人生リハーサル コメディ

※原案ありの脚本となります https://note.com/info/n/n2293e820722f 大学生の竜之介(20)は、幼い頃から『同じ日が二回繰り返される』という摩訶不思議な現象の中で生きていた。 一回目の一日では悪逆非道の限りを尽くし、二回目の一日では慎ましく過ごすという歪んだ二重生活を送っていた竜之介だったが、ある日を境にその生活に綻びが生じて…
市川家の乱 7 0 0 11/05
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第一稿

《登場人物》
森田竜之介(5)(20) 大学生
丸山亮太(20) 竜之介の友人

莉奈(20) 大学生
石毛(20) 大学生

アナウンサー男
アナウンサー女
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《登場人物》
森田竜之介(5)(20) 大学生
丸山亮太(20) 竜之介の友人

莉奈(20) 大学生
石毛(20) 大学生

アナウンサー男
アナウンサー女
警官
竜之介の母
少年時代の竜之介
看守
その他



○マンション・外観(朝) 
  低階層の建物。

○竜之介の部屋
  スマホのアラームが鳴る。
  ベッドで寝ていた森田竜之介(20)、アラームをとめ、起き上がる。 

   ×   ×   ×  

  竜之介、寝ぼけ眼でテレビをつける。  
  朝のニュース番組が流れる。

○ニュース番組の映像
  男女のアナウンサーが立っている。
男アナ「さて鈴ちゃん。今日2月2日は何の日かわかるかな」
女アナ「えーと…2と2でニンニン! 忍者の日!」
男アナ「残念。正解は『夫婦の日』」
女アナ「この前もありませんでしたっけ? 夫婦の日」
男アナ「それは11月22日。『いい夫婦の日』じゃないかな」
女アナ「じゃー今日は『並の夫婦の日』なんですかね」
男アナ「いやいや」

○竜之介の部屋
  竜之介、着替えながら、何となしにテレビを見ている。

○道 
  竜之介、歩いている。
  駐車場にベンツが停まっている。
  竜之介、ベンツに近寄る。
  竜之介、ボンネットのエンブレムを掴むと、へし折る。
  竜之介、平然と歩き出す。
竜之介M「問題ない」

    ×   ×   ×  

  若い女、竜之介の正面からやってくる。  
  竜之介、すれ違いざま、女のスカートをめくる。
女「?!」
  竜之介、平然と歩き出す。
竜之介M「問題ない」

    ×   ×   × 

  竜之介、交番前にくる。
  交番前に警官の姿。
  竜之介、これ見よがしにポケットから果物ナイフを取り出す。
  警官、驚く。
  竜之介、警官に襲いかかる。 
  二人、揉み合いになる。
  警官、竜之介から距離をとると、拳銃を取り出す。
  警官、銃を構える。
警官「ナイフを捨てろ!」 
  竜之介、ナイフを舐めて挑発する。
竜之介M「問題ない」
  竜之介、ナイフを手に警官に飛びかかる。
竜之介M「問題があるのは、この世界だ」 
  轟く銃声ーー

○竜之介の部屋(朝)
  スマホのアラームが鳴る。 
  ベッドで寝ていた竜之介、かっと目を見開く。
  竜之介、起き上がり、テレビをつける。  
朝のニュース番組が流れる。

○ニュース番組の映像
  男女のアナウンサーが立っている。
男アナ「さて鈴ちゃん。今日2月2日は何の日かわかるかな」
女アナ「えーと…2と2でニンニン! 忍者の日!」
男アナ「残念。正解は『夫婦の日』ーー」

