○墓地
村中倫也(26)が墓地に佇む。
倫也の声「私は通知を待っていた」
○字幕
『20××年、日本は戦争に参戦することになった)」
○墓地
スマホのアプリの通知を確認する倫也。
通知はない。
墓を見つめる。
墓を拝む。
後ろを老人が通る。
老人「感心な青年じゃ」
老人に構わず墓石を見つめる倫也。
○同・入口
バイクに跨りその場を去る倫也。
○道
人気のない道をバイクが進む。
○荒れ果てた墓所
手入れされていない。
蜘蛛の巣や朽ち木を避け進む倫也。
墓石を撫でたりする倫也。
どこか楽しげな倫也。
欠けたり倒れたりしている墓。
倫也、楽しそうにながめる。
途中でその場に腰掛け、墓を眺める。
コーヒー缶を出して飲む。
倫也、腕に大きな傷がある。
○同・奥の墓地
昔の軍人の墓が多数ある。
倫也、一つの墓の前に立つ。
倫也「将軍、今日もお疲れ様です」
○道
バイクに乗る倫也。
○霊園
大きな霊園。
歩く倫也。
文学者やスポーツ選手等の墓。
墓石を見つめ感慨深げな倫也。
墓石の隙間をすっと人影が横切る。
倫也「?」
辺りを見るが誰もいない。
また、人影が横切る。
傘をさした女のシルエット。
女を追いかける倫也。
吉池衣莉菜(24)である。
衣莉菜の横顔。
倫也、見つめる。
衣莉菜は気づかず行ってしまう。
森「村中君!」
倫也、驚く。
森先生(72)が立っている。
倫也「先生、どうも」
森「驚いてどうしたんだい?」
倫也「いえ、別に。先生こそ久しぶりじゃないですか」
森「はい、そうですね、いやあ、それがね吉池淳之介の小説読んでいたら、この霊園の描写があったもので。どうだい君」
森、ワンカップをかかげる。
倫也「今日はバイクなので」
森「そいつは残念だ、久しぶりの収穫なのに」
倫也、時計を見る。
森「バイトかい?」
倫也「はい。スーパーです」
森「では、また」
○スーパー
倫也、デイリーの仕事をしている。
○同・バックヤード
廃棄の商品を持ってくる倫也。
期限切れの商品を見つめる倫也。
○イメージ
パックが破られてゴミ箱に捨てられる惣菜や食べ物。
○回想・住宅街
ゴミ袋。
倫也、ごみ収集の仕事をしている。
同僚の柄本(56)が来る。
柄本「急げ」
倫也、少しイラつきながら作業する。
収集車を見つめる。
○収集車
倫也と柄本。
倫也、柄本の横顔を見る。
柄本から腕の傷を視線を移す。
○道路
ある回収日。
倫也、収集車にガラスを積み込む。
柄本の不注意で収集車の蓋(テールゲート)が倫也の頭に落下する。
鉄の蓋が頭を打つ。
倫也、倒れた際ガラスで腕を切る。
○病院
通路。
柄本、上司、倫也。
上司「くれぐれも外にはもらさないように」
倫也「……」
柄本「あくまで、仕事以外での怪我ってことさ、難しいことじゃない、これで美味いもんでも食べて何日か休んだら仕事にまた出てくりゃいいんだ、な?」
倫也「……はい」
手には金の入った封筒。
○スーパー
廃棄置き場に立つ倫也。
同僚のおばさんが来る。
同僚「どうした? 荷物来たよ」
倫也「はい」
配送のトラックが来ている。
同僚「暗い顔して、元気だしな。あ、もしかして……赤紙来たの?」
倫也「赤紙?」
荷下ろし作業をしながら。
同僚「召集令状」
倫也「?」
同僚「えっと何だっけ、インターなんちゃら」
倫也「ああ、インヴェストメント、ヒューマンウォーインヴェストメント、戦争参加通知はきてないですよ」
同僚「うちの近所の子のアプリに通知あったみたいでね、お母さん泣いてたわよ」
○同・裏口
バイトを終えた倫也。
○道
バイクが走る。
信号で止まると、何気なく横を見る。
横は墓地。
倫也「こんなとこにあったんだ」
