婚前交渉 歴史・時代

名のある家の離れに、隔離されたように生きる朔哉は、 頭首の妾の子として生まれた。 体が弱く、外に出ることも許されないそんな暮らしの中だったが、 この屋敷の中で朔哉に口答え出来るのは、頭首以外に誰もいない。 しかし、そんな状況の中で、唯一朔哉と同等に渡り合えるのは 本妻の息子である、兄の孝之だった。 朔哉は幼い頃から自分を特異な目で見なかった孝之だけを 愛していたが、あるとき、頭首である父がこの世を去る。 そこで決まったのは、孝之の結婚だった。 朔哉の絶望の裏で起こっていたのは、 黒く渦
悠二 15 0 0 03/29
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第一稿

・寝室

和室の畳に敷かれた布団に入って体を起こしている朔哉《さくや》
朔哉の傍に座って血圧を測っている医者の栄介《えいすけ》

栄介M「この広いお屋敷の一番奥にある離れ ...続きを読む
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・寝室

和室の畳に敷かれた布団に入って体を起こしている朔哉《さくや》
朔哉の傍に座って血圧を測っている医者の栄介《えいすけ》

栄介M「この広いお屋敷の一番奥にある離れは、この朔哉さんの為だけに建てられたもので、そこに住まわれるようになってから二十年になる。頭首の妾の子として生まれた朔哉さんは今は亡き母親の面影を色濃く継がれ、それは世にも美しく成長された。しかし、体が弱く、日の当たる場所に長時間出ることが出来ないことから彼は軟禁された状態と変わらない生活を送っている」

栄介 「今日は体調が優れないようですね。眠れていますか?」
朔哉 「眠るしか能の無い私にそんなことを聞くのか。この藪医者め」
栄介 「藪医者ですか……ははは……」

栄介、苦笑いをする

朔哉 「お前が私に何か隠そうとしているのは見ていれば分かる」
栄介 「え……?」

栄介、朔哉を見ようとしない

朔哉 「本宅の居間の方が騒がしい。誰が来ている?」
栄介 「……私は……存じ上げません」
朔哉 「嘘つき。お前は嘘をつけない体に出来てる」
栄介 「嘘ではありません……」
朔哉 「ならどうして私を見ない? それに喉が震えているぞ」
栄介 「え?」

栄介、自身の喉に触れる

朔哉 「ふっ。馬鹿め。まぁいい。行って確かめればすむことだ」

朔哉、立ち上がると襖を開けて部屋を出いく

栄介 「朔哉さん!」

***
・廊下

乱れた浴衣姿のまま歩いていく朔哉

栄介M「幼い頃から自分の立場を理解していた朔哉さんは、頭が良く自分の美しさを利用し、頭首以外に口出しさせない状況を作った。しかし、先日その頭首が死去され、彼を支配する者がいなくなった」

栄介 「朔哉さん! いけません!」
朔哉 「お前の仕事は終わっただろ。さっさと出て行け」
栄介 「ですが!」

栄介M「その中に唯一、彼と対等に渡り合う人がいる」

朔哉、居間の襖をサッと開ける

***
・居間

居間で向かい合って座っている孝之《たかゆき》、伯母、小夜《さよ》、老婆
急に開いた襖と、朔哉の姿に驚く

朔哉 「……」

朔哉、孝之を見るとその前に座っている小夜を品定めするような目で見る

伯母 「さ、朔哉さん……どうなされたのです?」

怯えるような声で問う伯母
すると微笑んで小夜を見る朔哉

朔哉 「楽しそうな声が聞こえたので、私も参加させてもらえればと思ったのですが」
孝之 「……」
朔哉 「ここに来る途中に体調がまた悪くなってしまったので、やはり離れに戻るとします」

