大阪ラフストーリー ドラマ

漫才コンビ・日野君と真佐人の米倉真佐人(22)と日野祐介(22)。この物語は、2人の若きボケとツッコミが互いに惹かれ合い、結ばれ、数多の困難を共に乗り越える姿を描いた”ラフ”ストーリーである。
マヤマ 山本 34 0 0 01/21
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第一稿

<登場人物>
米倉 真佐人(6)~(22)漫才師。
日野 佑介(22)漫才師。米倉の相方。
安藤 絵美(22)米倉の恋人。
堤 浩太郎(22)米倉の元相方。
風間 有希( ...続きを読む
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<登場人物>
米倉 真佐人(6)~(22)漫才師。
日野 佑介(22)漫才師。米倉の相方。
安藤 絵美(22)米倉の恋人。
堤 浩太郎(22)米倉の元相方。
風間 有希(22)漫才師。米倉の同期。
神保 健介(24)日野の元相方。
三好 杏奈(22)日野の恋人。絵美の親友。
秋田 望(22)漫才師。風間の相方。
西村 学(19)米倉のバイト先の後輩。
橋本 圭(26)漫才師。米倉の同期。
渡辺 忠治(26)漫才師。米倉の同期。
米倉の母
おっさん(54)
司会者 声のみ



<本編>
○大阪の街並み
   かに道楽や通天閣、グリコの看板等。

○NTSテレビ・外観
   「第28回 NTS新人漫才コンクール」と書かれたポスターがある。
米倉&日野の声「どうも〜」

○同・スタジオ・ステージ上
   中央にスタンドマイクが立っている。
   審査員や番組スタッフの他、百名近い観客もいる。
   舞台裏から出てくる米倉真佐人(22)と日野佑介(22)。
米倉「どうも『日野君と真佐人』です」
日野「お願いします」
米倉「いや〜、ついにやってきましたよ。NTS28」
日野「アイドルグループみたいに言うなや。第二八回NTS新人漫才コンクールやろ」
米倉「さすが年一回の大イベントやね。こんなぎょうさんの人の前でネタやる事なんてそうそうあらへんよ」
日野「いやほんま、ありがたい事ですわ」
米倉「皆さんも、今日は僕らのコンビ名と個人名とコンビ結成秘話だけでも覚えて帰って下さいね」
日野「多すぎや。結成秘話はいらんやろ」
米倉「まず自己紹介、先にさせていただきますと、僕が『日野君と真佐人』のボケ担当・米倉真佐人です。お願いします」
日野「僕が日野君こと、日野佑介です」
米倉「彼がクチコミ担当です」
日野「ツッコミやツッコミ。一体、何の噂を広めてんねん」
米倉「という訳で、コンビ名が『日野君と真佐人』」
日野「まぁ、けったいな名前でしょ?」
米倉「何でこないなコンビ名になったか、そもそも何でこの二人がコンビ組む事になったのか、これからお話ししますね」
日野「結局、結成秘話言うんかい」
米倉「あれは今から四年前やった……」

○メインタイトル『大阪ラフストーリー』

○テナントビル・外観
   T「4年前」
   HCC(HK芸能・コメディー・センター)と書かれた看板。
米倉の声「僕らはHCCの同期でして」

○同・HCC・教室
   二〇名近い若者達。その中に日野、神保健介(20)、風間有希(18)、秋田望(18)らがいる。
米倉の声「でも当時は、相方違うたんです」
   日野達の前で漫才を披露する米倉と堤浩太郎(18)。
米倉&堤「どうも〜、キタコーで〜す」
    ×     ×     ×
   投手役の堤と打者役の米倉。
米倉「(バッターボックスに入る仕草をで)バッター、米倉君に代わりまして、あの時の鶴」
堤「あの時の鶴!?」
米倉「カキーン、打った〜、ホームラン」
堤「何でやねん、恩返せや」
米倉「いや『恩をバッターで返す』て……」
堤「それを言うなら『恩を仇で返すや』」
   笑う日野達。
日野「(神保に向け小声で)ああいう風にボケて欲しいねんて」
米倉の声「僕は高校時代の友人と、日野はHCCの同期と」
    ×     ×     ×
   米倉達の前で漫才を披露する日野と神保。
日野「どうも、祐介健介です」
    ×     ×     ×
   織田信長役の日野と豊臣秀吉役の神保。
日野「おい、猿」
神保「何でしょうか、信長様」
日野「わしの草履が妙に暖かい。さてはお前、わしの草履の上に腰掛けておったな」
神保「いえ、信長様。このままではお足下が寒かろうと思い(別の方向を指差し)あいつの懐で温めておきました」
日野「うむ、そうか。(口調が戻り)って、そいつ誰や。自分の懐で温めろや」
   笑う米倉達。
米倉「(小声で)えぇな~、ああいうツッコミ」
米倉の声「僕らはここから三年間、別々のコンビとして活動してまして」

○NTSテレビ・オーディション会場・外
   T「一年前」
   「春のネタ祭りSP(仮)オーディション会場」と書かれた看板。
米倉の声「そんな二人の物語が動き出したのは、ほんの一年前からですわ」

○同・同・中
   漫才をする米倉と堤(22)。
米倉「あの時の鶴です」
堤「あの時の鶴!? もうええわ」
米倉&堤「どうも、ありがとうございました」
   無反応の審査員達。

○同・外
   肩を落として出てくる米倉と堤。
米倉「今日もあかんかったな」
堤「まぁ、そんなもんちゃう?」
米倉「そう言うてもやな……」
堤「ほな、俺はバイトあるからこれで」
米倉「え? 今日の飲み会行かへんのか?」
堤「真佐人は知っとるやろ。俺、アイツら嫌いやねん」
米倉「せやったな。ほな」
   別れる米倉と堤。

○居酒屋・外観(夜)
橋本の声「え〜、それでは」

○同・個室(夜)
   席には一〇名ほど座っている。
   一番手前の席に座る米倉。
橋本「我らが二四期生の風間と秋田によるコンビ、シールリッドが」
   中央の席に座る風間(22)と秋田(22)。
橋本「第二七回NTS新人漫才コンクールで優秀賞を受賞した事を祝して」
   一番奥で立っている橋本圭(26)。
橋本「僭越ながら私、フレスケスタイの橋本が乾杯の音頭をとらせていただきます」
   イライラしている出席者たち。
橋本「HCCを卒業してからはや二年」
   イライラしている米倉。
橋本「春には我々も芸歴三年目を迎える訳であります」
   気持ち良さそうに話す橋本。
橋本「それはすなわち、新たに後輩芸人を迎えるという事であり……」
   立ち上がる渡辺忠治(26)。
渡辺「もうええわ。はい、乾杯!」
一同「乾杯!」
   座る橋本と渡辺。
橋本「ナベ、お前、自分の相方のおいしい所とるやなんて、どういう神経しとんねん」
渡辺「誰もお前の演説なんて聞きたないねんって」
米倉「せやせや。ええ仕事したで、ナベ」
渡辺「おおきに。それにしても風間と秋田はすごいわ。二年目で優秀賞やで」
米倉「まぁ、俺は前々から、お前ら二人なら獲れると思うとったけどな」
渡辺「また適当な事言いよって」
風間「大した事あらへんて。なぁ、秋田?」
   黙って大きく頷く秋田。
渡辺「謙遜すなや」
風間「最優秀賞とらな、負け犬同然や」
米倉「そんな事言うたら、予選で負けた俺らはゴミ以下って事になってまうやん」
   笑う出席者たち。
風間「まぁ、そういう事やろ」
渡辺「……は?」
   静まる出席者たち。
   個室に入ってくる店員姿の日野(22)。
日野「お待たせしました、刺身の盛り合わせと軟骨の唐揚げです」
米倉「あれ、日野やんか。何しとんねん」
日野「見ればわかるやろ。バイトやバイト」
橋本「日野が『バイトやから行けへんわ』言うから、この店で飲み会する事にしたったんや」
風間「なるほど。せやから、こないな店でやっとんのか」
日野「……おい、風間。『こないな店』いうんは、どういう意味やねん」
米倉「こないな店やろ〜。女の子にお触りでけへんねんから」
日野「当たり前や。ここはキャバクラちゃうねんで」
   笑う出席者たち。
渡辺「日野、バイトはいつ終わんねん」
日野「あと一時間って所やな」
米倉「ほな、一時間でこれ全部食い終わっとかなあかんな」
日野「いやいや、俺の分も残しとけや」
米倉「お前にそんな事言う権利ないやろ」
日野「何でお前にあって俺に無いねん。お前何様や」
米倉「お客様やないか」
日野「上手い事言わんでええわ」
渡辺「漫才しとらんで、ちゃんと働けや」
日野「せやせや。ほな、後でな」
   個室を後にする日野。
    ×     ×     ×
   空になった皿が並んでいる。
   米倉の隣に座る私服姿の日野。
日野「健介の奴、そのテストで〇点取りよってん」
   笑う出席者たち。
米倉「さっすが健介やな」
日野「笑い事ちゃうねんって。ほんま、アイツと組んでんのがしんどなってきたわ」
渡辺「ほな、解散するんか?」
日野「せやな〜、何か変えな。俺もこのままっちゅう訳にはいかへんし」
風間「せやったら、職業変えたらええんやないか?」
日野「……どういう意味や?」
風間「芸人辞めた方がええんやないか、って言うとんねん」
日野「何やとコラ」
   立ち上がる日野。
渡辺「日野、落ち着けや」
日野「これが落ち着いてられるか。おい、風間。ちょっと賞とったからて、いい気になりすぎなんちゃうか?」
風間「ゴミ以下の奴が、何言うとんねん」
日野「ゴミ以下って、どういう意味やねん」
米倉「四ミリとか三ミリとか」
日野「五ミリ以下ちゃうわ。ちょっと黙っとけ。おい、風間。何とか言うてみ」
風間「俺は親切で言うてんねんで? 『才能無い奴は、早めに見切りつけや』て」
日野「ええ加減にせぇよ」
   風間の胸ぐらを掴む日野。風間のスマホが鳴る。
風間「手ぇ離せや。電話出られへんやろ」
   手を離す日野。電話に出る風間。
風間「はい。あ、兄さん。お疲れさまです」
   米倉に促されて座る日野。
風間「はい、行かせていただきます。はい。失礼します」
   電話を切る風間。
風間「金本の兄さんから飯に誘われたから、そっち行くわ。……秋田も来るやろ?」
   黙って大きく頷く秋田。
   立ち上がる風間。米倉と日野を睨む。
風間「ほな、お先。お前らも頑張りや。おもろい奴に勝たんと、俺らの実力にも箔がつかんからな」
   部屋を出る風間と秋田。
渡辺「おい橋本、どないすんねん」
   酔いつぶれている橋本。
橋本「つまりや、先輩芸人としてのあり方言うんはな……」
渡辺「こらあかんわ。……悪いけど、今日はもう解散しよか」
   怒りの表情の日野。日野を見る米倉。

