1.【返想】
ー 3年前の7月20日、その事件は真っ昼間に起こった。
見回りの最中、大きな爆発音を聞いた俺はすぐさま交番に戻り状況を確認した。六本木ヒルズで大きな爆発があったらしい。
俺は勤務終了後、数ヶ月ぶりに母親と会う約束をしていた。
そしてその待ち合わせ場所が、六本木ヒルズだった ー
警官の制服を着た男・月島蓮は混乱に陥り逃げ出す人々の流れに逆らいながら六本木ヒルズウエストウォークの中を走る。
あちこちで乱雑に鳴る警報音が蓮の耳を麻痺させる。
大きな爆発によって天井や壁の大部分が剥がれ落ち、いつ全壊してもおかしくない状態である。
逃げ遅れた母親と少年が手を繋いで蓮の方へと走ってくる。
母親がスマートフォンを落とすと、少年が手を放しそれを取りに戻る。
少年の母親「そら!」
母親が息子の名前を叫ぶ。
少年はスマートフォンを拾い、立ち上がる。
その瞬間、建物内に地響きが轟く。
蓮「っ…!?」
いたる箇所で大きなガラス張りの塊が落ちてくる。
蓮は少年の元へ走り、間一髪のとこで少年を抱きかかえて塊をかわす。
ケガが無い事を確認した蓮は少年を母親の元へ導く。
母親が会釈をし、少年の手を引いてその場を急ぐ。
今の衝撃でほとんどの警報機が音を失った。
そして、
蓮「………?」
雑音が無くなったことで周囲の音が明瞭化し、
奥の方から人の唸る声が聞こえてきた。
蓮「誰かいますか!」
蓮が微かに聞こえる声の方へ近づく。
蓮「母さん…?」
そこには大きな瓦礫の下敷きになった自分の母親の姿があった。
蓮は急いで瓦礫を除けようとすると母はその手を掴んだ。
母「いきなさい…!」
蓮「…っ!」
母「…はやく」
蓮「母さん!」
母「行って!」
落下し続ける瓦礫がまもなく全壊する予兆を示していた。
意識を振り絞った母のその言葉に蓮は従わざるを得なかった。
蓮「今助けを呼ぶから待ってて」
蓮が立ち上がり出口の方へ振り返ると、一人の男が立っている。
蓮「…?」
男は狂気の眼差しでスマートフォンを蓮達の方に向け一部始終を撮影していた。
蓮「おいっ!」
男は逃げ出し、蓮が追う。
が、蓮が表に出ると男は逃げ遅れた人々の群れに溶け込み完全に見失ってしまった。
蓮の後ろで建物が轟音を立てて崩れ去る。
蓮「………っ!!」
置き去りにした母の姿が脳裏で蓮の名前を呼び続けている。
れん……れん……れん…
仁弥「蓮」
蓮「っ!?」
不意に自分の名を呼ぶ声が過去の記憶をシャットアウトし現実へと引き戻す。
仁弥「大丈夫か」
ロッカールームで手帳を開きながら呆然とする蓮をチームの成瀬仁弥が気にかける。
蓮「あぁ、ごめん」
手帳の7月20日の枠欄に"母さん命日"との表記。
仁弥「結局見つかんねぇままだな、例の連中」
蓮「…」
仁弥「なぁ、お前見たんだろ?テロ組織の一人の顔」
蓮「…多分な」
仁弥「安心しろ、必ず俺達の手でそいつらを見つけ出す」
蓮「…」
琴音「んなこと言って、もうとっくに国外逃亡してるかもよー」
無神経な発言をしながら部屋に入って来る女の名前は同隊員の上野琴音。
仁弥「お前な、少しは場を弁えた発言しろよ」
琴音「誰かさんの気休めなんかよりよっぽどマシだと思うけど」
仁弥「はぁ…」
呆れながら蓮の肩を叩いて立ち去る仁弥。
琴音「でもすごいと思う」
蓮「何が」
琴音「3年前は無力だった交番勤務の警官が、今や特殊精鋭部隊SATの一員。絶対捕まえるよ、アンタなら」
次週へ続く)
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