笑っている朔哉

伯母 「そ、そうですか……それは残念です」

伯母、必死に笑う

朔哉 「お兄様が羨ましい。私もこの様な綺麗な女性とお知り合いになりたいものです」
孝之 「……」

孝之、小夜に対して申し訳なさそうにする

朔哉 「では、お邪魔してすみませんでした。ごゆっくり」

朔哉、小夜に微笑む
が、目を逸らすと途端に表情を変え、傍に居た家政婦Aを見る

朔哉 「一番良い茶を出してやりなさい」

言うと音を立てて襖を閉める

***
・寝室

縁側に座って庭を見ている朔哉
栄介が控えめに座っている

朔哉 「さっきも言ったはずだが」
栄介 「え……?」
朔哉 「用が済んだのなら帰れ」
栄介 「ですが……」
朔哉 「……」

機嫌悪そうにしているが、ため息を吐く朔哉

朔哉 「これ以上私の体に負担をかけさせる気か? お前が背後にいるだけで気分が悪い」
栄介 「……」
孝之 「朔哉……、栄介さんの気持ちをもう少し考えてやれ」

孝之、戸口に立っている
驚いて振り向く朔哉と栄介

朔哉 「……」

朔哉、ふいっとそっぽを向く

孝之 「栄介さん。すみませんが二人にしてもらえますか?」

孝之、栄介に微笑むと中に入ってくる

栄介 「は、はい……」

栄介M「この人こそが朔哉さんと対等に渡り合え─」

栄介、立ち上がると部屋を出る

***
・廊下

朔哉の部屋を出ると中から声が聞こえてくる

孝之 『体調が悪いんじゃなかったのか?』
朔哉 『あぁそうだ。気分が悪い』

栄介 「……」

栄介M「彼の心を支配する人なのだ」

栄介、去っていく

***
・寝室

朔哉、縁側に座っている
その隣に座る孝之

孝之 「相変わらずここの庭は綺麗だね」

微笑む孝之

朔哉 「お前が庭師にやらせているんだろ。私は別に庭など気にしたこともない」
孝之 「そう? 朔哉はよくここに座って庭を眺めているじゃないか」
朔哉 「一日中布団の中にいろとでも言いたいのか?」

朔哉、孝之を見ない
悲しげに微笑む孝之

孝之 「なぁ朔哉」
朔哉 「なんだ」
孝之 「さっきの人が嫁に来ることになったんだ」
朔哉 「……」

朔哉、縁側に触れていた拳を握る

孝之 「今月の終わりにはお前の姉になる」
朔哉 「私の姉? 馬鹿を言うな。私には何の関係も無い」
孝之 「どうして? 朔哉は俺の弟なのに」
朔哉 「はっ。私は妾の子だぞ? この家に存在していない人間だ。それが何故弟だと言える」
孝之 「それでも俺達は同じ血が通っている。確かに兄弟だ」
朔哉 「血なんて、本当に通っているかもわからない。私はあの弱い母親の血しか通っていないだろうよ。お前とは似ても似つかないのがいい証拠だ」
孝之 「朔哉……」

孝之、朔哉の手に触れる

朔哉 「っ! な、なんだ?!」

焦る朔哉

孝之 「お前の体が弱いのはこんなところに閉じ込められているせいだ。でももう父さんはいないんだ。自由になっていいんだよ」
朔哉 「私が自由になったところで体なんか良くならない!」

朔哉、立ち上がる
手を離さない孝之

孝之 「朔哉。本宅で一緒に暮らそう。きっとお前は元気になる」
朔哉 「っ!」

朔哉、目を見張る

朔哉 「離せ! ここは私の城だ。ここ以外で私は生きていけない」
孝之 「……」
朔哉 「知ってるぞ。本宅の奴らが私の死を待ち望んでいること……。あいつがいなくなって、私が邪魔なら殺せばいい」
孝之 「朔哉」

