盛夏の滝 恋愛

母と父が駆け落ちして家を出た。母は父と別れ実家に帰ることになった。実家とは言っても兄が暮らしているだけだ。兄は娘の入間美妃(18)と二人暮らしでそこに大西裕人(14)たちが一緒に暮らすことになる。裕人は美妃に惹かれてゆく。
若林宏明 9 0 0 01/25
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第一稿

 ○コインランドリー前
  ガラス越しに外を見ている入間美妃(18)。
  乾燥機が回る音。
  大西裕人(14)の声。
 裕人「母と父が駆け落ちして家を出た。母は父と別れ ...続きを読む
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 ○コインランドリー前
  ガラス越しに外を見ている入間美妃(18)。
  乾燥機が回る音。
  大西裕人(14)の声。
 裕人「母と父が駆け落ちして家を出た。母は父と別れ実家に帰ることになった。実家とは言っても兄が暮らしているだけだ。祖父はボケて施設に入り、祖母はもうとっくに亡くなっている」
  軽自動車が駐車場に来る。
  裕人と母、大西綾乃(35)が降りる。

 ○コインランドリー内
  乾燥機の前に立つ入間一成(40)。
 美妃「たぶん、来た」
 一成「え?」
 美妃「女と少年」
 一成「何だその言い方は。いとこだぞ。美妃、後やって」       
 
 ○同・前
 一成「おう、よく来たな」
 綾乃「よろしく、息子の裕人」
 一成「入間一成、綾乃の兄です」
 綾乃「挨拶」
  裕人、軽くお辞儀する。
 綾乃「この子、凄い無口で。あの男に似ちゃって」」
  洗濯バックを片手に美妃が出てくる。
  バックから下着が落ちる。
  美妃、拾いながら裕人を見る。
  裕人、動揺。
 一成「娘の美妃」
 美妃「こんにちは」
 綾乃「よろしく、綾乃です。こっちが息子の裕人。美人さんだわ」
 一成「まあな」
 綾乃「ここ、何商店だっけ? 何となく懐かしいな」
 一成「飯島商店な、あれがコンビニになって今はコインランドリー、経営者は飯島さんで一緒だよ」
 綾乃「へえ、生きてんだ、凄い太ってたよぬ」
 一成「いや、死んだ、息子が継いだ」
  美妃、少し笑って裕人の顔を見る。
  裕人、下を向く。
 一成「綾乃の車はここ置いて、俺ので行こう」
 綾乃「大丈夫なの?」
 一成「田舎だから大丈夫だよ」

 ○山道
 一成の車が進む。
 裕人、美妃の横顔を盗み見る。
 
 ○墓地
  入間家の墓。
  手を合わせる綾乃。
  涙を浮かべている。
 綾乃「お母さん、帰って来ました」

 ○入間家・外観
 古い家。
 車から荷物を運ぶ綾乃と一成。
 酒の配達のトラックが来る。
 酒屋の岸辺行人(23)。
 行人「こんちは」
  行人、酒を運ぶ。
 綾乃「今時、酒の配達?」
 一成「岸辺酒店おぼえてない?」
 綾乃「ああ、お父さんよく配達してもらってたね。ギョロメのおじさんがよく来てたわ」
 行人「それ、うちのじいちゃんス」
 
 ○同・部屋
  美妃、窓から酒屋の車を見ている。
 美妃「さてと」
  美妃が部屋を案内する。
 美妃「あんたの荷物、ここに突っ込んで置いたから、後は自由にして」
 裕人「ありがとう、ございます」
 美妃「ここあんたの部屋だから、隣は私の部屋だから、勝手に入んないでね」
 裕人「はい」
 美妃のTシャツからブラ紐が出ている。
 美妃「ん?」
 裕人「何でも」
 美妃「じゃ、また」
 美妃、自分の部屋に帰る。
 見るともなく視界に美妃の動くお尻が入る。
 裕人、ダンボールから荷物を出す。

 ○同・居間
 スーパーの寿司やらチキンやら一応豪華な机の上。
 一成、綾乃、美妃、裕人の四人。
 仏壇には祖母の遺影。
 美妃、チキンをつまもうとする。
 一成「待て」 
 美妃「何?」
 一成「綾乃おばさんが実家に帰ってきたんだ。祝おう!」
 美妃「祝うって、男作って出ていって、うるさいのがいなくなったから、帰って来たんっしょ」
 一成「何だ、その言い方は」
 綾乃「いいよ、いいよ」
 一成「美妃、口は悪いけどそこまで悪意はないから」
 美妃「そう」
 一成「ま、とにかくお帰り、岸辺酒店の美味しいビールで乾杯しよう」
 美妃「あんたは中ぼうだから、炭酸ね」
  乾杯する。
  食べ始める。
  美妃はスマホで動画を見始める。
 一成「美妃も今日は話をしよう、これから一緒に暮らすんだから」
 美妃「話す事ないし、共有できる思い出ないし」
  裕人、田舎の静かな庭先を見る。
  夜空には満月が出ている。
 綾乃「お父さんは?」
 一成「今度の日曜日に予約入れといたよ」
  綾乃「細かくて口うるさい性格だったのにね」
 一成「もう、誰もわからない、声かけると返事するだけだ。ヘルパーと実の息子の区別すらつかないよ」
 綾乃「……」

