登場人物
いるか(18)
くれは(18)
赤い女
ともちん(20)
てっつ(20)
◯真駒内駅・外観
まだ東の空から出て来たばかりの朝日
が駅を照らしている。
◯同・バス停前
降車したばかりの乗客たちは朝日に目
を細めながら自動ドアを潜り外へ出る。
多くの高校生が挨拶を交わしながら1
番乗り場に長蛇の列を作っている。
いるか(18)、イヤホンをしながらリュックを背負い手提げ鞄を右肩に掛け歩く。
いるか、まだ列を成していない2番
乗り場へ並ぶ。
◯同・バス車内
いるか、ICカードをかざしバスへ乗り込み、一番後ろの席に座る。
◯バス車内・道中
ともちん(20)とてっつ(20)、いるかの前の席に座っている。
ともちん「ねぇてっつ、うちの大学ってなんか出そうだよね」
てっつ「なんかって?」
ともちん「そりゃあ、霊的な何かだよ」
いるか、『霊的』という言葉に反応し、イヤホンを外す。
てっつ「あー、まあ色々噂は聞くよね」
ともちん「え!なになに?私聞いたことない!」
てっつ「・・・え、聞いてたから出そうって
言ったんじゃないの?」
ともちん「違うよ。なんか雰囲気が、出そうだ
なーって。だから教えて!」
いるか、てっつをガン見しながらウンウンと頷く。
てっつ「あ、そう。しょうがねーなー」
てっつ、ニヤリと微笑む。
てっつ「何年前の話だか知らないけど、うち
の大学に通っていたある女学生の話ね。そ
の子は赤が好きでいっつも赤をファッショ
ンの一部に取り入れていたらしいんだ。性
格は明るい子で友達も多かった。でも、そ
の子はいつも話を聞いてあげる側で、その
子の悩みを聞いたことある人なんていなか
ったらしいんだ」
ともちん「ふーん。悩みなんてなかったんじゃ
ない?」
てっつ、黙って首を横に振る。
てっつ「学校の友達って仲のいい友達で固ま
ってグループができるじゃん?」
ともちん「うん」
てっつ「でもその子はどこのグループにも入
っていなかったって」
ともちん「友達は多いのにね」
てっつ「そうなんだ。その子は一度も授業を
休んだことがなかったんだって。それなの
に2年生の後期あたりからぱったり姿を見
せなくなった」
ともちん「ど、どして?」
てっつ「それは誰もわからなかった。誰も、
その子自身の話を聞いたことがなかったか
ら」
ともちん「それで失踪したって話?」
いるか、溜め息を吐きイヤホンを耳にはめようとする。
てっつ「いや、それだけじゃないよ」
いるか、イヤホンを下げ再び聞き耳を
立てる。
てっつ「ある日須之内先生の写真の授業で、
一年生が学内を歩き回ってた時にね、見つ
けちゃったんだって」
ともちん「な、何を?」
いるか、唾を飲み込む。
てっつ「森の少し奥の木にぶら下がっていた、
首吊り遺体を。全身真っ赤なコーディネー
トの女学生の遺体を、ね」
いるか、小さく「ひっ」と声を挙げる。
ともちんとてっつ、同時に不審な目をいるかに向ける。
いるか、ともちんとてっつを交互に見る。
いるか「あ、えっと、ごめんなさい・・・」
いるか、俯きながらイヤホンを耳にはめる。
アナウンス『次は、札幌市立大学前、札幌市
立大学前です。お降りの方は降車ボタンで
お知らせ下さい』
ともちん「あ、着くよ」
ともちん、降車ボタンを押す。
◯大学・バス停前
学生たちが次々とバスから降車し、一斉に大学へ向かう。
いるか、横断歩道を渡ったところで肩を叩かれ、身体をビクッと弾ませて振り返る。
くれは(18)、こちらに微笑みかけながら立っている。
くれは「おはよ!」
いるか「くれは!おはよう!」
いるか、イヤホンを外しポケットにしまう。
くれは「何肩叩かれただけでビビってん
の?」
くれは、馬鹿にしながら笑う。
いるか「それがね・・・」
いるか、バスで聞いた話をくれはにしながら学校へ向かう。
◯同・談話室(昼)
誰もいない談話室で、いるかとくれはが向き合って座っている。
奥には大きな鏡が置いてある
いるか、リュックと手提げ鞄を置き、
セイコーマートのレジ袋からサンドウィッチを取り出す。
くれは、おにぎりを頬張っている。
くれは「1、2限疲れたねー」
いるか「そう?私は楽しかったよ?」
くれは「うそ!やっぱり私デザイン学部向
かないのかな・・・」
いるか「まだわかんないよ。そんなことよ
り次の授業の課題やった?」
くれは「次の授業?」
