○ プロレス会場・外観(夜)
観客の大歓声。
男性の実況アナウンサーの白熱した実況。
実況アナの声「トップロープに登った! 矢嶋、V1王者に向かい、渾身のムーンサルトプレス〜!」
と、観客の歓声が更に増す。
○ 同・観客席(夜)
観客、皆立ち上がり白熱した応援。
観客達「ワン! ツー! オオ〜!」
と、カウント3まで入らず、頭を抱える男。体全身で喜ぶ男など。
地団駄を踏む音が会場に鳴り響く。
実況アナの声「カウント2、99! まだまだこの闘いを見ていたい! これぞ今年のベストバウト〜!」
○ メインタイトル
「カウント2、99」
○ 東都大学・校門・前
「東都大学学園祭」の門が備え付けられている。中へ入っていく若い男や女達。
○ 同・学生プロレス会場・入り口
先程と打って変わってまばらな歓声。
観客達の声「大我! 大我!」
と、観客のコール。
「大我健斗卒業試合」と書かれた立て看板。
大我の声「立ておら〜!」
○ 同・同・リング上
おしゃれなスパッツを履いた大我健斗(23)と黒パンツの相手選手とレフェリー。黒パンツの男は膝をついている。
○ 同・同・実況席
日野昇太(23)がマイクを持って実況する。その隣にオタクっぽい男。
日野「ここまで流石の試合運びです。このまま優秀の美を飾れますかね?」
オタク男「非公式試合も含めて56戦無敗ですから、きっと大我さんならやってくれると思います」
と、日野とオタク男、ゆるい実況。
○ 同・同・リング上
大我、ロープに走る。
ロープの反動を利用して、ラリアット。
大我、倒れた相手をフォールする。
レフェリーのカウントに合わせて、観客の声。
観客達「ワン、ツー、スリー!」
試合終了のゴングが鳴る。
大我、両手を挙げて勝利のポーズ。
○ 同・同・観客席
リング上に向かって拍手したり歓声を送る観客達。
○ 同・同・リング上
大我、マイクで話し出す。
大我「おい! この大学で俺より強え奴はいねえ。俺は本物のプロレスのリングでチャンピオンベルトを獲ってやるぞおら!」
と、マイクをリングに叩きつける。
観客の喝采。リングから降りる大我。
○ 同・同・リング下
大我を女性が囲んで、体を触ってキャーキャー喜ぶ。
気にせず退場する大我。
○ 大我の家・外観
古い2階建てのアパート。
○ 同・リビング
散らかっている部屋に積み重なった段ボール。
大我と、大我依子(50)が引越しの準備をしている。
大我、本を眺めた後、ゴミ袋に捨てる。
依子、その本を拾い段ボールに入れる。
大我、洋服を広げた後、ゴミ袋に入れる。
依子、その洋服を広げ、首を傾げた後、
段ボールに入れる。
大我「荷物減らねえんだけど!」
依子「いつか使おうが」
大我「使わねえよ。面倒くせえ」
依子「(呆れて)いつから物を大切に出来ない男になったとね」
依子、荷物から写真を手に取って、
依子「昔はこんなに華奢で女の子みたいだったのにねえ」
写真には幼少期の大我。
大我、ゴミ袋に洋服を投げ込みながら、
大我「なんだよ」
依子「ここまで育てて来たけん、私は何も言わん。健斗が自分で決めた事やけん」
大我「……」
依子「でも決めた事は最後の最後の最後まで諦めちゃいかんよ」
大我「最後の最後までうっせえな。わかってるよ」
依子「(笑って)そうね。それが聞けて私は安心して帰れる」
大我「もうこっちまで来ねえでいいから」
依子「なんね。親は子供を心配するもんとよ」
大我「福岡から東京まで金掛かんだろ。それに電話で道聞かれても分からねえから。スマホのマップ使えよ」
依子「スマホの使い方もよく分からんけん電話したとよ」
大我「東京で迷われたら困んだよ」
依子「でも健斗のデビュー戦くらい呼ばんね」
大我「はいはい。その時には呼ぶから」
依子「(喜んで)健斗の好きなオニギリば作ってくるけん」
と、ゴミ袋の荷物を段ボールに入れる。
大我「荷物増やすな!」
