花束を君に 恋愛

見た目をないがしろにしていた柴田小夜、ある日推しにそっくりなつばさと出会い恋に落ちる。周りの助けを借りながら初めての恋に小夜は奮闘。想いは報われるか!?
石川なお 8 0 0 06/02
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第一稿

登場人物

柴田小夜(しばたさよ) (30) ブライダルサロン勤務
遠田萌奈(おんだもえな) (30) 小夜の同僚・友人
門澤(かどさわ)   (42) 小夜たちの上司
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登場人物

柴田小夜(しばたさよ) (30) ブライダルサロン勤務
遠田萌奈(おんだもえな) (30) 小夜の同僚・友人
門澤(かどさわ)   (42) 小夜たちの上司
加志村霜月(かしむらそうげつ)(28) 小夜と萌奈の後輩・志月の中の人

西田幸男 (60)花屋店主
西田つばさ(28)幸男の息子

柴田祐輔(24) 小夜の弟・美容師
橘美冬 (24) 祐輔の彼女・美容師
柴田みどり(57) 小夜と祐輔の母

晦志月(つごもりしづき) 小夜の推しのVチューバー

加志村喜八(62)霜月の父

小夜の父(遺影)
女子1・2
ナンパ男
つばさの彼女
料亭の女将


〇結婚式会場・チャペル前
  チャペルの扉が開き、若い新郎新婦が出てくる。
  花が飾られた道を歩く新郎新婦、参列者が花びらを投げる。
  隅で拍手をしている柴田小夜(30)、すっぴん眼鏡でひっつめ髪。
  新婦、ブーケを空高く投げる。
  タイトル「花束を君に」

〇同・披露宴会場(夕)
  片付けをしている小夜の所にギャルメイクの遠田萌奈(30)がやってくる。
萌奈「外の花道綺麗だったね」
小夜「結構(指でお金の示して)使ってるからね」
萌奈「あー夢がなーい」
  談笑する二人の後ろに現れる上司の門澤(42)。
門澤「柴田、今日早上がりだったな」
柴田「上がっていいですか?」
門澤「うん、いいよ。いいんだけどね。化粧して来いって言ったよな? 昨日散々言った
 よな?」
小夜「主役は新郎新婦なので」
門澤「主役になれとまでは言ってないよ。けどほら、式場って華やかだろ? そこにな、
 幸薄そうな顔で居られるとな。言いたいことわかる? 遠田までとは言わないからさ、
 ちょっとでいいんだよちょっとで。ナチュラル? ぐらいで」
萌奈「ギャルまじ最強だから」
門澤「求めてないんだよ。早く卒業しろ」
小夜「契約は取れてますので問題ないかと」
門澤「口が達者なようで」
小夜「おかげさまで~。お先です(去る)」
  小夜を見送る門澤と萌奈。
萌奈「苦労するね、門ちゃん」
  萌奈、門澤の肩に手を置く。
  門澤、その手を払って、
門澤「門ちゃんって言うな門ちゃんって。上司、敬って?」

〇柴田家・外観(夜)
  平屋の前にバンが止まっている。
  小夜、玄関を開ける。

〇同・玄関(夜)
小夜「ただいまー」
  弟の祐輔(24)、段ボールを抱えて階段を下りてくる。
祐輔「おかえり」
  小夜、靴を脱ぎながら、
小夜「美冬ちゃんは?」
祐輔「新居の掃除。終わったらこっち来るよ」
小夜「そー」
  小夜、荷物を玄関に置いて上がる。

〇同・居間(夜)
  小夜、荷物が入った段ボールを持って居間へやってくる。
  母のみどり(57)、アルバムを広げている。
小夜「うわ懐かし」
  小夜、みどりの横に座ってアルバムを見る。
  子どもの頃の小夜と祐輔の写真。
  みどり、小夜を見る。
みどり「お父さんが居ない分、小夜には苦労かけてばかりね」
  小夜、仏壇にある父の遺影をちらっと見る。
小夜「(アルバムに戻って)別にー?」
みどり「祐輔もここを出て新しい生活を始めるんだから、小夜は自分の為に生きていいのよ?
 女の子なんだから髪やお化粧も楽しめるでしょう?」
小夜「女だから男だからっていう時代じゃなくなったんだよ」
みどり「お母さん、小夜のお嫁姿、楽しみにしてるのに」
小夜「いやいや、結婚は贅沢品だよ。給料は変わらないのに物価と消費税は上がってさ。
 生きるので精いっぱいなのに誰かの人生の責任まで持つ人なんて、ごく一部なの」
みどり「一番近くで見てるのにそんなこと言わないの」
小夜「現場で働く人が一番現実知ってるんだよ」
  みどり、ああ言えばこう言う小夜にため息を吐く。
みどり「好きな人は? 居ないの?」
小夜「えー? 志月くんで十分」
みどり「あら、居るの?」
小夜「Vだから二次元だよ。現実じゃないって」
みどり「? よくわからないけど、お相手が居ないならちょうどよかった。小夜にお見合いの
 話が来てるの。すっごくイケメンよ。今、写真持って来るから」
  みどり、居間を出て行く。
小夜「えー……(めんどくさいなあ)」