いるか「ほら、石田先生のやつ」
くれは「あー、あれ今日までだったっけ?」
いるか「そうだよ・・・。やってないの?」
くれは、無言で微笑む。
いるか「はいはい。手伝ってあげるから早
くお昼食べてパソコン室行くよ」
くれは「ありがとう!」
二人は急いで残りを平らげ、荷物をもって談話室を出る。
いるかの座っていた席の近くに手提げ鞄がポツンと残されている。
◯同・C棟廊下
チャイムが鳴り、教室から学生が次々と出てくる。
くれは、背伸びをする。
くれは「はぁー、終わった!帰ろっか、いるか」
いるか「いや、明日までの課題まだやって
ないからちょっと残るよ」
くれは「・・・なんかあったっけ?」
いるか「・・・一緒にやってく?」
くれは「はい」
◯同・PC室3(夜)
数人の学生がパソコンと向き合っている。
くれは「んー、こんな感じでいいのかな?」
と、つぶやく。
いるか、「あ!」と叫ぶ。
くれは「うるさっ!どうしたの?」
いるか「あ、ごめん。談話室に荷物忘れた」
くれは「あーお昼休みか。取ってきな」
いるか「うん、行ってくる」
いるか、パソコンをそのままに談話室へ向かう。
◯同・談話室前(夜)
ロッカー室や談話室の電気は全て消えている。
いるか、階段を降りて談話室へ向かう。
いるか「うわー、何か不気味・・・」
談話室のドアを開け、電気をつける。
手持ち鞄が椅子にポツンを置いてある。
奥には大きな鏡。
いるか「あったあった」
いるか、談話室に入ろうとすると後ろを通る足音が聞こえる。
いるか「ん?」
いるか、振り返るが誰もいない。
いるか「気のせい、か」
いるか、ロッカールームの電気に気付く。
いるか「あれ、さっき付いてたっけ?」
いるか、談話室の扉を閉め電気の付いているロッカールームへ向かう。
いるか、中を恐る恐る覗く。
いるか「誰かいるんですか・・・?」
返事はなくシンっと静まり返っている。
◯同・ロッカールーム
いるか、ゆっくりと奥の方まで確認しに行くが誰もいない。
「ふう」と一息つき振り返る。
出口まで歩き、電気のスイッチに手をかけたところで「ごん」とロッカールームの奥から物音がする。
いるか、身体を弾ませて振り返り首を傾げながらも電気を消してロッカールームを出る。
◯同・廊下
談話室に戻ろうと歩いていると後ろから付けられている足音が聞こえる。
いるか、歩調を早めると足音も早まる。
いるか、急いで談話室に入ると勢い
良く扉を閉め、扉に背を向けて座り込
む。
◯同・談話室
いるか、手で口を塞ぎ息をひそめる。
暫くすると遠のく足音が聞こえる。
いるか、口から手を離し大きな溜息を
吐く。
いるか「なんなのよ・・・」
いるか、立ち上がり手持ち鞄を取り、
急いで談話室から出ようとするがドア
は開かない。
いるか「え、ちょっとなに?」
いるか、ドアを何度も押し引きする
もビクとも動かない。
いるか「誰かいるの!?ねぇ出して?」
いるか、再びドアを叩く。
いるか「ねえ、お願い!」
いるかが言い終わる前に談話室の電
気がふっと消える。
いるか「きゃっ!」
いるか、扉に背を向けてその場にう
ずくまる。
静かな談話室にいるかの荒い遣いだけ
が響く。
不意に電気が付く。
いるか、恐る恐る顔を上げる。
大きな鏡に映る廊下に、赤い服の女が
立っている。
◯バス車内(回想)
てっつ「ある日須之内先生の写真の授業で、
一年生が学内を歩き回ってた時にね、見つ
けちゃったんだって」
ともちん「な、何を?」
いるか、唾を飲み込む。
てっつ「森の少し奥の木にぶら下がっていた、
首吊り遺体を。全身真っ赤な服を見にまとっている女学生の遺体を、ね」
(回想終)
◯談話室
いるか、ぎゅっと目を瞑る。
耳元で、
赤い女「私、ここにいるよ」
いるか「きゃあー!」
談話室の扉が開き、くれはがいるかの肩を掴む。
いるか「きゃあー!やめて!離して!」
くれは「どうしたの!?私だよ!くれはだよ!」
いるか、そっと目を開けてくれは
の姿を確認する。
いるか「くれは、どうして・・・」
くれは「全然戻ってこないから心配になっ
てさ。何があったの?」
いるか、くれはに抱きつく。
いるか「怖かったよぉー!」
くれは、いるかの背中をさする。
了
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