傘をさした衣莉菜が墓地を歩く。
もう一方の手には花を持っている。
倫也「!」
○夜の墓地
衣莉菜を探す倫也。
いない。
倫也、散策をはじめる。
倫也「なかなかいい墓地だな」
衣莉菜が奥に見える。
ゆっくり近づく倫也。
倫也、墓石の影から衣莉菜を見る。
衣莉菜、一つの墓の前で止まる。
墓石には藤澤家とある。
手を合わせる衣莉菜。
衣莉菜、泣いている。
倫也、衣莉菜を見ていると突然カラスが大声で鳴く。
墓石の上で羽を振り鳴く大ガラス。
驚いて近くの墓に備えていた湯呑み茶碗を地面に落とす。
茶碗の割れた音に気づいて振り返る衣莉菜。
倫也、衣莉菜に背を向けて隠れる。
大ガラスは倫也に警戒して鳴く。
大ガラスの後ろの墓石の上に無数のカラス。
いっせいに鳴く。
追い払う倫也。
倫也、平静を装い前に出る。
衣莉菜は墓前にはいない。
衣莉菜、倫也の近く前を通り過ぎる。
二人は目を合わす。
衣莉菜の目はまだ涙で濡れている。
衣莉菜、立ち去る。
倫也、別の場所に用があるように歩きだす。
衣莉菜、振り返ることなく去る。
衣莉菜の後ろ姿を見つめる倫也。
倫也、衣莉菜が立っていた墓に近づく。
藤澤家という文字。
埋葬者の書いた墓石を読む。
藤澤芳雄、八十二歳等、若い者の名はない。
倫也「お爺ちゃんかお婆ちゃんの墓参りかな……」
衣莉菜も誰もいない墓地を見渡す。
倫也「藤澤さんか……」
○街角
収集車で仕事をする倫也。
○道・墓地近く
倫也、助手席から衣莉菜がいないか見る。
姿はない。
○会社・休憩所
仕事から戻り昼食を取る倫也。
テレビでは若者の戦争参加のニュース。
柄本が来る。
柄本「お前もいつお呼びがかかるかわからねえぞ」
倫也、軽く会釈してスマホを見る。
柄本「俺みたいなジジイはお役御免だけどな」
倫也、無視。
柄本、倫也のスマホを覗く。
倫也、隠す。
柄本「デートの約束?」
倫也「そんなんじゃないですよ」
柄本「怪しい」
○道・墓地
墓地を横目で見る。
○墓地
衣莉菜がいないか探す倫也。
倫也「まさかね」
森「村中君!」
倫也、驚く。
倫也「先生、驚かさないで下さいよ」
森「最近、活動的ですね」
倫也「仕事、終わって一息つこうと思いまして」
森「墓場は最高の癒しですよね」
森先生の後ろに初老の男。
少佐(75)である。
倫也、気づく。
森「ああ、こちら少佐、軍関係の墓が専門です」
倫也「村中倫也です。はじめまして」
少佐「少佐と呼んでください。よろしくお願いいたします」
森「村中君とここでは初めて会いましたね」
少佐、倫也を見つめる。
少佐「村中さん、恋してますか?」
倫也「はい?」
森「少佐これまた面白いことを言う」
少佐「私は読心術もかじってまして、表情と仕草からそのように読めました」
森「なんと」
倫也「僕はそっち方面は全く、第一、墓めぐりが趣味の男に女なんて寄りつきませんよ」
少佐「そうですか」
倫也「ではまた、これから行くところありますので」
倫也、立ち去る。
少佐、笑みを浮かべる。
○墓地入口
スマホをいじる倫也。
地図で墓地を探している。
○田舎道
走るバイク。
田んぼがある。
○寺
墓地を歩く倫也。
途中で腰掛けてまったりする。
墓を見つめる。
墓から人影が立ち昇る。
お爺さん、お婆さん、会社員、子どもの人影。
各々、話をしたり遊んだりしている。
お爺さんが倫也に近づく。
お爺さん「大変な世の中になったみたいだな、わしの頃も色々大変じゃった。まあ気を落とさずに……」
お爺さんの人影の奥に衣莉菜が歩く姿。
倫也「あ!」
お爺さんの人影、その他全ての人影がパッと消える。
倫也、衣莉菜の後を追いかける。
墓を見ながら衣莉菜は歩いている。
