この街は、 日常

田舎に住む高校生、山下ルイは幼馴染の有松ツグミに自身がレズビアンだと告白を受ける。月日が経ち名古屋の大学へ入学した彼女に別れの言葉を告げないまま、平凡で自他楽な生活を送っていた彼は日々、心のナニかモヤモヤを感じていた。ある日、彼自身が抱えるモヤモヤを解決すべくツグミに会う決心し名古屋に行く。
おれんジ 7 0 0 03/16
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第一稿

【この街は、】

○田舎のバス停(夕方)
   土砂降りの雨。
   小汚いバス停でバスを待つ山下ルイ(18)、隣に有松ツグミ(18)。
   壁にもたれた半開きの傘。
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【この街は、】

○田舎のバス停(夕方)
   土砂降りの雨。
   小汚いバス停でバスを待つ山下ルイ(18)、隣に有松ツグミ(18)。
   壁にもたれた半開きの傘。
   濡れた制服を少しでも乾かそうと必死になるルイの横で何もせず突っ立っているツグミ。
   ツグミはルイの方へ顔を向ける。
ツグミ「うち、俊樹と別れたから」
ルイ「へー」
   ルイは制服を乾かす事に必死。ツグミの話など無関心。
 ツグミは不機嫌になる。
ツグミ「うちが別れた理由、聞いてくれないの」
ルイ「ん?」
   ルイ、ツグミの方へ顔を向ける。
ルイ「なんで?」
ツグミ「ちゃんと聞いてほしい」
   ムッとするルイ。
ルイ「なんで俊樹と別れたの?」
ツグミ「ありがとう」
   さらにムッとするルイ。
ルイ「いや、質問に答えろよ」
俯くツグミ。大きめの深呼吸をはさみ再びルイの方へ視線を向ける。
ツグミ「うち、好きじゃなかったみたい」
ルイ「俊樹のこと?」
ツグミ「ううん(首を横に振りながら)男子の事が」
   激しくなる雨の音。
   沈黙の二人。
   遠方のバスの音が近づく。
   バスライトの光が雨道を反射する。
ルイM「子供の頃、俺はツグミとジェンガをやったことがある」
   バスが二人の前に停車する。
   二人の手前にある水溜りをバスのタイヤが
   踏む。バシャっと。
   足元がさらに濡れた二人。
ルイM「ジャンガをやると、ブロックをいくら抜いてもなかなか崩れない時がある。頑丈で、立派な高いビル」
   バスの扉が開き、ツグミが中へ入る。
   ツグミは後ろを振り向く。
ツグミ「何してんの?早く乗りなよ」
ルイ「(首を横に振る)なんか、歩いて帰りたくなった」
ツグミ「バカじゃない」
運転手「僕、乗らないの?」
   ルイはまた首を振る。
 バスの扉は閉まり。ゆっくりと発進する。
   ルイの目の前を通り過ぎるバス。
ルイM「でも、ほんの少しでも気をぬくと、すぐ綺麗に崩れ落ちる。跡形もなく」
   ルイはバス停を去る。
   バス停の壁には半開きの傘が一つ残る。

○ルイの家・玄関(夜)
   ズブ濡れの靴を脱ぐルイ。
   台所からルイの母、山下舞(48)が慌てながらやって来た。
舞「ちょ、ちょっと何やってんのよもぉ〜」
   舞がルイの上着を脱がす。
舞「早くお風呂に入りなさい」
   
○ルイの家・お風呂場(夜)
   風呂に浸かりながらボーッとする。
ルイM「あれから、数週間経った」

○ルイの家・ルイの部屋(昼前)
   汚い男子部屋。
   外から微かに人の声が聞こえる。
 ルイ、床にある服や教科書を踏まないよう   
   に窓へ近づきカーテンチラっと開ける。
ルイM「俺達はあれ以来会話をしていない」
   窓の外からはツグミの家が見える。
   ツグミの家の門の前で最後の別れをするツ 
   グミとツグミの家族に舞。
 二つの大きなスーツケースを両端に、そし   
   てパンパンのリュックを背負っているツグミ。
   ツグミの後ろには迎えのタクシー。
ルイM「正直、俺が少し大げさだったのかもしれない。ただ、やっぱり受け入れることが出来なかった」

○田舎のバス停(回想)
   雨の中、ツグミとルイの沈黙状態。
   ツグミは下をうつむきながら会話を始め 
 る。
ツグミ「私、名古屋の大学行くことになった」
   ルイ、微反応。
ツグミ「綺麗サッパリ新しい生活がしたいの」
   ルイ、無表情。
ツグミ「でも、ルイとは一生友達だよ」
   ルイも下を向きながら。
ルイ「ツグミってレズだったの?」
ツグミ「うん。多分そうかも」

