登場人物
・外岡啓(26)会社員
・大平優香(24)会社員
・寺原美樹(26)外岡の恋人・中学校教員
・タレント
○雑貨屋カーロ・外観(夜)
○同・店内(夜)
棚に並んだ商品を見て歩く外岡啓(26)と
大平優香(24)。
優香、手鏡を手に取る。
優香「これかわいい! 買っちゃおうかな」
外岡、優香を見て微笑む。外岡、優香
から手鏡を取って、
外岡「買ってあげる」
優香「だめですよ」
優香、外岡から手鏡を取り、緊張した
面持ちで外岡を見る。
優香「鏡をプレゼントすると、その相手との
関係が壊れるって聞いてことがあります」
外岡「へえ、そうなんだ。割れるからかな」
頷く優香。
優香「だから、だめです、自分で買います」
外岡、顔を赤くして微笑んで、頷く。
○恵比寿駅前(夜)
並んで歩く優香と外岡。外岡が優香の
手を握る。
優香が驚いて外岡を見ると、外岡の耳
が赤い。優香、微笑んで前を向く。
手を繋いで歩いて行く外岡と優香。
○恵比寿駅・改札(夜)
外岡と優香、改札を通る。
外岡「じゃあ俺、こっちだから」
手を振って階段に歩いていく外岡。
優香が小走りで階段に向かう。
優香「……あの!」
外岡、振り返る。
何かを言おうと、口を開いては閉じる
優香。
外岡、微笑んで、
外岡「また出かけよう。二人で」
優香、満面の笑みで頷く。
手を振って階段を下りていく外岡。
○グリーンハイツ・優香の部屋(夜)
部屋着姿でソファに座り、スマホを操
作する優香。
○クレアメゾン・外岡の部屋(夜)
外岡、ベッドに座り、スマホを操作し
ている。
外岡のスマホ、大平優香からのメッセ
ージが表示されている。『今日はあり
がとうございました。嬉しかったです』。
嬉しそうにスマホを握りしめ、ベッド
に倒れる外岡。
通知音が鳴り、寺原美樹からのメッセ
ージ『明日は楽しみだね。おやすみ』
と表示される。
嬉しそうにスマホを操作する外岡。
外岡「おやすみ、また明日ねっと」
外岡、スマホを閉じてベッドに投げ、
大の字になって顔をしかめる。外岡、
頭を抱えて、
外岡「何やってんだ俺は……」
外岡、自分の髪の毛を両手でぐしゃぐ
しゃにする。
○寺原家・外観(夜)
○同・美樹の部屋(夜)
寺原美樹(26)が、旅行鞄に洋服などの荷
物を詰めている。通知音が鳴り、スマ
ホを取って画面を見る。
外岡啓からのメッセージ『また明日ね。
おやすみ』と表示される。
微笑む美樹。
○八坂の塔・外観
古い町並みの中に、八坂の塔。
○河合神社・入口
河合神社と書かれた木の看板。
並んで立っている外岡と美樹。
外岡「ここ、有名な神社なの?」
美樹「テレビとかで取り上げられてるんだよ
ね、ここの鏡絵馬っていうのが」
外岡「……鏡」
腕を組んで考える外岡。
○グリーンハイツ・優香の部屋
ソファに座って部屋着姿でテレビを見
ている優香、テレビをつける。テレビ
では、タレントが京都から生中継をし
ている。
○河合神社・境内
棚にずらっと並べられた、化粧をした
女性の顔が描かれている手鏡の形をし
た絵馬。
外岡と美樹、棚の前に立っている。
美樹「鏡の形をした絵馬に、顔が描かれてて、
それに化粧をするの」
外岡「化粧?」
美樹「そう。自分がいつも使ってる化粧品で。
それで綺麗になれるようにお祈りするんだ
って」
外岡「……鏡か。そうか」
頷く外岡。
○同・入口
テレビの撮影隊。
タレントが、河合神社と書かれた木の
看板を指差す。
タレント「ここ河合神社には、鏡絵馬という
珍しい絵馬があるそうです。行ってみまし
ょう!」
○グリーンハイツ・優香の部屋
優香、ソファに座って部屋着姿でテレ
ビを見ている。テレビでは、京都の河
合神社からタレントが生中継している。
○河合神社・境内
美樹、外岡の腕を掴んで顔を覗き込む。
美樹「ねえ啓、聞いてるの?」
外岡、はっとして頷きながら、
外岡「うん、聞いてる、聞いてるよ」
外岡、腕を組んで眉間にしわを寄せ、
考えている。
○グリーンハイツ・優香の部屋
優香、ソファに座って部屋着姿でテレ
ビを見ている。
○路地裏(夕)
スキップをして歩いていく美樹。その
後ろ姿を眺めながら歩いている外岡。
外岡、バッグの中の紙袋を見つめる。
紙袋の中には手鏡。外岡、顔を上げて、
外岡「……美樹! あの、さ」
美樹「ん?」
笑顔で振り向く美樹。
外岡、口を固く結んで首を振る。
外岡と美樹、並んで歩いている。
外岡、バッグの中に手を入れたまま、
紙袋を掴む。
美樹、笑って、
美樹「どうしたの? あ、そうだ、さっきお
店で何買ったの?」
外岡「え、ああ、それは」
美樹「なになに?」
美樹、笑顔で外岡の顔を覗き込む。
外岡、急いでカバンを閉じて、目を閉
じて深呼吸する。
外岡「まだ美樹には教えないよ」
微笑みかける外岡。
美樹「なによそれー」
口を尖らせながら首を傾げ、前を向い
て歩いていく美樹。
通知音が鳴り、ポケットからスマホを
取り出す外岡。
大平優香からのメッセージ『いつか一
緒に旅行行きたいなあ。京都とか楽し
そう!』と表示される。
外岡、顔を上げ、美樹の後ろ姿を見つ
め、呟く。
外岡「俺って最低?」
美樹、笑顔で振り返る。
美樹「なんか言った?」
外岡「いや、なんでもない」
スマホの通知音が鳴る。手の中のスマ
ホを見る外岡。大平優香からのメッセ
ージ『さっきテレビでやってるの見た
んです。河合神社ってところ!』と表
示される。
通知音が鳴り、タレントの後ろに、小
さく外岡と美樹が映る、テレビ画面の
写真が送られてくる。
スマホを見て、バッグを落とす外岡。
バッグの中の鏡が割れる音。
外岡、スマホの画面を見て呆然として
いる。
外岡に近づいてくる美樹。
美樹、外岡のスマホを覗き込み、真顔
で画面を見ながら呟く。
美樹「うん、最低」
外岡を見る美樹。
美樹に気づいて、勢いよく顔を上げる
外岡。スマホを持つ手を、力なく下ろ
す。
美樹、外岡のバッグを指差す。
美樹「なんか割れたよ」
外岡、バッグを開けて紙袋を取り出す。
紙袋からは、割れた手鏡。
美樹、目に涙を浮かべて、
美樹「それをその子に渡すつもりだったんだ」
外岡、首を振る。
外岡「それは、違う!」
美樹「じゃあ何!?」
外岡、手鏡を見つめて、
外岡「これは、君に、美樹に、渡すつもりだ
った」
割れた鏡に映る外岡の顔。
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