染みわたる虚栄 ドラマ

大学生の神矢光輝は生意気盛りの妹である真美をあしらいつつ、父、友介や母、幸子に見守られながら就職活動に追われていた。そんな中、親友の高見蓮夜が動画配信アプリ「Seeru」に上げた動画の再生数を稼いで生きていくと語る。光輝は高見を心配するが、試しに利用してみると友好的な支持を受け有頂天になる。光輝は地道に就活をする自分がバカらしく思え、動画配信にのめり込んでいく。
兎緑夕季 9 0 0 03/08
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

人物表
神矢光輝(22)(24)大学生・フリーター
神矢友介(56)(58)神矢の父
神矢幸子(53)(55)神矢の母
神矢真実(15)(17)神矢の妹
高見蓮夜(22) ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

人物表
神矢光輝(22)(24)大学生・フリーター
神矢友介(56)(58)神矢の父
神矢幸子(53)(55)神矢の母
神矢真実(15)(17)神矢の妹
高見蓮夜(22)(24)光輝の友人
白井絵里(22)(24)光輝の友人
江本渚(15) (17)真実の友人
三鷹英二(33)謎の男
その他

(本編)

〇神矢家・外観(朝)
   日本家屋風の大きな建物。
   入口「神矢」の表札。

〇同・神矢の部屋(朝)
   神矢光輝(22)が慌てた様子でスーツに着替えている。
   本棚に機械工学やIT関連の本。
   壁に貼られたカレンダーに面接の文字が並んでいる。
   パソコン、「フラッシュワールド」と書かれたオンラインゲームが表示。
   神矢、パソコンを閉じる。
   机に置かれた置時計が8時と表示。
神矢「やばっ!もうこんな時間!」
   神矢、スマホを鞄に入れて部屋を出る。

〇同・リビング(朝)
   窓の外に大きな庭が見える。
   テーブルに座り新聞を読む神矢友介(56)。
   その向かいに神矢真実(15)。
   食パンを口に運ぶ。
   神矢幸子(53)、目玉焼きが乗ったお皿をテーブルに置く。
   勢いよく部屋に入る神矢。
神矢「ああ、ごめん母さん。ごはん食べてる暇もないんだ」
幸子「ええ~せっかく作ったのに…」
   神矢、真美の前にあるジュースの入った
   コップを乱暴に取り、飲み干す。
真美「ちょっと、お兄ちゃんそれ私の…」
神矢「ごちそうさま」
   新聞から顔を上げる友介。
友介「面接か?」
神矢「そうなんだ。10時には会場についてなきゃ…」
友介「お前のとこの大学なら引く手あまただろ」
神矢「そんなわけないだろ。今はどこに入るのだって一苦労なんだよ」
   大きなため息をつく神矢。
神矢「全く猛勉強の末に入学したっていうのに
あっという間にこれだもんな」
   幸子、食パンに目玉焼きを乗せ、神矢 
に差し出す。
幸子「これだけでも食べて」
真美「就活生は大変だね」
   ニヤニヤ笑う真美。
神矢「真美も人の事言えないだろ」
真美「うちの学校はエスカレーター式だもん」
神矢「それ嫌味か?」
   立ったまま食パンを口に運ぶ神矢。
真美「まさか。高校も同じ制服なんて萎える」
神矢「贅沢な悩みだな」
   新聞を折りたたむ友介。
友介「時間は大丈夫なのか?」
神矢「げっ!俺もう行くよ」
   真美、立ち上がる。
真美「私も!」
   ゆっくり立ち上がる友介。

〇同・玄関前(朝)
   江本渚(15)が立っている。
   扉を開け、外に出る神矢、真美、友介。
   3人の後から幸子。
玄関先で立ち止まる。
幸子「気を付けてね」
   真美、渚に視線を向ける。
真美「あっ!渚ちゃん」
   笑顔で渚の隣に立つ真美。
神矢に頭を下げる渚。
渚「おはようございます」
神矢「おはよう」
   微笑む渚。

〇東都大学・外観
   重厚感漂うレンガ調の建物。
   入口「東都大学」の看板。

〇同・大講義室
   数十人の男女が着席している。
   大講義室に入る神矢。あたりを見渡す。
   中央で机に突っ伏す高見蓮夜(22)に視
線を移す神矢。笑顔でその横に座る。
   神矢の横を通り過ぎる数名の男女。
   笑顔で神矢に手を振る。
   笑顔で通り過ぎていく男女に手を振り
返す神矢。その光景を睨んでいる高見。
神矢「おっ!起きたのか?」
   高見、大きなあくびをして態勢を整える。
高見「いや、昨日夜更かししちゃってさ」
   頭をかきながら笑う高見。
神矢「そんな事で大丈夫なのか?」
高見「全然。だからさ。いつものようにノート
見せてくれるとありがたいんだけど」
   お祈りのポーズをする高見。
神矢「全くしょうがないな…」
   ノートを高見の前に差し出す神矢。
高見「サンキュー!」
   笑顔で何度も頭を下げる高見。
   神矢、姿勢を正してスマホを見る。
   スマホ画面、「就活情報」が表示。
神矢「なあ、お前就活はどうなってる?」
高見「うん?俺は就活はやらない」
神矢「はあっ?」
   神矢、目を見開いて高見に視線を向ける。
高見「俺はこれで食っていく」
   スマホを横に振る高見。
神矢「冗談だろ?」
高見「いいや。マジ!」
   ニヤッと笑う高見。
神矢「動画だけで金になるのか?」
   人差し指と親指で丸を作る高見。
   高見、「Seeru」と表示された動画配信アプリを立ち上げる。
高見「それがなるんだよな。昨日上げた動画、もう50万回突破してさ。広告料がっぽり?」
   人差し指と親指で丸を作る高見。
神矢「そのアプリ最近人気だよな」
   神矢、高見のスマホをのぞき込む。
   スマホ画面「高見がゲーム実況」をする
   動画が流れている。
高見「ああ。広告料以外にも投げ銭にも特化してるから使いやすいんだよな」
   大笑いする高見。
   苦笑いの神矢。
   神矢の前に座る白井絵里(22)。
高見「あっ!白井さん」
   絵里、振り返り神矢に微笑む。
絵里「神矢君。講義間に合ったんだね」
神矢「今日の面接は一社だけだったから」
絵里「内定どう?」
   神矢、首を横に振る。
絵里「そっか…神矢君でも難しいなら私なんて
まだまだよね」
神矢「そんな事はないと思うけど…」
   絵里、髪を耳にかける。
絵里「あの、ゼミの課題が進んでないんだ。よ
かったら一緒にやってくれないかな」
神矢「いいけど」
絵里「ほんと?じゃあこの後…」
   神矢と絵里を交互に見る高見。
高見「ああ、この後はダメだよ。俺の用事を手
伝う事になってるから」
   高見、神矢の肩を抱く。
神矢「はあ?」
絵里「そうなの?じゃあまた今度でいいわ」
   前に向き直る絵里。
神矢「用事って何の話だよ」
   神矢、高見を睨む。
   ニコッと笑う高見。