○ルイの家・ルイの部屋(昼)
   ルイ、ベッドの上で仰向け。
ルイM「結局、別れの挨拶すらできなかった」

○ルイの家・台所(昼)
   ルイはチャーハンを作る。
ルイM「それ以降、心のどっかに穴が空いた気分だ。あの告白のせいでは無いと思う。おそらく自分の何かがバグっているのかもしれない」

ルイの家・ダイニングルーム(昼)
   自分で作ったチャーハンをフライパンから食べるルイ。
ルイM「人生に味がしない感じ。何かが足りない」
ルイ(小声)「不味っ」
   数日後――

○ルイの家・玄関(朝)
   靴紐を結ぶルイ。
ルイM「自分の抱えているこのモヤモヤはこの村の中では解決できないだろう」
   ルイの後ろから舞が来る。
舞「ちょっとあんた、どこ行くのよ」
ルイ「ん、名古屋」
舞「え!名古屋?」
ルイ「うん、深夜までには帰るわ」
舞「深夜までってねぇ。気をつけてよ、ほんとに」
ルイ「行ってきます」
   玄関の扉を開ける。

○高速バス内(昼前)
   ルイは窓側の席で座りながら窓から流れる景色を見る。
ルイM「あの時、ジェンガを崩したのは俺だ。ただ、自分が何故崩したのか。自分が抱えているこの問題を見つけるため、俺は名古屋へ行った」

○名古屋駅・金の時計塔(昼)
   人混みの中、金の時計塔の真下でツグミを待つルイ。ルイはスマホを片手に周りをキョロキ
   ョロしており落ち着きがない。
   後ろからツグミが肩をポンっと叩く。
ツグミ(声)「お待たせ〜」
   後ろを振り向くルイ。
ツグミ「ごめんね、待った?」
   男装姿のツグミ。それに対して微妙な反応をするルイ。
ルイ「いや、俺こそ急に呼び出してごめん」
ツグミ「ううん。嬉しかったよ。楽しみにしてた」
   照れるルイ。
ルイ「よかった」
ツグミ「どこ行く?」
ルイ「おすすめでいいよ。名古屋、詳しくなったでしょ?」
ツグミ「まだまだだよ〜」
   歩き始める二人。
ルイ「普段から、そんな格好してんの?」
ツグミ「そんなってどういうこと〜」
ルイ「いや、その。男装……みたいな」
ツグミ「そうだよ!似合ってる?」
   まだ微妙な反応をするルイ。
ツグミ「なんか言えよ!」
   言い返しに困り、少し俯くルイ。
ツグミ「あ!」
   ツグミは目の前にあるコメダ珈琲に指を指す。
ツグミ「ここ!」
ルイ「ここ?」
ツグミ「うん。ここ!名古屋定番」
ルイ「いや、うちの近所にもあったよね?」
ツグミはルイを無視。ルイの手を引っ張り店へ来店する。

○コメダ珈琲・内(昼)
   テーブル席に向かい合わせで座る二人。
   ツグミがメニューを開く。
ツグミ「これこれ!」
   ツグミ、ルイの方へメニューを見せ『シロノワール』を指差す。
ツグミ「一番好き!」
ルイ「うん、俺も食ったことあるけど」
ツグミ「名古屋めし!」
ルイ「別に――」
ツグミ(大声)「すみませーん」
ルイ「いや、そこに呼びボタンあるから」
   店員が来る。
ツグミ「アイスコーヒー二つとシロノワール一つお願いします」
店員「かしこまりました」
   ツグミ、ルイの方を見てニコっとする。
ルイM「昔から変わらない、この笑顔、と自己中心的な態度」


○田舎の高校(回想)(昼食の時間)
   少し不機嫌なツグミ。
   ツグミの周りにはルイを含めて男女六人仲良くお弁当を食べている。
   ツグミの目の前には久我俊樹(17)。
俊樹「ツグミ、珍しく元気ないな」
ツグミ「はぁ〜」
   ツグミの隣に中村飛鳥(17)。
飛鳥「ツグミちゃんどうしたの?」
   ツグミは飛鳥の方を視線を移す。
ツグミ「爪よ、爪、爪」
ルイ「は?」
   ツグミは周りを見渡しながら。
ツグミ「だーかーらー。爪!長すぎる」
飛鳥「別にそこまで」
ツグミ「今日はね、朝五時に起きて、ランニングして、朝食は自分で作って。あ、そうそう、目玉焼きが双子だった!そして数学のクイズで満点とって、超いい日!って思ったらこれ。弁当を食べる前に手を洗ったら気がついたのよね。私、今日爪が長いってことに!爪が長いとどーしても気になって、なんか一日が潰れた感じ」
俊樹「気にしすぎじゃね?」
   ツグミ不満気に長い爪をパチンパチンする。
飛鳥「でも、わかるかも〜。うちもちょっとツケマがズレると気になるもん」
ルイ「女子はめんどくさいな」
ツグミ「黙れ!」
   急な恫喝に対してツグミを睨むルイ。
 睨み返すツグミ。

