「我々コドモじゃないんだから」
男4人 女3人
トバリ/大学?年生/男
はた迷惑で無邪気
フタバ/大学三年生/女
温厚なまとめ役
ゲン/大学二年生/男
率直でプライドが高い
ミチル/大学二年生/女
繊細で気が弱い
コイケ/大学一年生/女
マイペースな幽霊部員
五条先輩/大学三年生/男
スーツの男/社会人/男
◆シーン1
部室
・張り紙「学生映画博覧会まであと60日!」
・ホワイドボード 暴君シリウスの絵が描いてある
・テーブル
・椅子がその辺にある
トバリ 「用意、アクション!」(舞台袖から)
フタバ(カストル役)、ミチル(アルデバラン役)を追っかけて入ってくる
ミチル「キャーッ、誰かーたすけてー」
ミチル、転ぶ
フタバ「フハハ!まぬけな女!騙される方が悪いのさ!」
ミチル「キャーッ、コソドロよーだれかー」
フタバ「コソドロ!?この世間を騒がす大盗賊カストル様をコソドロ呼ばわりなんてまっったく生意気な娘だ!さぁ、金を全部渡してもらおうかぁぁぁ」
ミチル「キャーッキャーッキャーッ」
ゲン「待てい!!!!」
フタバ「誰だ?」
ゲン(リゲル役)、入ってくる
ゲン「俺は名も無き戦士、リゲル」
ミ・フ「名も無き戦士、リゲル?」
ゲン「大盗賊カストル、か弱い女子供ばかり狙って盗みとは、全く卑怯な真似をしてくれるな。だが、それも今日までだ!」
フタバ「なんだとー!返り討ちにしてくれるわー!」
ゲン「友情キーーーーーーーック!」
フタバ「ぐわぁ!...うぅ」
ゲン「フン、人を苦しめる泥棒など、友情の前では無力...」
ミチル「これはこれは素晴らしい戦士、リゲル様。どうもありがとうございます。おかげで助かりましたわ」
ゲン「礼には及びません。友情に背く荒くれ者を一人、退治しただけです」
ミチル「なんて素晴らしいの。私はアルデバラン、この国の姫です。是非ともお礼がしたいわ。私の城に来ていただけませんか?」
ゲン「いえ、それはできません。私にはやるべきことがあるのです」
ミチル「やるべきこと?」
ゲン「この国を苦しめているわがままな君主を懲らしめにいくのです」
ミチル「わがままな君主って...まさか」
ゲン「そう、暴君シリウス。奴の私利私欲的な政治のせいで、いまこの国は混乱に陥っている。それに歯止めをかけるのは、私しかいないのです」
ミチル「リゲル様.....」
ゲン「では」
ゲン、去ろうとするがフタバで立ち止まる
ゲン「立てるか、大盗賊カストル」
フタバ「...!? 助けてくれるのか?この俺を?」
ゲン「あぁ、友情の前では敵も味方もないさ」
フタバ「...うう....戦士リゲル、なんて心優しい奴なんだ....(立ち上がる)目が覚めたよ。おれが悪かった。これからは友人同士として、是非共に戦いたい。俺も連れてってくれ」
ミチル「ああっ、それなら私も連れて行ってください!暴君シリウスにされるままでは、居ても立っても居られません!」
ゲン「しかし」
フタバ「お願いだ」
ミチル「お願いです!」
ゲン「......わかった。その代わり、厳しい戦いになるぞ」
フタバ「そんなのへっちゃらでい!俺たちの友情があればな」
ミチル「ええ、私たち三人の友情に勝てないものなんて無いわ」
ゲン「そうか、では行こう」
三人「友情パワー、ファイッ!」
三人、かっこいいポーズをとる
トバリ「はいカット〜〜!カット、カット、カット〜〜!!」
トバリ、入ってくる
トバリ「いや〜〜みんな、よかったよーー!すっごくすっごくよかった〜〜〜」
三人、苦笑いする
トバリ「アルデバラン~~~!!とってもとっても素敵な演技だね!本当のお姫様だと思っちゃったよ」
ミチル「あ、ありがとうございます」
トバリ「カストル、何て素晴らしい盗賊なんだきみは!最初のシーンなんかもう、ハラハラしちゃって、もう~~、びっくりさせないでよう!」
フタバ「ハハ、スイマセーン……」
トバリ「リゲル君……」(ゲンに近づく)
ゲン「な、なんすか」
トバリ「い~や~大変にすごいよきみは~~~~~!!クールで優しくて最高にかっこよくて・・・・・もう本当に、惚れちゃいそうだよ!!」
ゲン「そりゃ…どうもです…」
トバリ「みんな、ここ数日間でかなーり良くなっているよ。だ・け・ど、俺が脚本書いてるときにイメージしたものには、まだまだ遠いなぁ。特に、最後の友情パワーの決めポーズ? あれにイマイチまとまりがないように思えたね。ちょっともう一回、やってみて」(手を叩く)
三人「(あわてて)友情パワー、ファイッ!」
トバリ「あーダメダメ、いいかい、このポーズはすごく重要なんだ。なぁカストル、この脚本のテーマはなんだったっけ?」
フタバ「……友情、です」
トバリ「そう、友情。これからリゲル、アルデバラン、カストル、三人が旅をしていくことに、様々な困難が立ち向かう。それを解決していったのは、アルデバラン、なんだろう?」
フタバ「……友情ですよね」
トバリ「その通り、友情。アルデバランは危険なたびに出ることを家族に止められる、カストルは仲間をかばって重傷を負う、そんなとき、リゲル、きみはいつもなんて言ってた?」
ゲン「・・・・・・俺達には友情があるからって」
トバリ「そうなんだよ、友情! 彼らにはいつ、どんなときも友情がある。友情パワー、ファイッ!これは、この物語の最大のメッセージを体現した、必要不可欠なポーズなんだ。手を抜いちゃあいけない。じゃあ、もう一回やってみて」
三人「友情パワー、ファイッ」
トバリ「はいもう一回!」
三人「友情パワー、ファイッ」
トバリ「もっともっと!ハイ」
三人「友情パワー、ファイッ」
トバリ「よーしよしよしよし!よくできてるよ~、それじゃあ、今日の練習はここまでね~お疲れ様~あ、そうだ、コレ、差し入れのペロペロチョコ、人数分だから分け合って食べてね~独り占めしちゃあ、ダメだよ!じゃあね~」(チョコを握らせる)
三人「お疲れ様でーす・・・・・」
トバリ、去る
三人、友情パワーのポーズを崩す
◆シーン2
ゲン「チョコ、俺食えないんで……」(チョコをテーブルに置く)
ミチル「私も、食べたら太っちゃうし……」(チョコをテーブルに置く)
ゲン「食べます? フタバ先輩」
フタバ「い、いやぁ、チョコの気分ではないんだよね」(チョコをテーブルに置く)
テーブルの周りに椅子を用意して、座る。ゲンはパソコンを開く。二人は脚本をパラパラ見ている。
フタバ「学生映画博覧会まであと60日・・・・・か」
フタバ、表紙を見る。
フタバ「『暴君シリウス』・・・・・」
ミチル「あの、フタバ先輩、ちょっと気になるところがあるんですけど」
フタバ「ん?」
ミチル「ここ、「名もなき戦士、リゲル」って台詞、おかしいですよね」
フタバ「うん、確かに名、あるのにねぇ」
ミチル「ちょっと変ですよ」
フタバ「ゲンはどう思う?」
ゲン「ちょっと変どころじゃないですよ。大いなるパラドクスですよ」
ミチル「うん・・・・・」
ゲン「それに、なんでしたっけ? フタバ先輩の役・・・・・」
フタバ「カストル」
ゲン「ああ、カストル。あいつ、大盗賊のくせに、倒れたところ戦士に助けられて秒で目が覚めるだの共に戦うだの・・・・・・・ちょろ過ぎないですか?」
フタバ「うん。そこ、気になってた」
ゲン「ちょーっと手を差し伸べたくらいでコロッといくなら、俺もう廊下で待機しますよ。モテたいし」
ミチル「ほんと、ゲンの言う通り。私も待機する。待機・待機・待機」
(ミチルとゲンが顔を見合わせる)
ゲン「・・・・・なんか、悪いな」
ミチル「いーえ」
フタバ「どうしたの?」
ゲン「・・・・・ミチルね、この前失恋したんですよ」
フタバ「あら、そうなの。誰だっけ、あの、三年の歌うまい人? バイトが一緒だった」
ミチル「そうです。彼女ができたらしくて」
フタバ「あー・・・・残念だね」
ミチル「はぁ、もう、毎日ブルーです。お姫様の役になんか打ち込めません」
フタバ「うんうん・・・・・私も、カストル、少しやりづらいところがある。「返り討ちにしてくれるわー!」とか「そんなの、へっちゃらでい!」とか、やけに、江戸っ子口調なのが一々引っかかって……物語の舞台は明らかに海外なのにさぁ・・・・・」
ミチル「謎ですよね、色々」
ゲン「ていうか・・・・・ 友情パワー、ファイッ!ってなんなんですかね」
二人「わかる」
ゲン「友情友情友情友情友情って、宗教みたいに。おまけに、ファイッて円陣かなんか? この三人、実は元体育会系だったんですかね?」
ミチル「もう、このポーズやりたくない・・・・」
フタバ「うーん、これはじっくり相談する必要があるよね。映画博覧会についても、我々の映画研究会のこれからについても、色々とさ。あのさ、この後、飲みにいかない? おごるからさ」
ミチル「えっ、いいんですか?」
フタバ「うん。ミチルちゃんは傷心だし、ゲンくんはインターンの報告大変そうだし、ここはフタバ先輩がなんとかしないと」
ゲン「まぁフタバ先輩がそうおっしゃるのなら・・・・・」(満更でもなさそうにパソコンを勢いよく閉じる)
ミチル「先輩、すてきー!」
