『なおす』
■登場人物
伊加大地(28)俳優/アルバイト勤務
伊加由希(54)大地の母
伊加真一(57)大地の父
山之内(34)マスダエージェンシー・マネージャー
桝田(43)マスダエージェンシー・社長
チャド(32)大地のバイト先の上司
柊(30)真一の会社の後輩
瀧(24)大地の事務所の後輩俳優
野山(28)大地の高校時代の同級生
桐山隆太(28)俳優
高藤譲二(62)映画監督
伊加賢二(60)真一の兄/香の夫
伊加香(60)賢二の妻
伊加トミ子(88)大地の祖母/真一の母
〇都内・スタジオ
企業のCMオーディション会場。男性たちが順番に雄叫び、四足歩行などをしている。それを見て、PCやエントリーシートにメモをしたり、ビデオカメラで記録用として撮影している大人たち。
× × ×
スタジオ外・廊下。
廊下から、隣の控室まで、30人近くの俳優達が、審査順を待っている。
スタッフ「皆さんには、人類の繋がりと感謝をテーマにお芝居して頂けたらと思います」
スタッフの説明を聞いている伊加大地(28)。
スタジオの扉が開き、「次の組、お願いします」と呼ばれる。移動する大地ら。
× × ×
スタジオ内。審査席の中央には、監督。
監督「よーい、はい!」
一人ずつ、雄叫びや四足歩行、火起こしの動作などをするオーディション参加者たち。
× × ×
大地の前の男性の審査が終わり、
監督「はい、次」
大地、立ち上がり、スタジオ中央へ行き、
大地「・・・伊加大地です。よろしくお願いします」
監督「よーい、はい」
雄叫びを上げる大地。
× × ×
審査後。着席しているオーディション参加者。
スタッフ「この組は以上です」
監督「はい、今回のCMのコンセプトが人類の繋がりと感謝。最後に聞きたいんだけど、今の自分にとって、最も繋がりと感謝を感じている人は誰ですか?」
スタッフ「端からお願いします」
それぞれが順番に質問に答える。
男1「幼稚園からの親友です」
男2「い、今の彼女です」
男3「芝居を教えてくれた養成所の先生です」
大地「え、・・・はいっ、・・・両親です」
タイトル『なおす』
〇マンション・外観
千葉県船橋市の7階建てマンション。大地の自宅である。
〇同・大地の部屋(昼)
正午過ぎ。ベッドで寝ている大地。
DVDプレイヤーの画面は、ある映画のワンシーンで一時停止されている。机は、これまで出演した舞台台本やオーディション台本の紙などでぐちゃぐちゃである。
大地、起きる。時計を見て、溜息をつく。
〇同・リビング(昼)
母・伊加由希(54)、PCで在宅ワークをしている。
大地がリビングにやってくると、
由希「お昼ごはんは?」
大地「後で食べる」
由希「昨日の鍋の残りと足りないなら冷凍スパゲッティーあるから。お腹空いてるなら食べちゃいなさいよ」
大地「・・・うん」
由希はキッチンへ行き、コンロを付けて鍋を温め、電子レンジでスパゲッティーを温める。大地はソファに移動し、テレビを付け、スマホをいじる。
× × ×
大地、ダイニングテーブルで鍋の残りと冷凍スパゲッティーを食べている。
斜め前では由希がノートPCで仕事をしている。
× × ×
食べ終わり、ソファに寝そべり、スマホをいじりながらテレビを見ている大地。
× × ×
数十分後。スマホをいじりながら、自部屋に戻る大地。
不安げに大地を見ている由希。
〇同・リビング(夜)
20時過ぎ。由希、キッチンで夕食を作っている。
そこに父の伊加真一(57)が帰宅。
真一「ただいま~」
由希「おかえり」
真一「疲れた~。来週はずっと茅場町」
由希「朝のラッシュすごいよ、東南線は。車内に隙間ほんと1ミリもないから」
真一「早めに出てラッシュ避けるか~。大地は?」
由希「自分の部屋」
真一「そっか」
× × ×
真一、夕食を食べている。由希はキッチンで作業している。大地が部屋から出てくる。
由希「ごはん?」
大地「風呂入ってくる」
大地、冷蔵庫からに水を取り出し、飲み、風呂場へ向かう。真一が大地に話しかける。
真一「どうだ?」
大地「何が」
真一「俳優の仕事?」
大地「まあ。・・そんなに」
真一「そっか。今はどこも大変だもんな」
大地「うん」
大地は風呂場へ向かう。
真一「・・・元気ない?」
由希「そう?いつもと変わらないんじゃない」
真一「・・・そうか」
〇同・大地の部屋(夜)
スマホで受信メールをチェックする大地。迷惑メールばかりで、事務所からの連絡はない。
レンタルDVD店の袋から一枚の映画のDVDを取り出す。DVDプレイヤーに入れ、観始める大地。
〇物流倉庫(深夜)
午前3時過ぎ。浦安の工業地帯にある物流倉庫。50名近くの人がで働いている。半分以上が外国人である。大地、ベルトコンベアーに流れている日用品や家電製品などを配送地域ごとに仕分けしている。バイト統括担当のチャド(32)、大地のところへ来て、
チャド「ダイチ、オミズツンデ!」
大地「またですか?担当じゃないんですけど」
チャド「ヒト、タリテナイカラ、ハヤク!」
嫌々、飲料ケースの段ボールが積まれているブースへ向かう大地。
× × ×
大地が他の従業員と共に、飲料ケースを台車に積んでいる。
バイト「キョウモ、オオイネ」
大地「そうっすね」
誰が見ても分かるくらい嫌々な様子で働いている大地。
〇同・物流倉庫入り口(早朝)
勤務後。従業員が駅まで向かう送迎バスに乗り込む。
大地も列に並び、乗車する。
〇送迎バス内(早朝)
文庫本を開いているが、寝ている大地。
〇伊加家・玄関(朝)
帰宅する大地。
〇同・リビング(朝)
由希は洗濯物を干し、真一は朝食を食べている。
リビングに入ってくる大地。
真一「おかえり」
由希「あ、おかえり。ごはん食べる?」
大地「後でいい」
大地、自室へ直行しようとすると、
真一「大地」
大地「何」
真一「バイト、日中の仕事の方がいいんじゃないのか?」
大地「なんで?」
真一「大変だろ。生活リズムも崩れるし、それに一人暮らしじゃないんだから、そこまでお金もかからないだろ?お金必要なのか?もし無いんだったら・・・」
大地「別に。夜勤の方が楽だから」
部屋に戻る大地。
〇伊加家・大地の部屋(朝)
スマホを確認するが、迷惑メールしか届いていなく、事務所からの連絡はない。ベットに横たわる大地。
〇都内・雑居ビル(日中)
看板には芸能事務所・マスダエージェンシーの表記。
〇マスダエージェンシー・応接室(日中)
大地が座っている。正面にはマネージャー・山之内(34)。
大地「・・・ないですか?」
山之内「ないよ。今は皆、仕事ないんだから」
大地「どうしたらいいですか?」
山之内「どうしたらって、今すぐに仕事がゴロゴロ来ることなんて、ありえないんだから。耐えて、日々自分磨くしかないでしょ」
大地「・・・そうですよね」
山之内「大地はまだ恵まれてるよ~。実家だから、生活も困らないでしょ。もっと苦しい奴は五万といるんだからね」
大地「・・・はい」
山之内「実家暮らしは頼らなくちゃ、家族を。役者は周りに協力してもらってなんぼ」
