○人物
鈴木 敏也(28)フリーター
浅井 橙(21)大学3年生
綾華(26)OL
白木(32)サラリーマン
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○コンビニ・中(夜)
サンタ帽を被り、フライヤーでチキンを揚げている沢井橙(21)。
ジングルベルの鼻歌を歌っている。
サンタ帽を被った鈴木敏也(28)がバックヤードからやって来る。
鈴木「沢井君、チキン揚げすぎです」
沢井「えー鈴木さん知らないんすか? この
チキン揚げすぎぐらいが美味しいんですよ?」
鈴木「知りません。規則は規則です。このチ
キンの揚げ時間は5分27秒と決まっています。もう20秒過ぎています。あ、ほらこうしているうちにも、ドンドン揚げすぎに!」
沢井「鈴木さん、細かいなぁ」
鈴木、沢井の腕を掴み、チキンをバットへ取り出す。
沢井「鈴木さん彼女いないでしょ? そんな
細かい性格じゃ、絶対出来ないわ」
鈴木「そんなこと、今日のシフトに入ってい
る時点で分かることじゃないですか」
沢井「あーあー。俺は雫ちゃんに一週間前に
フラれなければなぁ。今頃、楽しい楽しいディナータイムだったのになぁ」
鈴木はため息をつきながら、チキンを並べている。
沢井「あ、いらっしゃーせー」
鈴木「いらっしゃいませ」
スーツ姿の白木(32)が入って来る。
白木の目の下には濃い隈が出来ている。
商品の裏側を見て、笑っている。
沢井「うわぁ、何あの人。こわいな」
鈴木「深夜によく来るTHE社畜です」
沢井「言い方ひど。鈴木さんて、ちょいちょ
い口悪いっすよね」
鈴木「事実です。今日は早く上がれたみたい
で、良かったです」
白木「(小声で)なんだよ、このお菓子、超
体に悪いじゃねぇか、なんなんだよ、ガキにこんなもの食わせるのかよ」
白木、不気味に笑っている。
沢井「……俺はああはなりたくないですわ」
白木、レジにやって来て、それを受ける鈴木。
鈴木「メリークリスマス」
白木「あ、え、あ」
鈴木「すみません、今日はこの挨拶です」
白木「あ、あぁ、メリークリスマス」
沢井、煙草を整理しながら、鈴木と白木を見ている。
鈴木「お会計、987円です」
白木「あ、えっと、チキン2個ください」
鈴木「承知しました。少々お待ちください。
沢井君、お願いします」
沢井「は、はい」
沢井がチキンをトングで掴む。
白木「おい!!」
沢井は驚き、鈴木も白木を見る。
白木はうつろな目で沢井を見ている。
白木「……ありがとう」
沢井「へ?」
白木「ほ、ほら、大きいの入れてくれて」
沢井「あ、ど、どういたしまして」
沢井、愛想笑いをして、袋詰めされたチキンを鈴木に渡す。
鈴木「お会計、1347円です」
白木、鈴木にお金を渡す。
鈴木の裾を持って、震えている沢井。
鈴木と沢井「ありがとうございました」
白木「ありがとう。メリクリ」
不気味に笑いながら、店を出て行く白木。
沢井、しゃがみこみ、
沢井「こっわー! 俺、マジで、漏らすかと
思いました」
鈴木「普段、パソコンとしか向き合っていな
いから、人との接し方が分からなくなっ
ているんです。悪い人ではないです」
沢井、手で顔を覆っている。
鈴木「シザーハンズみたいですね、ふふ」
沢井「いや、全然面白くないですよ」
鈴木、沢井のサンタ帽を整える。
鈴木「沢井君はクリスマスに良いものをもら
えましたね。あのお客様からの笑顔」
沢井「……あ、はい」
鈴木「楽しくなってきましたね」
沢井、首をかしげる。
× × ×
商品整理をしている鈴木。
入店音が流れる。
鈴木「いらっしゃいませ」
沢井、アメリカンドッグを持ち上げ、