〇同・玄関(夜)
  小夜、段ボールを運んでくる。
  玄関を開ける祐輔、その横に橘美冬(24)
美冬「こんばんは」
小夜「美冬ちゃん、いらっしゃい」
美冬「小夜さん、志月くんが配信するってさっきツイッターで言ってましたけど、大丈夫です
 か?」
小夜「うそ!? ごめん帰る。もう大体終わったから」
  小夜、段ボールを祐輔に渡す。
祐輔「(受け取る)はいはい、仕事終わりにありがとね」
美冬「片付いたら遊びに来てくださいね」
小夜「落ち着いたらお酒持って行くよ」
  小夜、荷物を持って家を出る。
みどり「小夜あった! 小夜? (気づいて)あ、美冬ちゃんいらっしゃい。祐輔がお世話に
 なるけど何かあったらすぐ言ってね」
美冬「ありがとうございます。でもお世話になるのはこっちの方なので」
みどり「やだ、出来た子」
祐輔「姉ちゃん帰ったよ」
みどり「えっどうして?」
祐輔「推し活」
みどり「オシカツ?」

〇アパート・小夜の部屋(夜)
  晦志月のポスターやアクリルスタンドなどグッズだらけの1k。
  慌てて帰ってくる小夜、靴を脱ぎ捨ててパソコンでツイッターを開く。
  晦志月のツイート【もごんち~急だけど配信します。重大発表あり】
  小夜、添付されているURLをクリック。
  待機中の画面が開く。
小夜「セーフ」
  上着を脱ぐ小夜、冷蔵庫へ。
  小夜、中から食べかけのチャーハンを出してレンジで温める。
  × × ×
  部屋着姿の小夜、萌奈とスピーカーで電話をしながら冷蔵庫からビールを出す。
小夜「重大発表って何だろ、3D実装とか?」
萌奈の声「あー確かにありえるね。何でまだ実装されてないのって感じだし」
  小夜、棚を漁っておつまみを探す。
小夜「あとは無難に新衣装?」
萌奈の声「前のが現代風だったから、部屋着とか?」
小夜「あーっそれは! やばい! 死んじゃう!」
  パソコンから音楽が流れる。
小夜「あっ始まる!」
  小夜、開いた棚をそのままに、パソコンの前に座る。
  画面に青みがかった黒の短髪で文豪風の和服を着た2Dの人物、晦志月が映る。
志月『あー、聞こえてるかな? もごんち~晦志月です』
小夜「志月くんだー! あーマジ可愛い癒し」
萌奈の声「それな~」
小夜「このために生きてる……」
志月『急なのに来てくれてありがとう。重大発表、うんそう超重大発表。いやでも、どっち
 かっていえば大切なお知らせかなあ』
  小夜、ビールを開けて飲む。
志月『結構人居るね。しばらく雑談しようかと思ってたけど、もったいぶるのはよくないから
 発表しちゃおうか』
小夜「きたきた」
志月『えー……(咳払い)晦志月は─』
  小夜、わくわくした顔で待つ。
志月『今年いっぱいで卒業します』
萌奈の声「えっ!?」
  固まっている小夜、手から落ちたビールが床に広がっていく。

〇同・同(朝)
  携帯のアラームが鳴る。
  小夜、アラームを止めて起き上がる。
  × × ×
  テレビを見ながらトーストを食べる小夜、食べカスが服の上に溜まっている。
  × × ×
  小夜、洗面所で髪を縛って顔を洗い、歯磨き。
  × × ×
  スーツ姿の小夜、鞄を持って出る。

〇ブライダルペスカ・外観(朝)
  シンプルなデザインの小さな事務所。
  ガラスのショーウィンドウにタキシードを着たマネキンとウェディングドレスを着た
  マネキンが飾られている。

〇同・スタッフルーム
  デスクが並んでいる事務所。
  門澤、席に座って新聞を読んでいる。
  出勤してくる小夜。
小夜「おはようございます……」
  門澤、新聞を見たまま、
門澤「柴田ぁ」
小夜「はい」
  小夜、鞄を置いて門澤の前に立つ。
  門澤、新聞を畳んで。
門澤「今日も化粧してな─(顔を見て)えっどうした? 顔がお通夜だぞ。嫌なことあった?」
小夜「(ぼそっと)推しが死ぬんです」
門澤「(聞こえなくて)オシオシ? 何?」
  小夜、ふらっと自分の席へ。
  門澤、理解できてない。
  出勤してきた萌奈、小夜を見て門澤の元へ。
萌奈「今日だけは勘弁してください。私も控えめにしたんですから」
  門澤、萌奈を見る。
  萌奈、昨日と変わらず濃いメイク。
門澤「いや、全然控えてないけど」
  × × ×
  小夜、黙々と仕事をする。
  門澤、心配そうに小夜を見ている。
門澤「(ぼそっと)オシオシって何だ、オシオシって」
  電話が鳴る。
小夜「(出る)はい、ブライダルペスカの柴田です」
  加志村霜月(28)、スタッフルームに入ってくる。
霜月「戻りましたー」
  門澤、霜月に手招き。
霜月「?(行く)」
門澤「おかえり。(小声で)ところでオシオシって何か知ってる?」
霜月「(小声)何ですかそれ」
門澤「(小声)知らないならいいんだけど。(普通に戻り)加志村、髪どうにかならない?
 そのモサモサと瓶底眼鏡も」
霜月「はあ……。(柴田を見て)小夜さん何かあったんですか?」
門澤「オシオシが何とからしい」
霜月「?」
小夜「(電話に)ああ、西田さんこんにちは」

〇西田フラワー・外観から店内
  店の前にバンが止まっている。
  奥の自宅スペースで電話をしている西田幸男(60)、右足に包帯を巻いている。
幸男「そうそう、この歳で初めての骨折でさあ。今日の配達は息子が代わりに行くから。
 うん、いや継ぐかどうかは別だってよ~」
  バンに花を積む息子のつばさ(28)、花で隠れて顔が見えない。
幸男「俺に似てイケメンだよ。本当だって、母ちゃんは俺に一目惚れだったんだから」
つばさの声「父さん、俺行くね」
幸男「(つばさに)おう! (電話に)今行ったから、よろしく頼むよ」

