人 物
真山悠人(6)(26)文具屋の店主
渡来紬(6)(26)出版社勤務
真山達矩(42)悠人の父、文具屋の店主
川添(50)編集長
〇小学校・教室
真山悠人(6)、ボールペンでノート
に試し書き。が、まったく色が出ない。
その横、口をひん曲げる渡来紬(6)。
顔が歪み、鼻が膨らみ、泣きわめく紬。
紬「ウゥエ~~! 悠人がペン壊したァァア
ア! もぉ、ゼーッタイおうち行かない!」
ノートのそばに水の入ったコップ。
悠人、目を充血させて天井を見上げる。
〇真山家(まやま文具)・外観(夕)
古い木造の一軒家。
『まやま文具』と看板が掛かる。
〇同・玄関・内(夕)
悠人、うつむいて入ってくる。
笑顔で迎える真山達矩(42)。
真山「おかえりぃ! ん、どした?」
悠人、唇が小刻みに震え、鼻息で肩が
上下し、堰を切ったように泣き出す。
悠人「ボク、直そうと思ったの! パパがい
つもやってるように! けど、けどね……」
真山に飛びつく悠人。顔を押しつける。
真山、驚くが、抱いて頭をなでてやる。
〇同・書斎(夕)
真山、万年筆のペン先を外して水の入っ
たグラスに浸す。グラスを悠人の前に。
水が青緑色に染まっていく。
悠人、袖で目をこすり、それを見守る。
真山「こう、したのか?」
悠人「(鼻声で)ウン」
真山「ハハハ。こうやって掃除するのは万年
筆だからだ。紬は怒ったらしぶといぞぉー」
悠人「マンネンシツ?」
真山「万年 “ヒ” ツ。悠人も使ってみるか?
カワイイやつは、あ、る、か、なー、っと」
真山、ペン立てから1本選んで取る。
悠人に持たせ、その手を覆って握る。
便箋を取り、一緒に字を書いていく。
〇出版社・オフィス
T『20年後』
デスクで万年筆を眺める紬(26)。
『T.Mayama』と刻印がある。
後ろを通る川添(50)。立ち止まる。
川添「渡来、もう出たら? 遠いんだろ?
堀先生の原稿は誰かに行かせるから」
紬「……はい、編集長。そろそろ」
紬、足元に置いた紙袋を開ける。
喪装用の黒いバッグと靴が入っている。
〇まやま文具・店内(夜)
レジ台に座り、青緑色のインクボトルを
触っている悠人(26)。
その手元を影が覆う。
誰かがレジ台に万年筆を置く。
顔を上げる悠人。紬が立っている。
紬、折り畳まれた便箋を差し出す。
紬「このきれいな色のインク、ありますか?」
悠人、便箋を開く。青緑の文字が並ぶ。
悠人(6)と真山の声で読み上げる。
『かわりに おとうさんのマンネンヒ
ツあげます だから これからも お
うちきてください ごめんね ゆうと』
便箋を持つ悠人の手が震えている。
涙が落ち、 “ヒ” の辺りが滲んでいく。
紬「悠人も、泣くんだね」
紬、悠人の頭に手を置き、なでる。
並ぶインクボトルと万年筆。
そこにふわっと便箋がかぶさる。
〈おわり〉
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