○ 多摩川
○ ニューレスリングジャパン道場・前
古い道場。『ニューレスリングジャパン』の看板。
荷物を持った大我、道場を見上げる。
大我「ボロくせえ」
○ 同・練習場
練習をしている選手達。
スクワットや、プッシュアップ、リング上では受け身をとっている選手。
壁にはチャンピオンベルトを肩から掛けている剛沢友也(28)のポスター。
○ 同・入り口
大我、ドアを開けて入る。
大我「うっす」
○ 同・練習場
練習生達が大我を一斉に見る。
大我、荷物を置いて練習生達を見る。
大我「(よく分からず)なんだよ」
剛沢が近づき、
剛沢「おい新人!」
大我「はい?」
剛沢「その敷居超えた瞬間からウチの道場なんだよ。ちゃんと挨拶しろ」
大我「そんな事書いてねえぞ」
剛沢「なんだお前」
大我「いちいち突っかかってくんなよ」
と、バックから荷物を取り出して、練習の準備をしようとする。
剛沢、大我の胸元を掴み、
剛沢「お前、学生プロレス上がりだろ? お子ちゃまのプロレスごっこと一緒にすんな」
大我「(キレて)はあ? 学生プロレスなめんなよ」
剛沢「あんなの遊びだろ」
大我「遊びじゃねえ。俺はプロレスに命賭けてんだよ。そっちこそ一緒にすんな」
大我、剛沢を両手で突き飛ばす。
剛沢「おいコラァ!」
と、大我に掴み掛かる。
練習生達、止めに入る。
その中に東良平の姿(21)。
東「(止めながら)剛沢さん!」
○ 同・事務室・前
門脇晴海(34)が事務室から顔を覗かせて、
晴海「(ヤレヤレ)……」
○ 同・練習場
剛沢、大我にヘッドロックをかけている。
それを止めようとしている東と他の練習生達。
矢嶋の声「何やってんだ!」
大我達、矢嶋哲二(56)の方を見て固まる。
○ 同・入り口
竹刀を持った矢嶋が入ってくる。
○ 同・練習場
剛沢、大我を離す。
大我「(頭を抑え)痛ってえな」
矢嶋が大我と剛沢に近づいて、
矢嶋「(立ち止まり)……」
矢嶋、剛沢の頬をビンタする。
矢嶋「素人に何手出してんだ!」
剛沢「すみません!」
矢嶋「(大我見て)」
大我「……」
矢嶋「新人か。元気あるな」
大我「お、おう」
矢嶋「今まで何やって来た」
大我「一応……(剛沢を見て)学生プロレス」
矢嶋「そうか。いいじゃねえか。じゃあこれから本物のプロレスラーになって何がしたい」
大我「そりゃあ……いい試合してチャンピオンになって金持ちになる」
矢嶋「そうか。いい試合はな、強いだけじゃ作れないんだよ」
大我「?」
矢嶋「よく覚えとけ」
矢嶋、竹刀を床に叩きつけ、
矢嶋「(練習生たちに)練習しろ、練習! 日々の鍛錬を怠るな!」
練習生達「はい!」
大我「……」
○ 居酒屋・中(夜)
店内は人で賑わっている。
大我と日野、ご飯を食べている。
日野、酔っぱらって、上機嫌。
日野「最高の試合だろ? 選びきれない程あるけどな〜」
大我「(ご飯食べながら)例えば、例えばどれだよ」
日野「やっぱり赤パン時代の武藤対高田戦かな。あのUWFと親日を背負う両者が闘うって……まさにベストバウトだよね」
大我「(小さく)……ベストバウト?」
日野「ドラゴンスクリューからの四の字固め。試合運びが上手いんだよな〜」
大我「ベストバウトって何だよ」
日野「えっ? ベストバウト? 最高の試合って事だよ」
大我「なんだ。かっこいいじゃん」
日野「は?」
大我「ベストバウトかっけえ」
日野「てかさあ、勝手に外に出てご飯食べて良いの?」
大我「強ければ何でも許されるんだよ。大丈夫。大丈夫」
○ ニューレスリングジャパン道場・練習場
矢嶋が仁王立ちしている。
矢嶋「許されると思うなよ」
矢嶋の前で大我は正座。
大我「もう出ません」
矢嶋「今度勝手に選手寮から出たら許さないからな」
大我「だからもう出ねえって」
矢嶋「お前は選手としての自覚が」
大我「(立ち上がり)分かった分かった!