フタバ「じゃあ、準備が出来たら・・・・・」
トバリ、乱入する
トバリ「ねえねえねえねえみんな、どっか行くの!?」
フタバ「トバリさん!?」
トバリ「今、飲みに行くって話してたよね? いいじゃんいいじゃんみんなで行こうよ~あ、でも俺お酒飲めないからさ、そこらへんのファミレスでご飯食べようよ~そうだミチル、バイト先の先輩にフられたんだって? 元気出せよ~その人だけが男ってわけじゃないんだから~ホラ、ミチルのシツレン(強調)も兼ねてさ、失恋パーティー、パーッとやろうよパーッと!」
ゲン「俺報告資料作るんで行きません」(パソコンを開く)
ミチル「私も辛くてそれどころじゃないです」
フタバ「あ・・・・私も、これからなんか、あった気が・・・・(手帳を見る)あっ、今日は仏滅じゃないっすかーいやー出かけたくても仏滅だから出かけてられないっ、だって仏滅だから」
トバリ「ああ、そうなの? じゃあ、また今度にご飯食べに行こうね。じゃあ、お疲れ~!友情パワー、ファイッ!」
三人「ファイ・・・・・」
トバリ、去る
ミチル「はぁ、もうやだ」
フタバ「ミチルちゃん、元気出して・・・・・」
ゲン「トバリさんって・・・・」
二人「ん?」
ゲン「本当に、四年生なんですかね」
ミチル「ええ?」
ゲン「ほら、テレビでよくやるじゃないですか。十歳で飛び級した天才大学生とか、某有名な名探偵とか、恋はスリル・ショック・サスペンスみたいな、見た目は大学四年生! 頭脳は小学四年生! その名も・・・・・」
フタバ「ゲンくん」
ゲン「あっ……いや……でも、先輩もそう思うでしょう?」
フタバ「ゲンくん」
ゲン「え・・・・その、でも、だって・・・・」
フタバ「トバリさんは、四年生じゃなくて五年生なの」
ゲン「エッ?! あの人留年してるんですか?」
ミチル「初耳なんですけど・・・・・」
フタバ「や、もしかしたら、もっとしてるかもしれない。あの人、映画研究会初代からいたから」
ミチル「ええ、そんなんでいいんですか」
フタバ「よくない・・・・・」
ゲン「お金の問題もあるじゃないですか。親御さんと一緒に住んでるんですかね」
フタバ「わからない……」
ミチル「ていうかトバリさんって、どこに住んでるんですか」
フタバ「知らない・・・・・」
ゲン「就活とかは、勿論してますよね?」
フタバ「聞いたこと無い……」
ミチル「授業にはちゃんと出てるんですかね」
フタバ「見たことも無い……」
ミチル「いいんですかね、そんなんで」
フタバ「いいわけない・・・・・」
ゲン「こんな脚本書いて、監督やってる場合じゃないでしょう」
ミチル「たしかに、そう思う」
ゲン「ねぇ、フタバ先輩。なんとかトバリさんに言ってくださいよ。先輩は三年でしょ、俺とミチルは二年でしょ、新入生は部活に来ないし、映画研の中で一番権限あるのはあなたなんですよ~。」
フタバ「うーん、でも、一応先輩だし・・・・・・」
ゲン「俺、次の短期留学のためにトーフルの勉強しなくちゃいけないし、金も稼がなきゃいけないし、インターンの準備もあるし、一分一秒も無駄にしたくないんですよ。こんな、つまんねえ台本で!」
ミチル「つまんねえって、ちょっと」
ゲン「ミチルもそう思ってただろ? これ見て、感動する人いると思うか?」
ミチル「いやそりゃ、ゼロに限りなく近いと思うけど・・・・・」
ゲン「フタバ先輩もそう思うでしょう?」
フタバ「え、あ、個人的にはそうだね・・・・・」
ゲン「我々子供じゃないんだから。もう二十歳ですよ。よいこのおゆうぎかいみたいなことやってられません。こんなの博覧会に出品したら、映画研、未来永劫馬鹿にされますよ。幽霊の一年生も成仏しますよ」
フタバ「いや、ゲンくんの気持ちはよくわかるよ。でも、なかなか・・・・・・ね」
ゲン「(台本の表紙を見る)何が「暴君シリウス」だよ。(ホワイトボードのイラストを指して)俺たちにとっての暴君はトバリさん。暴君トバリウス」
二人、思わず見合わせて笑う。
フタバ「暴君トバリウスって」
ミチル「確かに君主」
やがてすぐ黙る
ゲン「俺、もう帰ります。やっぱり色々やらなきゃいけないし、(窓を覗きながら)雪で帰れなくなったら困るし」
フタバ「ああ、そっか」
ゲン「このままトバリさん主導でやるなら、役者降りるかもしれないです。お疲れさまでした」
二人「お疲れさまでした」
ゲン、去る
ミチル「先輩」
フタバ「ん?」
ミチル「ゲンの言っていたこと、言い方悪いけど、本当のことだと思うんです。私はゲンみたいに留学とか忙しいわけではないけど、あの、先輩のことがあってから、すごく調子悪くて、役どころじゃないんです。楽しいシーンを演じているときでも、泣いてしまいそうで」
フタバ「……そっか、そうだよね」
ミチル「今日は私も帰りますね。家で休みたいです」
フタバ「うん、お疲れ様……」
ミチル、去る
フ「ハァ……」
暗転
◆シーン3
明転
張り紙「学生映画博覧会まであと55日!」(フタバが入ってきて破る?)
部室。フタバが就活の本を読んでいる。
トバリ、入る
トバリ「フタバ、おっはよう!」
フタバ「ああ、おはようございます」
トバリ「何読んでるの?」
フタバ「文章の書き方についての本です。エント リーシート、書いてもなかなか進まなくて、こういうとこから始めようと思ったんですよね」
トバリ「へぇ~、まじめだねぇ」(隣に座る)
フタバ「いや~私もまだいいかなまだいいかなって思ってたんですけど、ゲン君を見ているうちにそろそろ取り組まないとと考えまして」
トバリ「ゲンはすごいよね。二年生なのに、色んな勉強たくさんしてて」
フタバ「本当ですよ。次の短期留学に張りきってて、あっちに行ったら何するかとかもう計画しているんですよね。」
トバリ「へぇ~勉強熱心だねぇ~~」
フタバ「私が二年生の頃なんて、遊びほうけて全く」
トバリ「ゲン、何か夢でもあるのかな」
トバリ、テーブルの紙に何やら書き始める
フタバ「さぁ・・・・・でも、あれだけ頑張ってるんだから、一流企業とか、新しい企業を立ち上げたいとか、きっとあるんでしょう」
トバリ「もしかして、そうりだいじん?」
フタバ「そっ、そうり・・・・・・!? それは、さすがにないんじゃないですかね」
トバリ「いや、あるよ~。ゲンは頭もいいし、頑張り屋さんだし、絶対そうりだいじんになれるよ! ゲン首相さまさまだよ」
フタバ「は、はあ……」
トバリ「見て、フタバ、リゲルの似顔絵描いた! ゲン君にプレゼントしようかな~」
フタバ「へぇ~・・・・って、あれ・・・・・?(裏返す)あっ、えっ! これ、私のエントリーシート!」
トバリ「あっそうなの? ごめんごめん」
フタバ「どうしよう、裏写りしてる、あれ、保存してあるっけ。いつまでだっけ。あ~~~」
フタバ、紙をもって走り去る
トバリ「行っちゃった」
しばらくしてからミチルが入ってくる
トバリ「ミチル、おはよう」
ミチル「お疲れ様でーす」
トバリ「ほら、座って座って」
ミチル「あ、はい」(座る)
トバリ「最近元気?」
ミチル「まぁ、普通ですね」
トバリ「元気出してよっ」
ミチル「はい、言われなくても、出したいです」
間
トバリ「そう言えばこの前、五条くんが彼女っぽい子といるところ見たよ」
ミチル「えっ、五条先輩が……」
トバリ「確かあの子は、バスケ部のマネージャーの人だったかな? その人と付き合ってたんだね~」
ミチル「・・・・・・・そうみたいですね」
トバリ「あの子、可愛いもんね」
ミチル「……ええ」
トバリ「もしあの二人が結婚して、子ども作ったら、その子供、絶対美人になるよね!」
ミチル「こどもつく・・・・!?」
トバリ「だって、五条先輩すらっとしてるし、相手の子も目も大きくて美人だし、子ども作って産んだら男でも女でもきっとモテモテだよ~!」
ミチル「こども、つく・・・・・」(ぐったりしながらぶつぶつ言い続ける)
トバリ「あの二人には、幸せになってほしいな~ねぇミチル! 今は辛いだろうけど、いつかは・・・・あれ、どうかした?」
ミチル「こども、つく、こども……」
トバリ「コヅクリが、どうしたの?」
ミチル「こづくり! こづくり、こ、先輩が、こづくり、こづ・・・・・」
トバリ「どこ行くの?」
ミチル、ぶつぶつ言って死にそうになりながら去っていく
しばらくして、ゲンがパソコンを持ってやってくる
ゲン「げ」
トバリ「おはよう! ゲン」
ゲン「おはようございまーす」(帰ろうとする)
トバリ「ちょっと、どうして帰るの」
ゲン「次の留学の資料やんなきゃいけないんで」
トバリ「そんなこと言わないでよ~! ねぇ、留学ってどこ行くの?」
ゲン「……オーストラリアです。まだ決定ではないですけど」
トバリ「オーストラリア~~!!すごいね~~~!!ゲンは二年生なのにすっごく頑張ってるよ~~さっきフタバと話してたんだよ~」
ゲン「へぇ・・・・・(上機嫌になって)まぁ、オーストラリアは英語圏で外国人留学に力を入れてきた歴史ある国で、社会人もワーキングホリデーなんかで語学勉強に行くこともあるし、何より厳しい銃規制があるので治安はとても良く」