○高架下(夜)
   並んで歩く米倉と日野。
日野「何やねん、風間の奴」
米倉「まぁ、そうかっかすなや。ファンキーはモンキーやで」
日野「それを言うなら、短気は損気や。……お前よく、こないな状況でボケられるな」
米倉「世の中、笑かしたもん勝ちやからな」
日野「何やそれ」
   無言で歩く米倉と日野。
米倉「なぁ、ほんまに解散する気なんか?」
日野「え? あぁ、まぁな」
米倉「今度は誰と組むつもりなん?」
日野「そんなん決まってへんわ。……まぁ、組んでみたいな〜、思う奴なら居るけど」
米倉「へぇ、日野がそこまで言う奴、興味あるわ。誰や?」
日野「……なぁ、米倉。良かったら俺と」
   日野が「コンビ組まへんか?」と言うが、電車の通過する音で遮られる。
日野「(電車が通過し終えて)どうや?」
米倉「『どうや』も何も、何も聞こえへんかったわ。で、誰や?」
日野「……もうええわ。ほな、俺はこっちやから、またな」
米倉「おう」
   別れる米倉と日野。
   振り返り、日野の後ろ姿を見つめる米倉。

○マンション・外観(夜)

○同・米倉の部屋(夜)
   棚の上のヤジロベエが揺れている。
   ベッドに寝転がる米倉。テレビを観ている安藤絵美(22)。
絵美「なぁ、真佐人。またどっかの警察で裏金問題やって」
米倉「へぇ」
絵美「裏金って、へそくりみたいなもんなんやろか?」
米倉「へぇ」
   ベッドに腰掛ける絵美。
絵美「ちょっと真佐人、聞いとるんか?」
米倉「ん? あぁ……」
絵美「もう、何考えてたん?」
米倉「世界の平和を守る方法や」
絵美「へぇ、凄いやん」
米倉「ボケたんやから、ツッコめや」
   起き上がる米倉。
米倉「なぁ、絵美。例えばの話なんやけど」
絵美「何や、真佐人?」
米倉「もし絵美に、俺以外に好きな男が居ったとしてやな」
絵美「居らんよ、そんな人」
米倉「例えばの話やって。で、その男が今の彼女と別れようとしててやな」
絵美「うん」
米倉「で、『新しい彼女を募集しとる』言うてきてやな」
絵美「うんうん」
米倉「しかもどうやら、絵美の事が好きかもしれんような事言うてたら、どうする?」
絵美「その人と付き合うわ」
米倉「即答やな」
絵美「だって好きなんやろ? せやったら、仕方ないやんか」
米倉「せやな……」
絵美「もしかして真佐人、他に好きな人が居るから、ウチと別れたい言うんか?」
米倉「そんな訳ないやろ。例えばの話やって言うてるやん」
絵美「せやったな」
米倉「俺が好きなんは、絵美だけやで」
絵美「ウチもや」
   キスしようとする米倉と絵美。米倉のスマホからアラーム音(ニワトリの鳴き声)が鳴る。
米倉「もう、ええ所やったのに」
   スマホを操作する米倉。アラーム音が止まる。
米倉「絵美、薬の時間やで」
絵美「あ、忘れとったわ」
   立ち上がる絵美。棚から薬の袋を取り出す。
絵美「あ、せや、真佐人。今度の日曜日、一緒に遊園地に行かへん?」
米倉「遊園地か……ええな」
絵美「Wデートしよう、いう話になってな。ウチと真佐人と杏奈と、杏奈の彼氏で」
米倉「三好も来るんか……。三好の彼氏って確か年上のカメラマンやったっけ?」
絵美「それは前の前の彼氏やって。今付き合うてるのは同い年の芸人さんや言うてたかな」
米倉「芸人?」

○遊園地・外観

○同・ベンチ
   座っている米倉と絵美。
   三好杏奈(22)がやってくる。
杏奈「絵美〜」
絵美「杏奈〜」
杏奈「めっちゃ久しぶりやな」
絵美「ほんまや。二週間ぶりくらいやな」
米倉「結構最近やん」
杏奈「米倉のアホ面も、相変わらずやな」
米倉「お前には負けるわ」
杏奈「うるさいわ、アホ。あ、紹介するな。ウチの彼氏や」
   杏奈の隣に立つ日野。
米倉「はじめまして、米倉真佐人です。(棒読みで)って、ひ、日野やんけ〜」
日野「何やそのヘタクソなノリツッコミは」
杏奈「二人、知り合いなんか?」
米倉「まぁな。俺たちの関係、話すと長なるで」
日野「同期や。三文字で済むわ」

○同・動くジェットコースター
   乗っている米倉、日野、絵美、杏奈。

○同・回るコーヒーカップ
   乗っている米倉と絵美。
   乗っている日野と杏奈。

○同・メリーゴーラウンド前
   木馬に乗って手を振る絵美と杏奈。
   外で手を振り返す米倉と日野。
米倉「なぁ、日野って何で芸人になろう思うたんか?」
日野「何やいきなり。話すと長なるで」
米倉「三文字くらいか?」
日野「お前と一緒にすな」
米倉「長くてもええって。ちょうどええ暇つぶしや」
日野「……俺の親父、HCCの一期生でな」
米倉「え、芸人やったんか?」
日野「まぁ、何も結果残せんまま、三年目で辞めて、今は普通に会社員やっとるわ」
米倉「根性あらへんな。『石の上にも千年』言うやろ」
日野「三年や。千年も居れるか。……俺が出来たんや」
米倉「は?」
日野「親父とおかんの間に俺が出来て、家族食わすために、収入の不安定な芸人を辞めたんやと」
米倉「それで、親父さんの無念を晴らすために芸人になったんか。泣かせるやんか」
日野「そんなんちゃうわ」
米倉「いや、ちゃうんか~い」
日野「ほんま、ツッコミ下手やな」
米倉「ええから続けろや」
日野「親父は、ただ単に才能がなかっただけや。それを認めたなくて、俺のせいにしとるだけなんや」
米倉「うわ〜、言う事キツいな〜」
日野「せやから俺は、親父が辞めた三年目までに結果出して、それを証明したんねん」
米倉「大変やな……。でもまぁ、家族のために働いてるんやから、まだマシやん」
日野「お前の親父は何してんねん」
米倉「俺が二歳の時に、女作って出て行ってもうたわ」
日野「そうやったんか……」
米倉「せやから俺は、親父の無念を晴らすために芸人やっとんねん」
日野「全然関係あらへんやん。……けど、そういうんを笑いに変えんのが芸人の仕事やからな」
米倉「せや。世の中、笑かしたもん勝ちや」
日野「この間も言うてたな、それ。どういう意味なん?」
米倉「人間、笑うてる間は幸せやろ? つまり、人を笑わせられる奴が一番偉いんや」
日野「それで『笑かしたもん勝ち』か」
米倉「百理くらいあるやろ?」
日野「一理あれば十分や」
   米倉と日野の元に来る絵美と杏奈。
絵美「真佐人〜、日野君〜」
米倉「おう、終わったんか?」
杏奈「今そこで、財布拾ってもうたわ」
米倉「ほんまか? めっちゃラッキーやん。四人で山分けするか?」
日野「何言うてんねん。拾った財布は届けなあかんやろ」
米倉「女の前やからって、格好付けんなや」
日野「そんなんちゃうわ。常識やろ」
米倉「お前、自分が天使のつもりか?」
日野「ほな、お前は悪魔や」
米倉「誰が山の中のおっさんや」
日野「『あ、熊』ちゃうわ。悪魔や」
米倉「ええやん、減るもんやないし。一体、何があかんねん」
日野「ネコババがあかん言うてんねん」
米倉「誰がプロレスラーや」
日野「ジャイアント馬場ちゃうわ」
米倉「誰が妖怪や」
日野「砂かけババァちゃうわ」
米倉「誰が鳴かせてみせようホトトギスや」
日野「豊臣秀吉ちゃうわ。って、『バ』使ってボケろや」
米倉「もう何でもええけど、お前、金欲しくないんか?」
日野「別に財布届けたかて、お礼に一割貰えるやんか」
米倉「その財布、いくら入っとんねん」
   財布の中身を見る絵美。
絵美「大体……二千円ちょっとやな」
米倉「少なっ。俺とほとんど一緒やん」
日野「その財布自体も安そうやもんな」
米倉「ほんまや、俺のとそっくり。……なぁ、免許証とか入ってへんか?」
杏奈「あ、入っとったで。米倉真佐人……」
米倉「何や、俺と名前まで一緒やん」
日野「ほな、それお前の財布やないか!」
   笑い声と拍手が起こる。
   振り返る米倉と日野。大勢の客に囲まれている。その中から一人、おっさん(54)が近づいてくる。
おっさん「あんたらおもろいな。ほんまもんの芸人か?」
日野「えぇ、まぁそうですけど」
おっさん「なんちゅうコンビ名なんや?」
米倉「コンビ名?」
日野「いや、あの……」
絵美「日野君と真佐人です」
米倉&日野「それ、コンビ名ちゃう!」