○竜之介の部屋
竜之介「…」
  竜之介、テレビを消す。

○道 
  竜之介、歩いている。
  竜之介、駐車場に停まっているベンツの前を素通りする。
  
     ×   ×   × 

  若い女、竜之介の正面からやってくる。  
  二人、何事もなくすれ違う。 

     ×   ×   × 

  交番前。
  警官が立っている。 
  竜之介、素通りする。

○大学・教室
  竜之介、座っている。
  竜之介、カバンから日記帳を取り出して開く。
  カレンダー形式の日記帳だ。
  一つ奇妙なのは、全ての日付のマスが上下に二等分されている点だ。  
  竜之介、2月2日のマスの上半分に次の言葉を書き込む。
  『警官とやりあった』
声「よっ」
  竜之介、慌てて日記帳を閉じる。 
  竜之介、顔をあげる。
  笑顔の丸山亮太(20)が立っている。
  竜之介の前方の席に、石毛(20)と莉奈(20)の姿。
石毛「(振り返り)おう亮太」
亮太「おう」
莉奈「(自分の隣の席を示し)亮太君、ここ空いてるよ」
亮太「悪い。俺はここでいいや」 
  と亮太、竜之介の隣に座る。
莉奈「(不満げ)」
亮太「竜之介、今日も俺んちくるだろ?」
竜之介「うん」
亮太「ついに買っちまったよ。これ(とハンドルを回すジェスチャー)」
竜之介「マジで?」
亮太「マジ」
竜之介「結局買うなら最初から買えばよかったのに」
亮太「たしかにな(と笑う)」

○亮太の部屋(夜)
  竜之介と亮太、テレビの前に座っている。
  二人、マリオカートをプレイしている。
 亮太、慣れない動きでハンドル型コントローラーを操作している。

      ×   ×   × 

 亮太、ハンドルを握りしめたまま寝落ちしている。
竜之介「(笑う)」
  竜之介、カバンを手にする。
  竜之介、日記帳を取り出し、開く。
  2月2日のマスの下半分に次の言葉を書き込む。
  『亮太んちでマリカー』
  2月2日のマスに『警官とやりあった』と『亮太んちでマリカー』の2つが並ぶ。
竜之介M「いつだったろう。一日が2回あることに気づいたのはーー」

○竜之介の家・居間(回想)
  竜之介(5)、壁にかかったカレンダーをじっと見ている。
竜之介「お母さん!」
  と台所へ駆けてゆく。

○同・台所
  母、カレーを作っている。
  竜之介、やってくる。
竜之介「あのカレンダー、おかしいよ」
母「竜之介、カレーもう少し待ってね」
竜之介「カレンダー、おかしいよ」
母「カレンダー? おかしくないわよ」
竜之介「おかしいよ」
母「どこがおかしいの?」
竜之介「だってね、ほんとは昨日も月曜日で、今日も月曜日なんだよ。二回続くんだよ」
  母、お玉でカレーを味見する。
竜之介「あとね、今日になるとね、みんなね、昨日のことは忘れちゃうんだよ。でもね、今日のことはね、明日も覚えてるんだよ」
母「(あしらう)わかったから。戸棚からお皿出すの手伝って」

○(戻って)亮太の部屋
  竜之介、日記帳を眺めている。
竜之介M「リセットされる1回目の一日では、ムチャをやり」
  日付のマス上半分に『金塊盗んだ』『カーチェイスした』など、ものものしい言葉が並ぶ。
竜之介M「明日に繋がる2回目の一日は、ただただ無難に、おとなしくーー」
  日付のマス下半分には『亮太んちでマリカー』という言葉がずらりと並ぶ。
竜之介M「そうやって今日も一日が過ぎてゆくーー」