〇走るバン・車内
  振動で揺れる花。
  帽子をかぶったつばさ、運転している。

〇ブライダルペスカ・スタッフルーム
小夜「お大事にしてください。はい、では(切る)」
  門澤と霜月、小夜を見ている。
  小夜、視線に気づいて、
小夜「西田フラワーさんからです。骨折したから代わりに息子さんが来るそうで」
門澤「おお、なら明日お見舞いに行くか、いつもお世話になっているしな」
小夜「そうですね。私、表出てきます」
  小夜、席を立つ。

〇同・サロン
  萌奈、受付に座っている。
  小夜、スタッフルームから出てくる。
萌奈「(気づいて)ん? 交代?」
  小夜、「ちがう」と笑う。
小夜「お花、西田さんの息子さんが来るんだって」
萌奈「へーイケメンかな。こっそり見てよ」
  萌奈、机の陰に隠れる。
  小夜、笑う。

〇同・駐車場
  西田フラワーのバンが入ってくる。
小夜の声「昔は格好よかったんだって西田さんよく言ってるけどね」
萌奈の声「本当の話かもしれないよ」
  バンを降りるつばさ、ハッチバックを開けて花を出す。

〇同・サロン
小夜「遺伝子は裏切らないと思うけどなあ」
  小夜、大あくび。
萌奈「うわ(笑う)」
  サロンに入るつばさ、帽子を取る。
つばさ「こんにちは、西田フラワーです」
  微笑むつばさの顔が志月そっくり。
  小夜と萌奈、驚く。
  小夜、口が開いたまま。
萌奈「(小声)口、口!」
小夜「(はっとして)こ、こんにちは、お世話になってます。柴田です」
つばさ「ああ、小夜さん」
小夜「(名前!?)」
萌奈「(名前)」
つばさ「父がいつも美人さんだって話してました。あ、西田つばさです。しばらくの間、
 よろしくお願いします」
  にっこり微笑むつばさ、後光が差す。

〇同・スタッフルーム
  小夜、駆け込んでくる。
小夜「専務! 私って美人ですか!?」
  門澤、書類から顔を上げずに、
門澤「ブスだよ。化粧しろっつってんだろ」
霜月「専務!?」
  小夜、膝から崩れ落ちる。
  門澤、顔を上げる。
門澤「えっ何、ボケじゃないの?」
  霜月、小夜に寄り添う。
霜月「小夜さんは綺麗ですよ」
小夜「加志村くん、今それ言われても嬉しくないの」
門澤「女をサボんな柴田ァ。明日お見舞いしに行くんだから化粧して来いよ」
  小夜、ムスッとした顔。
小夜「ケショウケショウうるさい妖怪」
門澤「柴田のために言ってるんですけど!?」

〇西田フラワー・前(日替わり)
  手土産を持っている門澤。
門澤「昨日さあ、俺何て言ったっけ?」
小夜「え?」
小夜、昨日と変わらずすっぴん。
門澤「化粧しろって言ったよなあ」
小夜「無理だったんですよぉ。昔買った化粧品引っ張り出しましたけど全部カビ生えてたので
 捨てました」
門澤「新しく買うっていう選択肢はなかったのか」
小夜「推しの新作ボイスが出てたのでそれを買いました。聞いてたら朝になってました」
門澤「(溜息)……柴田がそれでいいならもういいよ。恥かくのはお前だからな、俺は何回も
 言ったからな」
小夜「はあい」

〇同・店内
門澤「こんにちはー」
幸男「いらっしゃ─(顔を出す)あっ門澤さんに小夜ちゃん! なあにどうしたの」
門澤「お怪我の具合はどうですか?」
幸男「平気平気。ちょっと不便だけど。いやあ何だい嬉しいね。ささ、(手招き)こっち来て
 茶飲みな」
  門澤と小夜、店の奥へ。
  × × ×
  門澤と幸男、談笑している。
  小夜、店に並ぶ花を見る。
  配達を終えたつばさ、戻ってくる。
つばさ「小夜さん。どうしたんですか?」
小夜「あ、お父様のお見舞いに」
つばさ「ああ、ありがとうございます。ずっとテレビ見てるだけなので喜びます。(門澤に)
 こんにちは!」
門澤「(気づいて)お邪魔してます」
つばさ「ごゆっくり」
  つばさ、帽子を取ってエプロンを付ける。
つばさ「この前、花をいっぱい使った式を挙げたって聞きました。小夜さんの案だって」
小夜「お客様の希望を叶えただけです。お花の絨毯を歩きたいって要望だったんですけど、
 せっかくのお花を踏むのはかわいそうなので道を作って、普段の倍の花びらを降らせるって
 形で納得してもらいました」
つばさ「花のことも考えてくれたんですね」
小夜「西田フラワーさんのお花ですから。大切に扱わせていただいてます」
つばさ「嬉しいです。小夜さんは本当に素敵な方ですね」
小夜「! そんな……」
つばさ「花はいいですよ、花言葉も面白いですし。(ふと)小夜さんはバラの花束の意味を
 知ってますか?」
小夜「いえ……どんな意味が?」
つばさ「そうだな……」
  つばさ、バラを一本手に取って。
つばさ「一目惚れ」
  つばさ、バラを増やしながら、
つばさ「(二)世界に二人だけ(三)告白(四)死ぬまで気持ちは変わらない(五)出会えた
 喜び(六)あなたに夢中(七)ひそかな愛(八)励ましに感謝」
小夜「(すごいな)……」
つばさ「ここからちょっと変わって(九)いつもあなたを想う(十)あなたの全てが完璧
 (十一)最愛。で、僕のお気に入りが」
  つばさ、十二本束ねたバラを小夜に差し出して、
つばさ「私と付き合ってください」
小夜「……!?」
つばさ「とかね(微笑む)」
  つばさ、一本だけ残してバラを戻す。
つばさ「差し上げます」
小夜「あ、ありがとうございます……」
女子1「すみませーん。小さいブーケ作れますかー?」
  入口に立っている女子二人組。
つばさ「はーい」
  つばさ、二人組の元へ。
  小夜、つばさを見る。
  接客するつばさ、花を数本手に戻ってきてブーケを作る。
  小夜、その手早さに見惚れている。
  二人組、見に来る。
  小夜、場所を譲るように離れる。
  二人組、すれ違いざま小夜をちらっと見る。
女子1「(小声)ババ専? 超イケメンなのにもったいなあ」
女子2「(小声)え? 母親じゃないの?」
女子1「(小声)ちがうでしょ、格好的に」
  クスクス笑う二人組。
  驚く小夜、ショックを隠しつつガラスのショーケースに映った自分を見る。
  すっぴんでボサボサの姿、手に持ったバラが浮いている。
  小夜、髪で顔を隠す。
つばさ「お待たせしました」
女子1・2「ありがとうございまーす」
  二人組、会計を済ませて店を出る。
  小夜、二人組をちらっと見る。
  目元で輝くラメとさらさらの髪。