倫也、衣莉菜に気づかれないよう後を追う。
突然、衣莉菜は方向転換する。
衣莉菜、墓を探している。
墓石の名を見ている。
衣莉菜、立ち止まる。
手を合わせる。
倫也、スマホのカメラのズームで衣莉菜が拝む墓を見る。
藤澤の文字。
衣莉菜、振り返る。
慌てて隠れる倫也。
しばらくしてまた衣莉菜を見る倫也。
衣莉菜の姿はない。
どこにもいない。
倫也、墓に近づく。
墓には藤澤の文字。
墓石の没年を見る。
藤澤真子、四十四歳等、数人記されている。
倫也「お母さん?」
衣莉菜「なんですか?」
倫也「え? あ、そのう」
衣莉菜「もしかして私のこと、つけてました?」
倫也「いや、そんなこと、僕はただ墓参りに」
衣莉菜「誰の?」
倫也「じいさんの…いや、親友の、事故でその」
衣莉菜「ストーカーですか、警察呼びます」
衣莉菜、スマホを取り出す。
倫也「待って下さい、そんなんじゃないです」
衣莉菜「ずっとつけてましたよね」
倫也、弁解しよう近寄る。
衣莉菜「こないで、大きな声だしますよ」
倫也「いや、誤解ですよ」
衣莉菜「じゃあ何してたんですか」
倫也「何って墓地なんだから、墓参りにら決まってるでしょう」
衣莉菜「あなたみたいな歳の人が一人で墓参りなんてするわけないわ」
倫也「それはあなたも」
衣莉菜、スマホをかけようとする。
倫也「君だって、おかしい」
衣莉菜「はあ?」
倫也「この間、別の霊園で君を見たんだ。君こそ、お墓はしごして、先祖思いかもしれないけど変わってるでしょ」
衣莉菜「だから何?」
倫也「……」
衣莉菜「そんなの私の勝手でしょう」
倫也「墓めぐりは趣味なんだ」
衣莉菜「何よそれ」
倫也「俺はストーカーじゃない」
衣莉菜、スマホをしまう。
衣莉菜「そう、じゃあ私は関係ないよね」
倫也「……」
衣莉菜「行くから」
衣莉菜、歩き出す。
倫也「……仲間かと思ったんだ」
衣莉菜、振り返り。
衣莉菜「私とあなたが仲間? そんな気持ちの悪い趣味ないわよ」
倫也「……墓に来ると嫌なことから解放されて、不思議と開放感があるんだ」
衣莉菜、行ってしまう。
一人、残される倫也。
座り込み墓を見回す。
人影はない。
藤澤家の墓を見る。
藤澤家の墓石の後ろから藤澤英明(38)が現れる。
倫也、視線をそらす。
英明「衣莉菜どこですか?」
倫也「はい?」
英明「ここにいた」
倫也「お墓参りしていた人ですか。今帰りましたよ」
英明「どっち行きました?」
○バス停
近くにバス停がある。
衣莉菜、バスを待っている。
倫也が辺りを探している。
衣莉菜、怪訝な顔。
倫也、衣莉菜を見つけ英明に知らせる。
衣莉菜、倫也の後ろの英明に気づいて驚く。
英明「衣莉菜」
英明、衣莉菜の体を抱く。
衣莉菜「英明……」
倫也、立ち去る。
英明「久しぶり」
衣莉菜、横目で倫也を見る。
衣莉菜「ちょっと待って」
衣莉菜、倫也に声をかけて英明から離れる。
倫也、立ち止まる。
衣莉菜「スマホ出して」
倫也「はい?」
衣莉菜「いいから、早く」
衣莉菜、倫也のスマホをひったくりと番号を押してダイヤルする。
すぐに電話を切る。
スマホを倫也に返す衣莉菜。
衣莉菜「あとでかけるから」
倫也、ぼうっとしている。
衣莉菜、英明のもとに戻る。
衣莉菜と英明は話をしている。
倫也、その場を去る。
○寺の駐車場
バイクにまたがる倫也。
スマホの電話番号を見ている。
『えりな』と登録する。
バイクは走り去る。
○コンビニ
夕食を買う倫也。
スマホをみるが通知はない。
○倫也のアパート
カップ麺、酒、食事を終えた倫也。
夜の10時を過ぎている。
えりなという文字を見ている。
電話をかけようとする。
勇気が出ずかけるのをやめる倫也。