○レストラン・外観(夜)

○同・中(夜)
   向かい合って席に座る米倉と堤。ほおづえを付いて、ボーッとしている米倉。

○(フラッシュ)遊園地・メリーゴーラウンド前
   漫才をする米倉と日野。
   笑う客達。拍手する客達。

○レストラン・中(夜)
   向かい合って席に座る米倉と堤。
堤「真佐人。おい、真佐人!」
米倉「え? 何や?」
堤「こっちの台詞やって。ボケ〜っとして、何考えとんねん」
米倉「世界の平和を守る方法や」
堤「先にネタ考えてくれや」
米倉「せやな……」

○(フラッシュ)遊園地・メリーゴーラウンド前
   漫才をする米倉と日野。
   笑う客達。拍手する客達。

○レストラン・中(夜)
   向かい合って座る米倉と堤。
米倉「なぁ、堤」
堤「何や?」
米倉「俺、この前初めて、浮気する奴の気持ちがわかった気ぃするわ」
堤「は?」
米倉「感覚がいつもとちゃうんや。せやから新鮮っちゅうか、楽しいねんかな」
堤「そうか。まぁ、絵美ちゃんにバレへんかったら、ええんちゃう?」
米倉「え? ……あぁ、せやな」
   米倉のスマホが鳴る。スマホの画面に「日野佑介」の文字。

○ライブハウス・外観(夜)
   シールリッドなど五組の若手芸人の合同ライブのポスター。

○同・中(夜)
   漫才をする風間と秋田。
風間「僕が風間言います。そして(秋田を指して)こっちが……」
   黙って立っている秋田。
風間「秋田です。で、二人合わせて……」
   黙って立っている秋田。
風間「シールリッド言います。さぁ、秋田さん今日の意気込みは?」
   黙って立っている秋田。
風間「何か喋れや」
   笑う観客。
   客席でそれを見ている米倉と日野。
    ×     ×     ×
   誰もいないステージ。
   米倉と日野以外誰もいない客席。
日野「どうやった?」
米倉「まぁまぁやったんちゃう?」
日野「俺ら、負けてる思うか?」
米倉「笑かしたったらええねんやろ? ほな負ける気せぇへんわ」
日野「同感やな」

○同・外(夜)
   出てくる米倉と日野。
風間「よう、ゴミ以下」
   振り返る米倉と日野。そこに立っている風間と秋田。
日野「何や、風間と秋田か」
米倉「えらい久しぶりやな」
風間「何言うてんねん。こないだそのアホ面見たばっかりや」
   黙って大きく頷く秋田。
風間「お前ら、ここで何しとんねん」
日野「お前には関係ないやろ」
風間「どうせ、売れない芸人同士で漫才のお勉強に来た、って所やろ」
米倉「誰が大事な物壊したんや」
日野「弁償ちゃうわ」
風間「そんなしょうもないやり取りばっかりやっとるから、お前ら、未だに売れへんちゃうんか?」
日野「あいにくやけど、お前らより遥かにおもろいコンビ、知っとるで」
風間「? 誰やそれ?」
米倉「何てコンビや?」
日野「コンビ名は知らんけど……米倉は知ってるやろ、この間の遊園地」
米倉「え……あぁ」
日野「今のうちに調子に乗っとけや。ほな行くで、米倉」
米倉「おう」
   その場を去る米倉と日野。
風間「……何やアイツら。秋田、お前何か知っとるか?」
   黙って首を横に振る秋田。

○コンビニ・外観

○同・中
   店員服姿でレジの前に立つ米倉と西村学(19)。
西村「あぁ、夏休みが待ち遠しいっス」
米倉「ゴールデンウィークが終わったばっかで何言うとんねん」
西村「そりゃそうっスけど……。先輩は最近どうなんスか? 早くテレビとか出て有名になって自慢させて下さいよ」
   考え事をする米倉。

○(イメージ)NTSテレビ・スタジオ
   ステージに立つ米倉。
   満員の観客。笑い声。
   米倉の隣に立つ日野。

○コンビニ・中
   レジの前に立つ米倉と西村。
西村「先輩? どうしたんスか?」
米倉「え? あぁ、世界の平和を守る方法を考えとったんや」
西村「いやいや、今の顔は、絶対エッチな事考えてた顔っスよ」
米倉「誰が、こすったら火ぃ出る奴の事考えんねん」
西村「……えっと、どういう意味っスか?」
米倉「これやから東京もんは……」
   米倉の目の前に置かれる週刊誌。
米倉「いらっしゃいませ……あ」
   米倉の目の前に立つ日野。
日野「よっ」
米倉「何しとんねん」
日野「見たらわかるやろ。買い物や買い物」
米倉「あぁ、週刊誌か。そんなに袋とじのページが見たいんか?」
日野「エッチなページが見たいんちゃうわ」
米倉「こすったら火ぃ出るページなんてあらへんで」
日野「マッチちゃうわ」
西村「あ~。よくわかりますね」
日野「大体わかるやろ。(財布からお金を出しながら)米倉、バイト何時に終わるん?」
米倉「あと一時間くらいやな」
日野「終わったらちょっと時間あるか?」
米倉「何でや?」
日野「話あんねん。ほな」
   週刊誌を持って店を出る日野。

○テナントビル・外観(夜)

○同・HCC・教室(夜)
   壁に貼られたオーディション情報や成績優秀者の一覧表、「一緒に作ろう明るい日本」と書かれ男女がポーズをとるポスター等。
   室内を眺めている米倉と日野。
米倉「二年しか経ってない言うても、懐かしいもんやな」
日野「せやな」
米倉「(ポスターを指し)このポスターの真似とか、ようしたな」
日野「せぇへんわ。したとして、一回で飽きろや」
米倉「で、何やねん。いきなりこんな所に呼び出して」
日野「帰りたなってな、原点に。俺がここ来て、最初にやろうとした事、わかるか? あ、ボケんなや」
米倉「え〜、そんなん言われたら、何も出て来ぇへんわ。答え何や?」
日野「相方探しや。俺は決めてたんや、一番おもろい奴とコンビ組むんや、って」
米倉「それが健介やったんか?」
日野「いや、俺が一番おもろい思うてた奴はもう別の奴とコンビ組んでたわ。高校の同級生いう奴とな」
米倉「……まぁ、珍しくはないわな」
日野「せやけどこの間、遊園地でそいつと漫才したんや」
米倉「あれ、漫才言うんか?」
日野「他に呼び方が無いんやから、しゃあないやん」
米倉「せやな」
日野「その漫才が、その時の客の拍手が、笑い声が、忘れられへんねん」
米倉「俺もや。今でも思い出すたびに、体が何やゾクゾクするわ」
日野「それで確信したんや。こいつとなら、日本一の漫才師になれるて」
米倉「日本一か……」
日野「米倉、俺と……」
   米倉のスマホのアラーム音(鶏の鳴き声)が鳴る。
日野「何やねん、ええ所で。どこの鶏や?」
米倉「すまんな。俺のアラームや」
日野「何で鶏やねん」
米倉「こういう奴の方がわかりやすいんやって。あ、ちょっと電話させてもらうで」
   電話をかける米倉。
米倉「もしもし、絵美、薬飲んだか? ……そんな事やろうと思ったで。ちゃんと飲むんやで。ほな」
   電話を切る米倉。
日野「絵美ちゃん、どっか悪いんか?」
米倉「生まれつき心臓がちょっと悪いねん。まぁ、薬飲んどれば問題あらへん」
日野「そうか……。ほな、話戻すで」
米倉「で、何やねん。いきなりこんな所に呼び出して」
日野「そこちゃうわ。戻りすぎや」
米倉「何やったっけ?」
日野「もうええ、単刀直入に言うわ。米倉、俺とコンビ組まへんか?」
米倉「……本気で言うとんのか?」
日野「当たり前や」
米倉「俺には相方が居んねんで?」
日野「もちろん、無理にとは言わへん。せやけど、お前も言うとったやないか」
米倉「俺、何か言うたか?」
日野「『今でも思い出すたびに体がゾクゾクする』て」

○(フラッシュ)遊園地・メリーゴーラウンド前
   笑っている客。拍手する客。
日野の声「あんだけの拍手を、もっと浴びたいと思わへんか?」

○テナントビル・HCC・教室(夜)
   米倉と日野が立っている。
日野「俺とお前やったら、もっとどでかい笑いが生み出せる思わへんか?」
米倉「せやけど、堤が……」
日野「大事なんは、お前自身がどうしたいかやろ?」
米倉「そらそうやけど……。」
日野「俺は、お前やないとあかんねん」
米倉「……」
日野「『世の中、笑かしたもん勝ち』ちゃうんか?」
   日野のスマホの着信音(『ダース・ベイダーのテーマ』)が流れる。
日野「何やねん、ええ所で」
米倉「どこのダース・ベイダーや?」
日野「居る訳ないやろ。俺の携帯や」
   電話を切る日野。
米倉「出んでええんか?」
日野「杏奈からやし、大丈夫やろ」
米倉「せやな。それにしても、何でダース・ベイダーやねん」
日野「ええやん、好きなんやから。そんな事より、話戻すで」
米倉「はじめまして、米倉です」
日野「何年戻んねん」
米倉「まぁ、何や。お前の気持ちは嬉しいねんけど、俺から堤に『コンビを解散してくれ』なんて言えへんわ」
日野「何でや?」
米倉「堤は、俺がこの世界に誘うたんや。せやのにそない無責任な事、言える訳ないやんか」
日野「責任、か……。まぁ、ええわ。答えは今度でええから、考えとってくれや」
   歩いて行く日野。立ち止まる。
日野「せやけどな、米倉……」
米倉「何や?」
日野「責任とる言うんは、コンビ組み続ける事だけちゃうと思うで。ほな」
   歩いて行く日野。立ち尽くす米倉。