〇速水総合公園・外観
   緑豊かな総合公園。
   入口「速水総合公園」の看板。

〇同・公園内
   大量の風船を膨らませる神矢と高見。
高見「手伝ってくれて助かるよ」
神矢「勝手に連れてきたくせに」
   神矢、高見を睨む。
高見「まあ、そう睨むなって」
神矢「で、これどうするんだ?」
   風船を横に揺らす神矢。
高見「飛ばすんだよ」
神矢「はあ…」
   高見、スタンドにスマホをセットする。
高見「じゃあ、撮るぞ」
   高見、スマホの前で手を振る。
高見「はい。皆さん。こんにちは。今日はこの
風船を飛ばしていこうと思います」
   風船を空に飛ばしていく高見。
   その光景を眺めている神矢。
高見「よし。これでOK」 
神矢「えっ!もう終わり?」
高見「そう。後は編集すればいっちょ上がりだ」
   スマホのスタンドを片付ける高見。
   呆然とその様子を眺めている神矢。

〇神矢家・神矢の部屋(夜)
   机に向かい、ノートを開く神矢。
   鉛筆を走らせる。
神矢「ああ、進まねえ~!」
   頭をかき乱す神矢。
   ベッドに置かれたスマホを立ち上げ、
   「Seeru」と書かれたアプリをダウンロードする。アプリを開く神矢。
   高見の動画を検索する。
神矢「あった…」
   スマホ画面「高見が風船を飛ばす」動画。
   再生回数が100万回を超えている。
神矢「これだけで100万超えるのか…」
   パソコンにメールの通知。
   メール画面を開く神矢。
   メール画面「不採用」の文字。
   大きなため息をつく神矢。
   スマホ画面「高見が笑っている」動画。
神矢「俺にもできるかも…」
   口角を上げる神矢。
   スマホを目の前で立てかける神矢。
   録画機能をスタートさせる。
神矢「えっと何するか…。そうだ。変顔します」
   両手を使い、自分の顔をいじる神矢。
   録画機能を停止する。
神矢「バカみたいだな俺…」
   高見の動画の再生回数が300万になる。
   頭を横に振る神矢。
神矢「アップするだけやってみるか…」
   神矢、変顔動画を公開する。
   扉の向こうでノック音。
   真美が顔を覗かせる。
   驚いてスマホを床に落とす神矢。
真美「お兄ちゃん?大丈夫?」
神矢「ああ、平気。手を滑らせただけだ」
真美「ふ~ん」
   部屋に入る真美。
神矢「何か用か?」
真美「宿題でわからない所があるから教えてほしいんだけど…」
   半開きの扉から幸子が顔を出す。
幸子「光輝は忙しいのよ。邪魔しちゃダメよ」
神矢「大丈夫だよ。少しぐらいなら」
真美「そういうことだから…」
   扉を乱暴に閉める真美。
   神矢の隣に座る。
   神矢、机の下でスマホを持つ。
   スマホ画面、「神矢の変顔」の動画。
   再生数は0。ため息をつく神矢。
   座りなおす神矢。
   ノートに視線を移す。

〇同・洗面台(朝)
   髪をセットする神矢。
   友介が隣に立ち、蛇口をひねる。
友介「やけに念入りだな」
神矢「今日の面接は第一志望だから…」
   友介、背中を向け、タオルで手をふく。
友介「お前は大学に残ると思っていた」
神矢「別に何か研究したいわけじゃないし、普
通に就職かなって…」
   鏡に顔を近づける神矢。
友介「そうか」
   友介、頬を緩めて立ち去る。
神矢「父さん?」
神矢、首を横にひねる。

〇八神製鋼所オフィス前(朝)
   高層ビル。
   スーツ姿の学生が集まっている。
   入口前「八神製鋼所」の看板と「面接会場」と書かれたプレート。
   神矢、ネクタイを締めなおす。
神矢「よし」
   神矢、ビル内に入っていく。

〇東都大学・構内・中庭
   歩く神矢。
神矢「疲れた…」
   しゃがみ込む神矢。
神矢「あんまりうまくいかなかったな…」
   ため息をつく神矢。
   ポケットからバイブ音。スマホを取り出す神矢。画面に通知のメッセージが並ぶ。
神矢「えっ!」
   スマホ画面、神矢の動画の再生回数が90万越えとなっている。
   すれ違う学生達が笑顔で神矢を見る。
男子学生「あっ!動画見たぜ」
   学生達が神矢の元に集まってくる。
   笑顔で手を横に振る神矢。
   学生達の円の外で神矢を睨む高見。
   
