祖母が長い階段を登った日 ドラマ

 小説家を目指すが芽の出ない青年と死期が迫る89歳の祖母との1年間の物語。
若林宏明 7 0 0 01/23
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第一稿

春夏秋冬の構成になります。
春までのシナリオを掲載します。

○神社・長い階段
 正月、初詣。
 ゆっくりと階段を登る藤宮つや(89)。
 片手にチワワ、もう一方の手で ...続きを読む
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春夏秋冬の構成になります。
春までのシナリオを掲載します。

○神社・長い階段
 正月、初詣。
 ゆっくりと階段を登る藤宮つや(89)。
 片手にチワワ、もう一方の手でつやを支えて登る藤宮摂子(54)。
 つや、途中で足を止める。
摂子「おばあちゃん、ゆっくり行きましょう……」
つや「気持ちが悪い……」
摂子「……」
 つや、顔色が悪い。

○藤宮の家・宏樹の部屋
 藤宮宏樹(28)がパソコンで小説を書いている。
 手を止めてコーヒーを飲む。
 パソコンに向かおうとするが筆が進まない。
 机の脇にある小説を開き、ノートに写しとる作業をする。
 その作業にも疲れる。
 ケイタイを手に取る。
 ケイタイをかける。
宏樹「どうしたの?」
摂子の声「おばあちゃんが神社で動けなくなって救急車呼んだの、で、今は病院」
宏樹「……」

○病院前
 宏樹、車を止める。
 つやと摂子が待っている。

○走る車の中
摂子「お医者さんは特に何でもないって」
つや「本当かね」
摂子「疲れじゃないかって、ただ顔に黄疸が少し出ているって言ってたわ」
つや「何かの病気じゃないかね」
宏樹「……たしかに顔、黄色いね、朝は普通だったけど」
つや「絶対何かの病気だよ」
摂子「またいつもの病気じゃないかが始まった」
つや「神社では気分が本当に悪かった」
宏樹「あんな長い階段登るからだよ、90歳のおが」
つや「90は来年だよ」
摂子「おばあちゃんはしゃがみ込んじゃうし、片手には桃ちゃんだし、今日はどうしようかと思ったわ」
 チワワの桃をよしよしするつや。
摂子「お医者さんには言われたけど、様子を見てまた調子が良くないなら大きい病院を受診した方がいいって」
宏樹「結局、町医者だからわかんないんだよ」

○つやの部屋
 つや、仏壇に線香を上げる。
 夫と息子の遺影。

○リビング
 つや、摂子、宏樹の3人の夕食。
 おせちとお雑煮。
 バラエティー番組がついている。
 ケイタイをいじる宏樹。
宏樹「自分らもテレビ見ながら食べてるし」
摂子「ご飯終わったらにしたら」
つや「この子嫌いだよ、媚び売って」
摂子「いま、売れてるのよ、何とかってグループのひとり」
 宏樹、ケイタイを置きテレビを見ながら食事をする。
 タレントが話している。
タレント1「僕、マザコンじゃないんですが、大のおばちゃん子だったんですよ」
タレント2「おばあちゃん子は大人になると甘っちょろい子に育つんですよ」
摂子「だって、そうなの?」
宏樹「え? どうかな」
つや「やだね、この子……」
摂子「今、その女の子の話じゃなくて」
つや「時代劇かサスペンスやってないの、この番組つまらないよ」
宏樹「おばあちゃんにさ、ネット動画教えたら一日時代劇かサスペンス見てんだろうね」
摂子「サスペンスは9時からでしょ、でもさっき夕方もサスペンス見てたじゃない」
宏樹「じゃ、この人はどうなの」
 番組の俳優を指差す。
つや「いいね、好きだね」
摂子「おばあちゃん、イケメン好きだからね、ねえ、宏樹」
宏樹「うん?」
摂子「今週の水曜日、予定ある?」
宏樹「ないよ、夜バイトだけど、日中は小説書く予定ぐらい」
摂子「おばあちゃんと大学病院に行こうと思うの、検査して貰おうと思うの。あそこ時間かかるから、行きだけ車で送ってもらいたいの」
宏樹「いいよ」
摂子「じゃあ、おばあちゃん水曜日、病院行きましょう」
つや「私はなんかあると思うの、顔の黄色いのは治ったけど」

○大学病院
 医師と摂子。
医師「長くて半年です。胆管ガンは痛みもなく発見しづらいんです」
摂子「……」
医師「高齢のためと、それから場所が場所ですので手術はできません」
摂子「……お腹の管は……」
医師「そのままです。様子を取り替えます」
摂子「これからずっとつけたまま」
医師「はい、つけておかないと詰まってしまいます」

