登場人物表
タウ (5)(12)(14)生命体「o」の影響圏内「o圏」の住人・ウワの息子
リニェ (5)(14)o圏の住人
ジュア (14)o圏の住人
辰 (?)人型の存在
ウワ (41)o圏の住人・タウの母
ミズキ(カギュ) (27)防衛隊員・巨大
兵器「L」操縦者
アユム (26)防衛隊員
サトル (41)舞鶴の元住人
ALo 対生命体「o」用人工知能
朋 体の一部が生命体「o」となったo圏の住民
o圏の住民
アユムの妻
アユムの両親
生徒A
生徒B
防衛隊員A
防衛隊員B
防衛隊員C
防衛隊員D
海上防衛隊員
アナウンサーA
アナウンサーB
アナウンサーC
アナウンサーD
レポーター
専門家A
専門家B
海上保安官
気象庁職員
漁協組合員
消防団員
官房長官
経産相
環境相
防衛相
政府高官
与党議員
与党幹部
野党議員
野党幹部
陰謀論者
生物学者
要人
乗客
自動放送
BGMのイメージ曲
坂本龍一「garden」『async』commmons、2017年。
坂本龍一「20220214」『12』commmons、2023年。
坂本龍一「ZURE」『async』commmons、2017年。
吉松隆「朱鷺によせる哀歌」『鳥たちの時代』カメラータ・トウキョウ、2009年。
坂本龍一「Happy End」『THREE』commmons、2012年。
坂本龍一「andata」『async』commmons、2017年。
エンディング曲のイメージ
Nami Sato『Our Map Here』The Ambient Zone、2019年。
※「Fujitsuka」→「Gamou」→「Shinhama」の順で流す印象。
※音は京都・兵庫・大阪で集めたい。
○京都・舞鶴・o圏・下安久・森(夜)
生命体「o」の影響圏内「o圏」内で、満月の光が差す森を駆け下る、防衛隊員・アユム(26)の目線カメラ映像。
早い鼓動や呼吸音と共に透明なサングラスを介した骨伝導により左右から同時に聞こえる対生命体「o」用人工知能(Artificial Intelligence Against Living Organism "o")「ALo」の声。
ALoの声(右)「25圏、目標Ⓒ、右2、上7、圏外。25圏、目標Q変態中、右1、上6、圏外。25圏、目標Q、左1、上5」
ALoの声(左)「目標Ⓒ、平均5、前例比0、プラス239、マイナス134、推定226。目標Q、平均25、前例比プラス5」
○同・同・同・同・京都府道565号(夜)
アユム、廃屋を過ぎ、海沿いの道へ。
250m程離れた海上に、全長25m程の、サルスベリのように滑らかな表面に、珊瑚の枝状の骨格をヒトデの骨片状にばらしたような、テトラポッド状の白い骨をハニカム構造に似た目の粗い籠の網目のように組み、半透明の管が血管網のように入り込みつつ覆う骨格と、骨格を包む、半透明のゼリーのような青色に光る組織「餡」でできた生命体「o」の、太陽虫のような見た目の、餡に満ちた放散虫に似た球状の骨格を、ボルボックスの体細胞層のように表面を餡が覆うoの卵「Ⓒ」。
Ⓒ、神経細胞の細胞体と中心から放射状に伸びる樹状突起に似た外骨格の、一見クンショウモに似た形態「浮」に変態し、浮から餡に包まれた螺旋状の骨の繊維「肢」を足のように数多生やした、タコ型の火星人に似たoの幼生「Q」に変態し、海面に降り立つ。
アユムの黒い結晶化レーザー銃、甲高い回転音と共に結晶化エネルギーを自動充填しつつ、Qに向けられる。
全装備を覆う、構造色を帯びた透明度の高い赤い水晶のような反結晶化結晶状物質「U」の被膜「U膜」。
ALoの声(右)「圏内」
ALoの声(左)「浮狙え」
放たれるレーザーの白光で明転。
○同・同・真倉・京田下近線・十倉―真倉監視所ゲート前(朝)
防衛隊の小型汎用車両、日に照らされる白い雲を映す、水の溜まった路面の穴を踏み越え北上。
車両系は全て電動。
車両系含め防衛隊関連の服等の全装備はU膜が施され、赤みがかっている。
小型汎用車両、自動で開くゲート前に一時停止、目前の山へ架かる仮設橋で伊佐津川を渡り、蛇行する仮設山道へ。
○同・同・同・十倉―真倉監視所山道(朝)
(坂本龍一「garden」)
ドローンのように上昇しつつ小型汎用車両を追い越す。
○同・同・十倉―真倉監視所・上空(朝)
十倉―真倉監視所を越し、oの放つ水蒸気に覆われた西舞鶴中心部を俯瞰。
メインタイトル「(小文字のoはCから出てきたように横文の中心線状に)CoRAL ―Crystallization―」
○同・同・同・空地(朝)
U膜で赤みがかる透明なサングラス姿のサトル(41)とアユム、山道前の空地に停まる小型汎用車両から降りる。
(坂本龍一「garden」終わり)
左手薬指に赤いガラスの指輪をつけた赤系の迷彩柄の制服姿のアユム、監視テントを出て2人を迎えに近づく防衛隊員・ミズキ(27)に敬礼。
サトル、アユムの横を過ぎ、ミズキにお辞儀し、西舞鶴を眺望する北端へ。
同じサングラスとU膜で赤みがかる黒い制服姿で敬礼するミズキ、自身の左側をサトルが通過すると、一瞬何かを悟ったように左下を見、サトルを追う。
西舞鶴中心部を眺望する北端に立つサトルと、一歩手前で立ち止まるミズキ。
アユム、目でミズキを確認し、サトルを手前へ引き戻そうと踏み出すと、
ミズキ「そこ、ギリです。サトルさん」
動きを止め、
サトル「ええ、見えてます」
音をたてないように足を戻す。
振り返るサトルの目元から上。
ミズキの目元から上、
サトル「ありがとう。早くからすみません、ミズキさん」
ほころぶ目元、西舞鶴中心部を眺める。
水蒸気に覆われた西舞鶴中心部。
サトル「今夜ですか」
ミズキ「日没から日の出までに、3度目の産卵的現象「望」が99.3%起こるとALoは予測しています」
サトル「(他人事のように)3年ですか」
サトルの背中。
ミズキ「中学2年生、ですかね?」
サトル、山道を登る車列の音に気づき、振り返る。
中型バス2台の前後を警備車両各2台全4台で挟む車列、山道から空地に隣接する監視テント前に停まる。
サトルとミズキ、バスに目を向ける。
○同・同・同・監視テント前(朝)
黒いサングラスのような反射のあるガスマスク姿の多国籍の軍服や高級スーツ姿の要人ら、警備体制が敷かれると、バスを降りて監視テントへ入っていく。
サトル「見世物ですね」
ミズキ「微粒子説とか、ウイルス説、電磁波説、音波説もありますから。この日だけは、ここが人間世界の中心です」
サトル「お忙しいですよね」
○同・同・同・空地(朝)
要人らを見るミズキの後頭部。
ミズキ「マニュアル通りですから」
サトル「お別れを言いに来ました」
サトルに向ける、ニヤッとした顔が凍りつく。
サトル「もう……ここには来ません」
ミズキ、何かを言おうとすると、
サトル「僕に」
サトルの後ろ姿。
サトル「家族と言う資格はありません」
ミズキ「でも――」
サトル「もう、ここの人間ですらない。もしそうなら、とっくに……!」
端ギリギリに立つサトルの震える足と固く握りしめた左手。
空地側から監視所全体を俯瞰。
サトル「大変、お世話になりました(と、お辞儀)。彼らを、よろしくお願いいたします」
と、深々お辞儀し、小型汎用車両へ戻ろうとする。
ミズキ「どこへ」
立ち止まるサトルの後ろ姿。
ミズキ「お帰りになるんですか?」
背を向けるサトルに静かに語りかける。
ミズキ「すみません。サトルさんの選択です。決して無駄にはしません」
サトルの後ろ姿。
ミズキ「お2人はご無事です。どうか、ゆっくりお休みになってください。いつでもお待ちしてます」
サトル、微笑みながら振り返り、
サトル「ありがとう」
3人と西舞鶴を俯瞰。
サトル「(ミズキに向き直り)どこか遠くへ、行きたいとおもいます(と、深々お辞儀)。」
山道近くに停まる小型汎用車両、サトルとアユムが乗り込み、山道へ。
姿勢を正し、敬礼するミズキの動作音。
薄明光線で地面に映る、敬礼するミズキの影。
○同・同・o圏・礁・T5・莢・張(朝)
oの骨格と餡が覆う西舞鶴中心部「礁」に6つある、高さ120m程の居住塔「T」の1つ「T5」内の部屋「莢」の一空間「張」の、銭湯のように大きく、鱗粉状で螺鈿のように輝く骨の粒子「鱗」が多量に漂う薄紫色の液状の餡に満たされた浴槽へ正面から倒れ込む、スーフィー教徒の白い服の裾を3分の1くらいに短くしたような輪郭の、肢で編まれた白い長袖と長ズボンの服「ソ」と、ウェーブがかったオールバック姿のウワ(41)を、浴槽内から見上げる。
礁全体に響く蠕動のような餡の流動音。
○同・同・同・同・同・同・タウの寝室(朝)
薄明光線が差す中、肢でできた白いベッドで張と逆方向に体を向け、顔の右半分を埋めて眠るタウ(14)、ウワが浴槽に倒れ込む音で目覚める。
○同・同・同・同・同・同・張(朝)
漂う鱗は肌や髪を覆うように吸着し、顔の諸部分が上下にずれたように見える、同じ形が6割程上下にずれ、上に青、下に赤、重なる部分は紫色の化粧「笑」が浮かび上がるように現れ、ほどけて漂うソの肢が元に戻っていく餡の中で目を開けるウワの左横顔。
ウミグモと十字状の星を重ねたような輪郭に、古代中国の青銅器を覆う雷文に似た文様のある、体の半分程の大きさで「笑」同様同じ形が6割程上下にずれ、上に青、下に赤、重なる部分は紫色の正面側の紋章「蟹」、元の形に戻るソの前後を覆うように浮かび上がる。
以後「鱗・蟹・笑」で構成された姿を「肉」と呼称。
○同・同・同・同・同・同・居間(朝)
上から見ると扇状の、角のない丸っこい部屋・莢は4つに分かれ、扇の天側の右から張・ウワの寝室・タウの寝室に、扇の要側の居間に分かれている。
礁全体に餡を循環させて人や物も運ぶ、T5の芯を走る血管のような器官「羨」に通じる、扇の要に位置する形や動きがわかる程度に透けた膜状で、気孔のように開閉する入口「弁」と、破れるシャボン膜をスローで見るように縦長の楕円状に退く張の弁から出て、羨の弁へ歩む途中で立ち止まり、タウの寝室へ目を向けるウワの足元を、居間と接するウワとタウの寝室の仕切り辺りの床から見る。
何もない居間の先の、ベッドに横たわるタウの輪郭がわかる弁の閉じたタウの寝室とそれを見るウワの後頭部を見ていると、角度的に顔が見えないままウワは羨の弁へ。
内側は赤っぽく、外側は青っぽい、礁の紫色の餡。
弁が開き、羨内の餡の下降流に乗るウワの音が去った後、掛布団をはねのけるタウを、弁越しに見る。
○同・同・真倉・十倉―真倉監視所山道(朝)
所々損傷のある路面を、山道を下る小型汎用車両の下回りから見る。
○同・同・同・京田下近線・十倉―真倉監視所ゲート前(朝)
小型汎用車両、山道を下り、仮設橋を渡り、ゲートが開ききるのを待つ。
○同・同・同・同・小型汎用車両・中(朝)
助手席のサトルと運転席のアユムを、防衛隊用のオートバイが載せられた後部の天井辺りから見る。
サトル「アユムさん、(目前の京田下近線をさし)そこでいいですか?」
アユム「いいんですか? かなり距離ありますし、復旧が進んでいない地域も多いですし、野性動物もよく出ますよ」
