還ってきた父 ドラマ

昭和天皇が崩御、平成になり戦争が風化しつつある中、父・勝沼国夫(75)が療養所から還ってきた。終戦後ずっと入院生活を送ってきた国夫は家にいてもボンヤリと無気力に過ごす日々。父は戦場でどんな体験をしたのか?息子・雅也(54)は知りたがっていたが国夫は頑なに口を閉ざし続けるのだった…。
大川晃弘 7 0 0 11/02
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第一稿

登場人物
勝沼国夫(75)雅也の父親
勝沼雅也(54)国夫の長男
勝沼久恵(50)雅也の妻
村田龍二(35)ソーシャルワーカー
黒岩信義(78)元日本兵 ※故人

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登場人物
勝沼国夫(75)雅也の父親
勝沼雅也(54)国夫の長男
勝沼久恵(50)雅也の妻
村田龍二(35)ソーシャルワーカー
黒岩信義(78)元日本兵 ※故人

〇勝沼家・寝室(夜)
 ひとり寝ている勝沼国夫(75)。寝ながら、苦しむように寝言を呟く。
国夫「うぅ……すまん、勘弁してくれ……」
  
〇同・別の寝室(夜)
 国夫の声「(苦しそうに)うぅ……」
  布団を並べて寝ている勝沼雅也(54)と勝沼久恵(50)。
  国夫の苦しむ寝言が聞こえてきて、雅也と久恵起きる。
久恵「んもう~ 寝られやしない」
雅也「父さん、大丈夫かな……」

〇同・居間(朝)
 ブラウン管テレビから昭和天皇崩御のニュースが流れている。
 雅也、郵便物を整理している。そこへ久恵、湯呑を3つ持ってやってくる。
雅也「なあ黒岩さん、亡くなったそうだ」
 雅也、久恵に通夜の案内状を見せる。
 久恵、湯呑を雅也の前に出しながら、
久恵「まあ。お元気な方だったのに……」
 久恵、もう一つの湯呑みもちゃぶ台に置いて大きな声で、
久恵「お父さーん!」

〇同・庭
 縁側にボンヤリ座っている国夫。久恵の声が聞こえる。
久恵の声「お茶が入りましたよー!」
 その声に全く無反応の国夫。

〇同・居間
 雅也、茶を呑みながら、
雅也「戦地からあんな体で還ってきても商売は成功させるし、講演会で全国飛び回って
 たし、本当スゴイ人だったよなあ」
  久恵、通夜の案内状を見ながら、
久恵「享年78歳か。ねえ、ウチのお父さんもそろそろ逝ってくれないかしらねえ?」
雅也「ええ……?」
久恵「もう私ウンザリよ。日がな1日ボーっとしてる人とずっと一緒なんて。五体満足
 で還ってきたっていうのに。黒岩のお父さんとは大違いね、まるで腑抜けよ」   
雅也「腑抜けって…… 俺の親父だぞ」
久恵「何よ、だってそうでしょ? ねえ、やっぱり施設に帰ってもらいましょうよ」
雅也「帰るって、親父のウチはここだぞ?最後くらい家族と過ごさせてやろうよ」
久恵「その最後がいつ来るのよ? 第一、施設に入った方がいいわ、国立だから生活費
 かかんないし。そうすればお父さんの恩給、そっくり駿の学費に宛てられるでしょ?」
 久恵、再び大声で怒り気味に、
久恵「お父さん! お茶が入ったって言ってるでしょ!」
雅也「いいよ。俺持ってく。一度療養所に相談行こう」
 雅也、湯呑と通夜の案内状を持って出ていく。

〇同・庭
 縁側にボンヤリ座り続ける国夫。雅也が湯呑と案内状を持ってやってくる。
雅也「父さん、お茶入ったよ」
 雅也、国夫の傍に湯呑を置き隣に座る。
雅也「黒岩さん、亡くなったって。これ通夜の案内状」
 雅也、案内状を国夫に見せる。
国夫「そうかい、少尉殿も陛下の御傍へ逝かれたか……」
雅也「立派な人だったよね? 講演会で一度聞いたことあるけど、黒岩さんの戦争体験、
 凄かったなぁ」
国夫「ああ、軍神様だよ。あの方は」
雅也「父さんも聞かせてよ。戦争の話」
国夫「ん? 忘れちまったよ、もう」
雅也「そんなことないでしょ? いっぺんゆっくり聞いてみたかったんだ」
 国夫、少し動揺する。
国夫「も、もう昔のことさ……」
雅也「どんなことがあったの?」
国夫「な、何もかも終わったことだ!」
 国夫、突然立ち上がる。
雅也「父さん!」
 国夫、奥へと引っ込んでしまう。