孝之、立ち上がる
身構える朔哉

孝之 「誰もそんなこと思いやしないよ」

孝之、朔哉の頭を撫でる

朔哉 「っ! 出て行け!」

朔哉、手を払って叫ぶ

朔哉 「汚らわしい……」

***
・寝室(回想)

幼い頃の朔哉が布団に寝ている
そこへ父が来る

父  「朔哉……」
朔哉 「おとう……さん……」

父、朔哉の頬に触れる

父  「お前の肌は白くて透き通るようだ……」
朔哉 「……」

怯える目で父を見る朔哉

父  「あいつに本当に良く似ている……」

父、浴衣の襟元から手を滑り込ませる

朔哉 「お父さんっ?」
父  「静かにしていろ」

父、声色が変わる

朔哉 「っ……」
父  「逆らわなければ黙っていてやる」
朔哉 「えっ……?」
父  「お前が殺したんだろ。あいつを」
朔哉 「ち、違います……」
父  「ふっ。お前は母親を池に突き落とした」
朔哉 「わ、たしではありません……」
父  「そうだ。お前と俺だけの秘密だ」

父、朔哉の浴衣を肌蹴る

朔哉 「っ……ちが、う……私は何も……」

***
・寝室

布団に寝ている朔哉、具合が悪そうにしている
血圧を測っている栄介

朔哉 「私は後どのくらいで死ぬんだ」
栄介 「そうですね、八十年ほど先でしょうか」

微笑む栄介

朔哉 「さすが藪医者だ。面白くも無い」
栄介 「……」

へこむ栄介

朔哉 「医者なら医者らしく、一思いに死ねる薬を出せ」
栄介 「そのような薬持っておりません」
朔哉 「本当に使えないな」
栄介 「……良くなる薬なら沢山持っていますよ。それに孝之さんが本宅へ呼んで下さっているそうじゃないですか。その方が私もいいと思います」
朔哉 「お前までそんなことを言うのか」
栄介 「……ここはあなたには辛い場所ではないんですか?」
朔哉 「あぁそうだ。ここは地獄のような場所だった。しかし今では天国だ」
栄介 「……」
朔哉 「あいつは死んだんだ。もう私に危害を加える者はここにはいない」
栄介 「ですが、あちらはここと違って華やかで活気に溢れています。その方が」
朔哉 「私に孝之の夫婦生活を微笑んで見ていろと言いたいのか?」

朔哉、両手で顔を隠す

朔哉 「そんなこと死んでもごめんだ。あの女、今すぐにでも殺してやりたい」
栄介 「朔哉さん……」
朔哉 「死ぬ薬を持っていないのならさっさと帰れ。それ以外に用は無い」

朔哉、寝返りを打ってしまう

栄介 「……」

栄介M「この人は美しく、気が強く、頭がいい。そして弱さを隠すために必死になって生きてきた。母を亡くした時も泣きもせず、傷だらけの排泄口を私に治療させた時も、ただ生きるためには越えなくてはならないと耐えてきた」

***
・廊下

本宅へ続く廊下を歩いている栄介

栄介M「弱いあの人を必死に生きようとさせたのは、誰でもなく孝之さんだったのだ」

本宅の庭で笑い合っている孝之と小夜

栄介 「……」

悲しげにそれを見る栄介

***
・寝室(回想)

縁側に座っている幼い朔哉
庭の隅から幼い孝之が出てくる

朔哉 「っ!」

それを見て急いで隠れようとするが転んでしまう朔哉
孝之が近寄ってくる

孝之 「大丈夫?」
朔哉 「……」

怯える目で孝之を見る

孝之 「大丈夫だよ。怪しい者じゃないから」

笑っている孝之

孝之 「ここも俺の家のはずなんだけどな。離れにこんなに可愛い子がいるとは思わなかった」
朔哉 「わ、私は……」
孝之 「ねぇ、名前は? なんていうの?」
朔哉 「……朔哉……」
孝之 「朔哉かぁ。綺麗な名前だね。俺は孝之」
朔哉 「知ってる……」
孝之 「?」
朔哉 「お母さんが……お兄ちゃんがいるんだって……」
孝之 「ほんとに? じゃあ俺の弟なんだ!」

喜ぶ孝之

孝之 「どうしてこんなところにいるの? あっちで一緒に遊ぼう?」

朔哉、首を振る
孝之、不思議に思って部屋の中を見ると布団が敷いてあるのに気がつく

孝之 「……体、弱いんだね」

朔哉、頷く

孝之 「そっか、じゃあ俺がここに遊びに来てあげるね」
朔哉 「だめ!」
孝之 「え? どうして?」
朔哉 「怒られちゃうから……。お母さんもお父さんも、きっと怒るから……」