サトル「勝手知った道ですから」
○同・同・同・同・十倉―真倉監視所ゲート前(朝)
停車して降車し、車の前に進むサトルと、オートバイを出しに行くアユム。
アユム「(オートバイを押しながら)そのメガネは出るまで絶対に外さないで下さい。o圏はもちろんですが、結晶が局所的に残存していますので、決して近づかないように。(オートバイを停め、手を置き、冗談めいて)特別ですよ?」
サトル「わかっています。何もかもすみません」
アユム「いえ。故郷を取り戻すことができなかった、我々の責任です」
サトル、京田下近線を南下する小型汎用車両を、お辞儀し、オートバイと共に見送る。
○同・同・o圏・礁・羨(朝)
莢や人影が透けて伺える羨内部を、下降から水平方向に直進する餡の急流に乗り、地表面との境にある礁への出入口「洞」に向かうタウの足元から見る。
礁内の餡を漂流する、オフィオプルテウスやエキノプルテウス、トルナリア、トロコフォア、マクジリビリア、ビピンナリア、ピリディウム、ブラキオラリア等の幼生に似た、成人の胴体程の大きさで、骨と餡で構成された浮遊形態「つむじ」が複数伺える。
○同・同・同・同・洞(朝)
かまくら状の内部の奥の壁には、左側に羨の入口用の12個の弁、右側に人が座れるウォータースライダーの出口のようで、弁の前に暖簾状に多量の肢が覆うように垂れ下がる12個の出口。
右側の弁の1つから流れ落ちるタウ。
タウ、暖簾状の肢が表面に残る餡を急速に吸う中、立ち上がり、洞の出口へ。
朝日と水蒸気で白光に包まれた外界が伺える洞の出口へ向かうタウの視点。
中学校の校庭に足を出すと、ソのズボンの袖から肢が足を覆い、靴を形成。
動いたり伸びたりするときに肢内を流れる静電気のように淡く青く光る電流。
○同・同・同・京田・中学校・校庭(朝)
8割強上下にずれた「蟹・笑」の「肉」姿のタウ、白光の中を眩しそうに歩む。
水蒸気が薄くなり、南側の体育館や校舎と、北西側から校庭を上から覆わんとする津波のように巨大な波の形をしたoの骨格と餡を、洞のある校庭の北東端から見る。
波状のoに近づくタウと、中学校の敷地全体を、北東側から俯瞰。
西側は波状のoに覆われた、雲の浮かぶ空を見上げていると、境目である南北を走るoの端から落ちる餡の滴。
タウ、見上げた状態で反射的に目を閉じ、左目から落涙するように左頬に落ちる鱗混じりの餡の滴が、流れ落ちる前に肌を覆う鱗に吸収されると、目を開ける。
○同・同・真倉(朝)
西側の空を覆う、東側をゴドムに踏まれて失った家屋の西側を見上げる。
西側だけ残った家屋は、移動するゴドムの推進力かつ摩擦減少のため、体節の間、特に地面と接触する腹板側から大量かつ急速に放出された有毒の結晶化ガスにより形成された単斜硫黄状の黄色い結晶群に覆われている。
サトル、ゴドム進攻で崩れた橋の残骸が伺える、伊佐津川の北岸でオートバイを止める。
サトル、オートバイを降り、ゴドムの蛇腹状の腹板で南北に抉られ、斜方硫黄を中心に単斜硫黄が取り囲むような形状の黄色い結晶群に覆われた集落から、集落の中心部から上へ北北西に放たれたゴドムの結晶化光線による結晶群に覆われた西側の山へ目を向ける。
ゴドムの結晶化光線・ガスによる結晶を以後「ゴドム結晶」と呼称。
ゴドム結晶群に覆われた集落と山を、ドローンのように南南東側から北北西へ飛び越える。
T「5年前」
○同・同・上空
真倉から由良川河口へ、北北西へ俯瞰しつつドローンのように飛ぶ。
アナウンサーAの声「本日午後、都内で海洋地球研究機構が会見。京都府沖の日本海の海底調査で、石油・天然ガス田とみられるエリアが発見されたと発表。その埋蔵量は、継続的に商業利用可能な規模である可能性があり、調査を続けていくとのことです」
専門家Aの声「日本周辺で大規模な油田・ガス田が発見されるのは非常に珍しく、調査性能や掘削技術の向上に伴い、情報の確度、持続的なエネルギー利用の現実度の高さから、このような発表に至ったと考えられます。昨今の国際情勢やエネルギー自給率の向上、安定供給確保を理由に歓迎する意見もありますが、海洋油田・ガス田の新規開発となれば、技術上の壁はもちろん、相当の費用と期間が必要ですし、気候変動や周辺環境への影響も考慮しなければなりません。脱炭素を巡る国際的な圧力は高まっており、既に周辺国からは開発による海洋汚染への懸念が出ています。エネルギー関連株の上昇は象徴的ですが、周辺自治体でのパイプラインや関連施設の受け入れに向けた動きに関する報道も見られます。まだ調査段階であり、時期尚早ともとれますが、実際に開発となれば、国内外両面に向けた丁寧な説明や環境対策は必須であり、短期的な利益にとらわれることなく、長期的・総合的・大局的な判断が求められ――」
T「4年前」
アナウンサーBの声「本日午後、京都府沖の石油・天然ガス田開発を巡り、舞鶴市で関連企業・省庁・自治体による会合が開かれ、来年夏頃の試掘に合意しました。関係閣僚も出席し、開発の重要性を強調しました」
経産相の声「火力発電は依然重要な電源であり、技術開発への投資という観点にも資するものであると――」
レポーターの声「周辺地域では、直近の調査による有毒物質の大量検出が波紋を呼んでいます。岩盤の硬度も想定以上に高く、有毒物質対策に加えてコスト増に繋がるとみられ、採算性を巡り疑問の声もあがっています。沿岸部では関連施設の建設を見越した地価高騰が続き、内陸部でもパイプラインの招致合戦が繰り広げられ、土地を巡るトラブルや汚職疑惑が後を絶ちません。少子高齢化や過疎化でコミュニティの存続が懸念される中、産業振興で歯止めをかけたいという切実な声もあれば、開発による生態系への影響や風評被害への不安もあり、住民間の軋轢や分断に繋がりかねない状況にあります。国外でも、海洋汚染や気候変動へのリスクに抗議する声が高まっています。また、周辺国から周辺海域への調査船や艦艇の派遣が相次いでおり、資源獲得競争や政治・軍事上のパワーバランスを巡る対立の最前線となって――」
T「3年前」
T「15:11」
アナウンサーCの声「本日午前、京都府沖で、石油・天然ガス田の試掘が始まり――」
東端の水平線近くで強烈な青い閃光と炎を放つ巨大な爆発、大量の黄色い煙とゴドム結晶を撒き散らす。
爆発地点にズームし、煙も薄れると、黄色く変色した海と隙間から青い炎を放つ島のように巨大なゴドム結晶群。
○同・由良川・上空(日没)
T「19:00」
輪郭が伺える由良川を見下ろしつつ、舞鶴市下東付近から下流へドローンのように飛ぶ。
アナウンサーDの声「本日15時頃、京都府沖で大規模な爆発がありました。付近の海域では午前9時頃から石油・天然ガス田の試掘が行われており、関連を巡り現在調査中とのことです。現地は既に日没の時間を迎えており、被害の全貌はわかっていません。周辺海域での船舶の航行は禁止され、航空各社は空路の変更や欠航を発表し――」
海上保安官の声「有毒ガスの噴出及び火災は継続中。水蒸気の発生量や海水温のモニタリングから、試掘現場付近の海水温は依然高い状態にあり。変色水は水温や有毒物質の濃度が特に高いとみられ――」
気象庁職員の声「現場付近の気流及び海流の予測が出ました!」
漁協組合員の声「魚の死骸が打ち上げられているそうだ。とにかく海には近づかないように皆に伝えてくれ」
レポーターの声「海岸に魚等の死骸が大量に打ち上げられており、様子を見に来た住民や取材陣の数名が救急車に運ばれたとのことです。呼吸困難により意識を失ったとの情報があり、現場は強烈な異臭に包まれていたそうです。ここは海から1キロ程離れているのですが、1時間程前から硫黄のような臭いが徐々に強くなっており――」
アナウンサーDの声「屋内退避、屋内退避の指示が出されました。該当地域は――」
消防団員の声「屋内退避で大丈夫か? こんな臭い嗅いだことな(激しい咳)」
○同・宮津・由良・上空(夜)
由良川から由良の町へドローンのように北西へ飛ぶと、U膜に覆われ、赤みを帯びた青紫色の外殻の、2つの目が青く光るモンハナシャコに似た100m程の頭部に、ムカデに似た体の全長800m超の巨大生物ゴドム、高温の体表から蒸気と、体節の間から海水を黄色く染める黄色い結晶化ガスを放ちつつ、丹後由良海水浴場の西端辺りから上陸。
○同・舞鶴・西神崎ライブカメラ(夜)
由良川の西神崎ライブカメラの映像。
ゴドム、由良に上陸し、蛇のように頭部をもたげ、頭部の腹側を覆うカラッパのような第一脚を左右へ開くと、モンハナシャコに似た補脚が姿を表し、補脚の先端を振動させつつぼんやりと青く光らせ、結晶化エネルギーが溜まりきり、振動と光が極限に達すると同時にパンチするように前方へ放出。
集落を結晶化しつつ吹き飛ばす衝撃波のような青い光「結晶泡壊」、由良川橋梁を経て西神崎ライブカメラを包む。
○同・同・蒲江ライブカメラ(夜)
河口付近の火災の青い光が水面に映る、由良川の蒲江ライブカメラの映像。
アナウンサーDの声「速報です。由良川河口付近で大規模な火災が発生しているとのことです。大きな爆発音があったという情報もあり、被害状況はわかっていません」
レポーターの声「(ガスマスク越しの声)こちらでも体験したことのないくらい大きな地響きと、爆発音がしました。海上の火災現場では、青い炎が確認されているそうですが、火災によるものでしょうか、山の向こうから青い光が確認でき、火災がかなり大規模であることが推測されます」
ゴドム、水を黄色く染める結晶化ガスと蒸気を放ちつつ蛇行しながら遡上。
レポーターの声「遡上? 何が? 巨大な何か? 「虫みたいな」って……。(サイレン)出た? 避難命令出た? とりあえず皆逃げろ、俺は行く」
○同・同・下東・上空(夜)
由良川から再上陸し、京都府道568号念仏峠線へ向かうゴドムを自動追尾し撮影する防衛隊ドローンの映像。
サーモグラフィに切り替わると、体表や結晶化ガスの高温さが伺える。
ゴドム、ムカデの脚にあたる脚状器官「揚」は脚として使用せず、先端にある穴「孔」から微量の、地面と接触する体節の間からは大量かつ急速に結晶化ガスを放ち、蛇のように腹這いで蛇行しつつ車並みの速度で568号へ。
○同・同・上福井・上空(夜)
国道175号を東へ進むゴドムに突如数発のミサイルが降りかかり直撃。
進攻速度は低下。
サーモグラフィから通常カメラに。
煙が薄くなると、ミサイル数発が降りかかるが、1つの揚の孔から青い結晶化光線を放ち、稲妻のようなジグザグとした光跡を描き全弾迎撃。
微粒子状のゴドム結晶、光跡からキラキラと輝きつつ降り注ぐ。
倍以上のミサイルやロケット弾が降るも、3つの揚の孔からの光線で迎撃。
3機の戦闘機が6発程爆弾を投下するも、光線1本で全弾迎撃。
巨大な爆炎と煙を引き裂く光線、回避行動やフレア射出を行う戦闘機を追尾し、2機迎撃。
ドローン、2機目の戦闘機はかすった程度だが光線で結晶化されて巨大な結晶となって直上から落下し、回避行動をとるも新たな光線がかすめ、プロペラから結晶化が進み落下。
○同・同・下福井・車・中(夜)