トバリ「おみやげは?」
ゲン「おみや・・・・・」
トバリ「買ってきてねっ、わすれないでねっ、俺、コアラのぬいぐるみがいいなあ~」
ゲン「……っ、わかりました、わかりましたから。じゃあ俺資料やるんで、邪魔しないでくださいね」
トバリ「は~い」
ゲン、パソコンをケーブルにつなげて(フリでもいい)席に座る
ゲン「絶対ですよ。ちょっとでも邪魔したら、友情キック百回ですよ」
トバリ「あはは~友情キック百回って、俺、暴君シリウスじゃないんだから~!あはは~!」
ゲン「喋るのも禁止です」
トバリ「はは・・・・うん・・・・・わかったよ」
ゲン、黙々とパソコンをする。
一方トバリ、落ち着きなさそう。友情ポーズとか色んなことをする。
トバリ、何か思いついた顔をして、紙に何か書く。立ち上がって、似顔絵を遠くから見つめたりする。
トバリ「ねぇ、ゲン見てみて~わあっ!」
トバリ、ゲンのもとに駆け寄ろうとして、転ぶ。(主電源のコードを抜いてしまう)
暗転
ウィンドウズXPの終了音が鳴る。
ゲン「とーーーばーーーーーりさあああああああああああああん!!!」
トバリ「ひえーごめんねー!」
◆シーン4
明転
部室。
・張り紙「学生映画博覧会まであと50日!」
深刻そうに座るミチルとゲンとフタバ
フタバ「エントリーシート、一からになっちゃった・・・・・」
ゲン「保存してたデータが消えた・・・・」
ミチル「セクハラされた・・・・」
ゲン「セクハラって、何されたんだよ」
ミチル「・・・・・・コヅクリって言われた」
ゲン「言われた? されたんじゃなくて?」
フタバ「ゲンくん(肩をポンとして)、子作りは、セクハラだよ」
ゲン「そうなんですか。セクハラされたのか、大変だったな」
ミチル「うう・・・・・こづ、こづく・・・・・うう」
ゲン「はあ、俺もう我慢の限界です。暴君シリウスより、トバリウスの方がずっと強敵」
フタバ「うん・・・・・私も、疲れちゃった」
ゲン「先輩、どうにかしてくださいよ、お願いしますよ。じゃなきゃ俺、部活辞めます」
ミチル「私も、もうこんなつらい思いするの嫌です~先輩~」
ゲン「先輩」
ミチル「先輩~」
フタバ「……うん、あのね、一つ提案があるんだけど」
ゲン「提案?」
フタバ「実は、私も博覧会に出す脚本を書いていたの」
ミチル「そうなんですか?」
フタバ「トバリさんが四年、いや、五年、いや……先輩の権限を使って今の脚本になっているけど、先輩、もし就活に専念して忙しくなったら困るから、私と、ミチルちゃんと、ゲンくん、三人で事済むようなやつをね」
フタバ、二人に台本を配る
ゲン「本当ですか?」
ミチル「へぇ~」
フタバ「勉強の合間に書いたものだから、そこまで面白いものではないと思うけど、もし、もしね、二人がこれを気に入ってくれたなら、こっちをやってみてもいいんじゃないかな~って」
二人、脚本をパラパラ見る
フタバ「ど、どうかな」
ゲン「・・・・・先輩」
フタバ「あ、つまらなかった? それなら別に……」
ゲン「これ、すっごく面白いですよっ。展開もしっかりしてそうだし、大人っぽいし、ざっと見でもわかりますっ」
フタバ「本当!?」
ミチル「私も、こういうのがやりたかったんです。こう、友情とか仲間とか前面に押し出すんじゃなくて、雰囲気でわかってもらう物悲しい感じのを!」
フタバ「はぁ~よかった~みんなが気に入ってくれて~」
ミチル「この、主人公の男性役がゲンで、余命半年の恋人役が私で、二人を支える主治医役が先輩ですよね?」
フタバ「そうそう、そうなの!」
ゲン「俺も、これならやりがいありますよ。じゃあ、早速明日から、こっちで練習しましょうか」
フタバ「そう言いたいんだけど、ただ、一つ問題があってね」
ミチル「・・・・・トバリさんですか?」
フタバ「そう。今から演目変えるって言ったって先輩聞いてくれないだろうし、かといって大学内で部室以外の練習場所なんてないし・・・・」
ゲン「うーん」
ミチル「あの、練習場所ならなんとかなるかもしれません」
フタバ「えっ?」
ミチル「大学祭の実行委員会が、しばらく部室を使う予定がないみたいで、今は暇つぶしの場みたいになっているんですけど、私、実行委員に友達が多いんで、頼み込んだら一か月くらいなら貸してくれるかもしれません」
フタバ「それはいいね。お願いしていい?」
ミチル「はい!」
フタバ「あとは、トバリさんにどう説明するかなんだけど・・・・・」
ゲン「説明なんて必要ありますかね?」
フタバ「でも」
ゲン「トバリさんの方は暇なときに適当に出て、俺たちは日程ちょっと詰めてやればいいんですよ。もしバレたら、別の台本の練習をしていたって言えばモーマンタイです」
ミチル「確かにそうだね、説明したらしたで、きっとややこしくなるかも・・・・・なんてったって、暴君トバリウスだから」
ゲン「ははは、そうそう。暴君トバリウスの退治に、友情パワーや友情キックなんていらないぜ」
フタバ「暴君、トバリウス……ぷっあはは、あははは」
三人、笑う
フタバ「さて、新しい練習の前夜祭も兼ねて、今日こそ飲みに行かない?」
ゲン「いいですねぇ!」
ミチル「この前は、暴君に邪魔されてできなかったし」
フタバ「どうする? 一年生の子も呼んでみる?」
ミチル「そうですね……(電話を掛ける)もしもし、忙しいところごめんね。ミチルだけど。今から、映画研で飲みに行くんだけど、一緒に来ない? ・・・・・バイト? じゃあ、また今度にしようか」
フタバ「いつバイトないのって」
ミチル「ちなみに、いつバイト休み? ・・・・・・・休みが、ない? ハハ、それはないでしょ? そんなに飲み会イヤ? ・・・・・・嘘じゃない?」
ゲン「今月のシフトはって」
ミチル「こっ、今月のシフトはどんな感じなの? ……うんうん、月曜から木曜までが……バイトで、金曜から土曜が・・・・・・・も? も、バイトね。んで、日曜日と祝日と月曜が休み……じゃなくてバイトね。ああ、ああ、わかったよ。じゃあ、また今度……(電話を切って)無理っぽいです」
フタバ「月曜って二回言ったよね?」
ゲン「大丈夫かあいつ?」
ミチル「そこまで疲れてる様子じゃなかったから、いいんじゃないかな。たぶん」
ゲン「うーん、まあ、今日は俺たちで楽しみましょうか」
フタバ「そうだね。ゲンくんもミチルちゃんも、元気づけてあげたいからね」
二人「先輩……!」
二人、フタバにくっつく
ゲ「さすがです!」
ミ「一生ついていきます!」
フ「映画研究会、三人で頑張るぞー!」
三人「オー!」
◆シーン5
音楽や効果音を流したり照明を変えながら
飲み会→練習→飲み会→練習→飲み会を台詞なしのダイジェスト風味にする。あと○○日を破りながら場転。
とにかく時間が経っていることをわからせたい。
ジャンパーを着たりして場転の意識をさせる。
同時並行で、舞台前の方にトバリがやってくる。
トバリの台詞の背景に三人がいる感じ。
トバリ「おっはようみんなー! ・・・・あり?」
トバリ、部室を見渡しながら、やがてテーブルの台本(シリウスの方)を見つける。
トバリ「誰が忘れてったのかなー?」
トバリ、パラパラとめくって嬉しそうにする。
トバリ「アルデバラン、旅をしていくなんて危険だ」
トバリ「お父様、止めないでください」
トバリ「こんな名も無き戦士の端くれに何ができる! 暴君シリウスを倒すなんて無理だ!」
トバリ「友情パンチですわ!」
トバリ「ぐわぁ」
トバリ「二度と、リゲル様を、私の友達を馬鹿にしないでください! リゲル様は、私たちに友情を教えてくれたのです」
トバリ「そうでいそうでい!」
トバリ「そ、そんなに立派な奴だったはのか・・・・すまないリゲル君、勘違いしていたよ」
トバリ「いいんですよカペラさん、自分の愛娘は誰だって守りたいもの、それもまた友情と言えましょう」
トバリ「リゲル・・・・・うう、きみはなんて・・・・・なんて・・・・・」
トバリ「あらあらお父様、情けないですわ」
トバリ「私は目が覚めたよ。アルデバラン、生きて帰ってくるんだぞ」
トバリ「もちろん!」
トバリ「そうそうリゲル君、暴君シリウスのことなら、隣町にいるプロキオンという男が詳しく知っているよ」
トバリ「ありがとうございます。光栄です」
トバリ「みんな、我がダイヤモンド王国を、救ってくれ」
トバリ「わかりました」
トバリ「合点だぜ!」
トバリ「それではみんな行くぞ、友情パワー、ファイッ!」
トバリ「ファイッ、ファイッ、ファイッ、ファイッ、ファイッ、オーーーーー!」
トバリ「はあー!」(台本を閉じる)
トバリ「楽しみだなー、みんなの姿を見るのが」
トバリ「リゲル、カストル・ポルックス、アルデバラン。カペラ、プロキオン、シリウス。まるで、僕たちみたいだ。いや、僕たちなんだ」
トバリ「あっ(腕時計を見て)もうこんな時間! 今日はとってもとっても大事な予定があるのに!」
トバリ、ジャンバーを着て、方位磁針を取り出す
トバリ「・・・・・ふう、さむいさむい! 南の方角はどこだ? こっちか? そっちか? あっちだ~! 友情パワー、ファイ~~~~!」