社長の桝田(43)が入ってくる。
山之内「お疲れ様ですっ」
桝田「お疲れ。大地、この前のオーディションどうだった?」
山之内「CMだめでしたよ~」
大地「すいません」
桝田「そうか。次だな、大地は大器晩成だから」
大地「・・ありがとうございます」
〇ファーストフード店(夕方)
ハンバーガーを食べながら、ツイッターのタイムラインを見ている大地。タイムラインには、フォローしている俳優たちの「映画に出演します!」、「CMに出演します!」等の、いわゆる出演しますツイートで溢れている。その中の一つに俳優・桐山隆太(28)のドラマメインキャ
スト出演ツイートが出てくる。不満が沸く大地。
〇伊加家・リビング(夜)
帰宅する大地。
由希「おかえり」
真一が電話をしている。大地が冷蔵庫に向かおうとすると、真一、電話を大地に向けて
真一「大地、群馬のおばあちゃんから」
大地「喋る事ないよ」
真一「いいから」
大地「今度でいいよ」
部屋に戻る大地。
〇伊加家・大地の部屋(夜)
スマホをいじりながら、映画を観ている大地。
○渋谷・雑踏
〇スタジオ(昼)
ボイストレーニングを受けている大地。身が入っていない。
〇電車内(夕方)
文庫本を開いているが、スマホをいじっている大地。
〇スポーツジム(夕方)
ランニングマシンで走っている大地。苦しい、限界の表情の大地。ランニングマシンの停止ボタンを押す。
〇同・ロッカー室(夜)
着替えている大地。スマホを見ると一件のメール。マネージャーの山之内からだ。喜ぶ大地。開くと、ドラマタイトルと撮影詳細が書かれている。だが最後には「エキストラで申し訳ないけどよろしく」という文字。
大地「エキストラかよ・・・」
大地、「お願いします!」と返信する。
〇テレビ局スタジオ(昼)
20名近くのエキストラが待機している。その中に大地と事務所の後輩・瀧(24)。
瀧「大地さん、最近事務所から仕事あります?」
大地「全然。瀧は?」
瀧「おれもっす。このエキストラが4か月ぶりっす」
AD「谷坂浩一さん、阿澄今日子さん、桐山隆太さん入られまーす!」
大御所俳優の谷坂浩一、阿澄今日子と喋りながら入ってくる桐山。エキストラ達は出演者を見て、ザワつく。
瀧「すげっ、本物だ」
桐山、エキストラの方を見て、会釈する。周りのエキストラは拍手したり、喜んだりしている。大地、桐山と一瞬目が合う。スタジオセットに向かう桐山。
瀧「最近売れてんな~、桐山隆太。おれ全然あいつ芝居上手いと思わないっすけど。思いません?」
大地「え、ああ」
× × ×
撮影本番中。裁判所のセット。
検事側に阿澄、弁護側に谷坂、被告人席に桐山がいる。
阿澄「あなたよね?」
谷坂「誘導尋問だ!」
桐山「・・・私がやりました」
谷坂・阿澄「!?」
泣いている桐山。その芝居に圧倒されているスタジオ内。
驚いている大地。
〇大衆居酒屋(夜)
安いつまみでビールを飲んでいる大地と瀧。
瀧「大地さん、あいつと養成所同期だったんすか!」
大地「7年も前ね」
瀧「桐山ってその頃どうだったんですか?」
大地「別にすげ~突出してたわけでもなかったから、驚いて
るよ」
瀧「やっぱ大手事務所だから、ごり押しされてるだけっすよ!顔いいと大手入れるから」
大地「事務所な」
瀧「ほんと芸能界って実力じゃなくて、事務所の大きさっすね。自分この世界入って身に沁みましたわ。都市伝説じゃなかった~」
大地のスマホが鳴る。画面を見ると、由希から「今日はご飯いるの?」とのLINE。
瀧「おれらはエキストラ・・・。これじゃあ一般人と変わんないじゃないっすか」
苦笑いするしかない大地。
瀧「ほんと芸能界理不尽っすわ。おれ桐山より、大地さんの方が芝居上手いと思ってますから」
大地「おお、ありがとう」
瀧「(店員に)すいませーん、日本酒熱燗!」
大地「飲むね」
瀧「今日はとことんいきましょ!あ、大地さんも飲みます?」
大地「そうね。飲むか!」
〇伊加家・リビング(早朝)
ふらつきながらリビングに入ってくる大地。冷蔵庫から水を取り出し、飲む。リビングにやってくる由希。
由希「何してたの?」
大地「別に」
由希、ふらついている大地に気づく。
由希「夜ごはんいらないなら、連絡しなさい」
大地「分かったよ」
自分の部屋に向かう大地。
〇社員食堂(昼)
昼休み。定食を食べている真一。後輩社員・柊(30)がやってきて、
柊「お疲れ様です」
真一「お疲れ」
柊「今日忙しいですね~」
真一「なあ」
柊「あ、この前TVで見ましたよ、息子さん」
スマホで動画を見せる柊。そこには桐山隆太の後ろの傍聴席に座っている大地の姿が映っている。
真一「よく気づいたな~」
柊「頑張ってますね、息子さん」
真一「うん、頑張ってるよ」
〇スタジオ入り口(昼)
受付には多くの人の列。正面には『願望という名の大型二輪車』、『君、実は』監督・高藤譲治ワークショップ」の看板。大地の順番が来て、
スタッフ「3日間で30000円です」
財布からお金を出す大地。
大地「お願いします」
お金を払い、室内に入る大地。多くの俳優が台本を読んでいたり、ストレッチなどをして待っている。
× × ×
スタジオ内。多くの俳優が座って待っていると、
スタッフ「監督お願いします」
奥の控室から監督・高藤譲二(62)が現れる。
俳優達も立ちあがり、「おはようございます!」と挨拶する参加者たち。
高藤「ワークショップだけど、勉強会だとは思ってない。いい芝居をする奴がいれば、おれの作品にキャスティングする。皆もその気で来てくれ」
× × ×
相手役の女優と芝居をしている大地。
女優「もう何も分からない・・・」
大地「おまえのせいじゃない」
女優「苦しいよ」
大地が相手役の女優を抱きしめると、
高藤「やめ、やめ」
芝居を中断する大地たち。
高藤「おまえ、男。全然気持ち見えないよ」
大地「すいません」
高藤「上辺だけで芝居すんなよ。相手と芝居しろよ。おまえ自分の事しか考えてないだろ」
大地「いや、そんなこと・・・」
高藤「はい、次」
下がる大地たち。次の組が芝居を始める。
〇渋谷・雑踏(夜)
〇ファストフード店(夜)
ワークショップ後。21時過ぎ。高藤に言われた言葉が反芻している大地。手元には次のワークショップの課題台本。窓からはセンター街の景色が目に入る。
台本に集中し、セリフを覚える大地。
〇物流倉庫(深夜)
24時過ぎ。セリフをぶつぶつと呟きながらベルトコンベアーから流れてくる商品を仕分けしている大地。
○スタジオ入り口(昼)
数日後。
受付には「高藤譲二監督ワークショップ最終日」の看板。
× × ×
スタジオ内。参加者たちの芝居を見ている高藤。4人1組である台本のシーンの芝居をしている。前の組が終わり、
高藤「はい、次」
大地らの組になる。緊張の面持ちの大地。
× × ×
高藤「よーい、はい」
芝居が始まる。演者は全部で父役、母役、娘役、息子役の大地の4人。家族4人のある夕食のシーンだ。
母役「・・言いたい事あるなら言ってよ」