もうやらねえから! 足痺れんだよ」
と、足をさする。
矢嶋「罰として特別メニューの練習をしてもらう」
大我「(キレて)はあ? 何だよそれ」
矢嶋「剛沢!」
剛沢、練習の手を止め、
剛沢「はい」
矢嶋「大我を特別トレーニングに連れてけ」
剛沢「はい。(バカにして)でも出来ますかね?」
大我「(ムッとして)バカにすんな。俺に出来ねえもんはねえ」
剛沢「(鼻で笑って)じゃあ外出ろ」
○ 同・前
ストレッチをしている大我と剛沢。
剛沢「途中で投げ出すなよ」
大我「そっくりそのままお前に返すわ」
剛沢「じゃあ俺に着いてこい」
と、走り出す。
大我「あ、ちょっと待て! 俺が先に行く!」
と、剛沢を追い抜く。
剛沢「お前ルート知らないだろ!」
大我、先を走り、
大我「知るか!」
と、猛スピードで走っていく。
○ 同・事務室
室内にはトロフィーや楯が並んでいる。
矢嶋と晴海が話しをしている。
晴海、資料を見つめて、
晴海「今の観客動員数だと、去年の会場使ってもマイナスですね」
矢嶋「そうか……」
矢嶋、写真立てを見つめる。
写真は矢嶋の現役時代の写真。ベルトを
腰に巻いている。
矢嶋「プロレス全盛期はあっと言う間だったな」
晴海「これから作ったら良いじゃないですか。全盛期」
矢嶋「(笑って)面白いのが入ってきたからな」
矢嶋、事務室を出る。
○ 同・事務室・前〜練習場
矢嶋が事務室から出てくる。
練習場で剛沢が筋トレをしている。
矢嶋「剛沢、大我は?」
と、ドアの開く音。
○ 同・入り口
汗だくで中へ入ってくる大我。
そのまま倒れる。
剛沢、近づいて、
剛沢「おい、学生チャンピオンはそんなもんか?」
大我「(ムッとして)こ、こんなもんじゃねえよ」
剛沢「じゃあ次はスクワット1000回」
と、練習場に戻る。
大我「は、はあ? ちょっと休憩させろよ」
○ 同・練習場
剛沢、涼しげな顔でスクワットを始める。
○ 同・入り口
倒れたままの大我。
大我「(悔しそうに)ドM野郎……」
○ 選手寮・外観(夜)
古い2階建ての建物。
2階の1室だけ灯りが点いている。
○ 同・大我の部屋(夜)
6畳位の小さな部屋。
裸電球にベッドと机と小さなテレビ。
ベッドに座っている大我。
大我「(足をマッサージして)クソ痛え」
スマホからメッセージを知らせる音。
スマホを見る。
大我「?」
スマホ画面には日野から『飲みに行こ』のメッセージ。
大我「こんな状態で行けるかよ」
と、スマホを放る。
○ ニューレスリングジャパン道場・リング前
矢嶋が真剣な眼差しでリング上を見つめる。
○ 同・リング上
剛沢と他の選手が組合っている。
○ 同・練習場
プッシュアップしながらリング上を見る大我。
大我「58、59、70、ナナジュ、あれ?(分からなくなって)あーもう!」
と、プッシュアップを止める。
矢嶋が近づいて、
矢嶋「何勝手に止めてんだ」
大我「こんな基礎練習なんて面倒くせえよ。俺はあいつより強えんだ。試合させろ。試合」
矢嶋「お前はまだ素人同然だ。やらせん」
大我、立ち上がって、
大我「俺は負けた事ねえ。学生だけどチャンピオンなんだ」
○ 同・リング上
剛沢、手を止めて、
剛沢「じゃあ、上がってこいよ。学生チャンピオン」
○ 同・練習場
大我、リングに近付こうとする。
大我「おう、やってやるよ」
矢嶋「おい待て!」
と、大我を止める。
矢嶋「東!」
ストレッチをしている東。
東「はい!」
駆け足で矢嶋に近づく。
大我「……」
矢嶋「大我とリングに上がれ」
大我「(矢嶋に)俺はあいつとやりてえんだよ。こんな奴とやらせるな」
矢嶋「東はうちの団体で一番若い。でもプロデビューしている。うちの若きエースだ」
大我「若い芽を摘んじゃうのって嫌いなんだよ」
矢嶋「お前も若い芽だろうが」
大我「(舌打ちして)しょうがねえなあ。(剛沢に)ちゃんと見とけよ」
大我、東を睨む。
東「(威圧され)よ、よろしくお願いします」
○ 同・リング上
大我と東がリング上に立つ。
矢嶋はレフェリー。
リング下では剛沢や、他の練習生が見ている。
矢嶋「ファイッ!」
ゴングが鳴る。
大我、東と睨み合う。
大我、トーキックから、エルボー、ロープに東を振り、ロープの反動で戻ってきた東をショルダータックルで倒す。
リング下の剛沢、黙ってリング上を見ている。
大我、東の髪を引っ張って立たせる。
大我「すまねえなあ」
東、大我の手を払い、逆水平チョップ。
激しい音が鳴り響く。
大我「おうっ!」