○マンション・外観(夜)

○同・米倉の部屋(夜)
   棚の上のヤジロベエが揺れている。
   ベッドで寝ている絵美。
   床に座り考え事をする米倉。
日野の声「米倉、俺とコンビ組まへんか?」

○(フラッシュ)同・同(夜)
   ベッドに腰掛ける絵美。
絵美「だって好きなんやろ? せやったら、仕方ないやんか」

○同・同(夜)
   床に座り考え事をしている米倉。

○(フラッシュ)テナントビル・HCC・教室(夜)
   日野が立っている。
日野「『世の中、笑かしたもん勝ち』ちゃうんか?」

○マンション・米倉の部屋(夜)
   床に座り考え事をしている米倉。

○(フラッシュ)遊園地・メリーゴーラウンド前
   笑っている客。拍手する客。

○マンション・米倉の部屋(夜)
   床に座り考え事をしている米倉。

○同・外観(朝)

○同・米倉の部屋(朝)
   棚の上で静止しているヤジロベエ。

○大阪北高校・校門(夜)
   「大阪市立北高等学校」と書かれた看板がある。

○同・校庭(夜)
   歩いている米倉と堤。
米倉「勝手に入ってしもたけど、大丈夫なんかな? 前科付くんは嫌やで」
堤「大丈夫やろ。そもそも、真佐人がここに呼び出したんやないか」
米倉「そうなんやけどな」
堤「それにしても、懐かしいな。……お、ボール落ちてたで」
   サッカーボールを米倉にパスする堤。
米倉「管理がなってないな。明日、一年はグラウンド二千周や」
堤「多すぎやろ。そんなに走られへんわ」
   パスし合う米倉と堤。
米倉「こうしてると、思い出さへんか? 白旗上げた、あの夏の事」
堤「高三の夏、か」

○(回想)同・同
   制服姿でサッカーボールをパスし合う米倉(18)と堤(18)。
米倉「なぁ、堤」
堤「何や?」
米倉「卒業したら、どないすんねん」
堤「俺はアホやからな、花屋を継ぐしかないやろ。真佐人は?」
米倉「俺はHCCに行くで」
堤「芸人になるんか。まぁ、真佐人には向いてそうやな」
米倉「おおきに。それで、なんやけどな」
堤「何や?」
米倉「堤、俺と一緒に芸人にならへんか?」
堤「俺か?」
米倉「世の中、笑かしたもん勝ちやで。俺とお前で、世界中の人を笑かしたろうや」
堤「ん〜、ええんちゃう?」
米倉「え?」
堤「何や、えらいおもろそうな話やし。真佐人とコンビ組ませてもらうわ」
米倉「ほんまか?」

○同・同(夜)
   サッカーボールをパスし合う米倉と堤。
米倉「あの時は、あんなにあっさりOK貰うて、正直驚いたわ」
堤「そうか? あんなもんちゃう?」
米倉「俺が前の日、どうやって誘おうかめっちゃ迷っとったの、知らんやろ」
堤「知る訳ないやん」
米倉「ほんま、こんなに迷うたんは、あの時以来やで」
堤「……話って何やねん」
米倉「……俺、他にコンビ組みたい奴が居んねん」
   堤の足下にあるボール。蹴らない堤。
米倉「お前が悪いとか、そういう訳やあらへん。ただ、知ってもうたんや。あいつと漫才するおもろさを」

○(フラッシュ)遊園地・メリーゴーラウンド前
   笑っている客。拍手する客。
米倉「あの興奮を、知ってもうたんや」

○大阪北高校・校庭(夜)
   立っている米倉と堤。
米倉「せやから、堤」
   堤に頭を下げる米倉。
米倉「コンビ、解散さしてくれ」
   しばしの沈黙。
堤「その、コンビ組みたい奴言うんは、日野の事か?」
米倉「(顔を上げて)何でわかんねん」
堤「そら、わかるわ。HCCに入った時から真佐人はずっと日野の事見てたやん」
米倉「そうか? でも堤、あのな……」
堤「まぁ、ええんちゃう?」
米倉「え?」
堤「真佐人と日野のコンビ、何やおもろそうやん」
米倉「堤、お前ほんまにそれでええんか?」
堤「残念やけど、しゃあないやん。真佐人がそうしたいんやろ?」
米倉「そらそうやけど……」
堤「俺かてな、真佐人の足手まといになってまで、芸人やりたないわ」
米倉「堤……」
堤「ほんまの事言うとな、いつかこうなるんやないかと思うとったわ」
米倉「ほんま、すまんかった」
堤「何で謝んねん。やめてくれや」
米倉「いや、そうでもせな、俺の気が済まんねんって」
堤「ほな、謝らんと笑かしてくれや」
米倉「笑かす?」
堤「いつでもええ。舞台でもええし、テレビでもええ。真佐人と日野の漫才で、俺を腹の底から笑かしてくれや」
米倉「……わかったわ。約束する」
堤「待っとるで。……なぁ、真佐人」
米倉「何や?」
堤「俺を芸人に誘うてくれて、おおきにな」
   ボールを大きく蹴り飛ばす堤。
米倉「アホォ、どこ蹴っとんねん」
   ボールを追いかける米倉。足を止めて振り返る。涙を拭っている堤。
米倉「(小声で)こっちこそ、おおきに」

○マンション・外観

○同・米倉の部屋
   「祝! コンビ結成!」と書かれた横断幕が飾られている。
   テーブルを囲む米倉、日野、絵美、杏奈。
日野「という訳で、めでたくコンビを組んだ訳やけど」
米倉「ええダシがとれるとええな」
日野「コンブちゃうわ、コンビ。これから、コンビ名を決めなあかんねん」
米倉「ローソン、セブンイレブン……」
日野「コンビニ名ちゃうわ、コンビ名。何か考えてきたんか?」
米倉「考えたで。見てみ」
   スケッチブックを広げる米倉。覗き込む日野、絵美、杏奈。「米倉日野」と書いてある。
米倉「『米倉日野』や」
日野&絵美&杏奈「おもんないわ〜」
米倉「何でや、ええやんけ」
日野「名前くっつけただけやん」
絵美「ありきたりやし」
杏奈「芸がないな。アホ丸出しや」
米倉「ええやん。シンプルイズバストや」
日野「バストちゃうわ、ベストや。単純な胸て、意味分からんわ」
米倉「ほな、日野の案はどんなんやねん」
日野「俺はこれや」
   スケッチブックを広げる日野。覗き込む米倉、絵美、杏奈。「日米同盟」と書いてある。
日野「『日米同盟』や」
米倉&絵美&杏奈「堅いわ〜」
日野「何でや、ええやんけ。日野の『日』と米倉と『米』を上手い事使うてるやん」
杏奈「お笑いって感じちゃうやん?」
絵美「何や、ようわからんし」
米倉「社会派な漫才しそうな感じやな」
日野「社会派な漫才って、どんなやねん」
米倉「政治の話でもネタにするんちゃうか?『お前、それ与党の予算案と何も変わらんやんけ』て」
日野「それ、どこがおもろいねん」
米倉「せやから、おもんない言うとんねん」
日野「ほな、コンビ名はどないすんねん」
杏奈「次はウチの番やな」
米倉「何でお前が考えとんねん」
杏奈「考えるくらいええやんけ、アホ」
日野「で、どんなん考えたんや?」
杏奈「じゃん」
   スケッチブックを開く杏奈。覗き込む米倉、日野、絵美。「HCC24」と書いてある。
杏奈「『HCC24』や」
米倉&日野「アイドルかっ」
杏奈「せやけど、二人はHCCの二四期生なんやろ? 今時いう感じでええやん」
日野「パクリはあかんやろ」
米倉「そもそも、漫才師らしさがあらへんやん。なぁ、絵美」
絵美「ウチは、ええと思うけどな〜」
米倉「俺もええな〜思うてた所や」
日野「流されんなや」
米倉「ほな、どないすんねん、コンビ名」
日野「大した案出ぇへんかったからな……」
米倉「……もう、あれにするしかないんちゃうか?」
日野「……あれか?」
   絵美を見る米倉と日野。
絵美「え、何?」

○居酒屋・外観(夜)
橋本&渡辺の声「『日野君と真佐人』!?」

○同・個室(夜)
   席に座る米倉、日野、橋本、渡辺。
橋本「何やそのコンビ名」
日野「まぁ、色々あったんやて」
米倉「日野の奴が、どうしても『日野君と真佐人』がええ、言うてな」
日野「俺のせいにすなや。元はと言えば、お前の彼女が付けたんやないか」
渡辺「まぁまぁ、大事なんはコンビ名やなくて、二人がコンビ組んだいう事やからな」
日野「相変わらず、まとめんの上手いな」
橋本「何や、日野から米倉を口説きに行ったんやって?」
日野「まぁな」
米倉「まぁ、俺は前々から、いつか日野に口説かれる、って思うとったけどな」
日野「嘘付けや」
渡辺「また適当な事言いよって。で、健介と堤はこの先どうすんねんて?」
米倉「堤は、芸人辞めるみたいやな」
渡辺「何や、もったいないな」
橋本「堤って、コントん時の演技力がなかなかやったよな」
渡辺「で、芸人辞めて何やるんや?」
米倉「堤ん家は自営業やから、そっち手伝うんちゃうかな?」
橋本「へぇ、堤ん家って何やっとるんや?」
米倉「地球防衛軍」
日野「花屋ちゃうんか」
米倉「あれは、表向きの仮の姿や」
渡辺「……で、健介は何やて?」
米倉「無視すんなや」
日野「……それなんやけどな、ちょっと聞いてくれや」
橋本「何や、健介の奴また何かやらかしたんか?」
日野「俺が解散の話しよう思うて、健介を呼び出した時の話なんやけど……」

