雨宿りととかげ コメディ

雨宿りをすることになった男女。 男は女と距離を縮めるために脳内で奮闘。 女は男との出会いに運命を感じる。
叙四 22 0 0 01/16
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第一稿

登場人物
 雲原海斗(くもはら かいと)...大学生
 露木恵美(つゆき めぐみ)...社会人

 土砂降りの雨の中、バス停で雨宿りをしている恵美。
 持っているタオルで ...続きを読む
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登場人物
 雲原海斗(くもはら かいと)...大学生
 露木恵美(つゆき めぐみ)...社会人

 土砂降りの雨の中、バス停で雨宿りをしている恵美。
 持っているタオルで軽く体をふいている。
 走りながら海斗がバス停に入ってくる。
 傘代わりに使っていた鞄を置き、体についた雫を払う海斗。
 お互いに気づき、軽く会釈する。

海斗「脳内:大学の帰り道、突然土砂降りの雨に襲われた俺は近くのバス停で
  一時雨宿りをすることにした。するとそこにはおそらく俺と同じ思いをしたので
  あろう一人の女性が持っているタオルで体を拭きながら雨宿りをしていた。
  俺は…運命を感じた!いや、早いと思うかもしれないよ?でも、男ならこういう
  シチュエーション一度は妄想するでしょ?同じ日に同じ場所で女性と
  二人きりで雨宿り。ドラマみたいじゃん!
  で、向こうから話しかけてくれたりなんかして。
  え?そりゃ向こうからに決まってるじゃん。だって俺コミュ障だし。
  で、で、話が弾んで仲良くなって連絡先交換して一緒にご飯食べに行って。
  何年後かに『私たちの出会いは雨宿りからだったね~』
  『そういえばそうだな』
  『あーもう忘れてたでしょ~?』
  『そんなことねーよ。ちゃんと覚えてるって。あの時一緒に雨宿りしたから
  今の俺たちがいるんだよ。それに』
  『それに?』
  『今の俺の心にはもうお前が宿ってるからな』
  『もう!かー君ったら!私、かー君のその意味不明なとこ大好き!』
  『俺もだよ!』
  んふふふふふー。あっ、ちなみに『かー君』は俺の中学時代のあだ名です。
  あぁー!!妄想止まんねぇーー!!
  と、俺の脳内は妄想で暴走してるが現実的にそんな可能性は
  これっぽちもないことも同時に冷静に判断できる。なぜなら男である以前に
  大人ですから」

 再び体の雫を払う海斗
 海斗のほうを見ている恵美

恵美「あの」

驚く海斗

恵美「よかったらこれ使いますか?」

 タオルを差し出す恵美

海斗「え?俺に言ってるんですか?」
恵美「え?」

 小さくうなずく恵美

海斗「脳内:なんだこれは!?今までの人生で一度も経験したことのない状況だ!
  あまりの驚きに『俺に言ってるんですか?』などとわけのわからないことを
  言ってしまった!どうやらタオルを貸してくれるみたいだ。正直使いたい。
  思ったよりも濡れてるし。というよりもこの人ともっとお話がしたい!
  正直タイプだし」
海斗「すみません、じゃあ―。はっ!!」
海斗「脳内:待ったぁ!!易々とタオルを受け取っていいのか?いや一度は断る
   のが大人としてのマナーだ。もし、断ってもまだ勧めてくるのであれば
   ありがたく使わせてもらおう」
海斗「あー、大丈夫ですよ。ほっとけばすぐ乾くと思うんで」
恵美「そうですか?でも、結構濡れてますよ?風邪ひいたら大変ですし」
海斗「そーですか?じゃあお言葉に甘えて。お借りします」
 
 タオルを受け取り、体を拭く海斗

恵美「突然降ってきましたよね」
海斗「そうですね」
恵美「天気予報もあてにならないですよね」
海斗「そうですね」
恵美「いつもなら折り畳み傘持ってるんですけど、今日に限って家に忘れてきちゃって」
海斗「そうなんですか。あ、これありがとうございました」
恵美「どういたしまして」