 ○裕人の部屋
  寝そべる裕人。
  横から美妃が誰かと電話で話す声。
  裕人、スマホで検索する。

  ○スマホ画面
  裕人か文字を打つ。
  いとこ、恋愛、ありなのか?。
  
 ○裕人の部屋
  裕人、振り払うようにしてスマホを置く。
 
 ○中学校・校門
  下校時間。
  裕人と新しく出来た友達と下校している。
 同級生「大西君とこのお姉ちゃんいるよね?」
 裕人「まあ」
 同級生「一緒に住んでるんでしょ」
 裕人「そりゃそうだよ、いとこだけどね」
 同級生「へえ」
 同級生「でもさ……」
 裕人「うん?」
 同級生「いや、何でもない」

 ○田舎町の繁華街
  夜。
  
 ○スナック
  ホステスの綾乃。
  ママから色々、教わっている。
  接客している美妃。
 綾乃「親戚同士が同じ店ってのも変ですかね」
 ママ「まあ、別にいいんじゃない? 昔この店には双子の姉妹が働いていた事があったわ」
 客「そうそう、杏奈ちゃんと環奈ちゃんね、明るくてね、ただ見分けがつかない」
 綾乃、美妃を見つめる。
 ママ「美妃ちゃんは週一のバイトだから、綾乃さんはもっと働けるんでしょ?」
 綾乃「はい」
 
 ○入間家・内
  トイレから出る裕人。
  居間を覗くと、一成がテレビをつけっぱ  なしで寝ている。
  玄関から物音。
  酔った綾乃と美妃が帰ってくる。
 綾乃「飲み過ぎたわ」
  裕人、二人を見ている。
 美妃「何?」
 綾乃「裕人、突っ立ってないで、水ちょうだい」
  裕人、二人を置いて行ってしまう。
 一成「美妃か?」
 
 ○住宅
  水道屋の仕事をしている一成。
  昼休み。
  手作り弁当を食べる一成。
  若い後輩が来る。
 後輩「美妃さんの弁当すか?」
 一成「何で名前知ってんだよ」
 後輩「飲み屋で人気すよ、美人だし、性格いいし」
 一成「夜の仕事はさせたくないんだよな」

 ○入間家・居間
  昼食をとる綾乃と美妃。
 綾乃「美妃ちゃん、誰に習ったの料理、美味しいよ、この煮物とか」
 美妃「おばあちゃん、私おばあちゃん子だったの」
 綾乃「おばあちゃんって、私の母?」
 美妃「もちろんそうでしょう」
 綾乃「おじいちゃんとはどうだった?」
 美妃「どうって?」
 綾乃「優しかった?」
 美妃「二人とも優しかったよ」
 綾乃「スナックだけど、田舎だなって、みんなお金持ってなさそう」
 美妃「あはは、そうだね、この街にはそんなお金持ちはいないよ。いても年寄りの地主、飲みには出ないよ」
 綾乃、庭を見ている。
 
 ○焼肉屋
  一成、綾乃、美妃、裕人の四人。
 一成「美妃、明日は留守番たのんだぞ、裕人もな」
  美妃「よろしくね」

 ○裕人の部屋
  スマホをいじっている裕人。
  横の部屋の壁を見る。
  何も音はしない。

 ○高速道路
  一成と綾乃。
 一成「高速乗ったらすぐだよ」
  田舎から住宅地へ。
 
 ○道
 綾乃「このぐらいの町の方が落ち着く」
 一成「暮らすのも楽だろうな」
 綾乃「お兄ちゃんは町から出ようとしなかたったの?」
 一成「仕事こっちだし、親の面倒とか見てたら離れられなくなったよ。まあ俺はどこで暮らそうが一緒だよ」
 綾乃「お店あるでしょ?」
 一成「スナック?」
 綾乃「うん、なんか来るお客のんびりしていて、裕人のこれからの学費とか稼ごうって感じじゃないのよね」
 一成「どういうこと? 辞めたいの?」
 綾乃「なんか、あの店にいたらどんどんダメになって行きそう」
 一成「昼間の仕事なんてないぜ、何せ会社がないからな、ホームセンターのレジぐらいだ」
 綾乃「だよね……」