法定速度ギリギリで駐車場に入り、助手席の床から取り上げられ降車するレポーターのカメラ映像。
○同・同・同・駐車場(夜)
頭部をもたげるゴドムへ向けられるレポーターのカメラ映像、強烈な爆発音と地響きに大きくぶれる。
ゴドム、無傷のまま地響きと共に進攻。
頭部のシャコに似た触覚の6本の先端はムカデの触覚のような構造で滑らかに動き、黄色の蛇腹状の腹板が覗く。
レポーター「(地鳴りと爆音の中、ガスマスク越しの大声で)30分程前から、防衛隊による攻撃が行われています! 海から上陸したとみられる謎の巨大生物ですが、外見は節足動物のようであり――」
舞鶴港・西港内の艦隊からの砲撃がゴドムに直撃し、カメラを艦隊へ向けると、戸島周辺の艦隊がミサイルを発射。
レポーター「(ガスマスク越しの大声)海上防衛隊の艦艇が、攻撃しています!」
カメラをゴドムへ向けると、砲撃を受けても傷一つつかず、進行を停止し、第一脚を左右へ開くと、鋏を開き、可動指と不動指の間にある孔から光線を放ち、複数のミサイルを迎撃すると共に、手前の砲撃中の艦艇に上から落雷のように2本の光線で攻撃。
巨大な青い爆炎と共に巨大なゴドム結晶に覆われる艦艇と、結晶化される周囲の海面や水しぶき。
レポーター「(ガスマスク越しの大声)巨大生物から、光線のようなものが放たれ、艦艇が、青い炎と、黄色い結晶に包まれています!」
ゴドム、高まるブォォォンという振動音と共に、補脚の先端を振動させつつぼんやりと青く光らせ、結晶化エネルギーを蓄積。
レポーター「(ガスマスク越しの大声)巨大生物の体の一部が、振動しながら、青く光っています!」
ゴドム、振動が極限まで高まり、割れるような金属質な高音と青い閃光と共に、パンチするように結晶泡壊を放つ。
衝撃波のような青い光、町を青い炎で包みつつ結晶化し、レポーターも巻き込んで吹き飛ばす。
○同・同・舞鶴湾・戸島周辺海域(夜)
町を吹き飛ばし、海面を滑る結晶泡壊を映す、戸島の南西側でミサイルを発射していた艦艇の搭載カメラ映像。
結晶泡壊、海面に複数の巨大な波を起こし、艦隊や沿岸部含め青い炎に包みつつ結晶化し、発電所へ向かう。
○同・同・上安久・国道27号(夜)
結晶泡壊を受け爆発する北側の発電所の青混じりの火柱から、停電し、青い炎に包まれる町と、国道175号沿いに東進し、山や建物の影から姿を現すゴドムを映す、伊佐津川の新相生橋の東岸で西向きに停車し、砲塔と砲身を調整する戦車の搭載カメラ映像。
政府高官の声「これはオフレコだが、舞鶴は軍事的要衝であり、このまま東へ行けば原発銀座だ。何としても食い止めさせる」
ゴドム、第一脚を左右へ開き、補脚の先端を振動させつつぼんやりと青く光らせたまま国道175号沿いを高野川西岸付近まで東進するも突如進攻を停止し、頭部及び触覚を北東へ向ける。
戦車の搭載カメラで北西方向を見ると、五老岳の尾根の向こうの小学校の屋上から放たれる強烈な青白い光が伺える。
ゴドムが南へ急発進する音。
伊佐津川東岸沿いの戦車隊、高野川を越え、国道27号沿いを車並みの速度で南進するゴドムに向かって砲撃。
ゴドム、着弾しても見向きもせず南進。
戦闘機の投下する爆弾を自動的に迎撃する光線の一部、佐武ヶ嶽の麓から山頂辺りまでの北西側の山肌に直撃し、ゴドム結晶群を残す。
○同・同・京田・中学校・校舎・教室・窓外(夜)
3階の南東側の窓際に座る、ソを着た「笑・蟹・鱗」のないタウ(12)、国道27号を南進するゴドムを見送る。
○同・同・o圏・京田・中学校・校舎・教室
室内を覆うように伸びたソの肢、座る全生徒のソに一瞬で戻るのを見下ろす。
窓際で外を見る、「肉」姿のタウ(14)、生徒らが無言のまま1人あるいは複数で下校する中、遅れて教室を出る。
○同・同・同・同・同・同・廊下
西へ歩き出すも、その先に何かを見つけ立ち止まるタウを、西から見る。
生徒A・B、校舎西側の中庭から窓を突き破り廊下に入り込む波状のoの先端に頭を垂れたまま動かない。
多量の鱗が含まれた餡、oの先端からポタポタと床に垂れる。
タウ、その様をじっと見つめていると、
× × ×
(フラッシュ)
夜空の下、空中でⒸがQに変態。
ジュアの声「(頭の中から聞こえる)タウ」
× × ×
に目を見開き、右から振り返ると、教室の前の廊下に立つ、8割強上下にずれた「蟹・笑」が伺える、「肉」姿のジュア(14)を見つける。
ジュア、不安そうに俯き加減でタウを見つめる。
タウ、振り返ったまま軽く頷き、逃げるように階段へ向かい、降りていく。
ジュア、寂しそうに1人俯く。
○同・同・同・同・同・校庭
タウ、半ばで立ち止まる。
○同・同・同・礁
海風で水蒸気が晴れ、礁の表面に貼りつきブゥゥンと振動音を放つ、アマモに似た見た目でゆらめく、縦に振動する緑の蛍光色の光波「霊」が姿を現す。
o圏の中枢たる、高さ約100m、直径約200mの半球状のドーム「賽」と、賽を中心に六角形の頂点上に配置された、イソギンチャク様のポリプあるいはヒドラに似た形の巨大な枝珊瑚状の6つのTから、かつてあった建物の高低の名残があり、紫色の餡が透けて伺えるウミユリのような形をした骨「華」群が根元にある1~3本程のまとまりで霊が点在する丘状の礁を、南西側から、北から東へ目を移す。
賽とTの周囲は平坦で霊・華がない。
雲海のような礁上を飛び回り、Tにぶら下がったりとまったりするつむじたちが伺えるが、賽周辺には近づかない。
○同・同・同・京田・中学校・校庭
タウ、風と霊の音の中、礁の東側をぼんやりと眺める。
○同・同・同・同・同・校舎・廊下
8割強上下にずれた「蟹・笑」の「肉」姿のリニェ(14)、寂しそうに1人俯くジュアの背後から抱きつき、左頬に右頬を寄せる。
○(幻想)同・同・同・同・同・校庭
タウの後ろ姿越しに、横たわった巨大なジュアとリニェが東側の目前の丘状の礁へと変化していく様を見る。
(幻想終わり)
○同上
幻想を振り払うように首を横に振り、洞へ向かうタウを、南から俯瞰。
○京都・舞鶴・o圏・礁
投げられたつむじを跳び上がって両腕で抱くように捕まえるこどもらの1人。
各Tの根元にある、賽側に出入口の向いた洞から出て賽に向かう、遊ぶこどもらを含む全住民、他T、賽を、南西側のT5の幹辺りから俯瞰。
礁では、雪や雨、寒い日以外、住民は裸足であることが多い。
Tは真北のT1から時計回りに1~6まで番号付けされている。
Tの枝は全60本あり、横は2本の枝が二重螺旋状に巻きついて6つに分かれ、縦に5列に分かれている。
賽の手前に、賽を中心に成人の膝下程の深さまで水が溜まる円状の溝があり、全住民は足を溝の水に浸してから、真南にある開いた状態の弁から入る。
○同・同・同・同・賽・中
トカマク型核融合炉の上半分のようなドーム内と、肢でできた布のような透けと伸縮性のあるすり鉢状の底「螺」。
透ける螺の下には水面と、水面下にも壁と、天井に繋がる「主柱」が続き、山から海への水流と魚の姿が伺える、紫色の輝きが揺らめく底なしの透明な水塊のある「柱穴」が伺える。
主柱内の餡の基調は紫だが、下ほど赤黒く、上ほど青みががる。
螺と天井の間の主柱内には、oの胚段階の中心体「C」の、真南を向いて体育座りでうずくまる人間のような輪郭が伺える。
外へ通じる弁から主柱のCより下にある真南を向いた弁の手前まで、5人程通れる幅で時計回りの螺旋状に下る通路を横糸の肢が形作り、縦糸の肢が主柱から壁まで放射状に繋ぎ支える螺。
通路を下り、主柱の弁の手前から、主柱を向いて通路の外側に隙間なく一列に立つ住民を天井の南東辺りから俯瞰。
外側の通路から南西寄りの2列目に立つ、緊張した硬い面持ちのジュアと、ジュアを気にしてちらちらと見ている西よりのリニェ。
タウ、壁の弁から入り、最後尾に立つ。
高音を含むサイレンのような低音を主とした叫びと共に青白く輝き出すCの光が賽内に満ち、全住民が一斉に頭を垂れる様を、南東辺りから俯瞰。
ジュアとリニェら、頭を垂れる。
タウ、どこか渋々頭を垂れると、頭の中から聞こえてくる波音。
○(幻想)同・同・同・下安久・嶺(夕)
夕日が照らす舞鶴湾を海辺から見る。
バラバラになったoの骨が積みあがった海辺の盛り上がり「嶺」に立ち、海を見つめるタウ、自身の右側から近づく足音に気づき、顔を向ける。
「肉」姿のジュア、立ち止まると、頭を覆う、餡が紫色の浮が鼻辺りから退き始め、「笑・蟹」が重なり合い紫色に染まりつつ優しい微笑を浮かべ落涙。
(幻想終わり)
○同・同・同・礁・賽・中
タウ、我に返って目を見開き、頭を上げようとするも体が固まり動けない。
住民、青白い光が弱まり頭を上げる。
タウ、目でジュアを見る。
どこか覚悟したように唇を噛み締め、まっすぐ前を見るリニェと、重なり合い紫色に染まる「笑・蟹」と共に、どこか遠くをみるような恍惚とした表情「快」を見せつつ、それに抵抗するように顔や体のひきつりを見せるジュア。
タウ、逃げるように賽を出る。
○同・同・同・同
海風に流される水蒸気の中から現れる賽とTを、北東側から見る。
溝の水に浸されつつ南へ行くタウの足。
タウ、T4と溝の間で立ち止まり、後ろへ振り返りかけるも、逃げるようにT5の洞へ速足で向かう。
○京都から兵庫・上空
礁上空から京都府舞鶴市、綾部市、福知山市、兵庫県丹波市、丹波篠山市、三田市、神戸市北区、西宮市まで、南進したゴドム進攻跡を辿り、ゴドムとの戦闘跡やゴドム結晶群、処理中で白い遮蔽幕に覆われたゴドム結晶群、廃墟群、山崩れの跡、瓦礫の山等を見下ろしつつ、ドローンのように画面上の北から下へ南進。
アナウンサーDの声「ゴドム進攻から、3年です。国会では、ゴドム結晶再結晶化処理法案、通称「ゴ再法」の成立に向け大詰めを迎えています。ただ、ゴドム及び生命体「o」関連文書の流出疑惑による波紋が広がっています。野党側は、「問題の文書には、ゴ再法に至る経緯が記されている。まずは真偽を確かめるべきだ」として、早急な調査を求めており――」
官房長官の声「文書に関しては、真偽及び流出の有無を含め現在調査中であり――」
専門家Bの声「文書群には、「U計画」というコードネームが散見され、正式名「反結晶化結晶状物質増殖計画」の詳細が記されています。ここからは文書に基づいてその経緯を追います。アルファベットの「U」は、「反結晶化結晶状物質」を指し、ゴドムの諸部分を覆う「U膜」を構成する赤みを帯びた結晶状の物質であり、未解明ではあるものの、結晶化作用を無効化でき、自身の力による自滅を避けるために生成されたとみられ、強度が高く、進攻時に防衛隊の攻撃が十分な効果を出せなかった要因ではないかと分析されています。進攻跡に今も大量に残存する、通称「ゴドム結晶」は、有毒のため飛散防止措置を施した上で解体、埋め立てが当初の処理方針であったものの、一部の結晶の量が自然に減少し、減少した結晶内にゴドムの卵らしき物体が発見され、早急に高出力マイクロ波を用いて卵を処分する方針が示されました。このことから、ゴドム結晶はゴドムのエネルギー源である可能性が示唆されています。ただ、実際に作業が始まると、インフラが破壊された中、大量の有毒の結晶からの卵の探索、飛散防止措置、マイクロ波関連装置の運搬と設置、電源の調整と接続等、莫大なコストに直面し、卵の円滑な処分を巡り国外からも懸念を受け、抜本的な解決法として浮上したのが、「U計画」でした。Uを大量生成、散布するだけで、ゴドム結晶を水、塩化ナトリウム、熱エネルギーに中和できるという夢の計画でしたが、当初は活動停止したゴドムの生体器官の応用を目指すも、休眠状態から覚ますことができなかったためか大量生成が難しく、コストも現実性に欠け、結晶処理には用いられなかったようで――」
