生徒指導

・清水　萌（高校二年生）
・田中（清水の担任、女、担当教科は古典）

放課後。生徒指導室に清水、田中、二つの机を挟んで対面で座っている。

清水　先生、私何で呼ばれたんですか？
田中　心当たりはないの？
清水　はい！
田中　すがすがしいわね
清水　すみません！
田中　まぁいいわ。呼ばれた理由はこれよ

田中、机からプリキュアの変身道具を出す

清水　あ
田中　休み時間あなたの机の上にあったの
清水　いつの間に
田中　あなたのよね？
清水　はい……
田中　これ、化粧道具よね？
清水　（煮え切らない返事）
田中　なによ。
清水　いやぁ……
田中　化粧道具でしょ？

田中、変身道具を開けようとする

清水　あ！はい！化粧道具です！あのあれです！目の上に引く、チャ、チャコペンみたいな
田中　チャコペン？アイシャドウのこと？
清水　あ、はい！それ。
田中　ふーん、まぁどっちにしても持ってきちゃダメでしょう
清水　すみません……
田中　（溜息）あなた最近どうしたのよ
清水　……
田中　ここ一年で遅刻も多くなったし、学力だって段々下がってきてるみたいじゃない。
清水　いやー、ほんとまいっちゃいますよねー
田中　授業中の態度も悪いし、おまけに今日は化粧道具なんて持ってきて
清水　ダメダメじゃないですかー私―
田中　清水さん、笑い事じゃないのよ。
清水　はい……すみません
田中　ほんと、一年間何があったのよ
清水　……
田中　一年生の時はもっと真面目だったでしょう？成績もよかったし
清水　……
田中　二年生なった途端、ルーズになったていうか不真面目になったわよね
清水　……はい
田中　この一年間、何してたのよ？
清水　……プリキュア……やってました
田中　（溜息）どうりでプリキュアなんてやってるから……
清水　はい……
田中　……ん？
清水　ほんと、おっしゃる通りです。
田中　え？
清水　いや、だから、プリキュアなんてやってるからって
田中　え？プリキュア？え？
清水　あ、先生、もしかしてプリキュア知りませんか？
田中　いや知ってるけど、子供の時見てたけど
清水　あ、それです！
田中　ん？なにが？
清水　え、だから、私が一年間プリキュアやってて
田中　え、あなたプリキュアなの？
清水　はい
田中　……
清水　まぁ、ぶっちゃけ一年間ていうか後半からの加入なんで二年生の七月ぐらいですかね。プリキュアになったの。
田中　（笑う）あなたね、きつめの現実逃避はやめなさい
清水　いや、マジですって！
田中　いくらなんでもプリキュアって
清水　あ！それ、ほんとは変身道具ですよ
田中　（爆笑）これが、変身道具？ただの化粧道具でしょ！

田中、変身道具を開ける
照明、緑の光
音響、「ふたりはプリキュア　OP」
清水、音に合わせてくるくる回る

清水　真冬の海に突き刺す一筋の拳、キュア漆原京子！
田中　……
清水　ちょっとー急にやめてくださいよー
田中　なに今の
清水　それ開くと変身しちゃうんですよーなんで、急に開かないで

