○コインランドリー前
ガラス越しに外を見ている入間美妃(18)。
乾燥機が回る音。
大西裕人(14)の声。
裕人「母と父が駆け落ちして家を出た。母は父と別れ実家に帰ることになった。実家とは言っても兄が暮らしているだけだ。祖父はボケて施設に入り、祖母はもうとっくに亡くなっている」
軽自動車が駐車場に来る。
裕人と母、大西綾乃(35)が降りる。
○コインランドリー内
乾燥機の前に立つ入間一成(40)。
美妃「たぶん、来た」
一成「え?」
美妃「女と少年」
一成「何だその言い方は。いとこだぞ。美妃、後やって」
○同・前
一成「おう、よく来たな」
綾乃「よろしく、息子の裕人」
一成「入間一成、綾乃の兄です」
綾乃「挨拶」
裕人、軽くお辞儀する。
綾乃「この子、凄い無口で。あの男に似ちゃって」」
洗濯バックを片手に美妃が出てくる。
バックから下着が落ちる。
美妃、拾いながら裕人を見る。
裕人、動揺。
一成「娘の美妃」
美妃「こんにちは」
綾乃「よろしく、綾乃です。こっちが息子の裕人。美人さんだわ」
一成「まあな」
綾乃「ここ、何商店だっけ? 何となく懐かしいな」
一成「飯島商店な、あれがコンビニになって今はコインランドリー、経営者は飯島さんで一緒だよ」
綾乃「へえ、生きてんだ、凄い太ってたよぬ」
一成「いや、死んだ、息子が継いだ」
美妃、少し笑って裕人の顔を見る。
裕人、下を向く。
一成「綾乃の車はここ置いて、俺ので行こう」
綾乃「大丈夫なの?」
一成「田舎だから大丈夫だよ」
○山道
一成の車が進む。
裕人、美妃の横顔を盗み見る。
○墓地
入間家の墓。
手を合わせる綾乃。
涙を浮かべている。
綾乃「お母さん、帰って来ました」
○入間家・外観
古い家。
車から荷物を運ぶ綾乃と一成。
酒の配達のトラックが来る。
酒屋の岸辺行人(23)。
行人「こんちは」
行人、酒を運ぶ。
綾乃「今時、酒の配達?」
一成「岸辺酒店おぼえてない?」
綾乃「ああ、お父さんよく配達してもらってたね。ギョロメのおじさんがよく来てたわ」
行人「それ、うちのじいちゃんス」
○同・部屋
美妃、窓から酒屋の車を見ている。
美妃「さてと」
美妃が部屋を案内する。
美妃「あんたの荷物、ここに突っ込んで置いたから、後は自由にして」
裕人「ありがとう、ございます」
美妃「ここあんたの部屋だから、隣は私の部屋だから、勝手に入んないでね」
裕人「はい」
美妃のTシャツからブラ紐が出ている。
美妃「ん?」
裕人「何でも」
美妃「じゃ、また」
美妃、自分の部屋に帰る。
見るともなく視界に美妃の動くお尻が入る。
裕人、ダンボールから荷物を出す。
○同・居間
スーパーの寿司やらチキンやら一応豪華な机の上。
一成、綾乃、美妃、裕人の四人。
仏壇には祖母の遺影。
美妃、チキンをつまもうとする。
一成「待て」
美妃「何?」
一成「綾乃おばさんが実家に帰ってきたんだ。祝おう!」
美妃「祝うって、男作って出ていって、うるさいのがいなくなったから、帰って来たんっしょ」
一成「何だ、その言い方は」
綾乃「いいよ、いいよ」
一成「美妃、口は悪いけどそこまで悪意はないから」
美妃「そう」
一成「ま、とにかくお帰り、岸辺酒店の美味しいビールで乾杯しよう」
美妃「あんたは中ぼうだから、炭酸ね」
乾杯する。
食べ始める。
美妃はスマホで動画を見始める。
一成「美妃も今日は話をしよう、これから一緒に暮らすんだから」
美妃「話す事ないし、共有できる思い出ないし」
裕人、田舎の静かな庭先を見る。
夜空には満月が出ている。
綾乃「お父さんは?」
一成「今度の日曜日に予約入れといたよ」
綾乃「細かくて口うるさい性格だったのにね」
