るてるててるてる 学園

中学卒業を控えたある朝、古賀隆文(15)はてるてる坊主を吊るし、とある決意を実行しようとしていた。
大川晃弘 9 1 0 09/11
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第一稿

※登場人物
 古賀隆文(15)中学3年生
 新見神流(15)隆文の同級生
 古賀節子(70)隆文の祖母
 古賀健太(11)隆文の弟
 古賀由美(45)隆文の母
 気象予 ...続きを読む
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※登場人物
 古賀隆文(15)中学3年生
 新見神流(15)隆文の同級生
 古賀節子(70)隆文の祖母
 古賀健太(11)隆文の弟
 古賀由美(45)隆文の母
 気象予報士

〇曇り空(朝)
 今にも雨が降りそうな、どんよりとした一面の曇り空。

〇古賀家・隆文の部屋・中(朝)
 窓にぶら下がっている、てるてる坊主。
 制服姿の古賀隆文(15)、てるてる坊主に向かって手を合わせ拝んでいる。
隆文「朝だけでも降りませんように……」

〇同・隆文の部屋・外(朝)
 隆文の様子を古賀健太(11)、ドアの隙間からニヤニヤしながら覗いている。

〇同・隆文の部屋・中(朝)
 隆文、拝み終わって、ふと健太に気づき慌てる。
隆文「な、何だよ!」
 ドアが開き、
健太「へへ、母ちゃんが早く朝飯食べろって」
隆文「兄貴の部屋、勝手に覗くなよ!」
 隆文、鞄を持って慌てて出て行く。健太、てるてる坊主を見ると、
健太「へへへ」
 部屋に入り逆さまに吊るす。

〇同・キッチン(朝)
 食卓を囲んでいる隆文、古賀由美(45)、古賀節子(70)。テレビからは天気予報が流れてい
 る。
気象予報士「今日は春時雨と言われ大気が不安定です。突然の雨にご注意下さい」
 隆文、朝食を食べ終わって、
隆文「母さん、明日からおかずにベーコンつけて大丈夫だよ」
由美「あら、今日で願掛けおしまい?」
隆文「うん、もういいんだ。ばあちゃんも明日から沢庵食べて大丈夫だよ」
節子「そうかい?」
隆文「うん、今までありがとう」
由美「一体何のお願いしてたの? 高校もとっくに受かってるのに」
隆文「まあ、ちょっとね。ごちそうさま」
 隆文、席を立つ。
節子「あたしの分まで願掛けしたから、隆文のお願い事は叶うでしょ?」
由美「あの子の信心深さはお母さんの影響ね。一体何があるんですかね?」
節子「さあね、ま見守ってやりましょうや」

〇同・玄関・中(朝)
 隆文、靴を履いて立ち上がる。傘立ての傘を一旦手に取るが、傘立てに戻す。
 そのまま傘を持たずに出て行く。

〇同・隆文の部屋・中(朝)
 窓に逆さまに吊るされたてるてる坊主。

〇公立中学校・グラウンド(朝)
 運動部の生徒達が朝練などして賑わう。

〇同・校舎裏(朝)
 遠くで生徒達の声が響いている。人気がなくひっそりとした校舎裏。
 隆文、一人で花壇に水やりしている。花壇には赤いチューリップなどが咲いている。
隆文「きょ、今日で最後だね……た、楽しかったな……い、一緒に……」
 水やりしながら緊張した様子でブツブツ独り言。すると背後から突然、
神流の声「おはよう!」
 隆文、ビックリして振り返る。新見神流(15)がじょうろを持っている。
隆文「ああ、お、おはよう……」
 神流も水やりを始める。隆文も隣で再び水やり。しばしの沈黙。そして、
隆文「あ、あの……」
神流「愛の告白」
隆文「(驚いて)え!?」
神流「だっけ? 赤いチューリップの花言葉」
隆文「ああ、う、うん、そう」
 そしてまた沈黙。そして、
隆文「きょ、今日……」
神流「今日で最後だね、水やり」
隆文「え!? あ、そうだね。た、楽し……」
神流「楽しかったな、一緒に緑化委員やれて」
隆文「ええ!?」
神流「古賀君、物知りだし。クラス同じでも教室で喋ったことなかったもんね」
 隆文、顔が真っ赤になり水やりの手が止まる。
隆文「あ、あの新見さん……」
神流「ん?」
隆文「聞いて欲しいことがあって……」