震える朔哉

孝之 「大丈夫だよ」

孝之、朔哉の頭を撫でる

孝之 「俺が朔哉を守ってあげる」
朔哉 「……」

微笑む孝之を見る朔哉

***
・寝室(夜)

縁側に座って月を見上げている朔哉
庭の隅から孝之が現れる

朔哉 「! どうしてそんなとこから!」

驚く朔哉に笑う孝之

孝之 「廊下から行ってもきっと入れてくれないと思って」
朔哉 「……」

呆れる朔哉
孝之、何かを持っている

朔哉 「なんだそれは」
孝之 「袴」

孝之、朔哉の隣に腰を下ろす

朔哉 「……」
孝之 「朔哉に」

紙を広げると漆黒の袴が出てくる

朔哉 「わ、私がこれを着てどこへ行けというんだ」
孝之 「俺の結婚式だよ」
朔哉 「っ……」

朔哉、孝之を見る

孝之 「俺は朔哉に一番前にいて欲しい」
朔哉 「……それは無理だ」
孝之 「……」
朔哉 「きっとお前の母もそれを許さないだろう。私は表に出ることが許されていない」
孝之 「朔哉。お前は本当にここに閉じ込められていたんだな」
朔哉 「え?」
孝之 「母さんはとうの昔に死んでるよ」
朔哉 「……」

朔哉、驚く

孝之 「嘘だって顔してるな。本当だ。そして父さんも死んだんだ。俺に残った身内はお前しかいないんだよ」
朔哉 「……そんな……」
孝之 「だからお前に俺の花婿姿を見て欲しいんだ。一番近くで」
朔哉 「……」

朔哉、額を押さえる

朔哉 「……ほん……とうか……?」

朔哉の呼吸が荒くなってくる

孝之 「え?」
朔哉 「はぁっ……はぁ……」
孝之 「朔哉?」
朔哉 「っ……はぁ……」

朔哉、孝之の服を掴むが倒れる

孝之 「朔哉!」

***
・寝室(夜)

布団に寝ている朔哉
傍に孝之と栄介がいる

栄介 「久しぶりですよ。こんなことになるのは」
孝之 「すまない。俺のせいだ」

眠っている朔哉

栄介 「朔哉さんは何と答えられたんですか?」
孝之 「母さんが許さないってさ。母さんが死んだことも知らなかったんだ」
栄介 「……」
孝之 「朔哉を守るためにはこうするしかなかった……」
栄介 「孝之さん……」
孝之 「間違ってるのは分かってる……でもどうしてもこいつが悲しむ道しかない」
栄介 「……」

***
・寝室(朝)

浴衣を広げる朔哉

朔哉 「?」

浴衣の袖を見て不思議な顔をすると廊下に顔を出す

朔哉  「おい。誰か!」
家政婦A「はい」

家政婦Aが廊下の先から来る

朔哉  「どうした。糊が効いていないぞ」
家政婦A「申し訳ございません。すぐに他の物をご用意いたします」
朔哉  「いつもの奴が洗ったのではないのか?」
家政婦A「……その……」
朔哉  「なんだ。誰がした」
家政婦A「先日より小夜様がこちらに住まわれていまして、家事手伝いをなさっておいでです」
朔哉  「小夜? 誰だそれは」
家政婦A「孝之様のご夫人になるお方でございます」
朔哉  「っ!」