一成「もう、誰もわからない、声かけると返事するだけだ。ヘルパーと実の息子の区別すらつかないよ」
綾乃「……」
○裕人の部屋
寝そべる裕人。
横から美妃が誰かと電話で話す声。
裕人、スマホで検索する。
○スマホ画面
裕人か文字を打つ。
いとこ、恋愛、ありなのか?。
○裕人の部屋
裕人、振り払うようにしてスマホを置く。
○中学校・校門
下校時間。
裕人と新しく出来た友達と下校している。
同級生「大西君とこのお姉ちゃんいるよね?」
裕人「まあ」
同級生「一緒に住んでるんでしょ」
裕人「そりゃそうだよ、いとこだけどね」
同級生「へえ」
同級生「でもさ……」
裕人「うん?」
同級生「いや、何でもない」
○田舎町の繁華街
夜。
○スナック
ホステスの綾乃。
ママから色々、教わっている。
接客している美妃。
綾乃「親戚同士が同じ店ってのも変ですかね」
ママ「まあ、別にいいんじゃない? 昔この店には双子の姉妹が働いていた事があったわ」
客「そうそう、杏奈ちゃんと環奈ちゃんね、明るくてね、ただ見分けがつかない」
綾乃、美妃を見つめる。
ママ「美妃ちゃんは週一のバイトだから、綾乃さんはもっと働けるんでしょ?」
綾乃「はい」
○入間家・内
トイレから出る裕人。
居間を覗くと、一成がテレビをつけっぱ なしで寝ている。
玄関から物音。
酔った綾乃と美妃が帰ってくる。
綾乃「飲み過ぎたわ」
裕人、二人を見ている。
美妃「何?」
綾乃「裕人、突っ立ってないで、水ちょうだい」
裕人、二人を置いて行ってしまう。
一成「美妃か?」
○住宅
水道屋の仕事をしている一成。
昼休み。
手作り弁当を食べる一成。
若い後輩が来る。
後輩「美妃さんの弁当すか?」
一成「何で名前知ってんだよ」
後輩「飲み屋で人気すよ、美人だし、性格いいし」
一成「夜の仕事はさせたくないんだよな」
○入間家・居間
昼食をとる綾乃と美妃。
綾乃「美妃ちゃん、誰に習ったの料理、美味しいよ、この煮物とか」
美妃「おばあちゃん、私おばあちゃん子だったの」
綾乃「おばあちゃんって、私の母?」
美妃「もちろんそうでしょう」
綾乃「おじいちゃんとはどうだった?」
美妃「どうって?」
綾乃「優しかった?」
美妃「二人とも優しかったよ」
綾乃「スナックだけど、田舎だなって、みんなお金持ってなさそう」
美妃「あはは、そうだね、この街にはそんなお金持ちはいないよ。いても年寄りの地主、飲みには出ないよ」
綾乃、庭を見ている。
○焼肉屋
一成、綾乃、美妃、裕人の四人。
一成「美妃、明日は留守番たのんだぞ、裕人もな」
美妃「よろしくね」
○裕人の部屋
スマホをいじっている裕人。
横の部屋の壁を見る。
何も音はしない。
○高速道路
一成と綾乃。
一成「高速乗ったらすぐだよ」
田舎から住宅地へ。
○道
綾乃「このぐらいの町の方が落ち着く」
一成「暮らすのも楽だろうな」
綾乃「お兄ちゃんは町から出ようとしなかたったの?」
一成「仕事こっちだし、親の面倒とか見てたら離れられなくなったよ。まあ俺はどこで暮らそうが一緒だよ」
綾乃「お店あるでしょ?」
一成「スナック?」
綾乃「うん、なんか来るお客のんびりしていて、裕人のこれからの学費とか稼ごうって感じじゃないのよね」
一成「どういうこと? 辞めたいの?」
綾乃「なんか、あの店にいたらどんどんダメになって行きそう」
一成「昼間の仕事なんてないぜ、何せ会社がないからな、ホームセンターのレジぐらいだ」
綾乃「だよね……」
○入間家・居間
居間でスマホを見ている裕人。
美妃が来る。
美妃「じゃあね、私出かけるね」
裕人「はい」
裕人、ちらっと美妃を見る。
美妃「それじゃ」