○(回想)高架下(夜)
   日野の元にやってくる神保(24)。
日野「すまんかったな、こないな時間に呼び出してもうて」
神保「別にええで。俺もちょうど、日野に話があったさかい」
日野「俺に話?」
神保「実は俺な、無事に就職決まったんや」
日野「は? 就職?」
神保「せやから俺、芸人辞めるわ」
日野「何やそれ?」
神保「堪忍な。……で、日野の話って何?」
   電車が通過する。
日野「(電車の通過する音に負けない声で)もうええわ!」

○居酒屋・個室(夜)
   笑っている米倉、橋本、渡辺。
日野「ほんま、あいつ信じられへんわ」
渡辺「何やそれ」
米倉「さすが健介や」
日野「百歩譲って就職はまだえぇわ。『無事に』て何やねん。誰も祈ってへんわ」
橋本「つまり日野は、健介にフラれてもうた訳やな」
日野「何でそうなんねん」
橋本「せやかて、そういう事やんか」
渡辺「ほんまやな」
米倉「かわいそうな佑ちゃん」
日野「佑ちゃん呼ぶな。ハンカチの国の王子様ちゃうねん」
渡辺「まぁとにかく、新しいコンビで頑張ったったらええやん」
日野「せやな。まず俺らの当面の目標は、NTS新人漫才コンクール最優秀賞や」
渡辺「大きく出たな〜」
日野「やっぱり、夢は大きくないとな」
米倉「巨乳が一番や」
日野「胸ちゃうわ。夢や」
米倉「がんばろうな、タッちゃん」
日野「タッちゃんちゃうわ、佑ちゃんや。……って、佑ちゃんでも無いわ」

○公園(夜)
   台本を読んでいる米倉と日野。
日野「ほな、一回通してやってみよか」
米倉「せやな」
米倉&日野「どうも〜」
米倉「どうも、日野君と真佐人です、よろしくお願いします」
日野「いや〜、早速なんやけどな」
米倉「何やねん」
日野「世の中、冷静さっちゅうのが大事やと思うねん」
米倉「確かに大事やね」
日野「例えば、自分の息子が難しい手術をしとる時や」
米倉「ほうほう」
日野「手術が終わって、手術室からお医者さんが出てきた時に冷静でいられるか」
米倉「あぁ、そら難しいな」
日野「せやから、ちょっと今からそれを練習しときたいねん」
米倉「まぁ、ええんちゃう?」
日野「ほな、俺が手術室の外で待っとる父親をやるから」
米倉「お客様の中に、お医者様はいらっしゃいませんか?」
日野「本物探さんでええ。お前がやれや」
米倉「俺でええのか。オッケー、任しとき」

○公園
   漫才をする米倉と日野。数名の客。
米倉「(自動ドアが開く仕草をして)ウイーン」
日野「先生、息子は?」
米倉「お父さん、落ち着いて。(向き直って)それでは、オペを始めます」
日野「何で俺、手術室の中に居んねん」
米倉「(日野に手を差し出して)メス」
日野「持ってへんわ」
   笑う客。

○居酒屋(夜)
   ビールを運んでいる日野。
日野「やっぱり遊園地ってええな〜、って最近思ったんですよ」

○コンビニ(夜)
   モップがけをしている米倉。
米倉「いやいやいや、遊園地なんて全然おもろないやん」

○公園
   漫才をする米倉と日野。多数の客。
日野「ほな、ジェットコースターはどうや」
米倉「全然おもろないわ」
日野「おもろいやん。頂上から一気に降りる時に、みんなでこう手を上げる所なんて最高やん」
米倉「俺、もうダメや……」
日野「音を上げるちゃんわ。手挙げんねん」
米倉「暴力反対!」
日野「その手挙げるちゃうわ。万歳すんねん万歳」
米倉「父さんの敵。(日野を刃物で刺す仕草をして)グサッ」
日野「ギャー。って、犯罪ちゃうわ」
   笑う客。

○マンション・米倉の部屋
   向かい合って座る米倉と日野。
米倉「『鶴の恩返し』を元にしたネタがあるんやけど」
日野「あぁ、米倉がキタコーの頃からやっとったヤツやろ?」
米倉「あれ、日野とやったらもっとイケるんちゃうかな、て思うんやけど」
日野「どないなネタやったっけ?」
米倉「オチが全部『あの時の鶴です』いうだけやで。例えば……」
   二人の様子を笑顔で見ている絵美。

○ライブハウス・ステージ
   漫才をする米倉と日野。大勢の客。
米倉「実はお父さんは、お前の本当のお父さんじゃないんだ」
日野「え?」
米倉「お前の本当のお父さんはな……あの時の鶴だ」
日野「あの時の鶴!?」
   笑う客。

○NTSテレビ・オーディション会場・外
   「秋のネタ祭りSP(仮)オーディション会場」と書かれた看板。
日野の声「このステーキ美味いな。何の肉?牛? 豚?」

○同・同・中
   漫才をする米倉と日野。
米倉「いいえ、あの時の鶴です」
日野「あの時の鶴!? もうええわ」
米倉&日野「どうも、ありがとうございました」
   うなずく審査員達。

○マンション・米倉の部屋
   靴を履く米倉。玄関に立つ絵美。
絵美「明日やったっけ? 番組の収録」
米倉「せやで」
絵美「コンビ組んだばっかりやのにもうテレビやなんて、やっぱり凄いんやろ?」
米倉「まぁ、俺は前々から、日野とのコンビなら楽勝やと思うとったけどな」
絵美「そうか〜、さすがやな〜」
米倉「ボケたんやからツッコめや」
絵美「あ、そうなん……」
   軽く咳き込む絵美。
米倉「おい、大丈夫か?」
絵美「うん、大丈夫」
米倉「あんまり無理すんなや?」
絵美「咳したくらいで大げさやって」
米倉「そうか。あ、今日は公園で最後の練習やるから、朝帰りになると思うで」
絵美「わかったわ。頑張ってな」
米倉「おおきに。ほな、行ってくるわ」
   部屋を出る米倉。

○公園(夜)
   漫才の練習をする米倉と日野。
日野「今のボケ、もう少し間をあけてから言わなあかんやろ」
米倉「せやな」
日野「何や米倉、まさか緊張してんのか?」
米倉「いや、さすがにもう伸びてへんわ」
日野「身長ちゃうわ」
米倉「これは世界に一つしか無い……」
日野「貴重ちゃうわ、緊張や」
米倉「そら緊張するやろ。テレビやで? そう言うお前は緊張してへんのか?」
日野「してへんな。ただの通過点やし」
米倉「かわいげの無い奴やな」
日野「せやけど、一つ目の目標をクリアしたようなもんや。素直に嬉しいわ」
米倉「最初からそう言えや」
日野「やっぱり、お前と組んだんは正解やった、って事やな」
   笑う日野。
米倉「日野……」
日野「ほな、もう一回頭からやるで」
米倉「え〜、また頭からやるんか〜?」
   米倉のカバンの中で鳴っているスマホのアラーム(鶏の鳴き声)。
   気付かずに練習を続ける米倉と日野。

○公園(朝)
   荷物をまとめている米倉と日野。
米倉「今日は何時集合や?」
日野「一一時に着いとれば充分やろ」
米倉「オッケー。ほな、また後でな」
   別れる米倉と日野。

○マンション・外観(朝)

○同・米倉の部屋(朝)
   入ってくる米倉。
米倉「ただいま」
   靴を脱いで、中に上がる米倉。
米倉「絵美? まだ寝とるんか……?」
   倒れている絵美。
   救急車のサイレン音。

○病院・外観(夜)
   雨が降っている。

○同・絵美の病室・前(夜)
   「安藤絵美」と書かれた表札がある。

○同・同・中(夜)
   入ってくる杏奈と日野。
杏奈「絵美!」
   ベッドで寝ている絵美。ベッドの脇にある椅子に座っている米倉。
米倉「今は薬効いて眠っとるだけや。しばらく入院せなあかんけど、大丈夫やって」
杏奈「良かった……。なぁ、佑介?」
日野「……せやな」
米倉「……俺のせいや」
杏奈「何言うとねん、アホ。米倉のせいちゃうやろ」
米倉「いや、俺のせいや」

○(フラッシュ)マンション・米倉の部屋
   軽く咳き込む絵美。
米倉の声「あの時、もっとちゃんと絵美の事気にしとったら……」

○(フラッシュ)公園(夜)
   米倉のカバンの中で鳴っているスマホのアラーム(鶏の鳴き声)。
米倉の声「あの時、絵美に電話しとったら……」

○病院・絵美の病室・中(夜)
   ベッドの脇にある椅子に座る米倉。
米倉「そもそも、漫才の練習なんかしとらんかったら……」
日野「(米倉の胸ぐらを掴んで)どういう意味やそれ」
杏奈「佑介、ここ病室やで」
日野「(周囲を見回して)……ここやとあれやから、ちょっと来いや」
米倉「後にしてくれや」
日野「ええから来い言うてんねん」
杏奈「ちょっと、佑介……」
   米倉を引っ張って部屋を出る日野。

