My Angel ドラマ

いくら頑張っても認めてもらえず全てを投げ出して現実逃避の旅に出る事を選んだ丈二。 道中で同じく現実に嫌気がさした麗奈と共に行く事になるが彼女は親に無断で家出をした未成年だった。 世間では誘拐事件と言われてしまい現実逃避の旅は過酷となって行く。 旅の果てに彼らの導く答えとは。
甲斐てつろう 60 0 0 08/24
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

【登場人物】
岬丈二(25) 嘘まみれのフリーター
渚麗奈(16) 家出した女子高生
船場直樹(26) アパートの大家
岬由希(55) 丈二の母
刑事A(43) 丈二を追 ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

【登場人物】
岬丈二(25) 嘘まみれのフリーター
渚麗奈(16) 家出した女子高生
船場直樹(26) アパートの大家
岬由希(55) 丈二の母
刑事A(43) 丈二を追う刑事
刑事B(28) 丈二を追う刑事
麗奈父(52) 麗奈の父で医者
麗奈母(38) 麗奈の母

その他



〇アパート・丈二の部屋 (朝)
  テーブルに置かれたスマホから留守電が鳴
  る。
  岬由希(55)の声が誰もいない部屋に響
  く。
  以下、留守電
  ×      ×      ×
由希「もしもし丈二、お母さんだけど。もしか 
 して忙しいからあんま連絡くれないのかな? 
 だったら良い事だから気にしないで、せっか
 くいい企業に勤めてるんだから。お母さんも
 鼻が高いよ、沢山勉強頑張らせた甲斐があっ
 たなぁ。まだまだ頑張れば社長にだってなれ
 たりして!」
  ×      ×      ×
  岬丈二(25)、シャワーから上がり留守電
  が流れている事に気付く。
  以下、留守電続き
  ×      ×      ×
由希「でもたまには声が聞きたいな、時間があ
 る時は連絡してね? じゃあ今日もがん
 ば……」
  ×      ×      ×
  丈二、頑張れという言葉を遮るように留守 
  電を止める。
丈二「はぁ……」
  丈二、溜息を吐き身支度を始める。
  ロックナンバーを流しながら髪を整え服を
  着てそのタイミングで焼けた食パンにジャ  
  ムを塗ってコーヒーと共に口に運ぶ。
  食後の一服をしながらスマホでメッセージ
  を確認した。
  以下、画面上で
  ×      ×      ×
後輩「丈二さんのお陰で企画通りそうです!」
丈二「そうか、頑張った甲斐があったな!」
  ×      ×      ×
  丈二、時計を確認すると煙草の火を消して
  玄関に向かう。
  香水を浴びて車のキーを手に玄関から外へ
  出る。
 
〇アパート・駐車場 (朝)
  丈二、停められたスポーツカーを優しく撫
  でた。
  船場直樹(26)、スポーツカーを撫でる丈
  二に声を掛ける
直樹「何してんだ」
  丈二、直樹に話しかけられ態度が弱々しく
  なってしまう。
丈二「いや、カッコいい車だから……」
直樹「またレプリカで気分だけ味わおうっ
 てのか」
丈二「だってこんな良い車買えないし……」
直樹「いつまでもフリーターだからだろ、その
 割に服とかは良いの買ってさ」
  直樹、本物のキーで車の扉を開けエンジン
  を掛ける。
丈二「直樹も仕事?」
直樹「あぁ、不動産屋さんと話しにちょっと。
 誰かさんのせいで経営がな、早く家賃頼む
 ぜ」
丈二「分かってるよ……」
直樹「もっと頑張って就職しろよ、カッコつけ
 んのはそれからだ」
  直樹、車を走らせ仕事へ向かう。
  丈二、車を見つめながら溜息を吐いた。
丈二「俺だって頑張ったんだよ……」
   丈二、そのまま自分の職場へ向かった。
 
〇職場・コールセンター (朝)
  丈二、誰とも会話せずにマニュアルだらけ
  の席に座る。
  髪型が崩れないように気を付けインカムを
  身に着けた。
丈二「左様で御座います、こちらの回線に変え
 ていただくとお値段が今より安くなるんです
 ねっ……」
  マニュアルを見てセールスの電話を老人相   
  手に行っている。 
老人「……いらないです」
丈二「でしたらこちらの……」
老人「いらないっつってんだろダァホッ!」
  老人に怒鳴られ電話を切られてしまう。
  上司、丈二に声を掛ける。
上司「またダメだったか」
丈二「はい……」
上司「もう半年も経つのにマニュアルに頼って
 るからだぞ? 緊張も抜けてないから相手も 
 安心できないんだ」
  上司、丈二の肩を叩く。
上司「ホラ、午後からはもっと頑張れ」
  ×      ×      ×
  午後になりアルバイトの高校生がやって来
  る。
上司「おぉ来たか、今日も頼むぞ」
バイト「任して下さいよ~」
  丈二、2人のやりとりを羨ましそうに見て
  いる。
  ×      ×      ×
  バイト、業務を開始してすぐそのまま契約 
  を取る。
バイト「はい、はい。左様で御座います。本当
 ですか、ありがとうございます!」
  上司も高校生の様子を感心しながら見てい
  る。
 
〇同・コールセンター (夜)
  終業の時間になり一同は帰宅を始める。
  上司、帰る直前の丈二に成績表を見せつけ
  た。
上司「岬、結局お前がビリかよ」 
丈二「すいません……」
上司「謝罪は何度も聞いたよ、どうするかって
 聞いてんの」
丈二「はい……」
上司「見た目も雰囲気も良いから出来るヤツか
 もと思って採用したけどよ、もっと中身を磨 
 く努力をしろよ」
丈二「はいっ……」
上司「もっと時間短くしても良いんだぞ? 長
 時間勤務の割に成長見られないし正直こっち
 も困るんだ、給料だけ持ってくから」
丈二「はい……」
上司「さっきからはいはいって、本当に分かっ
 てんのか?」
丈二「……はい」
上司「ったく……ホラ、もっと頑張って見た目
 と雰囲気に見合う男になれよ」
  上司、丈二の肩を叩いた。
 
〇同・階段の踊り場 (夜)
  丈二、誰もいないのを確認して地団太を踏
  む。
丈二「だぁぁぁクソッ!」
  しかし階段を昇ってきたOLに見られてし 
  まいまるで転びそうになったかのように誤
  魔化した。
丈二「んんんんんん!」
  丈二、OLが去ったのを確認し腕を噛み音
  を殺し叫ぶ。
 
〇同・ビルの裏路地 (夜)
  丈二、ビルの裏でしゃがみながら煙草を吸
  う。
  その際、スマホで朝のメッセージアプリを
  確認していた。
  以下、画面上で
  ×      ×      ×
後輩「丈二さんのお陰で企画通りそうです!」
丈二「そうか、頑張った甲斐があったな!」
  ×      ×      ×
  丈二、そのフェイクメッセージアプリで後
  輩を演じた文章を打つ。
  以下、画面上で
  ×      ×      ×
後輩「あなたは頑張ってますよ、どうか気を落
 とさないで」
  ×      ×      ×
  丈二、煙草の火を消し帰路につく。
 
〇アパート・部屋の前 (夜)
  丈二、暗くなる頃に帰宅。
  直樹、部屋の前で待っていた。
直樹「やっと帰ってきた」
丈二「待ってたの?」
直樹「うわ、お前また煙草めっちゃ吸ったな?」
丈二「それしか拠り所がないんだよ……」
直樹「はぁ、そんで話あるんだ。俺の部屋
 に来い」
丈二「俺の部屋じゃダメ?」
直樹「煙草臭いだろ、俺の部屋でも吸うなよ」
丈二「あぁ……」 
 
