牛革のベルト ギャグ

通勤途中の電車の中で32才のサラリーマンはベルトをし忘れていることに気づいた。今日は会社で月に1度の定例会議がある。そのあとはいつもの部長との打ち合わせ。その部長が自分の格好を見たら怒りを買うのは目に見えている・・・。
はんがーもっぷ 8 0 0 10/05
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第一稿

都心に向かう満員電車の中。汗だくの清水光雄はつり革に捕まっている。前に座っているスーツを着た秘書風の若い女性が眉間にシワを寄せて下を向いている。
清水光雄(し、しまった・・・どう ...続きを読む
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都心に向かう満員電車の中。汗だくの清水光雄はつり革に捕まっている。前に座っているスーツを着た秘書風の若い女性が眉間にシワを寄せて下を向いている。
清水光雄(し、しまった・・・どうしよ・・)
顔面蒼白になって、ずり落ちそうになるズボンを押さえている。太っているので押さえていないとずり落ちそうになる。
清水(全然気づかなかった・・・この人にパンツ見られたかも・・・)

朝、スーツに着替えながら、2,3日前からなぜか機嫌の悪い妻の顔色をうかがっていて、ズボンにベルトを通すのを忘れたまま家を出てしまった。
電車が大きく揺れると両腕でつり革をつかまないとならない。ポッコリとお腹が出ているからズボンが少しずり落ちてくるので慌てて片方の手で前ポケットのあたりを押さえ、上に引っ張る。そんなことを繰り返してもう20分経つ。その度に前の女性が顔をそむけ、眉間のシワも段々深くなる。きっと腹毛も見えているのだろうと想像する。

清水(この人には申し訳ないな・・・でもそれより問題なのは今日の打ち合わせだ・・・この格好見たら河野部長怒るだろうな・・・怒るどころか激怒するかも、そしたらもう会議にも出席させてくれないかもしれない・・・苦節10年、ようやく課長補佐にまでなったのに・・・これが原因で降格されるかもしれない、い、いやヘタするとクビかもしれない・・・そしたら、離婚なんてことになるんじゃ・・・)

いつもの駅を降りていつもより早歩きで改札を抜け、最後にはダッシュして近くのコンビニに飛び込んだがベルトは売ってなかった。息を吐きながら冷や汗が背中を流れた。

清水(たとえコンビニにベルトがあっても河野部長は許してくれないだろうな・・・)
会社のビルを見上げながら大きくため息をついた。

月初の定例会議は滞りなく終わった。先月の業績が良かったこともあり、終始和やかな雰囲気だった。今日の河野部長はいつものようにロマンスグレーを七三に分け、長身細身の体型にぴったりとあった黒のスーツを着て、口髭の下の薄い唇を穏やかに微笑ませている。
だが清水にはそれが嵐の前振れのような気がしてあまり発言もできなかった。
この後いつものように今週の細かい打ち合わせのため河野部長とマンツーマンで部長室でミーティングをすることになっている。
清水はファイルを左脇に抱えたまま、額や首周りを流れる汗をクシャクシャのハンカチで2,3度拭いてからドアをノックした。ファイルを抱えてはいるがズボンもずり下がらないようにしている。
「どうぞ」
河野部長の低音の声が聞こえる。低音ながらもさっきの会議とは違うウキウキした感じがしているのが清水にはわかる。また汗が噴き出る。スーツの下のワイシャツが素肌にべたりとへばりついている。
「し、失礼します・・」
背を向けていた河野部長は回転イスをクルッと回すと、
「待ちかねたぞ、清水君っ」
「す、すみません、これを」
清水は両手で貢ぎ物を捧げるようにファイルを差し出した。ズボンがゆっくりとずり下がり始めた。
河野部長はファイルを机の端に放ると、
「うむ、じゃあさっそく」
と言いかけて、
「ん?どうしたんだそれは?」
おや、という顔をして清水の下半身を見た河野部長の笑顔が赤黒い鬼の形相に変わるまで3秒もかからなかった。
「んんんんんんっ!」
音を立てて立ち上がった河野部長は清水を睨みつけた。
「すぅ、すぅみませんっ部長ぉ!ベルトぉ、ベルトぉ、をし忘れてしまったんです!」
清水はズボンを押さえながら必死に謝った。
「なんだとっ、じゃあ今日は誰がわたしをいたぶると言うんだねっ⁉んんっ?」
「じゅ、10時になったら高○屋デパートが開店しますから、あと15分ですから、急いでベルトを買ってきますっ。」
「本当に、本当に買ってくるんだろうねっ?」
「もちろんですぅ!」
「どんなベルトだっ?言ってみたまえ!」
「黒い牛革ですっ」
「サイズはっ?」
「幅3.5cm、長さは125cmですっ」
「穴はっ?」
「ついてません!」
河野部長は音を立てて椅子に座ると、ふうっ、と息をつきながらネクタイをゆるめた。
「わたしはここで待っていればいいんだね?」
「は、はいっ!」
「わかった、早く行きたまえ!」
清水は部長室を飛び出た。
1時間後・・・。
ビシィ!!
部長室に鳴り響く鋭い音。
「あうっ!」
河野部長が恍惚とした笑顔で声をあげる。
紙パンツ姿で床に四つん這いになっている河野部長の白い背中はすでに赤いミミズ腫れの筋がいくつもできている。
同じく紙パンツ姿の清水は買ったばかりのベルトを必死に振り上げ、河野部長の背中に叩きつける。
ビシィ!!
「い、いいよっ、いいよっ、清水くぅん、とってもいいよっ」
「は、はい、ありがとうございますっ」
そう言いながら清水はベルトを振り上げては力強く振り下ろす。
ビシィ!!
「はうっ!い、いいよっ、ベルトン!」
清水を“ベルトン”と呼び始めたら河野部長が絶頂に向かい始めた合図だ。
ビシィ!!
「もっとお、もっとだよっベルトン!」
「はいぃ部長お!」
ビシィ!!
「おお!ベルルゥ、ベルルゥ、もっトントン!」
泣くように叫ぶ河野部長。“ベルルゥ”が出たらいよいよ絶頂を迎える。
清水の動きも速くなり、勢いよく声が出る。
「えいっ、えいっ」
ビシィ!!ビシィ!!
「う、ベルルゥ、ベルルゥ、もっトン、もっトントン!」
清水の大量の汗が河野部長の背中や床に飛び散る。
「えいっ、えいっ、えいえいえいぃ!!」
ビシィ!!ビシィ!!ビシィ!!
「ああっ、ベルロン!!」
河野部長は絶頂の雄叫びを上げると、スローモーションで床に這いつくばった。
肩で息をする清水の足元で、白目を剥いて横たわる河野部長。

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