諦め、酒を飲む。
突然、着信。
画面はえりなの文字。
アプリによるメッセージ通知。
倫也、慌てる。
『こんばんは。今度会いたい』の文面。
倫也、動揺する。
倫也、『こんばんは』だけ打つとすぐに衣莉菜から返信がくる。
『時間がある時に会えませんか』という文面。
倫也、立ち上がりそわそわする。
○街角
収集車で仕事をする倫也。
動きがいい。
○会社・休憩所
スマホを見ながら昼食をとる倫也。
柄本が来るとすぐにスマホをしまう。
柄本、疑いの眼差し。
○スーパー
スーパーでもてきぱきと仕事をこなす倫也。
○墓地
墓石の上につがいのカラス。
二羽はいっさいに飛び立つ。
○霊園
倫也と衣莉菜が一緒に歩いている。
倫也、墓を紹介する。
倫也「ここが文学者の吉池淳之介のお墓、その奥にあるのが軍人の……」
衣莉菜は別の方向を見ている。
倫也「興味ないよね、墓なんか」
衣莉菜「まあ、でも私の苗字も吉池、今更だけど名前は吉池衣莉菜って言います」
倫也「村中倫也です。よろしく」
○霊園内・高台
歩く倫也と衣莉菜。
衣莉菜、立ち止まる。
衣莉菜「戦争通知はまだですよね」
倫也「まあ、ここでこうしているってことは」
衣莉菜「……」
倫也、無数のお墓を見下ろしながら。
倫也「僕は早く来ないかなと」
衣莉菜「そんなこと言うもんじゃないでしょう」
倫也「戦争参加者は選ばれた人、僕みたいにいつまでも通知が来ないのは脱落者だ」
衣莉菜「戦地て戦っている人に失礼だよ」
倫也「結局、国民共通カードのデータで身体的にも知能的にも劣る人間には戦争参加通知はこない」
衣莉菜「……」
倫也「敗北者なんだよ」
衣莉菜「今日会ったことなんだけど。この間、お寺で英明見たよね?」
倫也「見たも何も案内したじゃない」
衣莉菜、周りを見渡す。
倫也「どうしたの?」
衣莉菜「いや、あなたといる時に現れるわけじゃないかなって」
倫也「ストーカー?」
衣莉菜「それはあなたでしょ、ごめん冗談」
衣莉菜、倫也に近づく。
衣莉菜「英明いたよね。あの日」
倫也「話がよくわからないんだけど、彼氏か何かなんでしょ」
衣莉菜「そう、そうなんだけど」
倫也「オレと何の関係があるのかわからない」
衣莉菜「戦争参加したがってるんなら、不明通知わかるよね?」
倫也「ああ、戦地で安否不明になった人を知らせる通知だよね」
衣莉菜「英明、不明通知者なの。しかも政府の戦没指数95%なの」
倫也「それって、申し訳ないけど、亡くなっていて遺体を探していることを示す数値だよね……」
衣莉菜「そうなの……」
倫也、寒気がする。
衣莉菜「もの凄い勝手かもしれないけど、私のもとに連れてきたのあなただし、どうにかしてほしいの」
倫也「どうにかって」
倫也、急に怖くなり周りを見る。
誰もいない、ただの墓。
倫也「もしかして、あの日以来、君についてまわっているの?」
衣莉菜「それは大丈夫、あの日、あそこの墓地であっただけ」
倫也「ちなみにオレが帰ったあとどうなったの?」
衣莉菜「バスが来て、先に私が乗って、英明に振り返ったらいなくなってた」
倫也「……」
衣莉菜「お願いがあるの、私と一緒にもう一回、あのお墓に行ってほしいの。英明には生きていてほしかったけど、半分諦めていたの」
倫也「オレは一番初めに君を見た時、亡くなった彼氏に花をたむけているんだと思ったよ」
衣莉菜「あなと違ってお墓参りが趣味じゃなくて、英明はもう亡くなっているかもしれないけど、一年も遺体も見つからないし、心の整理がつかなくて、藤澤って名前のお墓探して拝んでいたの」
倫也「オレもお墓にくると悩みから少し解放されるんだ。似ているね」
衣莉菜「全然、違う」