父役「え、別にないよ」
母役「・・・いつもまずいと思って食べてるんでしょ」
父役「何言ってんだ?」
娘役「ごちそうさま」
母役「もういいの?」
娘役「また始まったから」
父役「どういう意味だ?」
無言で自室へ戻ろうとする娘役。その時、息子役の大地が立ちあがり、
大地「はっきり言えよ」
娘役「は?」
大地「どいつもこいつも隠しやがって。関わろとしないで、逃げやがって」
母役「・・・どうしたの?」
大地「母さんはいつもぼかして言う」
父役「やめろ」
大地「父さん、おれらには言えないこと外でしてるんだろ。(娘役に)おまえは家族じゃないみたいな態度取って、冷めた目で見て・・・」
高藤「はい、カット」
芝居中断させる高藤。
高藤「(大地に)おまえ」
呼ばれているのが分かっていない大地。
高藤「おまえだよ、息子役」
大地「・・・はい」
高藤「ただ言ってるだけなんだよ!お前のセリフは!おまえが今言ったセリフ、おれはお前に言ってやりたいよ」
何も言い返せない大地
高藤「何度も言わせんな。言われた事は直せ、人間だろ」
自席に下がる大地。また次の組の芝居が始まる。
〇渋谷・センター街(夜)
ワークショップ後。駅に向かっている大地。周りは仕事仲間や友人、カップルなどで賑やかだ。
〇伊加家・リビング(夜)
帰宅し、リビングに入ってくる大地。
真一はソファに座ってテレビを観ながら缶ビールを飲んでいる。由希は台所で夕食の準備をしている。
由希「おかえり」
真一「おかえり。今日はバイト休みか?」
高藤から言われた言葉が反芻し、家族に何と言葉を返せばよいか分からない大地。
由希「大地?」
大地、何も言わずに部屋に戻る。
真一「何かあった?」
由希「さあ、いつも通りでしょ」
真一「自分の事、全然話さないよな~」
由希「ずっとそうでしょ」
真一「大地って思春期無かったよな?」
由希「うん。ずっとあの感じ。強いて言えばずっと思春期」
〇同・大地の部屋(夜)
大地、映画のDVDを手にするが、止める。ベッドに横になり、現実から背けるように寝ようとする。
〇イタリアン酒屋・外観(夜)
数日後。
〇同・店内(夜)
大地と高校時代の同級生・野山(28)、野山の友人2人が座っている。向かいの4席は空席。
野山「来てくれてサンキュー!」
大地「・・・何なの?」
野山「大学のゼミの同期がさ、出会い全然ないから開いてって。まあ合コン。大地も売れない俳優は出会いないって言ってたろ?」
女子4人が店内に入って来て、
野山「こっち!」
大地、野山らの正面に座る女子たち。
× × ×
30分後。
テーブルにはイタリアン系メニューといくつもの酒。
女子1「公務員!すご~い!」
友人1「いやいや!定時で帰れないし、残業代付かないからね!今や公務員のメリットなんてちょっと給料が安定してるだけよ!」
女子2「そこがいいんですよ~!」
女子3「伊加さんは何やってんですか?」
女子4「当てますね。・・営業やってそ~う!」
大地「いや、何て言えばいいかな・・えっとまあ・・・」
野山「こいつはね・・・俳優やってんだよ」
女子1「え、すご~い」
女子2「舞台系ですか?」
大地「いや、今は映像の方が多くて・・・」
女子3「へぇ~」
野山「大地、谷坂浩一と共演してるからね」
野山、スマホで谷坂主演の法廷ドラマを流す。
女子4「ってか谷坂ってどんな人だっけ?」
女子1「えっと・・・」
野山「あ、ここっ!」
谷坂の後ろの傍聴席に座っている大地が数秒映る。
女子1「どこっ?」
野山「過ぎちゃったよ~」
直後、被告人席で涙を流している桐山のシーンになる。
女子2「あ、桐山隆太!かっこいいよね~!」
女子3「私も好き!」
桐山隆太で盛り上がる女子たち。蚊帳の外状態の大地。
× × ×
1時間後。他の面々は盛り上がっているが、大地は一人、酒を飲んでいる。
友人2「2年後には上場してると思いますよ、うちの会社」
女子1「すご~い!今度うちの会社紹介させて下さいよ~」
友人1「あれ、さっき公務員の安定性好きっていってたよね?」
社会人の話についていけない大地。野山が大地のところへやってきて、
野山「(大地に)どう?」
大地「おう」
野山「しけてんな~」
大地「売れない俳優はどこ行っても需要無いから」
野山「何歳までとか決めてるの、俳優?」
大地「え?」
野山「よく聞くじゃん。30歳まで売れなかったら辞めるとか」
大地「今のところは考えてないかな」
野山「そっか。親は何か言わないの?」
大地「まあ最近どうなのとかは聞いてくるけど、辞めろとは言われたことないな」
野山「親も心の中では泣いてるぜ~。可愛い一人息子がいい大学まで行ったのに俳優って」
大地「可愛くないから」
野山「大地は普通に働いた方が絶対向いてると思うけどな~。それこそ大学までは教師になるって言ってたじゃん」
大地「まあ・・・」
野山「なんで大変な道選ぶかな~。ま、応援はしてるけどさ、いつまでも意地は張るなよ。早くお前の彼女、奥さん見たいからさ」
大地「うっせ~よ」
〇マスダエージェンシー・応接室
山之内とマネジメント面談をしている大地。
山之内「映ってたね~。傍聴席」
大地「一瞬じゃないですか」
山之内「ああいうのを積み重ねるんだよ。いつ誰が何を見てオファーしてくれるか分かんないんだから」
大地「・・はい」
山之内「あ、伊加君、高藤譲二監督好きだったよね」
大地「え、はい」
山之内「監督の新作映画のオーディション案件あるんだけど、エントリーする?」
大地「・・実はこの前、監督のワークショップ受けたんですよ。でも手応え全くなかったので・・・」
山之内「そうなの?まあダメもとって事で応募しておくね」
大地「・・お願いします」
山之内「あと事務所所属費、先月振り込み遅れてたから今月は頼むね」
大地「・・・はい」
〇銀行・ATM(昼)
大地、自身の口座の残高照会を見る。金額を見て溜息を付く。
〇物流倉庫(深夜)
ベルトコンベアーから流れてくる商品を仕分けしている大地。
× × ×
作業中。チャドが笛が鳴らし。メガホンで話す。
チャド「ミンナ10分キュウケイ!」
作業員は作業を止め、休憩室へ向かう。大地、チャドのところへ行き、
大地「チャドさん?」
チャド「ナニ?」
大地「来週からシフト増やす事出来ますか?」
チャド「イイヨ!スゴイ、ダイカンゲイ!」
〇マスダエージェンシー・レッスン室(昼)
大地、瀧、その他の5,6名のマスダエージェンシー所属の俳優が監督・スザク水上(40)の演技レッスンを受けている。
× × ×
パイプ椅子に座って順番を待っている大地と瀧。欠伸をする大地。
瀧「最近忙しいんすか?」
大地「あ、これ、バイト。金やばくてさ」
瀧「大地さん、実家ですよね?」
大地「そう。でも今月ワークショップでかなり飛んでさ。あとは事務所の所属費と毎月のジムとかボイトレのレッスン費、それに家にも最低限は入れないとだから」
瀧「勉強熱心すよね。おれ一人暮らしだから、事務所のレッスン以外はずっとバイトっすよ」