アナウンサーDの声「活動を停止したゴドムに堂島川がせき止められている影響で、土佐堀川の氾濫が相次いでいます。氾濫に加え、中之島ではゴドムの重量による地下への浸水や地盤沈下が深刻化し――」
専門家Bの声「生命体「o」に対処する防衛隊の特殊部隊の装備には既に「U膜」が実装されているとされ、住民の救出作戦の失敗が実用化への契機となり、兵器への応用も進んでいると指摘されています。ゴドムの結晶化能力とoの骨化能力は類似点が指摘されており、効果は未知数ですが、従来の兵器を超える効果が期待されています。U計画の頓挫によって登場したのが、ゴ再法で知られる再結晶化処理です。これはゴドムの結晶化能力を応用する方法であり、専門的に言えば、無方向性結晶化による格子欠陥を起因とする崩壊現象を利用し、無害で安定した結晶に変えるものです。結晶化を応用した無毒化能力の一端を担っていたとみられますが、ゴ再法はこの技術化を決定づける法案といえます。崩壊現象は、結晶化現象の再現実験での失敗が元で、結晶方位制御技術が未確立だったためでした。実質的には、休眠状態の生体器官の制御が困難だったようで、現在、この技術がどこまで確立されたのかは言及されておらず、数々の憶測が飛び交う黒塗りの部分が、結晶化技術の核心にあたるのではないかと、私も予想するところであり――」
野党議員の声「結晶化技術、特に結晶方位制御技術が、もし仮に確立された場合、ゴドム結晶の類似物、あるいはより危険なものも生成可能だということではないですか?」
環境相の声「ゴ再法は、再結晶化処理技術の実用化を目的とした法案であり、今後どういったことが可能になるかというのは予測困難ですから、その可能性に応じて、規制するのか、発展させていくのかは、国会等の場で議論していくことになるのではないかと――」
与党議員の声「ゴドム進攻の後、生命体「o」が出現してから3年が経とうとしています。先の住民救出作戦から現在まで、残念ながら多くの隊員が帰還できておらず、通常の装備が通用しなかったというのは、多くが指摘するところであると認識しております。懸念の声が出ていることは重々承知しておりますが、被災地の復旧復興は勿論、o圏が拡大し続ける現状は、まさに待ったなしです。ゴ再法において、ゴドム関連技術の応用に踏み込むべきではないでしょうか」
防衛相の声「ゴドム関連技術は実験段階です。例えば正式に採用するということになれば、対人戦闘ではなく、あくまで生命体「o」、あるいはそれに準ずるような主体との戦闘に限定するといった、新たに精緻な議論を必要とする内容であると――」
野党幹部の声「結晶化技術は、ゴドム結晶を無害化できる可能性があると同時に、遥かに危険な結晶を作り出す可能性もあります。もし軍事利用されれば、ゴドムのように街1つや2つを完全に結晶化して壊滅させながらも、一切汚染物を残さないことも、半永久的に汚染させることも可能という、ABC兵器を超える新たなC、「使える大量破壊兵器」になりかねません。ゴ再法は結晶化技術開発を目的としながら、規制面はがら空きです。先の防衛相の発言や、識者も指摘するように、兵器化は時間の問題です。軍事利用だけでなく、暗殺や、不都合なものは全て結晶化して隠滅することも可能に――」
与党幹部の声「結晶化技術は、人類への福音です。あらゆる物質を無害で安定した結晶に変えられるとすれば、ゴミも、汚染も、温室効果ガスさえ問題ではなく、最早需要です。これは人類を救済する技術であると共に、未だかつてない新産業の誕生です。疲弊した日本経済を立て直し、世界経済の主役に躍り出るまたとないチャンスです。長期かつ変換効率の高いエネルギー貯蔵や、軽量でしなやかかつ強度の高い建材・素材開発に繋がる技術として、復旧復興への活用も期待されています。欲をいえば、恐怖の論理に支配された世界秩序を書き換えることさえ不可能ではないと――」
陰謀論者の声「サタンに仕えし政府は、地獄の門の守り人たるゴドムを贄とし、地獄の力を用いて世界をサタンの国に変えんとしています。我らを堕落から救い、約束の地に住まう浄化された新たな人類への飛躍を担う使徒たるoを屠り、サタンの復活を称えんとしているのです。最終戦争迫る今、召命されし我ら彼の地に集うとき! しかし! 身一つで戦場に立つ者はいません。天国の門を開くはただ一つ、それは――続きはこちら、ご登録は――」
○(幻想)京都・舞鶴・o圏・礁(日没)
T1・6の間の、Tの形作る六角形より外側で、ゴドム結晶群が散見される舞鶴港・西港を背に、正対の肖像写真を撮るように次々入れ替わる、「肉」姿だが、oの骨と餡に置き換わった体の諸部分から神経細胞の樹状突起のような触手を生やし、年齢を重ねる程に、餡の内側の赤と外側の青が混じり紫がかる人々「朋」。
生物学者の声と共に、必ず真顔から笑顔になると共にo化した部分を見せてから入れ替わる。
生物学者の声「そもそも「ゴドム結晶」と称されるものは、卵を守るための殻や鞘であり、有毒であるために独占的に利用可能なエネルギーの結晶でもあり、これが巣の構築、防御及び攻撃の手段に応用されたと私は考えています。ゴドム結晶を大量に残置したのは、その後に誕生する子孫のエサとするためであったのかもしれない。更に想像力を豊かにすれば、何千万年あるいは何億年もの間、後に石油やガスと化す生物の死骸を糧として成長を続けた古代生物が、掘削のショックで目覚め、その混乱で上陸に至った、なんてことを夢想せずにはいられないのです。舞鶴での方向転換、ターンと南進は、大都市の石油・ガス、あるいは子孫のための新たな生息圏の獲得及び創出を目的と仮定しても、難儀な山越えをせずともよかったはず。ともすると、同時期に出現した生命体「o」が絡んでいるのかもしれない。その能力の類似性を鑑みると、ゴドムに近い系統、あるいは偶然か、元々行動を共にしていたかはともかく、共生もしくは寄生関係にあったものが、現生人類と新たな関係を構築しているのではないか。食う食われる、支配と服従という単純な関係性か、一体化、あるいは種の融合という高度な段階へ踏み込むのか。誰も入ったことのない領域に、彼らは既に立っているのかもしれません」
頭以外o化した諸部分が溢れ出す朋。
(幻想終わり)
○同・同・同・同・T5・莢・タウの寝室(夜)
満月の光が差す中、ベッドで張と逆方向に体を向け、顔の右半分を埋める、「鱗・蟹・笑」のないソ姿のタウ、重だるそうに左目を開ける。
○同・同・同・同・同・洞(夜)
羨を流れ、右側の弁から出るタウの音。
○同・同・同・同(夜)
東側の満月と、T1・6の間を通って賽へ向かう、2列に並ぶ朋と、朋の間に並ぶ重なり合って紫色の「蟹・笑」のある老人たちの遺体を仰向けにのせた、肢が集まってできたストレッチャーのようなベッド「匚」群と、神輿を担いでいるような匚列の最後尾の集団「輿」を左右から迎える、各Tの洞から出て、賽の弁まで並ぶ全住民が伺える北側までを、T5の幹辺りから俯瞰。
タウ、賽とT5の間の、西側の観衆に近づく。
ウニのようにざわざわと賽へ向かう匚群を追う、2列に並び骨製の棒を担ぐ朋と、歌舞伎の獅子の頭に似た肢のかつらと円状に湾曲した鹿の角を組み合わせた装具「晦」を頭につけ、ベールのように前に垂れた肢の間から、硝子体の上部からぼんやりと青い光を放つ虚ろな右目でタウを見下ろす、紫色の「笑・蟹」が伺える、台に乗る「肉」姿のジュアで構成された集団・輿。
タウ、ジュアに目を奪われ、頭を垂れる観衆から少し離れて立ち尽くす。
輿、北東へカーブしていく。
○同・同・同・同・賽・中(夜)
通路を下り、主柱の弁から遺体と共に青白く光る餡へ入る先頭群が伺える匚群と最後尾の輿を、南東辺りから俯瞰。
主柱の餡の中へ姿を消す匚群の後尾を見送ると、弁に向かって立ち止まる輿。
担ぐ朋らがしゃがむと、台から降り、弁へ迷いなく歩むジュアの足を追う。
主柱へ入るジュアと、螺の底で主柱を向きつつ周囲に並んで頭を垂れる朋らを、南東辺りから俯瞰。
○(幻想)同・同・同・下安久・嶺(日没)
紫色の「笑・蟹」と共に優しい微笑みのまま涙を流す「肉」姿のジュアの表情は快へと歪み、上から青色、下から赤色の光が、混ざり合う水のように目の奥からぼんやりと紫色の光が放たれると共に、紫色の餡の浮が後頭部から頭を覆うと、餡が青白く輝く。
(幻想終わり)
○同・同・同・礁(夜)
(坂本龍一「20220214」)
主柱を中心に青白く、周囲は青く光る賽から、波紋のように礁全体を活性化させつつ青い光が染め、賽に向かって頭を垂れていた全住民が顔を上げる様を、T5の幹辺りから俯瞰。
T5の全枝の二重螺旋が開花するようにほどける様を、南東側から見る。
T5の各枝の根元にある、上を向いた状態の弁から、珊瑚の産卵の際のバンドルのように、少し狭い弁から押し出され、水中のように浮遊し、南西の風に運ばれる、他Tからも放出されるⒸ群を、南西側から見る。
Ⓒは各枝から1つ放出される。
タウ、浮遊するⒸ群を見上げ、見開いたまま金縛りのように微動だにしない。
恐怖と興奮に打ち震えるタウの目に映る、Ⓒから変態した後、浮に当たる結晶化レーザーで無色透明に結晶化し、白光と共に粉々に破裂するQ。
○同・同・十倉―真倉監視所・空地(夜)
北端に立ち、産卵現象「望」を見る要人らのガスマスクに映る、礁の青い光と、レーザーによる花火のような白光。
要人らの東側に立ち、望を眺めるミズキ、祈るように目を閉じると、自身の右側に存在を感じ、右へ目を向ける。
○(幻想)同上(夜)
ミズキの右側に立ち、望を見つめるサトルの左横顔。
恐怖・悲しみ・怒り・痛みに耐え強張る、薬指に青いガラスの指輪をつけたサトルの左の拳を、下から包み込もうとするミズキの右手。
(幻想終わり)
○同上(夜)
空気を切り裂く高音と共にレールガンで白光を帯びた結晶化体をⒸやQに放ち、白光と共に微粒子結晶へ放射状に粉砕する舞鶴湾の艦艇や、礁周辺の防衛隊員が放つレーザー、サトルの幻想から覚めて右手を引っ込め、南へ目を向けるミズキ、要人らの後ろ姿を一望。
○兵庫・宝塚・すみれガ丘・階段(夜)
サトル、大阪平野を一望する階段を下り、途中の踊り場の南側の柵に近づく。
サトルの左手薬指に指輪はない。
○(幻想)同上(夜)
柵の前に立ち止まるサトルの右横顔から、西宮側から山を下り、鉄塔を破壊し周辺を停電させるゴドムの音が聞こえると、階段の西側の森を踏み潰しつつ目の前で頭部をもたげ止まる。
田畑の跡を駆け上るアユムの足音。
(幻想終わり)
○京都・舞鶴・o圏・下安久(夜)