○同・病室
 つやと宏樹。
つや「早くうちに帰りたい」
宏樹「検査次第では帰れるよ」
つや「横のおばあさんのイビキがうるさくて」
宏樹「そういうこと言わないの」

○同・通路
 摂子、病室に向かっている。
医師の声「ご本人次第ですがお家に戻られるのもいいかと思います。このまま病院で過ごすよりも住み慣れたご自宅で過ごすのも一つの選択かと思います。症状が悪化したらヘルパーさんを依頼することもできますし」
 摂子の前をお見舞いに来た若い母親とその子どもが通り過ぎる。
 少女はニコニコ笑って飛び跳ねている。

○病室
摂子「先生の話だと今週には退院できるって」
つや「検査結果は大丈夫だったのかしら」
摂子「うん、大丈夫」
つや「これはまだ取れないのかね」
 管を指す。
摂子「今は退院したばかりだから」
つや「退院したら外せるかと思ったのにね」
 宏樹、摂子の表情を見ている。

○エレベーター前
 看護師たちが集まり口々に退院を讃える。
 エレベーターがしまる。
 笑いながら手を振る看護師たち。
 まるで最後の別れのよう。

○走る車の中
宏樹「おばあちゃん、よかったね」
摂子「……」
 宏樹、摂子をチラッと見る。
摂子「宏樹…本当残念だけど、おばあちゃん、あと半年だって」
宏樹「え?」
摂子「病院の先生が言ってた。長くて半年だって」
宏樹「え? マジかよ……」
摂子「うん……」
宏樹「オレ、嫌な予感したんだよ、新年の初詣に倒れた時さ、一年の一番おめでたい時にさ」

○宏樹の部屋
 宏樹、小説を書こうとするが進まない。
 ネットで胆管ガンを調べる。
 胆管ガン、老人と打つ。
 黄疸、手術はできない、余命は短いの文字。
宏樹「何でだよ……」

○回想・居間
 酔っ払って倒れている宏樹の父、欣二。
 喘息の発作が出ている。
欣二「水だよ、水」
 出かけようとする子どもの宏樹とつや。
つや「自業自得だよ」
欣二「ばあちゃん、宏樹まで、どこいくんだ」
つや「二人で夕飯食べに行くんだよ」
欣二「まだ夕方だ」
つや「あんたの姿を見たくないから行くんだよ」
欣二「摂子は? 摂子はどうした」
つや「摂子さんは実家に帰ったよ」
欣二「あのアマ」
つや「ひろちゃん行くよ」
欣二「水と薬だよ、ババア、宏樹、おい、お前持って来い」
 宏樹、軽蔑の眼差し。
欣二「何だ、その顔は」
 欣二、宏樹に物を投げつける。
つや「やめなさい、行くよ」
欣二「ババア、宏樹ババアと出かけたって楽しくも何ともないぞ、水取ってこい」
つや「ひろちゃん、行くよ」
欣二「まてくそババア、おい宏樹」
宏樹「……」
欣二「お父さんに水持って来い、なあ、ババアにくっついててると、軟弱な男になるぞ」
 つや、宏樹を連れて外に出る。
 欣二、物を投げる。
 宏樹に当たる。
欣二「ババアの味方したってな、オレより先に死ぬんだ。オレのいうこと聞かないとお前の将来なんてないぞ。ババアが死んだらお前の面倒なんてみねえから、お前はひとりになるんだ。ざまあみやがれ」

○電車の中
 つやと宏樹。
つや「夜は中華屋さんにしようね」
宏樹「うん」
つや「まだ夕飯まで早いから映画みようか」
宏樹「映画?」
つや「観たいのがあるんだよ」
宏樹「へえー」

○映画館
 映画に感動している宏樹。

○中華屋
 湯気。
 感動して放心状態の宏樹。
つや「面白かったかい?」
宏樹「うん」
つや「さあ、食べな」

○藤宮家・居間
 つやと欣二と宏樹。
欣二「オレの飯はどーした」
つや「ないよ」
欣二「ふざけやがって」
 宏樹、欣二を見ている。
 欣二、宏樹を小突く。
欣二「何見てんだよ」
つや「やめなさい」
欣二「うるせえ、こいつの顔がむかつんだよ」
つや「宏樹、行くよ」
 部屋を出る。