〇神矢家・神矢の部屋(夜)
   寝そべりながらスマホを眺めている神矢。画面「広告料、5万」の文字。
神矢「動画一本だけでこんなに?」
   パソコン画面を睨む神矢。
   画面、企業の名前が並ぶ。
神矢「よし。決めた!」
   神矢、慌てて立ち上がり、部屋を出る。
   ×  ×  ×
   ダンボール箱を抱えて、部屋に入る神矢。
   ダンボールを床に置き、ガムテープをとる。
   ボールやバット、風船などを取り出す神矢。
   最後にロリータ服を取り出す。
神矢「とりあえずかき集めたけど、使えるものあるかな…」
   神矢、ロリータ服をダンボール箱に仕舞う。
   カメラの前で角の生えた帽子などを被りながら座る。
   ×  ×  ×
   髭が生えている神矢。目の下にクマ。
   パソコンの前に座る神矢の顔にカーテンの隙間から光が射す。
   パソコン画面、神矢の映った動画が数十本表示されている。
   新品の高性能カメラを箱から取り出しセットする。
神矢「こんな感じだな」
   笑顔でカメラの前に座る神矢。
   カメラの電源を入れる。

〇東都大学・大講義室
   スマホから視線をそらさずに歩く神矢。
   あくびをする高見の隣に座る。
神矢「見てくれよ。俺も頑張って動画アップし続けたんだけどさ、結構再生数いいんだ」
高見「ふ~ん」
   無表情で神矢のスマホをのぞく高見。
高見「まあまあだな」
神矢「そうか?」
   肩を落とす神矢。
高見「そうだ。聞いてくれよ。僕今度、TVに出ることになってさあ」
神矢「すごいな…」
高見「だろ。まあ、お前も頑張れよな」
   神矢の肩をたたく高見。
神矢「そうだな」
   座り直し、前を向く神矢。
   スマホ画面、「お前の動画マジ面白い!」
   の文字と「ベリスタ」と書かれたアカウント名。ニヤリと笑う神矢。

〇同・神矢の部屋(朝)
   パソコンを睨んでいる神矢。
   部屋の中はガラクタであふれている。
   友介、神矢の部屋に大股で入る。
友介「おい、どうなってるんだ!何日も閉じこもって!」
神矢「うるさいな!」
友介「なんだその口の利き方は!」
   神矢の胸倉をつかむ友介。
幸子「あなた!光輝、就活はどう?はかどってるの?」
   友介の手を払う神矢。
神矢「就活?ああ、別に就職しなくたって…」
友介「どういうことだ?」
   パソコンにメールの通知。
   神矢、メールを開く。
   画面「八神製鋼所」の文字。
神矢「あっ!俺、内定出た。第一志望の所…」
幸子「えっ!おめでとう」
   大きく息を吐く友介。
神矢「ほら、そういうわけだから大丈夫だろ」
   神矢、友介と幸子を部屋から押し出す。
友介「おい!まだ話は終わってないぞ!」
   扉を閉める神矢。
カメラの電源を入れる。
   パソコン画面「神矢の動画一覧の再生数
がすべて100万越え」と表示。
神矢「今月は300万円は余裕でいくな」
   にやりと笑う神矢。

〇同・神矢の部屋前(朝)
   閉められた扉を見つめる幸子と友介。
幸子「きっと疲れてるのよ。そっとしておきましょう」
   頷く友介。
   その場を離れる幸子と友介。

〇同・神矢の部屋(夜)
   窓の奥に月が見える。
   背伸びをする神矢。
   大の字に寝転がる。
神矢「この匂い、からあげ?」
   扉に視線を向ける神矢。

〇同・リビング(夜)
   リビングに入る神矢。
   テーブルに山盛りのから揚げ。
神矢「なんか多くないか?」
   幸子がワイングラスをテーブルに置く。
幸子「光輝の内定祝いに頑張っちゃった」
   笑顔で光輝を座らせる幸子。
   友介がその前に座っている。
幸子「さすが光輝ね。第一志望、それも大手メーカーに就職するなんてね」
   ビールを飲む友介。
友介「社会は厳しいぞ」
神矢「そういうノリ古いんだよ」
   テーブルの下でスマホを操作する神矢。
   半開きの半開きのドアの向こうに真実と渚。
   手をふる神矢。
神矢「渚ちゃん、バイバイ」
   神矢に軽く会釈する渚。
   渚と神矢を交互に見る真実。神矢を睨む。
   玄関の開閉音がする。
神矢「また来てたのか渚ちゃん…」
真美「一緒に勉強してたの」
   スマホの画面を見ながら光輝の隣に座る真実。
真実「うわ~。油ものばっかり。やめてよ」
神矢「そんな太ってないだろお前」
真実「細いお兄ちゃんに言われたくない。超ムカツク。私によこせ」
   神矢の胸元を叩く。
神矢「イタっ!」
   神矢、真実を睨む。
   口を尖らせてSNSを開く真実。
幸子「ちょっと食事中はスマホは置きなさい!」
真実「渚ちゃんのメッセージが載ってるの」
   真実からスマホを取り上げる幸子。
神矢「あの子可愛くなったよな。小学生の頃を思えば人って変わるんだな」
真実「お兄ちゃん!友達を変な目で見ないで」
   真実、神谷を睨む。
神矢「変な目ってなんだよ!ただ可愛いって言っただけだろ」
   真実、顔をそむける。
真実「まあ、渚ちゃんがお兄ちゃんを相手するわけないか。背も低いし」
   真実、少し顔をあげ、神矢を見る。
   神矢、真実を叩こうとするが、スマホのバイブ音が鳴り、やめる。
   画面「動画の再生数が50回」と表示。
神矢「えっ!」
幸子「ちょっと、光輝もなの?お父さんから
も何か言ってよ」
友介「うん?まあ、いいじゃないか」
   スマホから視線をそらさない神矢。
幸子「光輝?」
   顔を上げる神矢。
神矢「分かったよ。ごめん。もうしないから。真実も機嫌直せよ」
   ポケットにスマホを戻す神矢。
   真実、座り直し、から揚げに手を伸ばす。それに続く神矢。
   笑い合う4人。