〇同・直樹の部屋 (夜)
  丈二と直樹、机で向かい合い座る。
直樹「何の話か分かるだろ?」
丈二「……家賃」
直樹「そうだな」
  直樹、未払いの振り込み用紙を突き出す。   直樹「これで何度目だ? 事情があるのは分か
 るけどよ、こっちも払ってもらわないと干上
 がっちまうんだ」
丈二「もうちょっと待って! 必ず払うから!」
直樹「それは何回も聞いた、もう信用ならねぇ
 んだって」
丈二「くっ……」
直樹「お母さんのグループホーム、そっちはち
 ゃんと払ってんだろ?」
丈二「そっちの費用が高くて……!」
直樹「だからって見過ごせないんだよ。幼馴染
 のよしみで見逃してやって来たけどよ、流石
 に限界だぞ」
丈二「でも……」
直樹「どうだ、そろそろお母さんに本当のこと
 話してみるのは?」
丈二「は……?」
直樹「グループホームの費用、世帯所得が一定
 以下だと支援してくれる制度があるらしいん
 だ。正直に話してそれ使ってみるのはどう
 だ? そしたらこっちの家賃も払えるだろ」丈二「だ、ダメだ! 母さんは病んでるんだ、
 本当の俺を知ったらショックで自殺しかねな
 い……」
直樹「だからって今のままでいい訳ないだろ、
 大企業のエースで可愛い彼女もいてなんて真
 逆じゃねぇか」
丈二「だって母さんずっと俺に偉大になるよう
 に言って来たんだ、俺がそうなるのを生き甲
 斐にしてた。でもダメで病んじまったんだ
 よ……」
直樹「それでその尻拭いもお前がやるのか? 
 正直に言うぞ、お前はお母さんの奴隷じゃな
 い!」
丈二「奴隷って……!」
直樹「無理な期待を押し付けて出来なかったら
 病んでよ、その世話をさせるなんて勝手すぎ
 ないか? いい加減お前も縛られる必要ない
 って!」
丈二「だからって……! それでもし母さんが
 死んだら最悪じゃねぇか……!」
直樹「だから安心させられるように頑張れよ。
 ちゃんと就職しろ、俺も手伝うから」
丈二「みんなそれだ、俺だって頑張ってんだ
 よ! ダメだったけどさ、勉強も就職も頑張
 ったんだって……!」
直樹「全部お母さんが言うからだろ?」
丈二「だって母さん全然褒めてくれないから何
 とか褒められようと頑張った……! ダサい
 って言われたら服とか調べて、臭いって言わ 
 れたら香水とかさ……!」
直樹「その結果苦しんだろ? もう良いって、
 好きに生きろ。そしたらまた音楽だって始め
 られるかもしれないし……!」
丈二「今更わかんねぇよ……!」
直樹「いい加減にしろって! 考えるのやめて
 ちゃどんどん悪い方に行く、手始めに家賃払 
 えないから追い出す事になるぞ?」
丈二「じゃあいいよ、出てく」
直樹「何でそうなる!」
  丈二、無気力に立ち上がり玄関に向かう。
  直樹、追いかける。
直樹「おい待て! 逃げてどうすんだ、現実
 を見ろ!」
  丈二、無視してブーツを履く。
直樹「このままじゃ本当に最悪になるって、も
 っと頑張れよ!」
  丈二、立ち上がり呟く。
丈二「頑張ったよ、散々。もう疲れた、休ませ
 て……」
直樹「お前やばいぞ! 病院いこう、本当に!」
丈二「そしたら母さんにバレるかもだろ……」
  丈二、玄関に置いてあった車のキーを手に
  取る。
  そのまま外へ出て直樹のスポーツカーへ向
  かう。
直樹「は? 何やってんだ!」
  直樹、慌てて靴を履き追いかけるが丈二は
  既にエンジンをかけてしまっていた。
直樹「待てよ!」
  直樹、走り出す車の窓を叩くが丈二は無視
  を決め込む。
  丈二、そのまま直樹のスポーツカーを盗む
  ような形で走って行った。
直樹「あのバカ野郎……!」
  直樹、丈二が車で走り去っていった道を一
  人で眺めていた。 
 
〇コンビニ・駐車場 (夜)
  丈二、コンビニの駐車場に車を停める。
  そのまま降りて設置された灰皿の前で煙草
  に火を点けた。
丈二「ごほぉっ……」
  丈二、勢いよく吸い込んだため咳き込んで
  しまう。
  そのタイミングでガラの悪い男達がコンビ
  ニから出てきて丈二の隣で煙草を吸い始め
  る。
  丈二、怖くなりそそくさと車に戻り運転を
  再開した。
 
〇ロックバー (夜)
  丈二、ロックバーで一服する。
  マスター、丈二に声を掛ける。
マスター「今日は直樹は一緒じゃないんだ」
丈二「そうっすね……」
マスター「んじゃ何飲む?」
丈二「飲めないんです、運転するので」
マスター「お、遂に車買ったの?」
丈二「そんな感じっす……」
マスター「ねぇ、車見せてよ!」
丈二「え、それは……」
マスター「何渋ってんだよ。あ、直樹のスポー
 ツカーで目が肥えてると思ってんのか?」
丈二「う……」
  そのタイミングで店のドアが開く。
マスター「いらっしゃいませ……ん?」
  丈二、安堵の溜息を吐く。
  しかしマスター、来客の様子に困惑した。
マスター「え、その恰好なに……?」
  渚麗奈(17)、セーラー服にGジャンだけ
  を羽織り来店。
マスター「高校生なの、それともコスプレ?身
 分証見せてもらえるかな?」
麗奈「身分証、持ってないです……」
マスター「年齢が分からないとちょっと入れら
 れないかなぁ」
麗奈「えー良いじゃないですか! ホラこのク
 レカめっちゃいいやつ、私お金持ちだか
 ら!」
マスター「あのねぇ、こっちも営業してる身だ
 からしっかりしなきゃいかんのよ。警察呼ん
 で補導してもらう事になるけど?」
麗奈「警察はっ! ウチには帰りたくない!」
  丈二、警察という言葉にビビり介入する。
丈二「あの、マスター!」
マスター「どうした、知り合い?」
丈二「えっとそういう訳じゃ……」
  丈二、必死に考える。
丈二「その子、俺が連れて帰ります……」
マスター「JKをナンパかお前! なら外行き
 な、ウチはそういった事に加担したくないん
 で」
  丈二、麗奈を連れて店の外へ出る。
 
〇ロックバー・外 (夜)
  丈二、麗奈の隣でしゃがみ込み煙草を吸
  う。
麗奈「ねぇ、何で助けてくれたの?」
丈二「だからナンパだって……」
麗奈「ウソ、じゃあ何で話しかけもしない訳?」 
丈二「う……」
麗奈「お兄さん犯罪者なんだ?」
丈二「ごほっ、何で……?」
麗奈「だって警察って言われた途端に止めに
 来たし」
丈二「くっ……」
麗奈「ねぇ何やったの?」
丈二「何で嬉しそうなんだよ?」
麗奈「ロックな人好きなんだ! 何にも縛られ 
 ないって感じ!」
  丈二、溜息を吐く。
麗奈「ねぇねぇ教えて?」
丈二「ダチと口喧嘩になったから車盗んで逃げ
 た」
麗奈「えーすご! 超ロックじゃん!」  
丈二「そんなカッコいいもんじゃねぇぞ、第一
 印象だけでつまらない男さ」
  丈二、煙草の持ち方を変える。
  麗奈、その仕草を気に入る。
麗奈「おぉその持ち方カッコいい! うん、お
 兄さんはつまらない人じゃないよ!」
  麗奈、丈二にお願いをする。
麗奈「そこでお願いがあるんだけど、今逃げて
 るんでしょ? 私も連れてって!」
丈二「はぁ? 何でそんな事!」
麗奈「実は家出してるんだ、行く所なくて……
 お兄さんと一緒なら楽しめそう!」
丈二「いやでもなぁ……」
麗奈「許してくれなきゃ補導された時に警察に
 言うぞ」
丈二「はぁぁ分かった、着いて来い」
麗奈「やった!」
  丈二と麗奈、盗んだ車を見る。
丈二「これが車」
麗奈「盗んだ車かぁ」
丈二「あんま言うな」
  丈二、そそくさと車に乗り込む。
丈二「早く乗れ、置いてくぞ」
麗奈「あぁ待って」
  麗奈、慌てて車に乗りシートベルトを締め  
  る。
麗奈「よーしレッツゴー!」
  丈二、エンジンを入れて運転を始める。
丈二「そいえば名前は?」
麗奈「麗奈、渚麗奈!」
  麗奈、ウインクをしてアピールする。
麗奈「ちなみにピチピチの現役JKだよ!」
丈二「マジかよ……」
  丈二、冷や汗を流しながら運転を続けた。
 
〇ロックバー (深夜)
  マスターのスマホに直樹から着信が。
マスター「もしもし、どうした直樹?」
直樹「マスター、すいません遅くに」
マスター「営業中だから問題ないよ。てか大丈
 夫か、具合悪そうだけど」
直樹「色々ありましてちょっと聞きたいんです
 けど店に丈二来てません?」
マスター「あぁ、さっきまでいたよ」
直樹「え、マジですか?」
マスター「車買ったとか言って喜んでたけど」
直樹「……その車、俺のです」
マスター「どういう事?」
直樹「盗まれたんですよ!」
マスター「えぇ!」
直樹「今警察と話しててアイツが行きそうな場 
 所探ってたんですよ、詳しい状況とか教えて
 くれません?」
マスター「わ、分かった……」
  マスター、直樹に丈二の様子などを話し
  た。
 
〇車の中 (深夜)
  丈二と麗奈、宿泊できるホテルやネットカ
  フェを探すが泊まれない。
丈二「どうする、休まらねぇぞ……」
  丈二、イライラが募り貧乏ゆすりしてしま  
  う。
丈二「煙草吸いてぇ……」
麗奈「吸えばいいじゃん」
丈二「あのな、他人の車だぞ」
麗奈「そういうの気にするの? それ以上の事
 もうやってるのに」
  丈二、麗奈の要望に溜息を吐く。
麗奈「ねぇ見てみたい、運転しながら煙草持つ
 手を窓から出す奴!」
丈二「ったく分かったよ……」
  丈二、言われた通り煙草を持つ手を窓から
  外に出す。
麗奈「それそれ! 映画みたいでカッコいい!」
丈二「映画好きなのか?」
麗奈「うん! ってかサブカル系全般!」
丈二「だからそんな恰好……」
  丈二、麗奈の服装を見る。
麗奈「これはね、学校から帰ってそのまま親と
 喧嘩したから着替える暇なかったの」
丈二「なるほどね」
  丈二、少し気にする素振りを見せる。
丈二「喧嘩ってどんな……」
  麗奈、そのタイミングで何かを発見する。
麗奈「あ、ホテルだって!」
  そこにはアメリカのモーテルのような建物
  が。
 