○つやの部屋
 つやと宏樹、布団を二つひいて寝ている。
 つや、寝ている。
宏樹「おばあちゃん……」
 つや、返事がない。
 宏樹、心配で起き上がりつやを見る。
宏樹「おばあちゃん」
つや「なんだい? 私はまだ死なないよ。いつまでもひろちゃんの味方だよ」
 目を瞑ったままのつやを見る宏樹。
宏樹「おばあちゃん、今日の映画よかったね」
つや「そうだね」
 つやの姿が消える。

○つやの部屋
 つやの寝ていた場所を見つめる宏樹。
 その横で仏壇の前に座る摂子。
 欣二の遺影を見つめる摂子。
宏樹「昼間はオレがおばあちゃんの面倒みるよ」
摂子「たぶん、トイレにも行けなくなるよ」
宏樹「歩けなくなったから、ヘルパーさんに頼めばいい」
摂子「大変だよ」
宏樹「大丈夫、オレ、バイト以外はずっと家だし。おばちゃんの部屋の近くで小説書くよ」
摂子「……」
宏樹「オレ、全然負担じゃないよ」

○桜のある道
 春。
 つやの乗った車椅子を押す宏樹。
つや「ひろちゃん、綺麗だね」
 ケイタイを見ている宏樹。
 小説講座の案内のページ。
つや「忙しいのに悪いね」
宏樹「全然」
つや「お友だちと桜を見に行ってその時もとても綺麗だった」
宏樹「友だちって? 亡くなった関口さん?」
つや「いや、もっと昔、私が19の頃」
宏樹「おばあちゃんの19か」
つや「凄いでしょ、桜と同じくらい綺麗だったのよ」
宏樹「へー、前に写真見せてもらったかな」
つや「あの写真より持っと前」
 つやが前を見ると、友だちの久子が姿を現す。
 和服姿である。
 一度、振り返るとそのまま前に進んで消える。
つや「久子……」
宏樹「うん?」
つや「桜見せてくれたから、お昼は私がご馳走するわね、何が食べたい?」
宏樹「おばあちゃんが食べたいものにしよう」
つや「摂子さんからはネギはダメって言われただけだから何でもひろちゃんが食べたいもので大丈夫」

○大学病院・診察室
 医師と摂子。
医師「ネギは管につまりますので控えるようにお願いします」

○釜飯屋
 つやと宏樹。
 店員がつくねを運んでくる。
宏樹「おばあちゃんとオレが好きなものといえば釜飯」
つや「それにここのつくね」
宏樹「少し油で揚げてるのかな、このつくね本当に美味しい」
 釜飯の蓋を開けると湯気が上がる。
つや「ここの釜飯をひろちゃんと食べるのもこれが最後かね」
宏樹「何言ってんだよ、おばちゃん、はい、三つ葉、おれこれは嫌い」
つや「お腹のこれ、いつ取れるのかね、邪魔で仕方ないよ」
宏樹「……」
つや「今日はもう疲れたね、帰ろうか」

○同・駐車場
 店の近くを清流が流れている。

○車の中
つや「川の音が気持ちがいいわね」
宏樹「そうだ、おばあちゃん、鮎好きだよね、今度食べよう」
つや「嬉しいね」

○川
 川の音がやがて喘息の呼吸音へ。

○寝室
 苦しくて眠ることも出来ない欣二。
つや「自業自得だよ」
欣二「そうだ」
 いよいよ欣二、動けなくなり気絶する。

○病室
 寝ている欣二。
 つや、摂子、宏樹。
 苦しそうに口を開くが声が聞こえない。
欣二「ばあ…ちゃん」
つや「うん?」
 欣二、つやの手を掴む。
欣二「オレはどこへ行くんだろう」
つや「大丈夫だよ、あんたは大丈夫」
欣二「そうか、大丈夫か……」
つや「何も気にすることはないよ」
欣二「お…かあちゃん、ごめんな」
 欣二、絶命する。

○車の中
 つやと宏樹。
つや「ひろちゃん……鮎は食べには行けないね……買ってきて摂子さんに焼いてもらおう」
宏樹「大丈夫だよ、今日みたいにたまには行こうよ」
つや「そうだね…でも今日は大分無理して疲れたよ」
宏樹「早く帰って休もう」
つや「そうだね…ひろちゃん…」
宏樹「うん?」
つや「私は治るのかね、このままこの病気で死ぬんじゃないかね」
宏樹「大丈夫だよ、退院できたんだし」
つや「そうかね……」

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