〇東都大学・大講義室
   机に顎をつけながらスマホを眺める神矢。
   スマホ画面、神矢の映る動画の再生数90回と表示されている。
   ため息をつく神矢。
神矢「ここ数日、ノリ悪いな…」
   学生達の騒ぎ声。
   高見が複数の学生達に取り囲まれる。
   神矢の肩をたたく絵美。
神矢「あっ!絵美さん…」
絵美「就活どう?」
神矢「ああ、内定出たよ」
   絵美、口を手で押さえる。
絵美「そうなの?おめでとう」
神矢「ありがとう」
絵美「いいな。私はキー局全滅。地方にかけるしかないかな」
   肩を落とす絵美。
神矢「絵美さん…」
絵美「ねえ、内定出たって事は時間あるのよね?なら、この後相談に乗ってくれ…」
   高見が神矢の肩を抱く。
高見「なあ、聞いてくれよ。この前出たバラエティの評判が良くてさ…」
   笑う高見。
   絵美、その場を立ち去る。
   その後ろ姿を眺めている高見。
神矢「お前、芸能人みたいだな」
高見「そうか?TVに出ている連中と一緒にしてほしくはないけどな」
   大声で笑う高見。
神矢「いいな。俺は調子悪くてさ」
高見「そうなのか?」
神矢「動画、上げ立ての頃は結構再生数伸びてたんだけど今はな…」
   スマホ画面、神矢の動画再生数40回と表示されている。
神矢「ここ最近、どんな動画上げても伸びが悪くてさ…」
高見「ふ~ん。そういう時はさ。ちょっと過激
な事すりゃ一発で再生数伸びるぞ」
神矢「過激な事?」
   にやりと笑う高見。
高見「なんなら僕が手ほどきしてやろうか?」
神矢「えっ!いいのか?」
高見「当然だろ。友達じゃないか?」
   神矢、笑顔で高見の手を握る。

〇神矢家・神矢の部屋(夕)
   メイクをする神矢。
神矢「試しにやってみたけど似合ってる?」
   鏡に向かって笑う神矢。
神矢「こういうのも過激に含まれるのか?」
   首をかしげる神矢。
   パソコンに裸踊りの動画が流れる。
   再生数「100万回」の文字。
神矢「俺もこれぐらい芸があればな…」
   床に転がるスマホにメール音。
   画面「高見」の文字。
神矢「うん?高見から?」
   ティッシュで口紅を取りながら、スマホを操作する神矢。

〇ファーストサンデ・外観(夜)
   よくあるコンビニ。
   入口「ファーストサンデ」のプレート。

〇同・店内(夜)
   パーカー姿の神矢を店に入る。
   笑顔で出迎える高見。
神矢「なんだよ。急に呼び出して」
高見「手ほどきしてやるって言っただろう」
神矢「確かに言ってたけど…」
   にやり笑う高見。
高見「思いついたんだよ。お前の再生数を復活させる方法」
   目を見開く神矢。
高見「まずは服脱げ」
神矢「はあ?」
高見「大丈夫だ。今夜のシフトは僕だけだから」
   高見、神矢のパーカーに手をかける。
高見「裸踊りと一緒だ」
神矢「裸踊り…自分で脱ぐよ」
   神矢、パーカーをチャックを下げ、脱ぎ、ズボンもおろしていく。
   ×  ×  ×
   裸で突っ立つ神矢。
神矢「これでいいか?」
   笑顔を向ける高見。
高見「ノリいいな。こうでなくちゃ…」
   高見、アイスの入ったリーチインの蓋を開ける。
高見「ここに入れ」
神矢「はあ?でも…」
高見「なんだよ。再生数ほしいんだろ?」
   リーチインを見つめる神矢。
   ゆっくりとリーチインに入る。
   高見、スマホで神矢を撮影する。
   リーチインの中で体育座りになる神矢。
高見「よし。これでOK。動画もアップしといたぜ」
   笑う神矢。リーチインから出る神矢。
神矢「えっ!そこまでしなくても…」
高見「何言ってるんだよ。こういうのはスピード感が大事だぜ」
   コンビニの窓に人影。
高見「やべえ~。早く服着ろよ」
   パーカーを神矢の胸に押し付ける高見。
   神矢、パーカーを握りしめる。
   窓に裸の神矢の姿が映る。

〇神矢家・神矢の部屋(夜)
   上半身裸のまま、床に寝そべる神矢。
   スマホを持ち上げ見つめる。
   スマホ、神矢がリーチインに入った動画の再生数が100万回を超える。
神矢「すげえ~」
   上半身を起こす神矢。

〇東都大学・構内
   歩く神矢。
   学生達が神矢に視線を向けながら距離をとる。
   神矢の前方を歩く絵美。
神矢「絵美さん!」
   振り返る絵美。神矢を睨む。
絵美「何?」
神矢「いや、別に用って事は…」
絵美「話しかけないでよ。気持ち悪い…」
   絵美、踵を返し立ち去る。
神矢「えっ!」
   神矢、辺りを見渡す。
   複数の学生達が神矢を睨んでいる。
   スマホ画面、通知が複数入る。
   画面「ヤバい!」、「バカな奴」などの文字が並ぶ。
   アカウント停止の文が表示される。
   走り出す神矢。
   段差につまずき、転ぶ。

〇神矢の家・リビング
   掃除をする幸子。
   TVにアナウンサーが映る。
アナウンサー「深夜のコンビニに全裸男。リーチインに体を突っ込む行為…」
   TV画面、神矢が裸でリーチインに入っている映像が流れる。

〇東都大学・大講義室
   笑顔で複数の学生と話す高見。
   神矢、高見に詰め寄る。
神矢「どういうことだよ!」
   高見の胸倉をつかむ神矢。
高見「なんだよ。どうしたんだ?」
神矢「俺はお前に言われて…」
高見「再生数、伸びたか?」
   神矢、高見を殴る。
   絵美が高見の元に駆け寄る。
絵美「何するの!神矢君」
   絵美と高見から距離をとる神矢。
神矢「再生数を伸ばしたかった。でもこんな…」
高見「夢は叶っただろ」
   高見、唇の血をぬぐう。
   神矢、高見に殴りかかろうとする。
絵美「神矢君!」
   高見の顔に擦れる寸前で止まる神矢。
高見「ああ、怖い怖い。動画の再生数稼ぎだけのためにあんな馬鹿な事するなんてな」
   鼻で笑う高見。
神矢「どうしてだよ。俺たち友達だっただろ」
高見「友達?いっつも僕を見下してた癖に…」
神矢「いつ俺が!」
   絵美の肩を掴み立ち上がる高見。
高見「よく言うぜ。優等生ぶってノート見せてきただろう」
神矢「それはお前が…」
   神矢のスマホに着信音。
   電話に出る神矢。
神矢「はい。えっ!そんな内定取り消しなんて、嘘ですよね?」
   高見、絵美と共に立ち去っていく。
   うつむく神矢。スマホを握りしめる。