○マクドナルド・店内(数日後)
  竜之介と亮太、テーブル席で食べている。
亮太「楽勝だよ」 
  とポテトを口に放る。
亮太「(むしゃむしゃ)タラレバの話で、同じ日が2回繰り返される人生だったら何するって、そういう話だろ? 『月月、火火』みたいな」
竜之介「(頷く)」
亮太「楽勝。超絶イージーモード。要はさ、2回目の一日が本チャンで、1回目は様子見というかリハーサルみたいなものだから、まずリハーサルで仮想通貨の値動き覚えて、本番で取引。誰でも億万長者になれる」
  竜之介、亮太のポテトをつまんで食べる。
亮太「試験の答えはわかるわ、事故っても回避できるわで、そんな人生だったら超絶だよなあ」
竜之介「(ポテトをむしゃむしゃ)慣れてくるとダルい。本番のためにリハーサルするのも」
亮太「え、何それ、経験者は語るみたいな…てか人のポテト食いすぎじゃね」
竜之介「自分なら、リハーサルでムチャクチャ暴れて、本番は何もせずに静かな人生を歩む、とかかな」
亮太「ムチャクチャ暴れるってどんなよ?」
竜之介「(突然大声で)ファック!!!」
  静まり返る店内。
  亮太、あ然とする。
  竜之介、立ち上がる。
竜之介「(咆哮する)ファック!! ファック!! ファーーーーック!!!…みたいな感じで」
亮太「(動揺して)お、おい…どうしたんだよ」
  竜之介、近くにいた女の店員へ、
竜之介「すいませーん!」
  女の店員、恐る恐るやってくる。
竜之介「やらしてください!」
  店員、絶句する。
亮太「…」
竜之介「みたいな感じで」
亮太「(焦りながら店員へ)あ、いや、冗談です…っていうか…もう出ますんで」 
  店員、腹を立てながら去る。
  竜之介、席にすわる。
亮太「おい、出ないとやべえぞ」
  竜之介、両手を組み、まじまじと亮太を見つめる。
竜之介「実は俺、お前のことがずっと好きだった」
亮太「は?」
竜之介「お前が好きだ」
亮太「さっきからクスリでもやってんのか。いいから行くぞ(と促す)」
竜之介「お前も好きなんだろ。俺のこと」
亮太「な…」
竜之介「お前とキスしたい」
亮太「ふざけんなよ。てかその喋り方なんなんだよ。冗談でも笑えねえぞ」
竜之介「俺は、お前と、キスがしたい」
  亮太、戸惑う。 
  しばし見つめ合う2人。
  ギラギラとした竜之介の瞳。
亮太「(目をそらす)…勝手にしろよ」
竜之介「今からお前んちいくぞ」
亮太「勝手にしろっていってんだろ」
  亮太、立ち上がり、トレーを持って歩き出す。
竜之介「亮太」
  亮太、立ち止まる。
竜之介「キスだけじゃ済まないぞ」
亮太「…勝手にしろよ」

○亮太のマンション前(夕)
  少年が壁にもたれて携帯ゲームで『テトリス』をしている。

○亮太の部屋 
  竜之介と亮太、入ってくる。 
   二人、見つめ合う。 
  闘牛のように額を突き合わせる。
竜之介「お前、ずっとこうしたかったんだろ?」亮太「…お前ってのはやめろ」
  二人、柔道のように取っ組み合いをし、ベッドに倒れ込む。

○テトリスのゲーム画面
  長い棒がブロックの穴に入る。
ボイス「テトリス!」
  長い棒がブロックの穴に入る。
ボイス「テトリス!」

○亮太の部屋(夜)
  ベッドに竜之介と亮太。 
  上半身裸の亮太、起き上がる。
亮太「ビール飲むか?」
竜之介「…いや」
亮太「(笑う)竜之介は酒弱いもんな」
  亮太、キッチンへ向かう。
竜之介「(亮太へ)亮太、莉奈って女どうなの?」
亮太の声「え?」
竜之介「教室で亮太に声かけてくる」 
  亮太、缶ビール片手に戻ってくる。
亮太「あー。莉奈か」
竜之介「亮太に気があるぞ」
亮太「それはない」 
  亮太、竜之介の隣に座る。
亮太「どうもこうも俺には竜之介がいるから別に」
竜之介「…実はさ、こんなこともう100回以上繰り返してる」
亮太「?」
竜之介「100回以上亮太にコクってきたけど全部成功。100パーの確率でベッドに直行。入れ食い状態」
亮太「(わからない)何の話だよ」
竜之介「けど、それはリハーサルでの話。本番じゃコクったことはない。ビビりなんだ。もしかしたらがあるんじゃないかって…」
亮太「…よくわかんねえけど、万が一にも俺が竜之介を拒否るわけなんかねえだろ」
竜之介「…」
亮太「つまみ持ってくんの忘れた」
   と立ち、キッチンへいく。
竜之介「(呟く)その万が一が怖い…」 
  竜之介、眠くなる。
竜之介「(嘆く)あー。リハーサルが終わってしまう…」 
  竜之介、眠りに落ちる。

○大学・教室(数日後) 
  講義中。 
  竜之介、一人で座っている。
  前方の席に亮太と莉奈の姿。
  何やら仲睦まじそうに小声で話している。
  竜之介、二人を見て、
竜之介「ファーーーーック!!!」 
  と叫びながら赤子のように地団駄を踏む。
  教室内、静まり返る。 
  竜之介、さらに激しく地団駄を踏む。
竜之介「ファーーーーック!!!」
亮太「(驚く)…りゅ、竜之介?」
  竜之介、立ちあがる。
  亮太と莉奈のもとへいく。
竜之介「(亮太へ)お前は、俺の、隣に座れ!!」
亮太「…」
  近くにいた石毛、竜之介を見て、
石毛「森田…クスリでもやってんのか」
竜之介「(石毛の耳元で)ファーーーーック!!!」