と、胸を抑える。
東、もう一度逆水平チョップの構え。
大我「!」
大我、背を向ける。
東、手を止める。
矢嶋「ゴング!」
試合終了のゴングが鳴る。
東「……」
膝をつく大我。
その胸は赤く腫れ上がっている。
○ 同・リング下
剛沢、リングから離れ、
剛沢「……さあ、みんな練習、練習」
と、手を叩く。
○ 同・リング上
大我、膝をついたまま。
大我「(うつむいて)……」
矢嶋「なぜ背を向けた?」
大我、矢嶋を見上げて、
大我「?」
矢嶋「プロレスラーは相手の攻撃を真正面から、受けて受けて、それでも受けて。そして立ち上がるんだ。そんな試合が観客の心を打つ」
大我「……」
矢嶋「それが受けの美学だ」
○ 同・事務室(夕)
晴海がパソコンを眺めている。
大我が入ってくる。
晴海「あら、大我君」
大我「(頭を下げる)ちっす」
晴海「今日も大変だったわね」
大我「……そんな事ないっすよ」
晴海、デスクの上の資料を手に取り、
晴海「大我君は出られないけどウチの団体の対戦カードが決まったから」
と、大我に資料を渡す。
大我「(資料を見る)……」
晴海「早く試合に出れたらいいわね」
大我「……これどこであんの?」
晴海「港町産業センター。地方の小さい会場よ」
大我「……もうちょっと大きい会場でやればいいじゃん」
晴海「現実はそうはいかないからねえ。お客さんが来てくれるいい試合をしないとね」
大我「……」
○ 居酒屋(夜)
大我と日野がご飯を食べている。
日野「本当に大丈夫なのか?」
大我「ああ、今日は外出オッケーの日だから」
日野「そうか。じゃあ気にせず」
日野、ビールを飲む。
大我「次、地方の小さい会場で試合だって」
日野「おっ、デビュー戦?」
大我「……まだだよ。俺は満を持するんだよ」
日野「そっか。プロレス業界も不況だな」
大我「昔は東京ドームとか武道館とかでも試合してたのにな」
日野「1・4とか、真夏の祭典G1の決勝も超満員札止め。最高だったよなあ」
大我「ああ、俺もあんな会場で」
日野の声「(遮り)はい、日野です」
大我「?」
日野、スマホで電話をしている。
日野「(電話に)はい、はい、本当ですか? ありがとうございます」
大我「……」
日野「(電話に)失礼します」
大我「……仕事?」
日野「(嬉しそうに)契約が決まったって」
大我「おお、良かったじゃん」
日野「新入社員の中では成績一番なんだよ」
大我「……頑張ってんじゃん」
日野「今日奢ってやるから、好きなだけ食べろよ」
大我「ああ……ありがとう……」
○ 多摩川・土手沿い
大我がランニングをしている。
○ ニューレスリングジャパン道場・前
大我、息を切らして中へ入る。
○ 同・入り口
大我、入ってくる。
大我「(練習場見て)?」
○ 同・練習場
矢嶋、東、晴海、練習生たちが倒れた剛沢を取り囲んでいる。
矢嶋「晴海さん、救急車!」
晴海「(慌てて)はい!」
と、事務室に走る。
剛沢「(苦悶の表情)」
大我近付いて、
大我「大丈夫かよ」
剛沢「(強がって)お前に心配されたくねえよ」
大我「……そうかよ」
と、離れて荷物からシューズを取り出す。
矢嶋と東、大我を見つめる。
練習の準備をしている大我の背中。
○ 同・外観(夜)
練習場の灯りが消える。
○ 選手寮・大我の部屋(夜)
ベッドに寝転んで漫画を読んでいる大我。
ドアをノックする音。
大我「(誰だ)?」
大我、漫画を枕の下に隠して立ち上がる。
○ 同・同・玄関・中〜外(夜)
大我、ドアを開くと、矢嶋が立っている。
大我「(驚いて)ちゃんと居るよ」
矢嶋「そうじゃない。次の試合、剛沢が欠場
になる」
大我「えっ……それで?」
矢嶋「大我、お前が出ろ」
大我「はあ!?」
矢嶋「デビュー戦だ」
大我「いや、いいよまだ」
と、ドアを閉めようとする。
矢嶋「(止めて)待て! 剛沢はもうリングに立てないかもしれない」
大我「あの野郎の自業自得だろ! 俺を巻き込むな!」
と、ドアを閉める。
矢嶋「……」
○ 同・玄関・中(夜)
その場に座り込む大我。
大我「……」
ドア越しに矢嶋の声が聞こえる。
矢嶋の声「お前は自分が強い強いって言ってるけどな。自分で作り上げた自分が壊されるのが怖いだけなんじゃないのか」
大我「(ドアを見る)……」
矢嶋の声「お前は今の自分の実力を真正面から受け止めきれない、弱い人間だ!」
大我「……」
矢嶋の声「剛沢の気持ちを……」
○ 同・同・前(夜)
矢嶋、ドアに顔を近付けて話す。
矢嶋「無駄にするな」