○コメダ珈琲・内(昼)
   シロノワールを頬張るツグミ。
   アイスコーヒーを飲みながらツグミの食べっぷりを見守るルイ。
   ツグミの横からミニスカートにゆるフワ系
   ファッションのトップを着ている女子二人が通りすぎる。
   シロノワールをつかんだフォークを口元で止め、大きな口を開けたまま女子二人をガン見
   するツグミ。
ツグミ「かー」
ゆるフワ女子二人の後を追うようにガン見するルイ。
ツグミ「おい」
ルイ「ん」
   ルイはツグミの方へ振り向く。
ツグミ「ちょっと何見てるの」
ルイ「いや、あの女子二人。かわいいなって思って」
   ツグミはフォークを皿の上に置く。
ツグミ「うちわ?」
ルイ「は?」
ツグミ「いや、うちわ?」
   戸惑うルイ。
ルイ「いや、ツグミってレズでしょ?」
   ムッとするツグミ。
ツグミ「レズゆーな」
ルイ「は?」
ツグミ「レズって言うのはストレートがレズビアンに対して蔑視するときの言葉だから」
ルイ「いやいや、じゃあオマエは何だよ」
ツグミ「ビアン。か、ちゃんとレズビアンって言って」
ルイ「なんだよビアンって」
ツグミ「文句ある?」
ルイ「レズはめんどくさいな」
ツグミ「黙れ!」
   恫喝したツグミから視線をそらすルイ。
ルイ「結局、お前の女好きは変わんねーじゃん」
ツグミ「(テーブルを思いっきり叩いて)そんなの私の自由でしょ」
   とっさに立ち上がるルイ。
ルイ「だったら俺が何て言おうと関係ねーじゃん」
   ツグミも立ち上がる。
ツグミ「うちは嫌なの」
ルイ「知るか!」
ツグミ「少しはうちの事も考えてよ」
ルイ「は?」
   周りの客の視線を浴びる二人。
   店員が奥の方から二人を傍観。
ルイ「何を?」
ツグミ「うちだって頑張って生きてんの!」
ルイ「そんなもん知ったこっちゃない。みんな頑張って生きてんだよ。自分だけ特別だと思うよ」
   涙目になるツグミ。とっさに店を出る。
ルイ「おい、払え!」
   立ち止まるルイ。
   店員がゆっくりルイの方へ近づく。
   ルイは店員を見る。
ルイ「お会計お願いします……」
   テーブルには食べ残しのシロノワール。

○名古屋駅・内(昼過ぎ)
   人混みを振り払い、泣きながら走るツグミ。男性にぶつかり倒れる。
   男性が不機嫌そうにツグミを見る。
   俯くツグミ。涙をこぼす。

○名鉄バスセンター・内(昼過ぎ)
   時刻表を見るルイ
ルイM「結局、何も答えがわからないまま終わった」
   フロントの列に並ぶルイ。
   ルイはスマホを取り出し、ラインを開くラインの友達欄からツグミを開き、ツグミのプロフ
   ィール写真を見る。ツグミのプロフィール写真にはツグミが名古屋テレビ塔の展望台で名古
   屋の街並みをバックにピースサインをしている姿が。
フロントの女性「次の方ー」
   ルイはフロントの声を無視して勢いよく列から出て、名鉄バスターミナルを後にする。