朔哉、本宅の方へ歩いていく

家政婦A「朔哉様!」

***
・居間(朝)

居間の襖を開ける朔哉
中では孝之、小夜、伯母が食事をしている

孝之 「朔哉……どうし」
朔哉 「誰がこの家の家事に手を出していいと言った!」
小夜 「……」

小夜、驚いている

伯母 「さ、朔哉さん……?」
朔哉 「いいか! 今後私の衣服に手を出すな!」
孝之 「朔哉」

孝之、立ち上がって朔哉を制止する

孝之 「小夜さんは悪くない。俺が許したんだ。すまなかったな」
朔哉 「っ!」

朔哉、孝之を睨みつけると浴衣を畳に投げつけて去っていく

孝之 「……」
小夜 「ご、ごめんなさい……私……」

泣き出す小夜

孝之 「いや、君は悪くないよ」

***
・寝室

熱を出して寝込んでいる朔哉
傍に居る栄介

栄介 「走ったりなされたんですか?」

栄介、体温計を見て言う

朔哉 「何もしていない……」
栄介 「そうですか」

呆れる栄介

朔哉 「早く薬を持って来い」
栄介 「朔哉さん」
朔哉 「でないと私はあの女を殺してしまうぞ」
栄介 「……」
朔哉 「本宅にもういるんだ。孝之はあいつを庇った……。もう耐えられない……。死んだ方がましだ」

朔哉、苦しそうに訴える

栄介 「こんな体調のままではいくら女性といえども殺せやしませんよ」
朔哉 「……うるさい……藪医者……早くしろ……」

栄介M「こんな精神状況で、朔哉さんはとても結婚式を迎えることはできないと思っていた。出席する気もないんだろう。彼はもう自制心を失いかけている。今まで見てきた壁が、だんだんと崩れ落ち、彼は本当に危ない状況になっていた」

***
・寝室

布団に寝て血圧を測っている朔哉
傍には栄介がいる

栄介 「落ち着いていますね」

微笑んで血圧計を外すと朔哉が起き上がる

栄介 「大丈夫ですか?」
朔哉 「あぁ。昼飯を用意させろ」

やつれて、声が弱々しい朔哉

栄介 「はい」

栄介、血圧計を鞄に入れる
本宅の方からにぎやかな声が聞こえてくる

朔哉 「今日はやけに騒がしいな」
栄介 「……明日は結婚式です」
朔哉 「そうか。こんな体では式に出られないな」

自嘲的に笑う朔哉

栄介 「……」

***
・寝室

一人で昼食を食べている朔哉

朔哉 「……」

小鉢の中に大根とイカの煮付けがある
それを見て箸を置き、小鉢を持って部屋を出る朔哉

***
・居間の前

襖を開けるが誰もいない

朔哉 「おい! 誰か!」

しばらくすると家政婦Aが来る

家政婦A「朔哉様、お歩きになられて大丈夫なのですか」

家政婦A、驚いて朔哉に寄る

朔哉  「あいつはどこだ」
家政婦A「あいつ……と申しますと……?」
朔哉  「孝之の女だ!」
家政婦A「客間においでで」
朔哉  「……」

朔哉、客間に行く

家政婦A「あのしかし今は!」

***
・客間

廊下を歩いてくると、客間の襖が開いている
笑い声が聞こえてくる
朔哉、戸口に立つ

朔哉 「お前は私を殺すつもりか」

客間にいる小夜、伯母、家政婦B、家政婦C
全員一斉に朔哉を見る
小夜、白無垢姿で立っている

伯母 「朔哉さん……お体」
朔哉 「うるさい!」
伯母 「っ!」

怯える伯母

朔哉 「これを作ったのはお前だろう!」

小鉢を突きつける

小夜 「は、はい……あの」
孝之 「どうした?!」

孝之が居間の方から来る

孝之 「朔哉。歩いても平気なのか?」

孝之、朔哉に触れる
しかしその手を払いのける朔哉

朔哉 「お前は出来た嫁を貰うようだな」
孝之 「朔哉……?」
朔哉 「そいつは私を簡単に殺せる方法を知っている」

朔哉、小鉢を孝之に投げつける

孝之 「っ! ……?」

孝之、腕に当たって床に転げ落ちた小鉢を見る
床にばら撒かれている大根とイカの煮付け

孝之 「これは!」
朔哉 「残念……だったな……」

朔哉、息が荒くなってくる

孝之 「朔哉!」

立っていられなくなった朔哉を抱きとめる孝之

孝之 「これは君が作ったのか?!」
小夜 「は、はい……」
孝之 「どうして俺に一言言わなかった!」
小夜 「あの……」
孝之 「朔哉は烏賊アレルギーなんだ」
小夜 「えっ?」