矢嶋、離れていく。
○ 同・同・中(夜)
大我、座ったまま。
大我「何が受けの美学だ! 美しく見せてんじゃねえ!」
と、ドアを叩く。
○ ニューレスリングジャパン道場・練習場
大我、練習生に混じってスクワットをし
ている。
矢嶋「(大我を見つめる)」
○ 同・事務室(夕)
晴海がパソコンを眺めている。
大我が入ってきて、
晴海「お疲れ様」
ソファに座る大我。
晴海「試合のコスチュームあるから」
と、ビニールに入った黒いパンツを取り出す。
大我「だせえ」
晴海「シンプルでいいじゃない」
大我「こんなの恥ずかしくて履けねえよ」
晴海「歴代のチャンピオンもこれを履いてきたのよ。ゲン担ぎと思えば良いじゃない」
大我「(ため息して)なあ」
晴海「?」
大我「俺、勝てるかな?」
晴海「弱音なんて珍しいわね。張り合う相手が居なくなったから?」
大我「別に弱音じゃねえよ」
晴海「剛沢君、もう退団したから」
大我「(驚いて)はあ?」
晴海「もうプロレスやめたの」
大我「……嘘だろ? だってあいつベルト持ってんじゃん」
晴海「ベルトは正式に返上した」
大我「(寂しそうに)……そうか。……そりゃ良かった」
と、悲しげそうに出て行く。
出て行く大我を見つめる晴海。
晴海「……」
○ 選手寮・大我の部屋(夜)
大我、ベッドに寝転んで、スマホを扱っている。
スマホの発信画面には日野の名前。
大我「(電話をかける)……」
日野、電話に出ない。
大我、舌打ちをしてスマホを側に放る。
スマホからメールの受信音。
大我、スマホを手に取る。
大我「あっ……」
スマホ画面には剛沢からのメール文面。
剛沢の声「今のお前じゃきっと負ける。でも、ボロボロになっても希望の光は見える。倒れなきゃ見えない希望の光だ。倒れる時は背を向けるな。仰向けで倒れろ」
大我「お前のせいでこうなったっつーの。……面倒くせえ……」
スマホを置いて、仰向けで寝転がる。
ため息をつく大我。
○ 港町産業センター・外観
小さな体育館の様な外観。
中へ入っていく人がチラホラ。
リングアナウンサーの声「大我〜健斗〜」
○ 同・リング上
黒いパンツを履いた大我が手を挙げる。
大我「(緊張)……」
拍手がまばらに聞こえる。
リングアナウンサーの声「赤コーナー。小原〜悠馬〜」
反対側の赤コーナーには人相の悪い小原悠馬(25)。
レフェリーが中央に立ち、
レフェリー「ファイッ!」
ゴングの音。
大我と小原、中央に寄り、睨み合う。
小原のトーキックからヘッドロック。
大我、ヘッドロックされたままロープに振り、小原がロープの反動で返ってくる。
小原のショルダータックルで倒れるが、上手く受け身を取る大我。
○ 同・リング下
矢嶋が腕を組んで、試合を見ている。
○ 同・リング上
汗まみれの大我と、小原。
リングアナウンサーの声「10分経過、10分経過」
小原が大我をリング下に降ろす。
○ 同・リング下
小原も降りて、大我の髪を掴む。
リング上からレフェリーがカウントする。
レフェリーの声「ワン! ツー!」
小原、大我を鉄柵に投げる。
大我、背中を鉄柵で強打。
大我「(キレて)……痛ってえな」
大我、小原にエルボー。倒れる小原。
大我、小原に馬乗りになり殴る。
大我「この野郎!」
選手達は「やめろ!」や、「反則だろ!」
と、言って大我を小原から引き離す。
大我「お前ら止めんな!」
小原起き上がり、急所攻撃。
大我「おうっ」
と、股間を抑えて倒れる。
観客からブーイング。
小原、大我を立たせ逆水平チョップ。
大我「(胸を抑え)おうっ」
小原、もう一度逆水平チョップの構え。
大我「(敵選手を睨む)!」
大我、胸を張る。
小原の逆水平チョップ。
大我「(胸を抑え)おうっ」
倒れる大我。
レフェリーの声「セブンティーン! エイティーン!」
小原、リング上に戻る。
大我「(倒れたまま)……」
○ 同・リング上
レフェリーがカウントを続ける。
レフェリー「ナインティーン! ……トゥエ
ンティーン!」
試合終了のゴング。
小原の入場テーマ曲が流れる。
○ 同・リング下
倒れたままの大我。
観客のブーイング。
○ 同・入場ゲート
矢嶋、奥へ消えていく。
○ 同・リング上
小原、手を広げ悪気のないポーズ。
観客のブーイングが続く。
○ 同・控え室
大我、入ってくる。
矢嶋が仁王立ちしている。
矢嶋「(大我を睨む)……」
大我「あの野郎、反則技ばっか使いやがって」
矢嶋、大我の頬をビンタして、