大地「一人暮らしだときついよな~」
瀧「昨日もフルでバイトだったんで、芝居どころじゃないっすよ~」
大地「フリーターと変わんね~な。フリーターよりひどいかもな」
瀧「はぁ~。ってか事務所所属費って何なんすかー?サラリーマンが就職したら、会社に所属費なんて払います?」
大地「世間と感覚が違うのが、この業界だから」
瀧「それにあの監督、10年近く映画撮ってないらしいですよ!そんな奴に教えられても上手くなるわけないじゃないっすか!」
〇伊加家・大地の部屋(夕方)
スマホのアラームが鳴り続けている。
ようやく起きる大地。スマホを探すと、ベッドからだいぶ離れた所に投げ捨てられている。大地、仕方なく起き上がり、スマホを止める。時間を確認すると、15時過ぎ。大地、昼食を食べようと、リビングに行こうとすると、
大地「やっべぇ・・・」
急いで仕度を始める大地。
〇駅・ホーム(夕方)
電車が駅に着く。扉が開いた瞬間、急いで走る大地。
〇スタジオ前(夕方)
大地がスタジオ前に向かうと、既に大地の受講時間は過ぎ、別の受講者がボイスレッスンを受けている。大地、建物を出る。
〇伊加家・リビング(夜)
夕食を準備している由希。ソファに座って電話している真一。大地がバイトの作業着でリビングに入ってくる。
由希「ごはんは?」
大地「向こうで食べるからいい」
真一「大地?」
大地「何」
真一「群馬のおばあちゃん」
大地「また?」
真一「この間も喋ってないだろ?」
大地「もうバイト行かなきゃなんだけど」
真一「いいから少しだけ」
真一、スマホを大地に渡す。
大地「・・・もしもし」
電話先は祖母・伊加トミ子(88)。
トミ子「大地?声低くなったかい?」
大地「・・・そんな事ないよ」
トミ子「観たよ、ドラマ」
大地「一瞬だけだけど」
トミ子「でもおばあちゃん分かったよ。大地が映ってるところ」
大地「・・・うん」
トミ子「俳優さんは大変でしょう」
大地「うん、まあまあ・・・」
トミ子「頑張ってね。大地も体に気を付けて。おばあちゃん応援してるから」
大地「うん。ありがとう」
大地はスマホを真一に渡す。大地はリビングを出て、バイト先へ向かう。
〇物流倉庫(深夜)
ベルトコンベアーから流れてくる商品を仕分けしている大地。チャドがやってくる。
チャド「ダイチ、イイネ!シゴト、ドンドン、ハイッテネ!」
大地「・・・はい」
〇同・休憩室(深夜)
休憩中。数人でご飯を食べている人が多い中、大地は一人、スマホをいじりながらカップラーメンを食べている。
〇送迎バス内(早朝)
駅に向かって走行している。手元には文庫本が開かれているが、大地は寝てしまっている。
〇駅前ロータリー(早朝)
ロータリーに停まるバス。続々と降りてくる作業員。大地も降りる。ふとスマホを見ると一件のメール。マネージャー・山之内から。開くと「高藤譲二監督新作映画一次書類通過」との文字。驚いている大地。
〇スタジオ・控室(昼)
大地、室内に入ると、目視30人以上の俳優が待機している。空いてるスペースに座る大地。一人のスタッフが全体に呼びかける。
スタッフ「台本と配役を渡しますので、覚えておいて下さい」
スタッフが台本と配役が書かれた紙を配る。大地はそれに目を通す。それは先日ワークショップで受けた家族4人の食卓での台本である。驚く大地。
〇同・審査スタジオ(昼)
各組ごとに、台本の芝居をしている。
セリフを忘れたり、間違えたりしている面々が多数。
× × ×
大地のいるグループがスタジオ内に入る。審査員席には監督の高藤はいなく、助監督とプロデューサーが審査をしている。
助監督「助監督の平岩です。高藤監督は別映画の撮影中の為、
二次審査は私達が審査をします」
「よろしくお願いします」と挨拶をする参加者たち。
× × ×
助監督「では一人ずつ名前と役名を言ってください」
母役「母役の田中よしみです」
父役「父役の宮崎哲二です」
娘役「娘役の穂乃果です」
大地「息子役の伊加大地です」
助監督「ではスタンバイお願いします」
それぞれが食卓の位置に付く。大きく深呼吸をする大地。
助監督「よーい、はいっ!」
4人は芝居を始める。
母役「・・言いたい事あるなら言ってよ」
父役「え、・・・(セリフが一瞬飛び)別にっ、ないよ」
母役「(それに動揺して)・・・いつもまずいと思って・・・食べてるんでしょ」
父役「な、な、・・・何言ってんだ?」
娘役「ごちそうさま」
母役「もういいの?」
娘役「う、ああぁ(セリフが出ず悶える)面倒くさいの!」
父役「どういう意味だぁ(緊張からの変なイントネーショ
ン)?」
娘役はハケようとする。その時、息子役の大地が立ちあがる。
大地「はっきり言えよ」
大地は冷静で、相手を受け入れて芝居をする意識を持っている。
娘役「は?」
大地「どいつもこいつも隠しやがって。関わろうとしないで、逃げやがって」
母役「どうしたの・・・」
大地「母さんはいつもぼかして言う」
父役「・・・(恐る恐る)やめなさい」
大地「父さん、おれらには言えないこと外でしてるんだろ。
(娘役に)おまえは私は家族じゃないみたいな態度取って、冷めた目で見て」
圧倒されてている他の俳優たち。
大地「おれは関わるからな!嫌だけど、関わる!悔しいけど、あんたたちが家族だから!」
審査員は大地の演技を見ている。
〇マスダエージェンシー・応接室
マネジメント面談をしている大地と山之内。
山之内「先月は所属費、遅れてなかったね~」
大地「なんとか・・オーディションとか案件、無い感じです
か?」
山之内「無いねー。我慢だよ、我慢」
大地「・・あの、我慢したら来るんですか?」
山之内「どういう意味?」
大地「僕もそうですけど、マネージャーの山之内さんにももっと動いてもらわないと、今と同じまま・・・」
山之内のPCからメールの受信音。
山之内「ちょっと待って」
メールの中身を確認する山之内。
山之内「おお~」
大地「どうしたんですか?」
山之内「大地、高藤監督の二次審査、合格」
大地「まじすか」
山之内「よかったじゃない!この前は全然手応え無いって言ってたのに」
大地「いや、たまたまこの前のワークショップと同じ台本が課題で・・・」
山之内「日頃の行動の成果だよ」
大地「・・・ありがとうございます」
〇大衆居酒屋(夜)
安いつまみでビールを飲んでいる大地と瀧。
瀧「すごいっすね、大地さん!俺なんて書類落ちですよ~」
大地「ありがとう」
瀧「もしかしたら、もしかするんじゃないんですか!?」
大地「いやぁ~、何次審査まであるか分かんないしさ」
瀧「この間、監督のワークショップにも顔出してるんですよね?ありますよ!」
大地「こうなったら勝ち取りたいね」
瀧「勝ち取ってくださいよ!大地さんが選ばれたら、同じ事務所の俺らにもチャンス出てくるんすから!」
大地「そうだな」
瀧「もう大地さんしか希望ないですから!仕事もない、オーディションも受かんない。金だけが異常に飛んでいく。いや~、厳しい!よし、熱燗いきましょう!」