 タオルを返す海斗
 間

海斗「脳内:俺のばかやろぉー!!せっかく向こうから話しかけてくれてるのに
   なぜこうも会話が続かないんだ!『そうですね』と『そうなんですか』
   しか言えてねーじゃねーか!あー、コミュ障治したい…。
   それにしても二人きりとはいえこんなにも話しかけてくれるということは
   結構好印象なのか?よぉーし、今度は俺から話題を振ってみよう」
海斗「あ、雨!なかなか止まないですね!」
恵美「そうですねー」
海斗「僕雨嫌いなんですよね~。ほら雨降っちゃうと外で遊べないじゃないですか~」
海斗「脳内:小学生か!俺は!」
恵美「私も雨は好きじゃないです」
海斗「脳内:おっ!」
恵美「気持ちが暗くなるというか、いろいろ思い出すことがあって…」

 間

海斗「脳内:完っ全に地雷踏んだぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!
本当にごめんなさい!」
恵美「今日は学校だったんですか?」
海斗「はい!すぐそこの大学に通ってまして。国際関係の勉強してます!
   いずれは世界で活躍できる人間になれたらなぁーなんて思ってまして。
   いつもなら早く帰れるんですけど、今日は友達と学食でご飯食べててこんな
   時間になっちゃいました~。あははは~」
海斗「脳内:急に喋りすぎだ!俺!」
恵美「すごい。国際関係の勉強って大変じゃないですか?」
海斗「大変なものもありますけど自分の好きなこと勉強してるんで。
   実は両親は日本人なんですけど生まれがオーストラリアで小学生のときに
   日本に来たんです。日常会話程度なら英語も話せますよ」
海斗「脳内:ごめんなさい。そんなに英語は話せません。少し盛りました」
恵美「食べ物は?」
海斗「はい?オーストラリアのですか?」
恵美「好きな食べ物とか嫌いな食べ物ありますか?」
海斗「脳内:突然だなぁ。でもいろいろ聞いてくるってことは俺に興味がある。
興味があるってことは仲良くなりたいと思っている。おっけ~」
海斗「なんでも好きですよ。嫌いなものとかとくにないんで」
恵美「そうですか」
海斗「脳内:やべー!なんでも好きじゃ話題広がらないだろうが!バカか俺は!」
恵美「すみません、いろいろ聞いてしまって。私、露木恵美って言います」
海斗「脳内:恵美さんていうのか~。名前まで教えてくれるということは
かなり心開いてくれてる!よしっ!このまま一気に仲良くなるぞ!」
海斗「自分は雲原海斗っていいますよろしくお願い―」
恵美「かー君!!」
海斗「脳内:なぜ中学時代のあだ名を!?」
海斗「なんで中学時代のあだ名を!?」
海斗「脳内:思わず言ってしまった!」
恵美「ごめんなさい!いきなり」
海斗「もしかして同級生の誰かですか?」
恵美「違います!全然違います!あなたのことなんて見たこともありません!
全く知らない人です!」
海斗「脳内:一気に距離置かれた気がする…」
海斗「そ、そうですよね…」

 間

恵美「…ごめんなさい」

 泣き出す恵美

海斗「脳内:恵美さんはそう言って突然泣き出してしまった」
海斗「あの、大丈夫ですか?悩み事ですか?俺でよければ話聞きますよ?」
海斗「脳内:ナイス!大人な対応!」
恵美「かー君が…、かー君が…」
海斗「脳内:え!?原因俺!?」
海斗「すみません!俺なんかしちゃいました?」
恵美「違います!あなたがかー君にあまりにも似ていたので、つい…。
   とても大事な存在だったんです…。でも去年病気で死んでしまって…」
海斗「脳内:彼女の話から俺はすべてを悟った。初めて会う俺に対してこんなにも
   優しく話しかけてくれるのは病気で死んでしまった大事な人、おそらく恋人
   だろう。その人に俺が似ていたからだ」
海斗「忘れられないんですね」
恵美「…はい。亡くなった日も今日みたいに雨が降っていました。だから雨の日
   になるとどうしても暗い気持ちになってしまって。もう一度会いたい…」
海斗「脳内:雨が嫌いな理由がわかった。お節介だ。絶対恵美さんに嫌われる。
   変な奴だと思われる。でも、気が付くと自然と口を開いていた」
海斗「すいません、失礼なこと言うかもしれないですけど、そのままじゃダメだと
   思いますよ」
恵美「え?」
海斗「脳内:言っちまったぁー!」
海斗「いつまでも過去のことに執着して、暗い気持ちでいたらきっとそのかー君も
悲しんでると思います。恵美さんには楽しく明るく笑顔で生きていてほしい。
絶対そう思ってますよ!」
恵美「…」

