全日本大学駅伝物語 ~1区~ スポーツ

「大学駅伝の日本一」を決める大会、それは箱根ではなく、伊勢路を駆ける全日本大学駅伝である。「打倒関東」「関西から革命を」を掲げる丹波大学は、1区に四年生・松本純汰を起用する。
マヤマ 山本 18 0 0 11/08
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第一稿

<登場人物>
松本 純汰(22)丹波大学陸上部4年
前山 丈二(22)同
中島 賢司(22)同
豊里 蘭(22)同
戸上 大河(22)同



<本編>
○熱田 ...続きを読む
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<登場人物>
松本 純汰(22)丹波大学陸上部4年
前山 丈二(22)同
中島 賢司(22)同
豊里 蘭(22)同
戸上 大河(22)同



<本編>
○熱田神宮・スタート地点
   「全日本大学駅伝対抗選手権大会」と書かれた幕。
実況アナの声「今年もこの季節がやってきました。真の大学駅伝日本一を決める戦い、全日本大学駅伝対抗選手権大会です」
   大勢の陸上選手や関係者達。
   スタート地点に並ぶ選手達。その中にいる松本純汰(22)。
実況アナの声「伊勢神宮を目指す、一〇六・八キロの戦いが、間もなくスタートです」
   号砲。
   一斉にスタートする選手達。

○メインタイトル『全日本大学駅伝物語 1区』

○一区
   松本を含む二七人の選手が集団で走っている。
実況アナの声「一キロの通過が二分五五秒。このペース、いかがですか?」
解説者の声「入りとしてはいいペースじゃないですか? 早過ぎず、遅すぎず」
   集団から抜け先頭を走り出す留学生ランナー。ただ一人そのあとを追う松本。
実況アナの声「ここで鹿児島工業大学の留学生ランナー、ジョセフ・ンジヒアが集団から抜け出しました。続くのは……」
解説者の声「丹波大学ですね」
実況アナの声「ナンバーカード二二番、丹波大学の一区は松本純汰、四年生です」

○(回想)陸上競技場
   T「4年前 夏」
   五千メートル走が行われている。
   集団の前を走る松本、既に息が上がっている。前山丈二(18)が引っ張る集団が松本を追い抜いて行く。
前山の声「お~い、まーつもーと君」
    ×     ×     ×
   帰り支度をしている松本の元にやってくる前山と中島賢司(18)。
松本「何の用や?」
前山「俺は兵神学館の前山丈二。(中島を指して)で、コッチがナカジ」
中島「中島(ナカシマ)です」
松本「知っとるわ。インターハイ決めたもんが、出場逃したもんに何の用や、て聞いてんねん」
前山「俺達と一緒に丹波大学に行こう」
松本「……は? 丹波って、あの?」
中島「そう、あの」
松本「割と近場の?」
中島「そう、その」
松本「関西屈指の強豪校の?」
中島「そう、丹波大学」
松本「誰が行くか」
前山「え、何で?」
松本「当たり前や。関東の大学行かな、箱根出られへんやないか。っていうか、自分らはそれでええんか?」
中島「コイツが言うんだよ。『関西に革命を起こしたいんだ』ってね」
松本「革命?」
中島「長距離選手たるもの、当然箱根に憧れは持ってるよ。でも、だからって選手が関東ばっかりに集まったら他の地方はどうなるんだ、ってね」
前山「だから、丹波大学に行こう」
中島「とりあえず、全日本で関東勢に勝つ事が当面の目標って感じだね」
前山「だから、丹波大学に行こう」
中島「その為に今、色んな奴らに声かけててね。上手く行けば関西オールスターが丹波大に集まる事になるよ」
前山「だから、丹波大学に行こう」
松本「何や、そのついでに俺にも声をかけてみた、いう事か」
前山「それは違う」
松本「え?」
前山「俺は、お前の走りに惚れたんだ。失敗を恐れない、全力でガムシャラな走り。俺が欲しいのは、そういう選手なんだ」
松本「……」
前山「まぁ、今日はダメだったけどな」
松本「一言多いわ」
前山「だから、丹波大学に行こう」
松本「何の『だから』や。アホらし、誰が行くか」