○名古屋駅・外(昼過ぎ)
   ルイ、全力で人混みの中を走る。
ルイM「何か、あるはず。ずっと、ずっと昔から言い忘れていた事」

○名古屋テレビ塔・外(夕方)
   上を見上げるルイ。
ルイM「ここしかない」

○名古屋テレビ塔・内(夕方)
   急いで第二展望台へ駆け上がるルイ。
   そこにはツグミの姿が。
ルイ「お」
ツグミ「あ」
   見つめ合う二人。
ツグミ「どうしてここにいるってわかったの?」
ルイ「なんとなく」
   ルイはゆっくりツグミの元へ歩く。
ルイ「あのさ!」
ツグミ「え、何?」
ルイ「ずっと言いたかったことがある」
   ルイはツグミの隣に座る。
   長い沈黙。
ツグミ「え」
ルイ「えっとー」
   口を半開きにしたまま、明後日の方向を見るルイ。
ルイ「あ、えっと。いや、しまった。全力で走ったせいで言いたかった事、すっかり忘れた……」
ツグミ「は?」
   呆れるツグミ。
ルイ「いや、マジで本当にごめん!」
   頰を膨らすツグミ。
ルイ「ごめん、怒ってない?」
   頰がだんだん大きくなるツグミ。
   ツグミはルイの方を見ながら。
ツグミ「ぷーハハハハハ」
   ツグミ、大爆笑。
ツグミ「何それ!ありえない」
   ルイ、苦笑い。
ルイ「いや、そんなに笑うなよ」
ツグミ「ホント、ルイって昔から度が過ぎた馬鹿だよね」
   笑い過ぎて涙がでるツグミ。
ルイ「ツグミだって天然じゃんか」
ツグミ「ルイに比べたらまだまだだよ。あーあ。せっかくなんかロマンチックな展開になるところだったのに」
   俯くルイ。
ルイ「うん、なんかごめん」
   ツグミはルイの肩をポンっと叩く。
ツグミ「でも、全力疾走で来てくれたんだ。ありがとうね。やっぱルイはうちの大親友だよ」
   照れるルイ。
   ルイは顔を見上げて外の景色を見る。そして立ち上がる。
ルイ「この街ってなんか汚くてゴチャゴチャしてんね」
   ツグミも立ち上がる。
ツグミ「うん。でも私は好きだよ。この街」
ルイ「そーか?俺らの地元の方がシンプルで楽じゃん」
ツグミ「まーね。でも名古屋のビルって一つ一つ個性的じゃん」
   ツグミを見つめるルイ。
ツグミ「この街から眺める景色って10年後には大分変わっているんだと思う。古いビルは撤去されて、新しいビルがドンドン建って。もっともっと複雑になるんだと思う。時代は止まらないの、ドンドン私たちを置き去りにして変わっていくの。だから、ちゃんと今を生きないと」
   ツグミはルイの方へ視線を移す。
ツグミ「人もそう。複雑すぎてわかんなくなって気持ちが置き去りになることもある。変わらない人なんていない。他人とのペースが違うだけで、みんな徐々に変わっていくものなの」
   ツグミはルイの手を掴む。
ツグミ「うちは、ルイを置き去りにするつもりはないよ。ゆっくり、ルイのペースで」
   ルイはツグミと繋いでいる手を見る。

○名鉄バスターミナル・内(夜)
ルイ、バスのチケットを片手にベンチに座っている。
ルイM「結局、俺がツグミを受け入れないといけないって事なのか?ツグミらしい自己中っぷりだ」
   ツグミはペットボトルのお茶を片手にルイの方へ。
ツグミ「ほい、長旅頑張って」
   ツグミはお茶を渡す。
ルイ「どうも」
   ルイはスマホを取り出し時間を見る。
ルイ「じゃ、行くわ」
ツグミ「うん」
   立ち上がるルイ。
ルイ「あのさ」
ツグミ「え」
   少し間を開けるルイ。
ルイ「俺、ツグミの事好きだったんだわ」
ツグミ「え、急にどうしたの」
ルイ「ちゃんと聞いてくれな」
   二人、見つめ合う。
ルイ「ずっと言いたかった事。俺、ツグミが昔から好きだったんだ。だからあの日、俺相当ショック受けたんだと思う」
   恥ずかしくなり俯くルイ。
ツグミ「知ってたよ」
   ルイは顔を見上げる。
ツグミ「うちも好きだったよ、ルイのこと」
ルイ「そっか」
   見つめ合う二人。
   バスが発車の準備を始める。
ルイ「バス、一緒に乗らない?」
ツグミ「(首を横に振る)ううん。うち、しばらくココにいる」
ルイ「そっか、元気でな」
   バスの方へ振り向くルイ。少しづつ歩き始める。
ツグミ「今度はうちがそっちに行くね」
   ルイはバスの方へ歩きながら。
ルイ「おう、待ってるわ」
   バスへ乗るルイ。

バス・内(夜)
   窓ガラスに映る自分を見つめるルイ。目を閉じ、微笑む。
ルイM「一度崩したジェンガは、跡形もなくなるかもしれない。なら、新しく築き上げればいい。友情も、この街も。変化していくものだからこそ、また建てることに意味がある」

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