〇マンション・祐輔と美冬の部屋・前(夜)
  チャイムを押す小夜、その手にバラと大量のお酒が入った買い物袋。
美冬「はーい(開けて)いらっしゃいませ」
  小夜、ばっちりメイクの美冬が眩しい。
小夜「美冬ちゃん可愛いね……」

〇同・室内(夜)
  まだ段ボールが残っている2LDK。
  ローテーブルを囲んでいる三人。
美冬「素敵ー。しかも花言葉で告白?」
祐輔「告白ではなくない? 包装されてないし、余りもの?」
  美冬、祐輔を睨む。
  祐輔、顔をそらす。
  小夜、缶ビールと花を握りしめている。
小夜「ヤバいよ。あの笑顔はダメだよ。全人類恋に落とす気かよ嫌だよどうしよう。(はっ)
 明日も仕事で会うんだが? え? 無理だが? 何これ地獄? 天罰?」
祐輔「嬉しいのか嬉しくないのかどっちだよ」
  祐輔、コロコロ変わる小夜の表情を笑う。
小夜「どうすればいい? こんなんじゃ推しに会えない。正確には推しに似た人だけど。
 ボロ雑巾みたいな見た目で顔合わせられるわけないよ。失礼に値するよ。むしろ何で今まで
 平気だったんだろう」
  美冬と祐輔、「おや?」と顔を見合わせる。
  小夜、頭を下げて、
小夜「助けてください」
美冬「小夜さんは恋をしたんですね」
  小夜、顔をあげる。
小夜「え?」
美冬「えっ?」
祐輔「え?」
小夜「えー? 違うよー(笑って)違う違う。そんなんじゃないって。私なんかがガチ恋とか
 ナイナイ、無理だって。リアル志月くんに? おこがましいわ~」
  持っていたお酒を机に置く美冬、移動して小夜の肩に手を置く。
美冬「小夜さん、相手の人に綺麗な姿を見て欲しくないですか? 可愛いねって言ってほしく
 ないですか? 綺麗だねって微笑んでほしくないですか? 手を繋いでデートしたくないです
 か!? リアル志月くんと! この現実世界で!」
小夜「(ぐぬぬ)したくないは……嘘になるけど─」
美冬「したいですよね!」
祐輔「明日、仕事終わったら店に来なよ。コンタクトは絶対持って来ること」
小夜「(押しに負けて)ハイ」

〇結婚式場・入口
  洋風の城をイメージした建物内。
  二階へ続く階段の横でつばさと萌奈が談笑している。
  小夜、壁に隠れて二人を見ている。
  そこへやってくる霜月。
霜月「何してるんですか?」
小夜「シッ!」
  小夜、霜月をしゃがませる。
霜月「どうしたんですか、何かありました?」
小夜「いや、何もないんだけど。ん? 何もなくないか。その、自分がみっともないことに気
 づいて、恥ずかしくて」
霜月「……。小夜さんは、仕事に対する姿勢が格好いいんです。そこが魅力なんです」
小夜「……加志村くんはいい奴だね」
  霜月、腑に落ちない顔。
  小夜、霜月の持っているコンセプト表に気づく。
小夜「バルーン使うんだ」
霜月「あ、そうです。派手にしたいらしいんですけど大量に扱うとなると予算が……」
小夜「最後それどうするの?」
霜月「割ります。割って、中にプレゼントが入っているというサプライズをしたいそうで」
小夜「なら風船の中に紙吹雪とかお花を仕込むのは? それなら数少なくても派手に見えるし、
 今ちょうど西田フラワーさん居るから聞いてみよ」
  小夜、霜月を連れてつばさの元へ。
  驚く霜月、慌てて小夜の後を追う。
小夜「こんにちは、少し相談いいですか?」
つばさ「はい」
  小夜、淡々とさっきの内容を話す。
霜月「(平気で話してる……)」
萌奈「(隠れてた意味は?)」
  萌奈と霜月、不思議そうに小夜を見ている。
つばさ「花びらでよければお値段抑えれるかもしれないですね。父と相談してみます」
小夜「だって、よかったね。紙吹雪はお客様と相談だね」
霜月「あ、ありがとうございます」
小夜「(我に返って)じゃ、私はこれで」
  小夜、足早に去る。
  霜月、小夜を見ている。