田畑の跡を駆け上るアユムの足が通過し、見上げると、防衛隊員A・Bと対峙する、Qから細身の長身で背筋の伸びた人型に変態した、全長30m程の「P」、竹ぼうきのように枝分かれした触手状の両腕から放電しつつ振り回し、頭にあたる浮へ放たれるレーザーを放電で無効化しつつ、防衛隊員Aを触手で弾き飛ばし、障害物をどかすように防衛隊員Bを掴み、振り回して放り投げ、反時計回りで回り込んで発射体勢に入るアユムを見下ろす。
Pの周囲を数体のつむじが飛び回る。
擲弾発射器が装備されたエネルギー充填中のアユムの結晶化レーザー銃、西側の舞鶴湾を背景に、南側から北側のPへ向けられる。
大阪平野に響くサイレン。
○(幻想)兵庫・宝塚・すみれガ丘・階段(夜)
南東側の戦闘機群の飛行音とサイレン響く大阪平野へ頭部を向け、第一脚を左右へ開き、補脚の先端を振動させつつぼんやりと青く光らせるゴドムの後ろ姿。
サトル、望を見るタウのように立ち尽くし、極限まで高まる光・振動音と、結晶泡壊の衝撃を一身に受ける。
(幻想終わり)
○京都・舞鶴・o圏・下安久(夜)
(坂本龍一「20220214」終わり)
Pとつむじ、西側の舞鶴湾を背景に北側へ倒れ、浮から無色透明に結晶化され、白光と共に粉々に破裂。
○(夢)幕
くるぶし辺りまで水に浸された、銀幕のように白く滑らかな床を、何らかの力で押されたかのようにつんのめりつつ白光に向かい駆けるタウの視点から見る。
タウ、勢いが落ち、立ち止まり、左から振り返る。
スクリーンにあたる側からの強烈な白光が水と白い床を照らし、縦の格子が伺える映写室のような漆黒の空間「檻」のある、水面に反射する光を映す黒い壁と天井が伺える、映画館に似た構造の空間「幕」。
輿、檻の真下から白光に向かって進む。
タウ、眩しそうに輿を見つめる。
担ぐ朋らと、晦をつけ、硝子体の上部からぼんやりと青い光を放つ目でタウを見下ろす、紫色の「笑・蟹」が伺える、台に乗る「肉」姿のリニェ。
タウ、目の前を輿が通過せんとすると、おもわず右手を伸ばす。
○同・檻
タウの両手、格子を右、左の順で掴む。
格子越しに見る白光の中へ進む輿と、格子を掴んだまま滑らせつつ、立っている気力がなくなり床に座り込むタウ。
白光へ向かう程に水深は深くなる。
(夢終わり)
○兵庫・宝塚・すみれガ丘・階段(朝)
踊り場で仰向けに倒れたままのサトルの頬に落ちる雨粒。
曇天の下、目覚め、立ち上がるサトル、大阪市北区中之島のツインタワー辺りのゴドム活動停止地点まで続く進攻跡と復旧復興の様子を一望し、黙祷し、階段を下りていく。
ゴドム結晶は見られないが、破壊された、あるいは解体中の建物や建造物、抉られたままの地面、空地、雑草等が散見され、結晶泡壊を受けた宝塚から扇形に北西10km弱は更地からの復興が伺える。
○(夢)幕・檻
格子からも手を放し、床にへたり込んだままうなだれるタウの後ろ姿。
多数の影が集まったような、全身真っ黒で輪郭もぼんやりとして顔もわからない人型の存在・辰(?)、うなだれるタウの背後から抱きつき、左頬に右頬を寄せ、すっと離れていく。
見上げるように左から振り返る「鱗・蟹・笑」のないソ姿のタウ(5)、辰に指し示されたのか、白光が夕日の光に変わり、波音が聞こえてくる前を向く。
○京都・舞鶴・o圏・下安久・嶺(夕)
夕日が照らす舞鶴湾を背景に、oの骨の破片に覆われた波打ち際で走り回る、逆光で黒いシルエットに見える「鱗・蟹・笑」のないソ姿のリニェ(5)とタウと辰。
○幕・檻
タウ、両手で掴む檻の格子から顔を出し、嶺から神社に変わる映像を見る。
○京都・舞鶴・o圏・東吉原・神社・拝殿・中
拝殿内の本殿には、扉前の屋根から暖簾状に垂らされた肢と、肢越しに見える安置された晦に、華の生けられた珊瑚の折れた枝のようなoの骨でできた花瓶が肢の前に2つ伺える。
タウ、戸の格子状の穴から、背伸びして拝殿内を伺う。
○同・同・同・同・同
曇天の下、拝殿内の床にあたる出っ張りに足をかけ、背伸びして格子を覗くタウ、拝殿に向かって左側にある家から、向かって右側の摂社へ駆けていくリニェに驚き急いで降りる。
肢製のしめ縄と、紙垂の代わりに根元を上にした鹿の角が垂れ、鹿の角2本とoの骨で組まれた御幣も伺える拝殿。
辰、リニェを追って遅れて家から出る。
○同・同・同・同・同・摂社前
摂社の扉を開け、中にあるものを取り出さんとする辰の背後で、社に向かって左側で嬉々として待つリニェと、右側でリニェと辰を交互に見つつ不安そうに待つタウ。
摂社内の手前の青銅色に錆びた銅製の細長い筒の蓋を開け、柄を掴んで長さ1m程の剣「古」を取り出す辰の手。
タウとリニェの前に示される、柄を辰の右手に握られた古。
先端から見ると十字状の星に見える、赤い水晶のようなつらら状のUに4つの溝が彫られ、Uの内部から柄にかけて掴めるように加工されたゴドムの青紫色の棘状の殻と、掴みやすいように螺旋状に肢に覆われた柄が伺える。
てらてらと反射するUの表面に映る自分を覗き込むタウ、背後から抱きついて左頬に右頬を寄せる辰の右半身と、「肉」姿のタウ(14)の左半身が打ち消し合い、シャボン玉が融合するように一体化し始めていることに気づく。
辰と一体化しつつある「肉」姿のタウ(14)、顔を上げ、前を見る。
いずれも紫色の「笑・蟹」が伺える、「肉」姿で、快を浮かべどこか遠くに目を向け、手足と後頭部からo化が進行し、顔以外の大部分をoに覆われ、右手で古の柄を掴むジュアの左半身と、背後から抱きついて左頬に右頬を寄せる無表情のリニェ(14)の右半身がゆっくりと打ち消し合って一体化し始め、タウと目が合うリニェ。
(夢終わり)
○同・同・同・礁・T5・莢・タウの寝室
ベッドで張と逆方向に体を向け、顔の右半分を埋める「鱗・蟹・笑」のないソ姿のタウ、寝汗と共に目覚める。
タウ、仰向けになって瞼を閉じ、餡の流動音と外の雨音に耳を澄ませる。
左半身は寝汗が伺えるが、ベッドに接していた右半身は寝汗が伺えない。
○神崎川・神崎橋(夕)
雨の中、大阪側へ傘もささずにとぼとぼと渡るサトルと、ゴドムに踏み潰され、修復された山陽新幹線の橋梁を、下流側から望む。
○大阪・淀川区・十三筋・加島(夕)
ゴドムの結晶化光線と墜落した戦闘機が直撃し、焦げた跡のある集合住宅と、防災標語が掲げられた消防署を背に歩くサトルを、北側から見る。
○同・同・同・三津屋南から田川北(夕)
上は新幹線、下は鉄道が通る高架橋を南東へ渡るサトルと、ゴドムの蛇行跡や戦闘跡のある住宅地や工場群、修復された新幹線の高架を、東側から見る。
○同・同・十三本町・十三バイパス・上空(夕)
光線や戦闘の跡や解体作業が伺えるビル群の屋上辺りの高さで、東側を水平方向に見つつ、ドローンのように南進。
○同・同・同・商店街(夕)
アーケードの断絶部から雨が降る、人の気配のない商店街を、西から見る。
○同・同・十三本町から新北野・十三バイパス・上空(夕)
淀川の堤防手前まで、東側を見つつドローンのように南進。
○同・同・新北野・マンション・サトルの部屋・ベランダ(夕)
淀川と、光線や戦闘跡、解体作業が伺えるビル群に覗く、中之島のツインタワーの間で活動停止したゴドムを覆う白い遮蔽幕を、中層のサトルの部屋のベランダから望む。
○同・同・同・同・同・リビング(夕)
ベランダを背景に、とぼとぼとソファに向かうサトルの後ろ姿。
倒れるようにソファに横になり、目をつむるサトルを見下ろす。
○京都・舞鶴・o圏・礁(夜)
(坂本龍一「ZURE」)
雨の中、ドローンのように水蒸気を抜け、Tの幹と枝の境目辺りの高さで、T4・5の間からT1・6の間へ、神社へ向かうように飛ぶ。
○同・同・同・東吉原・神社・家・中(夜)
廃墟と化し、物が散乱する家の中を、ドローンのように奥へ飛びつつ俯瞰。
全身を覆うようにポンチョ状に変形した上のソを着たタウ、家の前に立ち、中を見る。
玄関の取次に捧げるように置かれた、内部の餡の紫色の光が伺える4つの華。
タウ、華をじっと見、拝殿へ向かう。
○同・同・同・同・同・拝殿・中(夜)
花瓶と一体化し、花瓶の底から四方八方に根を生やし、本体や根からも増殖している華の紫色の光でぼんやりと伺える内部は、長期間手つかずのようで、晦のない本殿が見える。
タウ、格子を覗き、摂社へ向かう。
○同・同・同・同・同(夜)
摂社の格子を覗き、左から振り返って南を見るタウと、手入れされている境内を、鳥居辺りから一望。
根元を礁の端に覆われた鳥居越しの、かつてあった建物の高低の名残のある丘状の礁。
○同・同・同・礁(夜)
ポンチョ状のソを着たリニェ、北東部の丘状の礁の谷間をTと賽に向かって歩くも立ち止まり、右から振り返る。
つむじ、華群を擦り抜けようとするも、華の腕に掴まり、逃げようとするも絡まれつつ引かれ、他の華たちの腕にも当たって全身を覆われていく。
(坂本龍一「ZURE」終わり)
○同・同・十倉―真倉監視所・空地(夜明け)
(吉松隆「朱鷺によせる哀歌」)
東側のドラム缶の焚火と、だんだん明るくなり、o圏の拡大による立入禁止を示す、北端から5m程手前に立ち並ぶ鉄杭と縄が見えてくる中、監視テントを出て、ドラム缶の南側に置かれた椅子に座り、枝や薪をくべるミズキを、南東側から俯瞰。
さっとSDカードらしきものを火にくべるのを、北西側から見る。
○同・同・上空(夜明け)
巻き上がる火の粉を見上げるミズキから、火の粉を追ってドローンのように上空へ向かい、佐武ヶ嶽の北西の山肌を覆うゴドム結晶群へ降下。
○(夢)同・同・o圏・倉谷(朝)
(吉松隆「朱鷺によせる哀歌」終わり)
佐武ヶ嶽の麓からゴドム結晶群を見上げていくと、草木がなく岩石や土砂ばかりの斜面を下りてくる牡鹿。
下りる鹿の足元を見ていると、空中へふわっと浮くように駆け上がっていく。
○同・同・同・礁(朝)
鹿、T1・6の間の、Tの形作る六角形より外側で、ゴドム結晶群が散見される舞鶴港・西港を背に、高さ5m超の空中で静止。
まっすぐこちらを見る鹿の顔。
紫色の「笑・蟹」と晦姿で立つリニェ、鹿と入れ替わるように空中で静止。
毅然とこちらを見下ろすリニェの目の奥から、上から青色、下から赤色の光が染み込むように放たれる。
ジュアの声「リニェ」
(夢終わり)
○同・同・同・同・上安久・みなと安久トンネル・南側出入口(朝)
ガラスが割れるような高音域の破裂音と共に炸裂する、トンネル内の戦車から放たれた結晶化弾で結晶化、粉砕され、空中へ撒き上がる骨や餡、つむじ、消滅する霊、開き散る華群。
○同・同・同・同・T5・莢・タウの寝室(朝)
ベッドで張と逆方向に体を向け、顔の右半分を埋める「鱗・蟹・笑」のないソ姿のタウ、炸裂音で飛び起きる。
oの活性化により青く光る餡。
○同・同・同・同(朝)
T5の洞から駆け出て、つむじ・霊・華の姿のない礁を見渡すタウ、南側に何かを見つける。
タウ、四方八方から戦車と歩兵で賽へ進攻する防衛隊の、南から来る陸上部隊を見つめるウワの後ろ姿に近づく。
南から来る戦車の1台から結晶化弾が放たれ、反射的にウワがタウに覆いかぶさると、賽の東側の上部に直撃し穴を開け、骨伝導のように骨を通して礁に響き渡る高音を含むサイレンのような低音を主としたCの叫び。
