人物
織田信長
豊臣秀吉
徳川家康
金子みすゞ
○原っぱ
本陣が設営されている。
○本陣の中
陣幕に囲まれた空間に卓子が一つ。
鎧甲を身につけた織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、そして着物姿の金子みすゞの四人が向かい合って座っている。
画面に以下のテロップが表示される。
「お題 鳴かずのホトトギス」
織田、三人の顔を見回し、
織田「皆のもの、書き終えたな」
三人、頷く。
織田「では早速発表と参るが、順番はいかがしよう」
豊臣「家康殿。いかがしましょうか」
徳川「(にこにこと)信長殿、秀吉殿、拙者、女、の順でよろしいかと」
織田「うむ」
織田、手元を見下ろし、
織田「おや? 我の短冊がない」
豊臣「私が持っております」
豊臣、懐から短冊を出す。
豊臣「信長様。暖めておきました」
織田「(にやり)猿め。いつの間に」
織田、短冊を受け取り、立つ。
織田「(堂々たる声で詠む)鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」
金子、露骨に顔をしかめる。
豊臣「うまい!」
豊臣、拍手する。
豊臣「さすが信長様。信長様の合理的なお考えをよく表われておられます。なあ家康殿」
徳川「(にこりと)同感にござります」
織田、誇らしげに座る。
豊臣「次は私の番ですな」
豊臣、短冊を手にして立つ。
豊臣「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」
金子、無表情。
織田「(呆れる)いかにも猿らしい句だな」
徳川、笑顔で頷く。
豊臣、座る。
豊臣「さ。家康殿の番ですぞ」
徳川、短冊を手にして立つ。
徳川「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」
金子、無表情。
豊臣「うまい!」
豊臣、拍手する。
豊臣「いやあ。家康殿の辛抱強さが表れている見事な句ですな」
徳川「(満更ではない)」
徳川、座る。
織田「女、読め」
金子、短冊を手にして立つ。
金子「鳴かぬけどみんなちがってみんないい」
織田、豊臣、徳川、絶句する。
織田「(声を震わせ)…女、なんと申した?」
豊臣「も、もう一度読んで差し上げろ」
金子「鳴かぬけどみんなちがってみんないい」
織田「認めん!」
織田、金子に詰め寄る。
織田「ちがっていいはずがない!」
豊臣「そ、そうじゃ。第一ホトトギスの季語を使ってないではないか!」
織田、刀を抜き、
織田「斬る!」
豊臣、慌てて織田をとめる。
その傍らで、家康、金子の短冊を見て青ざめている。
ナレーション「この時、金子の才能に恐れをなした家康は脱糞していた」
○家康の肖像画
ナレーション「その後、戒めのために書かせたのがこの「しかみ像」であることは周知の通りである」
(おわり)
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