〇美容室・内(夜)
  小夜、扉を開けて顔を覗かせる。
小夜「こんばんは……」
  準備をしていた祐輔、駆け寄る。
祐輔「姉ちゃん! さあ入って入って」
  祐輔、小夜の背中を押して席に座らせる。
  荷物を預かる祐輔、隣の席に置いて小夜の髪を櫛でとく。
  裏から出てくる美冬、カラー剤を混ぜている。
美冬「いらっしゃい小夜さん。めちゃくちゃ可愛くしますからね」
小夜「あの、どうしてここまで……」
  祐輔、小夜の眼鏡を外す。
小夜「あっ」
  小夜の視界がぼやける。
祐輔「そりゃあ……ねえ?」
美冬「小夜さんのことが大好きだからですよ」
  × × ×
  祐輔と美冬、カラー剤を塗る。
  小夜、大人しくされるがまま。
小夜「他のお客さんは? 店長さんも居ないみたいだけど」
祐輔「今日は早めに閉めて貸し切り」
美冬「小夜さんが緊張しないようにって頑張ったんですよ」
小夜「えー……(嬉しい)」
  × × ×
  祐輔、小夜の髪を切る。
祐輔「姉ちゃんって雑なのに髪綺麗なんだよな。本当にもったいないよ」
小夜「褒めてる? 貶してる?」
祐輔「(聞いてない)んー? うん」
小夜「どっち!?」
  × × ×
  小夜、コンタクトと奮闘。
小夜「(つけて)入った? 入った!」
祐輔「よくやった」
美冬「じゃあメイクしていきますよ。目をつぶっててください」
小夜「お願いします」
  × × ×
  美冬、小夜にリップを塗る。
  祐輔、小夜の髪をコテで巻いてセット。
祐輔「うん、いいんじゃない?」
美冬「目を開けていいですよ」
  小夜、ゆっくり目を開ける。
  鏡に映る小夜の姿、茶色に染められた髪は緩く巻かれ、チークラインで切られた前髪が
  大人っぽくも可愛らしさを醸し出し、年相応の女性になっている。
小夜「─……え」
  小夜、思わず口を指でこすってしまう。
祐輔「ああちょっと」
美冬「大丈夫、直せますから」
  美冬、手直し。
祐輔「同じ服だけど全然違うでしょ? 全体的に整えたぐらいで長さは変わってないよ」
美冬「メイクも難しいことはしてないです。今すぐ覚えられますし、道具と一緒にメモ入れて
 おきますね」
祐輔「人はこんな簡単に変われちゃうんだよ。面白いでしょ?」
美冬「と言っても、私たちにできるのはここまでなので、あとは小夜さん次第です」
小夜「(うっ)頑張れるかな……」
祐輔「じゃあわかった。明日、頑張ったご褒美でちょっといい夕飯食べようよ。俺予約しとく
 から」
美冬「あーいいなー。私も研修なければ行けるのに」
祐輔「写真送るよ」
美冬「ふむ、なら我慢しましょう」
小夜「え、いや、でも……」
祐輔「ね、約束」
小夜「うん……」

〇駅前・大通り(夜)
  自然と背筋が伸びる小夜、浮かれた足取り。
  ショーウィンドウを見て映った自分にさらに浮かれる。
  後ろから突然現れるナンパ男。
ナンパ男「すみません、道を聞きたいんですけど。(携帯を見せて)この飲み屋って知って
 ます?」
小夜「えっと……、この道を真っ直ぐ行けば着きますけど」
ナンパ男「わかんないなー、(小夜と腕を組む)案内してくれない?」
  驚く小夜、ナンパ男の腕を払う。
ナンパ男「あ、こういうの苦手? わかったわかった。ごめんね、お詫びに呑みにこ?」
  首を振る小夜、祐輔に電話しようと携帯を出そうとするが焦ってかばんの中身をぶちまけ
  る。
  地面に散らかる仕事の資料や筆記用具の中に志月のグッズ。
  急いでかき集める小夜、それを見下ろしているナンパ男。
ナンパ男「何だ、陰キャオタクかよ」
  小夜、志月のグッズを鞄に突っ込む。
  ナンパ男、かがんで小夜の顔を覗き見る。
ナンパ男「外面だけよくしても中がこれじゃあな。だあれも相手してくれないよ?」
  ナンパ男、去っていく。
  小夜、落ちたものを拾う。
  通行人が皆、小夜を見て通り過ぎていく。

〇アパート・小夜の部屋(夜)
  家に帰ってくる小夜、その場にへたり込み、溜息を吐く。

〇同(朝)
  携帯の時計が六時になる。
  机の上にメイク道具と美冬のメモ。

〇レストラン・前(夜)
祐輔「何その格好」
  小夜、いつもと変わらないひっつめ髪と眼鏡の姿。
小夜「ごめん……」
祐輔「ごめんじゃなくてさあ」
小夜「……(髪で顔を隠す)」
祐輔「(溜息)……とりあえず入ろ」
小夜「うん……」