トバリ、走り去る
背景では飲み会で三人が酔っ払ってる
ざわざわした効果音を流す
フタバ「友情パワー、ファーーーイ!!」
ゲン「せんぱ~い、友情パワーで、お金出してくださいよ~」
フタバ「ええ~~~どうしようかな~~~~お財布さんの友情パワー、もうなくなっちゃったよ~~」
ミチル「えええ!? 友情パワー、なくなっちゃったんですかあ? うう・・・・・ひっく、お財布さん、お財布さぁん・・・・・・」
ゲン「泣くな泣くな、こっちにパワーはまだあるぜ(財布を出しながら)」
ミチル「ううう~~~~ゲンちゃ~~~~ん!!」
フタバ「アハハハオロロロロロロロ」
ゲン「先輩! 吐くならトイレ、行ってください」
フタバ「はーい、行ってきまーすっ」
フタバ、舞台端にはける途中で、携帯を見る。
フタバ「あら、着信履歴が……へへ、もしもーし?」
フタバ、完全にはける
ゲンとミチル、騒ぐ
ゲン「それにしても、すごい雪だなぁ」
ミチル「うううう・・・・・本当、五条先輩、なんであんな子と付き合っちゃうの? あの女、男とっかえひっかえしてるって有名なのに」
ゲン「いいかよく聞け。これから世界に羽ばたくゲン様のありがたいお言葉だ。女の八割は、顔だ! ぎゃはははは」
ミチル「ひっどい! 顔で選ぶなんてサイテー!」
ゲン「女も顔で選んでるんじゃねーか(ツッコミ)」
ミチル「違うもん全然違うもん! お金とか地位とか色々あるもん!」
二人「あっはははははは」
フタバ、急いで戻ってきて、ゲンを揺さぶる
フチル「みんな大変、大変だ」
ゲン「あ、先輩。吐けましたー?」
ミチル「ゲンがひどいんですよぉ」
フタバ「聞いて、本当に聞いて」
二人「んー?」
フタバ「今日の朝、その、トッ、トバリさんが、雪、吹雪の中で倒れているのが見つかったって」
効果音が止まる
二人「えっ」
フタバ「それで、それで、その、山の上で見つかったんだけど、その」
フタバ、膝をつく
ゲン「先輩、落ち着いてください」
フタバ「トッ、トバリさん、救急病院に運ばれたんだけど、きょっ、今日、亡くなったって!」
効果音が再び鳴る
呆然とする二人
暗転
効果音が大きくなって消える
◆シーン6
明転
部室。
座るミチルにスポットライトが当たる 独白風
ミチル「……わかりません。トバリさんとは同じ部活だったってだけで、個人的な関わりとかは、全くありませんでした。だから、トバリさんについて知ってることなんてあまり・・・・・。いや、いや、いや、もう、何もわかりません。私、最近他のことで追い詰められていることがあって、辛くて、さらにこんなこともあって、もう、パニックで、毎日泣いてます・・・・ねえ、どうしたらいいですか・・・・・? どうしたら・・・・・うう・・・・・」
ミチルはけて、ゲン座る
ゲン「色々、あったんですよ。トバリさんと僕たちとは。方向性の違いっていうか、いさかいまではないんですけど、どうしようもないことがあったんです。でも、今回のこととは直接的な関係は無いはずなんですけど、全く無関係というわけにはいかないっていうか…同じ部活ですからね、・・・・・え? どうしてトバリさんがあんな山の上にいたか? えーと、うーん、ちょっと、わからないですねぇ……ダメだなぁ、こんなんじゃ・・・・」
ゲンはけて、フタバ座る
フタバ「事故、だったんです。事故。本当に、悲しくて痛ましくて辛い事故だったんです。彼の思ったことをくみ取れなくて、本当に申し訳ないと思っています。でも、私たちも精一杯努力したつもりなんです。これだけはわかって欲しいんです。……あの、今回の出来事はこれからの活動に影響しますか? あの、えっと、来月に、映画研究会の大きな大会があるんです。たぶん、私の最後の大会なんです。そこに参加することは、許されませんか?」
暗転
明転
部室
張り紙、学生映画博覧会まで、あと四十日!
ゲンとミチルが、呆然と座っている
ゲン「なんというか、思ったよりも、オオゴトにならなかったな。大学も、報道も」
ミチル「うん……でも、大変だった。友達とか警察にいろいろ聞かれて……」
ゲン「一時期は本当にハラハラしたよ。マスコミとか集会とか立て込んで、俺たち、色んな意味で終わっちゃうんじゃないかって。でも、実際はそのときがピークで、それからはどんどん風船みたいにしぼんでいったな」
ミチル「他の人から変な目で見られたかと思うと、怖い」
ゲン「このまま、しぼんでおさまって、終わりかな」
ミチル「きっとそうだよ」
ゲン「いいのかなぁ、これで」
ミチル「よかったよ。これ以上騒ぎになっていたら、私、もう耐えられなかったもん」
ゲン「うーん……」(パソコンを開く)
ゲン「あーあ、集中できない。当たり前か、当たり前だよなぁ・・・・・・」
フタバ、戻ってくる
ミ・ゲ「先輩」
フタバ「学務の人と、話しつけてきた。トバリさんのことと、私たちのことについては関係ないってちゃんと話したら、映画研のこれからの活動に支障はないようにするって言ってくれた。博覧会も、今まで通り、出品できるって」
フタバ、カウントダウンの張り紙を破る。
四十日の紙についた印に「ん……?」ととまどうが、気にせず破る。
張り紙『学生映画博覧会まで、あと三十日!』
ゲン「そう、なんですか。お疲れ様です」
フタバ「本当によかった。ありがとうございます」
二人、頭を下げる
フタバ「そんな、いいのよ。むしろ、あなたがたの方が怖い思いしたし、動揺したでしょう」
ゲン「いえ、そんなことは」
フタバ「本当に、辛い事故だった。今回の件を忘れろとか、切り替えろとかいうつもりは全くないよ。でもね、私たちはこうして活動できる機会をもらったんだよ。実はね、我が映画研も、この辺の時期に結成したものなんだ」
ミ・ゲ「へぇ~」
フタバ「だから、少しずつ気持ちの整理をつけながら、前を向いていけたらいいな、と思ってる。がんばろ。」
ミチル、頷く
ゲン、納得いかない顔
ゲ「事故……事故なんですかね」
◆シーン7
コイケ、急いで入ってくる
コイケ「はぁ、はぁ、はぁ、間に合ったー・・・・・・・ハー、ハー、ゼーハー」
フタバ「あらっ」
ゲン「うっわ、誰お前」
コイケ「えっ、いや、いや、いや、コイケっす! 一年のコイケっす」
ゲン「コイケ〜〜??知らねえなぁバイトまみれでちっとも部活に来ない幽霊部員なんて〜〜帰れ帰れ冥土に帰れ」(追い出そうとする)
コイケ「よくご存知じゃないっすか!ちょっと、冗談キツイっすよ! えっ、ほんとに? ほんとに? ほんとに忘れちゃったんすか?」
ゲン「(吹き出す感じで笑いながら)覚えてる」
コイケ「はーっ」
ミチル「コイケさん、お久しぶりね」
コイケ「お久しぶりっす。話は大体聞きました。思ったより皆さんが元気そうで良かったっす。そんでこの前、警察が部員に話を聞きたいから来てくれって連絡来たんですけど、そのときバイトでどーーーしても抜けれなくて、今やっと来たんスけど、それ、どこでやってるんスかね」
(話を蒸し返されてみんな若干戸惑う)
ミチル「警察の人とのお話は数日前に終わったよ?」
コイケ「えっっ、まじっスか? じゃあ、他に何かすることでも」
ミチル「うーん、やることはやった、って感じ」
ゲン「というか、お前が話すことなんてないだろ。ちっとも部活来てないんだから」
コイケ「じゃ、じゃあ無駄足ッスか?」
ミチル「まぁそうだね」
コイケ「え~~~~~このためだけに店長に睨まれながら急なシフト変更してもらって、代わり探すために大して仲良くも無い後輩に声かけて、振り替えも取ったけど、全部無駄だったってことッスか~~~!!あああああ~~~やってしまった~~~ちゃんと話を聞けばよかった~~~~!」
一人で騒ぐコイケを横目に三人、話す
フタバ「知ってる? 代わりを探さないと休めないバイトって、アウトなんだよ」
ミチル「そうなんですか? 前のバイト先ではそうでした」
フタバ「厳密にはね」
ゲン「いや、その前にこいつ週七で働いてるんでしょう。目に見えてアウトですよ」
コイケ「週八ッス・・・・・月曜に二回シフトがあるから・・・・」
フタバ「ああ、あれ間違いじゃなかったんだ」
ゲン「なおさらアウトだよ。一体どこなんだよそこ」
コイケ「店長に口止めされてます・・・・・・言ったら、素材の質にトコトンこだわったサクサクのかき揚げにされます」
ゲン「どっちのうどんだ?」
ミチル「どうしてそんなに働いてるの? シフト減らせないの?」
コイケ「別に、シフトが増えても特に何も減らないけど、シフトが減るとお金も減るんで……」
ゲン「その思想やばいぞ」
ミチル「うーん、コイケさんが嫌じゃないならいいけど……」
ゲン「いやいやいや労基法違反だぞ・・・・・・まぁいいや、できればもう警察にあうのはごめんだし」
フタバ「うん。久々の休みだから、ゆっくりしていけば、せっかく全員集まったんだし」
コイケ「まぁそうッスね。トバリ先輩、もういないですけど」
若干気まずくなるが、コイケは気付かない
