1場
暗転のまま語りorナレーション
K『人のため、と書いて、偽る。私たちは誰しもが、どこかで何かを偽りながら日々を過ごしています。偽ることに慣れ、アイデンティティを見失い、迷子になりながら。その場に応じて表情をを偽り態度を偽り口調を偽り、果てには自分の本当の姿まで偽ってしまう。人のため、と書いて、偽る。それは本当に人のためになるのでしょうか』
明転
ゲーム内の世界
松平(キング) レミ(クイーン) 最遠(ジャック)
3人、たった今戦闘を切り抜けてきた様子。あたりを警戒している
レミ(クイーン)「たっ、大変なことになってるよキングさん!」
松平(キング)「これは・・・ちっ・・・あいつが出たようだな」
最遠(ジャック)「キングさん?あいつとは誰のことです?」
松平(キング)「・・・ドッペルゲンガーだ」
レミ(クイーン)「ドッペルゲンガーって、あの・・・!?」
最遠(ジャック)「ハネスの預言書・・・」
松平(キング)「クイーン、ジャック、離れていろ」
レミ(クイーン)「でも!」
ドッペルゲンガー(K?山川?) 現る。簡単な戦闘シーン。2分程度の打ち合い
松平(キング)「スキル、ビッグバンギャラクティカを使用する」
最遠(ジャック)「そのスキルは、自爆スキルでは!?他に突破口はないのですか!」
松平(キング)「今のレベルでアレを倒すにはこれしか勝算がないんだ。行け!」
レミ、最遠ハケ
松平(キング)「くらえ!スキル、ビッグバンギャラクティカッッッ!!!」
大爆発SE
暗転
2場
松平の部屋
明転
松平「あぁぁぁ!ここどうやって攻略するんだ?高難易度RPGとは聞いてたけど、さすがに飽きちゃったな『ファイナルゴンファンタジッククエストⅡ』。まあ、別のゲームで気分転換しよう」
松平、コントローラーを持ち、座る(客席側を向いて)
モンハンのプレイ音が控えめに流れている
K、スタスタと登場。松平の前に堂々と立つ
(ポージング。客席に堂々と背を向ける)
K「ハッ!」
松平「え、誰!?何!?えぇぇ!?」
K、手に持ったデカイ本を開いて読み上げる
K「松平 光。19歳、大学生。趣味、ゲーム。特技、妄想。好きな食べ物は果汁グミとシメサバ」
松平「なんで僕のこと知ってるの!?」
K、本に目を落としながら
K「あなたのことは何でも知っていますよ。あら、ここ数週間ずっとカロリーメイトしか食べてないじゃないですか。それにゲームのし過ぎとアニメの見過ぎで昼夜逆転。いけませんよ?こんな乱れ切った生活習慣」
松平「あんた何者・・・」
K「ご想像にお任せしますよ」
松平「超能力者か?でも部屋には鍵が・・・神様か何か!?もしかして死神!?」
K「キリストとは義理の兄弟です」
松平「えぇ!?」
K「ブッダをおぶったことがあります」
松平「えぇぇ!?」
K「太陽神とはよくサウナに行きます」
松平「えぇぇぇ!?」
K、神々しいポーズ
松平「お、お名前は?」
K「んー、そうですねぇ。イニシャルを取って“K”とでも」
松平「イニシャルがKって、もしかして『神様』のK!やっぱり!?何が目的ですか!」
K「あなたを変えにきました。あなた、ここ最近大学に行かず、ずっと引きこもっていますね」
松平「あぁ、はい」
K「私はあなたを外の世界に導きにやってきました。さあ!モンスターハンターワールドなんてやっていないで、リアルのワールドを楽しみましょう!」
松平「・・・いいよ、僕は別に。大学は授業が長くて、基本は毎日一人で、それでもやっと話しかけられるようになった人達にはヲタクってことがバレて」
K「大学デビュー失敗、ですか」
松平「そうだよ。中学や高校ではアニメやゲームが好きなだけなのに、誰にも迷惑かけていないのに、バカにされたんだ。だから、きっと今回もヲタクがバレて愛想尽かされたね。バカにされてるよ、きっと」
K「そうですかねぇ」
暗転
3場
大学(食堂とか)
明転
海崎「松平さん、最近来てないわね」
山川「なんかあったんじゃねーの?レミは?何か知ってる?」
レミ「わかんない。風邪かな?熱出て寝込んでたりするんですかね・・・」
山川「最遠はどう?知らない?」
最遠「連絡先を把握していないからね。通信手段がない」
海崎「この大学、出席率が悪いと単位もらえないことわかってるのかしら」
レミ「来なくなってもう数週間経つから、単位のこともそうだけど、大丈夫かな・・・心配ですね」
最遠「そうだ数週間といえば、死体の白骨化は夏場なら早くて1週間で、水中なら2週間だそうだ。炭酸ナトリウムで煮ればもっと手早いけど」
山川「おいおい、縁起でもないこと言うんじゃねぇよ」
最遠「なんで?骨格標本の作り方の話をしただけだ」
海崎「最遠くん、あなたと話すコツが知りたいわ」