〇ラブホテル・外観(深夜)
丈二「ここって……」
麗奈「モーテルみたい! 駐車場空いてるよ、 
 泊まれるかも!」
 丈二、苦笑いしながら空いた駐車場へ停め
 た。
 
〇同・部屋 (深夜) 
  丈二と麗奈、チェックインし部屋に入る。
丈二「ふぅ、何とか入れたな」 
麗奈「わぁでっかいベッド!」
  麗奈、いきなりベッドにダイブする。
丈二「はしゃぎすぎだぞ、ベッドでは靴脱げ」
麗奈「はーい」
  麗奈、靴を脱ぎ捨てた後ベッドに大の字で
  寝転がった。
麗奈「凄い楽しいの! 何にも縛られずに自由
 って感じ!」
  丈二、独り言を呟く麗奈に今後を相談しよ
  うと話しかける。
丈二「なぁ……」
麗奈「すぅ、すぅ……」
  しかし麗奈、既に眠っていた。
  丈二、そんな麗奈にやさしく布団を掛けて
  あげる。
丈二「ふあぁ……」
  丈二、眠くなり麗奈と同じベッドに腰掛け
  る。
麗奈「うぅっ、ぐすっ……」
  丈二、麗奈が寝ながら泣いている事に気付
  き離れる。
  そのまま部屋の椅子に腰掛け眠りについ
  た。
 
〇同・部屋 (日替わり朝)
  麗奈、目覚めるとTシャツ姿で濡れた髪を
  拭く丈二を見る。
  丈二、テレビを見て固まっている。
麗奈「どうしたの……?」
丈二「おいこれ……」
  ニュース番組には丈二の顔が映っていた。
麗奈「これお兄さん⁈」
  ニュース番組の見出しには『少女誘拐事
  件』と書かれていた。
麗奈「誘拐⁈ 私自分から着いて行ってるの
 に!」
  以下、画面上で 
  ×      ×      ×
  マスター、リポーターにインタビューを受
  けている。
マスター「なんかソワソワしてて変だとは思っ 
 たんですけどまさかあのまま誘拐するなん
 て……」
  そしてニュースキャスターが麗奈の情報も
  提示する。
キャスター『行方不明なのは渚麗奈さん16
 歳、昨晩家を出たきり帰って来ないと母親か
 ら警察に連絡が。最後に目撃されたのは岬容
 疑者と車に乗り込む姿のため誘拐だと思われ
 ます』 
  次に麗奈母(38)、顔を隠してインタビュ
  ーに応じる。
麗奈母『最後に喧嘩しちゃって謝りたいんで
 す、どうか娘を返して下さい……!』
  ×      ×      ×
  丈二、焦りから足踏みをしてしまう。
丈二「これ以上背負えねぇって……」
  丈二、革ジャンを羽織り部屋のキーを取
  る。
麗奈「え、どうするの……?」
丈二「予想以上にヤバい事になった……!」
  丈二、頭を搔きむしり母の事も思い出す。
丈二「あーでも母さんがっ、どうしよう……!」
  丈二、職場や直樹からの着信が山ほどある
  事を確認。
麗奈「お兄さん、私家には帰りたくない
 よ……? もうあんな縛られた生活には戻り
 たくない!」
  麗奈、丈二に縋り懇願する。
麗奈「お願い助けて! ちょっとの間だけで良
 いからお兄さんみたいに自由でいたいの!」
  丈二、麗奈の言葉に反応してしまう。
丈二「俺が自由か……」
  丈二、少し黙り考える。
丈二「どうなるか分からないぞ?」
麗奈「それでもいい、一瞬だけでも自由を知
 りたい」
丈二「よし、じゃあ行こう」
  丈二と麗奈、準備を済ませて外へ出る。
 
〇同・受付 (朝)
  受付でチェックアウトを済ませる2人。
受付「はい確認しました」
  丈二、カウンター内にあるテレビに自分た
  ちが映っているのを見つけてしまう。
丈二「やべ……」
  丈二と麗奈、慌てて退散し外へ出た。
麗奈「危なかったねぇ」
丈二「心臓もたねぇ……」
  丈二と麗奈、そのまま車に乗り走って行っ
  た。
 
〇警察署
  直樹と刑事A(43)と刑事B(28)、話
  している。
刑事B「うわラブホ行ってんすか、引きます
 わ……」
刑事A「おい、そんなこと言うな」
刑事B「さーせん」
  直樹、刑事Bの無礼を咎めない。
直樹「良いんですよ、アイツもやらかしてる身
 なんで」
  直樹、目撃情報に目を通す。
直樹「やっぱ俺も追い詰めてたのか……」
刑事B「船場さんは悪くないっすよ、友人のこ
 と考えてたんでしょう?」
直樹「じゃあどうすりゃ良かったんだろう、お
 母さんの件もどうしようも無かったし……」
  刑事A、直樹の向かいに座る。
刑事A「その母親の件で彼は追い詰められたと
 聞きましたが具体的な話を聞かせてもらえま
 せんか?」
  直樹、少し考える。
直樹「はい、わかりました」
  直樹、丈二との過去を語りだす。
直樹「アイツとは幼稚園で会ってその時からお
 母さんは怖かった印象があります。ずっと丈
 二と遊んでました、明るい奴だったけど最後
 はいつも焦った母親に『受験勉強しなきゃ』
 って無理やり帰らされて泣いてましたね」
刑事A「なるほど……」
直樹「一回見たんですよ、幼稚園を出たあと車
 の前で思い切りぶたれる所。声は聞こえなか
 ったけど母親は凄い形相でした」
  直樹、丈二を想い声を荒げる。
直樹「遊びに誘っても『母さんがダメって言う
 から』って断って、全部母親が基準になって
 ました。アイツは母親とか他人に怒られない
 か、ガッカリさせないかで判断してるんす
 よ、自分はどんどん傷ついてんのに!」
  刑事2人、憐れむように直樹を見ている。直樹「有り得ない嘘までついて自分を偽るから
 どんどん本当の自分がなくなって、他人に合
 わせるロボットみたいになっちゃったんです
 よ!」
  直樹、目に涙を浮かべる。
直樹「そんでとうとう壊れちゃったんだと思い
 ます、俺も追い詰めた要因の一つです……」
  刑事A、直樹にティッシュを差し出した。
 