沢井「あ」
鈴木がドアの方を振り返る。
鈴木の頬が赤くなる。
ドア前には綾華(26)が立っている。
綺華はお辞儀する。
綺華「こんばんは」
沢井「い、いらっしゃいませ~」
鈴木、棚から商品を落とす。
沢井「鈴木さん」
鈴木「な、なんですか」
落ちた商品をもとに戻そうとするが、何回も落とす鈴木。
沢井「(笑って)鈴木さんって、わかりやす
いっすね~」
鈴木「う、これ買い取ります」
鈴木、落ちた商品を持ち、レジ内に入る。
沢井「かわいいっすよね、あの人。俺の時間
にもたまに来ます」
鈴木「そうですか」
鈴木は凍ったチキンをフライヤーに入れる。
綺華は商品を見て回っている。
沢井「クリスマスのこの時間にコンビニに一
人。ということは、彼氏はいないかも。鈴木さん~」
沢井は鈴木を肘でつつく。
沢井「チャンスあるかもっすよ」
鈴木「は? な、なんのチャンスですか」
沢井「せっかくの聖なる夜ですよ? 一発勇
気出して、連絡先聞いて見ても良いじゃないですか」
鈴木「ば、バカなこと!」
鈴木、生焼けのチキンをケースに並べる。
沢井「あ、ちょっ、それまだ生ですって!」
綺華、商品が入ったカゴを持って、レジに歩いて来る。
沢井「ほらほら、来ましたよ!」
鈴木は沢井をレジに押し出す。
沢井「ちょ、鈴木さん!」
綺華がレジにカゴを置く。
沢井「メリークリスマス」
綺華「(笑って)メリークリスマス」
沢井が鈴木を前に押し出す。
鈴木「メリークリスマス……」
鈴木は商品をレジに通そうと、カゴの中を見て、動きが止まる。
カゴの中には、大きめのコーラ、モンスター、ビール、蒙古タンメンのカップラーメン、ポテチの二郎系ラーメン味、ウィンナーカレーといった、男が好きな商品しか入っていない。
綺華「あと、煙草の5番ください」
固まっている鈴木。
沢井「は、はい」
綺華「あと、チキン2個と、アメリカンドッ
グ2個もお願いします!」
固まっている鈴木。
沢井「かしこまりました! ちょっと、鈴木
さん!」
鈴木「す、すみません」
鈴木、袋詰めをする。
沢井、チキンを袋に詰めながら、
沢井「(小声で)まだ分かんないすから。彼
女が大食いユーチューバーでめっちゃ油っこい物好きな可能性とかあるから」
鈴木「そうですね、でも煙草、今まで一度も
あ、いや、分かりませんよね、まだ」
鈴木、袋詰めが終わり、
鈴木「お会計、3225円でーー」
綺華「そのお帽子似合ってますね」
鈴木「え」
綺華「私にもサンタさん来ないかな……」
鈴木「……あ、あの!」
驚く綺華と沢井。
鈴木「もし、良ければ、僕があなたのサンタ
さんにーー」
入店音が流れる。
三人の視線が入口へと注がれる。
白木がスウェット姿で入って来る。
白木「おーい、綺華っ」
綺華、笑顔で手を振る。
鈴木、沢井は驚愕の表情。
白木「ごめん。気づいたら寝ちゃってて」
綺華「全然大丈夫だよ」
白木「あ、もうお会計しちゃった? 俺も買
ってたんだけど」
綺華「そうなの? でも、いいじゃん、いっ
ぱい食べよ」
白木「だな、じゃあ、行こっか」
綺華、鈴木に会釈する。
白木「ありがとう。メリクリ」
鈴木と沢井「アリガトウゴザイマシタ……」
白木と綺華が出て行く。
固まる鈴木と頭を抱える沢井。
鈴木「マダ、ワカラナイ」
沢井「いや、あれは確定ですって」
白木が店に戻って来る。
白木は急いで商品を取りレジに置く。
レジ上にはコンドーム。
鈴木「メリークリスマス」
白目をむいている鈴木。
外で雪が降りだし、喜んでいる綺華。
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