〇国立療養所・応接室
 雅也と久恵、村田龍二(35)とテーブルを挟んで向かい合っている。
 村田、雅也と久恵に『戦争神経症 調査報告書』と表紙に書かれた資料の束を見せる。
雅也「戦争神経症?」
村田「かつてここで密かに研究されていた戦争の後遺症に関する資料です。日本軍は戦
 争の恐怖による精神疾患はないと今まで否定し続けてきたんですが、最近になって資
 料が公開されましてね。この中にお父様に関する資料もあったんです」
 村田、ページを捲る。すると軍服姿の青年が写った古い写真が出てくる。
村田「これは出征時のお父様です」
雅也「へえ~こんな写真、初めて見ました」
久恵「まあまあハンサムねえ」
村田「お父様は昭和19年、当時泥沼化していた日中戦争に参加。中国東北部での戦闘
 に加わっていたそうでして……」
 村田、資料を指差しながら、
村田「ここに『善行証書付与』って書いてあるでしょ? これは品行方正な兵士に贈ら
 れる証書です。お父様は一生懸命で優秀な兵士だったという証です」
村田「父は元々真面目で働き者だったんです。戦地でもそうだったんですね……」
久恵「一生懸命? へえ~、信じられないわ」
 村田、さらに資料を捲って、
村田「ここへ入所してから16年後の昭和40年、医師による聞き取り調査も受けてい
 るのですが、戦地での体験を全く語らなかったそうです」
雅也「私にも話してくれたことがないんです。戦場で父はどんな体験をしたんですかね?」
村田「当時、日本軍は中国大陸でゲリラ戦を展開していまして、多くの非戦闘員が犠牲
 になったそうです。おそらくお父様も参加されていた可能性があります」
雅也「父は……一体何をしたんでしょう?」
村田「これは別の元兵士の証言ですが、女性や子どもが避難している地下室に手榴弾を
 投げ込んだり……」
久恵「いや!」
 久恵、手で耳を塞ぐ。
雅也「まさか父も……」
久恵「もう嫌、そんなことした人間と一緒に暮らすなんて! 鬼畜よ、あの人。すぐに施設に戻
 すべき……」
雅也「少し黙ってろ! 俺の親父だぞ!」
 雅也、突然、久恵を怒鳴りつける。
 久恵、ビックリして言葉が出ない。
村田「お父様は戦後ずっとご自分のなされたことを悔やみ続けているのだと思います。
 心の傷は一生癒えることはないでしょう」
雅也「心の傷…… 親父も五体満足で還ってきたわけじゃないんですね」
村田「ただ、ご入所された頃よりは大分立ち直られてきています。後はそっと余生を過ごさせて
 あげるしかないと思います」
雅也「ずっと苦しんでるんですね」
 雅也、国夫の若き頃の写真に目を落とす。

〇勝沼家・庭
 縁側にボンヤリ座っている国夫。

〇葬儀場
 祭壇に置かれた黒岩信義(78)の遺影。軍帽軍服で胸に少尉の勲章、そして両手両足のない体
 で車椅子に乗っている黒岩が写っている。祭壇前には黒岩の遺体が棺に納められ横たわる。
 喪服姿の国夫、棺の傍へやってきて覗き込み黒岩の死に顔を見る。
 国夫の背後に雅也と久恵が付き添う。
 国夫、突然背筋を伸ばし敬礼。そして大きな声で、
国夫「黒岩少尉殿!ご苦労様でありました!大東和共栄圏の元、立派に戦われ名誉の負傷を受け
 た少尉殿はまさに兵士の鑑、軍神様であります!」
 傍にいた雅也と久恵、驚く。まわりもざわつく。
雅也「と、父さん……」
国夫「どうか、天国にて陛下の御傍でゆっくりとお休み下さい。私もすぐに御傍に参りたいので 
 すが、到底……私なんぞ……天国へなど行けません」
 国夫、遺体にすがり嗚咽する。
雅也「父さん……」
 雅也、国夫の体を支え立ち上がらせようとする。すると突然、
国夫「うううう!」
 国夫、発作を起こし、倒れる。
雅也「父さん! 父さん!」
 まわりが騒然となる。
国夫「ううう…… ゆ、許してくれ!勘弁してくれ!」
 国夫、身悶えながら叫ぶ。

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