店員を呼び、熱燗を頼む瀧。
大地「・・・おれ、絶対勝ち取るわ」
〇スタジオ内(夜)
高藤監督新作映画三次オーディションが行われている。
審査員席には二次審査と同じ助監督やプロデューサーなどの面々。高藤の姿はない。芝居をしている大地。
× × ×
助監督「以上です」
「ありがとうございました!」と挨拶をする参加者たち。部屋から退出する大地たち。そのすれ違いざまに次の組がスタジオに入ってくる。その中の一人に桐山がいる。
大地「!?」
すると桐山も大地に気づく。お互い一瞬目が合うが、それぞれ進む。不安と危機感を感じる大地。
〇伊加家・リビング(夜)
大地と真一が夕食を食べている。由希は台所で片づけをしている。
真一「お母さん、食べないの?」
由希「忙しいの~、片付けてから」
大地「ごちそうさま」
大地は皿やコップを台所の流しに持っていこうとする。
真一「大地、ビール飲むか?」
大地「いや、いい」
真一「たまには一緒にどうだ」
大地「大丈夫」
真一「酒嫌いなのか?」
大地「別に普通だけど」
真一「じゃあ」
大地「やることあるから」
食べ終わったものを片付け、自分の部屋に戻る大地。
真一「なんだよ~」
由希「大地は家じゃ飲まないわよ」
由希は缶ビールとグラスを持って、真一の正面に座る。
真一「外行ったって飲まないよ、家族とは」
由希「3人で外食、何年もしてないね~」
真一「お母さん、いつまでやらせてやるとか考えてるの?」
由希「何を?」
真一「俳優」
由希「あぁ」
真一「もちろん応援はしているし、成功すると信じてる。だがあいつがどう考えてるか分かんないが、大地ももうすぐ30歳。仕事の充実や結婚を考えてもいい時期だ。俺は普通に仕事をして、家庭を持って、持たなくとも、普通でいいから幸せになって欲しい。だから親として、あ
いつが苦しんでるなら、あいつの人生だけど親として舵を教えてやるべきだと思ってる」
由希「あなた、大地から俳優になるって聞かされた時、好きなようにやれって言ってたじゃない~」
真一「あの時はそうだけど、そういうのって年々変わってくじゃない?人間だもの。それに最近の大地見てるとさ」
由希「まあね」
真一「で、お母さんは?」
由希「んん~。私は舵とか責任は取らない。もう立派な大人だし、大地の人生だから。ただあの子がまだこの家にいる以上、心配はしちゃうわよ。家にいるんだったら、適
度に最近はどうとか?報告はして欲しい。かな?」
真一「・・・そうだな」
由希「大丈夫よ」
真一「うん」
乾杯し、ビールを飲む2人。
〇同・大地の部屋(夜)
分厚い台本を読んでいる大地。スマホから着信。山之内からだ。電話に出る大地。
大地「お疲れ様です」
山之内(声)「もしもし、大地?」
大地「はい」
山之内「三次審査合格おめでとう」
大地「ありがとうございます!」
山之内(声)「読んだ?」
大地「はい、今も読んでました」
山之内(声)「次の審査台本、実際の高藤監督の新作だから」
大地「はい・・」
山之内(声)「いよいよあとちょっと。こんなチャンス滅多にない。最大のチャンスだと思って、しっかり準備しろよ」
大地「はい。死ぬ気で取り組みます」
〇物流倉庫(深夜)
高藤監督新作映画・四次オーディションまであと5日。大地とチャドが話している。
チャド「エ?」
大地「しばらくお休みさせてください」
チャド「イキナリ、コマル!」
大地「お願いします!戻った時には今の倍、入りますから」
チャド「モドッタトキ、チガウ!イマ、ヒツヨウナノ!ミンナメイワク!」
大地「・・・ここで働くために毎日生きてるんじゃないんで」
チャド「ナニ?」
大地「自分が本当にやりたい事に全ての時間費やしたいんです」
〇スポーツジム(夕方)
ランニングマシンで走っている大地。限界に近づくが、ここで止めたらオーディションに落ちると思い、走り続ける。
〇ファストフード店(夜)
台本のセリフをぶつぶつ唱えながら、覚えている大地。店内に蛍の光が流れる。時刻は24時前。帰り仕度をする大地。窓からは飲み帰りの楽しそうな人々が見える。絶対に這い上がってやると決める大地。
オーディションまであと3日。
〇伊加家・リビング(朝)
リビングにやってくる大地。由希と真一が身支度をしている。
由希「大地」
大地「何してんの?」
真一「今から群馬のおばあちゃんの所行こうと思ってな。ここの所顔出してなかったし、最近あんまり調子よくないみたいなんだ」
大地「そうなんだ」
真一「大地も行くか?」
大地「え?」
真一「今日は予定あるのか?」
大地「まあ・・・」
真一「もし予定変更できるなら一緒に行こう。たまにはおばあちゃんに顔見せて上げ・・」
大地「今日忙しいから」
大地は冷蔵庫から水を出し、飲み、自分の部屋に戻る。
〇同・玄関前(昼)
玄関から出てくる大地。ふとスマホを見ると、瀧からのLINE。メッセージを開くと「今日空いてます?飲みいきません?」という内容。
スマホをしまい、駅へ向かう大地。
〇公園(夜)
セリフを喋りながら、動いている大地。(一人立ち稽古)。
台本はベンチに置いてある。
× × ×
やるべき準備はやってきたというような表情。
オーディション前日。
〇映画制作会社・控室(昼)
オーディション当日。
控室には15名ほどの俳優が待機している。セリフの確認をしている大地。少し離れたところには桐山。桐山は面識があるのか、控室にいる運営スタッフと談笑している。別スタッフが扉を開け、室内に入ってくる。
スタッフ「増田さん、吉岡さん、伊加さん、米澤さん、桐山さん、お願いします」
大地は桐山を見ると、桐山も大地を見ている。名前を呼ばれた5人は立ち上がり、隣のスタジオへ向かう。
〇同・スタジオ内(昼)
大地、桐山含めた5人がスタジオに入ってくる。審査員席にはこれまで審査をしてきた助監督やプロデューサー陣、そして高藤がいる。
× × ×
大地を含めた3人が芝居位置に付いている。桐山は待機席から見ている。
高藤「よーい、あいっ!」
芝居が始まる。長男役の吉岡、次男役の増田、三男役の大地の3人。
増田(次男)「あれ?ない・・・」
大地(三男)「どうした?」
増田(次男)「兄ちゃん、また札取ったな」
吉岡(長男)「取ってね~よ。酔って落としたんじゃね~の」
増田(次男)「昨日大家さんに家賃払った時は7000円あっ
たから。5000円返して」
吉岡(長男)「ちげ~よ。おまえじゃねえの?」
大地(三男)「は?てか兄ちゃん、うちのバイト先に面接来るのやめて」
吉岡(長男)「いいだろ。おれが無職だからおまえら疑ってんの?」
増田(次男)「早く、財布」
大地(三男)「取ってないなら、出せばいいじゃん」
吉岡(長男)「お、ま・・。(大地に)バイトリーダー、宮内咲さん」
大地「は?」
吉岡(長男)「おれの面接してくれたんよ、咲ちゃん。あの子と付き合ってんだ~」
大地「は!?」
吉岡(長男)「ね、この前ね、そこの公園でね~、興奮しちゃってね~、そういうね~」
大地「おまえっ!」