〇ドンチャンパチンコ店・外観
   T・二年後
   道路沿いにあるパチンコ店。
   入口「ドンチャラパチンコ」の看板。

〇同・店内
   パーカーにサンダル姿の神矢(24)。
   パチンコ台に向かってスロットを打つ。
   大当たりを知らせる音が流れる。
神矢「よっしゃ。これでしばらくは持つな」
   ガッツポーズをする神矢。

〇ネットカフェ浮遊・外観(夜)
   繁華街の中にある大きなビル。
   入口「ネットカフェ浮遊」の看板

〇同・個室(夜)
   パソコンを見つける神矢。
   画面、高見(24)と絵美(24)が並んで笑う動画。
高見「ラブラブ」
絵美「カップルの一日」
   キスをする高見と絵美。
   動画の再生数が300万回を超える。
コメント欄、「あこがれのカップル」や「応援します」などの文字。
神矢「何がラブラブカップルだよ!」
   神矢、コメント欄に、「偽善者、死ねばいいのに」と打ち込むが送信せずに動画
   を閉じる。舌打ちする神矢。
   ファンタジー系のオンラインゲーム「フラッシュワールド」を開く。
   画面上に「フラッシュワールド」の文字。
   その周りは寝袋や脱いだ服で敷き詰められている。神矢の髪はボサボサ、髭も伸び放題。
   画面「この前の大ボス攻略に協力感謝。
   報酬はいつも通り電子マネーでOK?」の文字。神矢「イエス」と返信する。
   そばに置いた缶コーヒーを口に運ぶ。
神矢「チッ!空かよ」
   神矢、腰をあげ、個室を出て行く。

〇同・通路(夜)
   コーヒーメーカーを操作する神矢。
   その後ろを通りすぎる三鷹(33)。
   コーヒーメーカーの隣にある自動販売機の前に立つ。
   三鷹、神矢の顔を凝視する。
   神矢、三鷹を睨む。
神矢「なんすか?」
三鷹「やっぱり。アンタあれだろ!コンビニのリーチインに頭突っ込んだ奴!」
   驚き、青ざめる神矢。
   三鷹、笑いながらスマホを差し出す。
三鷹「絶対そうだ」
   三鷹のスマホ画面「裸姿でペットボトル飲料の陳列棚に頭を突っ込む神矢」の映像。
   三鷹、神矢を指さす。
三鷹「いや、見た時はウケたよ。名門大学の学生だって?スゲーぜ」
神矢「人違いだって言ってるだろ!」
   三鷹を突き飛ばして走り去る神矢。

〇同・個室(夜)
   勢いよく個室に入り耳を抑えてうずくまる神矢。
神矢「もう勘弁してくれ。頼むよ…」
   すすり泣く神矢。
   ×  ×  ×
   神矢、頭を押さえて体を起こす。
神矢「朝か…」
   溜息をつく神矢。スマホを手に持つ。
   スマホ画面、着信欄に母の文字が並ぶ。
神矢「たく、なんだよ」
   神矢、電話をかけようとするが止め、
   ツイート欄を開く。
   ツイート欄「17歳の女子高生が行方不明。情報求む」という書き込みと真実(17)の写真。
神矢「はあ!」
   立ち上がった勢いで、壁に肘をぶつけ
   る。スマホに着信。電話に出る神矢。
神矢「もしもし、母さん?」
   膝をさすりながら正座する神矢。

〇フタバマンション・外観
   5階建ての一般的な集合住宅。
   入口上「フタバマンション」の看板。

〇同・神矢家の部屋・リビング
   髭をそった神矢、テーブルにつく。
   俯いて神矢の向いに座る幸子(55)。
幸子「来てくれてありがとう。元気だった?」
神矢「俺のことはいい。真実が消えたって?」
   頷く幸子。
幸子「もう一週間よ!どこにいるのか…」
   涙を流す幸子。視線をそらす神矢。
神矢「警察は?」
幸子「あてにならないのよ。ただの家出だと思ってまともに取り合ってくれない」
   拳を握りしめる幸子。
神矢「友達のところとか?あいつも年ごろだし彼氏ができたとか?」
   首を横にふる幸子。
幸子「それはないわ。あの子一年ぐらい部屋に引きこもってたのよ。出会いなんて」
神矢「引きこもり?どうして…」
   友介(58)が部屋に入ってくる。
友介「なんでお前がここにいるんだ!」
   神矢の腕を掴み追い出そうとする友介。
幸子「やめて!折角来てくれたのに」
   幸子、友介と神矢の間に割って入る。
友介「こいつが何したのか忘れたか?バカな動画のせいで家も売る羽目になったんだ!」
   友介、顔を真っ赤にして神矢を指さす。
友介「真実が閉じこもったのもお前のせいだ」
   テーブルを強く蹴る友介。
神矢「俺、帰るよ」
   静かに立ち上がる神矢。
幸子「待って」
   幸子、ノートパソコンを神矢に渡す。
幸子「真実のパソコン。私達こういうの得意
 じゃなくて。光輝には簡単でしょ?」
神矢「わかった。何か手がかりを探してみる」
   背を向けドアノブに手をかける。
   幸子、神矢の腕を掴む。
幸子「ちゃんとご飯食べてるの?生活は?」
神矢「大丈夫だよ」
   苦笑いを浮かべる神矢。
神矢「そういや、真実のスマホは?」
幸子「見当たらないのよ。あの子が持ってる
 のかも」
   神矢、友介に視線を移すが目をあわせない友介。部屋を出て行く神矢。
   その後ろ姿を眺める友介。