倫也「もし、行って、現れたら、あなたには失礼かもしれないけど、怖い」
衣莉菜「私だって会いたかったけれど、いきなりお墓に現れるなんて」
倫也「いづれにしても、お墓で起こったことだから、先生に相談してみよう」
衣莉菜「先生?」
○バスの中
倫也と衣莉菜が乗っている。
倫也「あの藤澤家の墓地から現れたってことはゆかりのあるお墓だったのかな」
衣莉菜「私はなんの当てもなく、立ち寄ったお墓で英明と同じ苗字のお墓探していただけ」
倫也「あの日はじめて行ったの?」
衣莉菜「そう」
○バス停留所
バス停に立つ衣莉菜。
近くのコンビニから袋を持って走ってくる倫也。
倫也「はい、コーヒー」
衣莉菜「何買ったの?」
倫也「必要なもの」
バスを乗り換える倫也と衣莉菜。
衣莉菜「一体どこへ行くの?」
倫也「先生との連絡法を聞いておいてよかったよ」
窓の外を見ている衣莉菜。
その横顔を見る倫也。
○別荘地
バスは景観の良い別荘地に入る。
バスのアナウンス。
『次は管理事務所前、管理事務所前となります』
○管理事務所
バスを降りる。
衣莉菜「先生って別荘地住まいなの?」
倫也「どうかな」
倫也、管理事務所前を通り過ぎて何かを探している。
衣莉菜「事務所でたずねるんじゃないの?」
倫也「名前わからないし、第一、住んでいるのかもわからない」
別荘所有者の掲示板。
倫也「これだ」
衣莉菜「?」
倫也、袋から紙とペンを取り出してメッセージを書く。
『先生、村中です。連絡下さい』と書く。
倫也「そうか……吉池さん、明後日夕方、時間ある?」
衣莉菜「大丈夫だけど」
倫也「じゃあ、明後日、あの墓場で先生と合流するようにしよう、先生いつメッセージ気づくのかわからないし」
さらにテープで掲示板の裏に貼る。
倫也「やべ、忘れてた」
ケイタイ番号を書く。
倫也「これで何か連絡がはいるはず」
衣莉菜「なんでこんな手間のかかることしないといけないの」
倫也「先生は秘密主義だから」
衣莉菜「大体、明後日だったら、私ここまで来る必要あったの?」
突然の声。
先生「君たち何をしてるんだ!」
驚く二人。
倫也「先生」
先生「村中君」
倫也「先生、ここに勤めているんですか」
先生、管理事務所の作業着を着ている。
メッセージを見る先生。
先生「なる程、私にご用ですか」
○管理事務所
応接椅子に座る先生、倫也と衣莉菜。
事務所の奥には事務員数人いる。
先生「こちらは」
衣莉菜「吉池衣莉菜と申します」
先生「吉池淳之介の吉池ですかほほう。私は森と申します。先生と呼んで下さい」
倫也「先生に彼女のことで相談がありまして」
先生「ほう、どんな」
倫也「彼女の、その彼氏のことなんですが、従軍しまして、95%の不明通知届いてまして」
先生「そうですか、それはまことに残念」
倫也「……なんですが、先日、ある墓で姿を見せたんです」
先生、まわりの目を気にする。
先生「村中君も見たんですか?」
倫也「ええ、会話をしました」
先生「ここではまずいですね、私、もう仕事終わりますんで私の家で話をしましょう」
○別荘地
先生の運転する車が走る。
古い車である。
大きな別荘に入る。
衣莉菜、感心する。
倫也「先生の家ですか」
衣莉菜「凄い」
先生「いえいえ」
○別荘
自然環境を生かした大邸宅。
○同・リビング
広いリビング。
圧倒される衣莉菜。
衣莉菜「何者?(倫也に)」
倫也「先生とはお墓出会って色々墓地の事を教えてもらっているだけでプライベートは何も知らない」
カップを両手に先生が現れる。
先生「コーヒーでいいかな?」
倫也「ありがとうございます」
先生「ここじゃ落ち着かないから書斎で話しましょう」
○書斎
お墓、遺跡、葬儀、お化け漫画、ホラー小説