コイケ「それにしてもホント、久しぶりに来てみたら、前来た時と変わってなくて、意外っすね」
ミチル「意外? どういうこと?」
コイケ「ほら、サークル内で大きなことが起こったら、しばらく活動停止とか自粛とか、あまりにひどいと廃部とか、あるじゃないっすか。思ったよりそういうのないんだな~~って」
三人が気まずそうに適当な返事をする
コイケ「いや、別にそうなってほしかったなんて思ってないっすよ。元気そうで何よりっすけど……あ、学生映画博覧会までもう一か月なんスね」
フタバ「そっ、そうなの。この三人が役者をやって、脚本は私」
コイケ「あれ、脚本はトバリ先輩じゃなかったんスか? トバリ先輩がそう言ってた気が」
ゲン「あー・・・・・いや、変わったんだよ。色々あって」
コイケ「へぇ~(テーブルを見て)これがトバリ先輩の脚本ですか?」
ミチル「そうだね」
コイケ「ほぉ~~~」
(パラパラ脚本を見る)
コイケ「でも、大きな声では言えないですけど、変えておいて良かったですよね。監督や脚本がいなくなったら、出品できないし」
三人、苦笑いする
コイケ「もしかしてフタバ先輩、こうなること予想してトバリ先輩抜きの脚本作ったんですか?」
ゲン「はぁ?」
ミチル「なわけないでしょっ」
フタバ「う、ううん、こんなことになるとは見当もつかなかったけど……トバリさん、いつ就活に専念するかわからないから、一応……」
コイケ「そうっすよね。ちょくちょくお三方が別の部屋で練習してるのを見つけて、てっきりトバリ先輩ハブられてるのかなーって思ったんすけど、やっぱり就活の方が大事っすよね」
ゲン「こいつさっきから」
立ち上がって何か言おうとするゲンをフタバとミチルが止める
ミチル「うんうん、ダイジダイジ」
フタバ「就活は本当大事よ」
ゲン、不服そうに座る
ぎこちない間
コイケ「フッ、フフ・・・・・」
ゲン「どした?」
コイケ「いや、なんでもないっす……」
ゲン「なんだよ、言えよ」
コイケ「いいっすいいっす」
ゲン「あー俺こういう状況イッチバン嫌いなの! 言って!」
コイケ「うーん……トバリ先輩の脚本、お世辞にもあまり面白くないっすね……」
ミチル「あぁ、まぁ、そういう人もいるかも知れないね」
フタバ「賛否両論ってとこかな」
コイケ「うーん……余命数日も無い恋人をさっぽろ雪まつりに連れてって、倒れたら主人公がめっちゃ驚いて泣いて、いやあんたのせいでしょってツッコミたい気分っすね。それに、これをすんなりオーケーした主治医もなんだか……」
ゲン「それ……フタバ先輩の方の脚本」
コイケ、脚本をぼうっと見て、やっちまったみたいなリアクションをする
コイケ「あっ、あっ、あっすいませんフタバ先輩~~それ以上に良いところ、たくさんあったんすよ~~~(慌てて脚本を取り違える)ホラここの、「暴君シリウス、俺たちの友情を見せてやる」ってとこか!」
ミチル「それはトバリさんの脚本」
コイケ、やっちまったみたいなリアクションをする
コイケ「アッほんとだ!!いや、いや、いや、そんなつもりなかったんすよ~~~ぱっと見っすから!なーんにもわかりっこないっす!(腕時計を見て)ああ~~~もうバイトに出る時間だ……遅刻してしまう~~~ソレジャアオツカレサマッスガンバッテクダサイッス」
コイケ、走り去る
ミチル「休みだって言ってたじゃん」
ゲン「どうします? 連れ戻して二三発殴ります?」
フタバ「いいよいいよ、万人にウケるものなんて思ってないし」
ミチル「私は特に気にならないですよ」
ゲン「まぁ、なんで舞台背景の病院名とか大学名とかは出さないで、さっぽろ雪まつりだけ出すんだろうとは思いましたけど・・・・・」
ミチル、笑顔でゲンを膝で蹴る
ゲン「イデッ」
フタバ「そうだね、この脚本、まだまだ改善の余地があるから、気付いたことがあったら、言ってほしいな」
ミチル「はい、私もう一回読み返してきます」
ゲン「俺もそろそろ台詞を頭に入れないと」
フタバ「うん、みんなで頑張ろう」
ゲン「あっ、俺そろそろ就職説明会あるんで、行ってきます」
ミチル 「私も授業に」
フタバ「うん、行ってらっしゃーい」
二人「お疲れ様でーす」
フタバ「お疲れー」(手を振る)
ミチルとゲン、去る
フタバ、ニコニコした状態から一変、真顔になってテーブルに帰着し、携帯で辞書を開く
フタバ「フタバ先輩の脚本、お世辞にもあまり面白くないっすねーー……」
フタバ「お世辞。名詞。相手の機嫌を取ろうとしていう、口先だけの誉め言葉。丁寧語をつけた形が一般的に用いられる」
(携帯を伏せて)
フタバ「フタバ先輩の脚本、お世辞にもあまり面白くないっすねーーお世辞にも面白くない。機嫌を取ろうとして口先だけの誉め言葉を使っても、面白くない。つまらない、私の脚本はつまらない……」
フタバ「気にしちゃダメよ、フタバ。ふーっ」
(テーブルの上の紙にメモしながら)
フタバ「なんだっけー、後は、余命数日の恋人をさっぽろ雪まつりにつれていってはいけない……恋人が倒れても驚いちゃいけない……主治医もオーケーしちゃダメ……大学名と病院名は明かす……さっぽろ雪まつりは明かさない……いいじゃんこれぐらい、道民なんだから」
フタバ、ため息をつきながら紙を持って眺める
フタバ「はー・・・・・って、あれっ、(裏返して)アッ!」
暗転
◆シーン8
明転
・部室
張り紙「学生映画博覧会まで、あと二十五日」
ミチル、一人で台本の練習をしているが、うろ覚えで、台本を覗きながらやる
ミチル「なんとなくわかっていた・・・・・私、もう長くないの。そんなの嘘よ。あ……見て、雪が降ってきた。雪を見ると、なんだか自分のことのよう見えるわ。触るとすぐ」
五条先輩「失礼しまーす」(入ってくる)
ミチル「えっ、あっ、五条先輩! どうしてここに?」
五条先輩「急にごめんね。ホラ、映画研究会の例のことがあっただろ、ミチルちゃん大変そうだったから、様子を見に来たんだけど……元気そうだね」
ミチル「ありがとうございます。正直まだ立ち直れてないですけど、同期や先輩達についていかなければならないので」
五条先輩「無理は禁物だからな」
ミチル「はい、頑張ります」(ちょっとご機嫌になる)
五条先輩「あっそうだ、この前バイトの男たちと飲みに行ったんだけど、見てこれ!」
五条先輩、携帯の画面を見せる
五条先輩「海鮮イキヅクリ~!」
ミチル「イキヅクリ・・・・・」
ミチル、ツクリツクリつぶやく
五条先輩「おいしそうだろ~! それでさー佐藤の奴がさ、べろんべろんになっちゃって、俺たちがニヅクリしようと思っても」
ミチル「ニヅクリ」
五条先輩「まだ飲み足りないって、彼女のテヅクリ料理が食べたいってうるさくて!」
ミチル「テヅクリ」
五条先輩「静かになったと思ったら、俺はショインヅクリの家に住むのが夢とか時代錯誤なこと語り出してさぁ」
ミチル「ショインヅクリ」
五条先輩「ホンット、ツミヅクリな野郎だよな!」
ミチル「ツミヅクリ・・・・つくり、つくり・・・・」
五条先輩「ホンッッット、ニヅクリがテヅクリでショインヅクリの」
ミチル「(さえぎって)先輩先輩先輩わざとでしょ、それわざとでしょ」
五条先輩「何の話?」
ミチル「(ハッとして)ああ、いや、それは本当、大変でしたねぇ・・・・・」
五条先輩「でも、本当楽しかったからさ、今度バイトのメンバーで行こうよ。あ、だけど今はこっちで忙しいかな。次のドラマ、作ってる最中なんだろ?」
ミチル「あっ、はい。学生映画博覧会っていうのに出品するんです」
五条先輩「それって、ミチルちゃん出てるの?」
ミチル「はい、つたない役ですけど、役者として」
五条先輩「へぇ、じゃあ見に行こうかな」
ミチル「本当ですか?」
五条先輩「うん、チケットとか、必要なんだろ? いくら?」
ミチル「えーっと、一枚五百円です」
ミチル、リュックをガサゴソ
五条先輩「なら、二枚ちょうだい」
ミチル、動きが止まる
ミチル「二枚……」
五条先輩「うん、(照れながら)知り合いと見に行きたいんだけど、あいつ、ドラマとか好きだから」
ミチル「・・・・・」
五条先輩「どうした? もしかして、なくなった?」
ミチル「あっ……ごめんなさい、チケット、売り切れてたみたいです」
五条先輩「そっか、残念だけど、またの機会にするよ」
ミチル「すいません」
五条先輩「頑張ってね~」
五条先輩、去る
ミチル、リュックから大量のチケットを取り出し、苦しそうにばらまいてから、泣きそうな顔で走り去る
ゲン、電話をしながら入ってくる。右手に留学のパンフレット。
ゲン「お世話になっています~、突然すみません。あの、短期留学の話なんですけど、待ちきれずにこっちからかけてしまいました~。中島や木戸が通ったって話聞いて、僕だけなんか遅いな~と思いまして」
ゲン「ハイ、ハイ、はい、えっ……通らなかった? 僕、行けないんですか、留学?」
ゲン「書類に不備でもありましたか? 何か出し忘れてたものがあったとか。」
ゲン「……じゃあ、どうしてですか。成績も悪くないし、面接の手ごたえもあったし、トーイックのスコアだってトップクラスだし、僕のどこが悪かったんですか。いや、来年とかそういう問題じゃないんですよ」