〇車の中 
  麗奈、丈二に家族の愚痴を言う。
  丈二、煙草を持つ手を窓から外に出してい
  る。
麗奈「いくら医者の娘でもね、自由がなきゃ幸
 せじゃなくない? 欲しいものがそれじゃ無
 かったらさぁ! 酷いよ全部親が決めてさ
 ぁ、習い事も部活も友達も選べなかったんだ
 よ? 酷くない?」
丈二「あぁ……」
麗奈「この服装だって隠れてやってるからね。
 サブカル好きって言ったけどさ、映画も音楽
 も隠れてちょっとしか見れないし」
  麗奈、身に着けたGジャンを指す。
丈二「音楽な、聴きたいか?」
麗奈「え、もしかして聴けるの?」
  丈二、一度煙草を置き片手でスマホを弄
  る。
丈二「スマホに入ってるぞ、どんなの好き?」
麗奈「もちろんロック!」
丈二「よしきた」
  丈二、車のスピーカーとスマホを
  Bluetoothで接続しプレイリストの一番上
  から流した。
丈二「ロックはいいぞ、まさしく自由だからな」
  曲、イントロは静かだった。
  麗奈、少し困惑する。
麗奈「ここから激しくなるの?」
丈二「聞いてろって」
  曲、激しいパートに入る。
  麗奈、歓喜した。
麗奈「おーカッコいいね! お兄さんによく似
 合ってるよ!」
  丈二、煙草を手に取り少し俯く。
丈二「……はは、だろ」
  麗奈、ふと思った事を質問する。
麗奈「お兄さん音楽好きならさ」
丈二「ん?」
麗奈「楽器とかやらないの?」
丈二「っ……!」
  麗奈、丈二の様子が変わった事に気付く。
麗奈「大丈夫……?」
丈二「いや、何でもない」
麗奈「本当に?」
丈二「ギターは弾けるよ。でもバンド組んだ時
 にさ、いわゆる方向性の違いってやつ? そ
 れが合わなくてクビになったんだよな」
麗奈「よく聞くやつだ!」
丈二「俺が組んだバンドなのによ、俺がクビに
 なったんだ。おかしくねぇか?」
  丈二、声が大きくなっていく。
丈二「そのクセ方向転換したら人気出始めて
 よ、俺がダメだったみたいじゃねぇか」
  丈二、勢いよく煙草を吸い咽てしまう。
丈二「ぶっ、ごほごほっ……」
麗奈「大丈夫?」
丈二「あぁ、ちょっと思い出したら腹立って来
 てな」
  丈二、もう一度煙草を吸う。
  今度は咽なかった。
丈二「俺は自由なロックがやりたかったのに
 よ、アイツらはそれが面白くなかったんだ
 と」
麗奈「えーロック楽しいのに」
丈二「でも今の世の中はそれが伝わらん奴が多
 いみたいでよ、自由になろうとすると抑圧さ
 れる」
  丈二、麗奈に警告するように言う。
丈二「自由って言えば聞こえはいいけど孤独に
 なっちまうぜ」
  麗奈、少し下を向いて黙ってから口を開
  く。
麗奈「私はお兄さんに会えたよ?」
丈二「それはっ……」
麗奈「だから孤独じゃないと思うんだ、少なか
 らず同じ仲間はいるんだよ!」
  丈二、麗奈の純粋な瞳を見て少し考える。
  そのタイミングでスマホに着信が。
丈二「ん……?」
  着信画面には『母さん』と書かれている。
丈二「う、マジか……」
麗奈「お母さん?」
丈二「ヤバい、ニュース見たのか……?」
  麗奈、動揺する丈二を見て提案する。
麗奈「何か言われるの心配?」
丈二「まぁ少しは……」
麗奈「じゃあ任せて! 誤解も解くから!」
  麗奈、スマホの通話ボタンを押す。
丈二「あ、やめ……!」
  由希、応答する。
由希「もしもし? やっと出てくれたー!」
  麗奈、いざとなると口を開けない。
由希「もしもし丈二?」
  丈二、恐る恐る応答する。
丈二「もしもし母さん……?」
由希「久しぶりに声聞けた、今何してる? も
 う職場?」
丈二「向かってる所だから大丈夫だよ、母さん
 もどうした?」
由希「電話はいつも朝してるでしょ? でも出
 てくれて良かった、なんか今日スタッフの人
 がテレビ見せてくれなくて暇してたのよ〜」
丈二「そっか、何でだろうね……?」
  由希、話を逸らした。
由希「そいえば今月の振り込みもうすぐだから
 お願いね」
丈二「あ、あぁ……」
由希「本当助かるー、デキる息子を持ったら幸
 せだねー」
丈二「そうだろ、はは……」
由希「じゃあ切るね、お仕事頑張って」
  由希、電話を切る。
  丈二、大きな溜息を吐いた。
麗奈「そいえば仕事は?」
丈二「あ、いや……」
  丈二、必死に誤魔化す。
丈二「えっとな、こんな事してアレだろ。仕事
 なんて行けないだろ」
麗奈「そうだよね、ニュースにもなってるし」
  麗奈、話題を変える。
麗奈「にしても何今の! 仕事とか振り込みと
 かさ、息子からお金取ろうとしてんの?」
丈二「母さんのグループホーム代、家賃みたい
 なもんだよ」
麗奈「え? それくらい自分で払えってー!」丈二「だよな。だから俺もちょっとだけお前の
 気持ち分かるんだよ、しつこい親がいるって
 意味ではな。だから自由を味わわせてやりた
 いと思ったんだ」
  麗奈、優しく微笑む。
麗奈「お兄さんやさしいね、自由なうえに優し
 いって完璧だよ」
丈二「そうか……」
麗奈「今が凄く楽しい、幸せだなぁ」
  丈二、運転しながら複雑な表情を浮かべ
  る。
  丈二、麗奈の顔を見て提案した。
丈二「俺、もっと頑張らなきゃな……」
  麗奈、窓の外に遊園地があるのを見つけ
  る。
麗奈「わぁ、遊園地だ」
  丈二、麗奈の眼差しを見て考える。
丈二「っ……」
  丈二、恐る恐る提案をした。
丈二「なぁ、あそこ行った事あるか?」
麗奈「ううん無いよ? え、もしかして……」
丈二「自由に遊んでみようぜ」
麗奈「やったぁ!」
  丈二、麗奈の嬉しそうな表情を見てハンド
  ルを切った。
  車、遊園地へ入って行く。
 
〇遊園地・入場口
  丈二、クレジットカードで支払う。
丈二「クレカ一括で」
受付「はい、ありがとうございます」
  丈二、チケットを2人分受け取る。
  丈二と麗奈、チケットを手に入場する。
麗奈「本当にいいの? 払ってもらっちゃって」
丈二「良いよ良いよ、お前に自由を味わっても
 らうためなんだ」
 
 
〇同・園内
  麗奈、様々なアトラクションを見て歓声を
  上げる。
麗奈「わーすごい!」
  麗奈、走り出した。
  振り返り丈二に手を振った。
麗奈「お兄さんも早く!」
丈二「あいよ」
  丈二、チケットを財布に仕舞おうとする。
  その際に由紀のグループホームの振り込み
  用紙を見つける。
丈二「はぁ……」
  丈二、振り込み用紙をしまい麗奈の所へ。
丈二「お待たせ」
  ×      ×      ×
  丈二と麗奈、ジェットコースターに乗る。
麗奈「わぁぁー!」
丈二「ぐぅぅっ」
  丈二、髪型が崩れるのを気にしていた。
  ×      ×      ×
  丈二と麗奈、続いてお化け屋敷に。
丈二「うわぁっ!」
麗奈「お兄さん弱いなぁ」
丈二「だってよぉ……」
麗奈「じゃあリタイアする?」
丈二「それはっ……」
  丈二、麗奈の楽しそうな顔を見て決心す
  る。
丈二「いや、まだまだ頑張るよ」
麗奈「ふふっ、いいねぇ」
  ×      ×      ×
  丈二と麗奈、お化け屋敷を完走。
丈二「よっしゃぁぁぁ!」
麗奈「やるねぇお兄さん!」
  麗奈、丈二に手を差し出す。
  丈二、その手にハイタッチをした。
丈二「楽しいか?」
麗奈「うんっ!」
  麗奈、大きな笑顔を見せた。
 
〇同・フードコート
  丈二と麗奈、席に座り食事を取る。
  丈二、こっそりクレジットカードを見てい
  た。
丈二「遊園地のメシって高いな……」
  麗奈、豪華なセットメニューを食べてい
  る。
  対する丈二、ポテトだけ食べていた。
麗奈「こーゆー所で食べるご飯もいいね、でも
 お兄さんそれだけで足りるの?」
丈二「俺はいいんだ、小食だからな」
麗奈「せっかくの自由なんだから満喫しといた
 方がいいよ」
丈二「まぁそうだな……」
麗奈「ねぇ、デザート食べていい?」
  丈二、少し苦笑いを浮かべる。
丈二「分かった、何がいい?」
麗奈「んとねー、あ! ソフトクリーム!」
  麗奈、マスコットキャラをテーマにした7
  00円のソフトクリームを指さす。
麗奈「お兄さんも頼んで2人で食べようよ!」
丈二「分かったよ……」
  丈二、そのソフトクリームを注文する。
丈二「えっと、これ2つ……」
  丈二、正式名称は言わなかった。
店員「はい、1400円になります」
丈二「クレカで」
  しかし、残高不足と表示されてしまう。
丈二「え、マジか……っ!」
  丈二、頭を思い切り搔きむしる。
  麗奈、残念そうな顔を浮かべた。
丈二「ごめん、金がもう……」
  丈二と麗奈、再び席に腰掛ける。
丈二「あークソッ」
麗奈「そこまで落ち込まなくても……」
丈二「ちょっと煙草……」
  丈二、ポケットから煙草を出し喫煙所に向
  かった。
 
〇同・喫煙所
  丈二、壁にもたれかかりながら煙草を吸
  う。
丈二「最悪だ、最悪……」
  丈二、壁を何度か叩く。
丈二「頑張ったのに、ダメすぎる……」
 
〇同・広場
  丈二、麗奈を待たせている広場に行く。
丈二「はぁ、お待たせ……」
麗奈「やっと戻ってきた! ホラ、溶けちゃ
 うよ?」
  麗奈、両手にソフトクリームを一つずつ持
  っている。
丈二「え……?」
麗奈「ホラ、早く食べないと!」
  麗奈、丈二にソフトクリームを一つ渡し自
  分のを食べる。
丈二「これ、何で……」
麗奈「親のクレカ。家出する時に持って来たん
 だ」
  麗奈、ゴールドのクレジットカードを見せ
  る。
丈二「何だよぉ……っ」
  丈二、膝から崩れ落ちる。
麗奈「ごめんごめん。お兄さん張り切ってたか
 らさ、私が払うのも悪いかなって」
丈二「でも実際払わせちまった……」
麗奈「いいって! 無理してまで連れてきてく
 れたんだし!」
  丈二、顔を上げて立ち上がる。
丈二「ごめん、今まで嘘ついてた。本当のこと
 話すよ」
  麗奈、観覧車の方を指さす。
麗奈「じゃあそこで話して?」
丈二「あぁ、じゃあ最後に」
 
〇同・観覧車
  丈二と麗奈、観覧車に向かい合って座る。
丈二「実は俺、自由なんかじゃないんだ」
  丈二、麗奈の顔を見ないで話す。
丈二「他人の顔ばっか気にしちまう、喜ぶかと
 か悲しませないかで全部考えちまってるんだ
 よ」
  丈二、恐る恐る麗奈の顔を見る。
丈二「今回はお前が……」
麗奈「そう……」
  麗奈、少し肩を落とした。
丈二「自由だった事なんてない、今も色々爆発
 しちまったから全部投げ出して現実から逃げ
 てるだけなんだ」
麗奈「そっか……」
丈二「失望したよな、自由と思って着いてきた
 のに……」
  麗奈、優しい目に変わり言った。
麗奈「私言ったよ? 『今が幸せだ』って」
丈二「え……?」
麗奈「お兄さんがどんな人かは関係ないよ、私
 に自由を味わわせてくれてるのは事実だも
 ん」
丈二「お前……」
麗奈「だから失望なんてしないよ、これからも
 まだまだ楽しませて!」
  丈二と麗奈、夕日に照らされる観覧車から
  降りた。
 