がぎっしりと本棚につまっている。
衣莉菜「図書館みたい」
衣莉菜、一冊手に取る。
衣莉菜「う、怖っ」
先生「趣味で集めました。世界のお墓や歴史、お化け、妖怪、怪物に関するものです」
衣莉菜「民俗学とかの大学の教授ですか?」
先生「いえ、教授ではありません。趣味で集めました」
衣莉菜「なのに、先生呼ばれてるんですか。お仕事は何なんですか?」
先生「フリーターです。40代まではアルバイトをしておりましたが」
衣莉菜「それで何でこんなお家に」
倫也「あまり詮索したら失礼だよ」
先生「私の事なんてつまらないですよ。さあ、先程の話を詳しく教えていただけませんか」
○墓地
数日後。
バイクが走ってくる。
倫也である。
○バス停
バスを降りる衣莉菜。
○墓地
墓地の中で待つ倫也。
衣莉菜が来て二人は合流する。
先生と少佐が来る。
倫也「少佐?」
衣莉菜「また変な人が増えた」
倫也「失礼でしょう」
先生「お待たせしました。勝手な判断で申し訳ないですが少佐もお呼びしました」
少佐「少佐です」
先生「少佐は合気道八段の腕前ですので何かあった場合を備えました」
衣莉菜「何かあったって、相手はお化けかも知れないのよ、お化けに武道は通じないでしょ」
倫也「ここから先は何があるかわからない。少佐の力が必要になるかもしれない」
先生「では、みなさん、行きましょう」
少佐、倫也と衣莉菜を見比べ不適な笑みを浮かべる。
少佐「彼女だったんですね」
倫也「何の事ですか」
○墓地の奥
英明が現れた墓を遠くから見る。
先生「私はあの藤澤家の墓を調べました」
衣莉菜「勝手にそんなことしていいんですか」
先生「藤澤征爾、ご存知ですか?」
倫也も衣莉菜も知らない。
先生「明治の私小説の作家です」
少佐「無頼派です」
衣莉菜「ブライ?」
先生「いづれにしても、その作家の研究者になりすまして、お坊さん。お墓の所有者とコンタクトをとりました」
衣莉菜「そんなことして何の意味があるの?」
先生「衣莉菜さんに先日メールして頂いた藤澤英明さんに関するデータとお墓の所有者への聞き込みで、結論が出ました。あの墓の所有者の藤澤徹さんと藤澤英明さんは親戚になります」
倫也「え、そうなんですか」
先生「はい、藤澤徹さんの弟の藤澤司さんは英明さんのお父さんです」
倫也「凄い、知っていたの?」
衣莉菜「まさか、私は適当に藤澤ってお墓探して拝んでいただけ」
先生「つまり、全く縁もゆかりもないお墓ではなかったのです」
少佐「深いですね」
衣莉菜「何が深いのよ、たまたまじゃない。それにこの事実と、英明が現れたことって何の関係もない」
先生「あくまで仮定ですが、身元不明の英明さんの魂は行場がないため、親戚関係者の墓をさまよっているのかも知れません」
衣莉菜「……」
先生「魂というものが存在すればということになりますが。魂がないとすれば、日本に戻りたい、衣莉菜さんに会いたいという英明さんの意識が親類の墓を拠り所として戻って来たのかもしれない」
倫也「昔、飼っていた猫が戻ってきたことがあった」
○倫也の実家
玄関に猫。
倫也の声「よく家と外を出入りする猫である日、2日ぐらい戻って来なくて近所を探しに行くと」
出入りする猫。
○車道
車に轢かれている猫。
倫也の声「車に轢かれていた」
○倫也の実家・キッチン
どこからともなく猫の声。
倫也の声「その日の夕方。死んだはずの猫の声がどこからともなくして」
○同・玄関
猫の姿
倫也の声「玄関にその猫がいた。エサを取りに行ってもどると、そこに猫はいなかった」
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