登場人物
奈戸(なと)(30)・・・通行人
白草(しらくさ)(27)・・・サラリーマン
浦間(うらま)(25)・・・殺人者
○ 街、道(昼)
男が二人歩いてる。
前を歩く男はスーツ姿。白草(27)で
ある。
やや後ろを歩く男はレザーのコート姿。
奈戸(30)。
二人、同時に立ち止まり、タバコを取
り出す。
同時にタバコを咥え、同時に火を点け、
同時に一服。
その時、遠くの方で、パン、と何かが
破裂した様な音がする。
しばらくして、いきなり白草が倒れた。
銃弾が腹を貫通している。
奈戸のタバコの煙が揺らいだ。次の瞬
間、奈戸のおでこに弾丸がめり込む。
白草の腹を貫通した事によって弾速が
落ちた為、めり込むだけで助かった。
同時にドサッと倒れる二人。
大の字に倒れた奈戸。びっくりしてい
る。
おでこのあたりを恐る恐る触ってみる。
指が弾丸に触れた。
奈戸「痛っ!」
ゆっくりと起き上がる奈戸。
腹を撃たれた白草にヨロヨロと駆け寄
る。
奈戸「だ、大丈夫か?!」
白草「いかんね・・・」
奈戸「今すぐ病院に行けば助かる、かも、し
れない」
白草「・・・だったら、俺は犯人の顔を拝み
たい。死ぬ前に、そいつをぶん殴ってやる」
奈戸「分かった」
二人は肩を貸し合い、歩いていく。
○ 街(夕)
街には点々と弾痕の開いた看板や壁が
ある。
それを頼りに街を進む二人。
○ コンビニ近くの道(夜)
カップラーメンを食べている奈戸。
白草はその隣で銃創に新しいガーゼを
貼っている。
二人の近くをおばさんが通りかかった。
ふと奈戸の前で立ち止まり、
おばさん「あら、虫がついてますわよ」
と言って、奈戸のおでこから弾丸をむ
しり取ってしまう。
何だこれ、といった感じで弾丸を捨て、
去っていくおばさん。
奈戸は目を見開き、駆け巡る脳内物質
にぶっ飛んでいた。
輪廻、過去、未来、神、全てが見えた。
奈戸「見えた・・・。奴はこの先にいる」
白草「(か細い声)ま、待て!見えた、って
何?」
奈戸が、神が告げるかのように話す。
奈戸「トレパネーションだ」
白草「頭蓋骨に穴を開ける・・・アレか?」
奈戸、地面に落ちてる弾丸を拾う。
奈戸「この弾丸が穴を開けてくれた」
白草「なにか、能力が芽生えたのか?!」
奈戸「見えるんだ。俺たちをこんな目に合わ
せた奴の姿が・・・」
○ 奈戸の幻視。小屋のような場所(深夜)
薄暗い小屋内。
小屋中央に垂れた電球だけが一つ灯っ
ている。
男が一人、下着姿一枚で立っている。
浦間(25)である。
浦間の周りには、ナイフ、金づち、釘、
カッター、ペン、ガラス瓶などなど、
武器になるようなものがズラリと並べ
られている。
それらを自分の体に、ガムテープで貼
り付けていく。
× × ×
裸の上半身のあらゆる所に武器を貼り
付けた、武器人間の完成だ。
奈戸の声「そいつは、俺たちをまだ狙ってる」
○ 翌日、道(朝)
奈戸が白草に肩を貸して歩いている。
白草「ほんとに・・・、奴に近づいてるのか?」
二人、立ち止まる。奈戸がおでこの弾
丸を外す。
目を見開いて全知の状態になる奈戸。
スッと弾丸をおでこに戻す。
奈戸「間違いない・・・。この先にいる」
二人、また歩き出す。
向こうから人が歩いてきた。
裸の上半身に凶器を貼り付けた、浦間
だ。
ピタと立ち止まる三者。
奈戸「お前が撃ったのか」
浦間「撃った。お前らに当たったのか」
白草「てめえ・・・、腹撃たれて、こちとら
死にかけだぞ・・・」
奈戸「俺はおでこに」
でこを指差す奈戸。
浦間「あの弾丸はホームレス狙って撃ったん
だ。キキキ(笑)それで二人も倒せるとは
ね。あんたら救世主だよ、ホームレスのな」
白草「くそやろう・・・」
弱弱しくも飛び出しそうな白草を制す
奈戸。
浦間が反応する。
浦間「殺るか?」
奈戸がおでこの弾丸を抜く。
全身に満ちる自信、力、能力。
浦間が走り出した。と同時に、体に貼
り付けていたカッターとナイフをテー
プから剥ぎ取った。
奈戸も走り出した。
徐々に距離が縮まる両者。
浦間が凶器を構えた。
奈戸が右腕を後ろに引く。そして素早
いパンチを浦間の腹に見舞う。
口から血を噴き出す浦間。パンチの衝
撃があまりにも強すぎて、浦間の足が、
数メートル地面を擦って下がっていく。
ガクン、と地面にヒザをつく浦間。ハ
アハアと荒く息をしている。
浦間、バッと体に貼り付けていた釘5
本を取り、奈戸目がけて手裏剣の如く
投げる。
奈戸は動じることなく、釘を手で払い
のける。
浦間が背中の方に貼った金づちを取ろ
うと、奈戸から目を離す。
次、見た時には奈戸はそこにいなかっ
た。
すぐ側に立っている奈戸。右のゲンコ
ツを思い切り浦間の背中に叩きつける。
あまりの衝撃に、地面に埋もれる浦間。
奈戸がトドメをさそうとした時、
白草「奈戸・・・!俺にも・・・殴らせろ・・・!」
白草の弱弱しい怒り声。
フラフラした足取りで奈戸の元までや
ってくる。
奈戸が埋もれてる浦間を無理矢理立た
せる。意識が朦朧としている浦間。
白草がパンチを放つ。弱いパンチが浦
間のおでこに当たる。
浦間のおでこに血の跡をつけて、白草
は倒れてしまう。
奈戸が急いで様子を見る。死んでいる・・・。
それに気付いた浦間、
浦間「キキ、キキキ!死んじまったなあ」
奈戸の目が怒っている。
上着のポケットから弾丸を取り出す奈戸。
浦間と対峙する。
浦間「んだよ、おい。キキキ(笑)」
奈戸、弾丸を右手の指と指の間に挟み、
握り拳を作る。
すっと左手を伸ばして、浦間のおでこ
に触れる奈戸。
思わずビクッとする浦間。
浦間「お友達が死んで寂しいのかな(笑)」
ものすごい速さの右パンチを、浦間の
おでこ、白草の血がついてる辺りに叩
きこむ奈戸。
指に挟んでいた弾丸が、浦間のおでこ
にめり込んでいる。
めり込んだ所から血が垂れてくる。倒
れる浦間。
奈戸が、浦間のおでこから弾丸を抜こ
うとする。
その時、浦間の手が奈戸の腕をつかむ。
まだ死んでいない。
浦間「俺以外にも、俺みたいな奴はいるぞ・・・。
キキ・・キ・・・」
死んだ。
奈戸、浦間から弾丸を抜かず、去る。
○ 街(昼)
たくさんの人が行き交っている。
その中に奈戸がいる。
おでこから少量の血を流し、目を見開
いた奈戸。
奈戸の姿が、スッと人ゴミの中に消える。
終わり
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