増田(次男)「公共の場所で・・・」
大地「おまえが公共!?・・100円のコーヒーだけで喫茶店一日居座ったり、コンビニで弁当買った時に、一つ余分にお箸とお手拭き要求する兄ちゃんに、公共の場所の使い方、言われたくないなぁ!」
増田(次男)「ああぁ?」
次男役・増田は大地に掴みかかり、揉み合いになる。それを止めようと長男役・吉岡が入り、さらに揉め合いはエスカレートする。
高藤「はいっ!」
芝居を止める一同。
高藤「えー君、伊加」
大地「・・はいっ」
高藤「次もっと生意気で、感情の起伏激しい三男でやってみて」
大地「はいっ!」
× × ×
再び同じシーンの芝居が始まる。
だが大地の芝居は、さっきとそこまで変わっていない。不満げな高藤。
× × ×
待機席に座っている大地。
桐山を含めた3人が先程と同じシーンを演じている。
桐山は大地が演じた三男役。ときおり笑っている高藤。
高藤の満足げな表情が目に入ってしまう大地。
× × ×
助監督「次、シーン72お願いします。監督、組み合わせお願いします」
高藤「桐山と・・・伊加」
桐山「はい」
伊加「あ、・・はいっ」
位置に付く2人。
高藤「よーい、あいっ!」
大地が長男役、桐山が三男役である。
大地は自身の首にナイフを向けている。
桐山(三男)「兄ちゃん、やめようよ」
大地(長男)「横領、痴漢、万引き、経歴詐称、おれは一つもやってない・・・」
桐山(三男)「分かってる・・・」
大地(長男)「兄弟にも疑われて・・。もうおしまい」
ナイフの柄を強く握りなおす大地。
桐山(三男)「待って!」
大地(長男)「無理!」
桐山(三男)「全部聞くから!だから話して!その代わりおれも兄ちゃんに自分の事話すから!ちゃんと聞いて!」
大地の手は震えている。
桐山(三男)「おれ、二ホンカモシカなんだ!」
大地(長男)「は?」
桐山(三男)「だから俺の話も聞いてよ・・・」
高藤「はいっ!」
芝居に納得していない様子の高藤。
高藤「もう一回やってみて」
桐山「はい(と言いながら修正点を考えている)」
桐山と監督の目を気にしている大地。
× × ×
再び同じシーンの芝居を始める大地と桐山。
長男役の大地が自身の首にナイフを向けている。
桐山(三男)「兄ちゃん、やめようよ」
大地(長男)「横領、痴漢、万引き、経歴詐称、おれは一つもやってない・・・」
桐山(三男)「分かってる・・・」
大地(長男)「兄弟にも疑われて・・。もうおしまい」
ナイフの柄を強く握りなおす大地。
桐山(三男)「待って!」
桐山のギアが突如上がる。
大地(長男)「無理!」
桐山(三男)「全部聞くから!だから話して!その代わりおれも兄ちゃんに自分の事話すから!ちゃんと聞いて!」
大地の手は震えている。
桐山(三男)「おれ、ニホンカモシカなんだ!」
桐山は自身の全てを曝け出すように叫ぶ。
大地(長男)「はっ?」
桐山の芝居に無意識にナイフを落とす大地。
桐山(三男)「だから俺の話も聞いてよ・・・」
泣いている桐山。それにつられ、大地も涙が出てしまう。
そして桐山が近づいて来て、大地を抱きしめる。
高藤「・・・カァットッ!」
桐山はまだ泣いている。大地は桐山の芝居の変化と熱量
に驚いている。高藤含め満足している審査員陣。
× × ×
オーディションメンバー5人が一列に並んでいる。
スタッフ「以上で四次審査終わりです。結果は一週間以内に連絡します。では出口の方に・・」
高藤「おまえらって誰の為に芝居してるんだ?」
硬直する一同。
スタッフ「え、あ・・・じゃあ端の人からお願いします」
増田「・・・え、えっと、俳優になるっていう夢をずっと信じてくれてる高校からの親友の為です」
吉岡「自信のない自分を変える為です」
大地「自分は・・・家族の為です。大学まで行かせてくれたのに、俳優をやらせてくれている両親に恩返しをしたいです」
米澤「世の中の人達の為です。自分が救われたように、誰かの救いになれる俳優になりたいです」
桐山「私は家族、母の為です。片親でずっと育ててくれました。母は僕の作品を見ると喜んでくれます。だからいい作品に出て、何回も喜ばせて、少しでも長生きさせてあ
げたい。母に恩返しが出来るのなら、どんなに苦しくてもかまわないです。この仕事をやり続けます」
〇同・控室(昼)
オーディションが終わり、帰り支度をしている面々。
桐山が大地に近づいてくる。
桐山「久しぶり」
大地「・・あ、おう」
桐山「養成所以来だから7年?」
大地「ぐらいかな?すげ~よ。色々出てるじゃん」
桐山「全然。まだまだ」
大地「いやいや。俺なんかに比べたらさ」
大地への視線が強くなる桐山。
大地「・・・久々に一緒に芝居やってびっくりしたよ。養成所の時はさ、人に見られてるって意識しちゃうと、緊張して芝居が怖いって言ってたのに・・・」
桐山「今でも怖いよ」
大地「え?」
桐山「・・・あのさ、おれ、おまえには負けないから」
控室を出ていく桐山。
○伊加家・大地の部屋(昼)
オーディション翌日。ベッドで寝ている大地。目を覚ます。時刻は12時過ぎ。
○同・リビング(昼)
リビングにやってくる大地。在宅勤務をしている由希はいない。テーブルには「今日は出社日なので、昼ご飯食べるなら、冷蔵庫の中に昨日の残りが入ってます」との紙。冷蔵庫から昼ご飯を取り出す大地。
○オフィス(夕方)
約50人以上が勤務しているオフィス内。
由希がPC作業をしながら、昼食を取っている。上司の女性社員がやってきて、
上司「在宅は在宅でストレス溜まるよね~」
由希「ほんとですね」
上司「夫は、在宅だから家事楽になっただろ?とか、より妻の仕事を当り前だと思いやがって。子供はご飯いつ?まだ?しか言わない。私ファミレスじゃないから」
由希「分かります。ご飯作るのが一番のストレス」
上司「息子さん、俳優の卵だっけ?まだ家いるの?」
由希「はい。お金もないだろうし、最低限の生活費さえ入れてくれれば、まだいいかな~って」
上司「ストレスだねー。早く夢なんて捨てて、現実の世界で働いて、親孝行して欲しいわよね~」
由希「・・・まあ」
由希のスマホから着信。見ると真一からだ。
由希「すいません」
由希は席を立ち、人の少ないスペースに移動し、電話に出る。
〇伊加家・リビング(夕方)
大地がリビングでスマホをいじりながらテレビを見ている。テーブルには食べ終わった食器が置いたまま。スマホに由希からのLINEが入る。メッセージを見る大地。そこには「さっき群馬のおばあちゃんが亡くなりました」と書いてある。
○群馬・葬儀場(朝)
トミ子の告別式が行われている。親族席には由希、真一、大地もいる。
× × ×
棺の中にはトミ子。真一、由希、そして大地はトミ子の横に花を置く。
○群馬・トミ子の家(夜)
県内の二階建て一軒家。兄夫婦の伊加賢二(60)、伊加香(60)と共にご飯を食べている由希、真一、大地。
賢二「でも直前に顔見れてよかったよ」
真一「一目見れて安心して逝っちゃったのかもな・・・」
香「あっ、そうだ」