 間

海斗「脳内:終わった…すべて終わった…。なに勝手なこと言ってんだ俺は…。
   人が死んでるっていうのに軽すぎるだろ。どんな病気かもしらないくせに。
   全力で謝ってウチ帰ろう…」
海斗「…恵美さん、あの、その…」
恵美「ありがとうございます!」
海斗「へ?」
恵美「海斗さんの言う通りですよね。いつまでもこんな気持ちじゃダメだなぁって
   わかってたんですけど。海斗さんの言葉で前に進む決心がつきました!
   ありがとうございます!」
海斗「いや、そんな大したことはしてないですよ」
海斗「脳内:思ってもみない急展開!なんか感謝された~」

 雨が止む

恵美「あっ雨止んだ」
海斗「ほんとだ」
恵美「じゃあ私はこれで。本当にありがとうございました!」

 一礼をして去る恵美
 手を振る海斗

海斗「…あっ!!!連絡先聞くの忘れた!!」

 暗転
 
 土砂降りの雨の中、バス停で雨宿りをしている恵美。
 持っているタオルで軽く体をふいている。

恵美「脳内:突然降り出した雨を凌ぐために私は近くにあったバス停で
  雨宿りすることにしました。いつもは鞄の中に折り畳み傘を入れてるのに
  今日に限って家に置いてきてしまいました。最悪です…。不幸中の幸いで
  たまたまタオルを持っていました。とりあえずこれでどうにかします」

 走りながら海斗がバス停に入ってくる。
 傘代わりに使っていた鞄を置き、体についた雫を払う海斗。
 お互いに気づき、軽く会釈する。

恵美「脳内:男の人が来ました。学生?そういえば近くに大学があったかも。
   それにしても全身ずぶ濡れ。タオルを貸してあげることにしました」

海斗のほうを見ている恵美

恵美「あの」

驚く海斗

恵美「よかったらこれ使いますか?」

 タオルを差し出す恵美

海斗「え?俺に言ってるんですか?」
恵美「え?」

 小さくうなずく恵美

恵美「脳内:当たり前でしょ?他に誰がいるのよ」
海斗「すみません、じゃあ―。はっ!!」
海斗「あー、大丈夫ですよ。ほっとけばすぐ乾くと思うんで」
恵美「そうですか?でも、結構濡れてますよ?風邪ひいたら大変ですし」
海斗「そーですか?じゃあお言葉に甘えて。お借りします」

 タオルを受け取り、体を拭く海斗

恵美「脳内:彼の顔見た瞬間、私は運命を感じました。なぜなら彼が死んでしまった
  かー君とそっくりだったから。そう、去年まで大切に大切に育てていた
  ペットの『フトアゴヒゲトカゲ』のかー君と!これは運命だわ!
  きっとかー君が生まれ変わって私に会いに来てくれたんだわ!
  そんなことあるわけない。そう頭ではわかっていても彼に親近感が湧いて
  仕方がなかったんです」
恵美「突然降ってきましたよね」
海斗「そうですね」
恵美「天気予報もあてにならないですよね」
海斗「そうですね」
恵美「いつもなら折り畳み傘持ってるんですけど、今日に限って家に忘れてきちゃって」
海斗「そうなんですか。あ、これありがとうございました」
恵美「どういたしまして」