〇同・店内(夜)
  運ばれてくる料理を黙々と食べる祐輔。
  小夜、居心地悪そうに肩をすくめてちまちま食事をする。
祐輔「……それで? 言い訳ぐらい聞くけど」
小夜「あ、あのね、朝ちゃんとメイクしたんだよ。本当に、写真も撮ったの」
  小夜、携帯を取り出して祐輔に見せる。
  携帯で顔が隠れていて髪型しかわからない写真。
祐輔「見えねー」
小夜「自撮りとか恥ずかしくて」
祐輔「今の方が恥ずかしいと思うけど」
小夜「……」
  祐輔、携帯を返す。
祐輔「何で落としたの?」
  受け取る小夜、手が震えている。
小夜「あー……、うん。えっとね、……お姉ちゃんが身の程知らずだったの。祐輔と美冬ちゃん
 がせっかく頑張ってくれたのに、……ごめんね、やっぱり自分の立場っていうのをもっとよく
 考えれば……」
祐輔「昨日の帰り、何かあった?」
  ドキッとする小夜、誤魔化す様に笑う。
小夜「……何も、ないよ?」
  祐輔、小夜を真っ直ぐ見ている。
  小夜、目をそらす。
小夜「……見た目が変わったら世界が変わったみたいだった。それは二人のおかげ。でも……。
 でもね、私は何も変わってないの、中身がこんなどうしようもない奴のままで、どんなに隠し
 てもわかっちゃうんだって」
祐輔「俺が美容師になりたいって言った時に一番応援してくれたのは姉ちゃんだよ。学費も色々
 出してくれた。それが? どうしようもない奴? そんなわけないだろ。誰だよそんなこと言
 った奴、そいつの方がよっぽどどうしようもないだろ」
小夜「違う、違うから」
祐輔「何がだよ。姉ちゃんがせっかく綺麗になりたいって思ったのに、そのために俺と美冬が
 あんなに頑張ったのに。……姉ちゃんは自分の為に綺麗になったんだよ。誰の為でもない、
 姉ちゃん自身の為に綺麗になったんだよ。ずっとずっと後回しにしてた自分と向き合って、
 自信をもって好きな人に会いに行く努力をしたんだよ」
小夜「私なんかが誰かを好きになっちゃいけなかったんだよ」
祐輔「俺と美冬が姉ちゃんを綺麗だと思った気持ち全部も全部否定すんの?」
  小夜、はっとして祐輔を見る。
  祐輔、今にも泣きそうな顔。
  小夜、ナプキンを祐輔に差し出す。
  祐輔、にじんだ涙を袖で雑に拭う。
祐輔「外面しか見ないクソは世の中にはたくさん居るよ。けど、姉ちゃんが好きになったのは
 そんな人じゃないでしょ? 陰キャオタクでも対等に話をしてくれたんでしょ? 花をくれた
 んでしょ? 笑いかけてくれたんでしょ? だったらこんなところで負けんなよ。ダサいまま
 終わるなんてもったいないよ」
  小夜、行き場のないナプキンを机の下で握りこむ。
祐輔「……姉ちゃんがその時どんな思いをしたのか俺にはわからないから、今後もう口出さない
 よ。推しを追いかけ続ける人生でも俺は何も言わない。美冬が言ってた通り、姉ちゃん次第
 だから」

〇マンション・小夜の部屋(夜)
  暗い部屋に帰ってくる小夜、ぺたんと座り込む。
  机の上には朝と変わらずメイク道具が置かれている。
小夜「(見て)……」
  小夜、鞄から携帯を出して机に置く。
  携帯の画面がつく。
  小夜の携帯に届いている通知【晦志月が配信を始めました】
  気づく小夜、URLをタップ。
  画面に映る志月。
志月『クラスの男子に片思い中です。アドバイスか励ましをください、ね。いいねー、恋をして
 る子は可愛い。男女関係なく皆可愛い。自信持って! 君は最高に可愛いよ。人って行動した
 後悔より行動しなかった後悔の方が引きずるからね。周りなんか気にせず行動あるのみだよ。
 負けるなー』
  小夜、画面を見ている。

〇同(日替わり)
  時刻は五時。
  小夜、目覚ましが鳴った瞬間止め、がばっと起きて洗面所へ。
  小夜、ヘアバンドを付けて洗顔を泡立てる。
  小夜、泡へダイブ。
  × × ×
  小夜、メイク道具を眺める。
  伸ばす手が少し震えている。
  小夜、深呼吸して下地を掴む。

〇ブライダルペスカ・事務所(朝)
  門澤、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
小夜「おはようございます!」
  小夜、髪を巻いてフルメイク。
門澤「おは─(見る)えっ誰!? 部外者立ち入り禁止ですけど!?」
  小夜、胸を張って、
小夜「柴田です」
門澤「しば……柴田ァ!?」
  入ってくる萌奈。
萌奈「門ちゃんうるさ……(小夜を見て)あ!?」
  その後から霜月。
霜月「あの、入口詰まってるんですけど(見て)うお」
萌奈「えー小夜!? どうしたの! めっちゃ可愛い! 最高!」
  見惚れている門澤と霜月。

〇結婚式会場・駐車場
  つばさ、バンから花を下ろしている。
  会場の扉が開いて小夜が出てくる。
小夜「こんにちは」
つばさ「(振り返る)こんにちは」
  つばさ、小夜を見て驚く。
つばさ「小夜さん、ですよね。わー……すごい。あっごめんなさいじろじろ見て」
小夜「(照れくさそうに)いえ」
つばさ「すごく、綺麗です。……花嫁を見た気分ってこんな感じなんでしょうね」
小夜「……!」
  ハッチバックを閉めるつばさ、少し考えて意を決めたように小夜を見る。
つばさ「あの、仕事が終わったらお話したいことがあるんですけど、いいですか?」
小夜「はい。あ、でも私、サロンに戻ってしまうんですけど」
つばさ「大丈夫です、伺います」
小夜「わかりました」
つばさ「じゃ、運んじゃいますね」
小夜「お願いします」

〇ブライダルペスカ・スタッフルーム
萌奈「それ絶対そうじゃん!」
小夜「私の命日は今日なのかもしれない」
萌奈「生きろ。全力で幸せ掴め」
  萌奈、握りこぶしを作る。
  小夜、真似をする。
小夜「生きる! ……っていうか、萌奈会場行かなくていいの?」
萌奈「大丈夫、会場には加志村が行ってるから。こんな面白いもの見ないわけにはいかない
 でしょ!」
小夜「面白がってる?」
萌奈「さあ、頑張れ! 骨は拾ってやる!」
  萌奈、小夜の背中を叩いてスタッフルームから出す。
小夜「? 骨って……」
  萌奈、戸を閉め、耳を当てる。
  後ろからカップ焼きそばを持った門澤。
門澤「何してんだ、仕事しろ」
萌奈「シッ! 親友の人生がかかってるのに仕事なんかしてられっか!」
門澤「お前何しに来てんだよ」
  とは言いつつも気になる門澤、同じように耳を当てる。