○同・駐車場(夜)
   雨が降っている。
   米倉を引っ張ってくる日野。日野の手を振りほどく米倉。
米倉「何すんねん」
日野「米倉。お前、自分が何したかわかってんのか?」
米倉「……わかっとるわ」
日野「わかってへんわ。芸人にとって、仕事に穴あける言う事がどういう事や思うてんねん」
米倉「それはすまんかったと思っとる。せやけど……」
日野「せやけど、何や?」
米倉「絵美が倒れたいうのに、病院行っとったらあかん言うんか?」
日野「当たり前や。芸人は、舞台に立ってなんぼなんや。親の死に目にかて会えんような仕事なんや。それくらい、お前だってわかってるんちゃうんか?」
米倉「……なぁ、日野」
日野「何や」
米倉「そういえばまだ、俺が芸人目指した理由言うてなかった気ぃすんな」
日野「今関係あるんか?」
米倉「俺の親父が女作って出てった言う話はしたな?」
日野「聞いたわ」
米倉「俺はまだ物心ついとらんかったから良かったんやけどな」

○(回想)米倉家・食卓
   テーブルを囲んで座る米倉(6)、米倉の母、兄、姉。
米倉の声「そん時はおかんも兄貴も姉ちゃんもえらいショック受けてもうてな」
   喋っている米倉。
米倉の声「そんな家族に笑うて欲しくて、おもろい事しておもろい話して」
   笑う円、直喜、美和。
米倉の声「それが俺の原点なんや」

○(回想)大阪北高校・教室
   教室の前で喋る制服姿の米倉と堤。
米倉の声「それから色んな奴笑かしてきて」
   笑う生徒達。笑う制服姿の絵美と杏奈。
米倉の声「もっとぎょうさんの人笑かそう思うて芸人になって」

○病院・駐車場(夜)
   雨が降っている。
   立っている米倉と日野。
米倉「せやけどそのせいで、一番笑かさなあかん奴を笑かせられへんかって……」
日野「何が言いたいねん」
米倉「結局、俺がやっとる事は、親父と何も変わらんやんけ」
日野「せやから何や? 芸人出来へん言うんか?」
米倉「……」
日野「何とか言えや!」
   米倉の胸ぐらを掴む日野。
日野「お前にとって一番大事なんは何や? 漫才なんか? 女なんか?」
米倉「……そんなん、選べる訳ないやん」
日野「もうええわ!」
   米倉を突き飛ばす日野。
日野「……お前がそんな奴やなんて、思わへんかったわ」
米倉「日野……」
日野「……やめさせてもらうわ」
   去っていく日野。
   雨に打たれる米倉。

○同・外観(夕)

○同・絵美の病室・中(夕)
   ベッドに座っている絵美。ベッドの脇にある椅子に座っている米倉。
米倉「ほな、そろそろ帰るわ。また明日な」
絵美「うん。……なぁ、真佐人」
米倉「何や?」
絵美「毎日来てくれるんは嬉しいんやけど、漫才の練習せんでも平気なんか?」
米倉「あぁ、それは大丈夫やって」
絵美「でも杏奈から聞いたで。日野君と喧嘩したんやって?」
米倉「……あんなん、喧嘩とちゃうわ」
絵美「そうか? ならええんやけど」
米倉「ほな、もう行くわ」
   部屋を出る米倉。

○マンション・外観(夜)

○同・米倉の部屋(夜)
   床に座っている米倉。スマホを開きアドレス帳から日野を選ぶ。何もせずにスマホの電源を切る。

○コンビニ・外観

○同・中
   雑誌の棚を整理している米倉。
   レジの前に立つ西村。
西村「あぁ、冬休みが待ち遠しいっス」
米倉「夏休みが終わったばっかで何言うとんねん」
西村「そりゃそうっスけど……。あ、ところで先輩、彼女さんはどうなんスか?」
米倉「あ〜、週明けには退院できそうやて」
西村「へぇ、良かったじゃないっスか」
米倉「まぁ、一安心やな」
西村「でも安心できないっスよ。この辺、最近変な人出るんスよ」
米倉「変な人? 痴漢か? 放火魔か?」
西村「いや、夜中に一人で『何でやねん』とか言ってるんスよ。そこの公園で」
米倉「へぇ」
西村「警察に言った方がいいんスかね?」
米倉「そんなん放っとけや」
西村「そうっスか……」
   求人誌を見つける米倉。手に取る。

○フラワーショップつつみ・前
   歩いている米倉。求人誌の入ったビニール袋を手に持っている。
   「フラワーショップつつみ」と書かれた看板の前で立ち止まる米倉。花と、窓に貼られた「劇団ヒデヨシ」のポスターを見る。
堤の声「お見舞い用のお花ですか?」
   振り返る米倉。そこに立っている堤。

○同・中
   店内に並ぶ花。
   花を選ぶ堤。
   椅子に座って堤の様子を見る米倉。
   車のエンジンがかかりそうでかからない音。
米倉「これ、何の音や?」
堤「あぁ、配達用の車が壊れてもうてな。今裏で親父が直しとる所やねん」
米倉「そうか。……しかしまぁ、こうやって見とると、立派な花屋さんに見えるで」
堤「おおきに」
米倉「そういえば、表に貼ってあった『劇団ヒデヨシ』って何や?」
堤「あぁ、これやろ?」
   ポケットから「劇団ヒデヨシ」のチラシを取り出し、米倉に渡す堤。
米倉「この店と何か関係あるんか?」
堤「(チラシを指差して)ここ見てみ」
   チラシの写真に載っている堤。
米倉「え!? これ、堤……?」
堤「せや。俺今、この劇団に入っとんねん」
米倉「せやったんか」
堤「今度の公演で、小さいけど役貰えてな。HCCで磨いた演技力が役に立ったわ」
米倉「人生、何が役に立つかわからんな」
堤「ほんまやな。観に来てくれるやろ?」
米倉「あぁ、絵美と一緒に観に行くわ」
堤「待っとるで」
米倉「ほな、今は花屋やりながら劇団やっとるっちゅう訳か」
堤「まぁ、親父には『どっちか選べ』言われとるんやけどな」
米倉「ほな、どっち選ぶんや?」
堤「何で選ばなあかんねん」
米倉「え?」
堤「今の俺にとっては、どっちも大事なんやで? せやから、両方選ぶわ」
米倉「両方選ぶ、か……」
堤「大変やろうけど、一人二役くらいやったら、何とかなるんちゃう?」
米倉「……かもしれへんな」
堤「そういう真佐人は、今何してんねん」
米倉「何って……」
堤「芸人辞めるつもりなんか?」
米倉「え、何で……」
   求人誌を指差す堤。
米倉「あぁ……」
堤「何があったんや?」
米倉「……色々あったんや」
堤「そうか。まぁ、好きにしたらええんちゃう? ……ほれ、出来たで」
   花束を米倉に渡す堤。
堤「絵美ちゃんの病室にでも飾ったれや」
米倉「おおきに、何ぼや?」
堤「ええって。俺からのお見舞いや」
米倉「そら、おおきに。(花束を見ながら)それにしても見事なもんやな。こうやって見とると、立派な花屋さんに見えるで」
堤「おおきに」
米倉「ほな、俺もう行くわ」
堤「そうか。また来いや」
   店を出る米倉。

○同・前
   店から出てくる米倉。
堤の声「真佐人」
   米倉を追って出てくる堤。
堤「一つ言うてもええか?」
米倉「何や?」
堤「さっき『好きにしたらええんちゃう?』言うたけど、約束は守ってもらうで」
米倉「約束?」
堤「言うたやろ? 『真佐人と日野の漫才で俺を腹の底から笑かしてくれ』て」
米倉「お前、そんなん……」
堤「待っとるで、ほな」
   店の中に姿を消す堤。

○病院・外観

○同・絵美の病室・中
   花瓶に入れられた花。
   ベッドに座っている絵美。ベッドの脇にある椅子に座る米倉。絵美の手には「劇団ヒデヨシ」のチラシ。
絵美「堤君、役者さんになるんか〜」
米倉「そうなんやて」
絵美「ほな、将来はハリウッドスターやな」
米倉「それは言いすぎちゃう?」
絵美「夢は大きい方がええやんか」
米倉「そらそうやけど」
絵美「真佐人も負けてられへんな」
米倉「え?」
絵美「世界中の人、笑かすんやろ?」
米倉「あぁ……せやな……」
   しばしの沈黙。
絵美「なぁ、真佐人」
米倉「何や?」
絵美「何か、おもろい話してや」
米倉「何やいきなり」
絵美「ええやん。何かないんか?」
米倉「せやな……。HCCの同期に、健介っちゅう奴が居んねんけどな……」

○同・同・前
   絵美の笑い声が聞こえる。

○同・同・中
   ベッドに座っている絵美。ベッド脇にある椅子に座る米倉。笑う絵美。
絵美「ほな、日野君ってフラれてもうてたんか?」
米倉「せや、かわいそうな男なんやって」
絵美「なぁ、他にも何か話ないんか?」
米倉「他にか……ほな、こんなんどうや?」
    ×     ×     ×
   話をしている米倉。
   笑っている絵美。
絵美「他には?」
米倉「まだやんのか?」
    ×     ×     ×
   話をしている米倉。
   笑っている絵美。
絵美「もっともっと」
米倉「もっと?」
    ×     ×     ×
   話をしている米倉。
   笑っている絵美。
絵美「次、次」
米倉「はいはい」

○同・外観(夕)

○同・絵美の病室・中(夕)
   話をしている米倉。
   笑っている絵美。
米倉「健介の奴、そのテストで0点やったんやって」
絵美「(笑いながら)何やそれ。その人、おもろいな」
米倉「何や、久々に人笑わせた気ぃすんな」
絵美「そうなんや。……ウチは、おもんなかったけどな」
米倉「え?」
絵美「全然おもんなかった」
米倉「いや、めっちゃ笑うてたやん」
絵美「やっぱり、毎日こんな所に来とるからあかんのとちゃうか?」
米倉「……」
絵美「ほんまにウチを笑わせたかったら、公園にでも行って、朝まで練習せい」
   微笑む絵美。
米倉「……せやな。そうするわ」
   立ち上がる米倉。
米倉「おおきに」
   部屋を出る米倉。