矢嶋「なんだあの試合は!」
大我「(頬を抑えて)麻痺して痛くねえよ」
矢嶋「あんな試合でお客さんは喜ぶのか!」
大我「……俺は客の為にやってんじゃねえ!」
矢嶋「じゃあプロレスやめちまえ」
大我「……」
矢嶋「自分の為だけにプロレスやってるなら今すぐやめちまえ!」
大我「(矢嶋を睨み)」
大我、ドアを思い切り閉めて、控え室を出て行く。
矢嶋「……」
○ 同・外(夜)
会場から出て行く観客達。
紛れて一緒に出て行く大我。
大我「……」
うつむいて歩いている。
若い男達が前を歩いている。
男A「今日の試合ひどかったな」
男B「名前覚えてないけど、反則負けになった奴だろ? 金返せって感じだよな」
大我「(男達を見る)……」
男A「あいつなら俺がやっても勝てそうな気するわ」
男B「(笑って)確かに確かに」
大我「(キレて)」
男達に近づいて肩を掴む。
大我「おいこの野郎。誰に向かって言ってんだ」
依子の声「健斗!」
大我「?」
依子が手荷物を持って立っている。
手を離す大我。
大我「母さん」
男たち走って行く。
大我「……なんで居んだよ」
依子「あんた何しよっとね!?」
大我「……」
依子近づいて、
依子「デビュー戦を見に来てくれたお客さんに、何手を出そうとしよっと!?」
大我「侮辱するやつなんて客じゃねえよ!」
依子「侮辱される様な試合をしたっちゃろうもん!」
大我「……母さんまで俺を責めるのかよ」
依子「あんたが大切やけん言うとよ!」
大我「説教なんて聞きたくねえよ」
依子「諦めようと思っとらんね」
大我「俺の勝手だろ」
依子「一試合負けたくらいでプライドが傷付くってどれだけ弱いとね」
大我「うるせえ!」
依子「心はまだ華奢な子供やんね」
大我「……見てみろよ」
依子「(振り向く)……」
会場から離れていく観客達。
その人数は少ない。
大我「プロレス界もどんどん客が離れて行くんだよ。こんな現実みたらやってらんねえだろ」
依子「ここまで来て損した」
依子、手荷物を置いて離れていく。
大我「おい」
依子「(振り向いて)あんたは大切な物を捨てたとよ」
依子、歩いて行く。
大我「もう来なくて良いって言っただろ!」
依子の姿は見え無くなる。
大我「……福岡から出てくるな!」
大我、視線を落とすと、依子の荷物。
荷物を開ける大我。
おにぎりが沢山入っている。
大我「……」
○ 選手寮・大我の部屋
ベッドで仰向けに寝ている大我。
ぼーっと天井を見つめる。
スマホから着信の音。
電話に出て、
大我「はい」
日野の声「大我? 久しぶり。今から飯行かね?」
大我「……」
○ 居酒屋(夜)
大我が日野とご飯を食べている。
スーツ姿の日野。
日野「本当久しぶりだな。半年振りくらいか?」
大我「ああ、そうだな」
日野「もう最近忙しくてさ、大型案件3件抱えてんだよ」
大我「へえ、……すごいじゃん」
日野「プレゼンも中々いい評判でさ。学生時代に解説してたから、意外と人前で上がらないんだよね」
大我「……」
日野、大我の顔の傷を見て、
日野「ひっどい傷だな」
大我「ああ。実はデビュー戦……」
日野「まだプロレスしてんの?」
と、話しを被せる。
大我「(ムッとして)……ああ」
日野「最近見てないな〜。プロレス」
大我「……」
日野「大我もそろそろ就職した方が良いんじゃない? 東都大学出身ならウチの会社の下請けくらい紹介出来るよ」
大我「……」
日野「その下請けの奴らがさあ。もう人出不足で納期に間に合いませんっつーの。こっちとしては『はっ?』って感じだよね」
と、バカにして笑う。
大我「……なあ、バカにしてんのか」
日野「(ハッとして)いやいや、そういう訳じゃないんだけど」
大我「就職? 俺はプロレスで順調なんだよ! お前みたいに人にペコペコ頭下げて小さい金貰う器じゃねんだよ!」
と、持っていたグラスをテーブルに叩く。
静まり返り、周りの客が大我を見る。
日野「……ごめん。大我の事思って言ったつもりだったけど」
大我「(我に返って)……わりい」
○ ニューレスリングジャパン道場・練習場
練習生達が練習している。
大我の姿はない。
それを見つめる矢嶋。
○ 同・事務室・前
晴海が事務室から顔を覗かせて練習場を見ている。
晴海「(心配)……」
○ 同・外観(夜)
中の明かりが点いている。
○ 同・事務室(夜)
晴海と矢嶋が話している。
晴海「今日も来なかったですね」
矢嶋「それだけの男だったって事だ」
晴海「助けないんですか?」