暗転
4場
松平の部屋
明転
松平「人格を変えられる・・・って、どういうこと?」
K「そういうことです」
松平「ん?待て待て待て。そういうことです。じゃなくて、人格を変えられるってどういうことなの?具体的に説明求む」
K「あなたは自分をどのような性格だと思われますか?」
松平「僕は、引っ込み思案で人見知りで他人にどう思われてるかが気になって、本当の自分が出せない。人前では頑張って愛想良く振る舞って、強がって。そんな自分が嫌い・・・」
K「うむ、なるほど。まあ、つまりですね、人格を変えるというのは内向的な松平さんを、今よりずっと社交的に変えられるということです」
松平「どうやるの、それ」
K「簡単です。なりたい自分を言葉にした後、私が唱える呪文を繰り返してください」
松平「本当にそんなことで変われるの?」
K「物は試しです。さあ」
松平「僕は、もっと・・・普通になりたい。誰かに白い目で見られることもない普通の人に」
K「承知しました。では、この呪文を繰り返してください【ブラジル人のミラクルビラ配り】はい、これ3回連続で」
松平「ブラジル人の・・・ミラクル・・・ビラ配り?」
K「はい」 どうぞ、と促す
松平「ブラジル人のミラクルビラ配り、ブラジル人のミラクルビラ配り、ブラジル人のミラクルビラ配り!」
直後SE
K「よくできました!完成です」
松平「何も起こってないけど」
K「人の前に出なければ効果は出ませんから。望み通りあなたは今、望み通りの普通の人となりました!何が普通で、何が普通でないのか見失うこともありません」
松平「うさんくさいなぁ」
K「効果を実証するために、明日は久しぶりに大学に行ってみるのはいかがでしょう?」
暗転
5場
大学(教室とか)
明転
海崎、座っている
山川、眠そうに登場
山川「おはよ・・・」 あくび
海崎「おはようございます。山川くん」
山川「海崎さん、来るの早いね・・・」 あくび
海崎「朝は5時起床、家は近いけれど不測の事態に備えて余裕を持たないと。もし電車が遅れたら、もし事故に巻き込まれたら、もしテロに巻き込まれたら、もし特殊な遺伝子交配によって生み出された生物に噛まれて特殊な能力を手に入れたら、などの可能性も考慮しなければなりません」
山川「いや、すげぇなおい」
松平、カミ手から意気揚々と登場。NHK教育番組のお兄さんのイメージ。
海崎・山川、困惑の表情
松平「山川くん!海崎さん!おはよー!」
海崎・山川「おはよう・・・ございます?」
松平「今日は良い天気だねー!」
山川「いや、めちゃくちゃ曇ってるけど」外を見るような動作
レミ・最遠、話しながら登場
最遠、熱弁をふるっている
最遠「スーパーマンがビルから落ちた女性を受け止めるシーンだけど、女性は毎秒9.8メートルで落下。スーパーマンは鋼鉄並みの強度の腕でキャッチ。この時点で女性は時速193キロ。だから体が三等分になるはずだ」
レミ「へぇ、そうなんだ」困惑
松平「レミちゃん!最遠くん!おはよおおおおおー!」
レミ「お、おはよう!?生きてたんですね!?大丈夫ですか!?」
松平「やだなー!生きてるよー!ひどくなーい?」
山川「生きてたってことより・・・」
海崎「すっかり別人みたいになってることの方が驚きね」
松平「そんなことないよー!全然普通だってええええー!」
最遠、松平に突風のごとく肩を当て逃げされる
松平「ちょっとトイレ行ってくるうううー!」
松平ハケ
最遠「痛い・・・肩が粉砕されるかと思った・・・スーパーマン並みだ」
暗転
6場
松平の部屋
明転
松平「疲れた・・・」
K「どうされましたか」
松平「ご無沙汰なのに、リスタート早々みんな終始ドン引きだよ」
K「悪化しちゃいましたね」
松平「普通ってなんなんだろ・・・」
K「普通であろうとすることは正しいことでしょうか?」
松平「何だって?」
K「元気で活発でお喋りで、あなたの定義する『普通』には、やや偏見があるように思います」
松平「偏見?」
K「ええ、普通という基準に合わせようとするがゆえに、偏りが生じているようです」
松平「だったら何?」
K「ジレンマを抱えているのではないでしょうか?自分が普通じゃないと不安なのに、自分が普通になってしまうことを嫌悪している」
松平「全部わかったかのようにペラペラペラペラ・・・何様のつもりだよ!あんたみたいなのが見えてる時点で僕は普通じゃない!普通には、なれない・・・」
暗転
7場
大学(どこか)
明転
海崎「二人は幼馴染なのよね?」 山川と最遠に
最遠「幼馴染の定義は、幼い頃に親しくしていた友達ということになるが、10年前の僕はすでに精神的に自立していたし、博学さも兼ね備えていたから幼かったかどうかは・・・」