〇同・出口までの道
  丈二、歩きながら隣の麗奈に感謝する。
丈二「ありがとな、ああ言ってくれて」
麗奈「ん? なんもだよ~」
丈二「よし、真剣に楽しませてやる。次にやり
 たい事とかあるか?」
  麗奈、辺りを見渡す。
麗奈「あ! アレでいいの取って!」
  麗奈、射的コーナーを指さした。
丈二「お前、試すつもりだな……?」
  丈二、苦笑いを浮かべた。
麗奈「どこまで私のために出来るかな? あ、
 この次は生バンドが見れる所にも行ってみた
 いから急いでね」
  麗奈、更に丈二を催促した。
  ×      ×      ×
  丈二、奥にあるモデルガンを狙うがを外し
  てしまう。
  店員のおじさん、溜息を吐く。
丈二「うわ、また外した……」
店員「兄ちゃんそろそろ閉園だよ、その辺にし
 ときな?」
丈二「あと一回だけ……」
  丈二、息を切らしている。
  麗奈、丈二が息切れしているのを心配そ 
  うに見ていた。
麗奈「お兄さん、もういいよ」
丈二「でもお前がアレ欲しいって……」
  丈二、モデルガンを指さす。
麗奈「うん、だから私がやる」
丈二「え……?」
麗奈「見てて、カッコよく決めるから」
  麗奈、驚く丈二から玩具の銃を受け取る。
  麗奈、慣れた手付きでコルク弾を詰める。
  丈二、驚いた顔で見ていた。
  麗奈、そのまま玩具の銃を構えて一発放っ
  た。
麗奈「はいっ!」
  麗奈、一発目を当て景品が少しズレる。
麗奈「もういっちょ!」
  麗奈、二発目も当て更に景品を大きくズラ
  す。
麗奈「これで最後っ!」
  麗奈、最後の一発を景品の中心に当てた。
  一同、息を呑む。
  景品、長い時間をかけてゆっくりと後ろに
  倒れた。
丈二「お……?」
麗奈「やったー!」
店員「こりゃたまげた……」
  店員、麗奈にモデルガンを渡す。
  麗奈、早速開封しモデルガンを構えてみせ
  た。
麗奈「どう? イケてる?」
丈二「とんでもなく似合ってるよ……」
  丈二と麗奈、遊園地を後にした。
 
〇車の中 (夜)
  麗奈、スマホで検索をしている。
  丈二に画面を見せた。
麗奈「あ、近くにライブハウスあるよ! 今日
 もこれからライブやるって!」
丈二「いいんじゃね? ここなら行った事ある
 し」
麗奈「ホント? バンドやってた時代?」
丈二「そうそう、いいとこだよ」
  丈二と麗奈、ライブハウスに着いて車を停
  めた。
 
〇ライブハウス (夜)
  麗奈、出演バンドの看板を見る。
麗奈「√66、いい名前じゃん!」
丈二「マジかよ……」
  丈二、顔をしかめる。
  麗奈、丈二の手を引っ張った。
麗奈「早くいこ!」
  麗奈、中に入り歓声を上げる。
麗奈「すごぉい! 私ライブハウスにいる!」
  麗奈、多くの客の中を搔い潜って行く。
麗奈「バーもあるよ! お酒も飲めるんだ!」
  しかし丈二、反応を見せない。
麗奈「ねぇ聞いてるの~?」
丈二「あ、ごめん……」
麗奈「さっきからボーッとして、もしかしてト 
 ラウマでも蘇った?」
  麗奈、丈二の脇腹をつつく。
丈二「おいやめろっ……」
  金村(25)、丈二を見つける。
金村「あれ、岬じゃん。来てくれたの?」
  金村の他にバンドメンバーが二人、派手な
  身なりをしている。
  丈二、冷や汗が流れた。
麗奈「もしかして出演する人? お兄さん知り
 合いなの?」
  麗奈、丈二の顔を見て察する。
麗奈「もしかして……」
丈二「あぁ、俺が作ったバンドだよ……」
  金村たち、笑って言う。
金村「このメンバーに会わせてくれて感謝して
 るよ。そうだ、アンコールとかでまた一緒に
 やらないか? 限定でさ」
丈二「えっと、まぁ……考えておくよ」
金村「マジで! PAさんにも言っとくから、お
 前のこと覚えてるかもだしな!」
  金村たち、準備に向かう。
丈二「はぁ……」
  麗奈、溜息を吐く丈二を見つめていた。
  ×      ×      ×
  暗くなりライブが始まる。
  観客たちの期待の声が聞こえていた。
  明るい音楽と共に金村たちがステージ上に
  現れる。
金村「来たぜホーム!」
  歓声が上がる中で丈二はノれなかった。
  そんな彼を置いてライブは盛り上がる。
  丈二のやりたかったロックとは程遠い
  ポップスに近いサウンドが響く。
丈二「あっ……」
  丈二、麗奈の姿がない事に気付く。
  更に肩を落としてしまった。
  ×      ×      ×
  ライブが終わりアンコールとなる。
金村「ありがとー!」
  金村、MCを始める。
金村「今日は皆さんに報告があります、メジャ
 ーデビュー決定しましたー!」
  客席は大いに沸く。
  丈二は逆に更に肩を落とした。
金村「紆余曲折ありましたがお陰様でここま
 で来れました!」
  金村、そこで丈二を見る。
金村「この最高のメンバー達と出会わせてくれ
 た影の立役者が来てくれてます!」
  丈二にスポットライトが当たる。
金村「創設者にして初代リーダーの丈二くんで
 す! ホラ、上がって!」
  金村、手招きをする。
  丈二、重い足取りで仕方なくステージに上
  がる。
  丈二、客席を見て圧倒されてしまった。
  金村、丈二にマイクを渡した。
丈二「えっと、こんばんは……」
  丈二、何も言えなくなってしまう。
  金村、見兼ねて話を続けた。
金村「今日はね、特別に最初期のスタイルで
 一曲やっちゃおうかな!」
  観客、その言葉で更に沸く。
観客「昔のサウンド聞きたーい!」
  金村、安物のギターを丈二に手渡す。
金村「ホラ、ギターも用意してるぜ?」
  丈二、仕方なく受け取りサウンドチェック
  をするが緊張で上手く弾けない。
  観客を気にしてしまう。
金村「はは、久々で緊張してんのかな……?」
  丈二、焦りで呼吸が荒くなる。
丈二「はぁ、はぁ……っ」
  そんな時、客席から声が響く。
麗奈「お兄さんっ!」
  一同、一斉に麗奈の方を向く。
丈二「お前っ!」
  麗奈、片手に酒の入った瓶を持つ。
  顔は赤くなり目は虚ろだ。
麗奈「私のために頑張るって言ったでしょ! 
 だったら見せてよ、自由なロック!」
  更にグビっと飲んだ麗奈は伝える。
麗奈「ビビってないでっ、私だけのために魅せ
 て!」
  丈二、目に光が灯る。
  金村に伝えた。
丈二「準備いいぞ、曲はアレでいいな?」
金村「お、いいね」
  ライブハウスは静まり返る。
  丈二、準備を完了させた。
丈二「すぅぅぅ、カマすぜ」
  ×      ×      ×
  ドラマーの合図でギターを思い切り掻き鳴
  らす。
  今までと遥かに違うサウンドに観客は驚い
  ていた。
  歌のないインストゥルメンタルの曲に
  戸惑う観客。
  全く実力は衰えていなかったが観客は退屈
  そうだった。
  丈二もそれを感じ取る。
  そのまま曲はベースソロへ。
  そちらの方が盛り上がってしまった。
  休みの間、丈二は気が落ちてしまった。
  しかし自分のパートが近づく時、麗奈の姿
  が目に入る。
  麗奈、丈二を見て優しく微笑んだ。
  その表情を見て覚悟を決めた。
  クライマックスで更に強くギターを掻き鳴
  らした。
  丈二と麗奈、お互いだけを見つめノる。
  完璧に締められた曲、観客は静かだっ
  たが麗奈は盛大な拍手と歓声を送った。
  ×      ×      ×
  丈二、演奏を終えたあと酔った麗奈にダル
  絡みをされる。
麗奈「あれだけ出来るなら言ってよぉ」
丈二「まぁな……」
  金村、片づけを終えて出て来る。
金村「相変わらず凄いな、どっかでやってん
 の?」
丈二「いや、もう音楽はやってない……」
金村「マジで? じゃあ大学時代の完全復活だ
 な!」
  丈二、麗奈の頭に手をのせて言う。
丈二「一応コイツのお陰なんだ」
  麗奈、驚いている。
丈二「俺をしっかり見てくれてさ、それに応え 
 たいって思えたんだ。だから俺の力じゃな
 い」
  麗奈、丈二の背中を思い切り叩いた。
麗奈「何それ恥ずかしいじゃーん!」
丈二「痛ってー!」
  金村、二人を見て微笑む。
金村「いいな、なんか」
丈二「何が?」
金村「ドでかいファン、大事にしろよ」
  丈二、表情が柔らかくなる。
丈二「あぁ、ありがとな」
  丈二、酔った麗奈を連れて車に戻った。
 