〇ネットカフェ浮遊・個室(夜)
   ノートパソコンにパスワードを入力する神矢。画面「バツ」の表記が出る。
神矢「これもダメか。パスワードが分からなきゃ先に進めねえ!」
   頭を両手でかく神矢。
神矢「真実の好みは大体入れたしな」
   スマホでSNSページを開く神矢。
   画面「渚(17)」の写真が表示される。
神矢「よかった。実名でアカウント作ってくれてる」
   渚のSNSページに「真実の兄です。話ができれば」というメッセージを送る。
   ×  ×  ×
   寝そべり、スマホを眺める神矢。
神矢「返信なしか…」
   肩を落とす神矢。
   目を閉じ、唇を噛む。
神矢「明日、行くか」
   寝返りをうつ、神矢。

〇江本家・外観
   二階建ての一軒家。
   入口「江本」の表札。

〇同・廊下・渚の部屋前
   扉に「渚」のプレートがかかる。
   扉の前に立つ神矢。
神矢「すまない。家まで押しかけて。俺の事覚えてるかな?真実の兄の…」
   唇を噛み、俯く神矢。
   再び、扉に向き直る。
神矢「お母さまから聞いたよ。真実がいなくなってから部屋に引きこもってるって…」
   部屋の奥で泣き声が聞こえる。
神矢「何か知ってるなら教えてほしい。頼む」
   頭を下げる神矢。
渚の声「私のせいなの。真実を傷つけたから」
神矢「どういうことかな?」
渚の声「私、真実に言ったの。女の子が好きだなんて変だって」
   驚く神矢。
神矢「そっそう。真実が?そうなのか…」
   大きく息をはき、頭を抱える神矢。
渚の声「その話の後、真実学校に来なくなって…いなくなるなんて」
   大泣きする渚。
渚の声「取返しのつかない事しちゃった!」
神矢「謝る気持ちがあるなら、真実が帰ってきた時にしてくれたらいい。友達だろ」
   神矢、扉に手を置く。
神矢「それに取返しがつかないっていうのは俺みたいな奴の事を言うんだ」
   扉に置いた手を握りしめる神矢。
神矢「バイトテロっていうのかな。俺、大学の時やったんだ」
   苦笑いを浮かべる神矢。
渚の声「知ってます」
神矢「そりゃあ、そうだよな。結構騒ぎになってたし…」
   鼻で笑う神矢。
神矢「真美にも迷惑かけちまった…」
   渚、扉を少し開け、顔を出す。
渚「真美、お兄さんの事庇ってましたよ。クラスメートにバカにされてもずっと…」
神矢「そっか…」
渚「私もお兄さんの動画好きでした。よく分からないけど頑張ってる感じがよかったです」
   頭を抱える神矢。鼻をすする。
神矢「あの時の俺に聞かせてやりたいよ」
渚「お兄さん…」
神矢「内定は取り消し。大学も中退。企業に払う賠償金は親任せ」
   壁にもたれかかり座り込む神矢。
神矢「俺の方がバカだろ?」
   渚を見上げる神矢。俯く渚。
神矢「だから頼むよ。なんでもいいんだ。真実を両親の元に返してやりたい」
   手を合わせる神矢。
渚「ごめんなさい。本当に何も知らないんです」
   扉を閉める渚。
   拳を空中で殴る神矢。

〇ネットカフェ浮遊・個室(夜)
   ログイン画面状態のノートパソコンを開き、うつ伏せになっている。
神矢「収穫なしか」
   頬杖を突きながら、ローマ字で渚と打ち込む神矢。
   デスクトップが開く。
神矢「マジ!」
   体制をなおす神矢。
   声を抑えて笑う。
神矢「そうか。そうなのか。そりゃあ引きこもりたくなるよな」
   見上げると友介が個室をのぞいている。
神矢「うわ!」
   台に頭をぶつける神矢。
   あたりを見渡す友介。
友介「うるさいぞ!」
神矢「なんでアンタがここにいるんだよ」
   頭をさする神矢。
友介「ここに住んでるのか?」
神矢「悪いかよ。なんでここが分かった?」
友介「入るお前を見た」
   顔をあげる神矢。
神矢「まさかつけてたのか!マジかよ」
友介「なんだ。その態度は!誰のおかげで!」
神矢「そんな事いちいち言わなくても分かってる!」
   立ち上がる神矢。
友介「ならいつまでこんな生活をしてるつもりだ?お金はどうしてるんだ」
   大きなため息をつく神矢。
神矢「今どき、ネットさえ繋がれば何とでもなるんだよ」
友介「それだってはした金だろ」
神矢「それを言いにわざわざ来たのか!」
   神矢、友介の腕を掴み、歩き出す。
神矢「話なら別の場所で聞く!」
   友介、神矢の手を払いのける。
友介「もういい。お前は知らん!」
   去っていく神矢。
神矢「一体何しに来たんだよ」
   勢いよく座り爪をいじる神矢。
   頬を叩き、ノートパソコンに向き直る。
   デスクトップ上に「フラッシュワール
   ド」のアイコンが表示されている。
神矢「あいつ、このゲームやってたのか」
   ゲームを起動する神矢。
   ログイン画面が表示される。
神矢「またこのパターンかよ」
   画面「ヴェリタス」と表示。
神矢「真実の使っているハンドルネームが分かってる分、幸いか…」
   神矢、ローマ字で「渚」と打ち込む。
   ゲームログインが完了する。
神矢「げっ!パスワード使いまわしかよ。あぶねえな」
   チャットのログをのぞく神矢。
   「Aツー」という名前が並んでいる。
神矢「このAツーって真実の友達か?」
   真実の送ったコメントに「好きな人に笑われた。とてもツライ」の文字。
神矢「悩みの相談なら俺にすればいいのに…」
   頬杖をつく神矢。
神矢「まあ、それは無理か」
   最新のログを見つける神矢。
   Aツーから「リアルで会わないか」と
   いうコメントが残っている。
神矢「ゲームの友達とリアルで会うとか真実
 のやつ何考えてるんだよ」
   爪を噛む神矢。
  「私、ヴェリタスの友達」と打ち込む。
   Aツーへの返信ボタンを押す神矢。
   大きく息をはく神矢。
   天井を見上げる。スマホに通知。
   画面を開くと「カップルユーチューバー
   ポロリ炎上」の文字。
   「seeru」のアプリを開く神矢。
   胸を隠す絵美と慌てふためく高見。
   コメント欄「バカカップル」「これはヤバい」などの文字。
   Aツーからの返信「お友達!君女子高生?」の文字。
神矢「キタ!」
   体を起こす神矢。
神矢「そうよ」と打つ。