朔哉、行き絶え絶えに小夜を睨みつける

朔哉 「殺したければそんな回りくどいことをするな……今の私ならお前でもすぐに殺せるだろう……」
小夜 「そんな……私は……」
朔哉 「はぁっ……たか……ゆき……」
孝之 「朔哉っ!」
朔哉 「私を……殺せと、命令しろ……でないと……」
孝之 「朔哉!」

朔哉、気を失う

***
・廊下

朔哉、廊下を歩いている
誰もいない、シンとした空気

朔哉 「おい、誰か!」

誰もいない

朔哉 「孝之! いないのか?」

歩いていく朔哉
本宅に近づいてくると庭の方から声が聞こえてくる

朔哉 「?」

***
・庭

庭に出ると、広い庭で結婚式が挙げられている
幸せそうに微笑む紋付袴姿の孝之
その隣には白無垢の小夜がいる

朔哉 「……」

朔哉、その場に座り込む

朔哉 「たか……ゆき……」

孝之の笑い声が聞こえてくる

朔哉 「嫌だ……どうして……私は……お前を愛しているのに……」

小夜の笑い声が聞こえてくる

朔哉 「やめろぉっ!」

***
・寝室(夜中)

目を覚ます朔哉

朔哉 「っ……ぁ……あ……」

朔哉、両手で頭を抱える

朔哉 「孝之……孝之……」

***
・廊下(夜中)

廊下をすり足でゆっくりと歩く朔哉
誰もいない、寝静まって静かな廊下に朔哉の足音だけが響く

朔哉 「……」

手に包丁を持っている
孝之の寝室の前に止まり、襖を開ける

***
・孝之の寝室(夜中)

朔哉 「……」

朔哉、中の光景を見て呆然とする

孝之 「朔哉……」

孝之が布団の上に座っている
その脇には小夜の姿があるが、もめた形跡があり、小夜は動かない

朔哉 「たか……ゆき……?」

朔哉、孝之に近寄り頬に触れる

朔哉 「なんで……」

孝之、微笑む

孝之 「もう何もかも捨てることにしたんだ」
朔哉 「え……」
孝之 「お前がいればそれでいい」

孝之、朔哉を抱きしめる

朔哉 「……」
孝之 「これで三人目」
朔哉 「三人……?」
孝之 「一人目はお前の母親」
朔哉 「!」
孝之 「ねぇ、朔哉。お前の母親は自殺なんかじゃないんだ。俺が池に突き落とした」

父  『お前が殺したんだろ。あいつを』
朔哉 『ち、違います……』
父  『ふっ。お前は母親を池に突き落とした』
朔哉 『わ、たしではありません……』

朔哉 「う、うそだ……どうして……」
孝之 「ふふっ。母さんがね、どうしても死んで欲しいって毎晩泣くんだ。俺を抱きしめながら、憎い憎いって。だから殺してあげたんだ」

孝之、笑っている

朔哉 「そんな……」
孝之 「ごめんね。朔哉。そのせいで朔哉は父さんに玩具にされて……」
朔哉 「っ……」
孝之 「でも俺が助けてあげただろ?」
朔哉 「嘘だ……」
孝之 「嘘じゃないよ。父さん、びっくりしてた。まさか俺に殺されるとは思ってなかったんだろうね」
朔哉 「……」

朔哉、震えだす

孝之 「大丈夫だよ。俺は朔哉だけは殺さないから。ずっと傍にいたいから」
朔哉 「じゃ、じゃあどうして……この……」
孝之 「あぁ。結婚するって言っても、してしまえばそれでお終い」
朔哉 「え?」
孝之 「お前を自由にさせてあげるには、この家は必要だったから。跡は継がなきゃいけなかった。でも俺はお前をこっちに住まわして、こいつを離れに閉じ込めるつもりだったんだ」
朔哉 「……」
孝之 「でも朔哉は耐えられなかったんだよね?」