矢嶋「……助けを求めない奴を助ける訳にいかないだろ」
晴海「(微笑んで)助けたいんですね」
矢嶋「バカ言え」
晴海「次の興行まで間に合ったらいいですね」
矢嶋「帰る」
と、出て行く。
晴海「お疲れ様です」
○ 選手寮・大我の部屋(朝)
大我、ベッドで寝転んでいる。
大我「(天井を見つめる)……」
ドアをノックする音。
大我「?」
大我、気付くが無視する。
またドアをノックする音。
大我「うっせえな」
立ち上がり、玄関に向かう。
○ 同・同・玄関(朝)
大我、ドアの前に立ち、
大我「誰だよ」
東の声「東です」
大我「?」
大我、ドアを開ける。
ドアの外には東。
東「入っていいですか?」
大我「(困りつつ)あ、ああ……」
○ 同・大我の部屋(朝)
東が座っている。
大我、飲み物を持ってきて、
大我「何もねえけど」
東「ありがとうございます。意外と優しいんですね」
大我「……で、何だ? 矢嶋のおっさんに何か言われたか?」
東「いえ、何も」
大我「?」
東「プロレス……やらないんですか?」
大我「(ため息ついて)俺は向いてねえ。東の方がよっぽど向いてるよ」
東「そんな事無いですよ。僕は大我さんみたいにカリスマ性もないし」
大我「(笑って)励ましてるつもりか?」
東「……実は僕、大我さんに憧れてここに入ったんです」
大我「……?」
東「東都大学の学園祭で大我さんのプロレスを見ました」
大我「嘘だろ」
東「ホントです。実は僕、高校の時イジメられてて。……僕をイジメた男と大我さん戦ったんですよ?」
大我「……知らねえよ……」
東「結果は大我さんのラリアットでカウント3つ。圧勝でしたから」
大我「……」
東「今でもヒーローです」
大我、東に背を向け、
大我「……でもよお、学生プロレスではチャンピオン。本当のプロレスラーになると、年下のレスラーにも歯が立たねえ」
東「……」
大我「しかもその男は俺に憧れていたって。……笑えるなあ」
と、笑いながらも目に涙を浮かべる。
東「……前、いい試合は強いだけじゃ作れないって矢嶋さんが言ってたの覚えてます?」
大我「……まあ」
東「僕も入団した時、矢嶋さんに言われたんです。ベストバウトが生まれる瞬間はカウント3になった時じゃない。カウント2、99の時だって」
大我「(何かに気付く)……」
東「カウントギリギリでもそれを跳ね除けた時、観客は心を打たれ、ベストバウトが生まれる」
大我「(東を見る)……」
東「僕は大我さんのベストバウトが見たいです」
大我「……」
東「今、ベストバウトが生まれるんじゃないですか」
大我、ゆっくりと目を瞑る。
大我「……」
どこからともなく聞こえてくる観客の歓声。
観客の声「ワン! ツー!」
目を開けて勢いよく立ち上がる大我。
同時に歓声は止む。
大我「……!」
大我、外へ走り出す。
東「ちょっと! 大我さん!」
と、追いかける。
○ 選手寮・2階〜階段〜前(朝)
玄関のドアが開き、大我が走って出てくる。
階段を急いで降りてくる。それに続く東。
東「(追いかけて)ちょっと大我さん!」
選手寮の前にエンジンがかかった1台の車。
車の前で立ち止まる大我。
大我「やっぱいたのかよ」
○ 車・前(朝)
車の運転席の窓が下り、矢嶋が顔を出す。
矢嶋「乗れよ」
大我「説教聞きすぎて鼓膜破けてんだよな」
矢嶋「説教を聞く耳持ってないだろ」
大我、矢嶋、ニヤリと笑う。
○ 道路
大我達を乗せた車が走っていく。
○ 走る車・中
矢嶋が運転し、助手席に大我。後部座席に東。
窓を開けて外を見つめる大我。
窓の外には東京ドームが見える。
大我「……」
大我、真剣な眼差しで見つめる。
○ 東都大学・校門・前
「東都大学学園祭」の門が備え付けられ、中へ入っていく若い男や女達。
大我、矢嶋、東が立ち止まる。
矢嶋「お前の古巣だよ」
大我「(門を見上げる)……」
○ 同・構内
大我、矢嶋、東が歩いている。
どこからともなく歓声が響き渡る。
大我「?」
徐々にスピードを上げて歓声のする方へ走っていく大我。
○ 同・学生プロレス会場・観客席
大我立ち止まり、
大我「(驚いて)!」
観客の声「剛沢! 剛沢!」
と、剛沢コール。
○ 同・同・リング上
レフェリーの服を着た剛沢がリングに立っている。
観客に向かって手を振っている。
○ 同・同・観客席
歓声が鳴り響く。ゴングが鳴る。
大我、立ち尽くしている。
矢嶋、東が追いついて、
東「すごい歓声。(剛沢に気付き)あれ、剛沢さんじゃないですか?」
矢嶋「ああ」
