<登場人物>
山本(30) フリーター
社員A、B
パートA、B
謎の男
アナウンサー 声のみ
<本編>
○メインタイトル『山本の2.16 -9:00~17:00の出来事-』
○アス○ル倉庫・外観(夜)
かなり大きい倉庫。
○同・入口(夜)
送迎バスから降りてくる山本(30)。ダウンジャケット着用。
T「2月15日 PM10:00」
○同・ロッカールーム(夜)
ロッカーに鞄やダウンジャケット、財布、スマホを入れる山本。
○同・作業場(夜)
作業場中にレーンが敷かれている。ただしまだ動いていない。
棚に商品を補充する山本。
○同・食堂(夜)
食事をする山本。座席数はかなり多いが、(夜勤のため)人の数は少ない。
T「2月16日 AM0:00」
山本の元へやってくるパートA。
パートA「山本君、昨日居なかったよね?」
山本「あ、はい。休みでした」
パートA「じゃあコレ、バレンタインのチョコ」
山本「あ、マジっスか。ありがとうございます」
○同・作業場(夜)
レーンが稼働し、商品の入った段ボールやオリコンが流れている。稼働音はなかなか大きい。
ピッキング作業をする山本。そこにやってくる社員A。
社員A「山本さん。今日、セールの日なんですけど、一時間の残業とかって出来ます?」
山本「あ~……はい、いいですよ」
社員A「ありがとうございます。じゃあ、八時一五分になったら、梱包の方をお願いします」
山本「了解です」
○同・二階梱包場
同じようにレーンが敷かれ、稼働音が響いている。
T「2月16日 AM9:15」
梱包作業をする山本。そこにやってくるパートB。
パートB「おはようございます」
山本「おはようございます。(時計を見て)おっ、やっと終わった……」
× × ×
少し離れた広いスペースに集まる山本やパートAら夜勤従事者達。目を閉じ、立ったまま寝ているような姿勢の山本。
山本「終礼、まだか?」
目を開ける山本。右往左往する社員達やざわつく他の夜勤従事者の姿。
山本「?」
パートA「ねぇ、今火見えなかった?」
山本「!?」
社員A「皆さん、火事です。避難してください」
耳を澄ませる山本。稼働音に交じり、かすかに聞こえる火災報知器の音。
山本「マジかよ……」
○同・外
続々と非難して来る従業員達。その数、ざっと数百人。
煙の出ている様子を見ている山本。そこにやってくる社員A。
社員A「皆さん、二時間程で鎮火した後、事情聴取もあるそうなんですが、この後何か別の仕事がある方とかいらっしゃいます?」
山本「いや、早く寝かせろよ」
× × ×
煙は黒くなっている。
T「2月16日 AM11:30」
避難している山本ら従業員達。
山本「お~い、もう二時間経ったぞ~」
空を見上げる山本。ヘリコプターが数機飛んでいる。
山本「助けてくれ~、ってな」
社員Bの声「お前ら、撮ってんじゃねぇ!」
声のした方へ顔を向ける山本。煙の方へスマホを向け、写真やムービーを撮っている従業員達の前に立つ社員B。
社員B「消せ! スマホしまえ! 何考えてんだ!」
山本「(小声で)偉そうに。お前ら、どっちかって言ったら加害者側だからな。ったく」
その場に座り込む山本。その姿を心配そうにのぞき込むパートB。
パートB「お兄さん、大丈夫? 具合悪い?」
山本「あぁ、いや。自分、夜勤なんで」
パートB「あら、大変ね」
建物内から爆発音。
山本「!?」
ざわつく従業員達。
山本「……まぁ、棚にはガスボンベとかもあったしな」
そこにやってくる社員A。
社員A「まだ時間がかかるそうなので、帰れる方は帰っても良いとの事です」
山本「いや、上着もスマホも財布も鍵も無ぇっての」
○別会社・外観
雑居ビル。送迎バスと同じ社名がある。
○同・会議室
山本、社員A、パートAら夜勤従事者が入ってくる。室内にはテレビもある。
山本「あ~、やっと座れる……」
各々、席に着く夜勤従事者達。コンビニのおにぎりが入った袋を持ってくる社員A。
社員A「こちらの会社さんからの差し入れです。一人二つずつどうぞ」
山本「助かった~」
時計を見る山本。一三時三〇分を過ぎている。
T「2月16日 PM1:30」
山本「一三時間ぶりの飯……(おにぎりにかぶりつき)美味っ」
× × ×
テレビでニュースを見ている社員A、パートAら夜勤従事者達。机に突っ伏して寝ている山本。
アナウンサーの声「最初のニュースです。オフィス用品の通販大手・アス○ルの配送センターで火災が発生しました」
パートA「あ、やってるやってる」
顔を上げる山本。テレビ画面には燃えているアス○ルの倉庫を上空からとらえた映像。
アナウンサーの声「今日の午前九時一五分、埼玉県M町にあるアス○ルの配送センターで、段ボールが燃えていると一一九番がありました」
× × ×
ニュース番組の続き、首から下だけが映っている男性のインタビュー映像。
謎の男性「いや、何か急に『火事だ』って話になって、それで避難してきたんですけど……」
それを見ている山本、社員A、パートAら夜勤従事者達。
パートA「ちょっと、誰この人?」
社員A「偽物なんじゃないですか?」
山本「……」
再び机に突っ伏す山本。
○同・外観(夕)
T「2月16日 PM5:00」
○同・会議室
疲れている様子の夜勤従事者達。相変わらず机に突っ伏している山本。そこへスマホで通話しながらやってくる社員A。
社員A「了解です、伝えます。(通話を切り)皆さん、中に入れるようになったそうです」
山本「(立ち上がり)やっと鎮火したか……」
○アス○ル倉庫・外観(夕)
まだ消防車が多数停まっている。
○同・入口(夕)
入口に立つ社員B。中に入ろうと列を作る従業員達。
社員B「今、電気が使えないから、足元気を付けてね」
ダウンジャケットを着用し、荷物を抱えて出てくる山本。
山本「長かった……」
○アパート・外観(夜)
T「2月16日 PM19:30」
○同・山本の部屋(夜)
入ってくる山本。ベッドに倒れ込む。
山本「ただいま……おやすみ」
スマホからアラームが鳴る。
山本「何?」
スマホを手に取る山本。「起床時間」とメモ付きのアラームを示す画面。
山本「笑えねぇよ」
○同・外観(朝)
T「2月17日 AM08:00」
○同・山本の部屋(朝)
テレビを観ている山本。アス○ル倉庫火災のニュースが報じられている。
アナウンサーの声「昨日発生したオフィス用品大手・アス○ルの配送センターの大規模火災は、今もなお懸命な消火活動が続いています」
山本「え!? ……俺ら、鎮火してねぇのに建物入ったって事? ……怖っ」
(完)
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