○走っている車(夜)
   「フラワーショップつつみ」と書かれた軽トラック。

○車内(夜)
   運転する堤。
堤「やっと動くようになったわ〜。時間かかりすぎやろ。……ん?」
   窓の外、歩道を走っている米倉の姿を見つける堤。
堤「今の、真佐人……?」

○走る米倉(夜)

○(フラッシュ)公園(夜)
   米倉に語りかける日野。
日野「俺は、お前やないとあかんねん」

○走る米倉(夜)

○(フラッシュ)公園(夜)
   笑う日野。
日野「やっぱり、お前と組んだんは正解やった、って事やな」

○走る米倉(夜)

○(フラッシュ)ライブハウス
   漫才をする米倉と日野。大勢の客。
   笑う客。

○走る米倉(夜)

○公園(夜)
   駆け込んでくる米倉。
   一人で漫才の練習をしている日野。
米倉「日野!」
日野「何やお前か。……何か用か?」
米倉「そんな所で、一人で何しとんねん」
日野「見たらわかるやろ、自主練や自主練」
米倉「この公園に変な人が居る言うて、噂になっとるで」
日野「わざわざそんな事言いにきたんか?」
米倉「俺かて、そんな暇ちゃうわ」
日野「ほな、早よう用件言えや」
米倉「せやから、その……」
   しばしの沈黙。
日野「あ~もう、何やねん」
米倉「……HCCに入ったばっかの頃な」
日野「いつの話やねん」
米倉「ええツッコミするな、って思う奴が居ったんや」
日野「……それがどうしたんや」
米倉「気ぃ付いたら、ずっとそいつを追っかけるようになっとった。そいつとコンビ組んでみたいて、心底思うとった」
日野「……で?」
米倉「せやから、そいつから『コンビ組まへんか?』て言われた時は、めちゃめちゃ嬉しかった。ほんま、鳥肌たったわ」
日野「せやけど、お前はそいつを裏切ったんちゃうんか?」
米倉「あん時の事は、ほんまにすまんと思うとる。せやけど、俺はやっぱり漫才やりたいねん。世界中の人を笑かしたいねん」
日野「……勝手にやったらええやん」
米倉「俺はお前とやりたいねん。お前やないとあかんねん。せやから、今度は俺から言わせてもらうわ」
   頭を下げる米倉。
米倉「俺と、コンビ組んでくれや」
日野「……」
米倉「一緒に漫才やらしてくれや」
日野「……」
米倉「お前も『俺やないとあかん』て言うとったやんか」
   しばしの沈黙。
日野「……一つ、確認さしてくれや」
米倉「(頭を上げながら)何や?」
日野「もしまた舞台の日に絵美ちゃんが倒れたら、お前はどうすんねん」
米倉「絵美の所に行くかもしれへんな」
日野「……は?」
米倉「もちろん、容体とかタイミングにもよるやろから、わからへんけど」
日野「何やそれ。結局前と何も変わっとらんやんけ」
米倉「言うたやろ。俺は世界中の人を笑かしたいんや。絵美一人でも笑うてへんかったらあかんやんか」
日野「話にならんわ」
米倉「せやけど、約束する。俺は全員笑かしたる。絵美も客も、もちろん日野もや」
日野「何で俺も入ってんねん」
米倉「当たり前やろ。俺は世界中の人を笑かしたいんやって」
日野「お前、言うてる事無茶苦茶やで」
米倉「そんなん、わかっとるわ。せやけど」
日野「せやけど、何や?」
米倉「世の中、笑かしたもん勝ちや」
日野「……」
米倉「それが俺の答えや。文句あるんか?」
   しばしの沈黙の後、笑い出す日野。
米倉「……日野?」
日野「(まだ少し笑いを引きずりながら)すまん、すまん。『文句あるんか?』言う質問やったな」
米倉「せや」
日野「大ありや!」
米倉「何でや」
日野「当たり前やろ。全然考えが改まってへんやないか」
米倉「ええやん、一緒に漫才やろうや」
日野「俺とやりたいんやったら、女よりも漫才を選べ、て言うてんねん」
米倉「それは無理や、言うとんねん」
日野「ほな、お前とは出来へん、て言うてんねん」
米倉「俺はお前と漫才やりたい、言うとんねん」
日野「せやから、考え改めや、て言うてんねん」
米倉「せやから、それは無理や、言うとんねん」
日野「もう話にならんわ。解散や解散」
米倉「誰がお前のお袋やねん」
日野「母さんちゃうわ」
米倉「誰がお前の息子やねん」
日野「MY SONちゃうわ、解散や」
米倉「誰が鳴かせてみせようホトトギスや」
日野「豊臣秀吉ちゃうわ。って『さん』使ってボケろや」
米倉「ええから許せや。コンビ組んだったるから」
日野「何で上からやねん。お前は何様や」
米倉「何様って……」

○NTSテレビ・スタジオ・ステージ上
   漫才をする米倉と日野。
米倉「あの時の鶴や」
日野「あの時の鶴!? って、もうええわ」
米倉&日野「どうも、ありがとうございました」
   客席から拍手が起こる。

○同・同・ステージ裏
   戻ってくる米倉と日野。笑顔でハイタッチをする。

○フラワーショップつつみ・中
   大会の様子をテレビの前に座る堤。
司会者の声「さぁ、気になる日野君と真佐人の得点は……?」
堤「来い、来い……」

○コンビニ・中
   大会の様子をスマホで見ている西村。
司会者の声「シールリッドと並んで同率二位」
西村「マジか!?」

○居酒屋・個室
   大会の様子をテレビを見ている橋本、渡辺ら。
司会者の声「最終決戦進出は松原エンターテインメント、シールリッド、日野君と真佐人の三組です!」
渡辺「よっしゃ!」
   盛り上がる一同。
橋本「では、シールリッド並びに日野君と真佐人の最終決戦進出を祝って」
一同「乾杯!」

○NTSテレビ・控え室
   向かい合って座る米倉、日野と風間、秋田。
風間「よぉ、ラッキーボーイ」
日野「ラッキーだけで残れる思うか」
風間「それもそうやな。一体、審査員になんぼ渡したんや?」
米倉「はっぴゃくちょうした言うんか?」
風間「は……?」
日野「八百長言うたんや」
風間「あぁ……。そんなしょうもないボケかましてるヒマあったら、最後のネタでも磨いときや」
日野「お前こそ、人に絡んどるヒマあったら人のボケにツッコめるように練習せいや」
   立ち上がる日野と風間。
風間「余計なお世話や」
日野「どこ行くんや」
風間「トイレ行くだけや」
日野「マネすんなや」
風間「マネしてへんわ」
   出て行く日野と風間。
秋田「堪忍な、米倉」
米倉「別に、気にしてへんて。俺はな」
秋田「ここだけの話やけど、風間の奴、ほんまは米倉とコンビを組みたがってたんやて。HCCに入ったばっかの頃の話やけどな」
米倉「初耳やな」
秋田「せやから、日野や堤が羨ましかったんやろ。つまりガキって事や」
米倉「まぁ、俺はそんな事なんやろうと思うとったけどな。……ところで秋田、お前喋れたんか?」
秋田「当たり前やろ。俺かて漫才師やで」
米倉「それもそやな」

○NTSテレビ・スタジオ・客席
   客席に並んで座る絵美と杏奈。
司会者の声「CMのあとは、日野君と真佐人です」
杏奈「あ〜、アカン。緊張しすぎて変になりそうや」
絵美「杏奈が緊張したかて仕方ないやん」
杏奈「何でそんなに落ち着いてられるん?」
   二人の前列の席に座るおっさん。
おっさん「お嬢ちゃん達、日野君と真佐人に注目しとるやなんて、見る目あるやんか」
杏奈「おっちゃん、誰や?」
おっさん「わしか? わしはずっと前から日野君と真佐人に注目しとった男やで」
絵美「ほんまか?」
おっさん「まぁ、わしは前々から、あの二人やったらここまで来れる、て思うとったけどな」

○米倉家・リビング
   大会の様子をテレビで観ている米倉の母。
司会者の声「それでは、日野君と真佐人の登場です。どうぞ」
米倉の母「頑張るんやで、真佐人」

○NTSテレビ・スタジオ・ステージ裏
   スタンバイする米倉と日野。
   拍手の音。
米倉「日野」
日野「何や」
米倉「ぎょうさん、笑かしたろうや」
日野「当たり前や。行くで」

