○木々
木々が揺れ、舞う雪。
○山の中
猟師の格好をした中森直哉(42)。
猪に逃げられる。
杉田洋介(42)からメール。
直哉「洋介? 洋介かよ、懐かしいな」
○広場
大分積もって来ている。
直哉、車にチェーンをつける。
走り出すと溝のような穴がある。
避けるとチェーンが切れる。
○山道
直哉、雪道を歩く。
車を止める。
直哉「下まで乗っけて行ってもらえますか」
○直哉の家
直哉、帰宅。
妻の加奈子(39)が出てくる。
加奈子「雪予報なんだからやめたらよかったんだよ」
直哉「こういう日は獲れるんだよ」
加奈子「獲れてないじゃん」
直哉に着信。
直哉「あ、洋介だ」
加奈子「誰だよ、洋介って」
直哉「中学の同級生(スマホに出る)もしもし、久しぶり? え? マジ、わかった行く(切る)」
息子の和也(7)が出てくる。
和也「鹿獲れた?」
直哉「もう少しのところで逃げられた。加奈子さ、悪いんだけど車借りるわ、駅行くけら」
加奈子「はあ? こんな時間にどこいくのよ」
直哉「洋介来てんだよ」
直哉、玄関まで移動して、キーを取る。
加奈子「夕飯どうするのよ」
○ファミレス
直哉、店内を探す。
洋介、手を挙げる。
直哉「久しぶり」
洋介「おう、かなりだよな」
直哉「いつぶりだ」
洋介「前回から七年は経つんじゃねえか」
直哉「若は?」
洋介「もう来ると思うけど、なんか頼んだら?」
直哉「車だからドリンクバーにするか」
ドリンクバーでコーヒーを淹れる。
若村雅史(42)が来る。
若村「直哉」
直哉「お! 若、久しぶり」
若村「洋介、何だろな、東京から急に来たみたいだけど」
テーブルには空いた皿。
直哉「せっかくだし、小倉の店に行こうか?」
洋介「小倉って、小倉梨乃?」
若村「バーはじめたんだよな」
○バー
カウンターに小倉梨乃(42)。
コートを椅子の背にかけている。
洋介のコートのポケットだけ膨らみがあ る。
コートも汚れている。
直哉「しかし、小倉って化けたよな」
若村「小中はただのデブだったよな」
洋介「今、いい女だよ」
梨乃「一応、褒めてるよね」
直哉「オレ、ハイボールもう一杯」
梨乃「あのさ、ちょっと買い物行っていい? すぐ戻るから。それまで留守番しててよ」
ハイボールを出す。
直哉「わかったけどさ、どんな店員だよ」
梨乃「戻ったらラーメン作ってあげるから」
若村「腹一杯だよ」
梨乃「じゃ、お願いね」
何となく静かになる三人。
洋介「オレこっち来たのは二人に会おうと思って」
直哉「会えてよかった」
洋介「このまま会わずじまいもいいと思ったんだけど」
若村「どーした?」
洋介「……」
直哉「飲めよ」
洋介、少し飲む。
洋介「オレ、死ぬんだ」
直哉「はあ?」
洋介「マジなんだ、病気なんだ。まだ症状は大したことないけど」
洋介、テーブルに薬の束を出す。
洋介「色んな種類の薬飲んでるんだ」
若村「……」
洋介「いきなりこんな告白されても困るよな」
直哉「大丈夫だよ、何とかなるよ」
洋介「ありがとう……七年前の事、覚えてる?」
若村「そうだな、確か肉食って飲んだよな」
直哉「そう、オレが仕留めた鹿と猪でビール飲んだ。バンガロー借りてバーベキューした」
洋介「あん時、オレは今回はこれで最後だなって思ってた」
若村「?」
洋介「正直、お前らとはいいかなって。東京にも友だちできたし、昔の思い出に浸っててしょうがないなって」
直哉「ひどいな」
洋介「今は違うけどな」
梨乃が帰って来る。
梨乃「男臭い、三人だけでいると」
洋介「……」
梨乃「あれ、どうしたの? なんかあった? 今からラーメン作るから」
直哉「大分、飲んだから少し歩こうか」
若村「今度ラーメン食べに来るよ」
○夜道
粉雪が舞っている。
旅行バッグをかついで歩いている洋介。
洋介「この道も懐かしいよ、小学校の頃、思い出すよ」
直哉「あんま変わってないよな」
洋介「人って不思議なもんだよな、なんか死ぬんじゃないかってなったら、夜に悪夢ばっかり見るんだよ」
若村「病気なんて信じられないよ」
洋介「覚えられない病名メールしようか?」
若村「いいよ」
洋介「悪夢の中にもお前らも出てきたんだわ」
直哉「なんかやな感じだな」
洋介「つくし取り覚えてる?」
若村「ああ、行ったかな?」
直哉「三人で取りに行って食おうって、不味かったよな」
洋介「その時オレ、はぐれたんだよ」
直哉「そうだっけ?」
洋介「はぐれた時さ、バッグ見つけたんだよ」
若村「なんの話?」
洋介「山にバッグ落ちててさ、なんか気になって中を見たら、札束がぎっしり入ってたんだよ」
直哉「夢の話?」
洋介「現実、それを思い出したのは夢の中だけど」
直哉「……」
若村「何年前の話だよ」
直哉「そういや……今日、猟に出たけど、つくし取りした場所は駐車場になってると思うぞ」
若村、洋介のコートの膨らみに気づく。
洋介「駐車場になってたな」
直哉「お前……」
若村「洋介のコートさ」
洋介、コートから札束を出す。
洋介「そう。掘ったらあった。なんのニュースにもなってないから、もう時効じゃない?」
若村「マジ?」
洋介「オレのバッグに詰め替えたんだけど、入りきらなくて」
○山の駐車場
直哉の車。
雪の中に穴。
○夜道
直哉「あの穴、洋介の掘った穴かよ」
洋介「見覚えのある木は残ってたから、大体あたりはつけられた」
直哉「……」
○公園
公園につく。
洋介「ここでもよく遊んだよな」
直哉「それどこじゃないだろ」
洋介「この金さ、二人にやるよ、オレは最初病院代とか色々考えてたけど、そんなのどうだっていいわ」
若村「はあ?」
直哉「そんなもん、自分のものにできないよ」
洋介「もらっとけよ、子どもだっているんだし」
直哉「……」
洋介「オレ金手に入れて、コートぱんぱんにして歩きながら気づいたんだよ。オレはお前らとくだらない事していた時が一番楽しかったって」
直哉「……」
洋介「オレは初めからそういう大事な思い出持っていたんだよ、こんなもんいらねえよ」
直哉「今日はさ、三人に揃ったんだし、梨奈の店で飲み直しだ」
○墓地
洋介の墓。
墓前に立つ直哉と若村と梨奈。
○車の中
直哉「今日は洋介の追悼だ」
若村「飲むぞ」
梨乃「どこに向かってるの?」
○つくしのキャンプ場
新しいキャンプ場。
直哉「バーベキューするぞ、帰りは代行で帰るぞ」
梨乃「何でバーベキュー?」
直哉「ここはもと、駐車場だったんだけど、ここの持ち主に寄付した人がいて、キャンプ場になったんだ」
梨乃「寄付? 何でバーベキュー?」
○いつかのバンガロー
直哉、洋介、若村の三人でバーベキューをした姿が甦る。
○山
つくしが出始めている。
おわり
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