ゲン「・・・・・・・僕が映画研に入ってるからですか? 映画研究会のことですよ。最近先輩……部員が亡くなったってニュース、聞いたことありますよね? だからですか? イメージ悪い部活に関わってるから、落としたんですか?」
ゲン「違う? でも……はい、はい、はい、わかりました。はい、はい、失礼します……」
ゲン、電話を切り、パンフレット両手に持って見つめ、うめく
ゲン「うう……」
やがてパンフレットをどこかに隠し去ろうとすると、チケットで滑って後ろに倒れる
ゲン「わっ!」
ゲン、しばらくしてから両手にチケットを握りしめて上半身だけガバッと起き上がる
暗転
ゲン「クッソーーーーーーーー!!!!!」
明転
◆シーン9
部室。
張り紙「学生映画博覧会まで、あと二十日!」
ミチルとゲン、稽古をして、フタバ、見ている
フタバ「用意、アクション!」
ミチル「ゲホッゲホッ(咳)うう....私、もうだめ....」(膝をつく)
ゲン「おいっ!しっかりしろ!おいっ!誰かっ!誰かっ!」
ミチル「ああ....雪が綺麗....私、最後にこの景色が見れて良かった....」
ゲン「そんなこと言うなよ!約束したじゃないか....これから花火も海も見に行くって!」
ミチル「ごめんね...」
ゲン「しっかりしろ!おい!おいー!」
フタバ「カット」
フタバ、二人に駆け寄る
フタバ「ゲンくん、最愛の人が弱っているんだから、もっと切迫した演技してみて。ミチルちゃんは、なんというか、拗ねているように見えてるから、もっと自然に。」
二人「はい......」
フタバ「あまりこんなこと言いたくないんだけど、最近の二人の演技に、身が入ってないように見えるの」
ミチルとゲン、俯向く
フタバ「もう締め切りまで一ヶ月までないから、いつまでもこの調子じゃいられないんだよね。やっぱり、例のことが引っかかるのかなぁ」
ゲン「すいません」
ミチル「あの、私、ここ最近ずっと体調がすぐれなくて、前、五条先輩がチケット買いに来てくれたんですけど、先輩の顔見ると、すごく辛くなって、チケット渡せなくって....それからストレスで身体が....」
ゲン「ミチル」
ミチル「なに?」
ゲン「チケットが部室に散らかってたの、ミチルか?」
フタバ「えっ散らかってたの?」
ミチル「散らかしてなんか無いです。置き忘れたかもしれないけど」
ゲン「床になんか置き忘れないだろ」
フタバ「床に置き忘れた?」
ミチル「覚えてないよ。あの時は本当にショックでショックでそんなこと.....」
ゲン「ショックってなんなんだよ」
ミチル「えっ?」
ゲン「体調が優れないってストレスだって身体壊したって、身体のどこ壊したんだよ」
ミチル「それは...頭痛とか腹痛とか」
ゲン「いつから?」
ミチル「え、えっと....一ヶ月前から」
ゲン「どんな風に?」
ミチル「どんな風にって....とにかく痛くて」
ゲン「へぇ〜〜一ヶ月前から頭痛と腹痛がひどかったんだ〜〜そんなんでよく飲み会であんなに騒げたよな?」
ミチル「そのときは調子が良かったのっ。さっきからなに?」
ゲン「俺だって、お前が『おきわすれた』チケット踏んで、転んじまったよー、あーケツが痛い痛い」
フタバ「えっチケット踏んだの?」
ミチル「そんなの大したことないでしょ」
ゲン「って、俺いっつも言いたかったんだよね。お前が何かにつけていちいちメソメソするたび、たかが失恋ごときでなんだよって」
ミチル「たかが失恋? なんでそんなこと言うの? 私本当に」
フタバ「ねぇ二人とも聞いてってば」
ゲン「俺だって……、俺だって……、短期留学、落ちたんだよ」
ミ・フ「えっ」
ゲン「あんだけノリノリだったのにさ、惨めだろ。ほんと惨め。ホラ笑えよ。俺はダラダラ言い訳なんてしないぜ。おまけにチケット踏んで転んでさぁ、本当恥ずかしいヤツ」
フタバ「ちょ、ちょっ、ちょっと待って。さっきから、チケット散らかした踏んだって、そのチケット、今どこにあるの?」
ゲン「え? あー捨てました」
フタバ「すっ、捨てた!」
ゲン「足跡ついてぐちゃぐちゃでしたもん。お金なら払いますよ。いくらでしたっけ」
フタバ「お金を払えばいいってもんじゃないでしょ。買いたい人がいるかもしれないし」
ゲン「そんなに人来ないですよ。俺と先輩が持ってる分で十分じゃないですか」
フタバ「確かにそうだけど...チケット捨てるなんて全体の士気がさがっちゃうし......」
ゲン「士気なら俺にはないですよ」
フタバ「え?」
ゲン「正直、学生博覧会は自粛すべきだとおもってます」
フタバ「なんで?!」
ゲン「なんでって....ここ最近で部員が一人亡くなってるのに平気で出品出来るのは、普通じゃないですよ」
フタバ「ちょっと待ってよ」
ミチル「それは、コイケさんにそう言われたときから、ちょっと思ってた。」
フタバ「ちょっと、ちょっとちょっと〜今更なによ〜〜私たちずっと練習してきたじゃん〜〜そりゃいろいろあったけど、私たちの作品をみんなに見せたいからって...」
ゲン「 ….そんなたいそうな作品じゃないですよ、これ」
フタバ「エッ?」
ゲン「さっき演技に身が入ってないっていってましたよね。そうなんですよ。最近、脚本見てもなーんにも感じないんです...」
フタバ「何それ、どういうこと」
ゲン「命の重さとか愛情とか約束とか、そんな言葉が薄っぺらく見えて冷めるんですよ」
フタバ「面白いって言ってたじゃん。稽古の時、何回も! ミチルちゃんも!」
ミチル「えっ、あっ、はい。ちょっとゲン」
ゲン「最初はね。そりゃあの暴君シリウスの後だったから、それはそれは素晴らしいものに見えたんですけど、段々不思議とそうでも無くなって....俺、やっとわかりました」
フタバ「なに、なによ」
ゲン「人殺しが書いて、演じる脚本だからですよ。だから命がどうとか言われても、ちっとも響かないんです」
二人、絶句
ミチル「人殺し? なに? 誰のこと?」
ゲン「わかってるくせに。トバリさんの件だよ」
フタバ「(ため息)まーた何言ってるの。あれは、あのことは、突き放して言って仕舞えば、私たちとは無関係じゃない」
ゲン「本当にそう思ってますか? トバリさんがああなったのは、あの人だけの過失なんですか? ねぇ、もしあのとき俺たちが除け者にさえしていなかったら、先輩は生きていたと思いません?」
フタバ「違うよそれは違う」
ゲン「いや、そうだ。絶対そうだ。俺たち、暴君トバリウスなんて幻想を作り上げて、一人の人間を見殺しにしたんですよ」
ミチル「俺「たち」って何? 真っ先に除け者にしたのも、暴君トバリウスって呼んだのも、ゲンじゃない。」
ゲン「でもミチルも笑ってたよな。フタバ先輩も。あれ、賛成してたってことじゃないの?」
ミチル「私は違うっ。心の中ではやり過ぎだって思ってたけど、どうしても状況に流されて」
ゲン「結局流されたんじゃん」
ミチル「いっぱいいっぱいだったのっ。そんなことする精神的な余裕無かった」
ゲン「あーもうその、自分が世界で一番不幸みたいなツラすんのいい加減やめろよ。見ててイライラする」
ミチル「じゃあなに、私が死ねばよかったの?」
ゲン「(驚いて)なんでそうなるんだよ」
ミチル「どうすれはよかったの? あのままトバリさんの脚本のまま出品して、他校に馬鹿にされて、それでよかったの? どうするのが正解だったの?」
ゲン「それは...正解も、何も無かったけど」
ミチル「あんた自分が人殺しだと思うなら今から警察行って自首でもしてきなさいよ。ぼくがトバリさんを殺しましたって。私は行かない」
ゲン「それとこれとは違うだろっ、どうしてそんな極端に」
ミチル、ぐすぐすしだす
ミチル「それって何? これって何? どうすればよかったの? どうすればいいの? 口先だけで何もしないじゃん」
フタバ「ミチルちゃんちょっと落ち着いて...」
ミチル「よいこのおゆうぎかいみたいなことやらなくて、まだ少しはマシな脚本になって」
フタバ「マシな脚本」
ミチル「それでいいじゃない。なんで、自分の首絞めるようなことするの? なんで?」
ゲン「じゃあ一生これ(脚本)やってろよ。あれは事故だって知らんぷりして、命の重さとか尊さとかほざいてるアホそうな女演じてれば?」
フタバ「アホそう...」
ゲン「ちっ、子供はいいよな! 泣けば許されると思ってる」
ミチル「子供はあんただよ〜。知ったようなふりして」
ゲン「い〜や、お前だ。ほら〜〜「私の命は雪みたい」って言えよ〜」
ミチル「なんなのあんた?」
フタバ「あーあーあーもういいよ!さっきから聞いてればガキ!二人ともガキガキガキガキ!わがままなクッソガキ!」(ヒステリックに切れる)
フタバ「私だって我慢してきたんだよ!都合のいい時だけ先輩先輩って、あんたのTOEFLのスコア自慢、あんたの先輩オノロケ、もううーんざり!それでも嫌な顔ひとつ見せないようにして耐えてこらえて押し殺してきたんだよだって私脚本やりたかったから! 私のドラマみんなに見せたかったから! 尊敬されたかったから! いい、いい、もういいわ! あんたらに薄っぺらいだとか少しマシ程度だとか言われるんなら、こんな脚本いらないよね!(ぶん投げる)もうあんたらでやってよ!好きにやっていいから!私もう何もしないから!」