 タオルを返す海斗
 間

海斗「あ、雨!なかなか止まないですね!」
恵美「そうですねー」
海斗「僕雨嫌いなんですよね~。ほら雨降っちゃうと外で遊べないじゃないですか~」
恵美「私も雨は好きじゃないです。気持ちが暗くなるというか、いろいろ
思い出すことがあって…」
恵美「脳内:そう。かー君が死んだのは今日みたいな土砂降りの雨の日。
  いつものように餌をあげようとケージを見るとかー君は痙攣を
  起こしていました。急いで病院に連れて行ってあげましたが
  息を引き取り帰らぬトカゲになってしまいました。
  原因は低カルシウム血症。私はすごくショックでした。
  かー君が死んでから雨の日は憂鬱でたまらなくて…。そこに現れたのが
  かー君そっくりの彼でした!」
恵美「今日は学校だったんですか?」
海斗「はい!すぐそこの大学に通ってまして。国際関係の勉強してます!
   いずれは世界で活躍できる人間になれたらなぁーなんて思ってまして。
   いつもなら早く帰れるんですけど、今日は友達と学食でご飯食べててこんな
   時間になっちゃいました~。あははは~」
恵美「すごい。国際関係の勉強って大変じゃないですか?」
海斗「大変なものもありますけど自分の好きなこと勉強してるんで。
   実は両親は日本人なんですけど生まれがオーストラリアで小学生のときに
   こっちに来たんです。日常会話程度なら英語も話せますよ」
恵美「脳内:かー君と一緒!!かー君もオーストラリア生まれのトカゲ!!」
恵美「食べ物は?」
海斗「はい?オーストラリアのですか?」
恵美「好きな食べ物とか嫌いな食べ物ありますか?」
海斗「なんでも好きですよ。嫌いなものとかとくにないんで」
恵美「脳内:かー君と一緒!!かー君も好き嫌いしないなんでも食べる子だった!
   コオロギにブドウムシ、ダンゴムシにワラジムシ!調子がいい時はファジーって
   いう小さいネズミも食べてたなぁ~」
恵美「そうですか~。すみません、いろいろ聞いてしまって。
  私、露木恵美って言います」
海斗「自分は雲原海斗っていいますよろしくお願い―」
恵美「かー君!!」
恵美「脳内:海斗という名前に反応してつい言ってしまった!」
海斗「なんで中学時代のあだ名を!?」
恵美「ごめんなさい!いきなり」
海斗「もしかして同級生の誰かですか?」
恵美「違います!全然違います!あなたのことなんて見たこともありません!
全く知らない人です!」
海斗「そうですよね…」

 間

恵美「…ごめんなさい」

 泣き出す恵美

海斗「あの、大丈夫ですか?悩み事ですか?俺でよければ話聞きますよ?」
恵美「かー君が…、かー君が…」
海斗「すみません!俺なんかしちゃいました?」
恵美「違います!あなたがかー君にあまりにも似ていたので、つい…。
   とても大事な存在だったんです…。でも去年病気で死んでしまって…」

 間

海斗「忘れられないんですね」
恵美「…はい。亡くなった日も今日みたいに雨が降っていました。だから雨の日
   になるとどうしても暗い気持ちになってしまって。もう一度会いたい…」
海斗「すいません、失礼なこと言うかもしれないですけど、そのままじゃダメだと
   思いますよ」
恵美「え?」
海斗「いつまでも過去のことに執着して、暗い気持ちでいたらきっとそのかー君も
  悲しんでると思います。恵美さんには楽しく明るく笑顔で生きていてほしい。
  絶対そう思ってますよ!」
恵美「…」

 間

恵美「脳内:彼の言葉で気づきました。私はかー君に依存していた、そして
  勝手に自分は辛いと思い込んでいたことに。
  私にこのことを伝えるためにかー君が彼に会わせてくれた。
  きっとそうだと思いました」
海斗「…恵美さん、あの、その…」
恵美「ありがとうございます!」
海斗「へ?」
恵美「海斗さんの言う通りですよね。いつまでもこんな気持ちじゃダメだなぁって
   わかってたんですけど。海斗さんの言葉で前に進む決心がつきました!
   ありがとうございます!」
海斗「いや、そんな大したことはしてないですよ」

 雨が止む

恵美「あっ雨止んだ」
海斗「ほんとだ」
恵美「脳内:かー君今までありがとう。これからはかー君を心配させないように
  強くなります!」
恵美「じゃあ私はこれで。本当にありがとうございました!」

 一礼をして去る恵美
 手を振る海斗

海斗「…あっ!!!連絡先聞くの忘れた!!」

 間

海斗「俺も帰るか~」

 急いで戻ってくる恵美

海斗「恵美さん!?どうしたんですか?」
恵美「渡したいものがあって!」
海斗「脳内:この展開は!!」

 鞄からタッパーを出す恵美

恵美「これ受け取ってください!」

 タッパーを受け取りふたを開ける海斗

海斗「なんですかこれ?」
恵美「コオロギです!」
海斗「うわぁーーーーー!!!」

 完

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