孝之、離れて朔哉を見る

朔哉 「……」

朔哉、涙目になる

孝之 「ふふ」

孝之、悲しげに笑うと朔哉の持っている包丁に触れる

孝之 「俺を殺しに来たのか?」
朔哉 「ち、違う!」

朔哉、包丁から手を離そうとするが孝之に握らされる

朔哉 「孝之……」
孝之 「いいんだ」

孝之、その手を胸の辺りまで上げさせ、自分に向ける

朔哉 「孝之?」
孝之 「あぁ、朔哉。お前は本当に綺麗だな。この長い髪も、この白い肌も」

孝之、朔哉の髪と肌に触れる

孝之 「全部俺の物にしたかった」
朔哉 「……」

涙目で孝之から目が離せない朔哉

孝之 「初めてお前を見たときから好きだったよ」
朔哉 「え……」
孝之 「朔哉。愛してる」

孝之、言いながら身を寄せて朔哉にキスをする

孝之 「っ……」

キスをしながら包丁が孝之の胸に刺さっていく

朔哉 「んっ……たか、ゆき……」

キスをしながら涙を流す朔哉

孝之 「ぐッ……」

孝之、離れると同時に血を吐く
その血が朔哉の胸にかかる

朔哉 「孝之っ」
孝之 「……っ……さ……く」

孝之、そのまま倒れこみ、動かなくなる

朔哉 「孝之! 孝之っ!」

泣きながら孝之の肩を揺さぶる朔哉

***
・寝室前(夜中)

廊下を呆然と歩いてくる朔哉
部屋の前に栄介がいる

栄介 「朔哉さんっ!」

栄介、朔哉に駆け寄ると血だらけの姿を見て驚く

栄介 「殺したんですか?!」

栄介、朔哉の肩を掴む

朔哉 「……」
栄介 「っ……」

栄介、走っていく

***
・孝之の寝室(夜中)

襖を開けると中の光景を見て言葉を無くす栄介

栄介 「どうして孝之さんまで……」

***
・寝室(夜中)

部屋に入ると、庭を見る朔哉

孝之 『俺が朔哉を守ってあげる』
孝之 『相変わらずここの庭は綺麗だね』

朔哉 「……」

朔哉、その場に座り込むと泣き出す

朔哉 「っ……孝之……ぅっ……どうしてっ……」

そこへ栄介が入ってくる
栄介、朔哉の肩を持つ

栄介 「どうして孝之さんまで殺したんですか!」
朔哉 「ぅっ……ぅぅ……」
栄介 「小夜さんだけなら隠してあげられたのに……!」
朔哉 「っ……ぁっ……」
栄介 「いいですか朔哉さん。もうあなたには逃げるしか道は残されていません。私があなたを守りますから、すぐに準備をしてください」
朔哉 「……準備……」
栄介 「えぇ。これだけはという物だけを持って行くんです。私は今から戻って準備をしてきます。いいですね? 私が戻ってくるまでに用意していてください」
朔哉 「……うん……」

栄介、去っていく
顔を上げる朔哉

朔哉 「準備……しなきゃ……孝之……行かなきゃ……」

ふらふらと立ち上がる朔哉

***
・玄関(夜中)

こそこそと家の中に入ってくる栄介

栄介M「初めから間違っていたんだと思う。彼らが進む道は、幸せにたどり着くことさえ出来なかった。ただ私が孝之さんをお手伝いしていたことは、言わば朔哉さんへの精一杯の愛情だった」

***
・廊下(夜中)

足音を出来るだけ立てずに歩いてくる栄介

栄介M「だけどそれも最後まで朔哉さんに伝わることは無かった。最後まで孝之さんの為にしか生きてくれなかった」

***
・寝室(夜中)

栄介、襖を開けると中の光景を見て呆然と立ち尽くす

栄介 「くそっ……」

首を吊って死んでいる朔哉
その場に崩れ落ちる栄介

栄介M「彼は最後まで美しく、赤い雫の垂れる白百合の様で私の心に焼き付いて離れない──」

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