○人物
岬 海(15)高校生
岬 美波(24)村役場勤務
岬 渚(48)漁師
岬 湊子(39)スナック勤務
山城 河二(45)農家
岬家親族たち
お坊さん
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○岬家・庭
砂利が敷き詰めらている家庭的な庭。
雨が降っている。
般若心経が聞こえてくる。
○同・広間
般若心経を読み上げるお坊さん。
岬海(15)が正座をしている。
海の足先が小刻みに動いている。
岬渚(48)の葬式中、祭壇には渚の笑顔の遺影。
すすり泣く海。
岬美波(24)が海の手を握る。
海、嗚咽をこらえきれなくなる。
美波、海の背中をさする。
海「と、父さん……」
美波の海の背中をさする手が止まる。
泣きすぎてえずく海。
美波「少し出よう」
海は頷く。
美波が海に付き添い、部屋を出る。
○同・洗面所・中
海は顔を水で洗い、鏡を見つめる。
目が赤い。
○同・洗面所・前
海がしゃっくりをあげて出てくる。
美波、海の顔に垂れている雫を拭う。
海、美波の手を握って、
海「ごめんなさい、姉ちゃん」
美波「大丈夫よ」
美波を見つめる海。
○同・広間
美波と海が中に入って来る。
美波の座り場所の横に座る岬湊子(39)が美波を見て、笑う。
湊子「過保護ね」
美波「失礼しました」
海、湊子を睨む。
湊子「あー、怖い怖い」
美波と海、座る。
○同・外
霊柩車の助手席に座る美波。
後部座席に座る海。
運転手がクラクションを押す。
美波が後部座席を振り返る。
海、俯いている。
○火葬場
煙突から煙が出ているのを見上げている海。
海「やっと2人だ」
顔に付いている涙跡を手で掻く。
○同・広間
精進落としを食べる岬家親族一同。
賑やかな雰囲気。
美波の隣に座る海。
美波「食べないの?」
海「うん」
美波「ちゃんと食べないと、昨日も何も食べ
てないでしょ?」
海「……食欲ないから」
美波「体壊しちゃうよ?」
海「うん」
美波「ほら、ご飯だけでも食べて」
湊子がビールを飲みながら笑う。
湊子「美波~、ほっとけって。こいつももう
大人でしょ? あれいくつだっけ?」
海、湊子を睨む。
美波「まだ15です」
湊子「もう15だよ、私が15の時は」
美波「湊子さん、飲みすぎです」
湊子「うるさい。兄さんも酒好きだったから
いいじゃん。兄さんはかわいそうだねぇ。急におっちんじゃって、酒が飲めなくなっちゃうなんてね」
海と美波、湊子を睨む。
山城 河二(45)がビールを飲みながら、
山城「美波、お前らほんとに二人だけで暮ら
すのか?」
美波「そのつもりだよ。海のことは私が面倒
見るから」
山城「まあ、海ももう子供じゃねぇしな。大
丈夫か。俺もちょくちょく来るしさ」
美波「ありがとうございます」
山城「それはそうとさ、こんな席で言うのも
おかしいかもしんねえけどさ、美波は良い人とかいねえのか」
海、驚く。
美波「どうしたの、急に」
山城「急じゃないさ、お前の父ちゃんとも話
しとったから」
美波「……私はまだそういうのはいいよ」
海、足先を揺らす。
湊子「いいじゃん、恋バナ~」
山城「真剣な話だよ。もし、お前に今良い人
がおらんならさ……知っとるか? この春に一高に新しく先生がくるって」
美波「え? 海の学校に? 海知ってた?」
海「知らない……」
山城「その先生が村長の遠い親戚なんだっ
て、しかも、30歳で男前よ。この前来た時、美波の写真見せたらさ」
美波「やめてよ勝手に」
山城「まあまあまあ、そしたら素敵な方です
ね、だって」
美波「はあ? 何言ってんの」
海は美波を不安そうに見る。
湊子「いいじゃん、とりあえず会いなよ。
で、あんたがダメなら、私紹介して」
山城「お前は黙ってろ。なあ、美波? 今度
の日曜引っ越してくるから、その晩、会ってみないか?」
美波「……でも、急だよ、そんな」
海、勢いよく立ち上がる。
一同、愕然とする。
美波「海……」
海「いい加減にしろよ!」
一同、海を見る。
海「今日は父さんの葬式だよ。そんな話、不
謹慎だよ」
美波は海を見つめる。
海、部屋を飛び出す。
美波が海を追いかけようとすると、湊子が引き止める。
湊子「ほっとけ」
湊子の真剣な表情に美波はうなずく。
○同・海の部屋
綺麗に整理されている。
海、中に入って来て、学習机の引き出しの鍵を開ける。
引き出しを開けると、中にはアルバムが、アルバムを開けると美波の写真が敷き詰められている。
海はアルバムを抱き締め、座り込む。
海「やっと二人、やっと二人、二人になれた
のに」
一階、広間から声が聞こえてくる。
山城の声「こんな時だけど、こんな時だか
ら、自分の幸せ考えな」
美波「でも」
小刻みに足を揺らす海。
海は勢いよく立ち上がり、部屋を出て行こうとすると、タンスの角に小指をぶつける。
痛みに顔を歪める海。
靴下から血が滲んでいる。
山城の声「な、美波。一回な」
海、何か思いついたかのような表情をし、立ち上がる。
○同・廊下
足を引きずる海。
一階から声が聞こえる。
ベランダから光が差し込んでいる。
ベランダのドアに手をかける海。
○同・ベランダ
海が足を引きずりながら、出てくる。
雨は止んでいる。
地面が濡れている。
鉄柵に手をかけ、下を見下ろす海。
飛び降りる海。
○同・広間
精進落としを食べている岬家親族一同。
庭からドンッと鈍い音が聞こえてくる。
美波が庭を見る。
湊子「何の音?」
美波「海……?」
美波、慌てて部屋を出る。
○同・庭
美波、走って来る。
海が倒れている。
頭から血が流れている。
美波「海、なんで、ちょっと、海」
山城、湊子がやってくる。
山城「海、なんで……」
美波「ど、どうしよう、これじゃお父さんと
一緒になっちゃう」
湊子「救急車、呼んでくる」
美波「海」
海「姉ちゃん、ごめんね」
美波「いいよ、大丈夫。喋らないで。でもな
んで? なんで?」
海「……分かんない」
美波「そっか、いいよ、もう」
海「行けないね」
美波「何が?」
海「週末の」
美波、ハッと気づいたような表情に。
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