セリフの後半あたりで、舞台袖からコイケ、入ってくる
最悪のタイミングに、やっちまったみたいなリアクションをしてから、そろーりそろーり歩いて、台本を元の場所に戻そうとしている
二人「......」(苛立ってる沈黙)
フタバ「フーッ....あれから、電話が怖いの。トバリさんがなくなったって聞いたとき忘れられなくて、通話も、着信音も、通話越しの声も、苦しくて息が詰まって落ち着かないんだよ。どうしてだよっ、どうしてこんな目に会わなくちゃいけないんだよ!!!!ねぇコイケさん?(ニコニコしながら)」
コイケ「あっ!?おっ、気づいてたっスか....台本あのとき持ち帰っちゃって、戻しに来たんス...」
ミチル「そこおいといて」
コイケ「へへへ、へへ、(おいとく)お楽しみのところ、すいませんでしたー」
ゲン「これがお楽しみに見えるんだったら深刻な病気だよ」
コイケ「へっへへへ、へへへ、すいませーん。でっ、では、ちょっくら眼科に」
ゲン「精神科」
コイケ「にでも行ってきまーっす....」
フタバ「待ってコイケさん」
コイケ「ひっ、ななな、なんすか」
フタバ「大丈夫、何もしないよ。ちょっとだけここにいてくれない」
コイケ「えっ? なんでですか。邪魔っすよ」
フタバ「邪魔、して? お願い」
コイケ「は、はぁ......」
◆シーン10
コイケ、座る
ぎこちない間の中コイケそわそわする
やがて居ても立っても居られないように立ち上がる
コイケ「暗い暗い雰囲気が暗い〜〜ほらほら、(テーブルによって)こんなところにペロペロチョコが〜〜、しかもちょうど三人分! 偶然っすねぇ! 」
ゲン「お前全部食っていいぞ」(冷たく)
コイケ「おぉぅ、いいんすか?」
ミチル「いつのか知らないけど」
コイケ「じゃあやめます.......」
またぎこちない間
コイケ「あっ、そうだそうだ。暴君シリウスの脚本、家で読んでみたんですけど、本当にキャラクターが冬の大六角にになってるんすね」
ミチル「冬の大六角?」
フタバ「(ニコニコして)星座のことだよね。去年天体物理学で習ったけど、確かリゲルとかアルデバランとかは、冬の大六角形っていう恒星のヒトツ...だったよね」
ミチル「先輩、いいですよもう」
フタバ「えっ?」
ミチル「いいですよ、無理しなくて」
フタバ「...(真顔に戻る)」
コイケ「あっ、えっと、フタバ先輩のおっしゃる通りです! 大六角に、トバリ先輩相当思い入れあるみたいっすね。私をモチーフにしたっぽいのもいて、軽く感動しました」
ミチル「どういうこと? 」
コイケ「あれっ、トバリ先輩から聞かなかったんですか? 部員一人ひとりに冬の大六角の星座が割り当てられてるって」
ミチル「えっ、なにそれ。知ってますか?」
フ「知らないなぁ」
フタバ、ゲンの顔を見るが、知らない様子
コイケ「あっそうなんですか〜〜いやぁ、ずっと前天体物理学の講義でたまたまトバリ先輩とご一緒して、そのときに聞いたんすよ。まぁ、私トバリ先輩のこと覚えてなくて、やばい人に話しかけられたって警戒マックスだったんですけど。それで、この脚本の、ダイヤモンド王国の姫アルデバラン役は、ミチル先輩でしたっけ?」
ミチル「うん」
コイケ「ミチル先輩って、何座生まれですか」
ミチル「ええと、5月4日のおうし座だけど」
コイケ「やっぱり! じゃあこの大盗賊カストル役はフタバ先輩ですよね」
フタバ「う、うん」
コイケ「先輩はズバリ、ふたご座ですか?」
フタバ「えっ、なんでわかったの?」
コイケ「よいしょ(ホワイトボードに六角形を書く)。これ、冬の大六角。冬のダイヤモンドとも言われてます」
ミチル「ダイヤモンド...」
コイケ「コレがおうし座のアルデバラン、コッチがふたご座のカストル・ポルックス」
フタバ「あー、そういうことね」
コイケ「それで、えーっと、(携帯を取り出して調べる)ここから、オリオン座のリゲル、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、ぎょしゃ座のカペラ」
ゲン「俺は何も関係ないだろ。オリオン座のリゲル」
コイケ「と思いますよね? トバリ先輩が教えてくれたんですけど、オリオン座にはリゲルと、ペテルギウスっていう二つの明るい星があって、源平合戦にちなんで、ペテルギウスが平氏星、リゲルは源氏星って(ホワイトボードに源氏という文字を書く)呼ばれてるらしいんですよ」
ゲン「あ〜〜」
コイケ「ゲン先輩の字、こうっすよね」
ゲン「まぁそうだけどさ、こじつけ過ぎないか?」
コイケ「こじつけっすよ。私のだってこじつけですもん。ココ、こいぬ座のプロキオン。こいぬ、こいぬ、こいぬ、こーいーけー!!あーはっはっはっは、こいぬとこいけって....あはは…ハイ(席に座る)」
ゲン「いや立てよ」
コイケ「ハイ。次行きましょうか。これがおおいぬ座のシリウス。シリウスは全天で太陽の次に明るいとされています。「輝く」星です。もうわかりますよね。」
三人、わからない
コイケ「えっ、輝く星です。キラキラ輝く」
ミチル「ええ???」
ゲン「消去法で誰かは予想できるけど、なんでかは....」
コイケ「トバリ先輩っすよっ。先輩の下の名前じゃないですか。輝くって漢字一文字で、アキラ。トバリアキラ」
ゲン「ああ〜〜」
ミチル「そうだった」
フタバ「報道でちょーっと見た」
コイケ「な、なんなんすかその反応。先輩の下の名前も知らなかったんすか? 仲でも悪かったんですか?」
三人、「んー?」みたいな感じで受け流す
コイケ「あっ.....」
ゲン「あれっ、でもさぁ、映画研合わせて五人、冬の大六角は星が六つ。数が合わなくね? 一つ余らないか?」
コイケ「コレ、ぎょしゃじゃのカペラのことですよね」
ミチル「ぎょしゃじゃ(笑)」
コイケ「あれ、きょしゃじゃ!ぎょさざ!ぎょしゃっ、ぎょしゃしゃ!」
ゲン「もういーから続けろ!」
コイケ「.....ハイ」
ゲン「気になるんだよ」
コイケ「ぎょしゃ座のカペラは....あれっ、なんでしたっけ。トバリ先輩、なんて言ってたかなぁ」
フタバ「そもそも、ぎょしゃって何?」
コイケ「うーんと、(携帯を見て)ヤギを持ったおじいさんだそうです」
ゲン「そんな知り合いいねぇぞ」
フタバ「私も」
ミチル「あの・・・・・」
フタバ「ん?」
ミチル「カペラ、ですよね。たまたまかどうか知らないけど……五条先輩は、趣味でアカペラ、やってます」
コイケ「そーでしたそーでした、歌がうまい人だって言っていました」
フタバ「ええ~?それってアリ~?」
コイケ「部員じゃないんすか?」
ゲン「部員じゃないけど、ミチルと色々あった人」
コイケ「へぇ~? でも、みなさんご存知の人なら、関係はあるでしょう」
フタバ「あるっちゃあるけどさぁ……」
コイケ「まぁ、まぁ、まぁ。これで、冬の大六角が出来ましたよ。トバリ先輩、こんなこと考えてたんすねぇ」
ゲン「……そうだな」
フタバ「……ええ」
コイケ「あの、例の件を蒸し返すようで申し訳ないすけど、トバリ先輩、あの日星見てたんじゃないんすかねぇ」
三人「え?」
コイケ「いや、報道でトバリ先輩は山の上で見つかったって言われてたじゃないっすか。ただの幽霊部員の憶測に過ぎないっすけど、それって、空に一番近い場所でコレ、冬の大六角を見ていたからなのかなーって。まぁ、本当推測っすよ」
ゲン「それは....」
ミチル「でも、なんで私たちなんかを...」
コイケ「そりゃあ大好きだったからっすよ、部員さんのことが。講義で会うたび、映画研の話をいっぱいしてくれました。ゲン先輩のことも、フタバ先輩のことも、ミチル先輩のことも。天体物理学の講義だけは真面目に受けてられるみたいで、こんなに何かに夢中になれたのは、大学生になって……いや、もしかしたら人生で、初めてだって」
三人、黙り込む
コイケ「・・・・・すみません、なんか、思い出させてしまって。やっぱり先輩達、辛くないはずないっすよね。いつもの元気そうだったのも、ただ気丈にふるまっていただけだったんすね」
フタバ「っ、コイケさん、違うの」
ミチル「そうじゃないの」
ゲンさん「俺たち、本当は、本当は」
コイケ「いいんですよ。先輩たちにとっては、トバリさんはすごく大きな存在ですもん。私から見てもわかります。……さて、そろそろバイトに行くので、おいとましますね」
ゲン「あ、ああ、お疲れ」
ミチル「心配かけてごめんね」
コイケ「お疲れ様っす。とにかく元気、出してください」
コイケ、去ろうとし舞台端で立ち止まって振り向く
コイケ「友情パワー、ファイ〜〜」
コイケ、去る
フタバ「待ってコイケさん、行かないでっ」(おいかける)
ミチル「先輩」
ゲン「やめましょう」
ミチルとゲン、フタバを掴む
フタバ、掴まれたままぐったり言う