 
○車の中 (深夜)
  丈二、深夜の山中を運転する。
  麗奈、助手席で眠っていた。
  丈二、眠る麗奈を見て流れる音楽を止めよ
  うとスマホに手を伸ばす。
  麗奈、丈二の手を掴んだ。
麗奈「止めないで……」
  麗奈、半分寝ながら反応した。
  丈二、曲を静かなバラードに切り替える。
  カーナビには近くに海がある事が記されて
  いた。
麗奈「んんっ……」
  麗奈、朝日が差し込み目覚める。
  朝日に照らされた海を見つけた。
  麗奈、テンションが上がる。
麗奈「わぁ海!」
  丈二も海に気付く。
丈二「起きたか、おぉ凄ぇな」
  麗奈、浜辺も見つける。
  笑顔で丈二に振り向いた。
麗奈「お兄さん!」
丈二「あぁ」
  丈二、麗奈の意図を理解しハンドルを切
  る。


○浜辺 (早朝)
  麗奈、丈二を置いて走り出す。
  靴と靴下を脱ぎ両手に持ったまま海に足を
  つけた。
  丈二、ゆっくり歩きながら煙草に火を点け
  る。
  麗奈、はしゃいでいる。
麗奈「あははっ、冷たーい!」
  麗奈、丈二に手招きした。
  丈二、麗奈に手を振る。
  朝日に照らされながら煙草を吸う。
丈二「そろそろ向き合わなきゃな……」
  丈二、スマホを取り出し電話をかける。
  由希、眠そうに応答した。
由希「丈二……? こんなに早くどうしたの?」
丈二「母さん、今日そっち行っていいかな?」
由希「え、いいけど何で……?」
丈二「話したい事があるんだ」
  丈二、それだけ伝えて電話を切る。
  そのまま麗奈を見つめた。


○車の中 (朝)
  丈二、緊張しながら運転する。
  麗奈、心配そうな視線を向ける。
麗奈「大丈夫?」
丈二「あぁ、緊張はするけど」
  丈二、顔は引き攣り手も震えている。
麗奈「あんま無理しない方が……」
丈二「いや、外に目を向けて大事な事に気付け
 たからそろそろ向き合わないと」

○グループホーム 外観 (朝)
  丈二、車を停める。
  二人、車を降りた。
  丈二、入口のインターホンに手を伸ばし
  固まる。
麗奈「私が押そうか?」
丈二「いや、自分で……」
  丈二、震える指でインターホンを押した。
  職員、応答する。
職員「お話は伺ってます、中へどうぞ」
  二人、案内され中へ入る。

○グループホーム 廊下 (朝)
  職員、警戒しながら二人を案内する。
  ある部屋の扉をノックし開けた。
由希「はーい」
  職員、扉を押さえ二人は部屋へ入る。

○グループホーム 由希の部屋 (朝)
  二人、由希と向き合う。
  由希、痩せこけた姿で立ち上がった。
由希「丈二、よく来たね」
丈二「あぁ……」
由希「それで話って何なの? 大体想像つくけ
 どねー」
  由希、二人を座らせコーヒーを淹れる。
  そのままカップを差し出した。
丈二「話の事なんだけど……」
由希「良いのよ緊張しなくて! せっかく見つ
 けた天使を追い出す事なんてしないから」
  由希、二人に向かい合い座る。
麗奈「天使って……?」
丈二「母さんは一番大切な人をその人にとって
 の天使って言うんだ」
由希「そう! 私の天使はもちろんこの子、父
 さんが出て行っちゃったからこの子だけが希
 望なのよー」
  由希、棚に飾ってある写真立てを見せる。
  丈二が小学校受験に合格した時の写真だっ
  た。
麗奈「そうなんですね……」
由希「ごめん話逸らしちゃったね、で何話っ
 て?」
  丈二、深呼吸し自分に言い聞かせた。
丈二「ふぅぅ、大丈夫……」
  丈二、姿勢を正す。
丈二「母さん、驚かないで聞いて欲しいんだけ
 ど」
由希「えー何かしこまって、そんな驚かないよ」
  丈二、頭を下げた。
丈二「ごめん!」
由希「え、何で謝るの……?」
丈二「俺ずっと母さんに嘘ついてた。大企業に
 勤めてるなんて嘘、本当はフリーターで友達
 のアパートに住ませてもらってる」
由希「え……?」
丈二「しかも今はそれすら投げ出した、警察に
 も追われてるんだ……」
由希「え、え……? そんな冗談言ってー」
  麗奈、スマホを取り出し記事を見せる。
麗奈「これ私たちのニュースです」
由希「誘拐って……」
麗奈「あ、誘拐は誤解なんですけどねっ」
  由希、固まってしまう。
由希「ちょっと待って、揶揄ってるの?」
丈二「いや、本当なんだ」
麗奈「はい」
丈二「でもコイツと出会って向き合わなきゃっ
 て思えた、ちゃんと現実見なきゃって!」
麗奈「うん……!」
丈二「これから頑張るから、母さん!」
  由希、目が虚ろだった。
由希「じゃあ出世したのも可愛い彼女がいるの
 も……?」
丈二「ごめん、母さんを喜ばせたくて……」
  由希、テレビのリモコンを投げつける。
由希「ふざけるな! 出てけこの疫病神! ア
 ンタは私を幸せにしてくれると思ったの
 に!」
  由希、手当たり次第に近くのものを投げつ
  ける。
由希「アンタが生まれて全部ダメになった、父
 さんも出てくし最悪よ!」
  由希、合格した写真すら投げつける。
  二人、顔を守っている。
由希「ふざけるなぁ……!」
  由希、コーヒーカップを投げつけ麗奈の頭
  に命中。
麗奈「いたっ……」
  麗奈、頭から血を流し尻餅をつく。
  由希、ようやく冷静に。
  丈二、麗奈に駆け寄る。
丈二「おいっ、大丈夫か⁈」
麗奈「うん、ビックリしただけだから……」
  丈二、由希に叫ぶ。
丈二「母さん、もうやめてくれ!」
  丈二、這いつくばりながら懇願する。
丈二「俺ちゃんと頑張るからさぁ、逃げずに現
 実と向き合うから……!」
由希「私は逃げたままで良かった、辛い現実な
 んて見たくない……!」
丈二「それじゃあ俺がっ……」
  丈二、口を止める。
  そのまま立ち上がり麗奈を立たせた。
丈二「……行こう」
  丈二、麗奈の手を引き部屋から出る。
由希「二度と来るなぁ!」

○グループホーム 外観
  二人、入口前の段差に腰掛ける。
  丈二、煙草に火を点け吸い始めた。
丈二「俺さ、頑張ったよ」
  麗奈の方を見ずに呟く。
丈二「頑張ったんだよ沢山、母さんのために」
  丈二、涙が溢れる。
丈二「本当にさぁ、頑張ったんだって……なの
 に何で報われねぇかな?」
麗奈「お兄さん……」
  麗奈、丈二の肩を抱き寄せる。
麗奈「よく頑張ったね……」
  丈二、麗奈の抱擁を受け入れる。
麗奈「分かるよ、お兄さんの気持ち」
丈二「え……?」
麗奈「私も一個嘘ついてた、本当は家出じゃな
 くて追い出されたの」
丈二「そうか……」
麗奈「お兄さんは偉いね、私と違って」
丈二「でもダメだった……」
  丈二、前を向いて言う。
丈二「俺ら何で生まれて来たんだろうな?」
  パトカー、二人の目の前に停まる。
丈二「えっ……」
麗奈「もしかしてここのスタッフが……⁈」
  警官、降りて来て告げる。
警官「岬 丈二だな? 窃盗及び誘拐罪で逮捕す
 る」
  丈二、右腕に手錠をはめられてしまう。
  振り返ると麗奈が心配そうな顔をしてい
  た。
丈二「あぁっ」
  丈二、咄嗟に麗奈のポケットに手を突っ込
  みモデルガンを取り出す。
  そのまま後退し麗奈の頭に銃口を突きつけ
  た。
麗奈「えっ⁈」
丈二「近付くな! コイツを撃つ!」
  丈二、手が震えていた。
  そのまま麗奈を人質にして建物内へ入っ
  た。