香はテレビ下のラックから数十枚のDVDを持ってくる。
由希「それ・・・」
DVDは大地がちょい役で出演したドラマ、映画、CMを録画したものである。驚いている大地。
由希「すごい。うちにもここまではありませんよ」
香「お母さん、大地の事務所のホームページ毎日確認して、出演情報があれば、私に全部DVDに焼いてって」
賢二「大地が俳優になるって聞いた時、喜んでたからな~」
香「すごかったよ!私たちは正直、不安だったけど、お母さんは大地は絶対俳優になれるって。早く西田敏行と共演して欲しいって」
何も言葉を返せない大地。
賢二「・・・大地。ばあちゃんの為とは言わないが頑張れよ」
あの日、顔を見せに行かなかった後悔に駆られている大地。
○群馬県内・高速道路・車内(昼)
数日後。東京方面に向かって運転している由希。助手席には疲労から寝てしまっている真一。後部座席に大地。スマホの通知音。見ると山之内から。
メールの件名は「高藤監督四次審査結果」。
恐る恐るメールを開く大地。中には、「残念ながら不合格でした」との文字。
大地、再度画面を見るが不合格の文字は変わらない。
その時、瀧から着信が入る。
○大衆居酒屋(夕方)
大地と瀧が飲んでいる。
瀧「そっか・・。厳しいっすね・・・」
大地「こんなもんって事だよ。ごめんな、この前出れなくて」
瀧「いえ。自分こそオーディション期間にすいません」
大地「どうした?」
瀧「はい。・・実は俳優辞めて、地元帰ることにしました」
大地「え?」
瀧「いきなりですいません。でもこのまま続けても俳優として生きていけないって、確信しちゃったんで」
大地「まだ始めたばっかだろ?今はだめでも、何年後、何十年後に大きく変わってるって事があるのが、この世界だから」
瀧「・・いや、俺は変わらないと思います。最初から適正も運もないっす。すぐ気づきました。いくら続けても俳優でメシは食っていけないです。それにもう金も心も限界
で・・・。普通に働きます」
何も返せない大地
瀧「大丈夫っす。未練ありません。大地さんには本当によくして貰ったんで、ありがとうございました」
大地「・・・おれは何にも。そうか・・・」
○マスダエージェンシー・応接室
大地と山之内が座っている。
山之内「高藤監督、残念だったな~」
大地「・・・はい」
山之内「でもオーディションは落ちて当り前。一喜一憂しな
いで、図太くやんなくちゃ」
大地「・・・瀧、もう辞めたんですか?」
山之内「うん。去る者は追わず。あいつがよく考えて決めたことだから。あいつの人生はあいつでしか決められない。それにこの世界は去っていく者が圧倒的に多い。誰かが去っていくから、自分が続けられているって思った方がいいよ」
飲み込めない大地。
〇物流倉庫(深夜)
ベルトコンベアーから流れてくる商品を仕分けしてい大地。チャドがやってくる。
チャド「ダイチ、イイネ!ヤスンデタブン、タクサンハタライテネ!」
大地「・・・はい」
○コンビニ・ATM(早朝)
口座の残高照会を見る大地。今月の事務所所属費、ボイトレ費、ジム会費、実家への生活費などが払える金額は残っていない。
○改札外(早朝)
改札から出てくる大地。何人かの列が見える。
バイトリーダー「派遣の方、こちらで~す」
その声に気づき、列に並ぶ大地。
○オフィスビル(朝)
出社前の閑散としたオフィス内。大地は他のバイトと一緒に床や窓を清掃している。
○同・出入口(朝)
清掃が終わり、ビルから出てくる大地含めバイトの面々。目の前にはハイエースが止まっている。
バイトリーダー「次の現場行くから、急いで!」
急ぎ足で車に乗り込むバイトの面々。
○車内(朝)
次の現場に向かっているバイトの面々。大地は文庫本を開こうとするが、止めて、窓に寄りかかり寝る。車は次の現場へ向かって走る。
○高層ビル・玄関口(午前)
午前9時頃。入り口から出てきて、次の現場に向かおうとしている派遣バイトの面々。清掃用具の入った台車を押している大地。すると一瞬バランスを崩し、傾け、倒してしまう。
大地「!?」
気づかず先へ行ってしまう他のバイト達。一人片付けている大地。するとスーツ姿の男性が近づいてきて、社員が近づいてくる。
真一「・・・大地?」
大地、顔を上げると、そこには真一と部下の柊。
大地「・・・なんで?」
真一「営業で来ててな・・・」
柊「あ?もしかして大地くん?このまえのドラマ見ましたよ」
バイトリーダー「おい、新人何してんだよ!」
大地、急いで清掃道具を片付け、車へ乗り込む。
○伊加家・リビング(夜)
由希はソファに座りテレビドラマを、真一はテーブルでビールを飲みながらくつろいでいる。大地、帰宅し、リビングにやってくる。冷蔵庫に向かう。
真一「大地?」
立ち止まる大地。
真一「バイト変えたのか?それとも掛け持ち?もしお金厳しいんなら・・・」
大地「いちいち干渉すんなよ」
大地は冷蔵庫を思いっきり閉め、部屋に戻る。
由希「ちょ・・大地!」
○同・大地の部屋(夜)
電気も付けず、ベッドに寝っ転がる大地。背中に異物を感じる。そこには読んできた文庫本や借りた映画のDVDがある。それらをベッドから払いのける大地。
○居酒屋(夜)
大地と野山が飲んでいる。
野山「あれは過去一笑った」
大地「はじまったよ」
野山「修学旅行ホテルパークス全裸で自販機購入事件」
大地「その話何度目だよ」
野山「全裸で自販機のジュース取ろうとした瞬間、森井先生と目が合った時の大地の顔!あの顔は菅田将暉でも出せね~よ!」
大地「うるせ~よ」
野山「その後な!先生が部屋来て、大地に向かってお前狂ってるよって!」
大地「先生、正しい・・・」
野山「今のご時世だったらアウトだな」
大地「昔もだよ!」
野山「そん時の大地、巨大隕石から地球を守った勇者みたいだった!」
大地「それアルマゲドン!」
野山「あの映画面白いな」
野山「知ってるよ!ってか何だよ、話は?」
野山「お~、この流れで出すか~」
大地「早く言えよ」
野山「実はさ・・・。結婚した」
大地「まじ!?おめでとう!」
野山「ありがとう」
大地「そっか~!するとは思ったけど、遂にか~!」
野山「そろそろ決心しないと、彼女にも悪いからな」
大地「めっちゃ嬉しいよ!今年一嬉しいかも」
野山「おれより喜んでるじゃん。・・ありがとな。いつでも遊びに来いよ。メシくらい出すからさ」
大地「行くわ」
野山「おう。彼女も俺も、大地のこと応援してっから」
大地「おう」
野山「俳優じゃなくて全然いい。またおまえが楽しそうな姿、見て~からさ」
大地「・・・・え、全裸になれって事?」
野山「まあ全裸でもいいよ」
大地「でもってなんだよ!全裸ってものすごい覚悟いるんだからな!」
飲み続ける2人。
○物流倉庫(深夜)
ベルトコンベアーから流れてくる商品を仕分けしている大地。チャドが大地に向かって叫ぶ。
チャド「ダイチ!オミズツンデ!ヒトタリナイ!」
大地、何も言わず大量の飲料ケースが積まれているブースへ向かう。
○改札外(早朝)
