⚪︎小さな事務所
ロングワンピースを着た女(20くらい)、気が荒ぶっている。椅子に座り後ろ手に縄で縛られている。
女「こんなことしたって、吐かないわよ。私は首謀者と直接話をすることもないような下っ端の人間なの。無名な絵描きの絵が一枚消えたくらいで大げさじゃないかしら。
...なんですって?あの絵には歴史的な価値がある?」
女、笑う。
女「ミズノ、だっけ?聞いたこともない無名の画家の作品。湖畔の白鳥が一羽描かれているだけの、物寂しい、下手くそな絵。どこに価値があるっていうの」
女、見回す。
女「 男が五人も揃って…まるで、ピカソの作品が盗まれたかのような拷問ぶりね。
オーケー、わかった。歴史的価値って訳を教えて頂戴。そうしたら話せる範囲は話すわ。
…歴史的価値は建前?…魔法がかかっている?」
女、笑う。
女「可笑しなウソ。もうちょっと現実的な騙し方できないの?
まあいいわ、面白いから続けてよ。
あの白鳥は…作者?湖畔の風景画が完成した瞬間に、絵の中に閉じ込められた?まさか!そんな…」
女、動揺。
女「絵が完成されたのは1985年。作者セイイチ ミズノ…パパが失踪した年と同じ。あの白鳥はパパだっていうの!?ねえ、どうして!!」
女、縄を解こうとする。
女「誰にも触れられないよう、美術館に厳重に展示していた?いつか、魔法を解くものが現れる?それは誰なの?!」
縄が解ける。女、床に倒れる。息が荒い。
女「もう、遅いわ。私、キャンバスをナイフで引き裂いたの。絵に、パパが失踪した秘密があると思ったのよ。何もなかった。ただの絵だった。」
女、泣く。
女「何もなかったのよ…」
聞き覚えのある男の声。声のする部屋の奥を向く。
女「...その声、懐かしいその声」
女、顔をあげる。
女「パパなの?」
女、立ち上がる。
女「私が魔法を解いた?絵を破壊することで結界が解けた?」
女、安堵し手で顔を覆う。
女「ああ、なんて懐かしい声」
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