〇同・サロン
  そわそわして落ち着かない小夜、花をいじったりテーブルを拭いたりうろうろ。
つばさ「こんにちは」
  小夜、振り返る。
小夜「こんにちは」
  つばさの横に女性が居る。
小夜「……?」
つばさ「父にもまだ言ってないんですけど、小夜さんなら信頼できると思って」
  つばさ、女性とアイコンタクト。
つばさ「俺たちの結婚式、小夜さんにお願いできますか?」
小夜「……! ……(笑顔で)もちろん!」

〇同・スタッフルーム
  萌奈と門澤、あちゃーと言う顔。

〇マンション・小夜の部屋(夜)
小夜「あー終わったあー!」
  小夜、机にうなだれる。
萌奈「小夜は頑張ったよー超偉いよー」
  萌奈、小夜に抱き着く。
  二人、お酒の空き缶だらけの床に倒れる。
小夜「どこがあ! 始まってすらいない!」
  唐突に鳴るチャイム。
  萌奈、驚く小夜を置いて玄関へ。
  萌奈、祐輔を連れて戻ってくる。
祐輔「うわ酒クサ」
小夜「(起き上がる)祐輔」
萌奈「呼んじゃった」
  祐輔、酒瓶を机の上に置く。
祐輔「武勇伝聞きに来た」
美冬「私も居ますよー!」
  美冬、おつまみが大量に入った袋を掲げながら顔を出す。
美冬「えー小夜さん可愛いーすごーい。私が教えた通り完璧じゃないですか!」
小夜「美冬ちゃぁあ」
  小夜、子供のように泣き出す。
小夜「ごめんねぇ……祐輔もごめん。お姉ちゃんなあんにもできなかった。こんなにいっぱい
 頑張ってくれたのに、全然ダメでダサいままで」
祐輔「何言ってんだよ、メイク頑張ったんじゃん。髪だって綺麗に巻いてるしこんなに努力して
 んだからダサいわけない。姉ちゃんは世界一かっこいいよ!」
小夜「でもぉ」
  萌奈と美冬、小夜をあやす。
萌奈「辛いよなあ、失恋は」
美冬「今夜は付き合います!」
  × × ×
  ベッドの上に美冬、床に萌奈と祐輔が寝ている。
  小夜、酒瓶を抱きしめて机に突っ伏している。
  小夜の携帯に通知が来る。
  小夜、顔を上げて携帯を見る。
  【晦志月が配信を始めました】
  小夜、サイトに飛ぶ。
志月『もごんち~真夜中なのにそこそこ人居るな。ごめんね、眠い人は無理しないで寝てね』
  小夜、お酒をコップに注ぐ。
  コメント【卒業しないで】
志月『卒業は変わらないかなあ、ごめんね。理由は……うーん、あんまり言えないけど、仕事が
 ね、いろいろ忙しくなってきて、晦志月として百パーセント満足できなくなっちゃったから
 かな。俺は器用じゃないからねー、職場でもちゃんとしろって怒られてるし。モサモサメガネ
 だから』
小夜「……」
  コメント【志月くんと働きたい】【寂しい】【悲しい】【配信頻度を落としても居て欲
  しい】などと流れる。
志月『配信頻度を落としてもいいから居て欲しい、かあ……。嬉しい。けどごめんね、決めた
 ことなんだ』
  小夜、お酒を飲む。
志月『卒業までなるべくみんなと話せるように配信頑張るから、そんなしんみりしないで。
 前の放送みたいに愚痴聞いたり人生相談も乗るよ。俺でよかったらだけどね』
  小夜、【失恋した心に染みる】と打つ。
  大量のコメントに流されていく。
  小夜、眠くなる。
志月『今失恋した人居たねぇ』
  小夜、顔を上げる。
志月『失恋、失恋かあ。悲しいね、でもよく頑張った。誰かを好きになれるってすごいことだか
 らね。恋は人を大きく成長させてくれるから、いい経験したね。いつかその人のことを好きに
 なってよかったって思える日が来るよ』
  小夜、泣きながら少し笑う。

〇ブライダルペスカ・スタッフルーム(朝)
門澤「うわブス!」
小夜「失礼ですね」
  門澤の前に立っているマスク姿の小夜、髪は巻いているが目が腫れている。
門澤「声もひどくブス」
小夜「二日酔いじゃないだけラッキーだと思ってください」
門澤「今日早上がりしていいよ。予約も入ってないし、表には俺が出るから」
萌奈「(ガラガラ声)門ちゃんマジ神~」
門澤「遠田は帰れぇ。電話出れない目が見えないじゃ仕事にならないだろ」
萌奈「ライブチケット当たったので貢ぐ予定があるんですー」
門澤「人生長いんだ、自分大事にしろー」
萌奈「楽しけりゃ太く短くでヨシ!」
門澤「長生きしろォ!」
  小夜の携帯に着信。
  小夜、給湯室へ。