○グループホーム 広間
  丈二、右手に手錠がついたまま歩き回る。
  グループホーム利用者と職員は怯えてい
  た。
  利用者たちは母と同じ精神疾患を抱えた者
  たちだ。
  麗奈、心配そうに丈二を見つめる。
丈二「クソクソッ、何やってんだ俺……!」
  丈二、モデルガンを持つ反対の手で頭を掻
  きむしる。
麗奈「お兄さん、やり過ぎだよ……!」
丈二「他に方法ないだろ!」
  丈二、麗奈にキツく言ってしまった事を反
  省する。
丈二「ごめん、ちょっと……」
  警官、メガホンで呼びかける。
警官「人質を解放し出て来なさい」
丈二「お前らが撤退したら出てくよっ」
麗奈「こんなんじゃ警察は退かないよ⁈」
  麗奈、丈二の足にしがみつく。
丈二「分かってるよ、でもどうすりゃ良い
 か……!」
  職員、丈二に声を掛ける。
  丈二、驚いて振り向く。
職員「あ、あの……ここの利用者だけでも解放
 してもらえませんか? 彼らには家族がいる
 んです。貴方もお母さんが悲しみますよ?」
丈二「今更アイツが俺の心配する訳ねーだろ、
 ずっと虐げて来やがってよ!」
  警官、更にメガホンで煽る。
警官「今の内に自首すればまだ刑期は……」
  丈二、そこで遮るように叫ぶ。
丈二「警察もクソだ、この世界も! こっちの
 事情は考えもしないで一方的に悪と決め付け
 やがって! ただの事後処理組織がよ!」
  利用者の男性、パニックになってしまう。
利用者「うっ、うぅぅ……」
  丈二、そんな利用者を見て更に頭を掻きむ
  しる。
  麗奈に指示を出した。
丈二「水でも飲ませてやれっ……」
  麗奈、震えながら立ち上がりウォーターサ
  ーバーから水を一杯汲み利用者に渡す。
麗奈「すみません、これ飲んで下さい……」
  利用者、水を飲む。
  利用者の側にいる職員、麗奈に問う。
職員「貴女は何なんです、人質なのか仲間なの
 か……?」
麗奈「私は……」
  麗奈、丈二を責める。
麗奈「もうやめてよ、関係ない人達まで巻き込
 みたくない!」
丈二「分かってるよ間違ってる事くらい、で
 も……」
  直樹、メガホンで呼びかける。
直樹「丈二、いるのか!」
丈二「直樹……」
麗奈「え、誰……?」
丈二「車の持ち主だよ」
  直樹、更にメガホンで呼びかけた。
直樹「今からお前に電話する、出てくれ!」
  丈二のスマホに電話が。
  相手は直樹だ。
丈二「もしもし……?」
直樹「丈二、本当にお前なのか⁈」
丈二「あぁ……」
直樹「お前何でここに、もしかして……」
丈二「母さんに全部話したよ」
直樹「マジか、どうだったんだ……?」
丈二「上手く行く訳ないだろ、俺のこと疫病神
 だってさ」
直樹「そうか……」
丈二「ちゃんと向き合ったよ、頑張ったよ! 
 でもこんなになっちまった、もうどうしよう
 もねぇ!」
直樹「じゃあ麗奈さんは何なんだ……?」
丈二「はぁ……?」
直樹「何で向き合ったっつってんのに誘拐した
 ままなんだよ?」
丈二「アイツは自分から着いて来たんだ。親に
 追い出されて居場所なくしてた、俺と同じな
 んだよ」
  直樹、言いづらそうに言う。
直樹「その、麗奈さんの両親なんだがな……」
丈二「え……」
  丈二、スマホを耳に当てながら固まる。
  麗奈に呼びかけた。
丈二「おい、お前の親が!」
麗奈「え⁈」
  麗奈父(52)、直樹からメガホンを貰う。
  隣には麗奈母もいた。
麗奈父「麗奈! いるなら返事してくれ!」
麗奈「お父さん……」
麗奈父「君、それも貸してくれないか」
  麗奈父、直樹からスマホを借りる。
  丈二に話しかけた。
麗奈父「もしもし、君は岬丈二くんだね?」
丈二「そうです……」
麗奈父「悪い事は言わない、娘を返してくれな
 いか? これ以上罪を重ねてもどうしようも
 無いだろう」
  丈二、溜息を吐いて考える。
  そのまま麗奈にスマホを差し出した。
丈二「お前の親父さんだ、話すか?」
麗奈「うん……」
  麗奈、スマホを受け取り耳に当てる。
麗奈「もしもし……?」
麗奈父「麗奈! 無事か⁈」
麗奈「私は大丈夫だよ……」
麗奈父「すぐ警察が何とかしてくれるからな、
 もう少しの辛抱だぞ」
麗奈「うん……」
麗奈父「あぁ、待ってろ」
麗奈「ねぇ!」
麗奈父「何だ?」
麗奈「あのさ……」
  麗奈、震えながら問う。
麗奈「無事に帰れたらまた元の生活に戻る
 の……?」
麗奈父「確かに精神的ショックもあるだろう、
 すぐにとは行かないかも知れない。でもなる
 べく早く塾には戻りたいよな、ただでさえ赤
 点だったんだから」
  麗奈、少し黙る。
麗奈父「麗奈……?」
麗奈「お父さん、やっぱ何にも分かってないよ」
麗奈父「何だって……?」
麗奈「私は自分の意思で着いて行ってるの、家
 に帰りたくないからっ……!」
  麗奈、そのまま電話を切る。
  そして丈二にスマホを返した後、彼に身を
  寄せた。
麗奈「私やっぱ帰りたくない……!」
丈二「お前……」

○グループホーム 外観
  麗奈父、切られた通話画面を見ていた。
麗奈父「どういう事だ麗奈……?」
麗奈母「麗奈は何て……?」
麗奈父「自分の意思で着いて行ったと、家には
 帰りたくないだと……⁈」
麗奈母「やっぱり……」
麗奈父「何だと?」
麗奈母「あなた少しでも麗奈の気持ち考えた事
 ある?」
麗奈父「何言ってるんだ、俺は常に麗奈のため
 を想って……」
麗奈母「麗奈にはそれが辛かったのよ。私も最
 低、話でも聞いてあげれば良かった……」
麗奈父「何でだ、娘のためを想って何が悪い?」

○グループホーム 広間
  麗奈父のメガホンによる呼びかけが響いて
  いる。
  麗奈、丈二に身を寄せ耳を塞いでいる。
  しばらくして声が止む。
丈二「大丈夫だ、もう声はしない」
  麗奈、丈二から離れ耳から手を離す。
麗奈「……分かるでしょ、私の気持ち」
丈二「あぁ、余計にな」
麗奈「お父さんは私を自分に相応しい娘にしよ
 うとしてる、私のためとか言いながら本当は
 自分が恥ずかしくないようにね。私、逃れら
 れないのかな……?」
  丈二、考える。
丈二「俺とお前は……」
  すると外から大きな揺れが伝わって来る。
  丈二は察した。
丈二「まさか……」

○グループホーム 外観
  大型の警察車両がやって来た。
  停車した後、中から特殊部隊が現れる。
  隊員の一人が敬礼した。
隊員「到着致しました!」
  直樹、焦る。
直樹「丈二……!」
  特殊部隊、それぞれ持ち場に移動する。
  隣の建物の窓からスナイパーまで覗いてい
  た。
  直樹、警官に詰め寄る。
直樹「やり過ぎですよ!」
警官「相手は銃を持ってる、どこから入手した
 かは不明ですが警官が殺害されている可能性
 もあるんですっ」
直樹「クソッ、早く出て来いよ……!」
  麗奈父、焦っている。
麗奈父「麗奈が共犯だなんて有り得ない、麗奈
 まで撃つつもりか……⁈」
麗奈母「私たちのせいね、あの子のこと何も考
 えてあげられなかった……」
麗奈父「じゃあ麗奈はどうなる、前科持ちか⁈
 それじゃあ全てが無駄に……」
麗奈母「まだそんなこと言ってるの⁈ その全
 てがそうさせたのよ。今は私たちが反省しな
 いとあの子に合わせる顔がない……」
麗奈父「くっ……」