美妃、一度視界から消え、再び現れる。
美妃「うっそ」
裕人、無視。
美妃「何だよ、シカトすんなよ」
裕人「すいません」
美妃「そんな真面目に留守番しなくたっていいんだよ」
裕人「留守番じゃなくて、休日で家で過ごしているだけです」
裕人、立ち上がる。
美妃「どこ行くの?」
裕人「自分の部屋っす」
美妃「あんたいつも、休みの日、部屋に引きこもってるよね」
裕人「まあ」
美妃「あのさ、綾乃おばさんの車のキーって知らない?」
裕人「今日、出かけてますから」
美妃「敬語やめない? いとこなんだし。うちのお父さんの車で行ってるから、おばさんの車はあるじゃんか」
裕人「そっすぬ」
美妃「キーどこにあるか知らない? 私が部屋に勝手に入るわけいかないし」
裕人「いとこだから大丈夫でしょ」
美妃「さすがに」
裕人「バッグと一緒に持って行ったんじゃないすか」
美妃「そうかもしんないけど一応さ」
○綾乃の部屋
裕人、キーを探し当てる。
裕人「あったっす」
美妃「でかした! よしご褒美に私が町をドライブしてあげよう」
○入間家・前
車に乗っている裕人と綾乃。
○車の中
美妃、バタバタしている。
裕人「運転大丈夫なんですか?」
美妃「うん全然、教習所て今、仮免?のとこだから」
裕人「それって大丈夫……」
車が急発進する。
○道
車が軽トラにぶつかりそうになる。
岸辺酒店の軽トラ。
行人「危ないなー」
美妃「行人、飛び出してくんなよ」
行人「パトカーいたらどうすんだよ。大丈夫かよ」
美妃「パトカーなんていないし、いても原チャリだし、何やってんの」
行人「見りゃわかんだろ、配達だよ」
美妃「パチスロだろ」
行人「まあ、仕事一息ついたから行くかな、お前こそ何だよ、あ、いとこのこんちは」
美妃「裕人だよ、あんたが行人、似た名前でもこっちは勉強ができて、おしゃべりじゃないんだよ」
行人「どこん行くんだよ?」
美妃「裕人とデート」
行人「はあ?」
美妃「ドライブだよ、ドライブ、じゃ」
車、走り出す。
○ケアホーム
ボケて車椅子の綾乃の父、春樹。
何も反応がない。
ショックの綾乃。
一成「まあ、初めて見たときはショックだよな。声かけてみたら」
綾乃、声をかける。
綾乃「お父さん」
春樹、呼ばれても目を見開くだけ。
○山道
美妃たちの車が止まっている。
○滝
綺麗な滝。
美妃「綺麗でしょ」
裕人「まあ」
滝を見ている二人。
美妃「彼女いるの?」
裕人「いません。いるわけないし」
美妃「作ればいいじゃん」
裕人「……」
美妃、突然、半裸になる。
裕人「!」
美妃、滝を泳ぐ。
水面が輝いている。
美妃のお腹は少しだけ大きくなっている。
美妃、上がってくる。
裕人「……」
美妃「おばさんから聞いてると思うけど、私連れ子なんだ。お父さんとは血が繋がりないんだ」
裕人「!」
美妃「聞いてないんだ。私たち付き合ってもなんも問題ないね」
裕人「!」
裕人、固まる。
美妃「裕人ってほんと可愛いよね」
○道
運転する美妃を見る裕人。
○入間家・前
美妃の車が止まる。
行人の軽トラが止まっている。
美妃「もう、お父さんたち帰ってくるっしょ。私出かけるから」
美妃、行人の軽トラに向かう。
裕人「あの、どこに行くんですか?」
美妃「行人とご飯、私たち付き合ってんだ。ご飯いらないって言っといて」
美妃の後ろ姿。
○道
綾乃が運転して横には裕人。
裕人の声「母親は田舎の生活に馴染めず、半年で町から出た。その日以来、美妃には会っていない」
○滝
美しい滝。
美妃のシルエット。
おわり
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