○(回想)丹波大学・陸上競技場・外観
   T「3年前 春」
前山の声「……と言いつつ」

○(回想)同・同・中
   松本の元にやってくる前山と中島。
前山「来てくれるんだから、意外と優しい奴だな、松本って」
松本「やかましいわ。男気や男気。それより、結局俺と自分らしか来とらんやないか」
前山「いや~、色んな奴に声かけるはかけたんだけどな」
中島「松本以外、全員に断られちゃってね」
前山「あ、でも来年、後輩が一人入ってくれるっぽいからさ」
松本「何やそれ。コッチはお前等に唆されてわざわざこの大学に来た言うのに……」
蘭の声「マッツー」
前山「ん?」
中島「マッツー?」
松本「(しまった、という表情)」
   三人の元に駆け寄る豊里蘭(18)。
蘭「いや~、女子には知り合い誰も居らんから、マッツーが一緒の大学でほんま心強いわ」
松本「お、おう」
蘭「ほな、また四年間宜しくな」
   三人の元を去って行く蘭。
前山「ふ~ん……」
中島「男気ねぇ……」
松本「な、何や。何か文句あるんか!?」
前山「いや、ねぇよ」
松本「無いんかい」
前山「理由なんて何でもいい。一緒に、関西から革命起こそうぜ」
   握手を求め、手を出す前山。
松本「……まぁ、乗りかかった舟や」
   前山と握手する松本。

○一区
   先頭を並んで走る松本と留学生ランナー。その後方には十数名の三位集団。
実況アナの声「そして関東の有力校がひしめく三位集団の前、二八秒先を走っている鹿児島工業大学のジョセフ・ンジヒア、そして丹波大学の松本の走り、いかがでしょう?」
解説者の声「素晴らしいですね。関東以外の大学にもこういう選手がいる事は、大学陸上界にとっても良い事だと思います」
実況アナの声「『関西から革命を』という合言葉で今大会に挑んでいる丹波大学、このまま逃げ切るか。一区はいよいよ後半戦です」
松本の声「何で俺が一区やねん」

○(回想)丹波大学・陸上部部室
   T「今年 夏」
   ミーティング中の松本、中島、戸上大河(22)ら部員達。
松本「一区て、一番短い区間やないか」
中島「確かに、いきなり松本はもったいないかもしれない」
松本「ほな……」
中島「でも、俺達が起こしたいのは革命だ。その為には、一区から先頭を走る必要がある。一区で、後先考えずに先頭を突っ走れる度胸と走力があるのは……」
戸上「まぁ、マッツ―くらいか」
中島「それに、丈二も言ってただろ? マッツーの走りは、何て言うか、見てるコッチのハートに火がつくような、そんな走りなんだよ」

○一区
   二位集団にも抜かれ、一七位で走る松本。顎は上がり、きつそうな表情。
中島の声「マッツーが一区で火をつけてくれれば、二区以降の選手全員の走りが変わってくる。だから、一区だ」
実況アナの声「先ほど集団に吸収された丹波大学の松本ですが、その集団からも遅れ始めてしまいました。その差は早くも二メートル、三メートルと広がっています」
解説者の声「かなり体を揺らしながら走っていますし、おそらく力はほとんど残っていないんではないかと思いますね」
松本M「もうあかん。俺、これ以上……」
蘭の声「マッツ―!」
   沿道に立つ蘭。
蘭「革命起こすんやろ! 潰れるんやったら、走り終わってから潰れろ!」
松本M「くそっ、何も知らんと……」
   松本の表情に闘志が戻る
松本M「見とき、蘭」
   蘭の前を走り抜ける松本。蘭の手には前山の遺影。
松本M「見とき、前山」

○弥富中継所
   中継線上で待つ戸上。
松本M「俺はこんな走りやったけど……」
実況アナの声「続いて、丹波大学です。やってくる松本純汰、待ち構える戸上大河、ともに今年の夏に亡くなった大エース・前山丈二選手の同級生です」
   待ち構える戸上の元にやってくる松本。渾身のラストスパート。
松本M「全員の魂に、火ぃ付けたるで」
戸上「OK、マッツ―。よくやった。ラスト!」
実況アナの声「亡き友へ捧げる魂の走り。今、四年生同士の襷リレー!」
   戸上に襷を渡す松本。その場に倒れ込む。
松本「かましたれ!」
   襷を持った右腕を高々と掲げる戸上。

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