去っていく。
美登里「……ありがとうございましたぁ~」
残される美登里。
× × ×
美登里「……はぁ、上手くいったようね。『D・プラーニング、起動』」
モニターに瀬戸が映る。栞、真央を連れて入ってくる。美登里、真央の持つ請求書を奪い取り、ビリビリに破く。さとみ、ダンボール裏から登場。瀬戸、微笑む。
モニターの瀬戸「……イラッシャイマセ」
真央、驚愕。栞、真央の手にVRゴーグルを渡す。

○路地(夕)
咲良、今井と手を繋ぎ、連れ立って歩いている。咲良、立ち止まり、振り返る。
今井「咲良ちゃん、どうしたの?」
咲良「ううん、なんでもない」
咲良、今井、向き直り、共に歩いていく。
二百字詰原稿用紙換算:二百五頁

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