急いで改札から出てくる大地。その先には移動している派遣バイトの集団。合流しようと走る大地。
○公園(昼)
バイトの休憩中。作業着でスマホをいじりながら、コンビニのおにぎりを食べている大地。ツイッターのタイムラインを見てると、あるツイートが目に入る。
「高藤監督歳最新作映画・出演者発表」というネット記事。開くと出演者一覧の中に桐山隆太の名前がある。
○マスダエージェンシー・入口前(朝)
入り口前に立っている大地。一呼吸おいて、中に入っていく。
○伊加家・リビング(夜)
リビングでテレビを見ている大地。由希はキッチンで夕食の支度をしている。真一、帰宅する。
真一「ただいま~」
由希「おかえり」
真一「あ~疲れた。お?(リビングにいる大地を見て、由希に)珍しいな」
由希「ね。先お風呂?」
真一「うん、入ってくる」
真一、風呂場へ向かおうとすると、
大地「ねえ」
大地を見る由希と真一。
大地「俳優、辞めることにしたから」
由希「え」
真一「大地?」
大地「1年勉強して、来年採用試験受けて教師になるから」
由希「え?」
真一「いきなりだな」
大地「もう事務所にも伝えて、了承も貰えた。で、採用試験の勉強しながら、バイトして金貯めて、一人暮らしするよ」
驚いている由希と真一。
大地「ごめん」
大地、自室へ戻ろうとすると
由希「・・・待ちなさい!」
大地「・・・なに」
由希「散々好きにやっといて、何も相談なしにいきなり辞めます?・・・ふざけんな!」
真一「お母さん」
大地「何で言わなきゃいけないの」
由希「は?事後報告で済むと思った?」
大地「もう学生じゃないんだけど」
由希「だったらこの家いないで!この家住んでて、ご飯も洗濯もしてもらってるのに、何も言わないで・・・学生以下!それにあんた、俳優になるってときも、大学卒業する直前に言って!教師になりたいから大学行かせてくださいって言ったの、あんただよね!」
無言の大地。
由希「辞めるなら、なんで辞めるのか理由を言いなさい」
真一「大地」
大地、ダイニングテーブルの椅子に座る。大地の正面に
座る由希、真一。
大地、家族に本心を晒す事に恐れている。
由希と真一、大地が話し出すのを待っている。
真一「・・・話そう。そうしてこなかったから」
大地「・・・もう30歳になるから区切りだよ。周りの奴らみたいに普通に働く。これ以上やっても俳優を仕事には出来ないって分かったから」
真一「うん。そうか・・・」
由希「区切りなら30までやればいいんじゃないの?まだ28じゃない」
大地「いつまでもずるずるやるより、マシだろ」
由希「辞めて悔いはないって事?もうやり切ったって事?」
大地「そうは言えないけど・・・」
由希「そうは言えないけど、この選択でいいのね?」
大地「・・・いや」
由希「どっちなの!?」
大地「・・・オーディション、レッスン、ジムでトレーニングとか、その為のお金と、事務所の所属費とか払う為に夜勤のバイトして、それでも足りない時は日払いのバイ
トして、で生活費も入れないとで・・・結構もう限界かなって・・・」
由希「なら少しは相談すればいいじゃない」
大地「・・無理だよ、今さら。それにこの年で、周りは結婚もしだしてるのに、おれはまだ実家に住んでて・・」
由希「周りは関係ないでしょ」
大地「理屈はね!でもそうはいかないの!」
由希「・・・情けない。あんたあの時、優先したのに辞めるんだ」
大地「何が?」
由希「群馬のおばあちゃん」
大地「・・・」
由希「おばあちゃんのところ行くって言った日、忙しいって断ったよね。本当に行けなかったの?おばあちゃんより大事な用だったの?バイト?レッスン?ジムでトレーニング?」
真一「母さん」
由希を制止しようとする真一。
由希「・・・あんなに応援してたのに、顔見せないで。それで辞めるって・・・。もう二度と顔見せられないのに・・・」
真一「母さん」
由希を止める真一。
真一「・・・おばあちゃんは大丈夫だ。きっと見てくれてる」
この場から、自身から逃げたい大地。
真一「大地。頼ったり、自分の事話すって、勇気入るし、大変なことだけど。男はな、特にダサいとか思ってしまう。父さんもそうだ。でも溜め込んで、もう修復きかなくなるよりはよっぽど楽だし、ダサくもない」
大地「・・・」
真一「おまえはまだ全然直せる。だから少しは頼れ、この家に住んでるんだから」
大地「・・・」
真一「よし、じゃあ飲むか」
真一はキッチンから瓶ビールとグラスを三つ持ってくる。
由希「・・・今?」
真一「そうだよ」
由希「本当に飲むの?」
真一「うん。母さんも大地も」
グラスにビールを注ぐ真一。
由希「全然解決してない。ねえ!今そんな状況じゃ・・・」
真一「飲むんだよ!」
真一の声に驚く、由希と大地。
真一「・・・家族3人で飲むんだ」
真一、3人分のグラスにビールを注ぎ、由希と大地の前に置く。
真一「うん・・・。乾杯」
3人は乾杯し、ビールを飲む。
○東京駅・雑踏
3か月後。
○コンビニ(昼)
オフィス街近くのコンビニ。昼12時過ぎ。店内は会社員が昼食を買いに、賑わっている。大地がレジをしている。
大地「大変お待たせいたしました。いらっしゃいませ」
○スタジオ入り口(夕方)
入り口前には「カップラーメン麺太郎新CM・未知との遭遇篇・オーディション」と書かれている。
○スタジオ内(夕方)
審査員たちの前に立っている大地。
大地「伊加大地です。よろしくお願いします」
監督「ではあなたは宇宙人で、地球にやってきた。そこで初めて地球の食べ物、これですね、カップラーメン麺太郎。これを食べる。その時の宇宙人の感動を表現してください」
大地「お願いします!」
監督「ではいきます。よーい、はい!」
大地、今自身ができる宇宙人を表現する。
自分を曝け出すことを意識して。
○伊加家・リビング(夜)
20時頃。帰宅する大地。キッチンで夕食の準備をしている由希。
大地「ただいま」
由希「おかえり」
大地、封筒を由希に渡す。
大地「これ今月の分」
毎月入れている生活費だ。
由希「ありがとう」
大地「・・店長が働きいいからって時給少し上げてくれるみたいだから、来月はもう少し渡せると思う」
由希「そうなんだ。よかったじゃない」
大地「・・うん」
× × ×
21時過ぎ。リビングで缶ビールを飲んでいる大地。
真一が帰宅する。
真一「ただいま」
由希「おかえり」
真一「はあー疲れた。風呂入って・・・」
真一、ソファでテレビを見ながら缶ビールを飲んでいる大地が目に入る。
由希「先お風呂?」
真一「いや・・・」
真一、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファへ向かう。
真一「父さんもいいか?」
大地「・・・うん」
真一は大地の横に座り、缶ビールを開ける。
由希もキッチンで料理しながら、缶ビールを開ける。
大地と真一、乾杯をする。
おわり
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