〇フタバマンション・神矢家の玄関前(朝)
   扉の前に立つ神矢。腕にノートパソコン。ドアを開ける幸子。
幸子「光輝!」
   部屋の奥から友介が出てくる。
友介「母さん、ちょっと散歩に…」
   友介、神矢の元に慌てて走ってくる。
友介「お前!」
幸子「あなた!」
   友介、神矢を睨みソファーに乱暴に座る。
   視線をそらす神矢。
神矢「真実のパソコン開けたよ」
   パソコンを幸子に手渡す神矢。
幸子「何か分かった?」
神矢「真実が消える前にやっていたゲーム内でやり取りしてたプレイヤーがいた」
   部屋の奥から友介が出てくる。
友介「そいつが真実をさらったのか!」
神矢「大げさだ。まだそうと決まったわけじゃない。じゃあ、俺は帰るよ」
   幸子に背を向ける神矢。
幸子「えっ!入らないの?」
神矢「用事あるから」
友介「妹が行方不明だというのに、薄情な奴だなお前は!」
   顔を伏せる神矢。
幸子、神矢に家の鍵を握らせる。
幸子「光輝の持ち物、全部取ってあるのよ」
   幸子、奥の部屋を見つめる。
神矢「母さん。ゲーム内のやり取り見せれば
警察も少しは動いてくれるかも。じゃあ…」
   静かに出ていく神矢。

〇歩道
   しゃがみ込む神矢。
   スマホに通知が入る。
   画面「Aツーからの返信」という文字
   と「ヴェリタス、行方不明なんだって。話が聞きたいなら会うよ」の文字。
   目を見開き、スマホを握りしめる神矢。
   ショーウインドウに映る自分の姿が目に入る。顔を触る神矢。
神矢「ヤバイ。女子高生設定だった。このまま行ったら多分逃げられる」
   その場を行ったり来たりする神矢。
神矢「誰か代理たてるか?いやでもなあ…」
   神矢の横をロリータ服の少女が通り過ぎる。その様子を眺める神矢。
神矢「これだ!」

〇フタバマンション・神矢家の玄関前(夕)
   鍵を閉め、廊下を歩いていく幸子。
   幸子が見えなくなるのを確認して扉の前にやってくる神矢。
   鍵を差し込もうとするが、やめる。
神矢「いや、さっき来たばっかだし…大丈夫だ」
   神矢、扉に耳を当てる。
神矢「よし。人の気配なし…」
   神矢、鍵穴に鍵を差し込む。

〇同・神矢の部屋(夕)
   恐る恐る入る神矢。
   神矢の服やベッドが置かれている。
   本棚に機械工学やIT関連の本。
神矢「母さん…」
   唇を噛みしめる神矢。
   壁に置かれたダンボールを開ける神矢。
   物を床に出していく。
神矢「あった…」
   神矢、ロリータ服を取り出す。
   ゴクリと唾をのむ神矢。
   ×  ×  ×
   ロリータ姿の神矢。
   鏡の前で一周する。
神矢「結構俺可愛いかも。またやろうかな」
   顔は濃いメイクが施されている。
神矢「でも、髭がな…」
   手で顎を触る神矢。
   物音がして振り返る。
   バットを持って立つ友介。
神矢「父さん!なんでここに?」
友介「ここは俺の家だ!」
神矢「そりゃあ、そうですけど…」
   友介、神矢のロリータ姿を凝視する。
友介「お前、そういう趣味があったのか!」
神矢「いや、ちがっ…違わなくもないけど…な
んでこんなタイミング悪いんだよ」
   金髪のウイックを触る神矢。
友介「お前、大丈夫か?」
神矢「どういう意味だよ!」
友介「妹が危険にさらされてるかもしれないっていうのに!お前はどうして!」
   神矢、友介を睨む。
神矢「ほっといてくれ!」
   出ていこうとする神矢のスカートのすそを掴む友介。
神矢「今から大事な用事があるんだ。アンタは邪魔だ!」
友介「親に向かってその言い草はなんだ!」
   視線をそらす神矢。
神矢「なんとでもいえばいい!俺はバカをしたんだ。許してもらおうとは思わない」
友介「そうか。ならどこでも好きな所で野垂
れ死にすればいい!」
神矢、友介の手を払いのけ速足で歩く。
友介「こう…」
   乱暴に玄関から出ていく神矢。

〇同・廊下(夕)
   速足で歩く神矢。
神矢「そうさ。これは一人でやらなくては…来る奴が何か知ってればいいが…」
   エレベーターに乗り込む神矢。

〇東水公園内(夕)
   ベンチに座る神矢。
   マスクをつけ、辺りを見渡す。
   神矢の前に歩いてくる三鷹。
   驚く神矢。
三鷹「君がヴェリスタのアカウントでメッセージくれた子?」
神矢「おまっ、じゃなかった。貴方がAツーさんですか?」
   顔を伏せ八の字に足を閉じる神矢。
三鷹「まあ、ここで話すのもあれだし移動しようか?」
   頷く神矢、立ち上がる。
三鷹「可愛いね。そういうファッション好きなの?」
神矢「はい…そうなんです。それより、ヴェリスタの事教えてほしい…です」
   三鷹、神矢の肩をだく。
三鷹「君、肩幅がっちりしてるね。年ごろなんだからもう少し肉を付けた方がいいよ」
   神矢、顔をそむける。
神矢「ほっとけよ。超キモイ」
三鷹「うん?何か言った?」
   神矢、激しく顔を横に振る。
神矢「いいえ。ヴェリスタの事教えて?」
   ニヤリと笑う三鷹。
   歩きだす二人。