山川「小学生の頃に俺から声をかけた。今思えば、あれが人生史上最大のミスだ」
最高「友達協定24条、僕が話している時は被せて話すべからず」
レミ「友達協定?協定を結んでるの?」
最遠「彼が友達になろうとしつこく迫ってきたからね。悔やむなら10年前、僕に声をかけたことを悔やめ」
山川「ところで、松平は休みか?」
海崎「見てないわね。昨日の様子は変だったから、大丈夫かしら」
レミ「無理してたのかな。気丈に振る舞ってたけど、ほんとは一生懸命私達に馴染もうとしてたのかな」
最遠「その推測はあながち間違いではないだろうね」
山川「かもな・・・」
暗転or薄暗
松平の空想内
舞台後方に4人
松平、舞台中央に(スポットで松平をシュート)
海崎「論外よ、あんな根暗」
最遠「苦手かな、ああいう人種」
レミ「何考えてるかわかんないし」
山川「松平?ないわー」
海崎「陰気で」
最遠「オタクで」
山川「まともに人と喋れない」
レミ「気持ち悪いよね」
(笑い声)
松平「やめろ・・・やめろ・・・やめろ!!!」
暗転
レミ、山川、最遠、海崎ハケ
8場(薄暗→基本明転でもいいかも)
明転
K、ゆっくりと登場
K「過去に言われてきたことを思い出してしまったんですね」
松平、コクリと頷く
K「あの4人は過去にあなたをいじめていた人達ではありません。少しヘマをしたからと言って、何も過去のイヤな経験を重ね合わせることはないんですよ」
松平「わかってるよ」
K「けれど、それでもまた失敗するのが怖い、と」
松平、再び頷く
K「偽物、真偽、偽造、偽善。人のため、と書いて、偽る。私たちは誰しもが、どこかで何かを偽りながら日々を過ごしています。偽ることに慣れ、アイデンティティを見失い、迷子になりながら。その場に応じて表情をを偽り態度を偽り口調を偽り、果てには自分の本当の姿まで偽ってしまう」
松平「何を言ってるの?」
K「普通になりたいと望んだあなたにかけた呪文、実はそんなものは最初からありませんでした。そうしたのも、そうさせたのもあなたであり、私なのですから」
松平「どういうこと?」
K「私の、Kというイニシャルは神様のKなどではありません。本名は心。『心』のKです。あなたは私であり、私はあなたの心。しばらく行っていなかった大学に行こうと決心したのもあなた、懸命に人と関わろうしたのもあなた。しかし、そのために自分を偽ったのもあなた自身です」
松平「そうだ・・・・・・そうだよ。全部、自分だ」
K「人のため、と書いて偽る。偽ることは、本当に人のためになるのでしょうか。あなたのことを知りたいと思う人はそれを望むでしょうか。あなたなら、もうわかるはずだ」
暗転
9場
大学(どっか)
明転
K、松平の背中を押す
松平「あ、あの!えっと、一昨日はごめんなさい!本当は根暗でネガティブで人見知りでヲタクで・・・みんなとは違って、こんなはみ出し者が調子に乗ったマネしてしまって、あの、ごめんなさい!」
レミ・海崎・山川・最遠、少し驚き困惑した表情
松平「アニメとかゲームが好きで、人付き合いが苦手で、みんなとは全然違うから・・・」
レミ・海崎・山川、表情がほころび堪らず笑い出す
山川「そんなこと気にしてたのか」
海崎「何が好きかはその人の自由でしょ?難しく考えることないわ」
最遠「君は趣味嗜好について思い悩んでいるようなので、おもしろいことを教えてあげよう。そこにいる山川はマンガ好きだが、特に少女漫画を好んで読む。海崎さんはコスプレ界隈では有名なコスプレイヤーで、レミさんは同人誌作家だ。ご覧の通り、現在は〆切に追われている」
レミ「あはは・・・」死んだ目で原稿を描きつつ
松平「・・・え?」
山川「バラすならマンガ好きってことだけでよかっただろぉぉぉぉぉ!」
最遠「ちなみに僕はRPG、シューティング、恋愛趣味レーション等々なんでもござれのゲーマーだ。最近は『ファイナルゴンファンタジッククエストⅡ』の攻略に余念がない。最新作はオンラインマルチプレイが実装されるらしくてね、みんなも誘っているんだけど、攻略の折りには君も一緒にどうかな?」
松平「・・・ぜひ!」
5人盛り上がり歓迎ムード
暗転
10場?
K「自身の理想とは遠く、どれだけ弱く格好悪くても、その弱さを、格好悪さを愛してくれる人はきっといます。きっと」
明転
松平、袋を持って登場
K「買ってきたんですね、最新作『ファイナルゴンファンタジッククエストⅢ』」
松平「うん、今までずっとひとりでやってきたから誰かとゲームするなんて緊張するよ。友達とゲームなんて、初めてだけど・・・楽しみだよ」
K「ええ、楽しみです」
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