    ×   ×   ×  

講義中。 
  竜之介、一人座っている。 
  前方の席に亮太と莉奈。
  何やら仲睦まじそうに小声で話している。
竜之介「(二人を見て)…」
  日記帳の日付マスの上半分に書かれた以下の文字。 
  『石毛をファック』
  竜之介、二人を見つめたまま唇を噛む。 
  竜之介、ペンを握りしめ、ノートに『ファック ファック ファック』と書き殴っていく。

○マクドナルド・店内(翌日)
  竜之介、席に座っている。
  亮太、やってくる。
亮太「どうした。急に呼び出して(と竜之介の正面に座る)」
竜之介「おう。座れ」
亮太「座ってるよ。てか何だよその喋り方」
竜之介「決めた。今日こそお前にコクる」
亮太「…?」   
竜之介「そういうことだ」         
亮太「…何の話だよ」
竜之介「いってるだろ。今日お前にコクるって」
亮太「意味わかんねえし」
竜之介「(レジの方を顎でしゃくり)お前も注文してこい」
亮太「いいよ。てかさっきからお前って何だよ」
竜之介「(とりあわず)俺、もう疲れたんだわ」
亮太「?」
竜之介「リハーサルじゃ散々お前にコクってきたけど、空しいだけだわ。本番で勝負かけることにした」
  とコーラを飲み干す。
亮太「(怪訝そうに)…竜之介。大丈夫か?」
竜之介「今日お前にコクるからな。忘れるな。今日コクるからな」 
  と立ち上がる。
  竜之介、トレーを持って歩き出す。
亮太「(焦る)ちょっ、待てよ…」
  竜之介、立ち止まらない。
  亮太、追いかける。
亮太「おい。今日っていつだよ? 今は違うのかよ? 今日っていつだよ!」
  竜之介、立ちどまる。
  竜之介、ギラついた瞳で亮太を見る。

○テトリスのゲーム画面
  長い棒がブロックの穴に入る。
  ボイス「テトリス!」
  長い棒がブロックの穴に入る。
  ボイス「テトリス!」

○亮太の部屋(夜)
  テレビにマリカーのゲーム画面。
  亮太、竜之介を後ろから抱きしめながら、マリカーのハンドルを握っている。
亮太「(笑う)竜之介の話はさっぱりわからん」
竜之介「赤甲羅きてるぞ」
亮太「わかってる(とハンドルを器用に操作する)」
竜之介「…俺のいってること、信じられないだろ」
亮太「まァな」
竜之介「トゲゾー甲羅だ」
亮太「(ハンドルを操作し)1日が二回繰り返される人生で、今日はリハーサル日。そんなこと突然いわれたってな」
竜之介「何度も説明してる。だけどその度に亮太は忘れてしまう。リハーサルだから」
亮太「そうか。じゃ本番で説明しろよ」
竜之介「するよ。今日誘ったのと同じ時刻にマックで告白する。ぶっつけ本番だ」
亮太「っしゃ1位ゲット…(竜之介へ)楽しみに待ってる」
  竜之介、少し考え、
竜之介「モスにする。そっちのがリッチだ。モスでコクるわ…いやマックにしとくか」
亮太「(笑う)どっちでもいいよ」
竜之介「…信じていいんだな。俺は本番で亮太を失うのが怖い」
亮太「竜之介を裏切ると思うか?」 
  亮太、竜之介を抱きしめる。
竜之介「…やっぱりモスでいくわ」

○竜之介の部屋(朝) 
  竜之介、ベッドから目覚める。 
 
      ×   ×   ×

  竜之介、日記帳を開く。 
  2月7日のマスの上半分に『亮太んちに泊まった』。 
  竜之介、空白である下半分のマスを見つめる。
  竜之介、日記帳を閉じる。
  竜之介、深呼吸する。 