○同・同・ステージ上
   ステージ裏から出てくる米倉と日野。
米倉&日野「どうも〜」
米倉「どうも、日野君と真佐人です、よろしくお願いします」
日野「既にご存知の通り、僕らは(自分を指し)日野君と(米倉を指し)真佐人のコンビなんですけども」
米倉「二人ともまだ芸歴三年目でして」
日野「三年目のペーペーですよ」
米倉「若い世代ならではの視点からするどく世間に切り込む。そんな社会派な漫才、やりたいと思います。宜しくお願いします」
日野「嫌やわ、そんなん。そもそも社会派な漫才て、どんな漫才やねん」
米倉「まぁ、世の中の政党は、与党と野党に分かれてるやないですか」
日野「そうですね」
米倉「僕は、その間をとった、ゆ党いうのがあってもええと思うんですよね」
日野「悪いけど俺、その話広げられへんわ」
米倉「そうか?」
日野「そんな事より、もっと普通の漫才やらせてくれや」
米倉「この前、電車が止まってまして」
日野「その不通ちゃうわ。ノーマルな漫才やらせてくれや言うてんねん」
米倉「ほな、どんな漫才ならええねん」
日野「例えばやな、道を歩いとったら財布が落ちてんねん」
米倉「ほうほう」
日野「それを拾うたら、天使と悪魔が出てきて囁き合う、みたいな漫才がやってみたいねん」
米倉「あぁ、ええやんそれ。やろやろ」
日野「ほな、俺が財布拾う人やるから、お前、天使と悪魔やってくれや」
米倉「任しとき」
日野「(その場で歩きながら)テクテクテク……」
米倉「交番に届けようよ」
日野「早い早い。まだ俺拾うてへんわ」
米倉「せやったんか」
日野「拾うてから、すっと出てきてや」
米倉「オッケー、任しとき」
日野「あと出てくる時に、何か効果音があった方がええな」
米倉「今日はどの家を燃やしてやろうか」
日野「放火犯ちゃうわ、効果音。『天使が出てきましたよ〜』いうのがわかるような奴を何か頼むわ」
米倉「なるほどな。オッケー、任しとき」
日野「ほな行くで。(その場で歩きながら)テクテクテク……。(拾う仕草をして)あ、財布や。うわ〜、ぎょうさんお金が入ってるやん。どないしよ?」
米倉「コケコッコー。交番に届けようよ」
日野「待て待て待てお前」
米倉「何や?」
日野「えらい斬新なん放ってきよったな」
米倉「そうか?」
日野「ちなみに、悪魔が出てくる時の効果音はどないやねん」
米倉「(低い声で)コケコッコー」
日野「同じやないか。何で俺は財布拾うて、鶏と鶏が囁き合わなあかんねん」
米倉「じゃあ、どないすればええねん」
日野「天使やったら『パタパタパタ』とかあるやんか」
米倉「あぁ、なるほどな」
日野「悪魔もそういうベタな奴でええから。頼むで」
米倉「オッケー、任しとき」
日野「行くで。(その場で歩きながら)テクテクテク……。(拾う仕草をして)あ、財布や。うわ〜、ぎょうさんお金が入ってるやん。どないしよ?」
米倉「パタパタパタ。交番に届けようよ」
日野「せやな〜」
   『ダース・ベイダーのテーマ』を口ずさむ米倉。
米倉「(ダース・ベイダーのモノマネで)ゴォー、ゴォー」
日野「何でダース・ベイダーやねん。確かに悪魔っぽいけどもやな」
米倉「何言うとんねん。お前がベイダーな奴やれ言うから……」
日野「ベタな奴言うたんや! 誰がベイダーな奴なんて言うかアホ」
米倉「あぁ、もう俺には無理や」
日野「何でや」
米倉「俺は芸人なんやで。天使と悪魔を二役演じ分けるなんて、そんな器用な事、出来るはずがないんや!」
日野「……お前今、天使とダース・ベイダーを二役演じ分けてたやんけ」
米倉「せやから、役を分けようや。お前が天使やれや。俺が悪魔をやるから(客席を指して)すみません、拾う人やってもろうてもええですか?」
日野「ええ訳ないやろが。お客さん勝手に巻き込むなや」
米倉「せやけど皆、財布拾いたそうな顔してるし、ちょうどええやんけ」
日野「炎上してしまえ。(客席に)すみませんね、ほんま」
米倉「ほな、拾う人は透明人間や」
日野「どういう事や?」
米倉「そこに、拾う人が居ると仮定して、俺らが天使と悪魔やったらええやん」
日野「そんなん無理や」
米倉「何でや」
日野「俺は芸人なんやで。そんな透明人間相手に演技するなんて器用な事、出来るはずがないんや!」
米倉「……お前、アホか?」
日野「お前のマネや!」
米倉「ちゃうねん。お前心から天使になってないからあかんねん」
日野「どういう事や?」
米倉「心から天使になっとったら、そこに拾う人が見えるようになんねんって」
日野「ほんまか?」
米倉「ほんまや。せやから、お前は心から天使になれ。俺も心から悪魔になるから、最初からやり直そう」
日野「最初からか?」
   ステージ裏に下がる米倉と日野。再びステージ上に出てくる。
米倉&日野「どうも〜」
米倉「どうも、天使と悪魔です、よろしくお願いします」
日野「文字通り(自分を指し)天使と(米倉を指し)悪魔のコンビなんですけど」
米倉「二人とも人間を超える存在でして」
日野「天使と悪魔ですからね」
米倉「そんな存在ならではの視点から、鋭く世間を見下す、そんな高圧的な漫才、やりたいと思います」
日野「嫌やわ、そんなん。そもそも高圧的な漫才て、どんな漫才やねん」
米倉「まぁ、僕らは天使と悪魔な訳ですけど人間言うんは、その間をとった実に愚かな存在やと思うんですよ」
日野「炎上してしまえ。そんな事より、もっとノーマルな漫才やらせてくれや」
米倉「この間、テストで0点取ってもうて」
日野「○がない、ノーまる、ちゃうわ。道を歩いてたら財布を拾って、天使と悪魔が出てきて囁き合ういう漫才がやりたいねん」
米倉「あぁ、ええやんそれ。やろやろ」
日野「ほな、俺が拾う人やるから、お前、天使と悪魔やってくれや」
米倉「任しとき」
日野「(その場で歩きながら)テクテクテク……。(拾う仕草をして)あ、財布や。うわ〜、ぎょうさんお金が入ってるやん。どないしよ?」
米倉「パタパタパタ。お前のもんだ、ネコババしちまえ」
日野「せやな〜」
米倉「ガッハッハ。お前のもんだ、ネコババしちまえ」
日野「両方悪魔やんか。俺の中の天使はどこ行ってもうたんや」
米倉「仕方ないやんか」
日野「何でや」
米倉「俺は悪魔なんや。悪魔のくせに天使と悪魔を演じ分けるなんて、そんな器用な事出来るはずがないんや!」
日野「……お前、アホか?」
米倉「(日野の尻を蹴って)アホって何や」
日野「お前のマネや!」
米倉「せやから、役を分けようや。お前が天使やれや。俺が悪魔をやるから(客席を指して)すみません、拾う人やってもろうてもええですか?」
日野「ええ訳ないやろが。お客さん勝手に巻き込むなや」
米倉「(日野を指して)天使と(自分を指して)悪魔と(客席を指して)人間で、ちょうどええやないか」
日野「そういう問題ちゃうねん」
米倉「ほな、拾う人は透明人間や」
日野「どういう事や?」
米倉「そこに、拾う人がいると仮定して、俺らが天使と悪魔やんねん。心から天使になっとるお前なら、見えるやろ」
日野「……あ、見えるわ」
米倉「せやろ。ほな行くで。……はい、歩いてる人が、財布を拾いました」
日野「パタパタパタ。交番に届けようよ」
米倉「(日野と同時に)ガッハッハ。お前のもんだ、ネコババしちまえ」
日野「かぶってんねん。一緒に言うたら聞こえへんやろが」
米倉「じゃあ、どないせいっちゅうねん」
日野「こういうんは、天使が先って相場が決まってんねん」
米倉「わかったわ。ほな行くで。……はい、歩いてる人が、財布を拾いました」
日野「パタパタパタ。交番に届けようよ」
米倉「(低い声で)コケコッコー。お前のもんだ、ネコババしちまえ」
日野「何で鶏出てくんねん」
米倉「鶏ちゃうわ」
日野「ほな、今の何やねん」
米倉「あの時の鶴です」
日野「あの時の鶴!? って、ちゃうちゃうそれ一本目のヤツや。今は効果音の話してんねん」
米倉「(上を見ながら)ガタンゴトン、ガタンゴトン」
日野「高架下ちゃうわ。効果音」
米倉「この電車、この間止まってまして」
日野「不通の漫才せんでええねん。ちゃんとやれや」
米倉「わかったわ、行くで。歩いてる人が、財布を拾いませんでした」
日野「拾え。拾わな始まらへんやろが」
米倉「はい、歩いてる人が、財布を拾ってネコババしました」
日野「終わってもうたやないか。もっと前に戻れや」
米倉「はい、地球が誕生しました」
日野「戻りすぎや。財布拾う直前に戻ったったらええねん」
米倉「はい、財布を拾いました」
日野「パタパタパタ。交番に届けようよ」
米倉「ほんまに、それでええんか?」
日野「どういう事や?」
米倉「今の世の中、果たして警察も信用できるんかな?」
日野「それは……」
米倉「不正経理、裏金問題。今や警察かて、百パーセント信じる事はでけへんようになってるんちゃうんか?」
日野「ほな、どないしたらええねん」
米倉「一つだけ、方法があるわ」
日野「何や?」
米倉「僕ら若い世代が、立ち上がるんや」
日野「俺らが?」
米倉「せや。僕らが僕らの子供達に胸を張れるように、世の中を作っていくんや」
日野「そんな事、出来るんか?」
米倉「出来る出来ないやない、やらなあかんねん。君も、力を貸してくれるね?」
日野「俺の力で良ければ、喜んで」
米倉「一緒に作ろう」
米倉&日野「(ポーズを決めながら)明るい日本!」
日野「何やこれ。もう人間に戻らせてもらうわ。この茶番は何やねん」
米倉「何が不満やねん」
日野「もう天使と悪魔関係なくなってるやんか。これ一体、何の漫才やねん」
米倉「何ってこれが、社会派の漫才」
日野「もうええわ」
米倉&日野「どうも、ありがとうございました」
   頭を下げる米倉と日野。
   拍手を送る客達。皆、笑顔。
   頭を上げ、それを見て満足げな表情を浮かべる米倉と日野。

○マンション・外観

○同・米倉の部屋
   テーブルを囲む米倉、日野。テーブルの上の新聞には『NTS新人漫才コンクール優勝 松原エンターテインメント』と書かれた写真付きの記事。
米倉&日野「って、何でやねん!」
                 (完)

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