〇ゴードンアパート・外観(夜)
   よくある二階建てのアパート。
   入口「ゴードンアパート」の看板。

〇同・二階通路(夜)
   二人並んで歩く神矢と三鷹。
神矢「あの、ヴェリスタ、友達の事いつ教えてくれるんです?」
三鷹「ゆっくり出来る所でね」
   三鷹、神矢の手を握る。
神矢「げっ!」
   三鷹から視線をそらし、舌打ちをする。
三鷹「ゴツゴツしてるね?」
神矢「えっ!そうかな。アハハ…」
   マスクの下で苦笑いをする神矢。
   周囲を見渡す神矢。

〇同・三鷹の部屋(夜)
   部屋に入る神矢と三鷹。
   部屋はごみであふれている。
   隅に等身大の少女の人形が並んでいる。
   マスクの上から鼻を抑える神矢。
三鷹「帰ったよ」
   部屋の奥から真実が現れる。
   真実、神矢の姿に驚く。
三鷹「君のお友達だよ」
真実「えっ!こんな人、しら…」
   神矢、真実の両手を握る。
神矢「心配したのよ!」
真実「おっお兄…」
   神矢、真実の口を押える。
三鷹「すぐにご飯にするよ。君もいるだろ?」
   キッチンに向かう三鷹。
   真実を部屋の隅に連れていく神矢。
神矢「お前、こんな所で何してるんだよ。父さんも母さんもお通夜みたいに心配してる」
   俯く真実。
真実「ごめん。でもあの人怖くて」
   涙目でカップラーメンを作る三鷹の背中を眺める。
神矢「なんでノコノコついていってるんだよ」
真実「同じぐらいの女の子だと思ったんだもん。相談にも乗ってくれたし…」
神矢「そういうのはリアルな友達か、母さんにしろよ」
   神矢を睨む真実。
真実「ネットの方が気楽だったの。バカやって音信不通だった人に言われたくない!」
   再び三鷹を見る神矢。
   鼻歌を口ずさむ三鷹。
   真実に向き直る神矢。
神矢「何かされたのか?」
   首を横にふる真実。
真実「出された食事を食べて同じ部屋で寝るだけ。体も触ってこない」
神矢「とにかくここを出るぞ。なんとか隙作ってやるから」
   真実の手を握る神矢。玄関を見る。
   振り返り、神矢と真実を見る三鷹。
神矢「俺、じゃなくて、私達帰ります」
   三鷹、怒りの表情になる。
三鷹「はあ!ここから出れるわけねえだろ!折角来たんだから一緒にいようぜ」
   神矢、真実の手を握る力を強める。
神矢「女子高生閉じ込めるとか気持ち悪いんだよ!」
三鷹「可愛がってやるのに!どいつもこいつもバカにしやがって!」
   何度も足で床を蹴る三鷹。
   バットを持って神矢に襲い掛かる。
三鷹「君とも仲良くなれると思ったのに!」
神矢「真実、逃げろ。早く!」
   三鷹が振り上げるバッドを両手で押さえる神矢。
   真実、扉の方に走り出す。
   取っ組み合う神矢と三鷹。
   神矢のウイックがずれる。
   驚く三鷹。
三鷹「おっお前!」
   ニヤリと笑う神矢。
神矢「男で悪かったな!」
   真実、外に出て行く。
三鷹「おっお前、バイトテロ男!」
   神矢、三鷹の顔面を殴る。
神矢「お前みたいなのを喜ばせてたと思うと虫唾が走る!」
   何度も、三鷹を殴る神矢。
神矢「クソっ!クソっ!」
   真実が部屋に駆け込んでくる。
神矢「もういい。お兄ちゃん!」
   神矢の腕を掴む真実。
   サイレンの音が聞こえる。
   その場に倒れこむ神矢。腕で目を覆う。
   ドレスは切り裂かれている。

〇フタバマンション・入口前(夜)
   並んで歩く神矢と真実。
   扉の前で立ち止まる神矢。
真実「お兄ちゃん?」
神矢「ごめん。パソコン覗く事になって」
真実「別に…いいよ」
神矢「俺、お前が悩んでる事も知らなかった」
   苦笑いを浮かべる真実。
真実「家にいなかったんだからしょうがないじゃない。でもパソコン見たって事は…」
   頷く神矢。
真実「どう思った?私が…」
   真実の頭を撫でる神矢。
神矢「好きな人にフラれて落ち込んでた。それだけだろ」
   笑う真実。
真実「うん。じゃあ、帰ろう!」
   顔を伏せる神矢。
   入口から友介と幸子が走って出てくる。
   真実を抱きしめる友介と幸子。
   泣きじゃくる真実。
   3人に背を向ける神矢。
幸子「光輝?帰るの?今日は遅いんだし食事だけでも…」
   歩き出す神矢。
友介「ありがとう。光輝」
   目を見開く神矢。振り返る。
友介「席ぐらいはある…」
   立ち尽くす神矢。空を見上げる。
   真実、神矢の腕を引っ張る。
神矢「なら、今日だけ…」
真実「お兄ちゃん食べたいものある?」
神矢「から揚げ…」
   3人に歩み寄る神矢。

〇同・神矢の部屋
   あぐらをかき、スマホを眺める神矢。
   画面「高見が頭を下げる」動画。
高見「ええと…絵美とは別れましたが、これからは一人で頑張っていこうと思います」
   再生数が27回と表示。
   コメント欄「まだやってるよ」や「恥知らずな男」などの文字。
   動画を閉じる神矢。「Seeru」と書かれたアプリを消去する。
幸子の声「光輝!ごはんできたわよ」
神矢「今行くよ」
   神矢、スマホをベッドに放り投げて部屋を出ていく。

おわり

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。