村は豊作となり、山の神は結納を交わして半年が過ぎようとした。
あまり物言わぬ愛妻になにかプレゼントを考えるようになった。
「その、欲しいものはなんだ」
驚いた顔をして一瞬考えこむ少女は
「私に名前を付けてください」
とお願いをした。山の神はそんなものでいいのかと一瞬驚いたが、名前を付けることの意味は大事だと思い
「三日ほど考えていいか」
と祠へ姿を消す。少女はその間、洗濯物をしたり、ご飯を用意したりするも、山の神は書物ばかり読み漁ってうわの空だった。
ある時、少女がわらを敷いて寝ていると山の神は隣でじっといとおしそうに見ている。
少女は目を細めて
「夢…か」
と二度寝をする。
美味しい馳走の匂いで目覚めると山の神は名前を書いた紙を三つ用意した。
それぞれ
みだ あみ れい
と書いてある。山の神は
「どれか一つそなたに進ぜよう」
と笑いかけた。
「みだって素敵。どっちかというとあなた様はれいという感じが致します」
と微笑んで見せた。
美蛇、弥陀、彌陀とも書けるその名前。一番いいと思っていたのは山の神も同じで
飛び上がるように喜び勇んだ。
「ミダ、これからそう呼ぶとよい」
晴れやかな空が心地いい。そよ風が二人の頬を撫でていた。
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