叫びはTを活性化させ、全枝の螺旋がほどけて、枝ごとに糸状の触手「V」を先端から1本、左右から4本ずつ、計9本を樹枝状に展開し、見た目はサガリバナに似た攻撃形態「Y」に変態。
ウワとタウ、起き上がり、賽の方向に何かを見つける。
微粒子結晶が降る中、紫色の「笑・蟹」と晦をつけたリニェ、周囲に目もくれず、開いていく賽の弁へ。
ウワの右手、リニェのもとへ向かおうとするタウの右腕を掴み引き止める。
目を合わせる2人、何かを了解し合ったのか、手を離すウワと駆け出すタウ。
(坂本龍一「Happy End」)
人気のない礁を進む南からの陸上部隊の戦車から賽へ続々放たれる結晶化弾。
YのVからの網状の放電「放電網」に迎撃され空中で炸裂する結晶化弾。
タウ、頭上から放電網や衝撃、降下する微粒子結晶に晒され、足止めをくいながらも防御姿勢をとりつつひた走るが、放電で軌道が狂った結晶化弾が礁に着弾し、吹き飛ばされる。
タウ、弁から賽に入るリニェを見、立ち上がり、走り出す。
全方向から賽へ結晶化弾とレーザーが放たれるが、全て放電網により無効化。
溝を飛び越え、閉まりかけている弁に右半身を下に頭から飛び込み、腰辺りでつかえるタウの視点から見る。
○同・同・同・同・賽・中(朝)
晦とソの大量の肢を天井に放って繋ぎ、ワイヤーアクションのように放物線状に賽の弁から主柱の弁の目の前に舞い降りるリニェと、穴付近で迎撃され炸裂する結晶化弾をタウの視点から見る。
○同・同・上空(朝)
西から愛宕山を越えてo圏に進攻する戦闘ヘリ群、他ヘリ群と放電網を囲み、結晶化ミサイルやレーザーを賽へ放つ。
○同・同・o圏・礁・賽・中(朝)
弁から主柱内にリニェが入ると、天井の穴から放電でコントロールを失ったミサイルが入り込み、螺を貫通し、柱穴の水面に着弾して炸裂し、撒き散らされた結晶が螺に数多の穴を開け、大量の微粒子結晶が空間内を漂う中、結晶化の影響を受けてぼろぼろと螺が崩れ始め、主柱の弁も閉じ始めるのを、天井の南東辺りから俯瞰。
柱穴の水中に魚の姿は見られない。
タウ、抜け出そうと弁に両手を押し当てるもびくともしないため、両腕を水平方向に伸ばし、ソの袖口から複数の肢を放射状に周囲の壁に放って繋ぎ、結晶化の影響で切れた数本を繋ぎ直しつつ体を引き抜く体勢を整える。
崩落しつつある螺に、肢を引き戻す力で体を引き抜き、両足で着地すると肢が切れ、綱渡り状態で駆けて踏み外すが、左腕のソから肢を放って輪状にし、ジップラインのように主柱へ下り、右腕のソから肢を弁の周囲に放って繋ぎ、引き戻す力で右半身を下に頭から弁に飛び込むタウの視点から見る。
じたばたしつつ何とか主柱内にタウが入り、閉じていく弁を、天井の南東辺りから俯瞰。
(坂本龍一「Happy End」終わり)
○同・同・同・同(朝)
動き出す放電網。
ヘリ群、放電や伸縮するVに絡みつかれ、回避行動をとるも次々撃墜される。
舞鶴港・西港に入る艦艇も伺える。
○同・同・同・舞鶴港・西港・海上(朝)
上空を複数の戦闘機が飛ぶ中、艦艇や内陸から放たれる結晶化ミサイル。
○同・同・同・旧十倉―真倉監視所・上空(朝)
ミサイルと戦闘機から投下される結晶化爆弾が賽へ接近すると、イカの触腕のような青白く光る触手「X」が賽からすり抜けるように、螺旋がほどけるように飛び出して全て掴み、陸上部隊と艦艇へ投げつける。
○同・同・同・礁(朝)
次々と炸裂し、微粒子結晶と共に弾き飛ばされるアユム含めた陸上部隊。
○同・同・同・舞鶴港・西港・海上(朝)
結晶化爆弾の大爆発で損傷する艦艇。
○同・同・同・礁(朝)
骨格がゴツゴツと移動しつつ賽の頂上部を擦り抜けるように南を向いてうずくまった状態からまっすぐに立ち上がる、全長140mの人型の中心体「R」と、頭にあたる浮の突起に、青色に戻る餡と共に螺旋状に縮み収納されるXを、賽の周囲を北から反時計回りに南へ螺旋状に上昇しつつ半周して見る。
木の根のように数多の触手が集合した手に、四肢や胴は筒のような外形で、Pに比べがっしりとしたR。
Rに結晶化弾やレーザーを放ちつつ陸上部隊が後退し始めると、舞鶴港・西港の海底から轟音と共に出芽したYがVで艦艇を底からくるみつつ空中へ持ち上げ、丘状の周縁の礁から擦り抜けるようにPの大群が立ち上がり、Yが根元から倒れるように陸上部隊へ曲がり、放電するVで覆いかぶさる。
P群、陸上部隊に向かって歩き、結晶化弾やレーザー、発射された結晶化手榴弾を受けたり無効化したりしつつ、両腕から放電を浴びせる。
全速力でP群を擦り抜けんとする戦車、賽から浮上するように飛び出るテトラポッド状の骨の3本の脚に挟まれて投げ上げられ、放電する骨の脚の間にとらわれたまま、裏返った状態で浮遊。
防衛隊員C・D、戦車から脱出。
P群にレーザーを放ちつつ包囲を抜けんとするが、防衛隊員Cは礁からの肢が蔓のように左足に巻きつき倒れ、防衛隊員DはCを助けんとするも肢が鞭のように銃に巻きついて引張り礁に貼りつき、ナイフで肢を切って取り戻そうとするも、2人共全身を肢に覆われて動けなくなり、Pの放電の餌食に。
放電で意識を失った防衛隊員ら、礁の餡に沈むように吸い込まれていく。
R、主柱上に直立していると気配を感じ、南東に頭を向ける。
○同・同・同・佐武ヶ嶽(朝)
ジェットエンジンのような甲高い回転音を高めつつ結晶化エネルギーを白光の粒子「結晶化粒」にして連続放出し、放電するライフリングに沿って櫛状に分かれた棘状のノズルスカートの部分で発射方向を軸に各々回転しつつ留まる粒子群が伺える、巨大兵器「L」のU膜に覆われた結晶化砲のロケットエンジンのノズル状の金色の砲口。
○同・同・同・上空(朝)
結晶化粒、大気を結晶化しつつ空間を歪めるような高音と共にRの浮へ放たれ、YのV群に大穴を開けるも、放電で軌道をそらされ、Rも浮から腰辺りまで右半身側に円状に体を曲げてギリギリ避けられ、艦艇を持ち上げているYの幹に吸い寄せられるように直撃。
○同・同・同・舞鶴港・西港・海上(朝)
結晶化粒がY内の端々まで螺旋状に駆け回り、破裂するように粉砕されるYと、轟音と共に海上に落下する艦艇。
○同・同・同・佐武ヶ嶽(朝)
松ぼっくり状の装甲を施したロケットのようで、縦長に切り取ったゴドムの腹板を、仏塔の九輪に瓦を鱗状に交互に挿し込んだような装甲の隙間から大量の蒸気と微粒子結晶を瞬間的に放出する、Lの第一脚にあたる右腕である長さ70mの、金属部分は金色で、U膜に覆われている結晶化砲。
○同・同・同・上空(朝)
空間が歪んだように曲がった体を、時を戻すように戻すRと、再生し始めるYのV群と、礁に戻っていくP群と、蒸気と微粒子結晶が漂う佐武ヶ嶽山頂からゴドム結晶群に覆われた北西斜面へ滑降するLを俯瞰。
○同・同・同・佐武ヶ嶽(朝)
U膜に覆われたゴドムの殻でできた達磨状の体に、ミナミコメツキガニの脚のような8本の揚、体の真横についた第一脚の右腕に結晶化砲、左腕にゴドムの第一脚の鋏、へそと腰辺りにゴドムの触覚の先端部が各2本、頭部辺りには黒漆塗桃形大水牛脇立兜のような、孔にゴドムの触覚の先端部が差し込まれたムカデの曳航肢にあたる揚を用いた1対の角のある、高さ70mのL、結晶化粒を生成しつつ、佐武ヶ嶽の北西斜面をへそと腰の触覚で確認しながらゴドム結晶群を轢き潰しつつ滑降。
○同・同・同・同・L・中(朝)
餡に相当する緑色に光る物質「膠」に満ちたL内を浮遊する、3つの輪でできたジンバル「案」の中心で、スキーの滑降に似た姿勢をした、ポニーテールにまとめられた髪と、幾何学的で手足も包むつなぎ状の、肌に食い込むように貼りつく黒い服「革」のトゲトゲとした波状の装飾とを、Lの全体内に案を通して繋ぐ黒い繊維「鰓」が伺える、目の奥から緑色の光を放つミズキ、跳ぶように脚に力を込める。
案の輪は縄状になわれた鰓で、革もまた鰓でできており、動いたり伸びたりすると、鰓内を静電気のような淡い白光が流れる。
○同・同・同・同(朝)
L、第二~五脚の脚力と孔からの瞬間的なガス噴射で跳び、V群を越えんとする。
○同・同・同・礁(朝)
L、V群に対し左腕の鋏を盾にしつつ、今にも放たんとする結晶化砲の砲口をRの浮の間近に突きつける。
○同・同・同・同・L・中(朝)
ミズキ、右拳を突きつける。
○同・同・同・同(朝)
R、破裂するように浮の全突起からXを結晶化砲へ放つ。
○同・同・同・同・L・中(朝)
ミズキ、突然強い力で右腕を右へ曲げられ、歯を食いしばる。
○同・同・同・同(朝)
Xに絡みつかれ北西へ向けられる結晶化砲、五老岳の上安久辺りの斜面へ結晶化粒を放つ。
○同・同・同・上安久(朝)
結晶化粒、五老岳の尾根の山肌からその芯まで無色透明に結晶化させる。
○同・同・同・礁(朝)
Lの鋏、結晶化砲に絡むXを切ろうとするが、Rの右手に絡みつかれる。
R、円盤投げのように右足を軸に反時計回りに回転し、左足を軽く上げて結晶化した五老岳の尾根へLを投げる。
カヌレの上のような、賽の上部の窪みに立つR、力を抜いて左足を窪みに下ろすと、賽の盛り上がりがそのまま波紋のように礁全体に広がり、波の通ったあとから深めなパラボラアンテナ状に礁を変形させる。
L、ダンゴムシのように体を丸めたまま礁に着地し、うねりに押されて戦車等を轢き潰しつつ礁の外へと転がり出される瞬間、礁の端を鋏で挟む。
Lの第一脚の関節は回転でき、結晶化砲と鋏を礁と平行を保ちつつ転がる。
○同・同・同・上安久(朝)
L、左腕の全関節を外し、全体内を繋ぐ鰓を伸ばして勢いを落とし、結晶化した山肌にぶつかる寸前で止まる。
結晶化した部分が破裂するように崩壊し、軽い山体崩壊のような大規模な土砂崩れに。
L、振り子の反動で礁にぶつかりかけるが第二~五脚からガスを噴射し勢いを削ぎ、鰓を縮めて土砂崩れを避ける。
関節を外したままの左腕や、損傷部から膠が漏れて滴り落ちる中、微粒子結晶と土煙に包まれる宙ぶらりんのL。
体表には貼りついたVの断片が散見。
○同・同・同・同・L・中(朝)
ミズキ、T字状の結晶化砲の縦線にあたる右腕の挿入部の先端にある、エネルギーの円グラフを映す円状の画面を見る。
中心から3分割され、消費されると黒く、残りは赤く表示され、既に上から反時計回りに3分の2手前まで消費され、脈打つように徐々に消費される中、結晶化砲から蒸気と微粒子結晶が放出され、間を置くと、表示が赤から緑になり、鰓が急速に縮まる音が伺える。
○同・同・同・礁(朝)
L、縮む鰓と第二~五脚からのガスの勢いで、蒸気と微粒子結晶と土煙の中から振り払うように飛び出ると共に、結晶化粒の充填を開始。
L、体を丸めて礁を転がり、Yに近づくと第二~五脚からガスを持続的に噴射して賽表面ギリギリを滑空し、鋏を盾としてV群を突破し、ガスで左腕の関節を外して鋏を放ち、Rの浮からLへ放たれるXを開かれた鋏の孔から多数の鰓を放ってXを絡め取り、鋏で挟んで鋏を盾としつつ退け、発射直前の結晶化砲のノズルスカートを、浮の突起の一部を結晶化し粉砕しつつRの首元に突き刺すと同時に、角で挟むように浮に突き刺して固定。