フタバ「私たちを、一人にしないで……」
◆シーン11
やがて三人、大六角を見る
ゲン「リゲル、カストル・ポルックス」
ミチル「アルデバラン、カペラ」
フタバ「シリウス、プロキオン……私たち、星、なんだって。この六角形みたいに、星と星同士でまっすぐ繋がっていて、先輩も後輩も、男と女も、みんな、平等に結びついてるんだって」
ミチル「そんなんじゃないのに。ありえないのに。我々、子供じゃないんだから」
ゲン「(ちょっと含み笑いで)何かの間違いじゃないのか。偶然じゃないのか。だってこんなの、あまりにもこじつけすぎるし」
フタバ「でも、講義で、確かにコイケさんが耳にしたことだって」
ここでフタバ、何か思いついたようにゴミ箱(orテーブル)をガサゴソしだす
ゲン「……っ、なんだよ、資料は大学の講義って。トバリさん、センスないよ。へたくそだよ」
ミチル「それにさぁ、コイケさんの憶測がもし本当だったとしても、あの日は猛吹雪だったじゃない」
ゲン「そ、そうだよっ・・・・・(ミチルの肩を軽くゆする)あんな中じゃ星どころか何も見えねえ。わざわざ見に行く理由も無い。この冬の大ナントカっていうのと、トバリさんのことは、何も関係ねえよっ、なっ!」
ミチル「……触らないで」
ゲン「あっ、ごめん……」
フタバ「ねぇ、気付いちゃったんだけど」
ゲン「え?」
フタバ、「あと四十日!」の紙を見せる みんな、寄る
フタバ「これ、トバリさんが亡くなった日のカウントダウン……、ここに、小さくマルがついてる」
ゲン「あっ、ほんとだ」
ミチル「知らなかった」
フタバ「これ書いたの、ゲン君でもミチルちゃんでも無いのね。じゃあやっぱり、トバリさんか」
ミチル「きっとそうかと」
ゲン「でも、どうして?」
フタバ「この日は映画研究会が結成した日なんだ」
ミ・ゲ「あっ……」
フタバ「ホラ、トバリさん、映画研の初期メンバーだって話したじゃん。あの日、私たちにとってはなんてことなくて、ただ飲んで騒いだ一日だったけど、あの人にとってはきっと、すっごく特別な日だったはず(紙を見つめる)」
ミチル「え、え、それってつまり、トバリさん亡くなった日と映画研が出来た日が同じってことで」
フタバ「いや、そうじゃなくて」
ゲン「(さえぎるように)映画研の特別な一日に、映画研の星座を見たかった。吹雪だろうと、危険だろうと、どうしても見たかった」
フタバ「……そういうことなのかもしれない。まぁ、これはね、私の推測だけど」
ミチル「じゃあ、トバリさん、最後まで私たち映画研のために....」
ゲン「ああーやだやだ、そういうのほんとやだ。俺たち、そんなんじゃないじゃん。たかが学校のサークルで、家族でも何でもないじゃん……」
ミチル「ねぇ……私たちが悪いんですか……?」
ミチル「ねぇ、フタバ先輩」
ミチル、フタバに駆け寄るが、フタバは苦々しく黙っている
ミチル「ねぇ、ゲン」
ミチル、ゲンの元に寄るが、ゲンも目を合わせない
ミチル「これ、全部、私たちの所為なの?」
ゲン「……」
ミチル「ゲン、何かいってよ~(腕を掴む)さっきさんざん偉そうに言ってたじゃん~」
ゲン「知らない(軽く振り払う)」
ミチル「あっ」
ゲン「俺知らない。何もわからない。あの人が何見てたのかも、何考えてたのかも、なんにもわからない」
ミチル「も〜〜あんまりだよこれじゃ」
ゲン「なぁ、こんなの(ホワイトボードをさす)見せられて、でもあの人もうどこにもいなくて、今更俺たちにどうしろって言うんだよ」
ミチル「ゲン」
ゲン「わかんねえよ、どうすりゃいいんだよ。どうすりゃよかったんだよ」
ミチル「当の本人が、いないんだもん。ねぇ、あの人いないんだよ。何処探しても、もういないって」
フタバ「いるさ」
二人、振り向く
フタバ、脚本を持って歩き回る
フタバ「いる。大盗賊カストルは生きている。リゲル、アルデバラン、俺はこのまま死んでも死にゃあしない。みんなの心の中で生き続けるんでい」
フタバ「そうですわカストル様。私たちは絶対あなたを忘れたりしませんわ」
フタバ「アルデバランの言う通りだ。俺たちは決して離れ離れになることはないさ。だって、(素に戻っていく)だって、だって、俺たちには……
三人「友情パワーがあるのだから……!!」
暗転
◆シーン12
アナウンス
「学生映画博覧会、続きましては、映画研究会 タイトル『暴君シリウス』」
ブザーの音が鳴る
明転
舞台中央に三脚つきカメラ
ゲンはカメラの後ろで腕組んで立っている、ミチルは上手側で体育座り、フタバは下手側で座っている
視線は観客席(=暴君シリウスが上映されているという設定)
ミチルの音声「キャーッたすけてーっ!」
ゲン、カメラに語り掛けるように喋る
ゲン「劇は別として、素晴らしい部活だと思ったでしょう。亡くなった先輩のために、部員一丸となって遺作を作るなんて。でもそんなの、表向きの名目に過ぎなかったんですよ。あのとき先輩が何を見たのか、俺たちはどうすればよかったのか、どうすればいいのか、ただそれが知りたい一心で俺たちはこれ、(観客席を指さして)暴君シリウスの制作にとりかかったんです」
ゲンの音声「カストル、すまない....俺を庇うなんて....」
フタバの音声「ぐうう...へっちゃらよ...友情があるから...」
ミチルがカメラに語り掛ける
ミチル「こんな単調な劇でも、我々頑張ったんですよ。映画研からは色んなものが消えました。部活後の飲み会、お互いへの気遣い、TOEFLの自慢話、先輩のおのろけ、色々。そのおかげか、残り日数も少ない中、制作はスムーズに進んだんです。でも、いくら稽古を進めても、先輩が何を考えているのかはさっぱりで、むしろ、読めば読むほど幼稚で、単調で、わけのわからない脚本に思えました。あなたはどう思います? なんて……」
ゲンの音声「暴君シリウス、今日こそお前を倒す! 友情キーーーーーーーック!!!!」
ミチルの音声「リゲル様ー!」
フタバがカメラに語り掛ける
フ「聞いてください。ただ、一つだけわかったことがあるんです。私たちは日に日に役を作り上げていきますよね。大盗賊カストルは友情に目覚めていって、姫アルデバランは自立していって、戦士リゲルは強くなっていく。みんなみんな、成長していますよね。大人になっていきますよね。ただ、トバリさんは....トバリさんだけは絶対に....っ、わからなくちゃいけない、受け止めなくちゃいけない、ただ、ただ一つだけでも……、我々、コドモじゃないんだから……」
暗転
拍手の音が鳴る
◆シーン13
明転
三人、アンケートやカゴを持って前に並んでいる
フタバ「この度は、暴君シリウスを見て頂き、ありがとうございました!」
二人「ありがとうございました!」
ミチル「よかったらご感想の方をこちらの紙に...あっ、いらないですか」
ゲン「ご感想の方をお願いします....えっ、今なんて.....つまらなかった。つまらなかった、ですよね....」
フタバ「......よろしければご感想の方を......あっ、時間の無駄、でしたか...ハハッ...」
三人、悲しそうに俯く
スーツを着た男、三人の前で立ち止まって、アンケートを手渡す
男「面白かったですよ」
三人「えっ?」
ゲン「面白かったんですか? 僕たちのドラマが?」
男「ああ、面白かったけど」
ミチル「私たちが制作したのは、暴君シリウス、ですよ」
男「いや知ってるよ。君がカストル、君がアルデバラン、君がリゲルでしょ」
フタバ「どうして、なんで、面白いと思ったんですか?」
男「ええ??そんなこと言われてもなぁ〜〜....いやぁ、自分の話になっちゃいますけど、最近うちのにね、子供が出来たんですよ。男でも女でも、「みらい」って名前なんです。」
三人、セリフに相槌を打っていくが未来という言葉でなくなり、呆然としてカゴやアンケートを落とす
男、それを拾いながら続けて喋る
男「ホント、死ぬほど嬉しかったんだけど、僕なんかが嫁さんや子供にちゃんと向き合えるかとか、不安なことの方がずっと大きかったんです。このドラマ、友情とか正義とか、こっちが照れちゃうくらいまっすぐで、揺らがなくて、見てたらなんだか、その、涙出てきちゃって。(笑いながら)いや、そんなドラマじゃないのにねぇ……落としましたよ。これも」
フタバ「……ごめんなさい」
男「エッ?」
ゲン「ごめんなさい」
ミチル「ごめんなさい」
男「エッ、エッ、何急に!?」
三人、膝をついたり手をついたりすがりついたり頭を下げたり、思い思いに謝る
三人「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
オルゴールみたいなBGMが流れる
やがて声を無くして、謝る三人と、戸惑う男の背景に(動きが止まるとかでもいい。とにかくトバリに集中させるような演出)
トバリがスポットに現れる
トバリ、上を向いて指をさす
トバリ「あっ、やっと見つけた! 僕達の星!」
幕が閉まる
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