〇同・給湯室(朝)
小夜「(出る)もしもし?」
みどりの声「小夜元気?」
小夜「何、元気だよ」
みどりの声「そう? ならいいんだけど」
小夜「……あーもしかして、祐輔が何か言ったでしょ」
みどりの声「んー……?(誤魔化して笑う)」
小夜「まあいいけど、用は何?」
みどりの声「ん? 元気かなって」
小夜「(笑う)それだけ? 何なのもう」
みどりの声「そうだ! お見合い! この前帰っちゃって話しできなかったから今聞くわ。
 いつがいい?」
小夜「すること前提? やだよお見合いなんて、昭和押し付けないで」
みどりの声「古の風習みたいに言わないでちょうだい。話聞くだけでいいから、ね?」
小夜「もーわかったよ。今度そっち帰ったら話聞くから。本当に聞くだけだからね」
みどりの声「わかったわかった」
小夜「じゃあ仕事だから切るよ」
小夜、電話を切って振り返る。
  霜月、入り口に立っている。
小夜「うわびっくりした。あ、使う?」
霜月「お見合いするんですか?」
小夜「えっしないしない。母親が勝手にそう言ってるだけ」
  小夜、給湯室を出る。
霜月「……」

〇料亭加志村・前
  達筆すぎて読めない木の看板。
  パンツドレスを着た小夜、老舗の雰囲気が漂う外観を見上げる。
小夜「しないって言ったよね。話聞くだけだって」
  みどり、小夜の写真を撮っている。
小夜「何してんの!」
  小夜、カメラを手でふさぐ。
みどり「いいじゃないせっかく可愛い格好してんだから(連写)」
小夜「やめて、勢いが怖い」
みどり「お母さんだって話だけのつもりだったんだけど、お相手がどうしてもって。そんなに
 言われちゃあねぇ」
  みどり、「しょうがない」とひとりごとを言いながら料亭に入っていく。
小夜「本人置いてくってどうなの」

〇同・廊下
  女将の後ろを歩くみどりと小夜。
小夜「(小声)相手ってどんな人?」
みどり「(小声)ここの息子さん」
小夜「えっ」
みどり「(小声)ああ、お兄さんが継ぐ予定だから心配いらないって」
小夜「はあ……」

〇同・部屋前から中
女将「お連れいたしました」
  女将、ふすまを開ける。
  部屋の中には袴姿の加志村喜八(62)とスーツを着て髪をオールバックにした霜月。
みどり「失礼いたします」
  部屋に入るみどりに続く小夜、席に座る。
みどり「母のみどりです。本日はよろしくお願いいたします」
喜八「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます。父の喜八と申します」
  喜八と霜月、深々とお辞儀。
  みどりと小夜、合わせてお辞儀。
喜八「こんなに美しいお嬢さんだとは、いやはや少々緊張してしまいますな」
みどり「まあまあ、ありがとうございます。そういう息子さんも綺麗なお顔で」
  霜月、愛想笑いして会釈。
  小夜、霜月の顔を見る。
小夜「(まあ、確かに……)」
喜八「さて、挨拶が済んだことですし、ここは若い者に任せて我々は隣に移りましょうか、
 いい地酒が入りましてね」
みどり「あらあら、いいんですか」
小夜「(えっ)」
  喜八とみどり、部屋を出て行く。
  残される小夜、どうしようという顔。
霜月「やはり嫌でしたか?」
小夜「え? いえ、そんなことは」
霜月「こうまでしないと小夜さんは来てくれないと思ったので」
小夜「あの、どうして私に、……えっと(名前は)」
霜月「……ああそうですね。改めまして、加志村霜月と申します」
小夜「かし……ん?」
霜月「いつもお世話になってます(にこ)」
小夜「お世話?」
霜月「髪がいつもと違うからわかりませんか? 眼鏡もないしなあ」
  霜月、手で眼鏡を表現。
  小夜、はっと気づいて、
小夜「加志村くん!? えっ髪が爆発して瓶底眼鏡の!?」
霜月「目が悪いのは元々ですけど頭はわざとです。色々めんどくさいんで、モサモサメガネが
 通常です」
小夜「モサモサメガ……」
  × × ×
  フラッシュバック。
門澤「モサモサメガネぇ」
  × × ×
  画面の中の2Dの晦志月。
志月「モサモサメガネだから」
  × × ×
  気づく小夜、恐る恐る、
小夜「加志村くんって……その」
霜月「はい」
小夜「あれだったりする?」
霜月「あれとは」
小夜「えーっと」
  小夜、指でVを作る。
霜月「?」
小夜「……。もごんち~(手を振る)」
霜月「(振り返して)もごんち~あっ(ヤベ)」
  小夜、立ち上がって霜月を指さし震える。
霜月「……(どうしよう)」
小夜「志月くんが! 生きてる……!」
  小夜、泣き崩れる。
霜月「そっち? てっきり引かれたかと」
小夜「存在してくれているだけでありがたいの……」
霜月「小夜さんがまさか志月を知ってたとは」
小夜「会社では隠してましたので」
霜月「ちなみにどれくらい……?」
小夜「ガチ推し! ボイスもグッズも全部買った! 新衣装が発表された時は毎秒スクショし
 たし、コラボカフェには通い詰めたて、お給料はすべて志月くんにつぎ込んだと言っても過言
 ではない」
霜月「ガチのガチだ」
小夜「生きる糧なので」
霜月「じゃあこれからは俺を生きる糧にしていただく方向で」
小夜「ん!?」
霜月「ん?」
小夜「え?」
霜月「え?」
小夜「……えーっとぉ……」
霜月「うーん。じゃあまあ、とりあえずゆっくりいきましょうか」
  霜月、横に置いておいた十二本のバラの花束を持って小夜の元へ。
小夜「(驚く)えっ」
霜月「あ、もしかして意味知ってます?」
小夜「んー……うーん(誤魔化し)」
  霜月、笑顔で小夜にバラの花束を差し出す。
霜月「いい返事、待ってます」
  小夜、混乱している。
  霜月、にこにこしている。

終わり

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