○同・同・同・同・L・中(朝)
ミズキ、食いしばりつつニヤリと口角を上げる。
○同・同・同・同(朝)
リニェ、結晶化粒の白光に照らされながら、R内の首元から、青い光を目から放ちつつLを見る。
○同・同・同・同・L・中(朝)
ミズキ、リニェに気づき一瞬力を抜く。
○同・同・同・同(朝)
Rの右手の触手の端が関節の外れた左腕の断面に覗く膠に触れかけると、静電気のように通電し、膠が青白く発光。
○同・同・同・同・L・中(朝)
青白く光る膠を通じ、左腕から全身へ通電。
ミズキ「(通電し苦悶の体勢で)グッ……!」
3分の1を切り始めた円グラフが赤になり、結晶化砲から逆回転音。
○同・同・同・同(朝)
時が戻るように結晶化粒が結晶化砲へ戻ると、Rの左手の触手が結晶化砲の穴や隙間に侵入し、覆いつくすと、結晶化砲から染みるようにエネルギーを吸収して青から青白く光り出す餡。
Rの右手の触手群、Lの左腕の外れた関節から内部へ侵入。
○同・同・同・同・L・中(朝)
Rの青い餡と鱗が侵入し、混じり濁った水色に変色する膠と、鋏側から黒いカバーが剥がれるように肢化する鰓。
感電し、意識が朦朧としたミズキの周囲の膠も水色に変色し、肌に付着し始める鱗と8割程上下にずれた「笑」。
○同・同・同・同(朝)
肢化する鰓がほどけ、Xは開いていく鋏から浮の突起内へ戻り、角とノズルスカートを擦り抜けるように外し、Lを見下ろすRの浮、左手側から青白い光が浮全体に染み、強烈に青白く発光。
○同・同・同・上空(朝)
浮からじわっと青白い光が礁全体に広がり、下半身を賽と一体化させたRを頂点に、脱力状態のLと両手を接続したまま急速に上へ伸び、引き寄せられるように周縁部とY群より外側が一体化して礁全体がすぼみ、水滴が落ちて円錐状に盛り上がる水面のような形の、高さ約1400mの塔「A」へ変態。
○同・同・同(朝)
全枝をすぼめ上へ向けた状態で、Aの周囲の地中から生え、開花するように枝を広げ、二重螺旋をほどき、Vを展開し青く光るY群を、南から見る。
○同・同・同・真倉・京田下近線・旧十倉―真倉監視所ゲート前(朝)
日に照らされる白い雲を映す、水の溜まった路面の穴から突如生え、谷に沿って南へと連続で生えてくるY群。
○同・上空(朝)
巨大な花のようにAを中心に谷沿いに放射状に生えるY群を、南から俯瞰。
変態の止まったAの基本色は紫だが、頂上のRの浮は青白く、上程青っぽく、下程赤っぽく、Y群は青く光る。
○新大阪駅・27番のりば(朝)
椅子に座るサトル、手元を見つめる。
自動放送の声「東京行きが到着いたします」
サトルの両手の中の青いガラスの指輪。
自動放送の声「黄色い点字ブロックの内側までお下がり――」
サトルの両手、遠くからのサイレンに反射的に指輪を守るように握りしめる。
サトル、青白く光るA頂上のRの浮が伺える、ホーム北側にある背後のガラス窓へ振り返る。
防衛隊の輸送機の飛行音。
○関西・上空(朝)
防衛隊の輸送機、東から舞鶴へ飛ぶ。
○同・同・輸送機・中(朝)
輸送機に載せられた、ナイキ・ハーキュリーズの上部に似た、白のカラーリングに、黒字の「CoRAL」が伺える、大規模結晶化爆弾「CoRAL」。
○(無音のイメージ)京都・上空
舞鶴全域から大規模噴火のように大量に立ち上る微粒子結晶を、南から見る。
○同・舞鶴・o圏
白光の波から逃れんとする数百人の人影の中の1人、他が粉々に吹き飛ぶ中、口を大きく開いた後に粉砕される。
(無音のイメージ終わり)
○同・同・同・A・L・中(朝)
革、肢化し、8割程上下にずれた「蟹」が現れ始める。
左半身から肢化が進み、左目の緑色の光が染み入るように水色に変わり、一層意識が遠のき始めるミズキの左横顔、
ジュアの声「(同じ言葉を口にする様々な人々の声も背景に混ざった状態で、頭の中から聞こえる)カギュ」
幾度か通電してひきつるかのように快を浮かべる。
○(幻想)幕
白光の中へ進む、晦と、青い光を放つ目、紫色の「笑・蟹」が伺える、輿の台に乗るリニェの右横顔。
○同・檻
格子越しに見る白光の中へ進む輿と、両手で格子を掴んだまま滑らせつつ、床に座り込むタウ。
格子からも手を放し、床にへたり込んだままうなだれる後ろ姿のタウ、背後からの風に髪がなびき、左から振り返ると、格子と反対方向からの光を見、惹かれるように立ち、光と風に向かって徐々に速度を上げて夢中で走り出す。
○京都・舞鶴・o圏・下安久・嶺(夕)
タウ、足元が夕日に照らされる嶺に到達し、立ち止まる。
逆光で黒いシルエットに見える「鱗・蟹・笑」のないソ姿のリニェ(5)とタウ(5)、夕日が照らす舞鶴湾を背景に、oの骨の破片に覆われた波打ち際で走り回る。
タウ(14)、北側で遊ぶ2人から、北西へ目を向ける。
山の向こうから伺える、結晶泡壊により燃え上がる由良川河口付近の青い光と、舞い上がる微粒子状のゴドム結晶。
嶺の西端から南北方向を境に、東側は夕方、西側は夜で、上空の境は階調的。
タウ、東側に目を向ける。
嶺の中央から西側は夕方で、東側は日没間もない夜かつo出現以前の海辺が広がる。
東側の海辺の中央部に打ち上げられた、水晶のように透明な材質で、ネコザメのドリル状の卵を細長くし、両端とも尖らせたような形状の外殻と、その中心の内部に各々繋がり網目を形作る数多の白光の粒子が揺らめく球状の青い餡のある、ぼんやりと青白く光るoの核「玄」と、京都府道565号を北進し海辺の東端で立ち止まり、由良川河口の光を見、玄に気が付く辰。
タウ、玄と辰に釘付けになるが、東側から歩み寄ってくるジュアの足音に気付き、目を向ける。
東側の夕方と夜の境で立ち止まる、頭を覆う浮が徐々に退きつつあるジュアと、玄に恐る恐る近づいていく辰。
波打ち際で向かい合った状態で立ち、顔だけタウ(14)に向ける、東側のリニェ(5)と西側のタウ(5)。
タウ(14)、ジュアと向き合い、静かに目を閉じる。
タウの声「(頭の中から聞こえる)ジュア」
衝撃波のような結晶泡壊、西側のタウの背後から東へ通過。
夜の西側は海上の艦艇含め結晶泡壊を被るが、夕方の礁より東側は突風と共に強い西風が吹き始めたように見える。
ジュアの頭を覆う浮、結晶泡壊により結晶化され、青く炎上しつつ東側の夜空へ吹き飛ばされる。
ペラペラと西風に吹かれ、「鱗・蟹・笑」が吹き消されていく、幕に映る像であるソ姿のジュア、優しい微笑みのまま涙を流し、目の奥からの紫色の光が消えていくと共に眠るように目を閉じると、西風で幕ごと東側の夜空へ吹き飛ばされる。
幕は東側の夜空と同化し、溶け込む。
目を閉じたままのタウ、西風が止むと目を開き、前を真っすぐに見る。
タウの右足、前へ踏み出す。
○同・同・下安久(夜)
波打ち際に打ち上げられた玄と、玄に近づく辰の足音。
辰、立ち止まり、足元の玄を慎重に拾い上げて暫く見つめると、突如玄を両手に抱えて京都府道565号へ走る。
タウ、夜の海辺の西端で様子を伺うも、辰を追うように東へ走り出す。
○同・同・同・京都府道565号(夜)
住民は避難し、停電した道を南下する辰と、一定の距離をおいて追うタウ。
タウ、発電所の爆発を受け、舞鶴港・西港を一望する高まりで止まる。
結晶泡壊が匂崎公園以北を通過後、発電所の火柱から、西港と東進するゴドム、立ち止まるタウと辰を見る。
ゴドムを見、すぐに南へ走り出す辰と追うタウ。
○同・同・東吉原・神社(夜)
565号を西へ、南の鳥居の先に続く、人気のない停電した住宅街の道へ曲がり南進する辰とタウを、境内から見る。
○同・同・同(夜)
十字路で東へ曲がり、坂を上る辰と、十字路へ走るタウ。
タウ、十字路に至り、家屋から覗く、第一脚を左右へ開き、補脚の先端を振動させつつ青くぼんやり光らせたまま進攻するゴドムの頭部を確認し、東進。
タウ、小学校へ坂を上る。
○同・同・同・小学校・屋上(夜)
屋上まで続く階段に通じる開いたままの扉から響いてくる足音の後、屋上に至るタウ、西端から放たれる強烈な青白い光で、反射的に防御姿勢に。
屋上の西端に立ち、ゴドムに向かって示すように、青白い光を放つ玄を右手で掲げる辰の後ろ姿。
玄内から外殻を通りぬけるように触手状の青白い餡が二重螺旋を描きつつ辰の右腕を覆うと、右手から輪郭がはっきりし、漆黒に光の斑点のある宇宙のような肌を見せ始めると共にゆっくりと振り返り、顔の輪郭がはっきりしかけると、強烈な青白い光で隠される。
リニェとミズキの声「(頭の中から聞こえる)タウ」
(幻想終わり)
○同・同・o圏・A・R・中
「蟹・笑」が紫色で、餡内にソの数多の肢を四方八方に伸ばした状態のタウ、浮を見上げたままハッと目覚める。
首元辺りで目から青い光を放ちつつタウを見下ろし、ソの肢を内壁に繋げて縮める力で浮へ侵入し、左手で晦を外す、右手に古を持つリニェと、浮の中心に浮かぶ玄を、リニェ同様肢の力で浮へ浮上するタウの視点から見る。
○同・同・同・同・同・浮・中
晦、玄の浮く中心に向かって数多の突起を生やしたような形の内壁に肢を繋げつつ移動し、角で玄を引っ掛け、常にリニェの向かい側に位置。
玄は浮と重なる中心点から動かせない。
リニェ、古の柄の肢と右腕のソを一体化させ、肢の力で槍のように古で玄を突く。
古から玄にかかる力は紫色の電気に変換されて放電され、傷一つつかない。
リニェのソの肢が放電を受け、黒く焦げて灰になりつつ内壁へ流しガード。
タウ、弾き返されても再度突き刺そうとするリニェのもとに辿り着く。
タウの左腕のソと柄を一体化させ、リニェの右手と指を絡ませるように繋ぎ、共に古で玄を突く。
放電は激しくなるも刺さらず、柄を覆うように黒く焦げた肢の灰が凝集し始め、宇宙のような肌の辰の両手を形成し、タウとリニェの両手を包むと、古は抵抗なくすっと玄に飲み込まれる。
古を溶かしつつ飲み込む玄の餡、青から紫がかった白光となり、強烈に発光。
○同・同・同・同・裾野・中
額に十字状の古傷のあるアユム、結晶化兵器で体の方々を負傷し、包帯等の応急処置を受けて仰向けに寝そべり、何かを握る右手を胸元に置き、天井を見、右へ目を向ける。
Aの根元近くの裾野内の平たい大福状の空間に、防衛隊員の集まりと、一定の距離をおいて、壁のように横長に集まって床に座る朋と、朋に守られるように集まって床に座る住民らに、天井を透過して降り注ぎ始める浮の光。
浮の光に反応し一斉に見上げる朋らと共にウワも見上げると、朋らの体がふわっと軽く浮き、強力な磁力に引きつけられる砂鉄を含んだスライムのように内壁の四方八方にへばりつき、o化し一体化していく。
アユムの真上の天井にへばりつく朋、アユムと目が合ったまま快を浮かべつつ、o化し一体化していく。
アユム、目を見開き右手に力を込める。
アユムの右手の中の結晶化手榴弾。
アユムの左側に座る防衛隊員C・D、アユムに近づき腰を下ろすウワに反射的に拳銃を向けるCと身をすくめるD。
座るウワ、震えながら拳銃を向ける防衛隊員Cの目をまっすぐ見る。
アユム、防衛隊員Dに目で合図。
防衛隊員D、おもわず目を反らす防衛隊員Cの目を覗き、拳銃を下ろさせる。
手榴弾を固く握っていたアユムの右手、手榴弾を防衛隊員Dに渡し、観念したように床におろすと、ウワの両手に優しく包まれる。