  ×    ×    ×
  
  着替えた竜之介、鏡の前に立つ。
  竜之介、 整髪料を塗りたくる。
竜之介「(決め顔)」
  竜之介、自分の服装を見直す。
竜之介「…いや、違うな」

○公園
  亮太、ベンチでスマホゲームをしている。

○竜之介の部屋
  別の服に着替えた竜之介。 
  竜之介、鏡を見て、
竜之介「…違うな」
  竜之介、ふと時計を見て、
竜之介「まずい。もうこんな時間か」

○公園 
  亮太、スマホゲームをしている。
女の声「亮太」 
  亮太、顔をあげる。 
  笑顔の莉奈が立っている。
莉奈「何してんの」
亮太「いや」
  莉奈、隣に座る。
莉奈「ゲーム?」
亮太「うん、まあ」 
  と亮太のスマホにLINEメッセージ。
莉奈「彼女?」
亮太「竜之介から」
莉奈「…」
  亮太、竜之介にLINEを返信している。
  莉奈、笑みを浮かべる亮太を見て、 
莉奈「もしかして亮太と森田君って付き合ってる?」
亮太「(手がとまる)え」
莉奈「噂があるから。そういうこと」
亮太「そんなわけないし」
莉奈「ほんと?」
亮太「んなわけないって。何だよそれ(と笑う)」
莉奈「だよね…安心した」
亮太「…」

○モスバーガー・外(夕)
  日が暮れかけている。

○同・店内 
  竜之介、テーブル席に座っている。
  竜之介、どことなく落ち着きがない。
  亮太、やってくる。
亮太「なんだよ。急に呼び出して」
竜之介「うん…」
亮太「なんでモス?」
竜之介「今日はちょっと特別だから」
  亮太、座る。 
  亮太、何やら素っ気ない態度。
竜之介「今日は奢るよ。期間限定のシャインマスカットソーダってのがうまかった」
亮太「…俺はいいや」 
  とスマホをいじりだす。
竜之介「…」
亮太「話ってなんだよ」
竜之介「うん、まあ、何というか…」
亮太「…」
竜之介「まあ、いうけど…まあ、いうわ」
  亮太、顔をあげる。
竜之介「まあ好きだ」
亮太「は?」
竜之介「いや、好きなんだよ」
亮太「何が?」
竜之介「まあ亮太が」
亮太「何だよそれ。冗談いってんなら帰るぞ」
竜之介「じゃあわかった。いうわ」
亮太「…」
竜之介「いうわ」
亮太「…」
竜之介「(照れる)俺は、お前が、好きだ」
亮太「…」
竜之介「そういうことなんだけど。マジで」
  亮太、ため息をつく。
  亮太、立ち上がる。
竜之介「…」
亮太「俺、いくわ」
  亮太、去っていく。
竜之介「…」

○竜之介の部屋(夜)
  竜之介、缶ビールをあおっている。
  床に散乱した空き缶。
竜之介「頭きた…頭きた…」 
  竜之介、ビールを一気飲み。
竜之介「くそっ…なんで…」  
  竜之介、ぶっ倒れる。

○竜之介の部屋(翌日・朝)
  スマホのアラームが響く。 
  竜之介、目覚める。 
  竜之介、頭が重い。 

   ×    ×    ×

  竜之介、空き缶を壁に投げつける。
竜之介「あー、イライラするわ!」
  竜之介、日記帳を手にとる。
  竜之介、日記帳をビリビリ破く。
竜之介「頭きた。石毛いじめよ。本番詰んだからリハーサルで石毛いじめるしかないわこれ」
  竜之介、スマホで電話をかける。
竜之介「石毛か。てめえ今から大学前の公園にこい」
石毛の声「誰だてめえ」
竜之介「ぶっ潰してやるから公園にこい」
石毛の声「(気づいて)お前森田か?」
竜之介「だとしたら何だ」
石毛の声「(嘲る)何だよその喋り方。急に調子こいてんじゃねえぞ」
竜之介「いいからこい。ぶっ潰してやるから」
石毛の声「おう。いい度胸だ。てめえをぶっ潰してやるよ。びびって逃げんじゃねえぞこら」
竜之介「逃げねえよ。必ずぶっ潰してやるよ」
石毛の声「おう、ぶっ潰してやるよ」