田中、もう一回開く
照明、緑の光
音響、「ふたりはプリキュア　OP」
清水、音に合わせてくるくる回る

清水　真冬の海に突き刺す一筋の……

田中、変身道具を閉じる
音響、CO

清水　拳！
田中　え、なに⁉この音と光、どこから出てんの⁉
清水　うわ！急に止めないでくださいよー！変身止めるとかプリキュア界のタブーですよー！
田中　これ、化粧道具じゃないの⁉
清水　まぁ、ある意味プリキュアになるための化粧道具ですかね
田中　ほんとにプリキュアなの？あなた。
清水　はい！
田中　……そう
清水　びっくりしますよねー
田中　お、教え子がプリキュアなんてせ、先生として誇らしいわ。
清水　ありがとうございます！
田中　ていうか、見た目は変わらないのね
清水　あー、今あいついないんで
田中　あいつ？
清水　なんか変な喋る妖精
田中　あ、マスコットキャラみたいな？
清水　そうです！あいついないとプリキュアにはなれないんです
田中　あ、だから変身しなかったのね
清水　なんで、これももう持ち歩く必要ないんですけどね
田中　そういえば、キュアなんて言ってた？
清水　え
田中　変身した時いってたじゃない！
清水　知りたいですか？
田中　ええ！
清水　……キュア漆原京子です
田中　うる……え？
清水　キュア漆原京子
田中　フルネーム？
清水　はい
田中　普通、なんかもっと可愛い名前じゃないの？
清水　私も初めて漆原になった時思いました。あ、プリキュアの名前って漢字でもいいんだって。
田中　他の子もなの？
清水　いや、他の子はキュアヒップホップとかです
田中　なんで、あなただけ？
清水　私、ミュージックプリキュアの演歌担当なんですよ。
田中　演歌担当？
清水　はい！演歌担当
田中　プリキュアって子供向けよね
清水　私もそう思います。
田中　まぁ……親御さん人気とかあるものね
清水　親御さんって言うか、一世代超えておじいちゃん人気ですね
田中　そっか
清水　しかも技名、津軽海峡冬景色って言うんですけど
田中　石川さゆりよね！
清水　いや、元ネタ知らないですし
田中　まぁ、四十年前の曲だしね
清水　ていうか、演歌そこまで興味ないですし
田中　でも……羨ましいわ！
清水　漆原ですか？
田中　漆原っていうかプリキュアね
清水　羨ましいですか？
田中　羨ましいわよ！プリキュアなんて女の子の夢じゃない！
清水　んーそうですかね
田中　私もプリキュアやってみかったわ！
清水　結構、大変ですよ
田中　あら、そうなの？
清水　朝でも昼でもお構いなしに怪人出ますし
田中　あ……だから遅刻とか多かったの？
清水　はい、ほんと迷惑ですよ
田中　授業中急に窓から飛び降りてたのも？
清水　そうですね
田中　じゃあ、学力が下がっていったのも？
清水　そうです！プリキュア忙しいし、授業もまともに受けられないし
田中　だから二年生になった途端に
清水　それに高校二年生にもなって中二病みたいなことさせられて
田中　確かに、ちょっときついわよね
清水　他の仲間とかほとんど中学生で
田中　あー
清水　あいつらめっちゃ生意気だし、すごいため口なんですよ
田中　中学生だからね……
清水　何が一番腹立つって、私がキュア漆原京子の時、漆原って呼んでくるんですよ！
田中　だってあなた名前長いじゃない
清水　でも呼び捨てって！せめてキュアをつけろキュアを！
田中　……学校生活も人間関係も大変なのね
清水　でも一番大変なのは……
田中　大変なのは？
清水　……
田中　清水さん？
清水　学校生活も人間関係も大変ですけど
田中　ええ
清水　案外プリキュアの生活、楽しかったんです
田中　あら、意外ね。私てっきりプリキュア嫌なのかと
清水　嫌なとこもありましたけど……
田中　けど？
清水　仲間と協力して強い敵、倒すの楽しかったり、生意気なやつらばっかだけど、仲間も別にきらいじゃなかったし。
田中　……
清水　気づけばそんな日々が、非日常的な日々が私の日常になってて
田中　嫌なことだけじゃなかったのね。
清水　はい。むしろプリキュアの生活、気に入ってたり
田中　じゃあ
清水　でも、もう最終回を迎えたんですよ。
田中　え？
清水　ラスボス倒して、世界、平和になったみたいで
田中　……
清水　だから、今は元の生活に戻ったんです
田中　そうだったのね
清水　それで……なんか物足りなくて
田中　物足りない？
清水　プリキュア以上に楽しい毎日ってこれからあるのかなって
田中　……
清水　変身道具もずっと持ち歩いてて
田中　……
清水　もうプリキュアになれないのに
田中　清水さん……
清水　こんなこと思っちゃうなら、プリキュアなんてやらなければよかった。なんて……

音響、「ふたりはプリキュアOP」FI

田中　でも、プリキュアなんて素敵な体験なかなかできないわよ？
清水　そうですけど
田中　それにね。プリキュアが最終回を迎えても、あなたの人生はまだ最終回を迎えてないでしょう？
清水　でも
田中　きっと楽しいことはまだまだあるわよ！
清水　でも、頭も悪くなったし、大学……行けるかな
田中　清水さん、あなた学校の授業を受けない代わりに何を学んだの？
清水　え？
田中　プリキュアから何を学んだの？
清水　諦めない心……どんなに強い相手でも諦めなければ勝てること……
田中　それがあなたが大学に行けるかの答えなんじゃない？
清水　……
田中　頑張りなさい！今からでも頑張れば遅くないわ。
清水　ほんとですか？
田中　だって元プリキュアでしょ！絶対いけるわよ！
清水　先生、ありがとうございます。
田中　いいのよ！あなたがプリキュアだったなんて正直驚いたけど。
清水　私……早速、勉強します！頑張ります！受験！
田中　ええ！受かるって信じてるわ！
清水　はい！じゃあ、ありがとうございました！
田中　頑張ってね

清水、走って教室を出ていく

音響、FO

終わり