○(幻想)同上
アユムの妻と両親、「鱗・蟹・笑」のないソ姿でアユムを見下ろす。
ウワの位置に妻、防衛隊員C・Dの位置に両親がいる。
ウワの声「(頭の中から聞こえる)アユム」
(幻想終わり)
○同上
アユム、眠るように目を閉じる。
アユムの右手をぎゅっと握るウワの両手を覆うように裾から伸びる数多の肢。
○(幻想)暗黒
タウ、目を開けると、背後からの風と浮の光と、その周囲の暗闇に包まれ、手を繋いだ状態のタウとリニェが闇に浮かぶような状況で、背後の闇から現れた辰の両腕が両者の首元に巻きつく。
タウとリニェに触れた部分から、漆黒から宇宙のように変化する辰の肌。
タウ、タウの左頬に右頬を寄せ、離れる辰を見上げるように左から振り返る。
宇宙のように変化する辰の肌が映るタウの目から、神経細胞、核、DNA、分子、原子、原子核、素粒子、弦に辿り着くと、弦が紫色に染まり、赤と青に分離して重なり合いつつ振動し、紫色に染まった神経細胞まで戻ると、青い電気が走る。
○京都・舞鶴・東吉原・小学校・屋上(夜)
玄から触手状の青白い餡が二重螺旋を描きつつ右腕を覆うと、右手から輪郭がはっきりし、宇宙のような肌を見せ始めると共にゆっくりと振り返り、顔の輪郭もはっきりし、額には白毫のように十字状の星に似た光が輝き、目と口の奥まで満ちた青白い餡が伺え、無邪気に微笑むと、戦闘機の投下する爆弾を迎撃するゴドムの光線が頭上をかすめ、停電による満天の星の中を降下するダイヤモンドダストのように輝く微粒子状のゴドム結晶を仰ぐと、星空の一部と化していた辰の顔の目が開き、東側からタウを見下ろす。
辰の脚に頭を預けて寝そべる、「鱗・蟹・笑」のないソ姿のタウ(5)、応えるように微笑む。
辰の目から覗く青白い餡、表面に赤が下から染みて紫に変わると、溶けるように涙となって流れ落ち、餡に触れた肌は赤黒くただれるように溶けだすと、表面が紫色の触手が紫色の放電をしつつ頭部の肌を溶かしてメデューサのように生え、肌に触れていない部分から各々繋がり網目を形作る数多の白光の粒子を含んだ不自然な程に深く青い餡に変わり、筒状から球状、球状からウチワサボテンが生えるように球状のまま分裂・増殖し、上下反転したAを形作るように天へ放射状に伸びる触手。
○暗黒
天へ伸びる触手から、Aに酷似した、上ほど青白く、下ほど赤黒く、中程は紫に光る、闇の底まで続く「A*」へ目を移す。
A*の外壁は、貼りつくようにぶら下がる首元からo化した数多の人々によって形成され、下ほどo化が進む。
見上げていくと、目から青い光を放ち、首元を覆う触手状の青い餡と、首から神経と一体化し体外に網目状に溢れ出る餡が伺える頂上付近のタウ(14)とリニェ。
タウとリニェ含め「蟹・笑」は紫色。
A*頂上の、辰の肌を前面にかぶったR、輸送機の音に気づき、南から東へ顔を向けると、タウの右手がRの右頬へ伸ばされていくのに気づく。
意識が朦朧とするタウ、餡から染みるようにo化し、体の自由が奪われていく中、快を浮かべる顔を上げ、目の奥から、上から青色、下から赤色の光が染み込むように放ちつつ、辰の右頬へ右手を伸ばす。
× × ×
(フラッシュ)
小学校の屋上で辰の脚に頭を預けて寝そべる「鱗・蟹・笑」のないソ姿のタウ(5)、快に酷似した表情で辰の右頬へ右手を必死に伸ばす。
× × ×
タウ(14)の右手、辰の右頬に触れかける。
白光と共に結晶化体を放つ艦艇のレールガンの砲口。
空気を切り裂く高音と共に、レールガンからの白光を帯びた結晶化体が透明になっていたY群の放電網を受けつつも中程に着弾し、着弾点から白光と共に放射状に結晶化し貫通されるA*。
(幻想終わり)
○京都・舞鶴・o圏・A・上空
R、輸送機の音の中、艦艇を見下ろす。
○同・同・同・舞鶴港・西港・海上
艦艇から避難する海上防衛隊員らと、艦艇のレールガンを覆い、砲塔と砲身の位置を調整するアメーバ状のLの膠の分離体、膠を電気変換して徐々に小さくなりつつレールガンを充電。
ALoの声「目標浮、上35」
○同・同・同・A・上空
充電が極限に達して放たれ、放電網を受けつつRの額から頭頂部を割るように貫通する結晶化体と、衝撃でのけぞるRと、上空で大きく旋回する輸送機。
○同・同・同・同・裾野・中
無数の肢が漂う紫色の餡の中のアユム、結晶化体の貫通音で目覚め、目の硝子体の上部から青い光をぼんやり放つ。
1本1本意思を持つ触手のように動くウワのソの肢群と、肢の先端から光ファイバーのように放たれる、中心から外へ青・紫・赤色の光を受け、それらの光を帯びるアユムの数々の傷。
アユムの寝る部分だけ床が凹み、全身餡に浸かったアユムと、肢を餡に浸けるウワと、覗き込む防衛隊員C・Dを見下ろしていると、地鳴りのような低音と振動に気づくウワとC・D。
○同・同・同・舞鶴港・西港・海上
レールガンの充電が極限になる直前、地鳴りのような低音と共に、蛸の足が伸びるように北側の海底から起き上がる、根元に近い程紫がかった赤い光を餡から放つ、海面上の長さ約500mのoの骨と餡で構築された触手「尾」が倒木のように南へ倒れ、真っ二つに艦艇が折られると同時に放たれる結晶化体、放電網を受け東側に軌道が逸れ、Aの根元近くの裾野を削るように着弾。
○同・同・同・A・裾野・中
結晶化体に削られ穴が開く住民側の壁と、その衝撃で反射的に身構える住民と防衛隊員ら。
防御姿勢から左へ振り返って穴を見、防衛隊員側を見るウワの目に映る、目を青く光らせて起き上がるアユム。
アユム、回復して上半身を起こした状態でウワの目を見、目の奥からの青い光が消えていくと、小さく頷く。
○同・同・同・同・L・中
目覚めるように、「鱗・笑」に覆われていない、緑色の光を放つ右目を開けるミズキの右横顔。
○同・同・同・同
ゆっくりと起き上がり、結晶化した額から頭頂部を修復中のRの浮の外殻越しに伺える、宇宙のように深い青と白の光を放つ玄と、意識が朦朧とした状態で手を繋ぐタウとリニェ。
○同・同・同・同・R・浮・中
宇宙のように輝く玄の餡、古に突き刺されて開いた十字状の外殻の穴から外へ風船のように膨張し、タウとリニェを飲み込まんとする。
○同・同・同・同・L・中
首を左へ軽く傾けるミズキの右横顔。
○同・同・同・同
Lの右角、だらんとした状態から勢いよく起き上がり浮に突き刺さる。
○同・同・同・同・R・浮・中
Lの右角の触覚、玄の餡に飲み込まれかけるタウとリニェを触覚で絡み取り、浮から引き抜く。
○同・同・同・同
Lの右角、触覚を分離しつつ放り投げ、取り戻そうと浮から放たれるXを孔から多数の鰓を放って絡めとる。
Lの右角の触覚、根元から放出した鰓を骨、膠を傘としてパラシュートを形成し、舞鶴市西辺りへ降下。
○同・同・同・同・L・中
鱗に覆われかけたミズキの右手、震えつつ力を込め、パッと開く。
逆回転と共に円状の画面が中心から放射状に割けて結晶化砲側に倒れ、膠を吸い込んでいくジェットエンジンのようなブレードと、内部で生成される粒子群の白光が伺える。
緑色の光を放つ右目以外は「肉」姿のミズキ、左目から水色の光を放ちつつ優しく微笑み、
ミズキの声「(頭の中から聞こえる)さいなら」
腰のナイフに右手をかけ、抜くと共にポニーテールを断つと、ミズキの髪と繋がっていた鰓からLの後頭部の節へ白光が届き、人が通れる隙間があく。
一番内側の案の内部に格納されていたガス噴射式脱出装具を、鰓が革側へ縮むと共にミズキに装着させ、前後2つ計4つの噴射口からガスを噴射し、ロケットのように隙間からLを脱出。
○同・同・上空
結晶化砲、ミズキの脱出後、膠と餡を吸収され急速に縮むLの外殻や砲本体をも結晶化させつつ、接続されたoに結晶化粒を流し込む。
○同・同・o圏・A・上空
(坂本龍一「andata」以外無音)
R、結晶化粒を流し込まれてのけ反り、粒子群が体内を螺旋状に駆け回り、Lと両腕を皮切りに体の諸部分が破裂するように粉砕され、絶叫するようにXを全方向に限界まで伸ばす。
○同・同・同・同・R・浮・中
浮内を覆いつくすように膨張した玄の餡も抗体のように粒子群に覆われ、白光と共に破裂。
○同・同・同
上空で輸送機が大きく旋回する中、内部を螺旋状に粒子群が駆け回って結晶化され、Xを伸ばした浮と共にRが破裂すると、下へ向かって諸部分が破裂していき、崩壊するA。
Aの塊群、裾野に崩落し共に粉砕。
崩落するAから双方共に肩を貸したりしつつ逃げる住民と防衛隊員らを、微粒子結晶の煙が覆っていく。
絶叫するように全方向に限界までVを伸ばす谷沿いのY群、Aから周縁へ内部を螺旋状に駆け回る粒子群に結晶化され、くずおれるように次々と崩壊。
○同・上空
巨大な花のようなAと谷沿いのY群の崩壊と微粒子結晶の煙を、南から俯瞰。
○新大阪駅・27番のりば
窓越しに白光と共に崩れるAが目に映る、あっけにとられた左横顔のサトル、即座に乗客群がる窓辺から離れる。
○大阪・北区・中之島
頭部をもたげた状態で解体され、頭部や揚の大部分が無い、白い遮蔽幕の中のゴドム、U以外結晶化され、大量の微粒子結晶と化した内部組織を断面や節から滝のように放出。
○同・淀川区・新北野・マンション・サトルの部屋・ベランダ
淀川と、中之島のツインタワーの間で遮蔽幕と共に崩れるゴドムを一望。
○京都・舞鶴・西
もやのように舞う微粒子結晶が徐々に晴れる中、微粒子結晶が降り積もった状態で横たわる、Lの触覚と、触覚から離れてうつぶせのタウとリニェ。
(坂本龍一「andata」終わり)
タウ、遠ざかる輸送機の飛行音の中で目覚め、「鱗・蟹・笑」が微粒子結晶となって剥落する中、南側に餡からぼんやりと青白い光を放つ玄を見つけ、四つん這いで近づく。
タウの右手、外殻から餡へじわじわと結晶化され、水音に似た弱りきった声を放つ玄に誘われ、おもわず触れんとするもギリギリで止まる。
タウ、ためらいつつも東側のリニェへ顔を向ける。
リニェ、タウの目をまっすぐ見つめる。
玄、結晶化され、跡形もなく崩れる。
ALoの声「生存、2。生存、2……」
と、Lの触覚から繰り返し聞こえると共に、遠くからの捜索隊や報道関係者等の人々の声が混ざり合う中、北を向いて立ち上がるリニェを、西から見る。
もやがより晴れ、光を反射する西港の海面を背景に、ダイヤモンドダストのような微粒子結晶の中、北向きの斜面を下りていくリニェと、どこか名残惜しそうに、ためらいつつも後を追うタウを、南から見る。
白光に包まれ明転。
(了)
参考資料
佐藤安紀編『ミルシル61号』国立科学博物館、2018年1月。
武村政春『細胞とはなんだろう 「生命が宿る最小単位」のからくり』講談社ブルーバックス、2020年。
藤野公之編『ミルシル45号』国立科学博物館、2015年5月。
本川逹雄『サンゴ礁の生物たち』中公新書、1985年。
本川逹雄『ウニはすごい バッタもすごい』中公新書、2017年。
本川逹雄『生きものは円柱形』NHK出版新書、2018年。
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