○亮太の部屋 
  亮太、マリカーをしている。
亮太「(浮かない顔)…」

○公園 
  石毛、金属バットを持って待ちかまえている。  
  竜之介、やってくる。
  竜之介、無言で石毛へと近づいていく。
石毛「(見て)おう森田。よくわからねえがぶっ潰して…」 
  竜之介、ポケットに忍ばせていたナイフで石毛の腹を刺す。
石毛「え?」 
  竜之介、さらにもう一突き。
石毛「…え?」 
  石毛、血を流して倒れる。 
  通行人の悲鳴があがる。

    ×    ×    × 

  竜之介、水飲み場で血のついた手を洗っている。  
  遠くから聞こえるパトカーの音。

○拘置所・中(夜) 
  竜之介、収容されている。 
竜之介「(ため息)本番、どうすっかな…」  
竜之介、目を閉じる。
  竜之介、深い眠りにつく。 

   ×    ×    ×  
 
  朝。 
  竜之介、目覚める。
竜之介「…?」
  竜之介、辺りをキョロキョロ見渡す。
  相変わらず拘置所の中だ。
竜之介「え?」 
  看守、やってくる。 
竜之介「あ、今日って8日ですよね?」
看守「何いってる。今日は9日だ。8日は昨日。お前が事件を起こした日だ」 
  看守、去る。
竜之介「…?」 
  竜之介、考え込む。
竜之介「(はっとする)まさか」

○竜之介の部屋(回想) 
  床に散らばったビールの空き缶。
  死んだように寝ている竜之介。

     ×    ×    ×  

  カーテン越しに朝日が差し込む。 
  スマホの目覚ましアラームが鳴る。
  が、竜之介、起きない。 
  やがてアラームが止む。 

    ×    ×    × 

  夜。  
  暗い室内。 
  竜之介、まだ寝ている。 

    ×    ×    ×  

  カーテン越しに朝日が差し込む。
  スマホの目覚ましアラームが鳴る。 
  竜之介、今度は起きる。 
  竜之介、アラームを止める。 

    ×    ×    ×

  竜之介、石毛に電話し、
竜之介「ぶっ潰してやるよ」

○(戻って)拘置所・中
  竜之介、頭を抱える。
竜之介「そんな…」

○同・面会室(数日後)
  竜之介、神妙に座っている。 
  そばに看守がいる。
  亮太、アクリル板を隔てたドアの向こうから入ってくる。
  亮太、竜之介の前に座る。
  亮太、竜之介を見る。
  竜之介、うつむく。
亮太「…何で石毛を」
竜之介「…」
亮太「竜之介…何でだよ…」
竜之介「…間違えたんだ」
亮太「間違えた? 何だよそれ」
竜之介「…」
亮太「ふざけんじゃねえぞ」
竜之介「…うん」
亮太「おかしいだろ竜之介。どうしちまったんだよ」
竜之介「…亮太。俺はふられたんだよね」
亮太「(はっとする)…まさかお前……それで」
  竜之介、押し黙る。
亮太「(顔を歪ませ)竜之介。許してくれ…あのとき、あんな冷たい態度をとって…まさかこんなことになるなんて…」
竜之介「もういいよ」
  竜之介、笑顔を浮かべる。
亮太「竜之介…」
  竜之介、真っ直ぐな眼差しで亮太を見る。
竜之介「亮太が好きだ」
亮太「…」
竜之介「亮太。好きだ」
  亮太、立ち上がり、
亮太「(叫ぶ)俺もだ! 竜之介が好きだ!」
  竜之介も立ち上がり、
竜之介「好きだ!」
亮太「好きだ!」
竜之介「大好きだ!」
亮太「でも俺のほうがもっと好きだ!」 
竜之介「俺のほうがもっともっと好きだ!」
亮太「俺のほうがもっともっともっと好きだ!」
  二人、アクリル板越しに闘牛のように額を重ね合う。

      ×    ×    ×

  竜之介と亮太、見つめ合っている。
亮太「竜之介、俺は待ってるぞ」
竜之介「…うん」
  亮太、竜之介に背を向ける。
  竜之介、亮太を見送る。
竜之介「亮太」
  亮太、振り返る。
亮太「…?」
竜之介「ファック」                           

(おわり) 

「人生リハーサル」(PDFファイル:283.51 KB)
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