 ○入間家・居間
  居間でスマホを見ている裕人。
  美妃が来る。
 美妃「じゃあね、私出かけるね」
 裕人「はい」
  裕人、ちらっと美妃を見る。
 美妃「それじゃ」
  美妃、一度視界から消え、再び現れる。
 美妃「うっそ」
  裕人、無視。
 美妃「何だよ、シカトすんなよ」
 裕人「すいません」
 美妃「そんな真面目に留守番しなくたっていいんだよ」
 裕人「留守番じゃなくて、休日で家で過ごしているだけです」
 裕人、立ち上がる。
 美妃「どこ行くの?」
 裕人「自分の部屋っす」
 美妃「あんたいつも、休みの日、部屋に引きこもってるよね」
 裕人「まあ」
 美妃「あのさ、綾乃おばさんの車のキーって知らない?」
 裕人「今日、出かけてますから」
 美妃「敬語やめない? いとこなんだし。うちのお父さんの車で行ってるから、おばさんの車はあるじゃんか」
 裕人「そっすぬ」
 美妃「キーどこにあるか知らない? 私が部屋に勝手に入るわけいかないし」
 裕人「いとこだから大丈夫でしょ」
 美妃「さすがに」
 裕人「バッグと一緒に持って行ったんじゃないすか」
 美妃「そうかもしんないけど一応さ」

 ○綾乃の部屋
 裕人、キーを探し当てる。
 裕人「あったっす」
 美妃「でかした! よしご褒美に私が町をドライブしてあげよう」
 
 ○入間家・前
  車に乗っている裕人と綾乃。
  
 ○車の中
 美妃、バタバタしている。
 裕人「運転大丈夫なんですか?」
 美妃「うん全然、教習所て今、仮免?のとこだから」
 裕人「それって大丈夫……」
 車が急発進する。
 
 ○道
  車が軽トラにぶつかりそうになる。
  岸辺酒店の軽トラ。
 行人「危ないなー」
 美妃「行人、飛び出してくんなよ」
 行人「パトカーいたらどうすんだよ。大丈夫かよ」
 美妃「パトカーなんていないし、いても原チャリだし、何やってんの」
 行人「見りゃわかんだろ、配達だよ」
 美妃「パチスロだろ」
 行人「まあ、仕事一息ついたから行くかな、お前こそ何だよ、あ、いとこのこんちは」
 美妃「裕人だよ、あんたが行人、似た名前でもこっちは勉強ができて、おしゃべりじゃないんだよ」
 行人「どこん行くんだよ?」
 美妃「裕人とデート」
 行人「はあ?」
 美妃「ドライブだよ、ドライブ、じゃ」
  車、走り出す。

 ○ケアホーム
  ボケて車椅子の綾乃の父、春樹。
  何も反応がない。
  ショックの綾乃。
 一成「まあ、初めて見たときはショックだよな。声かけてみたら」
  綾乃、声をかける。
 綾乃「お父さん」
  春樹、呼ばれても目を見開くだけ。
 
 ○山道
  美妃たちの車が止まっている。
  
 ○滝
  綺麗な滝。
 美妃「綺麗でしょ」
 裕人「まあ」
  滝を見ている二人。
 美妃「彼女いるの?」
 裕人「いません。いるわけないし」
 美妃「作ればいいじゃん」
 裕人「……」
  美妃、突然、半裸になる。
 裕人「!」
  美妃、滝を泳ぐ。
  水面が輝いている。
  美妃のお腹は少しだけ大きくなっている。
  美妃、上がってくる。
 裕人「……」
 美妃「おばさんから聞いてると思うけど、私連れ子なんだ。お父さんとは血が繋がりないんだ」
 裕人「!」
 美妃「聞いてないんだ。私たち付き合ってもなんも問題ないね」
 裕人「!」
  裕人、固まる。
 美妃「裕人ってほんと可愛いよね」

 ○道
  運転する美妃を見る裕人。
 
 ○入間家・前
  美妃の車が止まる。
  行人の軽トラが止まっている。
 美妃「もう、お父さんたち帰ってくるっしょ。私出かけるから」
  美妃、行人の軽トラに向かう。
 裕人「あの、どこに行くんですか?」
 美妃「行人とご飯、私たち付き合ってんだ。ご飯いらないって言っといて」
  美妃の後ろ姿。

  ○道
   綾乃が運転して横には裕人。
 裕人の声「母親は田舎の生活に馴染めず、半年で町から出た。その日以来、美妃には会っていない」
 
 ○滝
  美しい滝。
  美妃のシルエット。
  
                 おわり

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