大我「何で……。何ここでやってんだよ」
○ ニューレスリングジャパン道場・前(夕・回想)
荷物を持っている剛沢と、矢嶋の姿。
矢嶋「ホントに良いんだな」
剛沢「もう決めましたから」
矢嶋「これからどうすんだ」
剛沢「暫くはリハビリです。でも治ったら大我の大学で学生プロレスのイベントに出たいと思ってます。だから大我にこのプロのリングを任せたいと思います」
○ 東都大学・学生プロレス会場・観客席(戻って)
矢嶋「プロのリングに戻れないから、お前の育った場所を盛り上げようとして」
大我「あの野郎……」
大我、涙を堪える。
東「(微笑む)」
実況の声「おーっとここで鶴田のバックドロップ〜!」
リングに叩きつける音。
○ 同・同・リング上
男が大の字で倒れている。
相手選手がフォールする。
剛沢、リングに寝そべってカウントをする。
剛沢「ワン! ツー!」
男がフォールを跳ね除ける。
剛沢「(二本指を立て)カウントツー!」
カウント3が入らず観客の大歓声。
○ 同・同・観客席
大我、リング上を見つめる。
大我「……」
○ 同・同・リング上
大の字で倒れている男と相手選手。
男、相手選手にサソリ固めを決める。
観客の歓声。
剛沢が「ギブアップ」と相手選手に聞いている。首を横に振る相手選手。
○ 同・プロレス会場
大我、リング上を見つめる。
大我「……」
○ 同・同・リング上
相手選手がロープを掴む。観客の大歓声。
剛沢「ロープ! ロープ!」
と、サソリ固めを解く。
○ 同・同・観客席
リングを見つめたままの大我。
大我「面白え……」
矢嶋「(大我を見つめる)」
大我「……」
剛沢の声「ボロボロになっても希望の光は見える。倒れなきゃ見えない希望の光だ。倒れる時は背を向けるな。仰向けで倒れろ」
歓声が大我コールに変わって。
観客の声「大我! 大我! 大我!」
○ リングから見上げた照明(5年後)
リング上を照らす照明の光。
実況アナの声「場内からは大我コールが鳴り止まない!」
○ プロレス会場・リング上
コスチュームがオシャレなスパッツに変わった大我(28)。大の字で倒れ
ている。
○ 同・電子版
電子版にはV1決勝戦と表示。試合経過
時間22分15秒とカウント。
実況アナの声「時間は20分を超える白熱の闘い! 気力と気力のぶつかり合いだ〜!」
○ 同・観客席
依子(55)が応援している。
依子「健斗〜!」
○ 同・同・別の場所
ワイシャツ姿の日野(28)の姿。会社の同僚と思わしき人も隣で応援して
いる。
日野「大我〜! そんなやつやっちゃえ〜!」
○ 同・リング上
大我、立ち上がるが、小原(30)のラリアットが炸裂。
受け身を取りながら倒れる大我。
小原のフォール。
観客の声「ワン! ツー!」
大我「(目を開け)!」
フォールを跳ね返す。
観客の声「おお〜!」
実況アナの声「カウント2、99! カウント2、99!」
○ 同・観客席・別の場所②
剛沢(33)が応援している。
剛沢「立て! 大我!」
○ 同・リング上
大の字の大我。剛沢の声に気付き、
大我「!」
立ち上がる大我。
小原がロープの反動を使って、大我にラリアットをするが、大我もラリアットで相打ち。
実況アナの声「ここで相打ち〜!」
フラフラする小原。
大我「おお〜!」
と、気合いを入れて叫ぶ。
大我、ロープに走り、反動をつけて小原の後頭部にラリアット。
が、小原倒れない。
実況アナの声「大我、後ろからラリアット〜! 倒れない!」
大我、次は正面からラリアット。
倒れる小原。
実況アナの声「真っ正面からのラリアット〜!」
大我、フォールに入る。
観客の声「ワン! ツー! スリー!」
観客の声に合わせて実況アナも、
実況アナの声「これで、決まるか、V1王者〜! 決まった〜!」
試合終了のゴングが鳴る。観客の歓声。
大我の入場テーマ曲が流れる。
○ 同・観客席
依子が飛び上がって喜ぶ。
○ 同・同・別の場所
日野が隣の男と抱き合って飛び跳ねる。
○ 同・同・別の場所②
剛沢、嬉しそうに拍手をしている。
剛沢「(小さく)よくやった」
○ 同・リング上
大我、大の字に倒れている。
リングに上がってくる矢嶋(61)と東(26)。
東「大我さん!」
矢嶋「よくやった! 大我!」
大我、倒れたまま、
大我「(微笑む)」
実況アナの声「これぞ今年のベストバウト〜!」
終わり
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