〇古賀家・隆文の部屋・中(朝)
 窓に逆さまに吊るされたてるてる坊主。
 そしてガラスにポツリポツリと水滴。

〇公立中学校・校舎裏(朝)
 立ち尽くしている隆文。
神流「何? どうしたの?」
隆文「あ、あなたのことが……」
 すると上から大きな水滴が落ちてきて、あっという間に大雨になる。
神流「キャ! 降ってきた!」
 神流、表校舎の方へ走り去っていく。
隆文「あ、ああ……」
 隆文も慌てて、後についていく。

〇同・玄関・中(朝)
 隆文、濡れながら走り込んでくる。水滴を払っていると神流の笑い声が聞こえてくる。
 見ると向こうで神流が女友達数人と談笑している。隆文、それを見てハァーと溜息。

〇同・校舎裏
 花壇の赤いチューリップに、大きな雨粒が当たっている。

〇公立中学校・3年3組教室・中
 生徒達が談笑している休み時間。窓際の席に座る隆文、窓から雨をボンヤリと見ている。
 するとまた神流の笑い声が聞こえてくる。見ると神流、女友達と楽しそうにはしゃいでいる。

〇同・玄関
 隆文、下駄箱から靴を取り出し履いて外へ出ようとする。思いのほか雨足が強く玄関先で立ち
 尽くしてしまう。すると、
神流の声「あ、古賀君」
 隆文、驚いて振り向く。
神流「傘忘れたの?」
隆文「あ、うん……」
神流「入ってく? 途中まで方角同じだよね」
隆文「ええ!?」
 神流、靴を履きながら、
神流「朝の話、帰り道で聞くよ」
 神流、傘立てから自分の傘を取って開き、隆文にさす。

〇古賀家・隆文の部屋・外
 節子、部屋の前を通りかかる。開いていた扉から室内を見ると、逆さまのてるてる坊主を見つ
 ける。
節子「あれまあ、可哀そうに……」
 節子、入っていき、てるてる坊主を元に戻す。

〇住宅街・道路
 しとしとと降り続く雨。隆文と神流、一つ傘の下で並んで歩いている。
神流「何だったの? 朝の話」
隆文「い、いや、何でもないよ」
神流「え? あ、そう……」
 しばしの沈黙。そして、
隆文「そ、そう言え……」
神流「そう言えば古賀君て高校どこだっけ?」
隆文「え? ああ、大東高」
神流「そっか、私は大西高。じゃあ方角は別か。もうすぐ卒業だね」

〇同・十字路
 降り続く雨。隆文と神流、立ち止まる。
神流「じゃあ私こっちだから。悪いけどこの先は走って帰って」
隆文「う、うん。どうもありがとう……」
神流「卒業までまだ少しあるけど、高校行っても元気でね」
 神流、隆文を置いて歩き出す。隆文、神流の後ろ姿を見て、
隆文「に、新見さん!」
 神流、振り返る。雨に濡れたまま立っている隆文を見て、
神流「ちょっと、濡れちゃうじゃない!」
 神流、駆け寄ってきて隆文に傘をさそうとすると、
隆文「(大きな声で)聞いて欲しいことがあります!」
 神流、驚いて立ち止まる。
隆文「あ、あなたのことが……」

〇古賀家・隆文の部屋・中
 窓に吊るされている、てるてる坊主。
 やがて窓外の雨が止み始める。

〇住宅街・十字路
 雨が止んでいる。頭から濡れたままの隆文。傘をさしたまま俯いている神流。
 互いに向かい合い沈黙。
 隆文、神流の様子を見て不安気な表情。俯いていた神流、やがて顔を上げると笑顔を見せる。
 隆文もその表情を見て思わず顔が綻ぶ。

〇公立中学校・校舎裏
 花壇の赤いチューリップ、雨に濡れてツヤツヤと輝いている。

〇古賀家・隆文の部屋・中
 窓に吊るされたてるてる坊主。外は雨が止み日の光が部屋に差し込んでいる。

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