○グループホーム 広間
  丈二、再度直樹から来た電話に応答する。
直樹「特殊部隊が来た、もう最後だぞ!」
丈二「無理なんだよ、これじゃ最悪の結末にし
 かならねぇ!」
直樹「もう十分最悪だろ、これ以上にする前に
 自首しろって! そうすりゃ罪も軽くなるか
 ら……!」
丈二「そうやって俺にばっか罪を押し付けやが
 って、これまでの想いは無視か? アイツも
 親の所に戻されちまう……!」
直樹「今も相当辛いだろ? 無理する必要ねぇ
 って。刑事さんもお前に同情してくれてた、
 分かってくれる人はいるから……」
丈二「でもアイツが……」
  丈二、麗奈の方を見る。
直樹「やっぱり麗奈さんが心配なのか……」
丈二「その通りさ。アイツは親に依存されてる
 んだ、俺と母さんが依存し合ってたみたい 
 なのとは違う」
直樹「あぁ……」
丈二「だからせめてアイツには自由を与えてや
 りたい、俺みたいになって欲しくないんだ
 よっ……」
  直樹、少し黙り考える。
直樹「なぁ、何でそこまで彼女を想えるんだ?」
丈二「え……?」
直樹「ただ自分と重なるからってだけじゃない
 んだろ?」
丈二「それは……」
直樹「だって現実と向き合おうとしたじゃねー
 か、多分それ麗奈さんのお陰だろ? お前に
 そこまでさせる何かがあるんじゃねーの?」
丈二「何だよ、それ今関係あるのかよ……」
直樹「あるよ、麗奈さんを逃してやりたい気持
 ちがお前にとって大事だ」
  丈二、一呼吸置いてから語る。
丈二「……だって向き合った所で現実は辛い事
 しかないから、意味なんか無いって……」
  直樹、提案をする。
直樹「なぁ、スピーカーオンにしてくれない
 か? 麗奈さんにも伝えたい事がある」
丈二「……あぁ」
  丈二、麗奈に手招きをしながらスピーカー
  をオンにする。
  麗奈、丈二に近づいた。
  直樹、麗奈に話しかける。
直樹「麗奈さんかな……?」
麗奈「はい……」
直樹「まずありがとう、丈二と一緒に居てくれ
 て」
麗奈「え……あ、はい」
  麗奈、困惑し丈二を見る。
直樹「今丈二と話して色々思った事があるん
 だ、君たち本当に頑張ったんだなって」
丈二「あぁ……」
直樹「でもその頑張りが報われなくて苦しんで
 る、それでも俺には苦しむ必要はないと思え
 たんだよ」
麗奈「え……?」
直樹「ちょっと二人で話し合ってみろ、旅の事
 でも振り返ったらどうだ?」
  直樹、そのまま電話を切る。
  丈二と麗奈、戸惑いながらもお互いを見合
  った。
麗奈「……どういう意味?」
丈二「振り返る……」
  丈二、少し考えてから床に胡座をかく。
  麗奈、それに合わせて向かいで正座した。
  丈二、少し黙ってから口を開く。
丈二「なぁ、この旅してみてどうだった?」
麗奈「言ったじゃん、少しでも自由を味わえて
 幸せだって」
丈二「あぁ、俺もそうだったよ」
  再び沈黙。
丈二「でも苦しい結果になっちゃったよな
 ぁ……」
  麗奈、少し考えてから答える。
麗奈「それでも私この旅して良かったと思って
 るよ、お兄さんと会えなきゃずっと苦しいま
 まだった」
丈二「そうか……?」
麗奈「うん、ちょっとだけ希望が見えたかな」
  丈二、優しく微笑む。
丈二「……そういう事か」
麗奈「どういう事?」
丈二「直樹の言ってた事。俺たち失敗したけど
 さ、お前が抱きしめてくれて助かった」
麗奈「だって気持ち分かったから……」
丈二「あぁ。一回逃げたお陰でお前と会って
 さ、それが出来たんだよな」
麗奈「お兄さん……」
丈二「このために現実逃避してたんだなぁ」
麗奈「同じ仲間だから……?」
丈二「そういう事」
  丈二、煙草に手を伸ばすが引っ込める。
丈二「辛い事あってもさ、他に良い事ありゃ何
 とかなるもんだな」
  麗奈、目に涙を浮かべる。
丈二「うん、逃げるのも悪くないな」
  丈二、ゆっくりと立ち上がる。
丈二「麗奈、行くか」
麗奈「え!」
  麗奈、初めて名前を呼ばれ驚く。
丈二「お前も親と話してみろ。大丈夫、辛くて
 も俺がいる」
麗奈「そうだよね……!」
丈二「俺だって現実だからな」
  丈二、人質たちに声を掛け頭を下げる。
丈二「すみませんでした、もう出て大丈夫です」
  人質たち、戸惑いながらも出ていく。

○グループホーム 外観
  警官、人質たちが出て来た事に驚く。
警官「人質がどんどん出て来ます!」
  警官、職員に話を聞く。
警官「何があったんですか⁈」
職員「突然解放してくれるって……」
  一同、戸惑いを隠せない。

○グループホーム 広間
  丈二、職員に由希が連れられるのを見つけ
  る。
丈二「母さん……」
  由希、目が虚ろだった。
  丈二、由希に歩み寄る。
丈二「母さん、大丈夫?」
由希「あぁ、大丈夫……」
  由希、丈二を見ないまま答える。
丈二「見つけたよ、俺の天使」
  由希、無言のまま職員に連れられ外へ出
  た。
麗奈「私、天使?」
丈二「あんま調子には乗るなよ?」
麗奈「もうっ」
  麗奈、頬を膨らませる。
  丈二、麗奈の頭を思い切り撫でた。
麗奈「わぁっ⁈」
丈二「良いだろ別に」
  麗奈、髪がクシャクシャになる。
  丈二と麗奈、人質が全員外に出たのを確認
  し外へ向かう。

○グループホーム 玄関
  丈二と麗奈、外に向かい歩く。
丈二「あーあ、刑務所か」
麗奈「多分すぐ出れるよ」
丈二「待っててくれるか?」
麗奈「もちろん」
  丈二、麗奈の顔を見て言う。
丈二「そしたら俺たちの人生、ようやく始まる
 ぞ」
  麗奈、優しく微笑む。
  丈二と麗奈、玄関から外へ出た。

○グループホーム 外観
  警官たち、二人が出て来たのを確認。
警官「犯人が人質を連れて外へ!」
  警官たち、無線で様々なやり取りを行う。
  丈二、立ち止まり麗奈と向き合った。
丈二「なぁ、俺がムショにいる間は一人で向き
 合わなきゃならねぇ」
  丈二、ポケットに手を入れる。
  警官たち、焦る。
警官「マズい、銃を出すぞ……!」
  警官、無線で特殊部隊に伝える。
丈二「どうしても辛くなったらさ、これで元気
 出せ」
  丈二、ポケットから何かを取り出した。
警官「スナイパー!」
  次の瞬間、一発の銃声が響いた。
麗奈「え……?」
  麗奈、血を流し倒れる丈二を見て困惑。
丈二「ぁ……」
  麗奈、数秒経過し何が起きたか気付いた。
麗奈「お兄さん!」
  麗奈、慌てて丈二に駆け寄る。
  丈二、右肩から血を流していた。
  麗奈、号泣する。
麗奈「お兄さん、死んじゃやだぁ……!」
  一同、麗奈の行動に驚く。
  麗奈、必死に丈二の傷口を押さえる。
  刑事A、近寄った。
刑事A「大丈夫だ、急所は外してる」
麗奈「本当っ?」
刑事A「あぁ、この仕事長いから分かるさ」
  救急隊員、丈二に近付き担架に乗せる。
  麗奈、心配そうに見ていた。
  運ばれる間、麗奈は丈二に着いて行く。
麗奈「ねぇ大丈夫?」
丈二「あぁ、痛ってぇけど……」
  丈二、後悔する。
丈二「ごめん、渡せなかった……」
麗奈「良いの、私頑張るからっ!」
  丈二、苦しそうに微笑む。
  そのまま救急車に乗せられた。
  直樹、麗奈の隣に立つ。
直樹「麗奈さん?」
麗奈「はい……?」
直樹「俺、車の持ち主」
麗奈「あぁ……!」
直樹「アイツ良い奴だった?」
麗奈「はい、もちろん」
直樹「よかった」
  直樹、そのまま救急車に乗り込む。
  扉に手をかけ麗奈に言う。
直樹「待っててやってくれよな」
  扉は閉じられ救急車は発車される。
  麗奈、地面に丈二のスマホが落ちているの
  を見つけ拾う。
  刑事A、麗奈に声を掛ける。
刑事A「君はこっちだ、一度所で話を聞く」
麗奈「はい……」
  麗奈、刑事に着いて行く。
  麗奈の両親、刑事の車の前で待っていた。
麗奈父「麗奈……」
  麗奈、覚悟を決める。
麗奈「私、好きに生きるから。自由にさせて」
  麗奈、両親の横を抜け車の後部座席に乗
  る。
  刑事A、エンジンをかける。
  麗奈、窓を開けて両親に告げた。
麗奈「でももうこんな事はしないから、安心し
 て」
  そのまま車は発車される。
  麗奈母、車を見つめる麗奈父に言った。
麗奈母「大人になったわねぇ……」
  麗奈父、寂しそうな目をしていた。

○救急車
  直樹、寝ている丈二に話す。
直樹「これから大変だぞ、色々請求されるだろ
 うなぁ」
丈二「ちゃんと働いて払うよ」
直樹「そんなこと言うなんて、麗奈さんのお陰
 か?」
丈二「あぁ」
直樹「あんな良い子いないぞ」
丈二「俺さ、アイツのために頑張りたいって思
 えたんだ」
直樹「そうか、でもまずはこれからのこと頼む
 ぜ? 俺も手伝うからよ」
丈二「任せろ」

○刑事の車
  刑事A、麗奈の持つ丈二のスマホに気付 
  く。
刑事A「それ、岬丈二のか?」
麗奈「そうです、これで元気出せって」
  麗奈、刑事Bにスマホを手渡す。
刑事B「うわ、血ぃついてる……」
  刑事B、スマホを調べる。
刑事B「めっちゃ音楽入ってる!」
刑事A「じゃあ音楽流すか?」
刑事B「え、いいんすか?」
刑事A「元気出せって意味なら寧ろ大歓迎だろ」
  刑事B、車のBluetoothとスマホを接続す
  る。
  そのままプレイリストの上から再生した。
刑事B「じゃあ行きますよー」
  車のスピーカーから麗奈が丈二に最初に聞
  かされたロックナンバーが流れる。
麗奈「これ……」
刑事A「おぉ、懐かしいなぁ」
刑事B「めっちゃノレますね」
  麗奈、優しく微笑む。
麗奈「ふふっ、言った通りだ」

○メインタイトル
【My Angel】

THE END

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。